第31話『死んでも、人形になっても、私より人間らしいのね』セリカ編

「魂を入れる器を作れと?

しかも歌って踊れる凄いやつ…お前は何を言ってるのだ?」

朝の4時にリジェウェィの部屋を大勢で訪ねると、超寝不足でやっと眠れると思っていた所をお邪魔してリジェウェィはイングヴェィの言葉に超不機嫌だった…

そらそうだわ…

私がリジェウェィの立場だったらキレてる

でも、幽霊さん達をなんとかしてくれるのはリジェウェィしかいないの

「この幽霊さん達のミュージカル凄く素敵だったの!

でも、魂のままだと遊馬に成仏させられちゃうからなんでもできるリジェウェィにお願いしにきたの!!」

私は一生懸命、リジェウェィの超機嫌の悪さにも怖じけるコトなく頼んだ

「…わかったわかった

明日の夜にでもまた来い

今はオレを寝かせろ騒がしい馬鹿者共…」

「リジェウェィってセリカちゃんには優しいよね…」

「お前自身に何を言っても怒る事はないだろうが、セリカに少しでもキツく当たったら凄い怒るだろうが…」

「うん、そうかも!!

よかった~一瞬もしかしてリジェウェィもセリカちゃんのコト好きなのかもと思っちゃった

そしたら、殺しちゃうから困る所だったよ」

アハハと笑うイングヴェィの言葉にその場にいたみんなが凍りつく

イングヴェィは私のコトなら兄のリジェウェィに対しても……そうなの

リジェウェィは呆れた顔を見せた後、すぐに眠りに入った

「ってコトだから、みんな明日の夜までこのお城で休んだりして自由に過ごしてね」

イングヴェィが遊馬と幽霊さん達にそう言ってみんなやっと一段落したと眠そうな顔をする

幽霊でも眠いんだ…

リジェウェィの部屋を次々に出て行って、最後にイングヴェィと私と…1人の幽霊さんが残る

この女の子は…ミュージカルでも主人公のヒロインを演ってて、イングヴェィと遊馬の戦いを止めに声をあげた…

そして、イングヴェィに憧れて大ファンだって言ってたね……

なんか…イングヴェィを見てもじもじしてるし、顔も赤くして何か言いたげだ

これが恋をする女の子の姿…はじめてちゃんと見た気がする

今までにイングヴェィを好きだったりファンの子はたくさんいたケド…

関わりがなかったから強く感じなかったのに

今は…なんだか、私の心がズキリと痛む

「…あ、の…ありがとうございます

イングヴェィ様……」

「ううん、もし俺が幽霊の君達の立場だったらと思って取った行動だよ

生まれ変わって別の自分になって好きなものを失うかもしれないなんて…イヤだよね…」

「はい…」

2人が話すのを見て

私…なんだか邪魔かも…

なんで…こんなに苦しいって思うんだろ

わかんない…よ

「幽霊じゃなくて、私の名前はミクって言います」

遠慮しながらも少しずつイングヴェィと距離を縮めようと近付くミクさんを見ると私は逆に距離を取ってしまうように部屋のドアへと後ろ足で下がってしまう

すると

「そうミク…あっそれ以上は近付かないで

セリカちゃんに誤解されたらイヤだもん」

イングヴェィはいつもと変わらない笑顔でサラッと言った

「あっえっすみません!!私、そんなつもりじゃなくて…」

「君にそんな気がなくても、俺はセリカちゃんが少しでも誤解するようなコトは自分もしないし相手にもさせないんだ

ゴメンね

俺はセリカちゃんが大好きだから」

イングヴェィにそう言われてミクさんはさらに顔を赤くして目に涙を浮かべる

そんなつもりじゃないなんてウソだ…本当は憧れのイングヴェィに突き放されて傷ついてる

「はい…すみません…オヤスミなさい!」

ミクさんはイングヴェィに背を向けて部屋を出た

その時、私からはちゃんと見えたよ

我慢していた涙が流れ落ちて苦しい恋の顔を…

「イングヴェィ…ちょっとヒドイ……」

「セリカちゃん!?どうしたの!?なんでそんなコト言うの!?」

ミクさんの気持ちが痛いほど伝わった私は複雑な気持ちでイングヴェィに言ってしまう

「イングヴェィはさっきもし自分が貴方達の立場ならって言った

それじゃ今イングヴェィがミクさんの立場で好きな人にああいう風に言われたらどう思うの?」

私の質問にイングヴェィは意味がわからないと困った表情をする

「急にどうしたの…

セリカちゃんは俺にあんなコト言わないよ

君のコトで他の人の立場になって考えるなんて関係ないのに…

だって、俺とセリカちゃんのコトだもん…他人なんて関係ないもん」

う~ん…イングヴェィの言うコトは正しいし、私だって自分に好意を持つ男は冷たくあしらうわ……

それは…ミクさんを見て、もし私がミクさんの立場だったらと無意識に考えて自分も傷付いただけだったんだ……

「…ゴメンなさいイングヴェィ……貴方は悪くないわ

ちゃんとハッキリ伝えるコトが正解だって私知ってたのに

自分がミクさんの立場だったらって思って、勝手に苦しくなって怒っちゃった……ゴメンなさい……」

人間だからなの…?私は感情的になる時がある

考えれば簡単にわかるコトも…間違っちゃう

でも、ミクさんが傷付いたのも事実…

「ううんセリカちゃん謝らないで…

関係ない他人のコトまで気遣うそんな君も好きだよ」

イングヴェィはいつも私を好きだと言ってくれる

でも私はそれに対して何も応えたコトがないの…

好きになるってコトがよくわからないから……

「そろそろ私も休むね

オヤスミ…イングヴェィ」

「うん、セリカちゃんオヤスミ」

イングヴェィの笑顔に見送られて私はリジェウェィの部屋を出た


休みたい気持ちはあったケド、私は少しミクさんのコトが気になって城の中を探した

すると中庭のベンチに座っているのを見つける

私が落ち込んだ時とかはよくここに来るから…すぐに見つかってよかった

ベンチに近付くとミクさんが静かに泣いているのに気付いたから私は黙ってハンカチを差し出した

「…セリカ様…すみません、恥ずかしい所を見せてしまって……」

ミクさんは私のハンカチを受けると苦笑する

「……イングヴェィのコト…好きだったのね」

私はミクさんの隣に座って聞いてみた

「いえ、そんなんじゃないですよ!?…たぶん

前からイングヴェィ様はセリカ様が好きだってお噂は聞いてましたし…

私は本当にイングヴェィ様の歌声の大ファンで…憧れだったんです……」

私が来たコトで一度は止まった涙がまた溢れ出してくる

幽霊になっても感情は生きていた時と変わらず肉体がなくても涙を見せるの

「でも…こんなに心が苦しいのは本当は好きになり始めていたのかもしれません

今日、イングヴェィ様が私達のミュージカルを観に来てくれたのは凄く嬉しかった

それと同時に隣にセリカ様がいるのを見た時…心が痛みました……」

演劇中はそんなそぶりはかけらも見せなかったのは新人でもプロだったから…なんだね

「でもセリカ様、安心してください…!」

「えっ?」

ミクさんは泣いたコトで何か吹っ切れた様子になって私の手を笑顔で取った

しかし幽霊だったから透けてしまって触れられない

「私はお2人の邪魔をするなんてしませんよ

イングヴェィ様にはセリカ様って素敵な恋人がいるのですから!

お似合いです!とっても!!」

「う~ん…いや、私達はまだ恋人同士じゃなくて……」

イングヴェィが勝手に私をもう恋人だと言い触らしてる感じはするケドね…

「どうしてですか?セリカ様もイングヴェィ様の事が好きなのでは?」

「わからない……

イングヴェィは他の男の人と違うってわかるだけで、嫌いじゃないケド…

私は好きかどうかと聞かれるとわからないの…」

恋がなんなのか知らないの、愛がないからわからないの

イングヴェィの愛が強いほど深いほど、私はいつも戸惑うだけだわ…

いつか私にも恋が愛がわかる時が来るのかな…

その時、私はイングヴェィに恋をするの?それとも他の誰かを愛してたりするのかな…

「そうですか…」

ミクさんは私の言葉に少し悲しそうにする

「でも…イングヴェィ様の愛はいつかきっとセリカ様に届くと思います……

私、死んでもイングヴェィ様の大ファンだからイングヴェィ様を応援します!

頑張ってください!」

それ私に向けて言う台詞じゃないような!?

私が頑張るの!?

「私はまだセリカ様をよく知りませんが、イングヴェィ様が愛してる人ならきっと同じくらい素敵な方なんだと思います…

だからイングヴェィ様の恋人はセリカ様以外ありえません!」

少し羨ましいとミクさんは笑って言う

なんだか…笑っちゃうな……

憎しみも苦しみも悲しみも強く、人間が大嫌いな私が…素敵な方だなんて…

こんな醜い感情が消し去らない私なんて…

あの太陽みたいなイングヴェィに相応しくない…

私とは住む世界が違うくらい眩しいのよ

いつも思うのに…

それが…なんだか寂しい……

「そんな不安な顔をしなくても大丈夫ですよ

セリカ様もいつか恋をする時が愛がわかる日が来ます

今日はもう休みましょう

もうすぐ朝になっちゃいます」

ミクさんはベンチから立ち上がって私を励ますように手を出した

私に恋が愛が…わかる日が来る…?

今までそんな日がなかった私に…

私は触れられないケド、ミクさんの手を取って立ち上がった



それから休みを取って夜になる

リジェウェィが言った通り、またみんなでリジェウェィの部屋を訪ねると人間と同じ大きさの5体の人形が椅子に座っていた

「この人形…こいつらにそっくりだな

まさかこの人形がこいつらの魂を入れる器か?」

遊馬が人形に触ったり叩いたり動かしたりじっくりと確かめている

「そのまさかだ

他の人間を殺して人間の肉体を用意する事も可能だが?」

「お前ら兄弟最低」

「俺はそんなコト考えてないってば!?

遊馬の勝手な俺のイメージでしょ!!」

なんやかんや騒いでる間にリジェウェィが1人ずつ幽霊さん達をそれぞれの人形へと魂を入れていく

人形に魂が入るとぎこちない動きをして立ち上がる

「凄い…」

「触れられる!」

死んでから今まで人や物に触れられなかった幽霊さん達は人形の身体に感動している

「でも…少し動き辛いです

表情も固くて……」

ミクさんは鏡で自分を確かめると不安を呟く

人形の体で自分達のミュージカルができるのかと…

「その人形はユリセリの力で別世界から呼び出した者に作らせたのだ

その者の腕は神とも言えるほど人形を1番人間に近い形で作る事ができる

動きがぎこちないのも表情が固いのも、まだ魂が人形に馴染んでいない証拠だな

その体が本物の人間と変わらないようになるのは貴様達の努力次第だ」

「私達の努力次第…

ありがとうございますリジェウェィ様!」

ミクさん達は納得してお礼を言う

きっとみんなならすぐに変わらないミュージカルを見せてくれるハズだね

「ふーん、まぁいんじゃん

見た目は人間と変わらないようにって言ってもやっぱり人形なんだな」

遊馬はミクさんの腕をコンコンと叩く

人間の柔らかい肌と違う

髪も目も全て作り物だけど、ミクさん達にとって大好きなミュージカルが続けられるならそんなコトはちっぽけなコトなんだ

「いいんです…

私達はミュージカルができるなら、人間じゃなくてもなんでもいいんです

これで私達はまた世界中の劇場でたくさんの人を笑顔にします」

「ありがとうございました!!」

「皆さんのお蔭様で僕達は大好きなミュージカルを続けられます!!」

喜びと嬉しさに人形になった幽霊さん達の表情が自然な笑顔になっていく

「よかったね、みんな」

「はい、イングヴェィ様!本当にありがとうございました

ここを出る前に是非このお城でお礼のミュージカルを演らせてください!!」

「うん、お願いするよ

君達のミュージカルはとっても楽しいからセリカちゃんもみんなも喜ぶからね」

そうしてミクさん達は次の日にはもう自分達の人形の体を人間と変わらないくらいまで馴染ませて素敵で楽しいミュージカルを見せてくれた



「3日も長居しちまったな

ばっちゃん心配してんだろーなー

まっ良い経験になったっすイングヴェィさんセリカさん」

遊馬はミクさん達のミュージカルに凄い感動して泣いて握手とサインを求めていた

「死者は必ず転生って思ってたけど、たまにはこういうのもありっすね

また世話になるかもしんないっす!そん時はよろしくっ」

「俺こそ、まだまだ知らないコトはたくさんあって幽霊について少し知識がついたからね

ありがとう遊馬

またいつでも遊びに来ていいよ」

2人が戦うコトになった時はどうしようかと心配したケド、今は良き友人みたいになってよかった

遊馬も悪い人じゃなかったから、あのまま戦いが続いてどちらかが倒れたらきっと…友人にはなれてなかったかもしれないもんね

遊馬は今度来る時は饅頭を手土産にすると言って帰っていった

「セリカ様!お世話になりました」

遊馬の次にミクさん達がミュージカルの旅に出る番

ミクさんは私の手を掴み笑った

「ううん…

ミクさん達のミュージカル、私大好きだよ

また観たい…から、たまには帰ってきてね……」

「はい!!セリカ様の為なら是非!!

それからこれをセリカ様に」

ミクさんは私にオルゴールみたいなものを手渡した

蓋を開けると中は小さな舞台みたいになっていて少しすると私がイングヴェィとはじめてミクさん達のミュージカルを観たあの夜の演劇が映し出される

ホログラムみたいな感じで半透明だけど、とっても綺麗で素敵だった

音楽も歌までちゃんと聞こえる

「これは…?」

「セリカ様へのプレゼントです

私達のミュージカルを1番楽しんでくれていたから…

セリカ様は気付いていないかもしれませんが、貴女には喜びも楽しみも嬉しさもあります

そういう感情もあるんですよ

だから…きっとセリカ様にもいつか恋がわかります

誰かを愛する日が来るって、私はわかります」

「私が…」

確かに私はミクさん達のミュージカルが大好きで凄く楽しいし気持ちが高ぶる感じがした…

私にはいつも憎しみや苦しみや悲しみしかないと思っていたのに…

好き…

私にもちゃんと好きって思う気持ちがあったんだ

動物やお花や音楽が好きなのも一緒

私は言われてはじめて少しだけ自分のコトに気がついた

それが嬉しくて、私は泣いてしまった…

「大丈夫ですセリカ様…幸せになってくださいね」

ミクさんはまだイングヴェィのコトが好きなのに、私のコトも応援してくれる

とても優しくて素敵な女の子だった

「それでは、また」

ミクさん達はみんなに別れの挨拶をすると笑顔で手を振って行ってしまった


「行っちゃったね…セリカちゃん、寂しい?」

ミクさん達が見えなくなってみんながお城の中へ帰っていくのに、いつまでも私はそこから動けずにいたらイングヴェィが声をかけた

「うん…

でも、これを貰ったから寂しくないよ」

私はイングヴェィにミクさんから貰ったオルゴールを見せる

「わっスゴイ…

これって昨日、ミクがリジェウェィに頼んで作ってもらってたものだ

セリカちゃんの為だったんだね」

イングヴェィに言われて私はオルゴールの中の歌うミクさんを見つめる

私の為に…

「……イングヴェィ、暫く出掛けるんだよね

私、暫く1人でも寂しくないよ

いってらっしゃい」

このオルゴールと楽しい思い出があるもの

私は暫くはもう大丈夫

「セリカちゃん…

俺は1時間でも10分でも離れたら寂しいよ!?

いってきます…すぐ帰ってくるからね」

イングヴェィは私の髪を撫でるとそのまま額にキスをくれる

いってらっしゃいイングヴェィ

私、待ってるね…



-続く-2015/04/11

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