146話『死者の国の晴れない涙』セリ編

次の日になると、美樹先生のダンス教室には生徒希望者が殺到して美樹先生は感激していた

自分もダンスがしたいって人だけじゃなく、ここに来れば俺に会えるって思ってファンになってくれた人もいたようだ

照れるけど凄く嬉しくて光栄なコトだった

街を歩いていてもはじめてこの国に来た時と違って、たくさんの人が笑顔で俺達に挨拶をしてくれたり話し掛けてくれるようになって

死者達は半透明でも生きてる人間と変わらない元気と明るさを手に入れていた

俺の歌とダンスがきっかけでこれだけ影響を与えるとは思っていなくて

とにかく恥ずかしくて

嬉しいけど、なんだか照れくさかった

「すっかりセリは人気者だな」

「いやいや、たまたまだよ

娯楽がない国だからたまたま俺がはじめて歌って踊っただけで」

普段の人気者はレイの方だし、イケメンで強いから女の子達からめちゃくちゃモテるんだもん

レイは興味ないみたいだけどな

道行く花達も上を向いて綺麗な花を咲かせている

街は1日で真っ暗な色から色鮮やかなカラフルに染まっていた

「しかし、セレンの奴遅いよな~

毎日セレンの字でメモが来るから無事なのは無事なんだろうけど

生死の神はよっぽどセレンのコト気に入ってるんだな」

「そうだな、しつこい男は嫌われるぞ」

「オマエがそれ言うか?」

レイの言葉に苦笑する

俺は昨日の夜のコトがあって、ちょっと意識してしまう

レイをまともに見れないって言うか…レイはいつも通りにしてくれるのに

なんか、照れるぞ…

「それにしてもこんなに晴れているのに、あの部分だけ不自然に曇っているな」

レイに言われて、ハッと思い出す

そうだ…昨日俺もそれに気付いたんだよな

晴れない部分は生死の神がいる城を中心に広がっていた

「気になるな、見に行ってみようぜ」

俺達はその晴れない雲の下へと向かった

その道中、足元がフラつく

「あ…れ…」

ああそうか、空腹が酷すぎて目眩がするんだ

昨日まではダンスに夢中だったから身体が緊張してて空腹のコトは忘れてたんだろうけど

やっぱりしっかり食べないとダメなんだな人間は

水さえあれば暫く生きていけるとは言え、活動出来るかと言ったら無理なのかもしれない

「大丈夫かい?」

レイに支えられて触れるコトにちょっと緊張する

んー…調子が狂うな

「レイは…お腹空かないの?」

「空いてはいるが、セリを守るためなら我慢出来る」

レイっていつも…俺のためってばっか言う

それが…はじめっから嬉しかったりする

「やっぱりここは俺の肉を食ってでも腹を満たさないといけないんじゃ…」

震える手でナイフの刃を自分の腕へと当てる

「…………いや止めろよ!?止めてくれよ!?」

冗談じゃん!?いくら自分の肉で腕も回復魔法で再生出来るからって、人肉食うコトになるんだぞ!?

「セリは細いから腕は肉がないし、太ももの方がまだあるだろう」

「そこ!?」

「それって香月さんと和彦さんもした事なさそうだから、オレは食べたいけどな」

香月と和彦も相当ヤベェけど、レイもまた本当にヤベェ…

そんなコトあるか!?いくら好きだからって肉まで食べたいって!?

俺はない…どんだけ大好きで愛してても、肉を食べたいって気持ちは全然わからないぞ

レイは姿勢を低くして俺の太ももを眺めながら撫でる

「ちょっ!?バカ!?ここ外だぞ!?」

いつもの俺ならこんなちょうど蹴りやすい位置に顔があったら、遠慮なく蹴り飛ばすのに

昨日の今日のレイだと、出来ない…

「周りに誰もいないから心配ない」

レイは俺の片足を持ち上げ自分の肩へとかける

片足立ちになって、その内ももへと口を近付けた

レイの唇が微かに触れただけで、身体が痺れて震える

立って…いられない……

そして、思いっきり噛まれた

「いっ!?ぃったああああああ!!!」

反射的にレイの顔を蹴り飛ばしてしまった

「ふざけんなアホ!!肉食うとか冗談だから!!もう近付くな!」

「いたた…セリは意外と足の力が強いんだよな、ウサギみたいに

久しぶりにセリの回復魔法なしの痛みを味わった気がするよ」

「当たり前だろ!?なんでこんなコトするオマエに回復魔法使わなきゃならないんだ!反省しろ!!?

外でセクハラは禁止!!絶対嫌だから!!」

「セクハラじゃなくて食事なのに」

レイはふてくされる

えっ俺が悪いの?冗談言っただけなのに?

もしかして本当に俺が悪かったの…?って気にさせるほどのレイの態度

内ももの噛まれたところがジンジンと熱く痛む

さすがにこれはガチで噛みすぎ、涙出るわ

もっと優しく噛んでくれる方が…

……じゃなくて!足の出るショートパンツやめようかな…

でも、これが1番動きやすいんだよな俺は

やめるのをやめよう

俺はこれからも足を出すファッションが好き

だけど……レイの噛まれた傷も痛みも…回復魔法を使う気になれなかった

俺も十分…ヤベェ奴だよな…

違うもん!痛みを感じてる方が空腹も紛れるってだけで…

「屁理屈言うな!とにかく」

「それじゃあオレが空腹で死ぬって時も駄目なのかい」

「それは……さすがに、仕方ないからその時はまた話は変わるよな」

「暫く断食しよう」

「わざと食べない奴のコトなんか知らねぇからな!?

もうレイと口利きたくない!ふん!!」

レイを無視して俺は晴れない雲の方へと足を向けた

「1人で行くのは危険だ」

ついてくるレイも無視した

「機嫌を直してくれないかい」

ずっと無視した

そして俺は空を見上げ、晴れない雲のところまで来た

どしゃぶりの雨に覆われ、晴天と雨雲の境目はあまりに不自然だった

俺がその雨雲のある場所へ足を踏み入れても雨は止まない

ここは他よりよっぽど強い呪いをかけているのかもしれない

身体が雨に濡れる

「セリ待て」

相変わらずレイが名前を呼んで来るけど無視を続けた

「…うわっ!?」

すると、歩いてる地面が途中でなくなったかのように俺は重力に引っ張っられるように身体が浮く

「だから待てと言ったんだ」

下を見ると大きな穴があった

レイに掴まれ落ちるコトはなかったが、落ちる瞬間のふわっとした感じが俺は苦手で心臓バクバクが少しの間おさまらない

「っビックリした…死んだかと思った」

「やっと口を利いてくれたな」

「あっ」

ずっと無視してたレイの顔を見ると、嬉しそうに笑っている

別に…ずっと無視するつもりはなかったし

レイは雨で濡れるからと俺の頭に自分の上着をかけてくれる

俺、そんな簡単に風邪引かないから平気なのに

でもレイは優しくて…この上着の匂いが好きで手放せなかった

「この穴の底、死者が大勢いるな」

言われて底を見ると、思っていたより深くはなく死者の姿を確認できるほどだった

穴は広いと言えば広く見えるが死者がみっちりと詰まっていて狭くも見えて

這い上がろうと手を伸ばしては誰もこの穴からは出られないみたいだ

「誤って落ちたのかな?」

「そうだとしても、この人数になるまで生死の神は放置していると言うのか?」

確かに、誤って落ちたにしたら助けなきゃいけないのにそれを生死の神を知ってか知らないか…

危ないなら穴は塞げばいい

なのに不自然な作られた穴だ

「ん…あの子は」

レイはめちゃくちゃ視力が良いからこの距離からじゃ俺にはよく見えない死者達の顔もちゃんと見えてるみたいだった

「ローズがいる…?」

「えっ…ローズが!?」

ここに…ローズが…いやおかしい話じゃない

ローズは亡くなっているから生まれ変わっていなければ死者の国にいるハズ

「そんな…ローズがこんな穴に閉じ込められてるなんて可哀想だ、助けなきゃ」

他の人もみんな穴の中から助けを求めてる

生死の神に直接俺が会えなくてもセレンに連絡取ってなんとか

「しっかり掴まってろ」

「へっ?」

急にレイに抱き上げられて

「この高さと傾斜ならセリを抱えたままでも上り下りが出来るから、ローズを助けに行こう」

「いやレイ」

と俺が言う前にレイはさっさと穴の底へと俺を連れて下りてしまった

あっという間に

ぎゅうぎゅうに穴の底に死者が詰まっていても半透明で触れられないから俺達は死者と被りながら地に足を付けている

「レイ…ここに下りたのはいいが、死者のローズに触れないのにどうやって助けるんだ?」

「あっ」

忘れてたようだ

レイがこんなミスをするなんて珍しい

でも、いつも俺のコトしか頭にないと思ってたけど

レイは最初の頃から仲間だったローズのコトがそれなりに心配なんだって思うとなんだか嬉しかった

あのレイにも情があるんだって嬉しいコトだった

「それにしても死者が重なりすぎてレイの顔がうっすらとしか確認出来ないな」

簡単にはぐれそうな混み具合

だけど、レイはしっかりと俺の手を掴む

「はぐれはしないさ、この手を離したりはしないからな」

レイの顔が見えなくなってしまったけど、ここで俺の手を掴めるのはレイだけ

俺はそんなレイの温かくて安心する手を握り返した

「こっちだ」

そう言ってレイは俺を引っ張った

「こっちだって、ローズと話がしたいのか?」

まぁセレンに助けを頼む前にローズと話すのもいいか

レイに引っ張られるまま俺はついていくと、上からは見えなかったが穴の中には人が1人通れるくらいの通路があった

おかしなコトにそこには死者はまったくいなくて、俺は違和感を覚える

あれ?レイの手ってこんな手だっけ?

急に手の大きさや形が変わって匂いも違うコトに気付いた

繋がった手からレイの後ろ姿へと視線を移す

違う…コイツ…レイじゃない!?

俺はパッと手を離して勇者の剣へと手をやる

「誰だオマエ!?」

「異物が混じってるから処分しろと生死の神からの命」

レイのフリをしたソイツが振り向くと、骸骨の姿をした…これは…モンスターでも魔物でもない…?

神の使い…まさか天使か!?

死神みたいな姿に見えるが、コイツは天使だ

「異物…?確かに俺は死者じゃないから、でもセレンの付き添いとして」

「違う、そういう意味ではない

貴様は神の子でない、天が創ったたった1人の人間

我らから見たら異物そのもの

この死者の国を荒らし死者を惑わす天の異物」

「荒らしてなんか」

骸骨天使は大きな鎌を俺に向け黙らせる

俺は…この国を荒らしたなんて思ってない

「貴様のやった事で死者は生者と変わらぬ姿となる

太陽の光を呼び、花を咲かせ、死者に輝きを与え、白黒の死者の国に色を付けた

それは生死の神が禁止する事

天の異物が、貴様の死を頂戴する」

大きな鎌を振り回し、俺はそれを避ける

スピードはそんなに速くなさそうだ

相手が天使なら俺でも戦えるか?

「生死の神が禁止してるだって?

そんなコト俺は知らねぇな

それに、死者のみんなは俺が来た時よりずっと輝いて笑顔でみんな楽しみを見つけたみたいだった

それが幸せなコトだと言うなら、それの何が悪い!?」

「死者は幸せを知ってはならない

それが生死の神が決めた死者と言う存在

天の異物が勝手に語るな」

他人の価値観や決まり事を否定する気はないが、この国がそうだって言うならそれが正しいんだろう

でも、死者は好きでこの国に来てるワケじゃない

人間が亡くなったらここに強制的に来ると言うなら

それはやっぱりおかしいと俺は思う

「そんなの他人に押し付けるコトじゃないだろ

幸せは本人が決めるコトを、他人が禁止するなんておかしい」

この国は生死の神のもの、俺が間違ってるのかもしれない

だけど、俺だったらそんなの嫌だから

嫌なものは嫌だって言うよ

骸骨天使が鎌を横に振る

その鎌を足蹴にして俺は骸骨天使を叩き斬った

骸骨天使は骨が崩れ動かなくなる

ふと俺はレイの上着を落としていたコトに気付き、後ろに落ちていたからそれを拾おうとすると

喉元に冷たい刃が当たり血が滲む

まずい…奴は倒せてない、このままじゃ殺され

「セリ!」

レイの俺を呼ぶ声が聞こえると、骸骨天使の鎌は氷の矢で弾かれて落としてしまう

俺の傍に駆け付けたレイは骸骨天使へ光の矢を向けた

レイ…いつもピンチの時に助けてくれる

カッコ良い好きって言いたいところだが

もしかして俺がピンチになるまで見てて待ってるとか面白いコトはないよな?

「光の聖霊の力か…また厄介な」

骸骨天使はレイの光の矢を見て後ずさる

「ある少女を助けたいようだが、ひとつ教えてやろう

この穴は自ら命を絶った人間が堕ちる場所

生まれ変わる事も許されず永遠にこの穴に閉じ込められ苦しむ」

なんだって…自ら命を…?

ローズの顔が頭を過る

そんな、ローズは自分で自分を…?

骸骨天使の話が本当かどうかわからない

レイも俺もその話に面食らって骸骨天使はその隙に逃げてしまった

「そんな…ローズが……自ら…」

「セリ、ローズに話を聞こう」

レイがその場に崩れる俺の肩を抱くようにして立つように言う

「俺…俺は……前世で何回か…自殺したコトがあって…」

自分の記憶が蘇る

その時の辛さも苦しさも、本当は生きたいのにそれでも死を選ぶ悲しさも

そんな想いをローズもしたのかと思うと…それしか選択肢がなかったコトに絶望する

「思い出さなくていい

きっと、ローズの事は助けてやれる方法があるはずさ

さぁ立つんだセリ」

レイは不安で押し潰されるようになる俺の頬に触れ上を向かせると、こぼれそうになる涙を拭ってくれた

「……ローズに…話を聞こう

それからなんとしてもセレンに会って話をする」

レイがいてくれるから俺はまた前を向ける

いつも俺は誰かがいないと立っていられないような気がする

弱いんだな俺は、今でも

今度こそ、はぐれないようにとまたレイと手を繋いでローズを捜した


「ローズ!」

久しぶりのその姿を確認すると、本当に…人違いじゃない本人だった

「セリくんと…レイさん?」

5歳にしては大人びた振る舞い、半透明だけどブロンド色の髪は変わらず丁寧に結われてて

その笑顔も生きてるかのように、ローズは最後に会った日と何も変わらなかった

「久しぶりね、うっふふ」

「あっ…ローズ…うん、久しぶり…」

他の死者と違ってローズはいつもみたいに笑ったり会話したりするから、本当に死者なんだろうか?と面食らう

ローズはレイと俺が手を繋いでるのを見て、また微笑んだ

「いつも否定してたけど、やっぱり2人はそういう関係だったのね」

「えっ!?違うよ!?別にレイは彼氏でも恋人でもなくて…って離せよ!?」

レイの手を振り払おうとしてもレイはしっかりと握って離さない

さっきのコトがあって、これは何があっても暫くは離してくれなさそうだ

「普通に、ここでははぐれるからと言えばいいだけなのに変に言い訳するからそう思われるんじゃないか

オレはそう思われる事には大歓迎だが」

うっレイの言う通りだった…

時すでに遅いみたいで、ローズは察してしまった

「セリくん恋人は3人?まだ私の知らない人がいたりする?」

めっちゃ興味持たれたぞ

そういや、香月と和彦の2人で迷ってた時に背中を押してくれたのがロックとローズなんだよな

恋人は絶対に1人、1人しか愛せないって俺の価値観をぶっ壊した

香月も和彦も俺がどちらかを選ぶコトを許さなかった

俺の気持ちなんて知らない、誰と関係があってもまったく気にしない2人だったから

強制的に、それはもう強引に俺は2人の恋人になったんだ

それが誰も不幸にならない選択だった

どちらか1人でもその関係が嫌だと言うなら、俺は愛してるからちゃんと向き合って決める

でも、2人は全然そんなコトなくてこの関係じゃないと上手くいかないってコトだったんだ

暫くはこの妙な関係に悩んだりもしたが

2人のコトは愛してるし、2人がそれが良いと言うなら

他人から見たらおかしな関係でも俺達の問題だから

俺は俺達だけの関係を築くコトが大切だとわかった

だから、2人を心の底から愛した…愛してる…今も早く会いたい

だからかなぁ…今こうしてレイとおかしな関係になってるのも…

「いないいない!これ以上増えるなんてありえねぇから!!」

「それはオレを含めてくれてるって思っていいか?」

「レイは愛してないから恋人じゃないもん!!」

「そうだな、セリは愛してない人から無理矢理されるのが好」

俺はレイの口を手で塞いだ

「ローズの前で変なコト言うなよ…?」

そんな俺達を見てローズは相変わらず仲良しなのねって笑った

まぁ…仲良しなのは…認める

相変わらずではない仲の良さだが…

「ところでローズ、久しぶりに会って楽しくお喋りしたいところでもあるけど(さっきの話は全然楽しくないけど!!)

ローズがどうしてこの穴にいるのか……話せるなら聞きたいな…なんて」

なかなか…話せるコトじゃない

でも、ローズが自ら命を絶ったなんて信じられなくて…

俺はローズはロックと一緒に殺されたと思っていたから

「セリくん……私は悪い子なの」

ローズはその時のコトを思い出して悲しい笑みに変わる

辛いコト…思い出させたくない…ローズにそんな顔させたくないのに

俺は確かめたかった

「私…ロックが殺された時、絶望したわ

数人の人間の男が私へと近付いて

ロックを殺したこの人達が憎いと思ったのに、私じゃ敵わないってわかった」

目の前でロックを殺されたのか…それは死ぬほどに辛かっただろうな

俺だって目の前で殺されたら…気が狂う

それがこんなに幼い女の子ならどんなに重いコトか

それに…ロックは魔族や魔物に殺されたんじゃなくて、人間に…一体どこの奴なんだ

心当たりはあるが…

「私も殺されるってわかってた

でも、ロックを殺した人達に殺されるのは絶対に嫌だった!

だから…私は…自ら命を絶ったわ

私にとってそれがあの人達に抗ったつもりよ」

「ローズ…」

言葉が出なかった…

膝を折って、ローズと同じ目線になる

抱き締めてあげたかったけど、死者のローズに触れるコトが出来なくて歯がゆい

「死にたくなかったわ…

でも、あの状況じゃ仕方なかったもの

ロックと生きたかった…

セリくんとレイさんと…みんなと一緒に

大人になって学者にもなりたかった

だけど…私は自分から死んだ悪い子だから

もう生まれ変わる事もなくて

ロックに会う事も……ないの…」

ローズの大きな瞳から大粒の涙が落ちる

たくさんの…涙が…

それに釣られる…俺の視界も霞む

でも、俺は泣いていられない

「ローズは…悪い子じゃない

まだまだ…俺は諦めねぇ

ローズが救われる方法を探すから

そしたら生まれ変わってロックに会いに行こう

アイツ、死者の国にいなかったからさっさと生まれ変わってローズのコト捜してると思うぞ

だから…会いに行こう…」

レイは何も言わなかった

俺だってわかってるコト…

生まれ変わったら姿形も変わって…生前の記憶も消える

誰がロックなのかわかるワケないのに

俺はローズを元気付けるためだけに……そんなコトを口走る

俺の言葉は間違ってると思う

でも、ローズに笑ってほしいから…

そんなの俺のエゴなのにな

だけど、ローズは何もかもわかってるかのように

俺の気持ちが嬉しかったと涙を残して、精一杯笑ってくれた

「ありがとう、セリくんとレイさんに会えてよかったわ」

ローズの笑顔に俺も笑顔で返す

そして、俺はローズとの約束を守るために生死の神のいる城を目指すコトにした


レイは最初に言った通り俺を抱えてこの穴をあっという間に上りきった

「す、スゲー…」

俺だったら上れないし下りれないし、良くて転げ落ちるコトしか出来ない傾斜と高さだぞ

「ローズの事は助けたいが、なんとかするのは難しいな

生死の神がオレ達の言葉を聞いてくれるとは…それ以前に城にすら入れないぞ」

「そうなんだよ!?骸骨天使が言ってたけど、とくに俺なんかめっちゃ嫌われてるっぽいし!?

天の異物とかなんとか目の敵にされてるんだよ」

「詰んでるな

天と神の関係はわからないが、セレンはセリに好意的だ」

「あれを好意と解釈するのか…?」

「しかし、生死の神は天を敵視してるように見える」

「んーなんでだろ、俺も自分のコトよくわからないんだよな

天が創ったたった1人の人間とか…

俺自身は勇者の力は特別だけど、それ以外は他の人間と一緒って思ってるし

とりあえずは…セレンに相談してみようぜ」

上手くいけばセレンから生死の神に話してもらえれば…

セレンに惚れてる生死の神ならなんでも言うコト聞いてくれるかも

「なんでも言う事聞いてくれるのはセリが特別だからだぞ

普通は惚れてても何でもは聞かない」

心を読まれたかのようなレイの冷静な言葉

「確かに…!俺も惚れてるからってなんでも言うコト聞かないな

でも、みんなは俺の言うコトなんでも聞いてくれるからな~」

ちらっとレイを見る

「……甘やかしすぎてるとオレ自身も反省しないといけないかな、その顔は」

「でも、俺の言うコトならなんでも聞いてくれるんだろ?」

すりっとレイに身体を寄せて上目遣いで小悪魔な笑みを見せる

「…………悪い子だ…」

レイは簡単に俺に折れた

「ふふ、そういうコトなんだよ!!

つまりセレンが生死の神に上手いコト色仕掛けでもして言うコトを聞かせればいいんだ!!」

「あの女神に色仕掛けは無理じゃないかい、した事もないだろうし

セリが目の敵にされていなかったら、セリがやった方が早いのにな」

「誰でも俺の色仕掛けが通用するワケないだろ!?相手はノーマルの男だし!?」

レイや和彦や香月とは違うんだぞ

「それはやってみないとわからないじゃないか

セレンが言ってたようにそれで生死の神が目覚めるかもしれないだろう」

「目覚めてしまったら俺の身が危ないだろうが!!

生死の神に失礼だろやめてやれ

それに、そんな危ない事を俺にさせるのかレイは」

「させたくはないが、それしか方法がないなら

それに、オレはセリのピンチは必ず助けるよ」

ズルい…レイはそんなカッコいいコト言って、本当に助けてくれるから…

またちょっと照れる

「とにかく、まずはセレンに会わなきゃ話にならないな

でもどうやって会うか…あっ…良いコト思い付いた」

「なんだい?」

「会えないなら…釣ればいいんだよ」

ふふっと俺が笑うとレイはまだわからないって頭にハテナを浮かべた



-続く-

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