第32話『自分に会った。弱い弱い俺自身が目の前に』セリ編

数日経ったのに、レイとまともに言葉を交わしていない

朝と夜は部屋でご飯食べて寝るのが一緒で

昼はお互い別行動だ…

会話してないからレイが昼間に何してるのか知らねぇ

俺はセレンにまだ戦いには参加しなくていいから夫婦喧嘩を満喫して仲良くなってからお願いするとかふざけたコトを言われたから結構ヒマしてる

中庭で動物達と戯れながらもため息つく

手の中にいる子リスが俺のそんな様子に首を傾げながら口から木の実のかけらをポロポロ零している

「セリくん、ため息ついてどうしたの」

ベンチに座っている俺に影が重なって顔を上げると

「えっイングヴェィ!?」

前に1回会った時と変わらない太陽みたいな笑顔がそこにある

俺はなんかわからない恥ずかしさがあって顔も赤くなって少し距離を取る

やっぱイングヴェィには調子が狂う…

変だ…なんとなく…アイツと…恋人に想う似たような気持ちを感じる

別に俺はイングヴェィのコトが好きじゃないのに…嫌いでもないケド

「アハハ、急に話し掛けるとセリカちゃんと同じ反応をするね」

「なんだよ…そのセリカちゃんって、前にも言ってたケド」

イングヴェィは動物達が空けてくれた俺の隣に座る

「君のコトだよ」

「はぁ???」

「今日はセリくんを迎えに来たんだ

暫く俺の城に遊びにおいでよ

君を君に会わせてあげる」

イングヴェィの言ってるコトがわからない

俺を俺に会わせる?

鏡でも見せてハイ君だよとかボケかますんじゃねぇだろうな

そん時は鏡叩き割んぞ

「あっロックとローズにもね」

「そうだ、ロックとローズはイングヴェィの城にいるんだったな

行きたい!」

ロックとローズの名前を聞いて懐かしくなって俺は楽しみになった

「うんうん、行こうね

…所でいつも一緒にいるレイくんは?」

笑顔なのになんかめっちゃ恐いオーラを感じるイングヴェィにそう聞かれて俺はまた気分を沈める

「…知らねぇよあんな奴」

「レイくんがいたら絶対一緒に行くって言うもんね

来ないでって返すケド」

なんか…コイツ恐ぇな

笑顔で結構酷いコト言ってるぞ……

「イングヴェィなんでそんなにレイを…嫌ってるんだ?知り合いとかじゃなかったんだろ?」

レイは前にイングヴェィのコトは知らないって言ってたし

「知り合いじゃないよ

でも、レイくんは俺から大切なものを奪う人間…邪魔をするから、大嫌いかな」

イングヴェィはやっぱり笑顔を崩さない

その内に秘める想いは殺意レベルなのに、太陽みたいな笑顔が雲みたいに想いを隠す

「大嫌い…か

レイは俺の…大親友だから……あんまり嫌いとか言うな…」

自分でレイを大親友と口にした時、心が痛む

喧嘩して仲直りもできてないのに大親友なんて言えるのかよ……バカな話だ

そういえば、レイも前に香月に瀕死にされた時に大切な何かを奪われるような気がしたって言ってた

イングヴェィもレイも大切なものが…あるんだな

俺はと言ったら、ないかも

恋人は好きだが…大切かと聞かれたらわからないから……

「…ふ~ん……やっぱり、厄介だね

レイくんがセリくんの大親友なんて……」

イングヴェィは俺の手を掴むとベンチから立たせてくれる

その時、俺はそのイングヴェィの冷たい手に思い出す

この世界に来てから、なんか感じていた抱きしめられるようなキスされるような感覚

それはどれもこれも冷たいものだった

その冷たいのに温かい優しさがあの感覚と一致する

どういうコトだ…?

イングヴェィは俺に俺を会わせるって言ってた

それは…



そうして俺はイングヴェィの連れてきたペガサスに乗ってイングヴェィの城へとやってきた

レイがいない状況で外に出たのははじめて、ちょっと緊張する

「結構…広いお城……」

セレンの所と違って神々しさはないし、多種族が住むから雰囲気もまったく変わる

古いお城みたいなのに中は綺麗だ…

「なんだろ…この感じ……」

イングヴェィが案内する廊下を歩いて何かに近付く度に何かを強く感じる

なんて言うか…自分に近付いてると言うか、自分の心がこの先にあるって言うか……なんなんだよこれ変な感覚

でも、イヤな感じじゃなくて恐いけれど……愛しいとも思える

「セリカちゃん、今帰ったよ」

ある部屋で立ち止まり、イングヴェィが先に部屋に入る

部屋の中でイングヴェィの背中に隠れて名前を呼んだ人の姿がまだ確認できない

「イングヴェィ…おかえりなさい……」

あれっ…?この声、どっかで聞いたコトがあるぞ……

「おいイングヴェィ…一体俺に会わせたい人って……あっ」

俺は自分の口元を抑える

さっきの部屋の中から聞こえた声…俺の声だ……

ウソだろ……

なんで俺はここにいるのに、そっちから俺の声が…

「セリくん、セリカちゃん」

イングヴェィに名前を呼ばれて、背中に隠れていた俺の声をした人が姿を見せる

まるで鏡に自分を映したかのようなそこにいた人も驚いて俺を見てる

俺も同じだ

目の前に鏡じゃない自分がいるんだから…

俺と瓜二つソックリでも、性別が違う

俺は男で、目の前の自分は女だった

髪の長さの違いと背も気持ち程度に俺のほうが高い

違いなんてその3つくらいで

ただ…違う…ただ単に自分と瓜二つのソックリさんじゃない

一心同体

一目見てわかった

この女の子は俺なんだって…俺自身なんだって

心も身体も存在が俺1人の人間

でも…この女の子の自分を見て、俺より深く強い憎しみと苦しみと悲しみを持っているコトがわかった

この自分はハッキリと俺の弱さなんだって……わかる

「……そんな……これは俺だ……弱い弱い……俺自身……」

「えっ?あっセリくん…!?」

俺は気付いたら逃げ出してしまっていた

見知らぬ城の廊下をワケもわからずに走る

恐かった…凄く恐かった……

あの自分は俺の弱さだから、それを認めるのが受け入れるのが恐くて逃げ出してしまった

情けないくらいに自分の弱さが…許せない

いつもなら信じないのに

あれは本当に俺自身なんだってわかる

絶対的なものがある

「……まさか、自分に会う日が来るなんて…」

自分から逃げ出して傷付いた心が激しく痛む

あの自分は強い俺を待ってた

それもわかる

自分を救うのは自分だってわかってるから

なのに…俺は自分の弱さが恐くて逃げ出した

俺は俺を見捨てたんだ……

「俺のバカ野郎……」

弱さと恐さを感じたと同時に俺は自分を見て

そして…何より、めちゃくちゃ綺麗だと思った

自分に惹かれるかのような美しさに正直戸惑う

他人から見たらあんな風に俺が見えているのかよ…あんなの気が狂うレベルだ

神聖さ神秘さ…人間離れした綺麗な容姿や雰囲気は……穢される為にあるみたいだ……

俺が変なコトによく巻き込まれる理由がわかった気がする

でも…俺は逃げ出してしまった……最悪だ最低だ……あれは俺自身なのに

「あら、聖女様ご気分でも悪…」

走るのに疲れて廊下の隅でうずくまっていると人外の女性2人が優しい声をかけてくれる

「聖女様かと思ったら、もしかして貴方様は勇者様のほうですか?」

振り向くと2人は俺に憧れの眼差しを向ける

な、なんだこの眼差しは……

あのお風呂入ってくる時に来る天使2人と被るんだが

「あ…その聖女って人の話を詳し……」

「きゃ~~!!勇者様とお話しちゃったわ~~!!」

「今日はラッキーね!!」

2人は何かわからんがキャーキャー言って嬉しそうに走って行ってしまった

「く知りたいんだケド…って、いねぇ」

自分に会いに行くのはまだ覚悟ができない俺はこの城の人に自分のコトを聞こうと声をかけるが

ほとんどがさっきみたいな反応で逃げられ、中には自分をよく思わない奴らもいて

「気安く話し掛けるな!」

「死ね!!」

とまで言われた…

オマエらが死ね!人間!!

くっそ…なんなんだここの城の奴ら……

人外は俺に好意的なのはわかるが、近付こうとしてくれない

人間にはなんか嫌われてるみたいだし

城が広すぎてロックとローズには今だに会えないし

こんなにたくさんの人がいるのに……ひとりぼっちな気分だ………

あの自分はいつもこんな寂しい想いをしてここで過ごしていたのか

俺がたまに感じる寂しさはこれだったんだな…

「こんな所にいたセリくん」

ちゃんと話してくれるのはイングヴェィだけみたいだ

廊下の真ん中で呆然としていた俺を見つけてイングヴェィは話し掛けてくれる

「どうしたの…?セリカちゃんを見て…逃げ出すなんて」

「それは……」

今わかった

あの自分は少なからずイングヴェィに好意があるんだ

だから、俺が調子狂ったり顔が熱くなったりしてたのか

「や、やっぱり…あの子……傷付いてた?」

「セリくんが傷付いたなら………そうだよ…」

イングヴェィは心配してきてくれたんだ

俺はイングヴェィに自分が傷付いてるって聞かされて、やっと自分が傷付いたこの心の痛みを認める

「俺…恐かったんだ

あの自分を見た時、すぐにわかった

自分の弱さそのものだって……

憎しみも苦しみも悲しみも俺の受け入れられる以上にあって……

どうしていいかわからなくて……」

ずっと自分を保つ為に自分の弱い部分を見て見ぬ振りしてた

向き合ったら自分が壊れちまうんじゃないかって恐かったから

それこそも俺の弱さなのに…俺は俺が許せない……

「俺が逃げ出した時…背を向ける瞬間、あの子がショックを受けた顔が頭から離れない

自分に見捨てられたなんて……耐え難いコトを俺はしてしまったんだよ」

なんでイングヴェィにこんな自分の深い話ができるのかわからない

俺からしたら2回しか会ってない他人だよ

レイにならまだしも

なのに、こんなに心が許せるのは俺がレイと過ごした時間をあの自分がイングヴェィと過ごした時間なんだな

「セリくん…泣かないで

君が泣くとセリカちゃんまで泣いてしまうから」

言われて俺は涙を拭う

でも、止まらない

これは俺だけの涙じゃないんだ…

「俺は軽く考えてしまっていたのかもしれない…ゴメンねセリくん…」

「えっ…」

「俺はね、セリカちゃんが大好きだから助けたいの救いたいの

俺はセリカちゃんを守りたいんだよ

でも、その中でセリカちゃん自身が自分を助けないといけない部分もあってね

それは俺じゃ永遠に君を救えない…コト」

………俺が自分を助ける……部分

ある…あるよ

それは認めるコト受け入れるコト

そして……諦めないコト…

イングヴェィはよく俺のコトをわかっているみたいだ

だから、俺を自分に会わせた

「イングヴェィはなんでそんなに…大切に想って愛してくれるんだ」

俺には大切なものも愛も…なくてわからないのに……

イングヴェィは俺自身が解決しないといけないコトまで心配してくれてる

レイも…2人とも、俺を大切にしてくれるコトに……やっぱりわからない

「運命の人だからだよ

俺はセリカちゃんの永遠の恋人

今は俺の片想いだけどね」

と最初は笑顔なのに最後に苦笑するイングヴェィ

永遠の恋人…か

前の世界に俺には恋人がいたケド、永遠ではなかったな

殺されたワケだし

「君はセリカちゃんだケド、それぞれ意志は2つあるから運命の人も違うんだ

セリくんにも運命の人がちゃんといるよ」

「運命の人なんて…

恥ずかしくないのかそんな台詞

まさかイングヴェィも俺の彼氏(運命の人)がレイとか言うんじゃねぇだろな」

「それだけは絶対に認めないし、違うからね」

まただイングヴェィの笑顔なのに恐いやつ…

一体レイと何があったのかスゲー気になる

「う、うん……今は自分をどうしたらいいか考える……

暫くこの城に置いてもらっていいか?」

自分を受け入れられるまで…

「暫くと言わないで、セリくんならずっといていいよ」

「いやそれは…あっちにはレイもいるし(喧嘩中だけど)

セレンとも勇者として契約してるみたいなもんだし」

「そうだったね…セリくんは勇者だったね

勇者の運命は大変だケド、俺はセリくんの味方だから大丈夫だよ」

正確には俺のじゃなくてあの自分の味方だからだろイングヴェィは…

でも、同じコトか俺なんだから…

「うん…ありがとう」

セレンに数日だけイングヴェィの城にって言ってあるケド、あまり長居はできない

金の為に俺は勇者をやらなきゃならないしな

だから…早く自分のコトを解決して、帰ったらレイと仲直りも…頑張ってみようか…な……

俺からは絶対謝らないケドな!!(頑張るとはなんだったのか)



-続く-2015/04/04

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