179話『スタート地点』セリカ編

ペットのイベントからイングヴェィの城へと帰ってきた

久しぶりにイングヴェィの城……ここの仲間達は最初は変なの混じってたけど、今はみんな良い人ばかりだ

私にも親切にしてくれて嬉しいコトなのに…それが私にはちょっとばかり居心地が悪いと感じる時がある

私はここにいるみんなのように立派で素敵じゃないからなのかもしれない

香月のところみたいに、たまに喧嘩売ってくるキルラや勝手なポップのようなたまに腹立つけど友好的で仲良くしてくれる奴らの方が私も背伸びしなくていいってなるのかな

和彦のところも美樹先生やローズやマールミ達もとても優しいよね

私は優しくも素晴らしくもない良い人間ではないから…

あーあ、こんなコト考える私はダメな人間だわ

だから…イングヴェィの隣にいる資格なんてないって思ってしまう

私……イングヴェィの隣にいても恥ずかしくないような素敵なレディにならなきゃ!!

前向きに…頑張ろっと

自分なんか…なんて思わずに、みんなと交流しなきゃダメだよね!!


イングヴェィの城では私の飼っているウサギのリズムとパレがお世話になっている

すぐに会いに行くと、リズムは私の顔を見て寄ってきた

なんて愛らしいの!私の可愛いウサギ達

足元まで来たリズムの頭を撫でながら

「パレちゃんもおいで、おやつあげるから」

おやつに反応してパレも私の所へきた

さっそく2羽にトロピカルなおやつをあげる

「オマエ達、可愛いね~美味しいの~

でもたくさんはあげられないからね、1日2個」

2羽の頭を撫でて、リズムが食べ終わってから聞く

「リズム、カニバくんは?」

ウサギの姿じゃ喋れないからリズムは人の姿になって答える

「カニバお兄ちゃんはずっとハウスにいるよ」

って、カニバ専用のハウスを指差す

ハウスに近付いて中を確認すると、ウサギのぬいぐるみが出てきた

「……うん、これカニバお兄ちゃんじゃないね」

「えー!!そっか~、カニバお兄ちゃんいつもボクが近付いたら噛むのに変だなって思ってたけどぬいぐるみだったなんてなんで!?」

「うーん、なんでだろうね」

タキヤの奴、こんなしょーもないやり方で誤魔化しカニバを誘拐したのか

まぁ、カニバは僕に任せろと言っていたから今は信じてるけど

カニバが誘拐されたのはやっぱり私の責任だわ

「カニバお兄ちゃんいないの?」

「元気にはしてるわ」

「だよね!カニバお兄ちゃん強いもん」

リズムの笑顔を見てると、私は過保護すぎるのかもしれない

カニバは誘拐されても、それをチャンスとした

私を助けるための……私を守るために

「そうだね…カニバお兄ちゃんは強い子ね」

私も笑顔を返す、リズムとパレの頭を撫でていると後ろから抱きつかれて目隠しをされる

「だ~れだ?…えへへ」

セリくんと同じ声、すぐにわかる

「おかえり天使」

「あったりー!スゴーイ!セリカちゃん絶対俺のコト当てるんだもん」

私と同じ声だしね

天使じゃなかったら目隠しされる前に殴ってるわ

「ただいま!セリカちゃんお土産も持って帰ってきたよ」

天使は私の前に回り込むと、お土産の入った紙袋を見せる

自分の世界に帰ってたんだったね天使

別世界の物は時間が経つと朽ちてなくなってしまうから普通は持ち帰らないけど、食べ物なら朽ちる前に食べちゃえばいいからね

「ねぇ結夢ちゃん達は?結夢ちゃんの好きなケーキも買ってきたんだ

ローズとマールミもチョコレートが食べたいって言ってたから」

天使の姿はセリくんと同じで大人だけど、中身は9歳くらいで結夢ちゃんは大人のお姉さんだけど

10歳と5歳のマールミとローズとは年が近いから気が合うみたいね

「ここはイングヴェィのお城だから死者の国に帰らなきゃいけないね」

「えー!!どうしよう、お土産持つかな~…」

「その前に近々イングヴェィがこのお城でコンサートを開くからみんな来るわ」

「イングヴェィのコンサートってレイと一緒の?えっ楽しみ!!」

心から楽しみって感情を無邪気な笑顔で素直だ

天使は私と同じ顔なのに…私はそんな顔で笑えないな……

だから私は天使が羨ましい…自分にソックリな見た目なのに…羨ましく思うのは

私の運命が君とは違うから……


その日の夜、私は過去のトラウマの影響を受けた悪夢を見る

絶望の…もう現実では過去のコトなのに、今でも逃げられない現実がいつまでも私を苦しめるように

逃げるコトを許さないかのようだ

いつまで…いつまで、過去に私は苦しまなきゃいけないのか

もう救われるコトすら許されないのか

全てを忘れられるならどんなに楽か……

吐きそうだ

私自身が気持ち悪くて……たまらなく、自分を嫌いになる

「……もう…嫌なんだよ…いつまで、永遠に苦しまなきゃいけないのか……」

心臓がバクバクして、ハッと目が覚める

酷い汗と息苦しさに…私は耐えなきゃいけない

一度、悪夢で起きてしまうとまた眠れば悪夢の続きだとわかっていながらもベットに潜り込む

もう二度と目が覚めなければいいのに……

そう願うのは何回目だ、数え切れないくらいの絶望だな



それでも朝はやってくる、私が死ぬその時まで

いや、死んでも何度でも生まれ変わって永遠に同じような運命を繰り返す

時間だけが過ぎ変わるだけで、運命もいつも変わらずに私を苦しめ絶望させる

いつこの運命から逃れられるのか…

いつ……

気分は最悪だが、朝食を取りに部屋を出るとイングヴェィと出会う

「あっ、ナイスタイミング!おはようセリカちゃん

一緒に朝食行こうってお誘いに来たよ」

いつ……逃れられるのか……

私の繰り返す運命にはなかった

はじめての運命の出逢い

貴方が私を見つめると、心が軽くなる

苦しみが和らいで、絶望から光が見える

いいのかな……私、期待しても

やっと……救われるって…報われるんだって

愛も知らなかった私が、恋をしても

「……うん…一緒に行きましょう」

一丁前に照れて、私じゃないみたいだ

2人で並んで廊下を歩く

イングヴェィと2人っきりになると、やっぱり緊張しちゃうな……

それでも、隣にいてくれると……嬉しいって思う

怖い夢を見たから余計に、心が落ち着くの

外は雨がシトシト…

悪夢を見た私の心が晴れないかのような天気だった

「…そういえばイングヴェィ、私達がカラオケに行ってた時に香月と何話してたの?」

「えっ…!?香月くんとの話ってのは……え、えーっと……」

聞いちゃいけなかったかしら?そうよね、私達と離れて2人だけで話していたのだもの

目に見えてイングヴェィは顔を赤くすると困ったように慌てる

イングヴェィは素直な人だから全部顔に出ちゃうのよね

イングヴェィが顔を真っ赤にするような話題を香月がするなんて、そっちの方が驚きだわ

「時間がないからって急かされて……でも……いや…香月くんの言う通りだよね」

いつもイングヴェィは太陽みたいな明るい優しい笑顔で、その想いを言葉にして伝えてくれていた

だから私はイングヴェィの気持ちをちゃんとわかってる

「あのね…セリカちゃん

俺は君を一目見た出逢った瞬間からセリカちゃんのコトを好きになって、その気持ちは大きくなるばかりなんだよね」

何度か聞いてる想いだけど、やっぱり照れる

イングヴェィは飽きもせずに慣れもせずに、その言葉を伝える時はいつも頬を赤らめる

でも今日はいつもと少し違う

愛しいと震えた声も潤んだ瞳も耳まで真っ赤なのも

「ちゃんと言ってなかったから…

俺は大好きなセリカちゃんの恋人になりたい

セリカちゃんは俺のコトをどう想ってる?」

心を貫いて痺れるような想い…言葉が詰まるのはこの小さな口より想いの方が大きいから

ちゃんとハッキリと告白されて返事を求められたのははじめてかもしれない

私は……こんな運命を知らない、はじめてのコトだった

心には臆病な方が大きくても…ちゃんと嬉しい……泣くほどに、私も……

「私も……イングヴェィが」

貴方の目を見て伝えたかったのに、私は自分のはじめての想いを伝えるのにいっぱいいっぱいで

嬉しくて泣くのを抑えるのに、両手で顔を隠してしまう

でも耳まで真っ赤になってるのは隠せないし

どんなに恥ずかしくて逃げたくなっても

同じ想いで伝えてくれた貴方の想いに応えなきゃ、ズルいから

「……好き…」

勇気を振り絞って、その大きな想いを言葉にして伝える

「……………セリカちゃん……本当に…」

お互いの気持ちが繋がると、言葉にならない

イングヴェィも何も言えなくなってる

夢じゃないのかって疑ってるくらいだ

いつもポジティブで前向きで明るいイングヴェィなのにね

本当だよ……私の気持ちはウソじゃない

本当に心からイングヴェィが大好き

このままイングヴェィの恋人になれたら…どんなに幸せで素敵なコトか……

「でも……私は…イングヴェィの恋人になれる資格ない……」

イングヴェィは私を抱き締めようとしたけど、その手を止めた

両想いだって喜ばせておいてからの、酷いコト言ってるのに…

それでも、イングヴェィはすぐに私の両肩を掴んでいつもと変わらない優しい笑みを向けてくれる

「そんなコトないよ

わかってるから、セリカちゃんがこうして俺が触れるだけで

心とは反して身体が拒絶してしまうんだってコト」

私は自分では平気なフリを、なんともないフリをしていたつもりだった

でも他人からすればわかってしまう

他人に触れられると、身体が勝手にビクついて怖いって感じるコト

イングヴェィのコト好きだから押し退けたりしないけど、触れられてる間はずっと怖いのを我慢してる

好きなのに触られて怖く感じるってなんなの…?

こんなの変だ

どうして私の身体は………無理なんだろう

もうダメなんだって何度も絶望する

だから、イングヴェィが好きって言ってくれていた今日まで

受け入れるコトが怖くて…ちゃんと向き合えなかった

だって、好きになっても…私の身体は無理だって好きな人を拒絶するんだから……

私だって……セリくんみたいに…好きな人に、愛されたいよ……

「君を怖がらせたくないから、時間をかけていくつもりだった

でも、もう時間がないんだって……わかってたけど」

時間がないコトは私が1番よくわかってる

その残された時間の中で幸せになれるのに、目の前にあるのに……

私は死ぬまで自分を不幸にするつもりか

頭ではわかっているのに……過去の記憶が私の心にも身体にも染み渡っている

誰かに触られるってコトは、汚くて気持ち悪くて痛くて悲しくて辛くて…不幸なコトなんだって……

「時間がないからって、セリカちゃんの気持ちを無視するコトは絶対にしないから安心して」

「イングヴェィ……」

どこまでも優しくて、私を気遣ってくれる…

イングヴェィは私の手を掴むと自分の頬に触れさせる

「俺はセリカちゃんだけが大好きだからね、セリカちゃんに触れてもらえたら凄く幸せな気分になるよ」

イングヴェィの肌…綺麗だな…触り心地も良い

でも体温がないからかな、やっぱり冷たいって感じちゃう

なのに…温かいって思うの……

「セリカちゃん以外の人に触られるのは嫌だって思うのは当然

好きな人だから嬉しいし幸せなんだって当たり前のコト

いつかセリカちゃんもその当たり前を取り戻せるよ

少しずつで大丈夫だから…嫌だったら言ってね

俺は君を幸せにしたい

だから…今俺が感じてる気持ちをいつか君も感じてほしいよ」

イングヴェィは反対の手を私の頬に近付ける

その時点で私の身体は強張るけど、イングヴェィは様子を見ながら…少しだけ

人差し指で私の頬を撫でた

私は……イングヴェィの思いやりにもその愛の深さにも、涙が勝手に零れ落ちる

嬉しかった……こんなにも私を大切に扱ってくれる人に出逢えて愛してくれて……

奇跡みたいな……私の恋人……

「ありがとう…イングヴェィ、いつも

ちゃんと…嬉しいよ」

私が笑うとイングヴェィはその指で私の涙を拭って笑ってくれる

窓から見える外は晴天にはまだなれないけど、雨は止み小さな光が射しているのが見えた

私には永遠に無理かもしれないって絶望だったけど、イングヴェィは凄い

私でも…幸せになれるんだって思わせてくれる

少しずつでもちゃんとイングヴェィと恋人になっていきたいな…

こんな面倒くさい私で、これからだって永遠に積み重ねた過去の記憶は消えないし忘れないから大変なコトはたくさんあるだろうけど…

イングヴェィが私と一緒にいて幸せって思ってもらえるように頑張る

イングヴェィなら傍にいてくれるだけで良いって言ってくれるだろうし、本気でそう思ってるだろうけど

イングヴェィは私を幸せにしてくれるもの、私だってイングヴェィを幸せにしたいの

「雨も上がったし、朝食の後は少し散歩に行こっか?

紫陽花がとても綺麗だよ」

窓から見える紫陽花は雨の雫でキラキラ光ってとても綺麗だった

「うん!見たい」

そう応えるとイングヴェィは私の目の前に手を差し出す

「手を繋いでもいい?」

身体が迷ったけど、私は頑張ってイングヴェィの手を取る

「無理しないでね」

って言われて、はじめて自分の肩に力が入っているコトに気付く

「やっぱり小指だけ繋ぐ感じにしよっか」

イングヴェィはそんな私にもずっと優しい

お互いの小指を曲げて絡ませると、気持ち楽になるかなって思ったけど

もしかするとこっちの方が緊張するかもしれない

繋がった小指に意識が集中する…ドキドキする……

この気持ち、私はちゃんとイングヴェィが好きなんだって嬉しくなる


朝食を済ませてから外に出て軽く散歩をする

咲き誇る紫陽花と一緒に小さな虹を見つけて2人で感動する

どんな場所でも隣にイングヴェィがいるから何倍も楽しい

短い時間を過ごすと、イングヴェィが誰かが近付いているコトに気付く

「予定より来るのが早いな、もう」

せっかくの2人っきりの時間も終わり

今日はコンサートの件でレイが来るって話は聞いていた

イングヴェィが見る方に視線を向けると、人影が物凄い勢いでこっちに近付いてきたかと思ったら、目の前で止まるとイングヴェィと私の間を手刀で繋がった小指を切り離した

ガキかオマエは!!?

「セリカはオレの彼女なんだが!?」

レイはイングヴェィを押しのけて私に近付けさせない

「それはレイくんの妄想だよ」

前はレイと同じ土俵で争っていたイングヴェィなのに、余裕の違いか落ち着いて対応している

「この前オレに好きってセリカが言ったんだ、オレとセリカは両想いなんだよ、わかったか?」

「レイの『音楽』がね、勝手に抜かないでね」

遅れてフェイが合流して軽く挨拶を交わす

レイはフェイとも最初絶望的に仲悪かったのに、今じゃスッカリお友達しててなんだかビックリだわ

フェイってセリくんのコトが好きだし、それを知ってるレイからすれば殺したい相手のハズなのに

意外すぎて本当に驚きよ

フェイは良くてイングヴェィはダメな違いは何なのかしら

レイはイングヴェィの歌声は認めてるから良いお友達にはなれそうなのに

「それにしても、お2人の雰囲気がいつもと異なるような…何か進展があったのでしょうか?」

鋭いフェイはイングヴェィと私を見て言うと、私達はお互いわかりやすく照れてしまう

「実は…さっきセリカちゃんに告白して、晴れて恋人同士に」

「それはイングヴェィさんの妄想だろう」

やられたらやり返すみたいな感じのレイはイングヴェィから言っても絶対に信じないか

ハッキリ言った方がレイのためだし、私のコトは諦めてもらいましょう

さすがにこれで諦めてくれるハズ

「妄想じゃないわ、本当のコトよ」

私が現実を突きつけるとレイは心臓を止めてぶっ倒れた

「文字通りの死ぬほどのショックを!?レイが息をしていません!!」

フェイがガチのレイを心配する

前もあったなこの展開、天使をセリくんと間違えて距離感間違えた時に抱き締めてベタベタ気持ち悪いって言われて死にかけたっけ

「まぁ大変、ゲストルームに運んで休ませて差し上げて」

「……セリなら膝枕してくれるのに…」

そうそう、あの時はそれで息吹き返したのよねって生きてるじゃん

「私はセリくんだけど、セリくんじゃないわ」

「和彦さんなら膝枕するのに…」

和彦は軽いセクハラはしてくるけど、ちゃんと弁えているし

レイはその辺わからないでしょ

冷たく突き放してわからせないとね

本気で泣いてるからちょっと可哀想だけど……って思うのがダメ!!

そうやってセリくんは流されてるわ

「……そっか、本当にセリカは…

でも、それでセリカが幸せになれるならオレは嬉しいよ」

自力で息を吹き返したレイは真面目に、ちゃんと私に向き合ってくれた

私は…幸運の中にいるのかもしれない

イングヴェィだけじゃなく、レイにも大切に想われて……贅沢だ

ちっとも慣れていない私には……恐ろしいほどの幸せだね

「レイ…ありがとう、ごめんね」

「オレは諦めないが」

でもやっぱりレイはレイだった

「いや諦めて、無理」

「それはセリカが決める事じゃない

いくらセリカがセリだとしても、君ならオレを見捨てる冷酷さだって持ち合わせているのに

セリカはオレを見捨てなかった

オレはセリカの事も好きだよ」

契約の時のコトか…見捨てられるワケないじゃん

セリくんの大切な人は私の大切な人には変わりないのだから

でも、好きになるかどうかは別の話

「イングヴェィさん、セリカと恋人になれたからって安心してたら奪いますよ

まだオレはあんたに負けたと思っていない」

「受けて立つよ」

ニコッと余裕のあるイングヴェィの笑みに負けじと爽やかな笑顔を返すレイ

そうこうしてるとレイとフェイが来たコトに気付いた天使が私達の前に舞い降りた

「みんなおはよう、レイとフェイ来るの早かったね

お土産買ってき」

レイは天使を見ると勢いよく両肩を掴んだ

「天使!?帰って来れたのかい!?あの性悪男が天使を素直に帰してくれるなんて」

「ん?誰のコト?帰って来るに決まってるじゃん

だってここは俺のもう1つの帰る場所だもん

セリカちゃんがいるから絶対帰ってくるの」

天使のあどけない笑顔にレイはパッと手を離す

「怖っ……」

恐れすぎじゃない!?天使なんもしてないのに!?笑顔振りまいただけだよ!?

「確かに怖いですね」

フェイまで!?

「レイの言う通り、子供の天使様を見た後にセリ様に手を出すと何か悪い事をしてるような気分になります」

「だろう?わかってくれるのはフェイだけだ」

うーん…まぁ言ってるコトはわからなくもないような…

セリくんは23歳の成人男性だけど、天使はそんなセリくんと姿形がソックリ瓜二つなのに中身は9歳の子供だもんね……2人からしたらその姿は複雑なんだろうな

それに天使じゃないのに天使と呼ばれるのは、天使のような真っ白な翼を持つからその姿も神聖な存在に見えるのもあるのかも

子供で天使でって絶対に手を出せない存在だもんね

その後、イングヴェィとレイは新曲の合わせとコンサートのコトで私達とは別行動になる

残ったフェイと天使と私は、天使がフェイの持つ弓を見てフェイの弓の腕が見たいって話になった

「フェイも弓使えるの!?スゴーイ!!俺は剣は何とか使えるけど、弓って超難しくない?

だって思ってたとこに飛ばないし、距離もそんなにだもん」

天使はこの世界とは違う魔法の使い方で戦うコトが多い、剣も勇者のセリくんがカッコいいからって少しだけ使えるように練習したみたい

「……何か調子狂いますね、照れます

セリ様に似ているので…」

本人じゃないと割と素直なフェイ、セリくんを目の前にすると小学生みたいな照れ隠しするんだから

「ねぇねぇ!あれやって!おやつに食べようと思ってたリンゴ持ってるからさ、リンゴ射抜くやつやってよ」

そう言って天使はリンゴを持ち数m離れて、伸ばした手にリンゴを乗せる

「天使、危ないわ

私がリンゴを持つから貸しなさい

万が一私に矢が当たっても回復魔法があるから」

「えー大丈夫だよ、俺人間じゃないから丈夫だもん

セリカちゃんは女の子だから危ないコトさせられないよ」

子供なのに女の子に危険なコトさせないって偉い子ね

「私から見ると、どちらでも手元が狂いそうなんですが……」

「じゃあ~投げたリンゴ射抜ける?」

「それなら簡単に」

フェイの言葉を聞いて天使は空高くリンゴを投げた

言った通りフェイは簡単にリンゴを射抜いて見せる

「わー!スゴーイ!!カッコいい!フェイ!凄い凄い!!」

天使は無邪気な笑顔で手を叩きながらその場で跳ねる

私は落ちてきたリンゴをキャッチして後でウサちゃんリンゴにしようと思った

「そ、そうですか……私なんてまだまだですよ

……それくらいセリ様にも褒められたい」

あのフェイが謙虚!?セリくん相手なら「これくらい当然です、セリ様には無理でしょうけれど」ってムカつく一言添えて言うのに!?

子供嫌いなフェイもセリくんにソックリだとこうなのか……

「本当にまだまだですよ

レイに比べると足元にも及びませんし、目に見えて私の矢は遅いです

これでは大悪魔シンを倒すのは厳しいでしょう」

そうね…フェイの腕もかなり凄いとは思うけど、レイの矢は光の速さで目に見えないほど

しかも超長距離からでも正確に百発百中

さらにさらに一度に無数の矢を降り注ぐコトも可能だもの

「大丈夫よフェイ、破魔の矢を扱えるほどの腕があれば後はシンの動きを封じるコトを考えればいいだけよ」

「はい私も同じ考えです、頑張りますセリカ様」

私が微笑むとフェイも微笑み返してくれる

フェイはセリくんと私とではまったく違う顔を見せる

私はセリくんなのだから、そのフェイの裏の顔は直接向けられるコトはなくてもよく知っているわ

だけど、フェイが私や天使と変わらない素直になればセリくんとは上手くいくと思うんだけどな

そうして天使がお昼寝の時間を迎え、フェイとお茶しながらお喋りして夕方になった頃

イングヴェィとレイが戻ってくる

「おつかれさま2人とも、どうだった?」

2人のお茶を出しながら聞くと、レイはムスッとして認めたくないが…認めるしかないって顔をする

「……オレは音楽には厳しいからイングヴェィさんにダメ出ししようとしたが、はじめての曲でも完璧…いやオレの想像を超えて歌いきって文句なしな所に文句があるぞ」

どうしてもイングヴェィを認めたくないレイは変な感情に縛られてるな…

それでも音楽にはウソを付かないレイはやっぱりイングヴェィを最高だと認める

「レイくんの曲はいつも素敵だから、それを壊すような歌い方はしたくないよ」

「あんたは歌の天才だよ!!!」

「レイくんも音楽の天才だよ、俺は作曲出来ないからね

しかも楽器の演奏はどれもパーフェクト」

「人間じゃないから息継ぎなしのムチャな曲でも歌いきる

どんな種族でも出せない高音の限界を超えてくるし、高音の方が得意でも低音もそれなりにいける

しかも声が綺麗すぎる、なんだその声、この世のものじゃない、聞いた事がない

イングヴェィさんの事は嫌いだが、その歌声を失ったらオレの音楽は半分死ぬと言ってもいいくらいの損失になるぞ」

セリくん至上主義でセリくんしか褒めたコトないレイが嫌いな人をこれでもかって褒めるなんて、どんな感情が渦巻いてるんだろうか…

「今回も素晴らしいコンサートになる自信がある

後は招待状を送るだけだな」

そう言ってレイとイングヴェィはたくさんの招待状に宛名と日時を書き始めた

場所などの内容はすでに書いてあるみたいで誰に送るかってところみたい

「私も書くの手伝うわ」

私とフェイも一緒にお手伝い

ふとレイの書いてる招待状を見ると香月に送るようで、今セリくんは香月の所にいるから一緒に名前を連ねる

そしてレイは本来の日付を書いた後に一瞬考えてペンで塗りつぶし上に明日の日を書いた

しれっと宛名書き終えた所に置いてるけど、そんなすぐに郵便届かないし明日とか絶対間に合わないから!?

すぐに会いたいんだろうけど、無理あるからね!?

「……絶対怒ってる………」

何か思い出したかのようにレイは頭を抱え落ち込んで後悔した

今にも泣きそう

そんなレイを見たフェイが声をかける

「怒っていませんよ、あの人細かいコトなんてすぐに忘れるでしょう」

フェイの字、はじめて見たけど綺麗ね~

「わかってないな、セリは根に持つタイプなんだぞ」

どっちも合ってる…内容によってどっちかよね

「久しぶりに会って冷たくされたら死ぬぞ」

「大袈裟な、そんな態度なさるようなら首締めてやれば反応しますよ」

そんなの誰だって反応するわ!!!

「あの細い首が折れたらどうするんだ」

「折れないようにしてください、下手くそ」

首締めるのに上手も下手もあるの!?

「はっ?あんたよくセリに怪我させてるだろ」

「それが私の趣味ですが?殺そうとしてた男が何を言いますか」

「オレはフェイと違って許されてるから」

「脅しでしょうが」

さっきからお互いの意見合ってないけど…なんでこの2人友達になれたんだ

しかも会話なんか怖いし、セリくんの周りヤバいのしかいないじゃん

「イングヴェィ、カニバくんに招待状を送る時にハンカチも一緒に送っていいかしら?」

この前ペットのイベントで私が持たせていたハンカチがタキヤの鼻水だらけになってカニバがごめんねってばっちいから捨てたから、新しいのを送ってあげたい

「いいよ、カーニバルくんもセリカちゃんのハンカチが届いたらとっても喜ぶだろうしね」

「でも、カニバ来てくれるかしらコンサート」

「タキヤは逆らえないみたいな様子だったからセリカちゃんに会いに来てくれるよ

カーニバルくんだってセリカちゃんが大好きで会いたいんだから」

イングヴェィの言葉に笑みが零れる

コンサートの招待なのに、イングヴェィはカニバは私に会いに来てくれるって言い方優しいな

イングヴェィと私が平和な空間であるのに対して、いつの間にかレイとフェイがヒートアップしていた

「おい、表出ろ」

「相手になりましょう」

2人がガタッと立ち上がった拍子にイングヴェィの紅茶が零れて、イングヴェィの服が汚れてしまった

「イングヴェィ!?大丈夫?熱くない?」

ハンカチを持って零れた部分に当てる

「平気だよ、もう冷めているから

温かいうちに飲みきっていなかった俺が悪かったね

せっかくセリカちゃんが淹れてくれた紅茶なのに」

「ううん、いつでも淹れ直すから謝らないで

それより服がシミになっちゃう、すぐにお洗濯しなきゃ」

「ありがとう、自分で出来るから大丈夫だよ

着替えてくるね」

そう言ってイングヴェィは笑顔で一度部屋を出る

イングヴェィがいなくなると、レイとフェイはハッとして私に謝った

「すまないセリカ!」

「申し訳ございません、セリカ様…」

「オマエ達…謝るのは私にじゃないでしょ」

「謝ろうと思ったらセリカに優しくされててムカついた」

正直!レイはいつも正直に歪んでる!!

「もう!なんで喧嘩なんてするの!悪い子達!!」

「セリカ様の怒り方がペットのウサギ達と同じなんですが……私達は一体……」

「聞いてくれセリカ!フェイがあまりに酷い事をセリにしているから」

「それはレイもじゃないですか、自分の事は棚上げですか」

うーん…オマエ達の喧嘩がセリくん絡みってのは聞く前からわかってたけど…

仲良いのも喧嘩も全部セリくんだもんね

セリくんめっちゃモテモテね、男から……

「オレとフェイとじゃやってる事は全然違うだろ!?」

「レイはセリ様の事になるとすぐ熱くなるんですから、落ち着いてください」

フェイは少し溶けた氷の入った冷たい水のコップを手にするとレイにぶっかけた

「………あんたの行動は火に油を注いでいるだけだ!!落ち着けるか!!」

同じコトをやり返そうとレイも自分のコップを掴んだが、ふと何かに気付いたのかチラッと私を見る

「雑巾ならそこにあるわ」

と私は指差した

「そうじゃなくて……このままだとオレは風邪を引くと思うんだ」

「雑巾はそこ、着替えは用意させるように言っておくわ」

「もっと優しくされたい……」

本当に正直なレイは血の涙を流す勢いだ

情けなくないんか…

「レイはよく耐えられますね…セリカ様にそな冷たくされたら私は数日寝込みますよ…」

「今息止まってる……」

もう…本当にレイはセリくんが好きすぎるんだから

本人がいないのにそのコトで喧嘩したり泣いたり、セリくんって愛されすぎ

仕方ないわね…

「すー……甘えんじゃねぇ!!!

優しくしたら優しくしたで調子乗るだろうが!!

俺のいない所で喧嘩ってアホか!?

レイはレイ、フェイはフェイだろ

まとめて受け入れてやるから、俺だけ見てろバカどもが

ったく、世話の焼ける奴らだな

まっ…嫌いじゃねぇけど」

仕草も込みでセリくんの言葉を伝えるとレイとフェイの表情が変わる

さっきの私は完全にセリくんに見えてるハズ

「落ち着いてきた……心が穏やかになったぞ

でも、セリにしてはカッコ良すぎるな」

「セリ様はここまで男前じゃないですからね

男前な所もたまにありますけど

私達の前ではもっと可愛いだけの生き物ですよね」

だーーー!?やりすぎたか!?

でも、そう思ってるよセリくん

だって私がセリくんだからね

この2人のコトだからまたどこかで小さな衝突はあるかもしれないけど、セリくんなら大丈夫な気がする

そうじゃなければ私の言葉でおさまらないもの

大変だけど、頑張ってね…男の自分



そうして日が過ぎていき、コンサート当日となった

今回のコンサートも大成功でみんなを感動させる

私もいつも涙が出るくらい2人の音楽が大好きだな

おつかれさま、イングヴェィとレイ

とても素敵だったよ

コンサートが終わった後、私はイングヴェィと待ち合わせしていた

少し遅い夜の時間、夜景の綺麗なバーで話をする

「明日セリくん達は死者の国に帰るみたいだけど、セリカちゃんはどうするの?」

コンサートの興奮をイングヴェィに伝えて語って、話が変わっていく中でそう聞かれる

改めて聞かれると、何も考えてなかったな

イングヴェィは一緒にいてほしいよね……

でも…私…今もだけど、イングヴェィと一緒にいると息苦しい……

なんでだろう…イングヴェィのコト…好きなのに、なんで一緒にいるとこんなに……心が苦しくなるのかしら

「私は……」

イングヴェィと離れたらどうなるんだろう…

息苦しいのはなくなるのかな

なくなるってコトは…楽になるってコト?

楽になったら………もうイングヴェィに会いたいと思わなくなるのかな

それって本当に好きなの?

イングヴェィのためにも私のためにも傍にいるのが1番良いって考えていたのに……

「大丈夫だよ、離れていても俺はセリカちゃんのコトが大好き

会いたい時はいつだって飛んで行くから」

「イングヴェィって空飛べた?」

「いや飛べないけど…それくらい早くセリカちゃんの所に会いに行くってコトだよ」

ふふふってイングヴェィは何もかも見透かしたかのように笑う

太陽みたいな笑顔、いつも安心する大好きな笑顔

「それじゃあ…セリくんと一緒に帰ってみるわ…」

ちゃんと自分の気持ちを確かめなくちゃ

こんなモヤモヤのままイングヴェィの傍にいたらイングヴェィも嫌だよね…

「寂しくなるね」

イングヴェィの手が私の手に触れて、やっぱりビクッて反応してしまう

優しいのに…どこまでも優しいのに

私は手を握ってくれるイングヴェィの手を握り返せなくて引っ込めてしまった

「……俺もセリカちゃんに会いたくなったら会いに行くね

って言ったら次の日にも会いに行っちゃうかも」

イングヴェィの大好きな笑顔が……辛い

私も、好きなのに…なんで手を握り返せないんだろう

私……ダメだ、ずっと…このままダメ?

イングヴェィはゆっくりでいいって優しいのに、私はいつも焦ってる

自分のダメさに……未来にすら自信がない

せっかく恋人同士に…なれたのに……


イングヴェィは私を部屋まで送ってくれて、オヤスミと頭を撫でてくれる

部屋に入って暫く1人で考えるけど、私はきっとわからないままだ

眠れないし……自分の部屋を抜け出してセリくんの部屋を訪ねる

「眠れないと思ったら、珍しくセリカの方が夜更かしか

いつもお肌のために早く寝るのって言うのに」

セリくんは自分が来るコトをわかって、飲み物を用意して待っていた

温かいミルクは落ち着くわね

「恋煩いじゃん!?」

「急にどうしたの?」

まだ何も話してないのに、セリくんが一大事だと声をあげる

「あのセリカがついにそこまで……ハレンチだ」

ハレンチの意味わかってんのかコイツ

「自分に相談するのが間違いだったかしら……」

「えっ!?ヤダ!して!!俺を頼って!!セリカにはじめて頼られるなんてめっちゃ嬉しい

セリカ可愛い、自分大好き」

調子に乗ってセリくんが抱きしめてキスしてくる

自分のコトは自分が1番わかってるからセリくんに聞きたかったのと、セリくんは私だけど私と違って恋愛の方は進んでるから

自分の恋愛ってこの先どんなのかってのを知りたいわ

まぁわざわざ聞かなくてもわかってるけど、気持ちのコトはわからないな…

「私、イングヴェィと一緒にいると息苦しいの」

病気かもしれないって深刻に話すと、反対にセリくんは明るく話す

「わかる!!それな!!俺も未だに香月といるとそれだもん

それが恋煩いってやつだぞ」

「何そのふわっとしたの」

「そういうもんだ、恋愛の感情なんて複雑すぎてふわっとした感じにしか言えねぇよ

とにかく、セリカの気持ちは自分である俺がよくわかってる

セリカはちゃんと恋してるよ、それが本気の恋だな」

「本当かしら?だって息苦しくてイングヴェィから離れて明日セリくん達と一緒に死者の国に帰るって言ったわ」

「セリカと一緒!?やったぜ、超嬉しい」

ベタベタ抱きしめてきて、だんだんウザくなってきた

私はセリくんだけど、私も自分大好きだけどここまでウザくないと思う…

男のセリくんから見たら女の自分はめちゃくちゃ可愛いみたいだ

男と女の目線の違いかしら、私はセリくん可愛いと思うけどそんなテンションにはならない

後カッコ良いとこもあるよね

男の自分好きよ、たまに男前なところもね

「暑いからそんなにくっつかないで」

「好きは暑いとか関係ないもん」

私はまだないけど…そうね、夏の暑い日でも好きな人と抱き合ったりするのは普通か

炎天下ではそんなないだろうけど、夏だからハグしないとかないわよね

「心配しなくても、すぐに会いたくなるよ

イングヴェィに

それが好きってコトだし、離れたら離れてたで会いたい気持ちが募るんだよ

そんで!それだけ寂しくなって会ったらもうめっちゃ好きってなってヤバいんだからな!!」

楽しそうに話すな~この人、本当に私?

「でも和彦にそんな感情ないわよね?恋人で好きなのに」

「あーあれはなんか最終形態、和彦とは長年連れ添った夫婦みたいな領域で赤ちゃんのセリカにわかるのはもっとずっと先だから気にすんな」

赤ちゃん認定腹立つな~自分が先に進んでるからって

「長年って…そんな気はするけど実際は和彦の恋人になってから1年か2年くらいじゃない」

「そうなんだけど、不思議とアイツとはそんな感じなんだよな

なんかずっと昔からの…中学の時に同級生だったからか?

でもその時はまったく関わりなかったし、再会してからの1年2年しかアイツとの歴史ないのにな

歴史で言ったら香月との方がずっと永遠のような時間で長いんだけどさ

不思議、そんな香月とは逆にずっと初恋みたいに緊張する」

セリくんの恋人の話をする表情はとても幸せそうだった

過去のトラウマなんてなかったかのような、それを消し去って塗り替えるほどの幸せを2人の恋人は満たしてくれてるんだろう

私が幸せにしてるの……いいな

私もいつかそんな笑顔になれるかな

「何も心配なんてねぇじゃん

正直、俺の恋人ってやべぇのか危ない奴しかいないけど

セリカの恋人のイングヴェィは完璧で次元が違う優しさがある!!

俺の恋人も完璧だが優しさが欠如してら、そこだけグラフへこんでてどうしたん?って羨ましいくらい

うーん……まぁちょっとヤンデレな気はあるけど、レイのメンヘラに比べたら可愛いやろ……」

確かに

「優しいよ…イングヴェィはとっても優しいの

だからめちゃくちゃ申し訳なくなるの…

手を繋ぐコトすら私はすぐに離してしまう

セリくんみたいにできない

過去のコトもあるだろうがそれ以上に…

こんなにも私はダメなのかって自分に絶望するの

いつか来る幸せに悩むなんて思ってもみなかった

普通に…当たり前のように恋人同士として振る舞えるなんて……現実は私を受け入れられない」

こんな話…誰にもできないわ、困らせるだけだし

私は私の過去を誰にも知られたくないもの

話せるのは自分だけ……私の過去を持つ自分だけよ

「……俺も同じだから、たまに怖くなる時はあるよ

セリカの気持ちは俺にしかわからない

でも、それ以上に俺はみんなのコトを信頼してる

いつかセリカもわかるよ、イングヴェィだから大丈夫って俺はもう信頼してる

俺はセリカだけど、俺とセリカは男と女で違う部分がある

女の子って心が大切、心で感じるって言うから、男の俺とは違う複雑な部分もあるんだろうな

ほら自分なのに私の女心がわからないのねっていつもセリカは俺に怒るじゃん

わかりたいけど、どうしてもわかんないや

それでも俺はセリカだから、セリカの絶望は俺だけがわかってる

大丈夫…イングヴェィを信じて、すぐには無理でも

頼っていいんだよ、遠慮しないで

セリカのコト大切にしてくれて理解してくれる人だから」

セリくんの言葉は私の言葉……

本当はちゃんとイングヴェィがどんな人か知ってるわかってる

でも、頼り方も甘え方もわからなくて知らない

セリくんみたいに……私はできない

「イングヴェィはセリカに合わせてくれるし気遣ってくれてマジ良い男すぎるぜ

俺の周りはそんな気遣ってくれないぞ!!

和彦なんて俺の気持ちなんて知らんってめちゃくちゃな奴だし

レイは史上最悪のメンヘラだし

フェイは寝取りフェチ

香月はその中では割とまともに見えるが、そうでもないし

まぁ俺にはそれくらいのヤバい連中じゃなきゃダメなんだろうな、なんやかんや大好きだもん

アイツらなりに俺のコト大切にしてくれてるし、大切にしてくれはするが気遣いなしで強引なのなんなんだ

……そこも嫌いじゃないけど…強引なのも」

しっかり調教されてんなぁ……

たぶんそれだと女の私でも同じように諦め入って開き直りそう…壊れた末みたいな

そりゃ小悪魔ビッチにもなるわ、いやならされたが正解か

イングヴェィは壊れかけの私を壊さないように大切にしてくれてるんだな

嬉しいかも……

「楽しそう」

「楽しくはねぇぞ!?むちゃくちゃするからなアイツら

それも……なんやかんや嫌じゃないけど

とにかくだ!!セリカは焦らなくていいんだよ」

「でも…男の人って……枕を交わしたいと思うんでしょ…

私、怖くてできないよ」

「まぁ……俺も男だから、恋人とエッチしたいと思う時あるし

でも、セリカと同じように怖いって気持ちもたまにあるし

イングヴェィだって男だから……まぁ……でも、イングヴェィは強引なコトはしないだろうし気は果てしなく長いだろ

セリカに合わせてくれるよ」

「うーん…」

「手を繋いだら、抱き締めてほしい、そしたらキスしてほしい…もっともっと触れてほしい

って、欲深くなっていくもんだ

まだ手もまともに繋いでいないのに先の心配しすぎ」

「セリくんそんな順序あった?」

「いやないけど?そんなんないけど!?

香月以外、全員無理矢理からはじまってるような気がする……

死ぬほど嫌いだったのに、なのに好きになる俺ってどっかおかしいのかな…」

大変そう…他人事のように思うけど、これ私なのよね……

でも楽しそう

「楽しいワケあるか!!」

セリくんが感じてるコトは私にも伝わるからね~、なんやかんや言っても強引なの好きじゃん

もう過去の影響でバグってるってコトかもしれないな

「セリカにはまだ早い!俺は許さないからな

セリカからそういう感覚伝わってきたら普通にショックかもしれん…」

自分に対して父親面してる

私はセリくんの感覚全部伝わってるのに、いつも大変大変

先の心配しすぎ…か、その言葉は納得かもしれない

私達はスタート地点に立ったばかり

それがゆっくり一歩ずつでも、立ち止まっても、イングヴェィは嫌な顔せず私の隣を歩いて時には引っ張ってくれる

「……そうね、セリくんの言う通り離れたらきっと会いたくなる

寂しくなって会えたら、素直になれるかも

私も頑張るね」

「えっ……セリカ可愛い」

「何回も聞いてるわ」

「いや、いつも可愛いけどさっきの笑顔ははじめて見た

イングヴェィに見せたら喜ぶよ

頑張れ、何かあったらいつでも俺がいるから」

セリくんの笑顔はとても心強い

私達は1人の自分として生まれてきて、でも身体は男と女に分かれた2人だ

それぞれの恋愛をして1つにならないように、これからも生きていく

セリくんがセリくんでよかった、私が私でよかった

そしてセリくんが私で、私がセリくんでよかった

運命を変えるために力を合わせて乗り越えられるから

「ところでイングヴェィに何か変化あったか?」

「ん?いつも通りだけど」

「そっかー、まだダメか」

「なんの話?」

「いやセリカは気にするな

イングヴェィを色仕掛けでメロメロにしてくれればいいだけ」

頭ナデナデされて誤魔化された…

よくわからないけど、私はまだ恋愛初心者!

イングヴェィと一緒に前に進めるように、もっと仲良くなれるように頑張らなきゃね

何度も自分に絶望するかもしれないけど、私は何度だって立ち上がるわ

私を愛してくれる人のために、その気持ちに応えるために

私も愛してるから……

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