140話『暫しの別れの前に』セリ編

セリカ達ともうすぐ会えるって前に天使が目を覚ます

「あれ…ここは?」

イングヴェィにおんぶされたまま寝ぼけながらもきょろきょろして確認する

「起きた?」

イングヴェィの背から下りて天使ははじめて見るイングヴェィの顔をじっと見つめる

「あっ、俺はイングヴェィ

セリくんのお友達だよ

君のコトはセリくんから聞いているよ」

お友達…って表現には違和感あるが、難しい関係だからそれでいいか

「イングヴェィ…そっか…うん、わかった

よろしくねイングヴェィ」

天使は自分の中で何か納得したのか、その後にちゃんと笑顔を見せて挨拶する

忘れがちだがホラータウンの中を歩いているのに、イングヴェィも天使も一切ビビらないメンタルの強さ

俺はさっきから怖がってんだぞこれでも!!

「お化け怖いね~」

「怖がってねぇだろ!?」

思い出したかのように天使が笑って言う

楽しそうにしてる姿のどの辺が怖いんだよ!?

そうして、俺達はセリカ達と泊まっていたホテルへと辿り着く

ホテルの前で待っていてくれたのか、セリカは目が合う距離まで来るとニッコリと笑ってくれる

そんなセリカの姿を見た天使が思わず名前を零す

「せりか…ちゃ…」

「セリ!心配したぞ!無事でよかった」

が、セリカとの間を遮ってレイは天使の姿を見るやいなや俺と勘違いしてそのまま抱き締めた

俺はこっちなんだが…まぁ間違えるかこれだけソックリだと

「えっ、何?ベタベタして気持ち悪いよ」

普通の感覚の普通の感想

普通の男が、急に男にベタベタ抱き締められたらそりゃそうなる

天使の一言が俺の一言と思い込んでるレイは笑顔のまま固まってそのまま倒れ込んだ

「うわーーー!!レイが息してない!!??」

俺は倒れたレイの頭を膝に乗せて気が付くまで何度も名前を呼ぶ

「はっ、酷い悪夢を見た」

現実だけど

息を吹き返したレイと香月とセリカに事情を話す

天使はセリカを自分のせりかちゃんと見間違えるほどソックリだってコトがわかった

でも、天使はすぐにセリカが自分の大切な人とは別人だってコトに気付く

「こんな可愛い子拾ってきて」

「いや、なんか見捨てられなくて

可愛くてつい」

捨て子兎でも拾ったかのような感覚

自分大好きな俺達は自分ソックリな天使を可愛いと言う

「あの…セリカちゃん」

天使は遠慮がちにお願いする

その姿がまた可愛かったりする

「……抱き締めてもいい?」

「………可愛い可愛い!!どうしたの~ウサギみたい」

あまりの可愛さにセリカから天使を抱き締めていた

別人だけど、大切な人とソックリなセリカに甘えたかったんだろう

幼さを感じる天使にセリカは完全にウサギ相手のモードになっている

「セリもあんなに素直で可愛かったら…」

それを見たレイが不満を呟く

「そんなに俺が不満なら」

「不満とかじゃないぞ!?セリもオレに甘えてくれたらって願望が」

はいはい、とレイの話を半分スルーしながら聞く

まぁセリカからレイに対する感情も良い方に変わってるみたいだし

まだ話は聞いていないが、レイはたくさんセリカを助けてくれたんだろうな

香月もセリカを守ってくれたみたいだし…

俺はレイの話を聞き流しながら、ちらりと香月の方を見る

目が合うと俺は自然と口元が緩む

「あの~」

そんな中、俺達に近付く人物が声をかけてきた

「すみません」

なんだなんだ?とみんながその人物へと注目する

「イングヴェィさんとレイさん…ですよね?」

2人を名指しした人物、老紳士のようなきっちりした佇まい

「そうですが」

レイが答えると、老紳士はパッとテンションを上げて喜ぶ

「お2人のファンでして、お会い出来て光栄です」

「ありがとう」

イングヴェィは笑顔でファンの老紳士と握手を交わす

そういや、イングヴェィは歌、レイは演奏全般で結構有名で人気なんだったな

イングヴェィとレイは死ぬほど仲が悪いけど趣味の音楽はお互いの才能を最高に天才と認め合っている

実際に俺も2人の音楽に触れていて、感動で涙したコトもある

レイにはよくピアノを弾いてもらってレイ自身が作曲したものがとにかく俺はめっちゃ好きで

レイは音の魔法を得意として同時に色んな楽器の音を奏でるコトも出来る

イングヴェィの歌声はこの世のものにはない素晴らしいもの

澄んだように高く綺麗な声は、すっと耳から優しく入り込み心に響くようだ

改めて、この凄い人達と知り合いって音楽が大好きな俺は幸せだな

「ところで、急なお願いで申し訳ないのですが…

お2人には明日の夜、私のコンサートホールに出演して頂けませんか?」

本当に急だけど、久しぶりに2人の音楽が聴けるなら俺は賛成だ!!

セリカも喜ぶ、香月と天使にも聴いてほしいしな!

イングヴェィはセリカを、レイは俺を見る

セリカも俺も頷くと

「いいですよ、久しぶりなので俺も楽しみです」

イングヴェィもレイもオッケーしてくれた

「ありがとうございます!お2人が出演してくださればチケット代は普段の3倍は、おっと失礼」

人を見た目で判断してはいけなかった

コイツめっちゃ金に汚ぇぞ!?

老紳士はホラータウンのこの辺にコンサートホールがあるから明日お願いしますと伝えるとそそくさと去っていった

「今日の明日で人集まるのかな?」

天使が首を傾げている

「この2人ならチケット代3倍でも一瞬で完売だろ

それほど凄いんだよこの2人は

天使も明日の夜は楽しみにしてな」

「そうなんだ!凄く楽しみだな」

「イングヴェィとレイ、明日は頑張ってね

私とっても楽しみにしてるわ」

「セリカちゃんのためなら最高の音楽をお届けするよ!」

「セリカが応援してくれるだけでやる気しか出ない」

2人ともセリカの言葉にメロメロだ

わかりやすい男達だな…

「それじゃ今日は早めに休もうか」

俺が言うとみんなそれぞれの部屋へと帰る

天使の部屋は新しく用意して、俺はセリカと同じ部屋に

昨日とは違う部屋になった

空きが出きたからちょっと良い部屋に変えてもらったんだよな

セリカは天使の存在ですっかり怒っていたコトを忘れたようだ

よかったよかった、これからは複雑な乙女心を理解して話さないとな


寝る準備をしたが、その前に香月とちゃんと話せてないと思った俺はセリカに香月の部屋に行くコトを伝えた

「香月、お疲れ様

セリカのコト守ってくれてありがとうな」

香月の部屋を訪れてお礼を言う

やっぱり…香月と一緒にいる時が…なんて言うんだろう…

と、とにかく幸せ…満たされると言うか…

なんか…照れる

ちゃんとお礼を言えてよかった

意識すると…何を言うかも全部吹っ飛んでしまうから

「あっ香月、背が伸びた?」

近付くと俺より少し高いくらいの中学生だった香月の姿が背も伸びて姿も高校生くらいに成長している

俺が自分の身長と比べるように手を伸ばすと香月はその手を掴み引っ張る

「んっ…!?」

そのまま香月に抱き締められて深いキスをされる

久しぶりだからか、いつもより身体がゾクゾクとする

キスだけでも、未だに慣れなくてずっとドキドキする

香月の舌が入って、それが熱くて…

「ちょっ…ちょっと…待って!?」

そのまままた流されてしまうところだったが、ストップをかける

「まだ、大人に戻ってないからダメだ」

そうだぞ、ちょっと成長したからって高校生くらいじゃまだ子供、子供なんだぞ

ストップをかけたにも関わらず香月は俺を抱き上げてベッドへと連れ込む

聞いてる!?俺の話!?

「キスはしていいって言いましたよね」

言った…けど……

あんまりされると、もっとほしくなっちゃうって言うか……

「うっ…ん……」

香月は俺に覆い被さると、何度も何度もキスをしてくれる

香月の手が俺の頬を包んでくれる

やめてとは言えない

俺だって、ほしいもん

香月のコトが大好きでたまらないから

押しのけなきゃいけない自分の手が香月の肩へと回って力が入る

そしたら香月も俺の首と腰に手を回して、もっと密着するように俺を強く抱き締める

香月…香月…大好き…愛してる…

もっと愛されたい愛したい…

早く大人になって…香月

それからどれだけの時間が経ったかわからない

長いようで短かったんだろうと思う

これ以上は…

香月の唇が離れて目を開けると、香月は少し笑っていた

その笑顔を見て俺も自然と笑顔が釣られる

香月が早く大人になってほしい気持ちもあるが、香月の笑った顔を見れるのはこの子供のうちだけなんだよなって寂しい気持ちもあった

「また暫く会えなくなります」

半身を起こしてもらってベッドの上に座る

そうだった、香月と行動を共にしていたのはナナシを退治するのが目的で

ナナシを倒した今、また離れ離れになるのか

それは…寂しいけど仕方がないよな

「次会う時は今度こそ元の姿で」

香月は俺の額にキスをしてくれる

元の姿…香月が大人の姿になる時って…

和彦と3Pするってコトだから……

そ、それは……恐いな

嫌かもしれん

こんだけ我慢させておいて優しくしてくれるとは思えない

優しくしてくれるなら3Pでもいいけど、無理だな

好きなのは1対1がいいんだけど、だってその方が頭の中はその相手だけでいっぱいになるから


香月とまた明日、と軽いキスをして部屋を出た

んー…まださっきのコトが冷めない

もう寝ちゃおうかな

冷めない頬の熱を手のひらで感じながら俺は俺とセリカの部屋に戻ると

何故かレイがいた

あれ…?部屋間違えたか?セリカもいないし

「セリカなら部屋を交換してもらったよ

オレの借りた部屋がセリカの好きそうなファンシーな感じだったから」

「あっ、そうなんだ…じゃあ俺もそっちに」

レイにもちゃんとお礼言いたいけど、今はちょっとダメかも

こんな顔見られるワケには…

なるべくレイに顔を見られないようにとさっさと出て行こうとドアに手をかけたが、レイは俺の後ろからドアを締めて鍵までかけた

「ん?どゆコト…?」

俺は固まった笑顔のままレイの方を振り向く

「どういう事だって?それはオレが聞きたい

そんな顔見せられたら…素直に行かせられなくなった……」

香月との余韻が残ったままの俺の顔は自分では見えないけど、まだ引かない熱があるのくらいわかる

ずっと頭がぼーっとなるような…ずっと胸がいっぱいで

「そんなえろい顔」

「えっエロい顔!?ウソ!?そんな恥ずかしぃっ」

レイは俺の唇を塞ぐ、逃がさないようにと後ろのドアに手をついて俺を挟み込む

「…舌、入れたいから口開けて」

「それは…無理…今日は…無理」

さっきの香月とのコトを上書きしたくなくて…暫く会えなくなるならなおさら…

ってか、今はレイとキスしたくないんだけど

ホントに今日じゃなきゃいくらでもしていいから!!

「へぇ…そうやって香月さんだけ特別扱いするからオレも意地になるんじゃないか」

うっレイの気持ちもわからんでもないが…

セリカのコトは助けてくれたみたいだしセリカに対しては騎士みたいに紳士的なのに、レイは俺に対しては素を見せてくる

悪い男だよコイツは

普段は人の良さそうな爽やかな笑顔でイケメンとしてモテてる男の裏の顔はこんなんだぞ!?

みんな目を覚ませ!!

「まぁそれなら口を開かせればいいか」

レイは俺の首筋へとキスをする

「あっ…」

舐められるとつい声が出そうになって俺は手で自分の口を抑える

片方の手でレイを押し退けようとしたが、両手首ともレイの片手で抑えつけられてしまう

「やめてレイ…今日は…許して、今日じゃなきゃいいから」

「そんな風に言われると余計にやめたくない」

悪すぎないこの人!?

滲む涙をレイに舐め取られて

「もっと泣かせたくなる

拒絶されればされるほど、抑えつけて自分のモノにしたくなるんだ」

俺は足の力が抜けてその場に座り込んでしまった

レイのコトは嫌いじゃない

受け入れるって約束したから

わかってただろ、レイが自分でも自分を止められないってコトも

その覚悟で俺はレイと一緒にいるんだから

だったら、俺がしっかりしないと

泣いてる場合か、自分の取った選択に後悔なんて絶対にしたくないから

「わかった…レイの好きなようにしていい

約束は守ってもらうが」

一線はまだ越えないと言う約束

香月とは暫く会えなくなるだけだしまた会える

ここでレイをこじらせる方が大変だ

俺は力を抜いて目を閉じた

すると、レイは俺の手を離してくれる

………あれ?来ないな

「…わかった、今日はここへのキスは控えるよ」

レイは俺の唇を指でなぞると、柔らかく笑った

あれ…レイが落ち着いてる…?

そうか、さっき俺が拒絶すると火に油を注いだみたいになったが

俺が諦めて受け入れるって態勢に変わったからレイも落ち着いたのか

レイは自分では止められないけど、俺には止められるってコトなのか…レイって単純なのかも

それがわかればレイの扱いは楽勝じゃん!?

「そのかわり、たくさん触れたい」

そんなコトはなかった

「えっ…?」

レイは俺の服のボタンを外していく

「待て待て待て!?明日のためにレイはもう休むべきだと思うぞ!?」

「別に、明日は夜からだし昼は予定ないし」

レイの手が俺の腹を撫でる

ぞわぞわする…

そして、レイは俺の胸にキスをして

「セリカは……厳しかった…冷たくて…」

話すレイの吐息がかかってくすぐったい

「だからこそ、認めて貰った時は嘘偽りないんだって嬉しかった

セリは…どんなオレでも受け入れるから、わからない」

首筋を舐められた後、レイは噛み付いてきた

「いたっ」

鈍く痛みすらも、心地良く感じてしまう

「本当に、良いのか…許してくれているのか」

セリカの方が優しいのかもしれない

冷たくされたら嫌だけど、それはセリカが本当に向き合ってくれてると言うコト

でも…俺は、我慢して…折れて…同情して…?

違う、そんなコトない

俺はちゃんと心からレイを受け入れるって決めたんだ

「どんなレイも受け入れるコトが正しいワケじゃないんだろうが」

レイの両頬を包んで自分の顔へと引き寄せる

「どんなレイも受け入れないと、オマエ何するかわかんねぇもん恐いって」

ハハハと俺は笑ってしまう

「でも、それでも俺はレイのコト好きだよ

そっと自分からレイにキスをする

「…愛してないけど」

「……キスした後にそれはない」

「嘘偽りない方がいいって言ったくせに~」

「まっ、もっと好きにさせれば愛に変わる日が来るかもしれない」

「頑張れ~」

「他人事みたいに言うな」

ふっとお互いが吹き出して笑う

レイと笑える日が少しずつ戻ってきたような気がする

「それじゃ俺はそろそろ」

レイの肩を押して離れようとすると、レイはその手を掴み押し返す

「まだ帰さないが」

「困る!?これ以上されたら…帰れなくなる」

その後、レイが満足するまで散々舐められ噛まれ吸われと色々されてから解放された

レイのバカ野郎…

またセリカに怒られるだろうが

セリカに怒られるのがわかっていた俺は天使の部屋に転がり込みそこで寝るコトにした

「セリくん、顔が赤いし体温が上がってるみたいだけど

熱があるの?しんどい?」

「寝れば治る…」

「赤くなってる虫さされ」

天使に首筋の後ろを指摘され、慌てて回復魔法で治す

ある意味、虫にさされたようなもんだ

「寝よーおやすみセリくん」

って言ってからスヤァって寝るのが早い天使

疲れた…俺も寝よっと



次の日、昼はそれぞれ自由時間だ

俺はまったりゆっくり部屋でゴロゴロしていた

セリカがレイと変えてもらった部屋はマジでファンシーな感じが凄く可愛かった

ホラーなこの街にもこんな可愛い部屋があったなんて

セリカはユニコーンのぬいぐるみに囲まれて寝てたようだ

セリカはウサギが好きだが、ユニコーンも大好きだからな

そんなセリカは天使の部屋で遊んであげている

イングヴェィとレイは夜のコンサートの打ち合わせでいないし

香月は出掛けてて夜まで戻らないってコトで、俺はとりあえず暇

そのうちうとうとしてきて…あぁ、セリカが天使とお昼寝するのか

じゃあ俺もちょっとだけ…

目を閉じるとすぐに夢を見た

久しぶりに悪夢を見たような気がする

うなされて苦しくて…不安になるような嫌な…夢……

ハッと目を覚ますと天井に黒い影が見えたような気がした

「……久しぶりに…嫌な夢を見たな…」

死にたくなるような…悪夢……

「セリくん、そろそろ準備して行きましょう

ドレスコードあるんだから普段の格好じゃダメよ」

セリカが部屋に入って来ると黒い影はセリカの方へ寄って消えてしまったように見えた

気の…せいか?

セリカはなんともない素振りだし

「あっ…うん、着替えるよ」

黒い影のコトは気になるが、悪夢を見た後で気分的なものかもしれない

見間違いだな、きっと

俺は自分にそう言い聞かせて気持ちを切り替える

今夜は久しぶりに2人の音楽が聴けるんだ

もう楽しみしかない!!

そんなこんなで、香月と俺とセリカと天使の4人でコンサートホールへと向かった


「うわ~広くて大きいね」

天使がはじめて見るのか、コンサートホールに興奮を隠しきれない

「このホラータウンには合わない場所だな」

「ホラー好きもたまには演劇や音楽などを楽しみたいのかもしれないわね」

「緊張してきた」

天使ははじまる前のソワソワする感じに背筋を伸ばして耐えている

その気持ちはよくわかる

俺もコンサートとかいつも楽しみでなんかソワソワする

「はじまる前はそうかも、でもはじまったら引き込まれて緊張なんか吹っ飛ぶから大丈夫よ」

セリカはとことん天使に甘く優しい

「香月は2人のコンサートははじめてなんだっけ?」

「えぇ」

感情のない香月に音楽は…いつも感想は、よくわかりませんだったな

楽しいがなければつまらないって感情もない

いつもデートは俺の好きなところ連れて行ってくれるけど、香月は俺と一緒ならどこでもって感じだ

だから

「俺は、2人の音楽大好きなんだ」

俺が好きとか良いとか楽しいとかを話す

すると、香月は俺が楽しんでる姿が良いみたいだ

だから今の香月は…そんな俺に少しだけ笑いかけてくれる

あー大人になったら見れない香月の貴重な笑顔

よかった、やっぱり俺が思った通り

香月は俺が楽しかったら嬉しいって思ってくれるんだ

だから俺は、いや俺だって香月と一緒ならどこでも楽しいよ

ウソついた

ホラーは楽しくない、お化け屋敷は嫌だ

そうこうしてるうちに幕が開く

イングヴェィとレイ…

いつも一緒にいるのに、こんなに遠くから見ていると他人みたいに遠くに感じるな

一曲目は俺がいつも好きな曲を弾いてくれた

レイのピアノの音と、イングヴェィの綺麗な歌声がホールを包み込む

なんて…美しいんだろう…

何度聴いても、2人の音楽は胸に響くものがある

みんなが魅了されていく

一曲目で胸の奥底から温められて、次の曲でまさかの新曲だった

昨日の今日でイングヴェィとレイは新曲いくのか!?

2人ともスゲーな

レイは音魔法で他の楽器も操る

2人が得意とする終盤に近付くほど音が賑やかに派手に盛り上がる

なのに、どことなく切なさのある震えるような曲

イングヴェィの声の重なり合う最後は鳥肌もの

あれどうやってるんだ…録音とかじゃないのに

人間じゃないイングヴェィに成せる技なのか

その後もイングヴェィらしさレイらしさの音楽を堪能させてもらった

あの2人、音楽の好みも一緒だもんな

普段仲悪いのに、音楽になると綺麗にまとまる

1人1人別々で聴く音楽も最高に素敵だけど、2人合わさるとホントにヤベーから

倒れるくらい感動する

2時間ほどして幕が閉じる

あっという間だった…短いと感じたな

「凄い…音楽でこんなに感動したのはじめてだよ」

天使は拍手しながら笑顔で涙していた

まぁ俺もちょっとうるって来てるんだけど…

「また聴きたいね、定期的にやってくれないかしら」

「セリカが言えば毎日やってくれるだろ、あの2人なら」

幕が閉じると徐々に人が席を立ち帰っていく

香月は俺の残った涙を拭ってくれる

「それでは、私はこれで」

そして、香月は立ち去ってしまう

俺はセリカを見ると微笑んでくれたから香月を追いかけた

天使をセリカに任せて、香月を追い掛ける

コンサートホールの外で香月に声をかけた

「もう…行っちゃうんだ…」

「はい」

また暫く会えなくなる…わかってるとは言え、寂しいよな…

「わかった…じゃあまた……」

言えない

大丈夫、また会えるんだし

今度は…大人になった香月に…それまで待ってればいい

うん…

香月は何も言わないかわりに俺の手を掴むと人の目のないコンサートホールの裏へと引っ張ってくる

「香月…」

俺が名前を呼ぶのを飲み込むように香月はキスをしてくれる

俺の肩を掴む香月の手が強くなって、香月も俺から離れたくない離したくないって気持ちが伝わるようだった

香月に手を掴まれた時にこうなるって察してはいたよ

だからキスされる前から緊張して恥ずかしくて…

香月のコト、凄く大好きだ

本当に香月のコト好きでいいのかってたまに思う

だって、香月は魔王で俺は勇者で

俺は魔王を倒せる力を唯一持っている

それが何を意味するのか…

恋をしてはいけない相手じゃないのか

でも、そんなコトたまに不安になるけど

一緒にいたいから、大好きだから

それを前にしたら魔王と勇者の関係なんてどうでもいいコトだ

「ありがとう…香月、もう本当に大丈夫

香月も同じ気持ちでいてくれてるってわかっただけで

俺は待っていられるよ」

「早く帰れるようにします」

香月が頭を撫でてくれる

これ好きなんだよな俺

頭撫でられるのは心地いい…まぁ当たり前だけど、好きじゃない奴にやられたらむかつくだけだが

「うん、じゃあまた」

最後に軽いキスを交わして香月を見送った

香月が見えなくなるまで眺めていて、見えなくなると急に冷静になる

次再会する時は大人の姿になってるってコトは…和彦との約束で3Pか…

早く会いたい気持ちはあるのに、その日が来るのをビビってる俺がいる

…………久しぶりだし……入るかな…

そんな心配が浮かぶのをかき消してセリカ達と合流する

そして、翌朝出発して俺達はイングヴェィの城へ帰るコトになった



-続く-

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