145話『天の輝き』セリ編

「セレン大丈夫かな」

昨日のメモで生死の神がなかなかセレンを諦めてくれないから暫くはこの死者の国に滞在するコトになってしまった

「趣味の話を熱く語ったらすぐ解放してくれそうな気もするが」

「それな」

もしかしたら、逆にセレンの強烈な趣味の話に食い付いてきて理解ある人で余計に断るのが大変だったりして…

はぁ、今日もトースト1枚でお腹が空いて元気が出ないぞ…

カフェのテーブルで突っ伏してしまう

レイは自分の分も食べていいって優しかったけど、俺より身長の高いレイの方がもっと食べないといけないから断った

観光するところがなくて、どこに行くコトもないし

俺に元気がないから止んでいた雨雲もまたポツポツと降り出してきた

「ホテルに戻ろうか」

「ホテルに戻って何するの~?トランプすらないし、しりとりでもするか」

「りんご」

「ごま」

「まき」

「きりん」

はい!つまんねぇ!!??終わらせたわ

とりあえず、ここにいても雨に濡れるからと俺達はホテルに戻るコトにした

ホテルに戻る道中で、この死者の国で珍しい光景を目にした

「よろしくお願いします!興味がある方は是非一度覗いて見てくださいね!」

死者の女性が1人、元気な声でチラシを配っていたのだ

ここの国の人達はみんな元気がなかったから一際目立って目を引く

「君もどうぞ」

傍を通るとチラシを渡されて、それに目がいく

チラシにはダンス教室生徒募集中と書かれていて…

「まぁ!?もしかしてセリちゃん!?」

名前を呼ばれて思い出す、聞き覚えのある声

「あっ美樹先生!?」

「きゃー!!久しぶりセリちゃん!元気にしてた?」

相変わらず元気が取り柄の美樹先生

美樹先生と言えば、以前俺がフルート吹けない人の仕事でダンスを教えてくれてアイドルみたいなダンスコンサートした幼稚園の先生

これだけ聞くとまったく意味がわからないな

美樹先生に会えて懐かしい気持ちがあるけど、この死者の国にいて半透明の姿ってコトは…

「俺は元気ですけど…」

「それはよかったわ!

美樹先生ねぇ、1週間前に事故でこうなっちゃった」

美樹先生が…そんな、亡くなっていたなんて…

目の前にいても、亡くなったと言う事実に俺はショックを受けて目元が潤む

「夫を1人残した事が心残りだけど、数十年すれば会えるものね

それまでは先生生まれ変わらずに待つつもりよ!」

ニッコリと前向きで元気な美樹先生の姿を見て、俺はクスッと笑みが零れ涙も引っ込む

美樹先生らしいや

「それでね美樹先生、ここでまたダンス教室を開いたのだけど

ここの子達は興味はありそうでも近付いてくれないのよねぇ」

まだ死者の国に来てから日が浅い美樹先生はここがどんな感じなのかはわからないままみたいだ

俺も昨日今日だからわからないんだけど

「もっと興味を持たせる事が出来れば…」

美樹先生は俺をチラリと横目で見る

そして何かを閃いたみたいで俺の両手を握ってお願いされた

「セリちゃん!!また踊ってみない!!?」

「へっ…?」

急に言われて理解が追い付かない

だけど、美樹先生の目は他の死者とは違ってキラキラと輝いていた

「アイドルコンサートよ!それでダンスの素晴らしさを皆に知ってもらうの!

セリちゃんは綺麗で華やかだしダンスも人を惹きつける魅力があるわ

今度は歌と一緒にやりましょ!!」

えっ…えぇ!!???と、突然そんな…

ダンスは楽しくて大好きだけど、歌も!?

ってか俺がアイドル!?そんな柄じゃないぞ…

カッコ良くはないし…

「是非やりましょう美樹先生!!オレもセリのダンスが見たいです!!」

「ほらセリちゃん!お友達もこう言ってくれてる事だし、ね!?」

じーん…レイと一緒にいてはじめてカップルに間違われなかった

なんか凄い嬉しい、美樹先生良い

「で、でも…今度は歌もなんて、俺は自信ないです

音痴だし」

「そんな事はないぞ

音痴と思い込んでいるだけで、セリは自分の得意とする音程だととても上手い

セリの歌声もオレは好きだ」

「レイは俺ならなんでも褒めるから…」

「いくらセリの事が好きでも、音楽に嘘は付かないさ

歌の事は心配するな

オレがいるんだから、歌いやすく出来るしセリの魅力を最大に引き出してやれる」

そうだ、レイは音楽の天才だから音楽についてはウソは言わない

俺が歌うと、その音程は苦手とするから下手に聞こえるってハッキリ言われたコトもある

「まあ!お友達はお歌の先生か何か?

それは心強いはね!最高のコンサートが出来そう!」

美樹先生もレイもやる気満々で断れる雰囲気ではなかった

それに俺もダンスはまたしたかった

今度は大好きなレイの曲で踊れるんだって思ったら心も体もウズウズしてくる

早く、大好きな音楽と両想いになりたいって

俺には音楽と通じるにはダンスしかないから

「わかりました…やります

でも、俺なんかにお客さんが集まるかどうかわかりませんよ」

俺がオッケーすると美樹先生もレイも凄く嬉しそうにした

2人は俺にどんな歌とダンスにするかで盛り上がっている

そんな中、俺は心配もあった

この娯楽のない死者の国でアイドルコンサートをやっていいものなのか…

そして、この国の人達はそれに興味を持つのか…

ってか俺がアイドルってどんな層をターゲットにしてるんだ…

カッコ良くはないから女の子をターゲットとはいかないだろうし、俺は男だから男がターゲットってのもいかないだろうし


「コンサートは3日後よ!場所は国の中心にある広場を借りたわ!時間は15時から!!」

「3日後って早くないか!?」

そんな短期間で歌とダンス覚えられるかなぁ…

レイの曲は何回も聴いてるけど、歌があるものじゃないから今歌詞を付けた感じだし

最悪歌詞は忘れたら適当に歌えってレイは言う

「まずは衣装を決めましょ!セリちゃんはフリルとレースが似合うから、色はパステルが良いわね」

美樹先生はいくつもある衣装のクローゼットからどれにしようかしらと悩んでいる

その横からレイが口を挟む

「絶対領域は守るか、膝は出した衣装にしてください

それがいつものセリです、イメージは守ってください

足は出しても露出は控えめで、パステル系もセリはとても似合って可愛いですが

色が白いから紅も映えて目を引くと思います

あと」

うるせぇ!!!!???恥ずかしいからやめろ!!?

「これなんてどうかしら?」

「装飾品がごちゃごちゃしてて重いです

セリはそのままで十分綺麗だから、上品な方が似合います

また、フリルやレースがとても似合うと言ってもこれも沢山あればいいってわけではなく

カサブランカの花束のように主役がセリなら脇役がフリルやレースになります

クラシカルガーリーなものが1番似合うので、この中で言ったらこれとこれとこれのこことこことここを合わせて上品に」

「早く練習しようぜ!?長いわ!!!衣装はなんでもいいから!!」

「ダメよセリちゃん、先生達はセリちゃんを可愛く見せるのも大事なの」

「そうだぞ、絶対領域にするか膝を出すかで凄く迷っているんだ」

美樹先生はわかるが、レイはなんか違うくないか?

結局、美樹先生とレイの衣装選びは半日かかった

時間がもったいねぇな…

衣装も俺用にアレンジしてもらって、足にこだわってたレイは結局決まらなかったらしく

右足は絶対領域、左足は膝を出した感じになった

色は目立つ方がいいってコトで紅がメインで、さり気なくパステルが混ざっている

レースもフリルも上品にあしらわれた

「可愛いわセリちゃん!」

「はぁ…この姿のセリを見れただけでオレはもう満足だ」

勝手に終わるな!!

衣装を試着した俺を見てレイはもう仕事は終わったみたいな顔をしている

「それじゃ時間がないから、レッスンは詰め込みでいくわよ~!」

美樹先生は久しぶりに生徒にダンスを教えるコトに凄くテンションが高かった

俺もまた美樹先生にダンスを教わって踊れるコトが嬉しかった…

が!本番まで3日しかないってコトでスパルタで歌とダンスを叩き込まれた

それは深夜まで続き、ホテルに帰った時は0時を過ぎていた


「つ、疲れた……」

「お疲れ」

レイは俺に冷たいミネラルウォーターを渡してくれる

「ありがと、明日も朝早くから練習だもんな」

ダンスは楽しいけど、日にちがないから楽しむ暇もないくらい大変だったかも

「完璧は無理かもしれないが、当日はセリが楽しく踊れたらいい」

「でも、ちゃんと出来なきゃ…」

当日のコトを考えると不安しかなかった

俺は覚えが悪いから身体で覚えるしかないから、何度も何度も練習しなきゃ

「オレも美樹先生も、セリにプロのようには求めていない

今日は厳しいように見えたかもしれないが、それは当日セリが楽しく踊れる事を目指しているんだ

セリは楽しんでやる事が1番最高の魅力となるから

美樹先生はそんなセリを見た大勢の人がセリから楽しさを感じてダンスの素晴らしさを知ってほしいんだと思う

人の心を動かすってのは、1つじゃない

最高のパフォーマンスが出来なくても、セリが笑顔で楽しく踊っていたら

それを感じる人はいるから」

レイは…とても優しい

俺に人の心を動かす自信なんて全然ないのに、少しでも楽しいって気持ちが届いてダンスの素晴らしさを伝えられたら凄く嬉しい

レイはいつものように爽やかに笑って俺の頭を撫でてくれる

衣装選びの時のレイは俺に詳しすぎてキモかったけど、こういう時のレイは大好きだ

「うん…俺、頑張るよ!」

俺が笑顔になるとレイが安心したような顔をする

「それじゃあシャワー浴びて明日のためにさっさと寝よう」

「一緒に入るかい?」

「ここのシャワールーム狭いぞ?」

「だから良いんだが」

「何が…

まぁ2人で入った方が早く寝れるか」

1人ずつ入って待って入ってってするよりかは

シャワールームで、レイが思い出したかのようにキスしてきた

「なんで!?」

「1日最低1回はキスしたい、0時過ぎたから遅いけど」

「3日くらい我慢しろよな

ダンスのコトしか頭にないぞ俺」

「オレはどんな時もセリしか頭にないが?」

「あっそ」

狭いシャワールームを2人で入ったのが間違いだった

レイは待たせて俺が先に入って先に寝てやればよかった

俺がダンスでどんだけ疲れたと思ってるんだか

むーって膨れながらレイを見上げる

水も滴る良い男みたいになって…

またレイの顔が近付いて来たから、今度は素直に目を閉じた

レイの唇の感触は、何度も重ねるうちに少しずつほしくなってる自分がいた



そうして、厳しいレッスンの末に3日が経った

「うわー!緊張してきた!?」

コンサート本番まで後2時間

歌もダンスも結局完璧とまではいかなかったが、楽しく踊れるほどまでには完成した

昨日は早めに練習を切り上げてたっぷり寝たから調子は良い

お腹は空いてるけど、緊張のし過ぎで空腹なんて忘れる

「大丈夫よセリちゃん、緊張するのは舞台に上がる前まで

セリちゃんは上がってしまえば楽しめる子よ

前回もそうだったでしょ」

確かに、美樹先生の言う通り舞台に上がれば音楽が俺を引っ張ってくれるから楽しんで歌って踊れるハズ

「だ、だって…思ったより人が来てるから…」

俺を見に来たと言うよりは、娯楽のないこの国で珍しいコトやってんなー?程度でまさかの満員からも溢れている

「皆、興味があるんだ

これは良い事かもしれないぞ」

「セリちゃんのダンスを見て美樹先生のダンス教室の生徒もグッと増えるわね!

せっかくの野外なのに、天気がずっと悪いのは残念よねぇ」

美樹先生はダンスの楽しさを広めたいって純粋な気持ちだ

頑張ろう…楽しく歌って踊るコトを今は考えればいい

そして、あっという間に2時間が経ちコンサートがはじまる

美樹先生に背中を押され俺は舞台へと立つ

静かな場所だった

何の音もない…

昼間だと言うのに雨雲のせいで薄暗くて、不安になりそうな空気

でも、そんなの一瞬で吹き飛ぶ

レイの音楽が助けてくれるから

曲は俺がいつも大好きなやつだった

今回のコンサートのために明るくて元気が出るような曲調へとアレンジされていた

俺が歌いやすいように踊りやすいように

またこの感覚…思い出す

大好きな音楽と一緒に踊れる楽しさを

自然と笑顔が続く、歌うの楽しい、踊るの楽しい

1曲目の最初のサビ部分から、静かで薄暗かった客席の方から

キラキラとした輝くものがチラホラと見えたような気がした

空は少しずつ晴れていき太陽の光が差し込む

客席のキラキラは太陽の光でさらに輝きを増す

俯いていた花の蕾も上を向き、待っていたと言わんばかりに満開にその花びらを開き咲き誇る

2曲目に入る頃には天は雲1つない晴天

客席のキラキラした輝きはどんどん増えてやっと気付いた

その意味に、俺の楽しい気持ちが届いてるんだって

歌とダンスの素晴らしさが伝わったんだって

嬉しくて嬉しくてたまらなくて…俺は練習の時より、自分の中で最高の歌とダンスを叶える

これが…自分でも知らなかった俺の魅力…?

楽しい…楽しかった…

あっという間に、時間は過ぎていった

「ッ……ありがとうございました…」

最後の曲が終わって、俺は深々と頭を下げた

半透明だから音は鳴らないけど、みんなが拍手をくれてるってコトがわかった

顔を上げて、嬉しくて笑いながら泣いてしまう

それが恥ずかしくなってすぐに舞台袖へ

レイと美樹先生のところへと帰った

「セリ!凄くよかった!綺麗だった!可愛かった!感動したぞ!」

「美樹先生もセリちゃんがここまでやってくれるなんて感動しちゃった!」

「は、恥ずかしいから…」

俺は涙を拭きながら褒められて顔を真っ赤にした

「美樹先生のセリへの振り付けは完璧だ

セリの魅力を最大限に引き出せていたな

明るく元気だけどどこか上品で少し色気があって、綺麗で可愛くて」 

またレイのキモイのがはじまった

「歌も最高によかったぞ、オレの曲を愛してくれているのが伝わった

明るい曲も似合うが、最後のしっとりとした曲も心にグッと来る歌い方をするから」

「もう恥ずかしいからやめてくれ!」

褒められるのは嬉しいが、今は凄く恥ずかしい

歌とダンスの楽しさの興奮も冷め切らないし

「それに凄いわセリちゃんが舞台に上がったら、ずっと雨だった空が嘘みたいに晴れるんだもの!

天までセリちゃんに拍手してるみたいね」

それは俺の機嫌が最高に良いからで…

でも…ずっとここは雨だってセレンから聞いてたから、こうして天が綺麗に見えるってのは良いよな

見渡す限り雲一つない……ん?

そんなコトはなかった

この国で一部だけ不自然に雨雲が覆っているコトに気付く

気になったけど、レイも美樹先生も疲れただろうって俺を気遣ってホテルに帰るコトとなった


「つ、疲れた…」

帰って来てまたベッドに倒れ込む

「お疲れ」

ここ3日は同じ台詞言ってレイに冷たいミネラルウォーター貰ってって流れになってる気がする

でも、この疲れも今日で終わりか

とにかく…凄く楽しかったな

レイが隣に腰掛けるから俺は起き上がって座り直す

いつも常温で水を飲むのが好きなんだけど、今は冷たい水が身にしみる

そういや、レイが1日最低1回はキスしたいって言ってたけど

今日はまだなんだよな

いつ来るんだろ…

ちらっと横目でレイを見るけど、とくにそんな様子はなくちょっと残念な…

………ん、ん?残念…?

いや、いやいやいや!?なんでこんな気持ちに…?

ない…ないないないないない…!!

って頭では自分に言い聞かせてるくせに、身体をレイに寄り添うように近付けてしまう

……触れてほしい…なんて、俺思ってる?

「……もっと…今日のコト、褒めて」

「えっ?さっきはウザイって」

言ったよ!?ウザかった

レイを見上げると

「どうしてそんな顔をするんだ」

俺がどんな顔してるか自分ではわからない

とにかく…なんでか…わからない

甘えたくなった…?

レイは俺の頬へと触れる

期待する…キスしてくれるんじゃないかって…

目を閉じて待つ

「……ど、どこか調子が悪いのか!?

疲れすぎて熱でも出てるのかもしれないな」

期待してたのと違う反応で、余計に恥ずかしくなって理不尽に怒ってしまう

「別に俺は元気だよ!?

もういい!レイのバカ!シャワー浴びて寝る!!」

「じゃあ一緒に」

「1人で入るから来るな!!」

わざとらしくシャワールームのドアの音を立てて閉めた

シャワーを浴びながら、自分が最低なコトにスゲー落ち込む

さっきの俺なに?

レイのコト、愛してないのに…

なんか自分から求めてた…えっ欲求不満?

それだったらそれでもっと俺最悪じゃん

香月と和彦がいながら他の男を求めるなんて……本当に最低最悪…

死にたい

シャワーを浴びて身体はサッパリしたけど、気持ちは全然サッパリしなかった

レイがシャワールームに入って、俺は1人ベッドに潜り込む

疲れたから眠いハズなのに…全然眠くない

だって…このまま寝たら、1日最低1回のキスがないままになる…

だから!俺はなんで期待してんだって…!

早く寝よう、寝ちゃおう

寝たら、明日には頭もスッキリしてこんな迷いもなくなるハズ……

「セリ…もう寝たかい」

寝れなかった…

レイがシャワールームから出て来て、ベッドへと腰掛ける重みにドキッとする

このまま寝たフリをして今夜を終わらせるか…

それとも…

「………起き…てる…」

あぁ…ダメだ……

レイに…キスしてもらいたいって気持ちが強くなって、眠れやしない

「顔が赤い…やっぱり疲れているんだな

先に寝ててよかったのに」

わかれよバカ…

「違う…俺って最低かも」

どうして?ってレイは優しく頭を撫でてくれる

言いづらい…

「レイは、前に俺のコトが知りたいって言ってたな…」

「そうだな」

「俺はレイが思ってるような奴じゃない

最低で最悪で気持ち悪くて…」

もういっそ嫌われた方がマシだ…

こんな俺、誰かに愛される資格なんてないのだから

「そんな事はない」

「俺はレイのコト、愛してないよ」

「うん、知ってる」

俺の言葉にレイは怒りも悲しむコトもしなかった

レイの顔が見れなかった俺は自分の手で自分の目を隠し閉じた

「………なのに、俺は…レイとキスしたい…」

本当に俺はレイを愛していないのか…

どこからが愛で、どこまでが愛じゃないのか

「あの時…レイに無理矢理された時……

怖かったし気持ち悪かったんだけど」

声が震えていく

嫌われるのが怖いんだ

だけど、言葉が止まらない

「本当は……レイが気持ち悪かったんじゃなくて、俺自身がそう

レイに犯されて…それに興奮して…気持ちよくなってた

…そうじゃないとダメな身体なんだって思い知らされて自分が気持ち悪くて吐き気がした」

まともじゃない

歪んでる…トラウマを求めるコトで自分が傷付くコトが性癖なんて……

痛いのも犯されるのも…

嫌だよ、嫌に決まってる…

そんな自分を認めたくなかった

必死に否定して蓋をして知らないフリをして

だけど…認めたくないけど…陵辱されるのが……好きなんだよ…

「こんな俺、香月にも和彦にもレイにも愛してもらう資格な」

言葉の途中でレイに口を塞がれる

「……だから何だって言うんだ

オレはセリを好きな事に変わりはない

香月さんも和彦さんも、いつも言ってるんじゃないのかい

セリの気持ちは関係ないって

あの2人だってセリを離さないさ

オレはあの2人がセリを手放してくれた方が嬉しいが、絶対ありえないな」

「なんで……気持ち悪くないの?俺のコト」

レイは俺の手を掴み俺の顔から手をどかした

レイの顔はいつもと変わらない優しい笑顔を見せてくれている

「つまり、セリが嫌がってもオレの好きに出来るって事だろう?

セリがオレを愛していなくてもオレはセリを愛せる

オレにとって良い事しかないじゃないか」

これはポジティブと言ってもいいのか…?レイも相当歪んでいるってだけのような

「そうじゃないと、オレ達は上手くいかないさ…

セリがまともな身体だったらオレは永遠に受け入れてもらえない

そう決めてもいつかは限界が来てダメになる」

そう…か…そうかもな…

俺は恵まれているのかもしれない

こんな俺を3人もが愛してくれるんだから…

「セリはそんな自分の事が嫌いだろうが、もう悩まなくてもいい苦しまなくていい

オレが受け入れるから…セリの自分が嫌いなところも全て」

またレイがキスをくれる

身体が熱くなるような深い深い…愛と一緒に

「レイのコト…好き」

「もうとっくに、セリはオレを愛しているのでは?」

「んー…それはどうだろ?」

って言うと、お互い吹き出して笑ってしまう

強く抱き締めてくれて何度もキスしてくれる

勢い余って歯が当たって痛みを感じるキスもあるけど、それすらも俺はほしかった

がっつくくらい俺を愛してくれるレイが、俺も好きだった

「……そういうのが好きって事はこのまま襲っても」

「それは無理、ホンマに無理、したらめっちゃ怒る」

ガチなトーンで言うとレイは残念だと引いてくれた

本音はしてほしいって思うけど、約束は絶対に守りたいからダメだ

「少しは香月さんや和彦さんに近付けたかな」

「足元にも及ばないな」

なんて、ついついツンとしてしまう

「やっぱ俺ってめっちゃビッチ…」

2人の名前が出て冷静になると改めて俺ってクソ

「そうじゃないと上手くいかないって言ってるじゃないか」

「そうだけど…

このまま行くと、俺は仲良くなったら断れない奴になりそう」

「心配するな、そうなりそうな時はオレが始末する

これ以上邪魔者が増えるのは嫌だからな」

やっぱ俺の周りってヤベェのしかいないんだな

「聞いていいのかわからないが、もしかしてセリはフェイの時も…」

俺の知られたくないコトをレイに話したコトで、レイは土足で踏み込んで来るコトにもう躊躇いがなかった

思い出したくないコトを…

「フェイのコトは嫌いだよ、それは本当」

「へぇ…二度とあの男は近付けたくないな

セリカは感謝してるみたいだが、それとこれとは別だ」

「フェイに和彦とよりを戻したら(実際はそういう意味ではなかったが)

寝取るからって言われたんだよな…」

わざとレイを煽る

土足で踏み込んで来たお返しだ

「殺す、あの男は最初から気に入らない」

思った通りの反応をする

レイは本当に俺が好きなんだな

それが…なんだか嬉しい

「心配しなくても、寝取られないから

レイの嫌がるコトはなるべくしたくない」

「セリはそうでも、向こうが」

「和彦がいるから大丈夫だって……たぶん」

「たぶん!?」

「やっぱりレイが守って、でも殺すのはダメ

一応、あれでも助けてもらった恩はあるからな」

ぎゅっとレイに抱き付く

「あと………こんな俺でも愛してくれて、ありがとう……」

誰かに愛されるなんて…俺には贅沢だった

こんな穢れて気持ち悪い俺を愛してくれるなんて…

だから、ずっとレイのコトが大好きで…大切だったんだ…

「守るよ、セリの事ずっと愛するよ

だから…もう二度と離れない

やっと手に入れたんだ

ずっと君がほしかった

オレだけのものじゃないが、それでもオレはこれからもずっと…」

頬に触れられてレイの顔を見上げると優しいキスをくれる

ずっと胸に秘めたコトがさらけ出されて、嫌なコトだけど

怖かったけど…

レイに受け入れてもらえて、幸せだった

自分ですら自分が気持ち悪いのに…

こんな俺を…愛してくれて……ありがとう



-続く-

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