178話『2人の禁句』セリ編

夜になると、香月とイングヴェィが戻ってきて合流する

セリカがカラオケ楽しかったと話すとイングヴェィはうんうんと優しく聞いてくれて、光の聖霊が思い出したように口を挟む

「そういえば、近々レイとイングヴェィでコンサートするのよね?

もう日程は決まったの?楽しみなんだけど~」

「帰ったら招待状を送る準備をするから、日程はその時にレイくんと決めるつもり」

会場はいつもイングヴェィの城にあるホールだからある程度好きな日を決めれるようだ

レイが新曲いくつか作ってて、その中でも最高の出来があるみたいだから楽しみにしててほしいとイングヴェィは笑う

レイの音楽はとろけるほど惚れてるけど、イングヴェィの歌声はこの世のものじゃない天上のもの

透き通る綺麗な心地良い声はもう人間じゃない(褒めてる)

その音楽の天才と歌の天才がタッグを組んだコンサートはいつも感動しかないのだ

俺もいつも楽しみなんだよな

「私は特等席にしてよね!レイがよく見える席よ!!」

光の聖霊達の話をなんのコトだろう?と見てる鬼神に説明する

定期的にイングヴェィとレイがコンサートを開いてるコトとかを

「鬼神が来てからはじめてだよな、和彦と一緒に招待されると思う」

「クラシックコンサートみたいなもん?

凄そうやけど、わしクラシックとか眠くなるタイプで大丈夫かな~」

起きてる自信がないって鬼神は不安になってる

「あの2人がいくら天才で凄くても、好みがあるやろうから寝てしまった時はしゃーないやろ

でも寝てられないくらい、あっと言う間に心を奪われて過ぎていくぞ?」

お子ちゃまの天使だって寝なかったくらいだ

「そんな凄いん!?楽しみやで!!」

軽く話した所でもう夜だからそれぞれ休むコトになる

明日の昼にはペットのイベントが開催されるみたいだから楽しみだな

ホテルまでみんなと一緒に、そこから部屋に分かれる時に光の聖霊に首を掴まれ廊下の隅に拉致られた

「な~んか仲良く友達になっちゃって」

「えっ?鬼神のコト?」

首が締まってるからと光の聖霊の腕を軽く叩くと緩めてくれる

この力の入りよう…釘刺しにきたのか?

「レイが激しい嫉妬で狂い死にそう」

それはありえそうだが…

「文句はねぇだろ、レイだって俺以外の友達作ってんじゃん

しかも、それまではずっと俺の味方だったのに向こうの肩持つコトもあるし……」

「わかる~いつだって好きな人の1番でいたいわよね

私にだけ優しくして!ってやつ」

「それな!!

レイが俺だけじゃないなら、俺だって他に友達作ったって悪くないだろ

それで怒ってくるなら俺だって怒る」

レイの性格からして鬼神のコトをよく思わないってわかるけど…

「あんたの中では最初は友達でも、レイと同じように鬼神の事を好きになって鬼神もあんたの事を好きになるんでしょ…?」

光の聖霊は怖すぎる顔で瞬きもせず俺に顔を近付けてくる

殺される………

「はっ!?ねぇよ!?鬼神をそういう風には見れねぇって」

「レイの事だって最初はそうだったじゃない」

レイは確かに最初は友達で、大親友になって、その関係は永遠に続くって信じてた…

でも…レイが実はずっと……何回か前の前世から俺を好きだって知って……言われて……

もう大親友じゃなくなった

「レイと鬼神は違うじゃん…

レイはずっと俺を好きでいてくれて、その愛は重すぎてメンヘラすぎて怖すぎて追い込まれて脅されて無理矢理……

好きになってくれなきゃセリを殺してオレも死ぬって言われたら…」

なんで俺、そんなレイのコト好きになったんだろ?

無理矢理犯されたコトもあったのに……

大悪魔シンの契約の影響みたいだけど、それも関係なく俺はレイを受け入れるって決めた

散々自分勝手に追い詰められたけど、それまでのレイはいつも俺を守って助けてくれた

優しかったし…その良いコトの方が悪い方を上回ってる

だから俺はレイが好きだ

「鬼神がレイみたいにメンヘラだったらどうするのよ」

「心配なのはわかるが、それはないだろ

例えあったとしても俺は流されないよ」

「流された結果、恋人が4人もいるあんたの言葉を誰が信じるのよ……」

「まだ2人だもん!!レイはいつかそうなるだろうけど、フェイは絶対ねぇから!!」

光の聖霊はレイが好きだったから、鬼神もそうなるんじゃないかって疑う気持ちはわかる

でも鬼神は恋愛対象は女だし、どんなに仲良くなっても俺とそういう関係になるのは絶対ないってわかるぞ

「ふぅうん…いいわ、あんたには釘刺せたし」

光の聖霊は話せばわかってくれる良い奴…でも、視線は冷たく厳しい……

ふと光の聖霊の髪を見ると鬼神から貰ったかんざしを挿していた

「センス絶望的と思ってたけど実際に挿すと似合ってるな、それ可愛いじゃん」

俺が正直に言うと光の聖霊は照れてしまった

「私が可愛いんだから似合うのは当たり前でしょ

でも、かんざしってはじめてでこれで合ってるかどうか自信ないわ」

「うん挿し方間違ってる、かんざしならセリカも挿し方知ってるから明日聞いてみたら良いよ

プレゼントした鬼神も挿してくれてるの見たら嬉しいだろうし」

鬼神が嬉しいって聞くと光の聖霊はさらに可愛く照れながらも笑った

いつも生意気だけど、好きな人のコトならこんなに可愛い顔も出来るのか

女の子って可愛い生き物だよな

気分良くした光の聖霊は俺を解放してくれた



そんなこんなで次の日、ペットのイベントが盛大に開催されて俺達は目一杯楽しむコトにした

まずはふれあいコーナー

人間の姿だから香月も一緒で大丈夫かなって思ったら、やっぱり動物は香月を恐がってしまった

それに気付いた香月は外で待ってると言ってくれて俺は申し訳なくて一緒にいると言ったが、俺がこのイベントを楽しみにしていたのを知ってるから香月は気を使ってくれる

わかった…イベントは全力で楽しんで、その後は香月とずっと一緒にいる

最初からその予定だったし、いっぱい香月に甘えよっと

「ハムスター可愛い、デグー可愛い、リス可愛い、みんな可愛い」

小動物コーナーは可愛い生き物しかいない、動物はみんな可愛い

この世界はウサギが超珍しい動物みたいだから、こういう所にいないのは変な感じだけど

あ~癒やされる~癒やしの時間

って、この世界って動物は結構身近な存在かも

おやつあげたり、ナデナデしたり、有意義な時間だ

その後も昆虫や魚や爬虫類や鳥のコーナーなど回って、色々と買い物も済ませる

そして楽しみにしていたおやつ詰め放題コーナー!!

鬼神達にウサギが食べれるものとアイツらの好物を伝えて、俺も詰め放題に集中する

「うーん…もっと入るかな」

工夫しながら詰めているとリンゴが目に入る

そうそう野菜ばっかじゃなく

「リンゴはパレが大好きだろ、リズムはなんでも好きだし、カニバは…」

とアイツらの好きなフルーツも忘れないように詰めて帰らないとな

フルーツコーナーを進んでいくとイチゴが見えてくる

色んな種類があるな、どれが良いだろうかって悩んでいると人にぶつかった

「あっすみませ…」「申し訳…」

視線を向けると、まさかのタキヤと偶然遭遇する

反射的に攻撃的なタキヤに俺も対抗するとカニバが現れて一悶着だ……


それから数時間が経ち1日目のペットのイベントが終わり、疲れた俺は香月と一緒にホテルの部屋に帰ってきていた

まさかこんな場所でカニバとタキヤに会うとはな…

カニバはもう何にも縛られていないのに、セリカと一緒に帰るコトより自らの意志でタキヤと一緒に帰るコトを決めた

カニバの決めたコトに反対はできなかった…

俺とセリカを守るためにまだ帰れない、って言われたら…

やっぱり心配だけど、心配よりカニバを一人前と認めて信頼するコトがカニバの為だと自分に言い聞かせる

それに、その気持ちが嬉しかった

俺が思っていたよりカニバはしっかりしてて立派だった

タキヤはカニバには酷いコトしない様子だし、カニバならタキヤを変えられるのかもしれない

それでも俺は色々とタキヤを許せねぇけど

「あ~今日はなんか色々と疲れた…!」

人目がないと気が緩むのか、部屋に入った瞬間リラックスできるな

「でも、カニバとも会えたし楽しかったし」

ふわふわの可愛い動物達との触れ合いもあって癒やしの一時だった

アイツらのおやつやおもちゃや牧草もたくさん買ってやれたもん

「それに香月とこうして一緒にいられるようになれて」

ソファに座る香月の隣に座って甘えるようにして肩にもたれかかる

「嬉しい」

そんな俺の頭を香月は優しく撫でてくれた

香月はそんなに口数が多い方じゃないけど、ちゃんと俺の話を聞いてくれて相槌を打つ

だからついついお喋りになる

……香月の隣にいるだけで幸せだな…

少し前までは香月のコト殺さなきゃ解決できないって思ってたけど、人間の姿で会えるなら今のところはそれでいいのかな…

香月ならなんとかしてくれそうな感じはする、頼りにしてるから

「……なんかさ、偽勇者がいるって気付いた時に色んな不安や心配があった

結局それはカニバのコトで取り越し苦労だったワケだけど

香月が倒されるんじゃないかとか

でも…1番不安だったのは

俺じゃない他の勇者に香月を取られるんじゃないかって

香月が俺以外の勇者を好きになるかもって」

偽勇者を知った最初の不安だった時のコトを思い出す

「セリは私が魔王でなければ好きじゃなくなり、他の魔王が現れたら好きになりますか?」

当たり前のコトを言われて、不安になるってなんてバカな考えに至るんだろうと自分が情けなくなる

そんなコトないのは最初からわかってるのに

「そんなコトない!香月が魔王じゃなくても……

他の奴が魔王は…嫌……」

わかっているハズでも、最初のコトに気付いてしまった

香月と俺は魔王と勇者だから出逢うコトができた

香月が魔王じゃなかったら、俺が勇者じゃなかったら、出逢うコトはなかったのかもしれない

きっと他の人じゃダメだとしても、好きにならなくても

香月との出逢いがそれだと言うなら、俺達は魔王と勇者の関係はそれがなくなれば巡り会うコトもないんだ…

「心配しなくても、もう出逢ってしまったので

何度も見つけ出して離しませんから

その力を失う事があっても」

そうだな…何バカな考えしてんだろ

もう出逢った後だもん

また生まれ変わって、万が一俺に勇者の力がなくなってしまっても

えっ…でも、姿形まで変わって誰?みたいな感じになっても……?大丈夫かな…

ダメダメ!!そんな誰にもわからない未来の心配しても、しんどいだけじゃん

ちょっと……やっぱり俺、和彦に言われたように疲れてるのかな…

「…もし、俺が死んでもまた生まれ変わる次も…愛してくれる?」

死を間近に予感して……弱ってるのか

「死なせない」

「俺だって死にたくない

でも、もし…

だから安心したい

それだけで次の運命も乗り越えられるから

もう二度と…辛い目には遭いたくない……

無理なのかな、俺の運命は変わらないのかな…」

難しい答えにくい話してる…ダメだ、こんなの

俺は香月から離れて大丈夫だって笑う

「ちょっと疲れてるのかも、風呂入ってスッキリしてくるよ」

自分の不安も怖さも笑ってごまかして……辛いって言えばいいのに

1人で抱え込むなって言われても、でも……俺は誰かの重荷になりたくない…

香月に背を向けると、その手を掴まれてそのまま引っ張られ抱き締められる

「セリが何度生まれ変わっても、私の気持ちは変わりません

心配しなくても、次もその次も永遠に愛してあげます」

「……香月…」

「しかし、そんな当たり前の事より」

そんな当たり前のコトが1番安心するんだよ

わかってるのに、ずっとそうだったコトを知ってるのに

いくつもの前世、出逢う前に俺が死んでしまうコトもあるけど

出逢ったら必ず恋人同士になる

そりゃ最初の最初から何回かは敵同士だったけど

いつの間にか繰り返す運命の時間が進んで少しずつ惹かれ合って…

まぁ俺は生まれ変わる度に記憶がリセットされるから、香月かな…香月が俺を少しずつ気になってくれて関係が変わるきっかけを作ってくれた

記憶がリセットされても、俺も無意識の中には香月のコトは意識してたようにも思う

じゃなきゃ……敵であるはじめて会ったハズの人に、助けてほしいなんて…言葉出ないよ…

あの時は自分でもなんでそんな言葉が出たのかビックリだ

でも、それでよかったんだ

香月のコト好きになって…愛されて…幸せだから

「当たり前のコトが嬉しいんだよ」

仕方ないんだって、心のどこかで諦めさえ感じはじめていたのかもしれない

それが今の自分の弱さになっているコトにも気付かないのは俺だけで

俺を見てる周りの人達からすれば、誰1人と諦めていない

「私はセリを苦しめる運命を変えたい」

自分のコトなのに誰より驚いてるのは俺だ

それだけ俺は…自分が思うより、ずっと強く深く想われている

わかってるつもりだったのに…わかってなかった

死にたくない、きっと今回はいつもとは違うって自分で言ってたくせに

もうどうしようもないんだ、仕方のないコトなんだって諦めていたのは俺だけ

あんなに小さなカニバでさえ…俺を助けたいって頑張ってるのに

俺が自分を弱らせたらダメじゃん

「私でも和彦でも、変えられないとしたら」

香月の言葉で、なんとなく運命の欠片に気付いてしまう

俺と関わったら、俺の運命が俺を殺すコトになった

レイも和彦も…

それが逃れられないなら、俺は違う視点に気付くべきだった

俺であり俺ではないもう1人の自分

セリカの運命は俺と同じなのに、唯一違うところがある

それが香月の存在があったかどうか

そして、俺はレイと和彦を巻き込んでしまったが

それも香月と同じ存在だとするなら何も変わらない

つまり俺の運命は何も変わっていないんだ

変わったように見えていただけで、それは大きなコトでもなく同じコト

だが、セリカの運命は天涯孤独

その運命に介入したのは…

「「イングヴェィ」」

香月と俺は同時に名前を口にする

「そうだよ、そうだよな、イングヴェィの存在自体がおかしかったんだ」

悪い意味じゃない、最高に良い意味でしかない

イングヴェィはセリカと出逢うコトは運命だって言ってた

それは変だ、俺達は似たような運命を繰り返す存在のハズ

そんな繰り返しにはない存在がいきなり現れるなんて…

運命が…変わるコトが…運命なのか……?

「イングヴェィの能力は想像した事が現実になるものです

今はその力を失っているようで、取り戻す方法もわからないと言っていました」

言ってた?もしかして先に気付いた香月は俺達がカラオケでバカみたいに騒いでた時にイングヴェィと色々話してくれたのか

「イングヴェィとその能力があれば、変えられるかもしれません」

「おぉ!!なんか希望見えてきた!!

でも、力を取り戻すならどうしたらいいんだろ?」

「本人にも心当たりはないとの事」

うーん…イングヴェィがどんな人物か、思い出してみるか

確か500年以上生きてたハズの、伝説上の存在

年上のように感じるけど俺達の運命の繰り返しに比べるとそんなに長生きとも思えない

セリカと出逢った瞬間に、自分の運命が動き出したなんて大袈裟に言っていたが

案外大袈裟じゃないと思ったのが

セリカに愛されないと生きていけないを体現した時期があった

とにかくセリカ中心で、セリカのためならなんでもするし守って助けて救うセリカ至上主義な男

………愛が重すぎて恐いな

ハッキリ言って、セリカを絡めないと語れないくらいに

「もうセリカのコトが好きすぎるんだから、あの2人がくっついたら喜びのあまり力取り戻すんじゃね?知らんけど」

イングヴェィがどんな奴か思い出してもセリカが好きすぎってコトしかなくてアハハって笑ってしまう

後は歌の天才なところと超絶美形で良い匂いがする

性格も明るくて元気でとっても優しい

「………いや笑えよ!?俺だけ滑ったみたいじゃん!?」

いや香月はどんな面白いコト言っても笑ったりしねぇけどさ

そんな真剣な顔されたら…

「それ、あり得るかもしれませんね」

「えっ…えぇ!?イングヴェィってそんな単純なのか!?」

「イングヴェィははじめて出逢った前世のセリカと恋人同士にはなっていなかったはず」

昔のイングヴェィは若かったのか未熟だったのか一方的に自分の気持ちを押し付けて恋人同士ね!!ってタイプで言ってたけど

セリカはそう思っていない、まんざらでもないけど

もちろん、その…あの…エッ…いや、枕を交わした…から恋人とかじゃなくて……

セリカのコトになると、なんかそういうコト言えない…言いにくいな

あの2人がそこまで進んでないのはわかってるが、そういう目に見えての話じゃなくて気持ちの問題だ

セリカもイングヴェィのコトが好きで2人は両思いなんだが……

セリカは、自分で言うのもなんだが…恋人になるってのは無理かもしれない

「恋人同士になったら…イングヴェィに変化があるかもしれないってコトか……

でも、それはかなり難しい問題だぜ

セリカは俺だけど、俺は男でセリカは女だ

男の俺だって気にしてないワケじゃないが、女のセリカは俺が思うより深い闇ってワケ」

それだけじゃない、セリカには香月の存在がいなかった

支えて貰えるコトも愛されるコトも幸せも知らない

それがどれだけ臆病に恐怖が根強いか……

セリカには幸せになってもらわなきゃ、俺も幸せじゃないから

「イングヴェィならいつかセリカの心を開くでしょう

後は…間に合うかどうか…」

自分ではどうしようもない歯がゆさに香月は目を伏せる

俺はさ…香月が心配してくれるだけで嬉しいよ

もし今回無理でも、また生まれ変わるんだし…いつかは救われるかもって可能性が見えただけで俺は十分

「大丈夫、イングヴェィはいつも助けてくれるもん」

俺の言葉に香月はわかってくれる

「さっ今日はもう休みたいし、お風呂入ろ」

お風呂入る準備をして香月に聞く

「私は後にします」

「一緒に入らないの?」

そう聞くと香月の手が頬に触れて、ドキッと心が跳ねると熱を上げて身体も固まる

あれ…?さっきまで普通に振る舞えてたのに……

香月に触れられると…緊張する

「休めなくてもいいのなら」

「えっ…えぇ…?それって……」

そういうコト………だよな

いつも、いつも、一瞬で余裕がなくなる

「わ、わかった、じゃあ1人で入るから」

香月が好きすぎて、その気持ちに押しつぶされてしまいそうで逃げてしまう

「残念です、また逃げられて」

俺が香月から離れると、そんなコト言う

「だ、だって……」

恥ずかしくて死にそうになるから、本当に…いつまで経っても慣れない

いつまでも香月は初恋、その火は少しも小さくならない…大きくなるコトはあっても

「だって?」

香月に肩を掴まれ顔を覗き込まれる

ますます顔の熱が上がるだけだ

この気持ちから逃げ出したいのは、それだけ強い想いと俺が臆病なだけ…

だって~~~!!!!!

さっきの一緒に入らないの?って普通に言ってた俺はどこ行った!?むしろあの言葉さえなければこんなコトには…

一緒にお風呂入るのが習慣すぎて香月にも当たり前のように言っちゃってたけど、よく考えたら香月と一緒にお風呂なんて恥ずかしすぎ

慣れすぎてて忘れてたぞ…それに香月とだってはじめてなワケじゃないのに、この異常な緊張と恥ずかしい気持ちはどう克服したらいいんだ…

香月だけは慣れないんだぞ!?

「……だって…」

言葉が出なくなる

好きだから?恥ずかしいから?どっちもあって、嫌なワケじゃない

香月ならいつでもオッケーだし…

言葉を選んでいると、香月の顔が近付いてきて恥ずかしい気持ちを押さえ込みながら覚悟を決めて目を閉じる

香月の唇が触れるだけでもう倒れそう

大袈裟なくらい俺だけがいっぱいいっぱいなんじゃないか

「…今日はこれで」

「……香月…」

キスだけでクラクラする

香月にもたれかかって、その温かさを感じ愛おしくなる

暫く香月と一緒にいるから、いつかはってのはわかってる

その時までに心の準備しておこう

っていつもそんなもの吹き飛ぶけど、でも逃げたくないから

っていつも逃げたくなるくせに、どうしたらいいんだ!?



そんな夜が過ぎて、目が覚めると窓から入る光が眩しい

香月はいつも俺より先に起きてる

と言っても人間じゃない香月はほとんど眠らない

魔族の睡眠は個々違って、人間と同じように夜になったら寝る人もいればまったく寝ない人もいる

朝や昼に寝る人もいるぞ

香月はほんの少しだけのようだ、それも毎日ではない

いつも俺の隣で横になってくれるけど、目を閉じてるだけで寝てはいない

それって俺のマヌケな寝言とか全部聞かれてるってコトになるんじゃ……寝てる時の俺は変なコト口走ってねぇだろうな

って思って聞いたコトがある

ごくまれに寝言はあるが、いつも死んだように寝てる

らしい

こわ!?俺怖い

寝言と言えば、レイもそんなにないかな

たまにメンヘラっぽいコト言ってて怖い時あるけど

和彦は寝言と言うよりは寝ぼけてセクハラしてくる時あるから、腹パンしたらおとなしくなる

セリカは神経質すぎて女子達でお泊まり会しようってなっても断っている

同じ部屋に他人がいると眠れないらしい

俺も神経質なんだけど、もう慣れだよなそこは

帰る準備をして、街を出る前にセリカ達に声かけとくか

香月と一緒にホテルを出ると鬼神の姿があった

「おっセリ様、待っとったで」

「おはよ鬼神、楊蝉と光の聖霊は?」

「2人はまだ寝とるみたいやで」

ちょっと朝早すぎたか、2人に声かけられないまま行くコトになりそうだ

まっいつでも会えるしいいか

鬼神は何日か連続で起きてて、その後に連続で何日も寝るって感じだったな

「セリ様もう行くんやろ、お見送りしよ思てな

和彦様ははよセリ様に帰って来てほしいみたいやけど」

「ん?」

鬼神の表情が心配や不穏に変わる

「…暫くは帰らん方がええと思うねん」

「えっ?」

鬼神は和彦を慕っていて絶対的な味方だ

和彦が早く帰って来てほしいならその反対のコトを言うのはどうしてだ

「あの大空の神と大地の女神…わしら鬼神を封印した神族数人のうちに入る事は和彦様もセリ様も知ってるやろうけど

その2人がどれだけ危険な奴らかまでは知らんやろ

和彦様は任せておけって言ってたし、和彦様なら大丈夫やってわかってても

嫌な予感がすんねん、セリ様もセリカ様も何かされるかもしれん

和彦様が止めへんかったら始末すんのに」

何か……もうされかけたな、大空の神の天空には

大地の女神いろはにも面と向かって気に入らないと言われてるし

鬼神は自分達が封印されたコトを許してはいない

和彦が神族になってしまったから、そのコトは抑え込んでいるだけだ

和彦のために…

和彦だって、天空といろはのコトは信用していない

とくに天空は追い出したような形だ

「心配してくれてありがとう鬼神

和彦は俺のコトだけじゃなくて、鬼神のコトもしっかり考えてるんだなってわかったよ」

天空が俺をベタベタ触ってるのに、和彦なら触る前に止めるコトができたのにそれをしなかった

それは下手な対応をすれば鬼神がまた封印されるかもしれないと心配してのコト

ギリギリまで我慢したよ、アイツにしては

あの時はなんですぐに助けてくれないんだよって思ったけどさ

やっぱり和彦って良い男だよな

「和彦が任せておけって言うなら任せるし、早く帰って来いって言うなら早く帰る

鬼神の心配は嬉しいけど、俺は和彦が守ってくれるって信じてるぞ」

「セリ様……さすが和彦様の恋人は強いわ」

鬼神は心配だけど仕方ないなって苦笑する

「早く帰るっていつ頃になんの?和彦様に言うとく」

うーん……香月をチラッと見る

「早くっていつ頃だと思う?」

「1年くらいですかね」

香月~それってヤキモチ!?ねぇヤキモチ!?ヤキモチなの!?

1年は長いって思ったけど、香月の時間で考えると本当に早いのかもしれない…

1年なんて和彦我慢できないぞ?

「1年ならめっちゃ早いっすね!和彦様もそんな早いなら文句ないでしょうね!!」

あっ鬼神も鬼神の時間で考えて普通に受け取ってる

これ和彦に怒られるやつやぞ……

人間の感覚がわからない2人に聞くコトじゃなかった

「待て待て、人間からすると1年は長すぎるんだよ

そうなるといつ帰るのがいいのかなってなるじゃん」

香月にとって短いならもっと一緒にいてやりたいし、和彦が長いって言うなら早く帰ってやりたいし

どうしようかな…

「暫く和彦といたから、その分同じくらい香月と一緒にいたい

その後に帰るよ」

平等に愛するって決めたし、愛情だけじゃなくて時間も同じくらいじゃないとな

「了解!」

そんな話の中へ、セリカがイングヴェィと一緒に合流する

鬼神はセリカが来た瞬間、デレデレしてる

「セリカ様!おはようございます!!」

「おはよう鬼神」

セリカがニッコリ微笑むだけで心臓止まった

「おはよう3人とも」

イングヴェィの笑顔が俺の胸を温かく締め付けた

この気持ち…確実にセリカはイングヴェィのコトが好きだ

俺とセリカは同じ自分、身体も心も同じで繋がってるからわかる

でも、2人がちゃんとくっついてくれないと運命は変わらないかもしれないって昨日の話からすると……心配だ……

セリカはセリカで問題しかないが、イングヴェィはイングヴェィで恋愛初心者生まれたての赤子だ

……無理じゃん!?無理だよ!?いきなりくっつけなんて早すぎる!?

俺だって香月が初恋だったからよくわかる

そんなすぐ付き合うとかないから!!何回か生まれ変わり繰り返してからそういう関係に少しずつなっていったようなもんだし

……いや、和彦とはすぐだったか…

それにしてもセリカには早い、早すぎる

俺とは経験値の差がかけ離れてるもん

まともに恋愛したコトないのに

「ちょっとセリカ」

他のみんなから離れた場所に移動してちょいちょいとセリカを手招きする

「どうしたのセリくん?」

ここは俺がしっかり教えてやらないと

「イングヴェィはセリカのコト好きだよ」

「えっ……」

そんなコト知ってると言わんばかりの表情に加えて顔が赤くなる

「でも、イングヴェィが手を出さないのはセリカに魅力がないからとかじゃなくて

はじめてだからヘタレてるだけで」

「ん?」

セリカの目が笑ってない…って言うか殺すぞって目から殺意が伝わる…!?自分なのに!?

「ちがっ!?そんなつもりじゃなくて!?

だって両想いなのに恋人にもなってないなんて変じゃん!?

お互い好きなのに…もっと触れたいとか…思うじゃん……」

そりゃ一緒にいられるだけで幸せだよ?でも欲張りになっちゃうんだよ…好きだから……

手を繋ぎたい…抱き締めてほしい…もっと…近付きたいって……

セリカは俺なのに…その辺がよく見えない

「………言われなくても、わかってるわ…

でも…私には………」

俺がセリカの運命で生きていたら…今の俺はいなかった

セリカが俺の運命で生きていたら……

微かな違いの運命が自分を大きく変える

その微かな違いで出来た自分は、俺にはわからなかった

なんとなくでしか…自分を理解出来ない



セリカ達と分かれて香月と一緒に俺は香月の城へと帰ってきた

暫くはここで暮らすコトになるが、着いた時にはもう夜も遅かったから寝るしかない

結局セリカはあの後何も言ってくれなくて、それがずっとモヤモヤしている

モヤモヤ……?本当は俺はわかってるハズだ

でも…セリカが口にしたくないのと一緒で…

「眠れませんか?」

ベットに入ってるのになかなか眠れない俺に香月は聞く

「……うーん…いっぱい歩いたから疲れたハズなのに、何か眠れないや」

「明日のセリは予定もないですから、眠れる時に眠ると良いでしょう」

…予定はないが……キルラ辺りがなんかやらかしてそうでゆっくり寝れなさそう……

いつも俺がここに来ると何かしらトラブルが起こってるもんな

なるべく早く寝とこう

俺は香月にくっついてその温かさに少し心が落ち着く

そのまま目を閉じているといつの間にか意識がなくなる

浅い眠りに見る悪夢は耐えられるものもあれば、耐え難い過去の記憶が悪夢に変わって襲ってくるコトもある

もう過ぎたコトなのに、いつまで経っても今を生きる自分をいつまでも苦しめる

心がすり減って…いつまで、いつまで…もう逃れられないのか

もう昔のコトなのに……

「……はっ」

ハッと息を吹き返すように悪夢から目が覚める

心臓がバクバクしてる…夢なのに、現実じゃないのに

悪夢は生々しく現実と同じような感覚を味あわせてくる…痛みすらも

何度苦しめば、これから解放されるのだろう……

また…眠れなくなった

「セリ…?」

俺が起きたコトに気付いた香月が手を伸ばして触れられる直前でその手を払ってしまう

「あっ……」

わかってる…自分が……もうダメなんだってコト…無理なんだってコト……

好きなのに……怖い……

「ごめん…香月」

すぐに俺は自分を取り戻すと、香月の手を掴んで自分の頬に持っていく

俺は…ちゃんとこの愛しい人の手を掴むコトが出来る

触れてもらえる幸せも、愛される幸せも、怖くないって知ってる

ちゃんと違うんだって、わかってるのに

自分の身体はそれを受け入れられない

自分が幸せじゃなきゃ、俺は本当の幸せにはなれない

だから……愛しい人、どうか自分を救ってほしい

その愛でしか、きっと救われないから

「香月…また怖い夢見ちゃった

でも大丈夫、俺は香月が隣にいてくれるから」

きっともう永遠に逃れられはしない

それでも俺は大丈夫……傍にいて愛してくれる人がいるだけで救われるんだって知ってるからね



次の日、香月が傍にいてくれたからなのか寝起きは悪くなかった

怖い夢も嫌な夢も、所詮は夢、忘れていくものだ

なるべく考えないようにしたい

昼頃に香月は少し用事があって夜には帰ると言って出掛けてしまった

1人になって暇だな…と思いながらなんとなく庭園へやってくると

あれ?こんなにめっちゃ綺麗だったっけ…?って前と違うコトに気付く

前もそれなりには綺麗にしてたしお花もたくさん咲いてたけど、なんか…凄い…

プロが作り上げたようなセンスの塊の庭園

ふと庭園の端の方の花壇に花の苗をせっせと植えている植物モンスターに気付く

「あっオマエ達!?……魔王城でバイトか?」

植物モンスターは何度か香月不在の時を狙ってこの土地を襲って魔族とは仲が悪かったが、俺の一言で和解?したようになって敵じゃなくなったって所までは知ってるな

この素晴らしい庭園を作り上げたのは植物モンスター達ってコトなのか

スゲーな、セリカが好きそうな洋風の庭園

めっちゃオシャレじゃん

「ムッ勇者カ、コレハ我ラガ勝手ニヤッテイル事」

「元カラソコソコ綺麗ナ庭園ダッタガ、我ラノ手ニカカレバコウヨ」

「凄イダロウ!!」

うん凄い……けど、無許可!?!?!?

植物モンスター達が無許可で勝手に魔王城の庭園作ってるって……そういう意味でもスゲーぞ

でも、香月ってそういうの気にしないよな

魔族以外の種族が出入りするコトに何も言わないし何もしない

天狐の楊蝉(今は死者の国にいるが)や白虎のラスティンが普通にここに住み着いてもとくに何も言わなかった

香月には絶対の強さがあるから、とくに悪さをしない奴は放置なのかも

魔族の中にも庭園を愛でる人達もいるし、他の魔族達もとくに何も問題ないとしてるんだろう

「うんうん凄い凄い、ありがとう」

花の香りがふんわり上品に漂う

その香りで思い出した

「あっそうだ、セリカがバラがうまく育たないって困ってて見てやってくれないか?」

死者の国で育ててるから出入りには和彦の許可取らなきゃいけないけど、たぶん和彦なら良いって言ってくれるだろうし

ってコトで相談してみた

「強香ノ薔薇ハ難シイ、ソレニ死者ノ国ノ土地ハ植物ニハ良クナイ

植物モンスターノ名ニカケテ立派ニ育テテミセル」

「任セヨ」

「凄イ庭園モ作ッテヤル」

めっちゃ庭園作りたがるな

でも、和彦が良いって言ってくれたら喜ぶ人達も多そうだ

美樹先生もローズも、緑が少ない、花が咲いてもすぐ枯れるって言ってたな

セリカも花が大好きだし、俺も好き

芸術的で素晴らしい庭園の花を眺めていると正面からドカドカ踏み荒らして入って来る見るからに危険な奴らがやってきた

「プギーー!!」「プキャーーー!!」

植物モンスター達は無惨に花を踏み荒らされ怒って立ち向かうが払いのけられて倒れるくらい弱かった(死んではいない)

「おい、そこは通り道じゃないぞ」

わざわざ歩きにくい花壇の花を踏み荒らすなんて

「おおぉいいい!!!!」

注意しに近付くと1人が俺の腕を掴んで凄む

「人間臭ぇんだよぉ!!殺すぞぉ!!!」

コイツら全員魔族でもそんなにレベルは高くない、俺が殺されるワケないだろ返り討ちにしてやる

言い返そうと口を開き掛けた所で異変に気付いたポップがやって来て間に入ってくれる

「君たちぃ落ち着いてねぇ~!殺されるのは君たちの方だからね~」

やれやれとしながらもポップはいつもみたいにケラケラ笑う

「あぁん!?人間庇う気かぁポップ!?」

「ポップが庇ってるのは君たちだよ、勇者相手に返り討ちに遭うのは同族として可哀想って思っただーけ」

俺が勇者って聞いてちょっとざわつく

でも引かない魔族達にポップは笑ってさらに睨みを付ける

「ポップ1人相手でも君たちじゃ歯が立たないんじゃない?君たちのボスはいないようだし、大人しく回れ右しなよぉ?」

「ちぃっ」

言葉が出ない変わりにツバ吐き捨てていきやがった

勇者の俺とポップの2人を相手にしたら確実に殺されるってコトくらいは理解できたようで帰ってくれる

植物モンスター達は奴らがいなくなってから花壇のお花達を復活させた

「なんなんだアイツらは」

俺が聞くとポップはふーっと溜め息をつく

「魔族のならず者だよ~、つまり香月様に逆らう愚か者の集まりだねぇ~

昔っからいるんだよね~、香月様とセリがくっついちゃった頃から」

「まぁ俺をよく思わない魔族がいるコトくらいはなんとなくわかっていたが」

前にいたナナシもそうだったよな

よく思わない魔族も、友好的な魔族も、様々だ

「セリが勇者なのはそんなに関係なくてぇ

魔族の中には他種族が嫌いな人も多いから、その中でも人間嫌いは少なくないかなぁ

ポップはそういうの気にしないけどぉ、キルラなんて人間の女しか興味ないしねぇ」

友好的な魔族はポップやキルラだ

…本当に友好的かどうかは怪しいが…キルラなんてよく喧嘩ふっかけてくるもん

「ポップも結構他種族見下してたりしてねぇか…たまに酷いコトしてるだろ……」

「ポップの趣味だもん~いいじゃんねー」

「いいワケあるか、二度とするな

自分がされて嫌はコトはするんじゃねぇ」

「聞こえなーい!!」

いつもおちゃらけているが一応聞いてはいるみたいだ

俺の目に付く所ではそういうのを見せなくなった

ポップからすれば邪魔されるとわかっているからな

「とにかく香月様が人間のセリと仲良いのが気に入らないんだよぉ

相手は魔族だし、セリなら心配ないかもだけどぉ

向こうのボスは面倒な奴だから気を付けてねぇ」

「香月より強い奴でもない限り負ける気はしないが、気を付けるよ」

ポップの言う面倒なってとこが気になるが…相手の姿も知らねぇし、向こうが何かして来るってんならその時に受けて立つ

「ところで、こういう揉め事に敏感で喧嘩煽るのが大好きなキルラの姿が見当たらないが…留守なのか?」

いつもなら呼んでもいないのに、ポップのように場をおさめるでもなく、勝手に入ってきて喧嘩やれやれー!みたいなヤジ飛ばしてくんのに

「キルラならいるはずだよー、そういえばここ数日姿見てないかも~?

新しい人間の彼女が出来たって連れ込んでたのを見たのが最後かなぁ」

「アイツ見る目ないじゃん、大丈夫か?その新しい人間の彼女っての」

キルラの前の彼女ルチアって人間から痛い目に遭ったし(俺が)

「半分当たってるかもねー!

キルラは見る目がないのもあるけどねぇ、まともな人間の女ならすぐに死んじゃうだけで

生き残ってる人間の女は相当ヤバいってだけだよぉ

魔族と人間がまともに付き合えるわけないじゃんねー!

魔族からしたら弱っちくて脆い人間なんてすぐ壊れちゃうもん」

ケラケラ笑ってるが、笑い事じゃねぇぞ……

確かに普通の人間じゃ魔族と付き合うなんて命がいくつあっても足りねぇ

俺は普通の人間じゃなくて勇者だから魔族の魔王の香月の恋人でいられるワケだが…

つまり、キルラの新しい彼女が数日経った今も生きてるかどうか……

死んでしまってるなら、可哀想な話だ

生きていたら……なにかしらトラブルに巻き込まれる!?(俺が)

「ちょっと様子見に行こっか~」

「えっ嫌だよ!?また俺トラブルに巻き込まれるんじゃん!?」

ポップは嫌がる俺の手を引いてキルラの部屋に向かった

「キルラの元カノルチアの時は災難だったねぇ」

そうだよ!?しかもそのルチアって魔女だったし、その時の繋がりで大悪魔シンに未だに苦しめられてんだぞこっちは!!

「ルチアはモデルで女優だったけど、今カノは地下アイドルなんだって~」

アイツそういうの好きだよな

ポップに引きずられるようにしてキルラの部屋の前までたどり着く

とりあえずノックをしてみるが、返事がない

「おっかし~なぁ?人の気配はするのに

キルラーー!開けるねーーー!?」

ポップは遠慮とかない、鍵が閉まってても力でこじ開けてドアを開く

待て待て!?彼女と一緒にいるんだろ!?イチャついてたら気まずいだろーが!!

プライバシーないんか!!!

開かれた部屋が目の前に広がると、俺とポップはその光景に言葉を失い固まる

………あれ?キルラの部屋ってこんな感じだったか?

真っ暗な暗黒のような部屋……まるで悪魔を崇拝するような……

だーーー!?また悪魔系かー!?勘弁してくれーーーーー!!!

悪魔を呼び出すような儀式か!?を思わせるような部屋だった

たぶん…そう、詳しく知らなくても絶対そう

よく知らない魔法陣の中心に鶏ガラ…じゃなかったやせ細って生気を吸い尽くされたようなキルラが横たわっている

「急に入ってこないでください!!儀式の最中よ!!」

キルラの新しい彼女らしき人が俺達を睨み付ける

やっぱり変な女じゃん!?

「この魔族を生贄に、あたしの願いを叶えたまえ!!悪魔様!!」

呼ぶな呼ぶな呼ぶな!!シンだけでも手一杯なのにこれ以上ややこしいの増えてたまるか!!

「おいキルラーーー!?オマエまた変な女と付き合ってんのか!?ってこれ付き合ってるって言えるのか!?

オマエ生贄にされてんだぞ!?いいのかそれで!?」

「おだまり!!あたしはこの時を子供の頃から待っていたのよ!!邪魔しないで!!

魔族のナンバー2のキルラにナンパされた時は悪魔様のお導きでしかないのです」

キルラがナンバー2?自称やぞ…キルラの奴、そんなほら吹いて女の子ナンパしてんのか

「子供の頃からって…」

「あたし子供の頃から悪魔様と契約していて千年の魔女なのよ」

見た目は16歳くらいか?その時に悪魔と契約して不老に?人間が魔女になって千年も生きてるのか

まーた魔女じゃん!?嫌な予感しかしねー…

しかもなんでこういう香月が留守の時に限って何か起きるんだ?

「えっじゃあもうすでに君は悪魔と契約してるなら、なんでキルラを生贄にしてまた悪魔を呼び出したりするんだ?」

「君じゃなくてチカだから!」

俺が聞くとチカは自分の荷物から写真サイズの肖像画を取り出して見せられた

爽やかで優しさに満ち溢れたスゲーイケメン、カッコいい、めちゃくちゃ優しそう

ま~でも俺の中じゃレイが1番イケメンで負けてないけどな!!

「あたしの王子様、この悪魔様を呼び出して結婚するのがあたしの夢なの」

「悪魔と結婚~?こじらせすぎ!!そんなの漫画の絵じゃんね~」

ケラケラと笑うポップにチカはムッとする

悪魔ねぇ……見た目は悪魔と言うより神様みたいな感じだが

絵だしな、本当にこんな優しそうな悪魔がいるのか?

「悪魔様を呼び出すのに強い生け贄であれば強い悪魔様を呼び出せるの

今度こそあたしの悪魔様を呼び出せるわ!」

ってチカが話してる最中にキルラのとこに激しい閃光と音と爆風で吹き飛ばされる

何々!?悪魔の呼び出しに成功したのか!?

あまりに強い爆風に部屋の端まで転げ回ったぞ!?ビックリしたな

「あたしの悪魔様!!お待ちしておりま……誰よぉおお!!!!???」

チカは呼び出した悪魔に駆け寄ろうとしたが、その悪魔の容姿はさっきの肖像画とは似ても似つかなかった

ヘドロのような容姿でどこが顔なのか手足もなく、ただの泥の塊に見える

「なんておぞましい姿なの!!醜い!!こんなの空の神様じゃない!!!」

空の……神?

チカは自分の理想とかけ離れたおぞましい姿になり果てた目の前の悪魔を受け入れるコトが出来なかった

「空の神って…?天空のコト…いやアイツは大空の神だろ」

「大空の神!?あの偽者の話はやめて!!

空の神様は唯一よ、このお方だけ……」

チカは爆風で吹き飛んだ肖像画を拾い上げて愛しそうに胸に抱く

「千年前、あたしは空の神様に助けてもらった事があった

あたしの大好きな人を!あの無名の神の男が空の神様を堕落させその地位を奪い取ったのよ!!」

天空にそんな過去が……チカの話が本当かどうかわからないが、天空ならやりそうって思ってしまう

チカは千年以上も空の神を慕い、その執念から悪魔と契約して千年を生き魔女となって力を付け、ついにキルラを生贄にして想い人を呼び出すコトに成功した

神族に恋した人間の女の子が悪魔と契約するか…

よほど天空が許せないのと、どうしても空の神に会いたかったのだろう

「あたしが憧れていた空の神はいない

さようなら…」

そう言ってチカは死んだ魚の目をして部屋を出て行こうとした

「いや放置かい!!この呼び出した悪魔はこのまま放置!?

元は空の神でオマエの大好きな人なんだろ?

チカの話が本当なら助けたいとか…」

「あたしは空の神様の顔面だけが好き、助けて貰った恩を返したいと思ってない

あの顔面じゃなきゃ助けてもらってもきもいだけ」

………お、おぉ…そっか……

堕落した元空の神は千年前の穏やかで空のようにおおらかな美男子の面影はなく

チカは見た目だけを気にしていたが、性格も変わり果て悪魔に染まっていた

チカは部屋から出ようとドアに手をかけたが開かない

鍵は入る時にポップが壊したのにだ

「強い生贄に呼び出されたが、魔族では魂を食えぬぞ」

元空の神は部屋の中に魔族2人と人間2人を閉じ込めた

そうだ、魔族は魔王の香月か勇者の俺にしか殺せないから悪魔は魔族の魂を食えない

キルラは虫の息だが死ぬコトはなく………つまり………ピンチなのは俺の方で……

やっぱりロクなコトになんねぇーーー!!!!

「人間よ、どちらかの魂をよこせ」

めちゃくちゃ巻き込まれてる!?俺は無関係じゃん!?たまたま居合わせただけだぞ!?

って、そしたらチカの魂が奪われるコトになるのも…嫌だ

「セリぃ~迷う事ないよねぇ?この件はその女の自業自得だよぉ?

自分の尻は自分で拭かせなよね~

セリに何かあったら香月様に殺されるのポップなんだからさぁ~」

ポップの言うコトは最もだ

俺の魂なんかやれねぇし、自業自得とは言え目の前でチカが殺されるのを見るのも嫌だ

「あたしは醜いあんたにやる魂は持ってないから!この男の魂を食ってさっさと帰れ!!」

「馬鹿女ー!そんな事したらポップまで後で殺されるんだけどぉ!?

あんたが呼び出したんだからあんたが満足させてやりなよねー!!」

女の子2人が取っ組み合いの喧嘩までしてしまってる……

魔族のポップに立ち向かうチカが凄い、さすが千年の魔女

悪魔の力でそれなりにやり合えてる

やめねぇかオマエ達!!喧嘩してる場合か!!

「分かれたな…そっちの小僧は、自分か女かどちらを選ぶ?

あの女を選べば小僧は助かるぞ」

多数決ってコトか?元空の神がどんな人だったのか知らないが、きっとこんな人ではなかっただろう

堕落して悪魔になってしまったらもう自分ではなくなってしまうのかもしれない

「俺は選ばない」

このまま生贄をどちらにするか同数で分かれたままにすれば何か変わるか…?と期待していたが

「ならば最後に魔族の男に聞こう、どちらの人間の魂を渡すか…選べ」

一言も発していない鶏ガラのキルラのコトは蚊帳の外だと思っていた

マズい……元空の神が聞くとキルラは弱々しい指を俺に向ける

「はあああああ!!??ちょっとキルラあんたわかってんのぉ!?あんたも香月様に殺されんのよぉ!?」

「好きな…女守れないで……男名乗れっか……よ…」

怒るポップにキルラは弱々しくもキザに親指立ててそのまま力尽きて寝た

キルラ………言ってるコトはカッコいいが、黙ってたら分かれたままでどうにかなったかもしれねぇのに

そんな甘くはねぇか?

「決まったな、小僧の魂食わせてもらおう」

こんな所で……死ぬなんて……絶対に嫌だ

戦うしかない、勇者の剣に手をかけようとする前にふっと意識が途切れる

あぁ……死んだって思った

せめて死ぬ時はみんなのコト思い出して死にたかった

目の前に元空の神の手が伸びて、俺はそれを叩き払った

「えっ…セリ?雰囲気が……」

ポップが驚くのも無理はない、だって今の中身は勇者じゃないからな

レイのいない所で出て来たくはないが、このまま勇者に任せてたら本当に殺されちまうだろ

「誰に手ぇ出してんだ、オマエ?」

中身が変わって一睨みすると、元空の神は退く

当然、堕落悪魔より大悪魔の方が強い

コイツは大悪魔の契約である俺の言葉にも逆らえない

「……シン様の契約様とは知らず…無礼をお許しください…」

「許さねぇけど?

まぁその辺はどうでもよくて、さっきの面白い話じゃん

堕落した神のコトなんて興味なかったが、オマエがあの空の神だったなんてな

今の大空の神に堕落させられたんだって?

腑抜けてねぇで、自分を取り戻したいとか思わねぇの?」

「敵うわけありませぬ……」

「別にオマエ1人で頑張れなんて無責任なコト言わねぇよ

大空の神は勇者の命を狙ってるから俺も困ってるんだよな」

正確には、勘違い野郎の天空が自分に惚れされて身も心もボロボロにして自殺に追い込みたいみたいだが

なんにしても勇者が死ぬのは困る、俺はこの身体でしか生きられねぇからさ

後、天空に犯されるのも真っ平ごめんだ

それに勇者は天空の思惑には気付いていない、ムカつく程度しか思ってないんだ

俺は悪魔の契約だからな、相手の悪意くらい見破れる

「協力者は多い方がいいし、俺はオマエが空の神に戻ってくれると嬉しいぞ」

コイツは俺に手出ししないってわかってるから、変態ナルシストの天空を潰すのにいい

ニコッと微笑むだけで、堕落してやる気のない元空の神は急にやる気を出してくれる

「へー意外…あんたセリじゃないのに、あの女を助けたのぉ?」

ポップは俺を疑ってみていたが敵じゃないとしてくれる

「女なんてどうでもいい、俺はレイ以外興味ねぇもん

まっ…目の前で女の魂食われんのは見たくないな

俺は悪魔じゃないから魂は食わねぇし」

「ふぅん…セリじゃないのにセリみたい、アハハ」

相変わらずケラケラと…

チカは俺達の話を聞いて理解すると、パーっと顔を明るくした

「もう一度空の神様に戻れたら、またあのお姿になれるって事!?きゃー!あたしも協力しまーす!!」

「何この女~調子良くない?嫌いなタイプー」

「キャハハ嫉妬ー?あたしがイケメンと付き合えるからってさ~?」

なんでチカは空の神の彼女になれる前提なんだ…姿変わってあんなに拒絶してたのに

「ポップはイケメンの彼氏100人いるんでぇ、嫉妬とかありませーん!!」

おぉー…怖い怖い、女子の喧嘩は…

それじゃあ後は勇者に任せようかな

ハッと意識を取り戻す

あっ……生きてる!?よかった急に意識がなくなったから魂取られて死んだかと思ったぜ

………で、何が起きてるんだ今?

目の前ではポップとチカが別の話題で喧嘩している

あんたの男横取りしてやるとかお互いブスと罵ったり……何これ怖い

元空の神は何もして来ないし、とりあえずポップは俺が止めるにしてもチカはキルラに止めてもらうしかない

「いつまで寝てんだキルラ!?起きろ!!」

キルラの胸倉を掴んで引っ張るとめっちゃ軽かった

どんだけ衰弱してんだコイツ!?

「おいキルラ」

軽くビンタするがキルラはいびきをかいてる

「起きろキルラ!テメェの彼女が暴れてんだよ!?ってか、さっき俺を売りやがったな!?」

彼女を助けたい気持ちも行動も立派だが、だからって友達?仲間?の俺を売ったコトには腹が立つ!!

助かる他の方法考えるとかないのか!!?

強めの往復ビンタをしてると、ポップが慌てて止めに入った

「死んじゃう死んじゃう!!そんな強くセリに叩かれたら今のキルラ死ぬよぉ!?」

結果的に女の子2人の喧嘩が止まった

とりあえず、キルラはその辺に転がしておいて…

話を聞くと俺が数分意識ない間に元空の神とは話が付いたらしく、俺は協力して天空を倒すみたいな大きな話になっていた

なんで俺また巻き込まれてるんだ……

「えぇ!?そんなコト可能なのか!?堕落してまた神族に戻るなんて」

「前例はない」

だろうな…悪魔から神族になるってコトだろ?考えられねぇよな

「諦めんなぁあああ!!あたしはイケメンの空の神に会う為に千年も生きてるのよ

何人もの悪魔様とパパ活までして!あたしの汗と涙と恋心を無駄にさせんなぁあああ!!!

ぴえんで終わるかああああ!!!」

パパ活だったの!?

千年の執念をここで諦めるってのは無理だろうな

「空の神様、元の姿に戻れたらあたしと結婚してください!!」

さっきまで生ゴミでも見るような拒絶の目を向けていたチカはコロッと可愛こぶりっ子の上目遣いで元空の神を見上げる

元空の神は言葉を失っているが…まぁ、自分の顔だけって言われたらなぁ………

ん…?ちょっと待てよ、和彦も最初は俺の見た目が好きって……

今は中身も愛してくれてるって信じてる!!そうだよな和彦!?

「こんな可愛い女を嫁に出来るなんてラッキー」

お似合いカップル!?!?!??!!?

お互い顔さえよければ中身はどうでもいいのか!?中身だって大事だぞ!?

まぁお互いが納得してるなら俺が口を出すコトじゃねぇよな…

「あっそろそろ時間?ごめーん、この後パパと約束してるからまた今度

地下アイドルのライブも今度あるから皆見にきてねぇ!!」

まだパパ活続けるんかい、しかも悪魔と

イケメンの空の神に会えるかもしれないってわかったチカは機嫌良くして笑顔で部屋を出て行った

シーンと静まり返る部屋で気まず…

「えっ…未来の嫁がパパ活してますけど、いいんですか?」

「可愛いから許す」

そういう問題か!?俺だったら嫌だけどな~…好きな女の子がパパ活なんて

まぁチカのコトは空の神が良いなら良いんだろう

それに恋人が男の俺はそんな心配ないか

「じゃー今日はとりあえず解散で」

解散ってコトで部屋から出ようとした時に何か蹴った

視線を足元に向けると何かミイラ転がってるんだけど……

「うわーーキルラーーー!?忘れてたーーー!!

オマエの彼女、パパ活しててそこの男と将来結婚するって言ってるがそれで良いのかオマエーー!?!?」

しっかりしろー!ってキルラを抱き起こすが目を覚まさない

息はある

「まーたキルラ振られてやんの~!キャハハハハ!!」

ポップがキルラにトドメの一言を突き刺してキルラの息は止まった

酷ぇ…キルラの心を弄んでこんなにボロボロにするなんて……そんな最低な女やめとけ!

オマエにはもっと良い女がいる!って励まそうとしたが、コイツはコイツで最低な奴だった

放置しとこ


その後、俺は香月が帰って来るまでさっきのコトを考えていた

天空が空の神を堕落させてその地位を奪ったって話は、チカから聞いただけで本当かどうかはわからない

その辺はフィオーラなら知ってるだろうか?

でも、フィオーラも結夢ちゃんもセレンも神族の中では若いらしいし千年前のコトは知らないかもしれない

千年前……神族は神族のコトって思い込んでいたが、千年前なら鬼神の方が詳しいんじゃねぇか?

そうだな、死者の国に帰ったら鬼神に聞いてみるか

天空のコトはムカつく奴だなとは思うが、もし倒すってなるとそこまでしなくても…って甘い考えも過る

とにかく鬼神と、本人の天空にもその話は聞きたい所だな

みんなから天空に近付くなって言われてるが、一方だけの話ってのも公平性に欠けるだろ

「あ~…香月帰って来るの遅いな~」

夜には帰るって言ってたのに……もう0時過ぎたんだけど!!

ご飯も1人で食べてお風呂も入って、香月の部屋のベットでゴロゴロ寝ずに待っていたがもう眠くなってきた……

自分の部屋に戻って寝ようかな…

……はっ!?俺の恋人は男だからパパ活する心配はないって思ってたけど、パパ活のパパ側の可能性は……ある!?

ウソ!?あの香月に限って!?香月が浮気なんて……死ぬ、そんなの絶対死ぬー!!

変な心配に心を乱されていると香月が帰ってきた

「セリ、まだ起きていたのですか」

部屋に入って来た香月に

「パパ活だ……浮気だ……」

疑いの目を向ける

「遅くなった事は謝ります」

香月は俺の傍に寄ると頭を撫でてくれる

うーん…香月に限って浮気は絶対ないな、信頼してるもん

「怒ってないよ、寂しかっただけ」

「…眠いですか?」

「ううん、まだ眠くないかな」

香月に会えてドキドキして眠気なんてどっかいったね

「待っていてください」

そう言って香月はバスルームに消えて行った

………えっ…つまり……今夜……そういうコト……?

あー急に眠くなってきた!!ドキドキして眠れないけど急にめっちゃ寝たい!!

ど、どうしよう……どうしようもないけど、どうしよう……

いつもいつも…香月とは緊張する……

いつも自分に余裕がなくなる…ずっと逃げたくなるほど臆病だ

香月の愛を受け入れるのが、好きすぎて臆病になる

死ぬほど嬉しいのに、なんで矛盾するんだろう

心の準備を……出来ないまま香月と顔を合わせるコトに

たぶん結構時間経ったハズなのに、俺だけ一瞬しか経ってない気持ち!!

ベットの上に香月の重みを感じて、近付くと風呂上がりの良い匂いがする

あ~香月…好きすぎて気を失いそう

ドキドキが止まらない…いや止まったらたぶん本当に死ぬ

香月の手が俺の手に重なると、たまらなく照れてしまう

顔が熱い…またドキドキが大きくなって、いつまでも慣れない俺の初恋

身体が固まって、時間が止まってるかのよう

…俺ってこんなに臆病だった?

何も言えなくなるくらい…香月と顔を合わせるコトも難しい

「ちょ…ちょって……待って、スゲー……照れる…恥ずかしいから」

思わず香月から手を離して自分の顔を両手で覆う

何これ何これ何これ……息すら一苦労だ

もうずっと昔から恋人同士だし、キスだってはじめてじゃないし

なのに…なのに…いつもはじめてのように巻き戻される

いや……その…キスもエッチも、香月がはじめての人じゃないけど…だけど

はじめて恋をしたのも、この気持ちを知ったのも香月

でも、もう慣れろって話だよな!?

きっと慣れない…香月だけは、俺はもうずっとこんな感じなんだと思う

だから…俺は

「もう待てません」

香月の手が俺の手を掴んでゆっくりと顔から引き離されて目が合う

む…無理……ヤバい…死ぬ……香月のコト好きすぎて

「レイには自分からしたいと言ったのに」

「待て、誰から聞いたそれ?」

「和彦から聞きました」

「あの野郎!!余計なコトを…!!!!!」

和彦の奴、なんでもペラペラ喋りやがって

香月はそういうコト聞かないから、和彦が一方的に言ってるコトくらいわかる

当然香月は直接俺に聞いてくるコトもそんなにない

他の男とどんな関係なのか香月は興味がなくまったく気にならないからだ

だから俺達の関係はバランスが取れていて上手くいっていたりする

隠してるワケじゃないし聞かれたら話すし、香月も知ってるコトだが和彦が勝手に喋るのはなんか腹立つな~

アイツはそれで楽しんでるんだろうけど

「それで、私には待てと?」

「えっ…いや…その……」

香月に待てって言うつもりはないんだけど……俺の心の準備が……毎回出来ないと言うか……

香月に距離を詰められると、同じくらい後ろへと下がってしまう

また詰められて後ろに下がろうと体重をかけて手を出すと

「うわっ!?」

ベットの端まで来てしまっていたのか滑り落ちそうになる

そのヒヤッとした瞬間に香月が手を掴んで自分の方へと引き寄せてくれて、そのまま抱き締められた

「あ、ありがとう…香月…」

落ちそうになったドキドキなのか、香月に抱き締められたドキドキなのか……

う~……2人っきりってこんなに、良い意味で胸が苦しい

「私に任せて…すぐに恥ずかしいなんて思う余裕もなくなります」

香月にキスされて、力が抜ける

クラクラして…溶けちゃいそうだ

香月…大好き…大好き…愛してる……想いが溢れて止まらない

香月の手が触れる肌から熱くなる

恥ずかしくて逃げたくなる気持ちも強いのに、もっともっと触れてほしいって思ってしまう

愛する人に愛されて……凄い幸せだ



朝まで香月に愛されて、起きたのは昼を過ぎていた

長かったようなあっという間だったような……途中から記憶もないくらい凄かったような……

いつもの記憶がなくなるような感じじゃなく…

本当に恥ずかしいなんて思う余裕もないくらい……凄い気持ちよかった……

とにかく寝ても起きても香月のコトが好きで好きでたまらないな

遅めの朝食と言うか昼食を食べにレストランに香月とやってくると、日陰のテーブル席に顔色も悪く体調が悪そうな知らない人が座っていた

誰か知らないが、あの人大丈夫なんだろうか……

ちょっと心配になりながらも近くのテーブルに香月と一緒に座る

「香月、今日は出掛けたりするの?」

「予定はありませんからセリと一緒に過ごします」

「ヤッター!」

ご飯を食べながら何気ない会話を交わす

香月と良い雰囲気になると俺は余裕がすぐなくなるけど、こういう普通の時はいつもの自分でいられるんだよな

良い雰囲気の時は何もできないくせに、普通の時は自分から甘えるコトも抱き付くコトも出来る

「この米粉のパンうま~!香月も一口食べるか?はい」

米粉パンを一口サイズにちぎって香月の口元に持っていく

お返しに香月からクロワッサンを一口貰った

これも美味いな

「……いいっ…すねぇ……」

「えっ?なんか誰か喋った??」

ぼそぼそと聞こえたような気がしたが、気のせいか

「そういやこの近くの街に有名なフルーツパーラーがあるって聞いたんだが、行きたいな」

「人間の街ですか?セリが行きたいのなら」

魔族の香月は人間の街では凄く気を使うみたいだ

ちょっとしたコトで死なせてしまうから

俺がいるからそんなに気を張らなくてもいいのに、香月のちょっとしたコトなら俺の回復魔法で相殺できるぞ

「香月が嫌なら無理に行きたいなんて思わないから、いつでも言ってくれよ

いつも俺ばっかワガママ言ってるもん」

「嫌ではありません、人間のセリと一緒にいる為に合わせるのは当然の事

セリのどんなお願いも嬉しいですよ」

「うん……大好き」

嬉しいコト言ってくれるから好きが口からこぼれてしまう

「……お、おぉ……いちゃつきやがっ…てぇええええ!!!!」

急に隣の知らない人が暴れ出した

「うわおおおああああ!!!!」

「ど、どうした!?知らない人落ち着いて!!」

「どうせ昨夜はお楽しみだったんだろおおおおお!!!???

オレ様はこんな姿になって女に振られて!!世の中のカップル全てが憎いいいい!!!!!」

暴れてもそんなに脅威じゃないが顔が呪いかけそうなくらい怖い

「落ち着けー!!何があったか知らないが世の中のカップル憎んでもどうにもならねぇぞ!?

話なら聞いてやるから…」

知らない人を止めようとしてる時、近くの壁に人が近付くとささっとポスターを貼り終える

その後ポスターを見た知らない人の動きがピタリと止まる

「んー?これ、さっき話してたフルーツパーラーがある街の宣伝じゃん

女性5人組みのアイドルがライブに来るって…ふーん」

ポスターを見てるといつの間にか隣にキルラが立っていた

「さぁ行こう!新しい彼女が僕を待っている!!」

はじめて聞いた低音ボイスでカッコ良く言うキルラ

……えっさっきの知らない消えそうなコケみたいな奴キルラだったの!?

チカに振られたショックでミイラ化までは昨日見たが、一晩でコケにまで変わり果てた姿になっていたなんて……

そんな昨夜、そら世の中のお楽しみしてたカップルを恨むわ

「また懲りねぇでアイドル追い掛けるんかオマエ!?

モデルのルチアと地下アイドルのチカで痛い目見ただろ!?」

「かー!セリ様はアイドルやモデルの魅力がわかんねぇのな~」

「えー可愛いとは思うけど、そんな興味ねぇもん」

「ままっセリ様は恋人が香月様ならそれ以上の人なんていねぇかー」

「そうそう!俺にとって香月より素敵な人なんていねぇの」

和彦とレイも同じくらい素敵、以上も以下もないのだ!

「惚気てんじゃねぇーーー!!爆発しろ!!!豆腐で窒息しろ!!」

豆腐の角に頭ぶつけて死ねじゃないのか…

こうしちゃいられん!とキルラはいつもの自分に戻り慌ただしくレストランを出て行った

立ち直り早ぇなアイツ…まぁいつまでもコケみたいにいられても気を使うし、いいのかな

「香月、フルーツパーラーはまた今度にしよ」

今行ったらキルラと鉢合わせしてまた巻き込まれたらたまんねぇからな

「キルラがまた何か」

「やらかした」

そういや昨日香月は帰りが遅かったし、そのまま話すコトもなく……だったから

俺は香月に昨日キルラの彼女チカと元空の神の話をした

「というコトで、また大変なコトになりそうだ」

「元空の神が堕落して悪魔に…」

「気になる?」

「いえ、元空の神より今の大空の神の方が気になりますね

和彦からも聞いていますから、その男は信用ならないと」

なんだ天空のコトは聞いていたのか、和彦はそういう情報の共有は早いよな

俺のためだと知ってるけど、でもレイのコトとか余計なコトまで言わなくていいんだよアイツは

「これ以上、セリをほしがる男は増えてほしくないですね」

香月は誰も見えない角度に立って俺の頬に優しく触れる

その瞬間、やっぱり俺はいつもの俺じゃなくなってドキドキする…

「……香月…嫉妬…?もしかして、和彦達のコト、嫌だった?」

「嫌でもなければ気にもなりません、ただ増えれば会える時間も少なくなるのは嫌かもしれません」

「そうだな…すまん香月、でも好きな気持ちだけは絶対変わらないから

ん?待てよ、天空は絶対ねぇぞ!?

それに俺は俺のコト好きな奴全員を受け入れるって節操なくはねぇからな!?」

「わかっています

私の他に3人、それ以上は嫌だと言う話です」

「3人って……1人誰!?」

フェイか!?なんで香月までフェイのコト知ってんの!?フェイとどうこうなるワケないじゃん

アイツ俺のコト嫌いなんだから…

「暫くは私の隣に」

「うん…香月の傍を離れないよ……」

って香月の傍を離れないと約束したが、ここから数日キルラがまたやらかしたりポップが問題起こしたりラスティンがなんやかんや元空の神とチカがあーだこーだと

小さなトラブルが起こっては慌ただしく過ぎて行くのだった



気付けば何日経っただろうか

全然香月とゆっくりできねぇし!!

なんでここの奴らトラブルメーカーしかいねぇんだよ

よくもまぁあんな小さなトラブル毎日のように起こせるな、しかも俺を巻き込む…なんで

結局、フルーツパーラーも行けてない……デートすらしてない……

「はぁ…今日も疲れた……」

最近は夜中にも何かしら誰かがトラブル起こしてちゃんと寝れてねぇぞ…

こんな疲れた姿じゃ香月に会えないし、今日は1人で寝よう

自分の部屋で寝る準備をして窓を閉めようとしたら、ぬっと手が伸びてきた

「うわぁ!?何!?お化け!?ウソ!?俺見えないタイプなんでやめてください!!」

パッと窓から離れてソファの後ろに隠れる

情けないが、ホラーダメなんだよ俺!!怖いの怖いじゃん!!

「暫く会わないと恋人の手も忘れたって?」

窓から入ってきたのは……和彦?

「……なんだお化けじゃなかったのか……ビビってない!!」

「…………。」

「なんだよ!?」

「いや、可愛いなって」

「バカにしてんのか!?」

お化けじゃなくて和彦とわかった途端に強気

そんな俺に和彦は近付く

なんだか凄く久しぶりな気がする……

「1ヶ月も帰って来ないから迎えに来た」

「えっ1ヶ月!?そんなに経ってたのか!?」

ずっと忙しくてあっという間で…俺は1ヶ月何してたんだってくらいトラブルに巻き込まれてたのか……

「何?オレは1ヶ月セリくんを我慢してたのに」

「うっ…悪い……和彦のコト忘れてたワケじゃなくて本当に忙しくて」

さすがに1ヶ月は怒るよな…近付く和彦の笑顔が怖くて後ずさってしまう

でもずっと後ずさる事なんて無理で、すぐに壁へと追いやられて和彦は俺の背にある壁へと手を付いた

もう…に、逃げられねぇ…

「香月と毎日セックスして忙しかったなんてズルいな」

「そんな暇あるか!!」

暇でも香月はそんなに性欲強くないから

「じゃあ何回?2日に1回?1週間で5回?」

「そんなコト知ってどうするんだよ……」

「何回寝取られたか聞いて、香月より1回多くする」

今にも食われそうな雰囲気だ、1ヶ月我慢した和彦は絶対止まらないだろうな

寝取られフェチだし、答えるまで解放してくれなさそう

「1回…」

「ん?2日に1回?」

「いや1ヶ月で1回……ここに来てから次の日くらい」

「なんで???」

珍しく和彦が信じられないって引き気味になって壁から手を離した!?

和彦の中で1ヶ月に1回はありえないみたいだ

「なんでって、忙しいのもあったが俺は別に一緒にいられるだけで幸せだもん」

一緒にいる時間も少なかったけど

「1ヶ月もセリくんといて1回だけなんて罰ゲームか何か?」

「オマエの常識で語るな!!香月と俺はそれでもいいんだよ」

和彦は興味本位で聞いてるだけだろうが、あんまり言いたくないぞ……やっぱり恥ずかしいから

「ふーん…オレにはやっぱりわからないな

セリくんがいるのに抱かないなんて無理」

そう言って和彦の顔が近付くから、さっと手を和彦の唇に押し付けて引き離す

「……この手は一体…?」

止められたコトに和彦は少し不機嫌になりながら俺の手を掴む

「いや……なんか、久しぶりだから……心の準備と言うか……また今度って言うか……

死者の国に帰って暫くしてから……」

アハハ…と笑って誤魔化す

久しぶりに会ったんだもん!?そんなすぐになんて無理だ!?

そりゃ俺だって和彦のコト好きだからエッチしたいけど…久しぶりに会ったらなんかめっちゃ緊張して

「いたた!?」

ムッとした和彦は俺の指を噛んだ

「セリくんって…この世界で再会した時もなんやかんや言い訳しておあずけさせられたな……」

「そ、そうだったか…?」

うーん俺もなんとなく覚えてる…

「日を開けすぎるとセリくんはこうだ」

我慢の限界の和彦を止められるとは思っていないし、恥ずかしいからってヘタレて逃げようとする俺が悪い

自分だって嫌じゃないのに、愛されたい気持ちはあるのに

「香月に責任取ってもらう」

「責任って何の!?香月は何も悪くないじゃん」

和彦は俺の手を引っ張って香月の部屋に向かう

「悪いだろ」

「悪いのは俺だ、わかったオマエの言う通りにするから部屋に戻ろう

別に嫌じゃないし、久しぶりだから緊張してただけで」

「香月が悪い」

なんで!?言ったら聞かないんだから…香月に何の文句を言うつもりだよ

香月の部屋のドアをノックして開けると和彦は俺を香月に突き飛ばすようにして渡した

いやもっと優しくしろよ!?めっちゃ怒ってる!?

香月は優しく受け止めてくれた、オマエと違って

「久しぶりだな香月」

「深夜に挨拶は印象が悪いですね」

「早くセリくんに会いたかった、たまたまここに着いたのがこの時間だっただけだ

それに香月がちゃんとしていればこんな深夜に挨拶来ねぇよ」

ピリつく空気がいたたまれねぇ…元々2人は仲良くないからな

俺がいなきゃ関わるコトもない2人だ

「香月、和彦は俺に怒ってるだけだから気にするな

和彦もわかったから、香月に言い掛かりはやめろ」

って俺の言葉を和彦は無視して続ける

「香月がセリくんをほったらかしにするから、またオレはおあずけを食らう事になっているんだが?」

ほったらかしにはされてないよ!?

「香月のせいなんだから、セリくんをその気にさせろ

オレは1ヶ月も我慢して香月に譲ってやったのに、責任持てよ」

お…怒ってる……和彦はめったに怒らないが、さすがに我慢の限界からの俺が待ってなんて簡単に言うから……!?

再会した時は色々あったから仕方ないってわかってくれてたんだろうけど、今は違う

俺は自分が和彦を傷付けたコトに気付いて謝る

「和彦本当にすまなかった…香月は関係ないだろ

オマエと俺の問題だ、責めるなら俺に言え」

和彦の傍に寄って謝ると和彦は俺の首を掴んで自分の近くへと引っ張る

「セリくんはわかってない……

オレがどんな気持ちで毎日セリくんが帰って来るのを待っていたか

早く会いたい、顔が見たい、声が聞きたい

欲求不満だから会いたいんじゃない……それもあるが

それだけならこんなにほったらかしにされてたら浮気してるって話だ

セリくんだから会いたかった

好きだから愛したいんだよ、触れてキスして抱き締めて……もっとほしくなる」

「和彦……」

和彦はウソを言わない、昔はこんなに愛の言葉を伝えてくれもしなかった

俺は離れてても会えなくても心は繋がってるなんて思ってたけど、和彦にとって1ヶ月は耐え難い時間なんだ

俺は香月と出逢うまでの23年の年月に麻痺していたのかもしれない

絶望の23年に比べたら1ヶ月なんて一瞬なんだって…

でも和彦にとっての1ヶ月は凄く長くて重いんだな……

「和彦…嬉しい、そんなに俺のコト好きでいてくれたなんて

俺だって和彦のコト好きだよ、ちゃんと愛してるから」

目を閉じて和彦の唇にキスしようとしたら、さっき俺がしたように手で塞がれる

「なんで!!!???」

「今セリくんにキスしちゃうと止まらなくなりそうだから」

「そういうコトじゃないのか!?」

「これから3人でするのに、オレは寝取られフェチだからここは香月に譲る」

そう言って和彦は俺の背中を押して香月の所へ連れて行く

「……えっ?聞いてないけど?いつから3人でって話に……」

「最初から、香月がいるのに3Pしないなんてないから

セリくんが他の男に寝取られてるのを見るのは最高に興奮するよ」

この……変態が!?騙された気分だ!?

和彦がいつも3Pしたがるのは知ってるが……まぁ今回は和彦のワガママ聞いてやりたい気持ちだよな

香月がいいなら俺はいいんだけどって香月を見上げると何もかもわかってるかのように頷くと俺を抱き寄せてキスをする

香月の軽めの優しいキスから深く激しく舌が絡んで全身が熱くなっていく

「んっ…っ!?」

後ろから和彦に首筋にキスされて舐められるとさらに身体が反応して、和彦の手が俺の服を脱がしていった

香月のキスだけでもクラクラするのに、和彦の指が肌に触れて…もうどうにか……なりそうだ……

「セリくん大丈夫?2人の相手いける?まだはじまったばかりなのに」

腰が抜けて立てない……

和彦の言葉に、こんなにほしくてたまらないって身体をいまさらやめるなんて言えないくらい追い込んだくせによく言うぜ……

「ナメんな…俺は2人の恋人、香月も和彦もまとめてかかってこい」

強気になるのは俺の悪い癖!?カッコ付けてる場合か!?

でも3Pするなら気合い入れないと持たないだろ

いつも最後まで持ったコトないけど

俺が余計なコト言ったからか、それからは容赦なかった…

俺はオマエ達と違って人間なんだぞ!?

「んっ香月……すご…ぁっ気持ちいい……あっ…はぁ…」

痺れてどうにかなっちゃう……大好き香月…わかんなくなるまで愛されて、凄く気持ちいい……

和彦にキスされて息苦しくなるのに、和彦のキスもほしいって欲張っちゃう

限界近いのに、もっともっとなんて……壊れてんのか俺は

「そろそろ、交代」

和彦の言葉で少しだけ身体を休められる

交代って俺だけは交代ないんだが……

1人でも大変なのに、次は和彦だろ

これで5Pしたいはイカれてるぜ…しかも俺だけ休む暇ない立場な

「セリくん平気か?」

「……まだまだ…和彦も俺で気持ちよくなってくれないと」

「ふふ、じゃあ遠慮なく」

すでに限界近いのに和彦からの遠慮なくは死んだかもしれん……

やば……これ…ヤバい…かも……挿れられただけで、軽くイッた

1ヶ月我慢していた和彦が手加減なんてしてくれるハズもなく、暫くすると限界を超えてわけがわからなくなってしまう

自分に何が起きてるのか、めちゃくちゃ気持ちいいのに体力がなくて苦しいと言うか

壊れておかしくなりそうだ…

「あっ…もうダメ…!許して…これ、以上は……和彦…ぁっあぁ」

「セリくんの事、まだまだ愛し足りないな

香月と3Pする前に先にセリくんを1回は抱いておけばよかったか」

全然やめてくれる気配なしじゃん!?

「香、月……っ」

目の前で支えてくれる香月に助けてもらいたいのに声が掠れて出なくなる

名前を呼ばれた香月はキスしてくれたが、そうじゃない!嬉しいけど今はちょっと無理!!

それからのコトは記憶も途切れ途切れで、いつ寝たのかもハッキリ覚えていない

だから3人でするのは嫌だったんだ

でも、嫌だけど…嫌だけど!本当は2人から攻められるのも好きだったり……俺も変態じゃん……

いつも大変だが、今回は1ヶ月我慢した和彦が遠慮なかった

次からは考えてしようって思いました……



次の日、1日は起きられなかった…

起きて和彦の顔を見るとキッと睨んでしまう

「あっセリくん怒ってる

さすがにオレも悪かったと思っているよ

1ヶ月振りなら3人でするべきじゃなかったってね」

和彦は俺の機嫌を取ろうと頭を撫でる

「オマエでも反省するコトあんのか…」

言うほど怒ってないけど、結局俺が帰るの遅かったから悪いのもあるし

「でも、セリくんの事もっと愛したかった

あれでも足りないくらい」

「俺じゃ和彦を満足させてやれないのか?」

それって和彦の恋人失格ってコトにならないか……

急に不安になる

元々、和彦は何人もの女と浮気していたし

俺1人で満足出来るなんて無理なのかな……

「ん?オレは満足してるよ、満足してもまだ愛し足りないって思う

セリくんの事を好きすぎて、もっともっとって止まらなくなるだけだ

一日中、三日三晩愛してももっとって思うから」

「それはもう俺死ぬんじゃ…」

「セリくんが本当に無理な事はしない

オレはセリくんじゃなきゃ満足できないって話だよ」

和彦は優しく俺の額にキスをする

「セリくんの中は気持ち良すぎて、止まらなくなるからいつもやりすぎる」

「……あっそ…」

恥ずかしい……俺は和彦に背を向けて目を閉じた

それから数時間が経つ

「あ~…よく寝た…!」

完全回復とまではいかないが、なんとか起きれるくらいまでには休めた

時間は夕方か…

香月と和彦誘ってご飯でも食べに行こうかな

と出掛ける準備をして2人の部屋を訪ねてみたが、どっちも留守だった

2人で出掛けるなんてのは絶対ないからな~…どこ行ったんだ?

廊下を歩いているとラスティンに声をかけられて足を止める

「セリカ!そろそろご飯なくなりそうだからくれ!」

ラスティンは俺のコトもセリカと呼ぶ

動物から見ると俺とセリカは同じに見えるようだ、一応オスかメスかの違いはわかるようだが…それって結構大きな違いだと思うけど…

カニバ達ウサギも俺のコトもセリカのコトもセリちゃんと呼ぶもんな

「構わないが、この前みたいに俺の腕を奪われないようにしっかり管理しろよ」

「大丈夫大丈夫!!」

本当に大丈夫かな…なんか、ラスティンの態度が右から左で早く遊びたいからよこせみたいな感じにしか見えんぞ

まぁ…ラスティンは人間の肉を食わないといけない身体だから、やらないワケにはいかないか

俺の肉をやらないと他の人間を殺して食うってコトだ、俺は回復魔法でいくらでも腕やれるし

「サンキューサンキューセリカ!!」

4本くらい腕と足をやった

「ところでラスティン、香月と和彦を見なかったか?」

空腹だったのか目の前でラスティンに右手の指を食われてるのを見るのは…もう俺の身体とは切り離されてるとは言えなんか複雑な気持ちになるな

「香月様と……」

和彦の名前を聞くとちょっとビビッた風に反応する、そういやラスティンは和彦を恐れてたかな

「2人とも城から離れた場所で喧嘩してるって話は聞いた」

「えっ喧嘩…?なんで?」

「理由までは知らない」

あの2人がぶつかってて近付ける人なんてこの世に存在しないってラスティンは震えている

「そっかわかった、教えてくれてありがとな」

なんで…ってそれはわからないが、とにかく和彦が心配だ

アイツはめちゃくちゃ強いが、魔族の香月は殺せない

でも香月は生死の神である和彦を殺すコトはできる

勝ち負けなんてどうでもいい、和彦が死ぬかもしれないのに心配しかないだろ

ラスティンは誰も近付けないって言ってたが、俺だけは近付ける

魔王の香月を倒せる力を唯一持ってる勇者だからだ

今の香月は本来の姿に戻れば呪いみたいなよくわからない俺を殺したくなる影響で俺の回復魔法も封じられて、勝てる気はまったくしないが和彦を止めるコトくらいはできるハズ

ラスティンに2人のいる場所を聞いて俺は向かおうとした

だが、城の出入り口でキルラとポップが待ち構えている

「やっぱりセリ来た~~駄目だよぉここは通さないようにって香月様に命令されてるからねぇ~」

ポップはいつもの調子でケラケラ笑っている

「恋人が喧嘩してたら俺が止めるしかないんだよ、そこをどけポップ」

「誰に聞いたか知らないけどぉ別に喧嘩ってわけじゃないよ~」

喧嘩の理由がねぇもんな、俺もそれはおかしいと思ってた

他人から見たらぶつかり合ってたら喧嘩に見えるのかもしれねぇ

「和彦から仕掛けたんだよねぇ、本気の香月様と一度戦ってみたいって

香月様を殺せる力もないのにどうやって勝つんだろー!?キャハハ」

あのバカ…本気の香月と戦ってみたいってのは俺も前から聞いていた

香月も殺すつもりはないだろうが、本気となるとうっかりなんてコトもある

何より相手の和彦が強すぎて手加減でどうにかなる相手じゃないからな

「かーーー!!たぎってきたーーー!!!

香月様が本気で戦ってるのを見てたらオレ様も戦いたくなってきたぜええええ!!!

セリ様!オレ様達も本気でぶつかりましょうや!!今日は負ける気がしねぇぜぇ!!」

上空で様子見していたキルラは俺の前に降りて立ちふさがる

どうやっても通すつもりはないらしい、この2人は

「キルラ、いつもオマエは俺に喧嘩をふっかけてくるがオマエが勝った試しはねぇだろ」

「これまでのオレ様は本気を出してなかっただけですううう!!!」

「オマエにゃ無理だって、香月の恋人の俺に本気を出すなんてできない

俺は勇者でオマエ達を殺す力を持ってるがその攻撃を無効にできるワケでも不死でもねぇからな

俺は人間だ

オマエがうっかり俺を殺しでもしたら、オマエが香月に殺される

そんな中途半端で本気も出せねぇオマエの戯れなんて、今は遊んでる暇もねぇんだよ

そこをどけ」

「はっ偉そうに!!どうせ夕べは香月様とあのクソチビに攻められて女みたいな喘ぎ声出してよがってたんだろ!?」

「っ…!?」

あの2人が揃ったらそうなんだろって思われるのか…そうだよな、関係を隠してるワケじゃないし……は、恥ずかしすぎる……

当たってて言葉も出ない………

ってか、キルラにそんな恥ずかしいコト言われるのがなんかムカつく

デリカシーのない奴め、カップルに対していちいちヤッたとか言うのはセクハラだぞ

「オレ様が本気出せないってナメてたら痛い目見まっせセリ様!!

香月様が通すなって言ったら通さねぇのよ!!」

キルラは胸辺りの羽毛ふっさふさの中に手を突っ込むと見覚えのある小瓶を取り出して、それを一気に飲んで小瓶をポイ捨てした

キルラの身体が2倍にも3倍にも大きくなってめっちゃ強そう

ドーピングか…俺も前にそれで大変な目に遭ったやつだ、副作用がな……

「どーだーーー!?怖いだっ」

「ポイ捨てすんな!!そこはオマエのゴミ箱じゃねぇぞ!!!

その小瓶を踏んで転んで頭打ったらどうするんだ!?」

「確かにぃぃ!!!さーせん…ほんますんません…」

俺が叱るとキルラは素直に小瓶を拾って胸辺りの羽毛ふっさふさの中に閉まった 

「気を取り直して…怖いだろぉ!?大きいだろぉ!?泣いてもいいんだぞおおおお!?」

うおーーーー!!と手をあげて脅かすような体勢をとるキルラ

「ついこの前まで鶏ガラだった頃の可愛いオマエはどこいった?」

キルラの足が浮いたのを目にした瞬間、その鋭く巨大な足が俺を踏みつけていた

な…速い……!?油断していたのもあったが、ドーピングが俺の知ってるやつより遥かに強さが増幅されてる

「セリ様は魔族には強い力を発揮してその素速さと強さに、魔族のオレ様らには厄介で勝つには厳しい相手っすけどなぁ

そんなセリ様にも弱点が2つあるって自分が1番わかってんよなぁ??

1つは非力さ、パワータイプの魔族は苦手っすよね

こうして抑えつけられると手も足もでねぇだろぉ!!??」

キルラの言う通り、力で抑えつけられると俺も抜け出すのはなかなか厳しい

今みたいに圧倒的な体重の差と、さらに鳥タイプのキルラの巨大な鋭い爪を持った足に踏みつけられその鋭い爪が身体に食い込んで身動きするだけで傷が広がり深く食い込む

「ふたーーつ!!回復魔法の欠点んんん!!!

回復魔法の常識は発動するのに時間がかか り治すにも時間がかかる事に対して、セリ様の回復魔法は瞬時に発動できてさらに即死でない限り胴体が切断されようがどんな虫の息の大怪我も毒も一瞬で回復させるチートさ

勝てんくね?って思ったそこのキミ!!

しかーし!!今オレ様の巨大な爪がセリ様の腹を切り裂き食い込んでいる!!

そこから流れる大量の血!!流れた血は元に戻らない!のとぉ!!オレ様の巨大な爪が食い込んでいる事でぇ!傷を塞ぐ事ができねぇのよぉ!!!どや!!

これがセリ様攻略法よ!!勝ったなり!!アハハハハ!あはははは!!!!!」

おー……よ~く……俺のコトわかってんじゃねぇか…ファンか?テメェ…

それともう1つ、回復魔法は目に見える範囲だから目隠しされるのも弱点だ

キルラの言う通り、この巨大な爪が抜けない限り傷を塞ぐコトはできない

俺の回復魔法はもう1つ特別で無痛にできるんだ

痛みでパニックにならず冷静に判断できるが…流れ出る血で意識が朦朧として判断が鈍る

キルラは俺を殺しはしなくても動けなくなるほどの血を流させて意識を失わせるだけだろうが

香月の命令通りの足止め……成功かもな

「……調子乗って…」

だが、コイツに負けるってのはムカつくよな…

左手を腰にある勇者の剣へと手を伸ばす

もう少しで届く…

「させるかぁ!!」

気付いたキルラは足でさらに俺の身体を締め付け全身の至る所に爪が食い込む

ダメか……

ふっと意識が途切れた

「……あれ?オチんの早くね??」

「ちょっと~キルラー、あんた本当に殺したりしてないでしょーねぇ?」

「えっ…ど、どしよ……」

ポップの一言でキルラは顔面蒼白で足をどける

その瞬間、空から巨大なヘドロが落ちてきてキルラとポップを巻き込んで押し潰した

「ちょっおま!?どけ!このデカブツ泥悪魔!!」

「きゃー!!ヤダー!!泥でベッタベタじゃない!!なんなのよもぉーーー!!!」

キルラとポップはどけようともがくが手足は泥に埋まるばかりでなかなか抜け出せない

「……助かったぜ、元空の神」

俺は腹の傷に手を抑えながら立ち上がる

あぶねーあぶねー、あそこで勇者に負けられちゃせっかくのチャンスを逃すとこじゃん

契約の俺と入れ代わり、元空の神を呼び出した

「ついでにこれも治してくれよ?」

「任せよ」

元空の神も回復魔法が使える、勇者のように瞬間ではないがそれなりに強力な回復魔法だからこの死にかけの傷も10分我慢すれば塞がるハズ

俺は勇者の身体の中にいるが、回復魔法は使えないからな

「よぉキルラ、さっきはよくも足蹴にしてくれたな」

元空の神に踏み潰され苦しそうな顔を、お返しだと俺は踏みつけた

俺を足蹴にしていいのはレイだけなんだよ!!レイは優しいからそんなコトしねぇけどさ

「どんな気分だ?」

「ムカつくーーー!!!」

キーーー!!とキルラは悔しがっている

「また出た~、セリじゃない奴

ポップの顔は踏まないでよーーー!!?」

「ふんオマエは女だし、俺は女を蹴ったり殴ったりはしねぇよ」

10分経って傷も塞がった、血を流しすぎて貧血は酷いがこんなとこで休んでる暇はねぇ

ポップの横を通り過ぎてから確認する

「大人しく行かせてくれるんだな」

「だって香月様にセリを通すなって言われただけで、セリじゃないなら別に通ってもいいからねー

そっちこそ、香月様と和彦を止めに行くなんて変なの~

あんたレイ以外どうでもいいって言うのにぃ」

「はっ?誰が止めに行くって?俺は止めるつもりはないぜ」

当たり前だろ、俺はレイだけが好きなんだ

そしてレイの願いは勇者がレイだけを見てくれるコト

香月に和彦を殺させて1人減ったら超ラッキーじゃん

どっちもそこまでやるつもりないなら、そこまでやらせるように仕向けりゃいい

俺が行ってなんとかそうならないか……あー楽しみ…1人減ったら絶対レイは褒めてくれるもん

またレイに愛されたい…レイに褒められたい……

「じゃあなオメェーら」

2人に手を振って先を急ごうとした時、ふとキルラの俺を踏みつけていた足の裏が目に入る

キルラの足の裏…焦げてる…?

へぇ…勇者は負けるつもりなかったのか

勇者は炎魔法も使えたんだったな、でも炎魔法の方はあまり強くないようだ

普通に使ってもキルラ相手ならふっと吹き消されるが、回復魔法で無痛にしてキルラに気付かれず徐々に高温にして隙を作ろうとしたって所か

キルラの足の下から抜け出せさえすれば、もうキルラに勝ち目はねぇ

貧血のハンデはあっても油断してない勇者がキルラ相手に負けるワケない

その強さが魔族以外にも有効だったら勇者は和彦にも引けを取らない強さだったかもな

勇者の回復魔法だけでもチートだし、勇者の力は魔王の香月と互角なんだ

「逃げるなーー!卑怯者ーーー!!オレ様と勝負しろーーー!!」

「このヘドロなんか臭くなーい!?ちゃんとお風呂入ってんのー!?」

キルラとポップの遠吠えと悲鳴を聞きながら、俺は香月と和彦のいる場所へと向かった

結構遠いな…でも近くまで来れた

遠目で見て……うーん、互角か?

ってか香月の見えない力にあそこまで戦えるってやっぱり和彦っておかしいんじゃ……

「おーい!香月、和彦!!」

さて、どうやって香月に和彦を殺してもらうかな

香月に和彦を殺してほしいってわかりやすい言い方のがいいか?

もう好きじゃないのにしつこくて嫌~なんて言って

近くまで寄ると香月は俺へと視線を向ける

「セリ…?」

その一瞬の隙を和彦は見逃さなかった

香月の後ろへと回り込んで、その背にある見えない何かを掴んだ

「油断したな香月…オレの勝ちだ」

えっ……

和彦は見えない何かを引っ張りちぎる

すると、見えない何かは形を変えて和彦の手の中で背丈ほどある長い刀となった

「あんたが…悪さしてたんだな」

えっ………何この状況?思ってたんと違うぞ

和彦は俺の方を見る

「セリくんじゃないな」

バレてる!?なんでだ!?

……ハッ!?そうか!!最近ずっと香月と一緒にいて忘れていたが、人間の姿になっている香月はよくわからん呪いみたいなものの影響を受けずにいられるから勇者を殺すコトはなかった

和彦の本気の香月と戦いたい…それは本来の魔王の姿に戻るというコト

その姿の時は勇者が近付いたら一瞬でも殺意が向き殺されるのに、香月は俺に手を出さなかった

それは俺が勇者じゃないとわかりやすい証明をする

しまった……じゃあもう香月にもバレバレで、俺が出てきた意味ねぇじゃん!?何しに来たん!?

「和彦、私は負けていません」

「セリくんの姿に気を取られた香月の負けだ

感情のない香月でもさすがに悔しいか?」

和彦の挑発に香月はムッとするコトもなく変わらない態度でいる

「ふっ、まぁいいさ

それより感謝でもしてほしいな

香月からこれを引き剥がしてやったって言うのに

これで何の心配もなく、その姿でセリくんに会えるんだぞ」

和彦はこれと片手に持つ刀を掲げ、また俺に視線を移す

「それからあんたもだ、あんたが現れなかったらオレは香月の後ろを取る事は出来なかっただろう

ただの悪魔の契約なのに、役に立ってくれてありがとう」

和彦の笑顔が……イラつく

俺はただコイツらを助けただけの結果になった

勇者じゃ止められない、下手したら香月に殺されるだけだったかもしれない(殺されるのは俺も困るが)

それを俺が出てきてしまったコトで、綺麗に何か解決しやがった…

ふざけるな……俺はオマエがくたばるのを見たかったのに

「自分を犠牲にしたと?

それでは和彦はセリに会えなくなりますが、構わないと言うつもりですか?」

そうだ、香月の言う通りその呪いみたいなよくわからん奴は死ぬまで自らの意思で捨てるコトが出来ない

勇者を殺さずにはいられなくなるのに、和彦が自分を犠牲にしてまで香月を助けるなんてしないだろうに

「そんなつもりはない

前に香月が言ったんだ、これにはオレの気配を感じるってな」

「言いましたが」

和彦は刀を見つめる…その視線は懐かしさと何かを感じさせる

「当然だ、これはオレの持ち物だからな」

へっ……えぇ!?じゃあオマエが犯人なの!?まさかの!?

えっ?ここにきて勇者を殺すって裏切りの展開!?

俺も巻き込まれて死ぬ!?まだ死にたくないんだけど!?

「……和彦の武器は斧のはず、それは触れた者の武器に変化するのですよ

私なら見えない力となった」

俺が触れたら剣か、勇者の武器は剣だもん

「この世界に来る前の世界のオレの武器はこの刀だったんだよ

そして、この刀をセリくんは知っている…

契約のあんたが表に出ててくれて助かるよ」

「えっなんで?」

あの和彦が俺に優しい目を向ける

でもその目には苦しみも含まれているように感じた

「オレはこの刀でセリくんを殺してしまったからね

見られたくないし、見せたくない

絶対にその時の事を思い出させて傷付けるから…

オレもその時を鮮明に思い出して

これでも結構辛いぞ、今」

いつも自信しかなくて完璧で強い和彦が……目を赤くして、でもすぐにそれを見られまいと片手で顔を隠す

あの……あの和彦が……泣いてる…?

えっ!?絶対ありえないコトが起きてて動揺する

血も涙もない何があっても泣かない男が……涙あったんだ……

「何故、セリを殺したんです…?」

「わからない……

セリくんの事が好きすぎて、わけがわからなくなって……気が付いたら……

一瞬だった…セリくんが何も言えないくらい一瞬で

でも…セリくんの最期の表情は忘れられない

酷く傷付いて……オレの事ちゃんと好きだったんだなって……顔が……」

…………何も言えなくなる……

はじめて和彦の人間味を感じたような気がする

俺は最近のコトしか和彦と勇者のコトは知らないが、2人がどれだけ信頼してるかなんて見ててわかる

きっとその信頼は前の世界にもあったんだろう

それが壊れるなんて……どれほど辛く苦しいコトか

今はその信頼を取り戻して仲良くやってるみたいだが、和彦も勇者もその時の最大の傷の痛みを抱え隠していたんだ

俺は……契約だから、最期はレイに殺されるなら本望だって……思い込んでるだけで、本当は……好きな人に殺されるなんて嫌に決まってる

そんなの………俺も、嫌だ…

「和彦が自分の事でわからないと言った言葉を使う事はありません

それなら、セリの運命が和彦を狂わせたのかもしれませんね……」

「どうだろうな……

もし…そうだと言うなら、二度と運命にオレを狂わせはさせない

二度はない………

二度と…セリくんを傷付けない……今度こそ、守ってみせる」

和彦の強い覚悟はきっと運命を抗えると思う

その強さは目に見えて…信頼に変わる

意識の奥底で眠ってる勇者の心が強く反応してるのがわかるから……

和彦は刀を横にして両手で持った

ただ持っただけなのに、刀は抵抗するかのように和彦の手を斬って血を流させる

「何をする気だ、和彦?痛くないのか?」

「正直、どんな武器で斬られるより痛いな

これがセリくんの痛みなのかもしれん

だが、これを存在させるにはいかないだろ」

和彦が力を入れると刀にヒビが入る

それと同時に和彦の手がさらに深く切れていく

和彦の手が切断されるか、刀が折れるかの勝負になる

素手でへし折ろうとしてんのこの人!?

「折られまいと抵抗するか?生意気な…

所詮あんたはオレの持ち物だ

持ち物が主人に逆らえるはずがないんだよ」

バキンッて大きな音が辺りに響くと、刀は最初から存在しなかったかのようにスッと姿を消し去った

……マジで素手でへし折りやがった…恐ろしい和彦…

でも…和彦のコト見直したかも

俺はレイ一筋だけど、和彦のコトちょっと男としてカッコいいって思っちゃった

恋人を守る姿が…羨ましい……

俺もレイに守られたい……

「……もう二度と、オレとセリくんの邪魔をするな」

2人の禁句な思い出と決別する

呪いみたいなよくわからん奴の正体は、勇者を殺した和彦の刀だったワケか

だから勇者を殺そうとしてたのも納得だが、和彦が気付いて勇者の知らないまま決着を付けられたのは幸運か

俺に感謝すべきだな!!

「心配はいりませんでしたね、さすが和彦」

「ん?心配してくれたのか香月?珍しいな」

「和彦が泣くので、ただ事ではないと」

「泣いてねぇし」

「セリと同じ事を言いますね」

「セリくんはすぐ泣くが、オレは生まれて一度も泣いた事はない」

んなアホな元は人間だろ和彦、赤ちゃんの時代なかったのか?

「皆…セリを殺した事があるのです……

他人事ではありませんよ」

香月は勇者と恋人同士になる前は敵同士で殺し殺されの関係だったか

レイも勇者を二度殺しているし、和彦も一度……

なんか……勇者可哀想になってきたな

複雑なんだな~コイツらの関係って

「過去は振り返らない主義だ

この先はないし、させないさ」

「当然です、足を引っ張らないでくださいね」

「オレに負けた香月が言うか?」

「負けていません」

「いや負けてた」

仲悪いくせに仲良いんだから…

な~んか、いいや

帰ったら勇者と入れ代わるか

和彦は勇者に会いたいだろうし


気が付くと俺は和彦の部屋にいた

あれ…?キルラに踏みつけられてて、そこから……

理解が追いつかないでいると、和彦が俺の傍に寄る

「セリくん」

「ハッ!?そうだ!和彦、香月と喧嘩してるって聞いて…」

「喧嘩?してないぞ」

「あっそうか、喧嘩じゃなくて本気の香月と戦いたいとかなんとかで…

でもこうして和彦が無事なのは……」

どう落ち着いたんだろ?

なんて聞けばいいんだろうって考えながら和彦を見ると……なんだかいつもより雰囲気が優しいような表情が柔らかい

「もう終わった事だから気にする事はない

香月ともすぐ会えるから」

「うん…」

深く聞いちゃいけないような気がして俯く

その視線の先に和彦の手が凄い怪我してるコトに気付く

「お、おい!?どうしたんだよこれ!?」

和彦の手を掴んで回復魔法を使うが、傷はまったく塞がらない

なんで…俺の回復魔法が効かない!?

香月との戦いで怪我したのか?でもあれは俺に対して回復魔法を無効にされるだけで、他の人ならちゃんと回復魔法使えるハズなのに

「大した怪我じゃない、舐めとけば治る」

「舐めて治るワケないだろ!?」

パックリ切れた手のひらを和彦は舐めてみせる

「治ってないじゃん!?ちゃんと手当てしないと…」

「痛い…めっちゃ痛い……」

急に和彦は手を押さえて痛がり出す

えっ…?和彦って痛みにも強いのに

もしかして毒が!?

「だ、大丈夫なのか…?お医者さん呼んだ方が…」

「セリくんが舐めてくれたら痛みもなくなると思うんだけどな」

「なくなるか!?ふざけてる場合っ」

和彦の手が目の前に差し出されて微かな血の匂いにフラつく

そうだ…俺は血を流しすぎて……貧血が

「ちょっと…だけ……」

和彦の手を掴み、舌を出してその血を舐め取る

血なんて俺は美味しくないし…

なのになんでかわからないが、この傷を見ると胸が苦しく締め付けられる

凄く痛いんだろうなって見てわかって……

どうしてか……和彦が愛しくて…たまらなく大好きが溢れた

「セリくん……愛してる……」

いきなり和彦は俺の顔を掴んで強引に唇を重ねた

和彦の血が滲む手で顔を触れられるとぬるっとして生暖かい

血塗れになるだろ!?ってツッコむ暇もなく和彦のキスが激しくなって…息も苦しくなる

それでも俺も和彦が好きでたまらない気持ちにもっととほしくなって、離れられなく応えていく

「……このままセリくんを抱きたいのに、この手じゃ暫くは無理だな」

唇が離れて和彦に抱きしめられる

俺も和彦を強く抱きしめ返した

「好きだよ、セリくん…これまでもこれからも」

和彦の声が耳元を撫でる

「オレはセリくんだけを愛してる…言葉で表せられないくらい」

急に……そんな、改めて言われると……照れるよ

「変な和彦…そんなの知ってるのに

俺も…いつからか和彦のコト好きになって、今じゃ死ぬほど大好きだ」

和彦の俺を抱きしめる腕がさらに強くなる

幸せだな…

暫くして和彦は俺を離してくれて、手を離す前にもう1回キスしてくれる

「…顔洗っておいで」

「血塗れ!?顔洗ったら和彦の手当てしなきゃな」

言われて顔を洗って戻ってくると香月が来ていた

怪我にめっちゃ速く良く効くスゲー薬を持ってきてくれたようだ

「セリ、これを和彦に塗ってあげてください」

「うん香月、任せて」

薬を塗って和彦の手を包帯でグルグル巻きにした

両手ともミトンつけたようになってしまった……

「……セリくんっていつも思うが不器用だな、これじゃ飯が食べれないぞ」

「う、うるせぇな…

いいんだよ!ご飯なら俺が食べさせてやるし、お風呂も俺が洗ってやるから、治るまで大人しくしとけ」

ふんって和彦から顔を逸らすと香月と目が合って無駄に照れる

……あれ?

「香月……魔王の姿なのに…いつも通りだ!?」

魔王の姿でも人間の姿でもあまり変わらないから今気付いた

あの呪いのようなよくわからない俺を殺しにくるのどこいった!?

「えぇ、解決してこの姿でもセリに会えるようになりました」

「えっいつ!?」

「今日」

「どうやって!?」

「偶然と幸運で」

「へー……」

想像もできねぇ回答!?

じゃあ……香月と…もう何も心配するコトなく会えるって……嬉しい

「この姿が本来の私です」

そう言って香月は俺を引っ張ってそのまま抱き締める

「か、香月…?」

「私は私の姿で、セリに触れたかった…」

香月の顔が近付いて……唇が触れ合う…

本来の香月の姿……俺もずっとその姿の香月と過ごすコトが多かったから…久しぶりな気がする…

人間の姿の香月も香月なのに、なんかちょっと足りない気がして

どっちの姿もそんなに変わらないし香月なのに、でも俺も本来の姿の香月が落ち着く…

「…ま、待って香月……和彦が見てるのに」

香月の胸を押して離れる

「寝取られフェチみたいですし、見せ付けてやればどうです」

また香月にキスされる

いつも香月こんなコトしないのに……

見せ付けるなんて……和彦の喜ぶコトするなんて

「おいおい、いつもなら最高でもこの手で何もできないんだからやめろ」

だよな……

和彦はミトンみたいな手で香月と俺を引き離す

「可愛らしい手ですね」

「香月もオレと同じ手になってみるか?」

なんとなくだが、この2人ちょっと仲良くなってないか?

いつも仲悪いのに……

でも、嬉しいかも

香月も和彦も永遠に一緒にいたい恋人だから

「いつの間に2人仲良くなってんだよ、俺も混ぜろー!」

香月の左腕に自分の右腕を絡ませ、和彦の右腕に自分の左腕を絡ませ、2人の間に入り込む

「私は和彦とは仲良くありません」「誰が香月と仲良くなんか」

認めてるくせに表には出さない2人らしさ

「俺は2人とも大好きだから!!」

俺が間に入れば2人の雰囲気も柔らかくなっていく

香月の恋人で和彦の恋人で、俺はめちゃくちゃ幸せだ

これからもいっぱい愛して、俺もいっぱい愛してるから

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