148話『逆らえない掟』セリ編

1人の人間が神族に逆らった

から

喧嘩を売った戦争だ

とかなんとか、いつの間にか色々変化して悪い状況が間違って世界に広まる

どこから漏れたのか…たぶん3バカからだな

ラスティンが遊びに来てて、なんとなく話してから一気に広まった気がするぞ

迂闊だった

俺はまず話し合いをしたいのに…

その噂はアイツらの耳にも入ったらしく…


「今日は…もう、終わり…」

夜になるとレイは俺を膝に乗せたくさんキスをする

1日最低1回はキスしたいって言うから、するんだけどレイが止まらなくなるんだよな

「腰細い…」

腰を掴まれもっと引き寄せられる

「嬉しいけど…俺は今そんな気分になれないと言うか…」

って言ってもレイはお構いなしだ

なんとなく…レイのキスもいつもと違うのを感じて強く突き放せない

もしかしたらレイも不安なのかもしれない

だからこそ甘えるようなキスが多いと感じて不安を紛らわせるようなキスだ…

「へー、セリくんが浮気って珍しいー」

下の位置から声が聞こえる

声の方へ視線を向けると前の光の聖霊と同じようにしゃがみ込み俺達を見上げる和彦の姿が……

「わっ!?和彦!?なんで!?えっ浮気?ち、ちが…!浮気じゃなくて」

俺は急いでレイの膝の上から離れて和彦に言い訳する

「ふっ、浮気なんて思ってないよ

セリくんがいつかレイを受け入れる事くらいなんとなくわかっていた」

和彦は青ざめた俺の頭を優しく撫でてくれる

……和彦の手、久しぶりだ…懐かしい…ずっと触れてほしかったこの手が触れてくれてる

「和彦さん…」

「構わないよ

でも1つだけは守る事だ

セリくんを独り占めにしない

それさえ守ってくれれば、何しても良い

オレも香月も文句はない」

和彦はレイに釘をさすように言う

その雰囲気はとても重く冷たく、どんな相手でも頷かせるような恐さを感じる

「……言われなくても、理解はしている」

レイはわかったと言いながらもその言葉には和彦への嫉妬が含まれているコトに俺は気付いた

「セリくんのどこまで知った?」

「なんであんたに言わなきゃならないんだ…」

和彦が俺の肩を抱き自分へと引き寄せる

そのコトにレイの眉が潜む

もう俺は…ヤバいこの状況としか思ってない

お互い良しとしているコトなのに、修羅場の雰囲気に身がすくむ

「セリくんの弱い所

どの部分でもそうだが、例えば首筋でもどこが1番良い反応してくれるか…レイはもう知ってる?」

そう言って和彦は俺の首筋の1番弱いところへと唇を持っていく

「ま、待って和彦…!?」

いきなりな和彦に俺は突き放そうと力を入れるが、そんな俺を押さえつけて逃がさないようにされた

話す時に当たる息だけで身体がピクリと反応する

「まだ何もしてないのに、肌が赤くなってる」

和彦の熱い舌に刺激されて思わず声が漏れる

「ひっ…あっ…」

久しぶりの和彦に触れられるのはなんとも言えない気分になる

たった一舐めされたたけで、俺は立っていられなくなってズルズルと和彦の足元へと崩れてしまう

こんな…に、和彦ってヤバかったっけ…?

久しぶりだから?

急激に身体の熱が上がって、和彦へと引き込まれる

「…やめてくれないか」

レイが俺へと手を伸ばすと和彦はそれを弾いた

「レイはずっとセリくんに触れていたんだろ

オレはまだ触れ足りないよ、まだ終わらない」

和彦はわざとレイに見せつけるようだった

俺が他の男とどんな関係でも気にしないって言ってたのに

レイとキスしてるのを見たら奪っていく

香月の時もそうだ

自分から3Pしようって言っておいて、香月としてたらたまに奪うように強引な時がある

「セリくんは耳も弱い、こうするとさ…」

和彦に耳を甘噛みされて、さらにその部分の熱が上がる

震える俺が和彦の腕を弱々しく掴むと和彦の舌が耳の中へと入ってくる

「はっ…あ…かず、ひこ……やめ…んん」

何も考えられなくなる

レイに見られてるから、やめてほしいって突き放したいのに力が全然入らない

耳舐めはヤバい…どんどん身体の熱も上がってゾクゾクが加速して…も…これ以上は…ダ、メ…いっ

寸前のところで和彦はやめる

これだけのコトで力が入らなくなってぐったりしてしまう

「セリくん…この程度でもうギブアップ?

久しぶりに香月と3Pの時どうなるんだろうな」

ハハハと和彦は笑う

くっ…なんかムカつく…

………死ぬかもしれん

いきなり3人でやるより、まずは慣れるところから優しくはじめてください

久しぶりってのは…こんな敏感になってしまってるのか

「…レイ…ごめん…

和彦も、もうここまでで勘弁してくれ」

力の入らない手で自分の身体を支えながらなんとかソファに座る

レイはそんな俺をずっと見ているコトしかできなかった

「レイ…?」

「………和彦さんの事は気に入らない

でも、セリにそんな顔をさせるのは……さすがと言うか…」

悔しいってレイは唇を噛む

いやいや…張り合わなくていいから

俺はレイのやり方も好きだぞ

若さ特有のがっつく感じも嫌いじゃない

「今日はセリくんに触りに来ただけじゃない」

和彦が俺の右側に座るとレイは俺の左側へと座る

和彦は相変わらずいつも通りだけど、レイはずっと眉が険しい

うっ…本当に悪い…

目の前でなんて最悪だよな…

後でレイの機嫌も取らないと

和彦に久しぶりに会えて本当なら嬉しいハズなのに、でも今の重すぎる空気にハラハラしかしない

何人も関係持つって大変なんだな…俺には向かないけどこの関係が俺達にとってベストだと言うなら俺自身が選んだコトだ

「鬼神達が熱くなっててね

なんでも、1人の人間が神と戦争するって噂

あいつらは神族と因縁があるから、やるなら自分達も混ぜろとよ」

気持ちがそっちに向いてるから仕事にならないと和彦は言う

先に言っておこう

「その人間は俺です」

「やっぱり?そんな馬鹿はセリくんしかいないって思ってた

だからここに来たって事だ」

鬼神が神族と因縁…?

そういや、鬼神の話でそんなん聞いたような…

鬼神をあの牢獄に閉じ込めたのは神族だって

「あいつらはどこか抜けている所がある

暫くは忘れていたみたいだが、その噂で神族って聞いてから頭に血が上ってオレの言う事も聞きやしない」

確かにちょっと間が抜けたような印象はあった

イケメンではあるのに鬼神の見た目からの恐さと違って女に弱くピュアなところとかあるし

好戦的な気性から、頭に血が上ると和彦でも手が付けられないみたいだ

…………いや、おかしいだろ

普段の鬼神8人を手懐けてる人間の和彦がおかしいんだぞ

「とりあえず、セリくんを連れ帰って話をさせたい

天女と憧れのセリカであるセリくんなら、オレよりは聞き分けもいいからな

その噂がセリくんだと思っていたから、オレは勝手に動くなとは言っている

どうせ、セリくんははじめから戦う気はないんだろうし

それに状況もあまり良いとは言えないみたいだ」

和彦はなんでもわかっていた

その噂が俺であるコト、噂が様々な形に変わって伝わっても俺だと気付いた和彦は俺ならどう考えているかとか

俺をわかってくれてる和彦が嬉しかった

鬼神が勝手に動かないように止めてくれるのも俺のためだと思うと…凄く嬉しい…

「わかったありがとう和彦、鬼神に会って話すよ

レイも一緒に…」

レイの方に顔を向けるとレイは浮かない顔のまま下を向いていた

もしかしてさっきのコトを気にして、話も聞けてないくらいなんじゃ…

「レイ?大丈夫か?」

「………いや…」

俺がレイの肩に触れるとレイは顔を上げるコトも出来なかった

「…さっきのコトを気にしてるのか?

和彦も、わざとレイに見せつけるようなコトして

嫉妬深いんだからレイの前で俺にあぁいうコトするの禁止

俺が強く抵抗出来なかったのも悪いけど」

和彦の方を振り向いて、キッと睨む

抵抗なんて出来なかった…力が入らないのもあったけど

好きな人に久しぶりに触れられて…抵抗なんて…

それはマジで俺が悪い

でも、和彦もわざわざレイに見せつけなくても

最低だぞ

前に偽和彦悪魔の時の気持ちを思い出して、俺はその時に酷く傷付いた痛みがレイに重なった

だから今回はどうしてもレイよりの味方になってしまう

「レイがわかってないからわざと見せつけたんだ」

「レイはわかってくれてるよ」

わかってないってなんでオマエがそんなコト、レイのコト何も知らないくせに

ちょっとムッとする

「わかってないのはセリくんの方か」

和彦は俺の頬に手をやり自分の方へと引き寄せた

「レイはセリくんを誰にも渡したくないと思ってる

オレからセリくんを奪うなら容赦はしない

だから、この際わからせておこうか

レイが手を出してるセリくんの事をね」

耳元へと寄せられた和彦の唇が触れてないのに、また熱が上がる

「今度は最後まで気持ち良くしてやるから、レイの前で」

熱い吐息だけで抗えなくなる

でも…嫌だ…

和彦のコトは大好きだけど、レイの前でそんな姿見せられない

レイの嫌がるコトはなるべくしたくないから

見えてるところで、レイが嫉妬するってわかってて…こんなの出来るワケがない

「やめろ…」

俺が和彦から離れようとしても強く押さえつけられる

和彦の歯が…唇が……耳の端に当たる

「レイ…たすけっ」

手を伸ばして名前を呼ぼうとしたら和彦の手が俺の口を塞ぐ

もうダメだ…和彦はやるって言ったらやる男

レイの見てる前で……

伸ばした手に力が入らなくなる…

「……セリが、オレに助けを求めてるなら

助けないわけにはいかない」

レイは俺の手を掴み引っ張る

すると、和彦はあっさりと俺を離した

えっ…なんで…?

下手したらお互いが力一杯引っ張って俺の身体裂けてたぞ

「レイ…!」

和彦が俺を離したコトでレイに引き寄せられる勢いで寄り添う

レイの顔を見上げるとさっきの浮かない顔とは違って真っ直ぐに和彦を見た

この顔はいつも俺を守ってくれる時の顔だ…こういう時のレイが俺は大好き

「セリくんは一体どっちの恋人なのか」

「和彦だよ…でも和彦が酷いコトするから今は凄く嫌いだ」

「いいけど、セリくんの気持ちはオレには関係ないから」

関係ないなんて…好きだよ、和彦のコトはちゃんと

でも…レイとこうなって、どうバランス取ったらいいかわからなくなる

香月と和彦には嫉妬とか独占欲とかなくて…

だから気にするコトもなく、うまくいってた

レイがいると、俺はレイが嫉妬して傷付いたりするんじゃないかってコトばかり気にして

大好きな和彦を拒絶するなんておかしなコトになってる

いや、今回は和彦が悪いからそうなって当たり前なのかもしれないが

「オレが悪かった

和彦さんの言う通り、オレは嫉妬もすれば独占欲だってある

それはこれからもなくならないだろう

セリの事を理解してると伝えて関係を持った

和彦さんと香月さんの事も頭ではわかっている

このままオレがセリの重荷になったら…セリはオレから離れてしまう事だって……わかってる

せっかく好きになってもらったのに、それが同情に変わったら…

そんなのオレは求めてない望んでいない

好きから、2人と同じように愛されたい

だから…嫉妬しても独占欲があっても

和彦さんと香月さんの事も含めてセリを受け入れる

出来れば目の前でされるのはやめて頂きたいが、それも受け入れろと言うならいくらでもしてもらって構わない

セリと一緒にいられるなら、身も心も手に入れられるなら

この嫉妬心も独占欲も、どんな事だって耐えられる

オレはセリを不幸にしない、幸せにしてみせるって決めたんだ」

レイの言葉に…俺はなんて言えばいいかわからなかった

最初からわかっててレイは俺と一緒にいたいって言ってくれて

俺はそれならお互い譲れないところもあるだろうし折り合わせながら関係を築こうって決めたんだ

レイは俺が悩むコトを望んでない

負担になりたくないって、そのためならどんなコトも耐える…

俺よりずっと………

光の聖霊が言う通り、1番良い男だ

ホント、俺って誰にも相応しくないのに

それでも…みんな…こんな俺を愛して選んでくれる

それに迷ったらダメなんだ

そんな失礼なコト

みんなが真剣に向き合ってくれるなら、俺だって真剣にみんなと向き合って

全員を愛するコトが良いんだって言うなら…

わかったよ…もう迷わない

「さすが世界からセリくんの彼氏と言われてるだけの事はある

悪くない、その心意気は認めるよ」

和彦は珍しくレイに笑った

そんな和彦に意外だって顔をしながらもレイも笑みを返す

「しかし、遠慮はしない

オレはレイの前でもセリくんに触りたかったら触る」

「構いませんが、邪魔はしますよ」

レイは和彦が年上ってコトを思い出したのか敬語に戻る

熱くなると敬語じゃなくなるけど、普段から年上の和彦や香月には敬語だったな

俺も…年上なんだけど…?

俺から見たら、和彦は同い年、香月は年上、レイは年下なんだよな

種族も違うし、和彦は人間(ホントか?)、香月は魔族で魔王、レイはエルフ

(一時期は人間)

贅沢だなぁ

「邪魔?出来る?さっきはオレが手を離しただけ

レイじゃオレからセリくんを奪えない」

和彦はまた俺を引っ張って自分の方へ引き寄せる

「あんたには負けない」

レイも負けじと引っ張り返す

そのうちレイは敬語じゃなくなりそうだ

和彦が意地悪するから

「そんな事したらセリくんの手が抜けるぞ

いくら回復魔法が使えるからって可哀想だと思わないか」

2人の力が徐々に強くなる

「い、痛い痛い痛い!オマエら引っ張るな!?」

「だったらあんたが手を離したらいいじゃないか」

レイは何がなんでも離す気はないようだ

落ち着け!?引っ張ったところで勝ち負けとかないから!?

むしろ、離してくれた方が優しいから好きになるのに!?

和彦も大人げないコトしてないで離せよ!

仕方ねぇな…バカども

引っ張られるなら俺自身が引っ張り返すと、2人とも力を抜いてそのまま寄る

和彦にキスして、レイにもキスして

「しょーもない喧嘩すんな!!」

と怒ったら大人しく2人とも手を離した

「悪かったセリ…ついムキになって、この人が腹立たしかったんだ」

レイは本音だな、いつも

「ガキなんだレイは」

和彦はぷいっとそっぽ向く

「そのガキと同レベルで争ってたのオマエだぞ!?

まぁ…とにかく話を戻して」

「今度レイと3人でする?それとも香月も一緒に初の4Pも良いね」

「俺を殺す気か!?俺だけが大変でしんどいだろ!?

レイを変なコトに巻き込むな!!」

ふざけるなと和彦を叩いても、和彦は笑って俺の手を掴む

「………考えておく」

まさかのレイが迷ってる!?

相手が和彦と香月の2人でもヤベェのにレイを加えた3人もなんて…

そんなの…どうなるか想像できないし…生きてられる自信がない

「えぇ!?そんなレイ、ヤダ!!」

「セリの事は全て知りたいから」

俺がレイに泣きついたら、いつもなら俺の言うコト聞いてくれるのに

レイは俺のコトが知れるなら俺が嫌がっても知ろうとする

どんな手を使ってでも俺を手に入れようとしてきたレイだ

俺が言ったところで聞いてくれるワケなかった

和彦がずっと笑ってるのがムカつくし、レイは不安になってる俺の頭を優しく撫でてくれる

そんなこんなで今夜はもう遅いからと、明日の朝から鬼神に会いに和彦の屋敷へと行くコトになった



和彦の屋敷の前まで来ると、ふと思い出してしまう

「うーん…わかってるとは言え、あの時の嫌な気持ちが掠めるな」

偽和彦悪魔のやったコトを思い出す

あれは和彦じゃなかったって後になってわかっているのに

それでも、あの時に感じた気持ちは本物の和彦と思っていたから…死ぬほど傷付いて

「セリくんが思い出してしまうなら引っ越そうか」

「えっ!?いや、そこまでしなくていいよ!?

あれは和彦じゃなかったんだし…」

「引っ越すよ、セリくんの為だけじゃなく鬼神8人にはこの屋敷は狭いと感じていたし」

こんな広い屋敷なのに!?

意地悪な時も多いけど、気遣ってくれたり優しい時もあるから和彦は良いんだよな…

細かいコトまで気遣ってくれるのもちゃんと俺は大切にされてるんだって感じる

俺にとって偽和彦悪魔事件は大きなコトだったけど

屋敷の中に入ると、いつも出迎えてくれるのはあのクソムカつくフェイだったのに

やっぱりフェイはそこに姿がなくて鬼神八部衆が並んでいた

「セリ様がいらしてくれると聞いて、昨夜からここで待機していました!!」

あー…そうなんだ…

俺はあえて拾わずスルーした

鬼神達はセリカに出会って、天女様と憧れを抱いている

セリカのファンであるから、セリカである俺に対しても同じようにファンとして接っしてくる

そして、鬼神達は俺が和彦の恋人だと言うコトを知っていた

「この前、セリカ様がいらした時に聞いたんすけど

和彦様が浮気性でお辛い思いをたくさんなさったとか

オレ達はセリ様の味方ですから!!いくら和彦様でも貴方を泣かせるなら許さねぇっす!!」

セリカなんて話してんだ!?

留守番してた鬼神2人がセリカと会ったらしくめちゃくちゃ心配された

その話を聞いた和彦に同行していた鬼神1人が思い出したかのように口を開く

「そういえば和彦様は、この前の夜に女に声をかけていたような…」

「はっ……?」

鬼神の言葉に俺は和彦を睨み付けた

それに気付いた鬼神がハッとして口をつぐむ

いやもう遅い

「オマエ、俺と離れてる間に浮気してたんじゃ…

浮気しないって約束したのに!?」

睨む目元に涙が溜まる

俺だって人のコト言えないけど…

でも俺は浮気じゃないもん、みんなが認めた関係だもん

「巨乳でオレ好みだったからつい声かけて」

和彦の口からそれを聞いた俺は怒りより悲しみが上回って震える

瞬きをすると大きな粒が落ちてしまう

「……もういい、オマエなんか…

鬼神達と話をするのは俺とレイだけでする

オマエは暫く顔見せんな」

指で涙を拭ってもまた視界が緩む

泣くの我慢しなきゃ、みんな見てるし

鬼神達はハラハラした顔で俺を心配そうに見ていた

「和彦さん、酷いじゃないか」

「レイは今のセリくん見てどう思う?

めちゃくちゃ可愛いだろ?

オレが浮気したって怒るより悲しいの方が強くて泣くんだ

セリくんがヤキモチ焼くのが見たいから浮気をするんだよ」

ウソつけ!元から女好きの浮気性だろうが!?

俺の素直な反応に和彦を喜ばせるのかもしれないが、悲しいのは悲しいから…だからムカつく

「確かに可愛いけど…オレはやりたくない

セリが可哀想だ」

レイと鬼神の厳しい目もあり和彦はつまんない奴らと苦笑する

「わかったわかった、誤解を解くよ

オレは浮気をしてない

女に声をかけたのは確かだが、その後は何もしていない

たまには好みの女と話したかっただけ

セリくんの早とちりだ」

……本当かな~?って目を向ける

声をかけて飲みに行って終わりだって和彦は言う

「オレが嘘ついた事あったか?」

「………ない、和彦は本当に浮気したら正直に言う奴だ」

和彦が安心しろって笑顔を見せるから、俺の涙も止まって口元が緩む

残った涙を和彦が指で拭ってくれて、俺は笑顔を取り戻す

「ほら、めちゃくちゃ可愛い」

「可愛いですが、和彦様が浮気してセリ様を泣かせるって言うならオレ達は本気出して和彦様をやっつけます」

「それは恐ろしいな、お前達8人に本気出されたらさすがのオレも無傷ではすまない」

そんな軽いもんなんか…鬼神8人が本気出したらどんな奴でも即殺されて生き延びるコトも不可能だろ…

それでも和彦が人間ってのが恐ろしい

「セリの心をこんなにも動かせるのも、さすが和彦さんだな

嫉妬するよ

でも、セリを泣かせるのはオレも許さない

いくら可愛いセリが見れるからってやって良い事と悪い事があるだろう」

レイ…それ、オマエが言うか?

オマエだって俺を泣かして悪いコトも散々やってきてたぞ…?

心を入れ替えたワケでもないし、これからだってレイはいつメンヘラ拗らせて暴走するか…

レイの暴走を抑えつけてるのはレイ自身じゃない

俺がさせてないだけ

でも…俺は和彦もレイも大好きなんだよな…

「はい!この話はおしまい!」

俺の話で盛り上がるのをやめるよう手を叩く

レイはもちろん、和彦の言う通り鬼神は俺の言うコトは素直に聞いてくれるし

和彦もはいはいと静かになる

とりあえず、立ち話もなんだと言うコトで俺達は客間へと移動した

鬼神の1人がお茶を出してくれる

この世界では珍しい緑茶

和彦のところに来ると前の世界の和を感じるところが多くて、なんとなくテンションが上がる

紅茶も好きだが、たまにはこうした和の飲み物もほしくなるよな

鬼神は皆着物だし、顔立ちもこの世界ではかなり珍しい東洋系

俺セリカ和彦楊蝉遊馬鬼神、それ以外には会ったコトないかな

色んな国や街に行ったコトがあるけど人も街並みも西洋色が強い

俺は好きだけどね

「和彦さんの所に来るといつも珍しい物ばかり目にするな」

この前レイが来た時は烏龍茶だったな

その前は焙じ茶か

いつもレイは自分の知らないものを目にするから新鮮だと言う

そんなレイははじめて飲む緑茶を美味しいと言ってくれる

なんかそれ、俺も嬉しい

「それじゃさっそく本題だけど、鬼神と神族に因縁があるのは知っているが

俺は神族と戦うつもりはなくてまずは話し合いがしたいんだ」

話してる途中で不安に襲われる

セレンと話した時、セレンは絶対協力してくれるって信じ切っていた

だけど、実際は神と人間の相容れない存在同士のためこんな悪いコトになってしまった

俺が今話してる相手は人間じゃない

鬼神って存在がどんなものなのかもわかっていない

セリカに憧れてるからって俺に甘いからって

それはセレンと被って、やっぱりダメなんじゃないかって怖くなってきた

「セリ様…それは無理です」

…あぁ…やっぱり…そうか、そうなんだ

セレンのコトを思い出して悲しくなって俯いてしまう

「セリ様が話し合いがしたいと思っていても、向こうはもう貴方を殺す気なんすよ」

「神族が一同揃い決まった事、天の異物を排除する」

話が…違う?

鬼神は俺の話をわかってくれなかったワケじゃない

俺の希望である話し合いが不可能だとわかっているようだった

セレンは次会った時にって言っていたが、その話は神族の中で変わっていき俺を排除するに至った

「僕らは神族と因縁はありますよ

ですが、今回はセリ様の命を狙われていると言うじゃありませんか

そうなったら貴方を守るために戦うしかない

ついでに因縁にもけりを付けてやるってな」

因縁がおまけみたいになってるけど、そんな因縁軽くていいんか…

「へぇ、神族はいつの間にかセリくんを排除するなんて過激な答えを出したわけだ」

それならオレも黙ってはいないなと和彦

「神族は自分らに似た存在を許さない傲慢な所があってよ

それでオレらがあの牢獄に閉じ込められてたわけでぇ

天は実体が存在しないから、天が創ったセリ様に矛先がいったんでしょうねぇ

今まで目を付けられなかったのは誰かに守られていたとか?」

鬼神の言葉を聞いて、セレンの顔が浮かぶ

セレンは…なんやかんや言いながらも俺を守っててくれたのか…

なのに俺…セレンに言っちゃいけないコトを言ったんだ…

セレンのコト対等に接していたのに、セレンを神族として意見を言ってしまったからこうなった

「セリ様が神族になんて逆らったかなんて知りませんが、神族と因縁があるオレらからしたらどんな理由でも憧れの貴方の味方にしかならないんで」

セレンのコトで不安になってた

けど、鬼神達はみんな俺の味方だと安心しろって笑ってくれる

それが…とても心強くて嬉しさしかない

「まったく、皆セリくんには甘いな」

「そりゃあの暗闇の牢獄から舞い降りた天女様ですよ?

何千年と閉じ込められて、そこに天女様が現れたらなぁ~」

うんうんとみんなセリカとはじめて会った時を思い出してとろけた顔をする

和彦を助けに来たセリカは偶然にも鬼神に光をもたらした天女とされていた

何千年も閉じ込められる…それはどんなに辛いコトなのか

男だけで何千年も…そんな中で女の子が現れたら、そりゃ天女と呼びたくもなるな

しかもセリカは綺麗で可愛い

「みんなの気持ちは嬉しい…ありがとう」

俺が笑うと鬼神は照れくさそうに笑う

しかし、鬼神は俺に協力すると言ってくれたが困ったコトになったな

まさか神族が俺を排除するところまで事態は悪化してるなんて

ダメ元でも今から話し合いを

「問題は神族だけじゃない

人間もセリくんを狙っているって話だ」

俺が考えてるコトを読み取った和彦が言う

「えっなんで?」

「神の子だからだ

タキヤなんかはそう、他にも信心深い人間は神族側についてセリくんの命を狙っている

一部の人間を除いて」

そ、そんな大事になってるなんて…

思いもしない連鎖に俺は血の気が引く

「一部の人間を除くとは?」

レイが気になるコトを聞いた

「オレはもちろんの事、勇者を信じている者、それと死者と関わりのあった神族に疑問を持つ者

セリくんと同じで死者となった大切な人の幸せを願う人間は神族の味方をしない」

俺と同じように思ってくれる人が…

「………。」

急に静まり返ったかと思うと、俺以外のみんなの顔が険しくなる

「みんなどうかし」

様子がおかしいと声をかけようとしたら和彦が口を挟む

「八部衆は屋敷にいる他の部下を連れてここから離れろ」

「了解」

鬼神は和彦に言われると8人とも部屋を出て行ってしまった

「セリくんも一緒に逃がしてやりたい所だが、あいつらはセリくんを狙って来ている

鬱陶しい事になりそうだからここで返り討ちにしておこうか」

「あの人数相手に和彦さんが暴れたら屋敷潰れません?」

「引っ越すって決めただろ、レイも遠慮せずにやれ」

急に周りの空気が変わって俺はまだちゃんとついて行けてない

つまり…えっと、会話の内容からして……

「セリくんはオレかレイの傍から絶対に離れるな」

和彦がそう言った瞬間、ドアが乱暴に壊されドカドカと入ってくる

流れ込むように数人の骸骨天使と人間と……1人の神族

「お久しぶりですねぇ小僧!

神族に逆らったと聞いた時、やはり貴方はやると思っていましたよぉ」

人間の1人タキヤが筆頭に、いつもの変わらない嫌な顔を見せる

「僕はですね、貴方が自ら命を絶つのを楽しみにしていたんですがね

神から殺せと言われたらそうするしか」

和彦はタキヤが話してる途中なのに、その身体を真っ二つに裂く

えぐいな…でも、タキヤの身体は逆再生かのように元通りになった

その後ろにいる神族……女神の結夢ちゃんがタキヤの身代わりとなり苦痛に顔を歪める

「和彦ダメだ!タキヤに攻撃したら結夢ちゃんが…」

「厄介な女神だな」

骸骨天使達が不自然な動きで俺達へと攻撃を始めた

前に1人の骸骨天使と戦ったコトがあったが、その時より動きが鈍い

殺す気はあるみたいだが、この程度じゃ余裕で倒せる

和彦が骸骨天使達をなぎ払い、レイの光の矢でトドメをさす

骸骨天使は不死身に感じていたが光の力に弱いのか動かなくなった

「骸骨天使は役に立ちませんねぇ

ですが、我が女神があの勇者に攻撃までするようになるとは神族の掟は絶対なようですね」

「女神…結夢ちゃんが俺に攻撃を…?」

タキヤの言葉が信じられなかった

そんな、ウソだ…

結夢ちゃんに目をやると、彼女は目を伏せて俯き俺を見なかった

「この骸骨天使は神族の命でしか動く事が出来ないのですよ

ここに神族は我が女神のみ

小僧がよく知っているこの女神が貴方を殺そうとしているんですよ!?わかります!?」

「そんな……」

本当に結夢ちゃんと敵対するコトになるなんて

「ウソだ!?結夢ちゃんは…」

結夢ちゃんは……セレンと同じ神族……

俺とは違う…

「嘘な訳ありますかああああああああ!!!!???

ここで女神結夢に殺されて貴方は死ぬ!!

自ら命を絶つのを僕は望みましたが、女神結夢が殺してくれるなら僕はそれ以上に喜ばしい事はありませんね」

タキヤはいつもの下品な笑いを部屋に響かせる

「結夢ちゃんが…俺を殺す…

そう…そっか…神族だから……仕方ないよな…決まったコトだもんな」

俺が悲しげに言葉を零すと結夢ちゃんはその場に崩れ涙を零した

その姿に、俺は結夢ちゃんは本当はそんなコトを望んでいないと気付いた

神族として納得してるなら泣くなんておかしい…?

それに骸骨天使が弱すぎる

骸骨天使からは殺気を感じても、それを動かしてるのが結夢ちゃんなら…俺を殺そうって感じがしない

「相手が女神の加護で不死身ならどうしようもないな

レイ、セリくんを」

和彦に言われてレイは俺を抱える

「待って!結夢ちゃんも一緒に」

「無理だ、オレも和彦さんも女神結夢は見えない

それに女神である彼女はもうセリの敵なんだ」

レイの敵って言葉を否定しようとする前に和彦は斧で床を力一杯叩きつける

床に深く長くひびが入り大きく揺れると柱や壁が崩れて天井まで落ちてくる

この屋敷ごと和彦は壊してしまった

どんだけの力…本当に人間か?

天井が崩れ落ちる前にレイは俺を抱えて窓から脱出する

続けて和彦も一緒に

残されたタキヤと結夢ちゃん他は、結夢ちゃんの加護で死にはしなくても暫くは身動きが取れない

「もっと骨があるかと思ったが、弱いだけだったな

倒せないから逃げるしかなかったけど」

骨はあったと言うか骨しかないぞ骸骨天使は

和彦は感じた気配より大したコトないとちょっとガッカリしている

「不死身の女神の力を強く感じただけか、戦闘向きではない」

「とりあえず、セリカの所へ帰ろう

セリカも狙われているかもしれないから心配だ」

俺は何も言えなかった

結夢ちゃんは俺に攻撃するコトは本心じゃない

でも神族の掟に逆らえない…?

それじゃ…どうやって助けたらいいんだ……

「セリくん、女神結夢の事が心配かもしれないが

自分の命が狙われている事を忘れるな

殺しに来るって言うなら相手が誰だろうと抵抗しないと終わりなんだ…わかるだろ

オレもレイも、セリくんを殺すと言われたら相手が誰であろうと殺す

セリくんのお友達の女神すらも」

浮かない顔をする俺に和彦は厳しく言う

わかってる…

わかってるけど、気持ちが追い付かないんだよ

どうしたらいいかわからない

こんなコトになるなんて…思ってなかった

ただ…俺は自分が間違ったコトを言ったとは思ってない

ロース達を助けたい気持ちだって強い

だけど、結夢ちゃんやセレンと戦うコトなんて望んでいないから

だから…わかんないんだよ、どうしたらいいのかが

迷いはたくさんある

でも、そっちから来るって言うならなんとかしないといけない

戦うコトが避けられるならそうしたいが、できないなら……腹をくくるしかないのかもしれない



ー続くー

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