177話『意外なメンバーとの時間』セリ編

暫くは香月と一緒に!!久しぶりの2人っきり!!の前に……

「みんな集合ーーー!!」

俺のかけ声で集まったのは、香月とイングヴェィとセリカと鬼神と楊蝉と光の聖霊

うん……意外すぎるメンバー!!

なんでこのメンバーで集まったかと言うと、セリカからペットのイベントに誘われたからだ

可愛いモフモフ動物達のふれあいもあれば、ペット達のおもちゃやごはんおやつなどペット達が喜ぶものがたくさん集合しててしかも安い!!

おやつ詰め放題も楽しそうだし、飼い主様向けのわんにゃんうさちゃん他のキャラクターグッズも販売される

ヤバい、これは行くしかねぇし買いすぎちまいそうだ

イベント開催の街も香月の城の途中にあるし、香月も付き合ってくれるって言ってくれた

香月とイングヴェィはわかるが、何故鬼神達がって話になると

たまたますれ違った鬼神に「どこかお出かけですか?」って聞かれて、セリカがチラシを見せるとおやつ詰め放題に目を輝かせて反応した

「わし詰め放題得意なんすよ!一緒に行きましょーか?」

ってコトでお言葉に甘えて来て貰ったら、鬼神に好意を寄せる楊蝉と光の聖霊も釣れたと言うワケだ

「イエイ!イエーイ!!!」

俺の元気なかけ声に乗ってくれたのは鬼神だけだった

いやなんかみんなでお出かけとかワクワクじゃん!?

昨日眠れなかったぞ!!(和彦のせい)

まぁ、イベントの街まで何日もかかるんだけどな…


それでも道中は楽しく過ごして、途中の街で早めに休むコトにした

どうしてこの街で泊まるコトにしたかと言うと、園芸の町だったからだ

セリカは花の香りに誘われて立ち寄りたいと言って、イングヴェィは今日はこの町で休もうと提案してくれた

「このバラとても良い香り」

「買って帰ろうか」

「うん!」

セリカがバラの園で気に入った鉢を見つけたみたいだ

俺もだけど、セリカはお花が大好きだ

最近は自分でバラを育てて、咲いたら俺に分けてくれるコトもある

育てるのはなかなか難しいらしくて大変みたいだ

なのに、この前セリカに貰ったバラの花瓶が棚から落ちてて可哀想なコトになってたな

他にも色んなお花育ててる、名前知らんようなん

セリカはなんて女の子らしいんだ、可愛い、可愛いぞ俺のセリカ

「ネモフィラだ~可愛い」

ハハハ、可愛いのはオマエだっての

「あんた…本当に自分のコト大好きなのね、キモイわよ」

可愛いセリカを見てると光の聖霊が邪魔してくる

「俺は可愛い自分が大好き、セリカが可愛すぎて辛いなんであんなに可愛いんだ

光の聖霊だって自分のコト好きだろ?」

「まぁあんたほどじゃないけど、ちゃんと自分の事は好きよ

でも…今の私は嫌いかな……」

いつも明るい光の聖霊の視線は弱々しく鬼神に向けられる

その隣には楊蝉の姿があった

「……何よその目は、哀れんでるの!?」

「被害妄想だよ、別に俺はどっちかに偏ったりはしねぇから」

「……私…セリカに頑張るって言ったのに全然頑張れていないわ…

どうしても姐さんに気を使ってしまうのね

こんな自分が惨めな思いするならついて来るんじゃなかったわ…」

「俺も今の光の聖霊は嫌いかな」

「はぁあ!?あんたに好かれたってちっとも嬉しくないわよ!!!」

光の聖霊はバシバシ俺を叩いてくる、地味に痛い

「レイの時は強気だったくせに、随分落ちぶれたんじゃねぇの?」

「何よー!!相手が違うじゃない!あんたはなんかムカついたのよ!!

私の方がレイに相応しい良い女って信じて疑わなかったわ!!

でも…それでも、選ばれなかったら意味ないのよ……

鬼神だって…私より、楊蝉姐さんに優しいんだから……」

……何も言えない……レイが選んだのは俺だもん……

光の聖霊を傷付けて自信をなくさせたのは俺か…

「別にあんたのせいとはちっとも思ってないけど!!そんな顔しないで!!

私はあんたに負けたわけじゃない、レイの気持ちを尊重したのよ」

なんかたまにみんな俺の心を的確に呼んでくるよな…そんなにわかりやすい顔してるのか?

「鬼神は女性には優しいよ、楊蝉とはその中でも距離が近いだけ

光の聖霊はまだ女の子として見て貰えてないだけだろ」

「あんたデリカシーないわねぇ…」

光の聖霊は驚いたでも知ってたって顔をする

「そんなだからちっとも女の子にモテないのよ」

「うるせぇな…」

「落ち込んでる女の子には嘘でも優しい言葉をかけるものよ!

光の聖霊は可愛いんだから大丈夫とか、鬼神は鈍いから光の聖霊の魅力にまだ気付いてないとか」

「どっちもそう思うが、まずその傲慢な性格治した方が良いような……

楊蝉を見てみろ、謙虚に振る舞ってるだろ

俺は楊蝉のコト好きだが、オマエも知ってる通りアイツは陰湿なイジメッ子だ

過去に自分の男に近付く女の子達を陰湿にイジメ抜いてる」

「もちろん知ってるわよ、ポップって魔族の女がライバルの楊蝉姐さんを貶めるのに誰かれかまわず言いふらしていたもの」

「その部分はマイナスだが、楊蝉にも優しい一面はあるから俺は友達なワケだが

鬼神はそんなコトは知らねぇ

で、男ってのはバカだからあぁ言うしたたかな女にコロッと騙されちまうんだよ

とくに鬼神のような女に免疫がない男は手のひらだな」

「あんたも女に免疫ないくせに一丁前なコト言うじゃない」

セリカに教え込まれたんだよ!?女はセリくんが思ってるほど可愛いだけの生き物じゃないのよってな!!

「オマエも誰かさんみたいにいちいち一言多いよな…さすがレイと相性が良いハズだ……

つまり、光の聖霊がそんなだと本当に負けちまうぞいいのかって話だ」

「……女の子って…腹黒いわよね…

でも腹の中全部が真っ黒なわけじゃないわ

楊蝉姐さんは陰湿な部分もあるかもしれないけど、私わかるのよ

鬼神と一緒にいる時の楊蝉姐さんは…何の計算もない本物だって

女の子が、自分の大好きな自分でいられる人の隣は本物なのよ

あんたにも…わかるでしょう?」

「そうだな…わかるよ、それが本物の恋なんだって」

俺の言葉に光の聖霊は珍しく笑った

光の聖霊は俺にだけいつもキツいからな

「私、まだちゃんと鬼神の隣に立ててない

楊蝉姐さんに全然届いてない

私は鬼神の隣にいてどんな私になれるのか知らないの

だから、勇気出して行ってみるわね!ありがとねセリ」

はじめて勇者じゃなくて名前を呼ばれたような気がする

そろそろ認めてもらえたかな、俺も

光の聖霊は明るさを取り戻して鬼神と楊蝉の所へ向かった

……が、一歩前の所でサーッと俺の方へ戻ってくる

「やっぱり恥ずかしーーーい!!!」

気持ちはスゲーわかる…恥ずかしくて逃げたくなるの

光の聖霊は行ったり来たりを繰り返して、何やってんだ状態を暫く続けていた

そんなこんなで日が暮れてくると

「ナイトガーデンのイルミネーションだって、地元の人に聞いてあっちの方に隠れスポットがあるとか

カップルにオススメらしいよ」

こんなに綺麗な景色が一望できるってセリカはワクワクしながらチラシを見せてきた

夜の隠れスポット……?やり場じゃん、セリカに悪影響だ!?過激すぎる!!

そんな周りのバカップルは夜の暗闇を利用してどんな淫らなコトしてるか…

セリカはそういうとこ疎いんだよな…俺が守ってやんねぇと

あっ俺はないぞ、外は絶対嫌だから

「いや俺はもう寝るから、セリカも眠いだろ」

ウソは言ってない、昨日寝てないから正直眠い

とにかくハレンチな隠れスポットには行かせない

「うーん…眠いね」

「残念だけど今日は休もうぜ

明日も疲れてちゃペットのイベントにも間に合わないぞ

イルミネーションなんて色んな所でやってるし」

「そっか、そうだよね…じゃあ今日は寝る!」

セリカが寝るとなればイングヴェィも行かないし、俺が行かないならもちろん香月も行かない

「勇者達は行かないの?じゃあ行くのは私達だけね」

ん?鬼神と楊蝉と光の聖霊?

「イルミネーションなんて素敵ですわ」

ど、どうしよう…止めた方がいいのかな

でも、他のカップルがいるとも限らねぇし

いたとしても変なコトしねぇかもだし…

鬼神は何もしないって信用はあるし

「早く行きましょ!鬼神と楊蝉姐さん」

光の聖霊は楽しみ~っとさっさと2人を連れて行ってしまった

大丈夫……だよな……

ハラハラ心配で追い掛けるか、眠いしホテルに行くか迷う

「セリカ達は先にホテルに行っててくれるか?俺はちょっと…」

「うん?わかったわ」

イングヴェィとセリカはとりあえず先にホテルに行かせたが

「私はセリと一緒に」

香月は俺を1人にしない、危ないから

そして少しすると光の聖霊が悲鳴を上げながら俺の方へ助けを求めにきた

うわ……やっぱりか……

「きゃあああ!!鬼神が!鬼神が急に倒れちゃって!!」

駆けつけると、思ってた以上に過激な光景を目の当たりにする

だーーー!!?!??!?あっちもこっちもどいつもこいつもやりすぎだー!?

イルミネーションどころじゃねぇ!?誰も景色見てねぇお互いしか見えてない2人だけの世界ってかぁ!?

これは免疫ない鬼神は卒倒するに決まってる!?

「鬼神しっかりしろー!!オマエにはまだ早すぎた!!!」

「無理もありませんわ…私も迂闊でした

もっと早くに感づいて気を付けるべきでしたわね」

楊蝉は倒れた鬼神を膝枕して周りから目を背けている

「ねぇ鬼神は大丈夫なの!?急に倒れたりして、何かヤバい病気なんじゃ」

光の聖霊は周りが見えてないのか、わかっていないのか……ハッもしかして光の聖霊って処女…

マセガキ程度の知識はあっても実際に見たコトもしたコトもないんじゃ…年だけは立派に食ってるのに

「あんたに強い殺意が芽生えたんだけど……心当たりある?」

「一切ないです」

鬼神に声をかけながら頬をペチペチ叩いてると、うっすらと目が開く

「……天女様のお迎え……ガクッ」

息絶えた

いや、生きてるけど

鬼神を運ぼうとしたら香月が手を貸してくれる

そのままホテルの部屋まで運んでくれて、とりあえずは安心かな

「鬼神様が免疫のない殿方とは知っておりましたが、なかなか前途多難ですわね

ウブな所も可愛い事」

うふふと楊蝉は鬼神の一面も愛おしいと受け入れる姿勢を見せた

「楊蝉姐さん、真のライバルは天女様みたいですよ

鬼神の心を鷲掴みにしてる天女様を押しのけなきゃね」

光の聖霊がそう言うと、楊蝉と2人で俺を囲む

ヤバい…いじめられる……!?

「いや、鬼神の天女ってのはただのファンって意味じゃん

わかってるだろオマエ達だって」

「女の子って、嫉妬深いからアイドルでも憧れでも何でも嫌

私だけを見てくれなきゃね~」

囲まれた俺を助けてくれたのは香月だった

香月は俺をひょいっと抱き上げる

「ちょっ、ちょっと香月!?恥ずかしいって!それに人前でくっつくのは嫌だって言って」

「そうやってしっかり捕まえててくださいよ

勇者はすぐ人の男横取りするんですからね!」

「レイはオマエの男じゃなかっただろ!?それに横取りしてねぇし!!」

「あっかんべー!」

くっ、やっぱ誰かさんにちょっと似ててムカつく

レイはなんでこのタイプと仲良いんだ…

香月が入ってくれたコトで光の聖霊と楊蝉はすんなり部屋に帰ってくれた

人前でくっつくのは嫌だけど…香月助けてくれたんだ……

シーンと静まり返る廊下、軽く見回して誰もいないコトを確認して香月の肩に頭を乗せる

すると、ドッと眠気が襲ってきた

「無理に起きていなくてもいいですよ」

「でも…」

って言って途切れ途切れ意識がなくなる

このまま寝てしまうんだろうって考えるより先に眠ってしまった



次の日、昨日早く寝たからか朝でも暗い時間に起きた

お風呂入ってないからとりあえずシャワーを浴びて着替えた頃に外が少しだけ明るくなってくる

「まだみんな寝てるよな」

俺が起きてるからセリカは起きてるだろうけど、鬼神達は寝てると思うし

「ねっ香月、この時間なら誰もいないだろうからお花見に行こ」

俺は香月の腕にくっついて引っ張る

「セリが見たいのなら、いつでも」

「うん!」

外に出るとなんでか朝の空気って新鮮で気持ち良い

誰もいないから香月にくっついて歩くコトもできる

本当の2人っきりでこの時間が幸せ

「花の香りが良い匂い~」

この良い香りはどのお花からするんだろう

「香月の匂いも好きだけど」

って香月の方へ顔を向けると、不意打ちでキスされた

「……………言っ…て……」

一瞬にして熱が上がる

もう香月の顔が見れないくらい、ドキドキが止まらない

「言ったら、心の準備がまだとか言って逃げられてしまうので」

おっ…おぉ…俺のコトめっちゃちゃんとわかってる…さすが香月

「もう、私から離れてる」

うっ…無意識に……距離が……だって、恥ずかしいんだもん

自分からベタベタ甘えられるのに…香月から来られると………調子狂ってダメになる

「まだ足りないです」

「また…今度……?」

「やっぱり…逃げるなら、捕まえてしまえばいいだけですね」

香月は俺の手を掴んで自分の方へ引き寄せると、また唇が重なる

今度はさっきより長く……震える…

香月のコト好きなのに、それを受け止める勇気が足りない

いつまでも恥ずかしい気持ちが勝って、もっとちゃんと愛を深めたいのに……俺の意気地なし…

香月の唇が離れると、もっと強く抱き締めてくれた

「セリ、ずっと会いたかった…愛しています」

嬉しい……

「香月…好き…大好き……俺も、愛してる……」

それでも言葉ではちゃんと伝えていたい、精一杯

「そろそろ戻りましょうか、お腹も空いてるでしょう」

魔族の香月は食べなくても平気なのに、人間の俺を気遣ってくれる

でも俺は胸がいっぱいで空腹なんて感じなかったり、だけどしっかり食べなきゃ動けないか

「うん…」

そろそろみんなが起きる時間だな

2人っきりの時間はまた今度…

ホテルに戻ろうとした途中、鬼神と楊蝉の姿を見つけた

「あっ…いや!隠れて香月」

思わず声をかけてしまいそうになったが、せっかくの2人っきりを邪魔するのは野暮だと気付いた俺は香月と一緒にその場に屈む

背の高い花壇でちょうど隠れるコトができる

でも、ちょっと気になるからこっそり覗いて見たり……

「朝早くの風が涼しくて気持ち良いですわね」

「そやな~」

誰もいないゆったりした空間に優しく吹き込む風が2人の仲を近付けているみたい

それから暫くの沈黙が続く

楊蝉は扇子で口元を隠す癖がある

その時に色々な意味を含ませるコトがあって、目元近くまで持っていくコトは恥ずかしいとか照れている意味合いが強い

表情を見るだけで、乙女丸出しってわかりやすいが鬼神はそれに気付くコトはない

沈黙も好きな人の隣ならば、苦じゃないと知っている

その間に巡る想いは、過去か未来か現在か…

「……冷たい風はお身体に障りますわ、旦那様」

「えっ?」

「はっ!?あっ…私……間違…っ申し訳ございません…!!」

長い年月は忘れるコトなく思い出す

過去の幸せの日々と錯覚する

あまりにも、貴方の隣がとても心地良かったから…あの頃と同じように

楊蝉はさっきの幸せな表情とは変わって青ざめた表情のまま鬼神の前から姿を消そうとする

でも、鬼神は楊蝉の手を掴んで引き止めた

「楊蝉姐さん……いつも気になっててん

聞かん方がええのか、聞いた方がええのか…

わしとおったらしんどいか?

姐さんはたまに辛そうにするから…」

「それは……私が悪いのですわ、鬼神様は何も悪くありません」

「何かあるんなら言ってほしい

話したくないなら無理には聞かん

その旦那様って……男が楊蝉姐さんにそんな顔させてんのか?」

鬼神は楊蝉が未亡人ってコトを知らないようだった

わからないから自分基準に、それが原因かと眉を潜める

でも、楊蝉からしたら鬼神はそんなつもりで聞いたワケでもないのに旦那様を悪く言われたのだと早とちりしてしまう

「違いますわ!!旦那様は!旦那様は……何も悪くありません!!

何も……私を1人置いて」

悪くないのに、自分を置いて逝ってしまったコトがどうしようもなく悲しい別れの思い出になる

寿命の違う種族の夫婦なのだから仕方ないコトだとわかっていても、どうしようもない気持ちはいつまでも消えるコトも忘れるコトもない

楊蝉は最初の旦那様を忘れられなかった

鬼神のコトは気になっていても、それは旦那様を重ねているだけなのか、旦那様を忘れて新しい恋にいく後ろめたさがあるのか

何もかも逃げ出したくなるように、楊蝉は鬼神の手を振り払って消えてしまった

………出て行きづらくなった……

「………そこにおるん知っとるよ、セリ様と香月様」

鬼神に言われて、気まずい中姿を現す

「えっと、たまたまであって…盗み見するつもりは……」

隠れてる時点でその気だったじゃん!!俺が悪い!!

「ええんですよ、わしが楊蝉姐さんを傷付けただけなんです

きっと無神経な事を言うたんやと思います」

鬼神は何も知らないだけだよな、悪くはないと思うし…楊蝉も誤解してる所はあると思うぞ

俺にも思う所はあるが、2人の問題だし…

「セリ様、わし楊蝉姐さんと仲直りしたいんですけどどうしたらええと思います?」

女性経験皆無で女の子の扱いもわからない免疫もない鬼神は俺に相談する

仲直りしたいって言うなら協力はできる!

「任せろ!俺も女の子の扱いなんてわからん!!」

「心強いと思ったら不安しかないやん!?」

おふざけは置いといて…

「まぁ女の子は何かしらプレゼントしたら機嫌良くしてくれるだろ

それと、鬼神の気持ちもちゃんと伝えるコト

仲直りしたいって気持ちをな」

俺がたまに無神経でセリカの機嫌を損ねた時に手ぶらで謝るより何か持って行くとちょっと機嫌良くしてくれるから…女の子によるかもしれないが

「プレゼント……ですか…わし、女人にプレゼントなんてした事ないで

何がええやろ…香月様はどう思います?」

むむむっと悩む鬼神は参考にと香月に聞く

「さぁ…わかりません」

わからないと言うよりまったく興味なさそう

香月もっと興味持ってやって!!って無理か…俺以外に興味ないと言うか感情ないし

まぁそういうとこも好きだけどさ

「女の子のプレゼントにピッタリなお店なら俺が連れて行ってやるから」

「セリ様!!助かります!!」

そうと決まったら、今の時間はまだお店も開いていないから一度解散して後で集合するコトになった

「と言うコトだから香月も暫くは好きに行動してていいよ」

ずっと俺と一緒にいなくてもいいし、香月だって好きな所に行ってくれたら

「私は好きでセリと共に行動しているのです」

そうだな、そうだった、香月は自分からハッキリ言えるタイプだし

黙って一緒にいてくれるのは、香月がそうしたいからだ

俺だって香月と一緒にいる時間は多い方が良い

だから、傍にいてくれて嬉しい

「………それ…嬉しいから」

照れる…一言一言それだけで満たされる


朝ご飯も食べたし、お店が開く時間に鬼神と合流する

出発の時間も迫ってるからそんなに時間はないが、良い物を選ぶくらいの時間はある

「さぁ好きなの選べ!!」

楊蝉の好みとかそんなに知らんが、とりあえずオシャレだしよくアクセサリーとか付けてるからそういうの好きだろってコトでアクセサリーショップに来てみた

「沢山ありすぎてわからんのやけど!!

セリ様が見繕ってくれた方が間違いないような」

「それじゃ意味ねぇだろ、鬼神が選ばなきゃ意味がない

俺が楊蝉と仲直りするんじゃねぇんだ

こういうのって好みがあるし難しいのはわかるが、プレゼントなんだからその気持ちが嬉しいもんだろ

鬼神が楊蝉に似合うと思ったものを選べば良いんだよ」

「そうやな、セリ様の言う通りや!」

わかってくれた鬼神は店内をあちこち見て回った

俺も色々見てみるか、セリカに似合うやつがあったら買ってやろっと

「香月、これどう?似合う?」

鏡の前で合わせてみるとちょっといまいちかな…デザインは可愛いのにセリカにはちょっと違うかもしれない

「こちらの方が似合うと思います」

香月が持って来てくれた物の方が可愛くてセリカにとても似合っていた

「さすが香月、よくわかってるじゃん

じゃあこれ買うよ」

香月も和彦もレイもイングヴェィもちゃんと俺やセリカのコトをよくわかっててセンスがよかった

俺自身もそれなりにセンスはあると思っている

だから、それが当たり前だと思っていたが……

「セリ様!これにしようと思うんやけど、どうやろ!?」

絶望的にセンスが悪いと言うかない人がいるコトを知らなかった

鬼神が持ってきたのは、目が痛くなるようなチカチカした色とゴチャゴチャ詰め込みすぎた何かよくわからない形とデザインのかんざし

なんかゴミ絡まってないか?これはデザインなのか…?

楊蝉は派手好きだが、そういう次元ではない

「えっ……」

と……鬼神の良いと思ったものが楊蝉も嬉しいハズなんて言ったが、さすがにそれは女の子向けではない…むしろ誰向けだ

センス皆無な奴が作ったらセンス皆無な奴のドストライクなのかもしれない

「なんか派手やし、色々ついててお得な感じやん

他のかんざしは軽かったけど、これは重たくていっぱい付いててとにかくお得感が凄いねん!」

そう言われて鬼神から受け取ると1キロのダンベルかってくらい重かった

これ髪に挿すのしんどくないか!?

「こんなん首折れるわ!!女の子の首はオマエと違ってもっと細いんやぞ!?

プレゼントをお得感だけで選ぶ奴がいるか!!ってかどの辺がお得やねん!?」

「お得やんか!ほら同じ値段でも、こっちのかんざしは宝石1つしか付いてへんねんで」

「そっちの方がシンプルで良いわ!!しかも軽いし!!

どこに1キロのかんざし挿す女がいんだよ!?」

「確かに、女人の首は折れそうなくらい細いなぁ…

男のセリ様の首も細いけど」

「俺のコトはほっとけ」

楊蝉の首の危機をなんとか回避できたようだ

鬼神はええと思ったのにしゃーないなと渋々諦めてくれる

「そのかんざしとどっちにするか迷っとったこのブレスレットなら完璧やろ」

そう言って鬼神はブレスレットを俺に確認してほしいと渡してきた

………同じシリーズ来た…しかもしっかり1キロダンベル並みに重い

「1キロシリーズから離れろや!!!」

「さすがに手首が折れるって事はないやろ」

「折れる折れないの問題じゃねぇコトに気付け!!

もっといっぱいあるやん!いっぱい可愛いのあるの見て!!」

「セリ様がオッケーやったら、このシリーズ全部プレゼントするつもりやったのに残念やわ」

俺が悪いみたいな言い方…

鬼神は1キロシリーズをかんざし、ピアス、ネックレス、ブローチ、ブレスレット、リング、アンクレットまで全シリーズ見せてきた

ピアスは両耳として、全部で8キロ!?!?!?!?!?!?!?!?

「8キロ!?なんの嫌がらせ!?」

「セットで買うと10%割引ってお得やろ」

「オマエ……だからあかんのやで…」

俺がマジトーンで引き気味に言うと鬼神は目に見えてショックを受けた

「そのプレゼントは考え直した方がいいですね」

「ぐわー!香月様まで!?」

さらにショックが重なる

「お得なのは良いコトやけど、お得に目が行きがちだ

それで本当に楊蝉が喜ぶと思うか?」

むしろ溝が深まるばかり

「可愛いと思うんやけどな~」

そうだった…鬼神はセンスも絶望的だったんだ……

あーじゃあ…俺がある程度選んでそこから鬼神に選ばせるしかねぇな

鬼神のかんざしを選んだのは正解だ

楊蝉はアクセサリーの中ではとくにかんざしを愛用している

いくつあっても良いようだ

俺は5本ほど見繕って鬼神に選ばせる

「セリ様が選ぶのはどれも素敵やな、悩むわ」

ふふ、でもこの5本中4本はフェイク

4本も可愛いが、楊蝉のイメージとして選んでいない

可愛いが楊蝉にはちょっと合わないかもって感じのデザインだ

「そうやな…楊蝉姐さんなら……」

鬼神は楊蝉の顔を浮かべながら手に取った

その楊蝉の顔はどんな顔をしているかは鬼神にしかわからない

オマエが決めるんだ、楊蝉の笑顔を

「これが楊蝉姐さんに1番似合うと思う」

鬼神が手に取ったのはシャクヤクのかんざしだった

「俺もそう思うよ」

笑って俺が言うと鬼神はもうそれ以外考えられないと大事そうにレジへと持って行った

そして、鬼神は楊蝉を呼び出した

鬼神が俺に近くにいて!!と言われ、また隠れて2人を見守るコトになる

プレゼントするのがはじめてらしく緊張するとのコト

仕方ねぇやっちゃな、香月まで付き合わせちゃって

「鬼神様…私、貴方様に謝」

「楊蝉姐さん!これ!!」

緊張のし過ぎか鬼神は楊蝉の話を遮って綺麗にラッピングされたかんざしを押し付けるように渡す

「これを……私に?」

「気に入って貰えたらええんやけど…開けてみて」

鬼神が照れてる

それは少しでも楊蝉に対して特別な気持ちがあるのか、ただ単に女性への免疫がないから出るものなのか

わからないが、少なくとも楊蝉と仲直りしたいってコトはそれなりに最低でも友達くらいの想いはあるんだろう

「シャクヤクの…かんざし……?」

包みを開けて驚いた楊蝉はそれを手に取って涙を零す

「えぇ!?あかんかった!?気に入らへんかった!?」

楊蝉の涙に焦る鬼神、楊蝉は首を横に振って涙を指で拭う

「違いますわ……嬉しいのです…でも、複雑なんですの」

「…嬉しいのに、複雑?」

楊蝉は切ない笑みを見せて、鬼神に自分のコトを打ち明けた

「鬼神様…私は黙っていた事がありますの」

「おう…」

「私は千年ほど前に旦那様を亡くした未亡人でして、鬼神様はその最初の旦那様によく似ておられますわ…」

「それは辛い話やな……わしがその旦那様に似てるなら」

「いえ、鬼神様が悪いのではありませんわ

私がいつまでも……

私が悪いのですわ、鬼神様を旦那様に重ねているんですもの

でも……とてもよく似てらっしゃいますの

姿形も性格も似てはいませんのに

優しい所と雰囲気……そして、はじめてのプレゼントはシャクヤクのかんざしでしたわ」

そう言って楊蝉は大事にいつも持ち歩いていると、旦那様に貰ったシャクヤクのかんざしを取り出した

千年以上前なのに、そのかんざしは綺麗に手入れされていて今でも十分楊蝉を着飾ってくれる

「さすがに同じデザインと言うわけにはいきませんが…でも、驚きましたわ」

「大事にしてるんやな」

鬼神の笑顔に楊蝉は目を逸らす

「……お嫌じゃありませんか…?私は貴方様を別の方に重ねて見ていたのですよ

そんな私に…まだそのように笑いかけてくださるなんて…」

「別に仕方ないやん、誰かに似てる事なんてよくある事やし

それでわしはたまたま楊蝉姐さんの旦那様に似てただけや

想いが強ければ強いほど、似てる人に被るのは仕方ない事なんとちゃうかな」

「私は嫌ですわ…誰かの代わりみたいで」

「結局はその人の代わりにはなれへんのは自分自身がわかってる事やろうし

どんな気持ちか、他人のわしには全てはわからん

少なくとも楊蝉姐さんがどれだけ辛い気持ちか、見てわかるから

責める事はわしにはできへんよ」

「鬼神様……」

楊蝉は鬼神の言葉に微笑みながらも涙を流す

目の前で女性に泣かれ鬼神はアタフタしてどうしたらいいか俺の方をチラチラ見てくる

好きならそこで抱き締めろ!って言うけど、鬼神はどう思ってるかわからないからとりあえずそのまま優しくしとけと合図する

男前や…大人や…

恋愛経験皆無で女性に免疫がなくて、さっきまで1キロシリーズに固執してたあの鬼神が

千年以上生きてるからなのか、器がデカく包容力ある頼もしい奴だ

俺だったら嫌で怒って喧嘩になるかも…

香月が…和彦が…俺じゃない誰かを想って重ねてたら…

そんなの想像しただけで死ぬ

だから…鬼神は凄いな

「楊蝉姐さんはわしをちゃんと見てくれてるから、辛そうな顔するんやってわかった

そこまで想われる楊蝉姐さんの旦那様ほど立派やないけど、重なってしまっても構へん

気持ちが落ち着くまで、いつまでも待つよ」

「旦那様……私は…」

もしかしたら楊蝉は最初の旦那様以外に本気になるコトを悪いと思っているのかもしれない

優しくしてくれる鬼神に抱き付くコトも出来るのに…頼れるのに

それをしなかった

この2人の先がどうなるかわからないが…

楊蝉には自分の気持ちにウソつくコトなく幸せになってほしい

「ね~無理でしょ?」

「わっ!?光の聖霊!?」

いつの間にか隣にいた光の聖霊に驚く

「時間が経てば経つほど2人の距離は縮まるの

最初の頃に私も頑張ればチャンスはあったかもしれないわ

でも、結局駄目かもしれない

だって楊蝉姐さん見てたら支えたくなるでしょ

私が男だったらそう思っちゃうわよ

本気になる前に引く方がいいわよね」

「光の聖霊…」

俺もその立場なら身を引くかもしれない

辛い立場だな……

「あんたが背中押してくれた事は嬉しかったけどね

イジイジしてた私は自分でも嫌いだもの」

光の聖霊も強そうに見えて、でもやっぱり女の子だから内心は酷くショックを受けていると思う

なんて言葉をかけていいかわからず迷っていると

「あれ?セリ様と香月様だけじゃなくて光の聖霊もおったんか」

話が終わった鬼神が俺の様子を見に来た

「楊蝉姐さんの事泣かしたら承知しないんだから!」

「えっ?あっそうそう、光の聖霊に渡そうと思って」

鬼神は俺の知らない間に光の聖霊にもかんざしを買っていたようだ

俺の確認なしで買ったかんざしは1キロシリーズではなかったが、やっぱりセンスは悪い

「楊蝉姐さんと仲直りするのに見てたら光の聖霊に似合う思てな」

受け取った光の聖霊はパーッと顔を明るくさせて嬉しさ満開だ

「鬼神が私にプレゼント…?ねぇ勇者これって脈ありじゃない!?

楊蝉姐さんとは仲直りするためのプレゼントでしょ

私は何もないのにプレゼントよ!?」

…どうだろう…鬼神はそこまで深く考えてないような……

恋愛の駆け引きとか出来ないから純粋に良いと思ってのプレゼントの可能性が高い

硬派で男の中の男みたいな奴だから二股とかはないだろうしな

「それからわしが1番のお気に入りは我らが天女セリカ様にプレゼントしよう思ってな!!」

鬼神は一際テンションを上げて俺に1キロシリーズのブレスレット…いやもはや腕輪を見せて押し付けるように渡してきた

「それから離れろって何回言わせんだ!!!!凶器じゃねぇか!?」

鈍器のようにして鬼神を殴る

大したダメージもなくハハハと笑っている

「へぇ…やっぱりそうみたいですよ楊蝉姐さん」

「そうねぇ…鬼神のお気に入りはずっとセリカ様ですものね…

セリ様はセリカ様ですもの、わかっておりますわよね」

確実にいじめられる!!?火の粉が飛んできてる!?関係ないのに!?

楊蝉と光の聖霊の2人から物凄い剣幕で詰められていると、出発の時間が来たのかイングヴェィとセリカが合流する

「あらみんな早いわね、仲良しね」

どこをどう見たら仲良しに見える!?いじめられる1秒前だけど!?

「セリカ様!わしが選んだ最高のプレゼントを受け取ってください!!」

鬼神は俺から鈍器じゃなかった腕輪を貰うとセリカに差し出す

が、セリカは微笑んでそれを断る

「鬼神のみんなからなら受け取るけどオマエからだけのプレゼントは受け取れないわ

気持ちは嬉しいけど、ごめんね」

一見冷たそうに聞こえるが、セリカは状況を察する能力も高く個人的に受け取るのは火種の元とわかって判断した

相手に期待を持たせないと言うハッキリした態度も相手への優しさだ

鬼神はショックを受けるが、楊蝉と光の聖霊の燃える気持ちは火消しできた

2人に対して、セリカが鬼神に冷たくするコトで鬼神はセリカをそれ以上の特別には見ないと判断して敵じゃないと安心する

まぁ鬼神が冷たくされるのが気持ち良い性癖だったら話は別だが…

「セリカ様はセリカ様でしたわ、私ったら」

さっきまで俺のコトいじめようとした楊蝉はコロッとセリカに懐く

元から楊蝉とセリカは仲良しだし、楊蝉もセリカをいじめたくはないだろう

だから俺に八つ当たりを……

光の聖霊は自分に似合うと言われたかんざしを眺めて嬉しそうだ

センス絶望的なのに……

「鬼神はきっと私の事が好きなのね

レイは一度もプレゼントしてくれなかったもの

だからプレゼントするイコール好きなのよ」

極端な……

「別に好きとか恋人とかじゃなくてもプレゼントくらいするだろ、俺だってしたコトあるし」

誰かの行動に一喜一憂するのは、好意があるからなら

光の聖霊はかんざし1本でまた想いが募る

鬼神の気持ちがわからないから、何も言えないしな

みんな頑張れと応援するしか…

そんなこんなで俺達は街を出て次の街を目指した



なんやかんや1日早くペットのイベントが開催される街に着いた

休むにはまだ早すぎる時間だし、でも観光する場所もそんなにないようだ

この街は何かしらイベントを開催して人を集めているらしいから、イベントが切り替わる準備期間などは人も少ない

「セリ、私はイングヴェィと話があるので夜まで好きにしていてください」

みんなでランチを食べていると香月とイングヴェィが俺達から少しの間離れるコトになった

「セリくんもセリカちゃんも、鬼神が一緒だから大丈夫だとは思うけど1人で行動しちゃダメだからね」

うっ…1人になると何かしらトラブルになる可能性が高いとわかってるからイングヴェィに釘を刺される

とりあえず元気に返事だけはしとく

香月とイングヴェィがいなくなって、ランチのデザートを食べながらお茶を飲んでると

光の聖霊が向かい側のお店を指差す

「ねぇねぇ夜まで暇なんだし、皆でカラオケに行かない!?」

「良いですわね」

光の聖霊も楊蝉もカラオケが好きなようだ

「カラオケってなんや?」

千年封印されていた鬼神はカラオケの存在を知らなかった

簡単に言うと歌を歌う場所だって教えると、歌うのも盛り上がるのも好きなのか鬼神もノリノリだ

「カラオケか~、前の世界振りか?」

前の世界でもそんな行ってないけど、和彦と付き合ってからはまったく

よく行ってたのは幼なじみとか…

みんなカラオケを楽しみだと盛り上がり、俺達はカラオケへと移動した

「お~部屋広いな」

カラオケって結構部屋が狭いイメージだが、ここはそれなりに広くて快適だ

「懐かしい~!カラオケ!」

セリカも久しぶりのカラオケに楽しそう

「ドリンクは自分で取りに行くタイプか、みんな何がいい?」

「私メロンソーダ!ソフトクリーム付き!!」

光の聖霊にソフトクリームはねぇよって言いかけたが、ここはソフトクリームも食べ放題らしい

「私は烏龍茶をお願いしますわ」

楊蝉は烏龍茶と、セリカは聞かなくても俺と同じでいいか

女の子が曲を選んでいるうちに俺は飲み物を取りに行くコトに

「わしも一緒に行きますよ」

鬼神が1人じゃ大変だろうからってついてきてくれる

「鬼神は何飲むん?」

「全混ぜで」

「アホやん!?ハハハ、おもろ」

「美味いもん混ぜたら美味いに決まってるやろ」

って言いながら本当に全部混ぜやがった

コーヒーと焙じ茶とオレンジジュース(その他)ってヤバいやろ

「どれどれ…マズ!?」

味見と鬼神は自分の作った飲み物を口に含めると顔を青ざめて飲み込んだ

「罰ゲーム!!マジ罰ゲーム!!」

って言いながら一気に飲み干した

「なんの罰ゲーム!?何したんだよオマエ!?なんの罰受けてんの!?」

「ふぅ…真面目に決めよ」

痛い目みないとわからんタイプ

真面目でと言いながら、鬼神は思い詰めた顔で俺を見た

「コーヒーと牛乳って混ぜたらヤバいと思わん?」

手を出したらもう戻れないと冷や汗までかいてる

「ヤバいやろな、失神するやろ」

美味すぎて

「やっぱり?命なくすかもしれへん、わしが死んだら…骨拾ってや!セリ様!!」

覚悟を決めて鬼神はコーヒーと牛乳を混ぜて飲んだ

「うまーーーーーーーーい!!!!奇跡のコラボ!!神の飲み物生み出してしもうた!」

感動した!!と鬼神は爽やかに大袈裟にコーヒー牛乳の美味さを身体で表現する

「ハハハハ!!!しょーもない!しょーもないのにおもろい!!普通のコーヒー牛乳や!!」

グッと親指立ててきてめっちゃ腹立つ、でもそういうのめっちゃ良い

鬼神は面白い奴だ

みんなの飲み物を入れ終わって部屋に戻ると、楊蝉と光の聖霊が曲を入れていない時に流れる映像にキャアキャア言ってた

「この芸能人イケメーン!!」

「カッコ良いですわね」

また別の男性アイドルグループが出て歌っているのを見てると、楊蝉と光の聖霊はドキドキする~とか甘い~とか言って盛り上がっていた

俺は男だからか…その甘ったるい歌詞が苦手かもしれない

でも、こういうのサラッと言えるのがイケメンなんだろうな

女の子達の心を全部かっさらっちゃうんだもん、スゲーよ

「お姫様だって、ヤバーイ!!」

「王子様ですわ!ですわ!」

イケメン好きな2人とは反対にセリカは興味ないと飲み物を受け取った

「俺はセリカもこういうの好きだと思ってた」

セリカは俺だけど、男の俺と違って女の子だし

「私は芸能人とかに興味ないもの

なんでそんなにキャアキャア言えるのかわからないわ」

セリカってクールだよな

まぁ俺だから、俺が苦手ならセリカも苦手なんだろう

「あ~イケメンは目の保養!まっレイが1番のイケメンだけどね~

それじゃっ私1番!歌いまーーす!!」

自由な光の聖霊はイケメンの映像が終わるとパパッと曲を入れて歌い始めた

可愛い光の聖霊らしく、可愛い曲を可愛い声で歌う

しかも上手い!

鬼神は盛り上げ上手!!

「とまぁこんな感じよ!」

終わってみんなで拍手

「次は私が歌いますわ」

楊蝉の歌は大人っぽく色っぽい、そしてやはり上手い!!

鬼神も、空気読んで大人しく聴いてる

「如何でした?」

終わってみんなで拍手

「わしも歌わせてもらうで~!!わしの歌声を聴けーーーー!!!」

鬼神は……ネタに走ったーーーー!!!??

台詞も所々アドリブ入れて自分でボケてツッコミして、俺は死ぬほど笑ったが

俺以外誰もウケてない!滑ってる!!空気しんどい!!

関西のお笑いはこの世界では通用しないのか!?

「笑ってくれるんセリ様だけや…」

「俺達の笑いはこの世界じゃ早すぎたんや…」

慰めていると、セリカの順番が来て鬼神はセリカの歌声は聞かなきゃって姿勢を伸ばした

セリカが俺にもマイクを渡してきて、知ってるアニメの曲だから歌えるな

可愛いテンポだけど切ない歌詞なんだよなこの曲

あっ流れる映像がアニメのやつだ

このアニメの…なんのキャラだっけ

1番が終わって2番のサビの部分で突然セリカが悲鳴を上げた

「きゃあああああ!!!!」

「ッどうした!?何かあったかセリカ!?」

「ヤバい!好きなキャラ出てきた!!カッコ良い!!」

どうやらセリカの好きなキャラが出てきて、歌どころではないようだ

さっきまで「キャアキャア言えるのよくわからないわ」とかすましてたくせに!?

さっきのイケメン達にキャアキャア言ってた女達と一緒やないかい!!

所詮セリカもメスだったんだ

それが二次元か三次元かの違いなだけで…

セリカは二次元に恋するタイプの夢女子だったな…

そうして歌い終わると、休む暇もなく光の聖霊が勝手に曲を入れて一度置いたマイクをまた俺に渡してきた

「このレイの曲、私好きなのよね

あんたの曲でもあるし、どうせなら踊って歌ってみせてよ」

まさか自分の曲をカラオケで歌う日が来るなんて思わなかった…

レイの曲は有名だし、カラオケに入っててもおかしくないよな

曲が流れたら身体も勝手に反応する

「いいよ…久しぶりだし、楽しいな」

コンサートで歌うよりカラオケで歌う方が恥ずかしいかもしれない

でも、レイの曲はそんな恥ずかしい気持ちも消し去ってくれる

すぐに入るコトだってできる

俺は光の聖霊のリクエストしたレイの曲を完璧に歌って踊ってみせた

「セリ様可愛かった~!」

「セリ様、素敵でしたわ

アイドルのセリ様にカラオケで歌って頂くなんて贅沢ですわね」

鬼神も楊蝉もありがとう、照れるけど嬉しい…

できればカッコ良いもほしかった……俺の歌も振り付けもカッコ可愛い感じなのだ

カッコ良いが入ってる、ここ大事

「はいはい可愛かった可愛かった

レイの曲はいつ聴いても素敵でうっとりだわ

明るい曲なのにどこか切なさを感じるのがレイの曲の特徴で惹かれるのよね」

光の聖霊はとりあえず拍手みたいな感じでレイの曲に満足する

どこか切なさを感じる…か、それは俺もいつも思ってた

そこがまた良いのも…

ふと、光の聖霊は思い付いたようにセリカに話を振った

「ねっセリカもさっきの曲、歌もダンスも完璧なはずだよね?」

「そうね、私はセリくんだから当然同じように完璧に歌えるしダンスも出来るわね」

俺だからセリカは当然同じように出来るとわかってるが、そういやセリカのそういうの見ないな

自分がどんな風に見えてるのか、俺も見たいかも

セリカの返事を聞いた光の聖霊はさっきと同じ曲を入れてセリカにマイクを渡した

曲がはじまると自分の身体が反応するのを抑えて、セリカの歌とダンスに釘付けになる

セリカは可愛い…でも、その歌もダンスも、その姿はちゃんとカッコ良く可愛かった……

みんな俺を可愛いって褒めてくれるけど、ちゃんとカッコ良いもあるじゃん!!

それを知って安心と言うか…嬉しい……

1曲歌い終える頃にはみんなの反応が気になる

「セリカ様可愛かった~!」

鬼神は同じ反応、当然か…俺なんだもん

みんなの反応が変わるコトは……

「キャアアアアアアアアア!!!!セリカ!カッコ良い!!!超イケメン!!彼氏になって!!」

「キャーーー!!素敵でしたわ!!とてもこれほどまでにカッコ可愛いが当てはまるなんて、さすがセリカ様ですわ!!」

光の聖霊も楊蝉もベタ褒めでセリカに抱き付く

……………いや…俺じゃん!?俺は!?何この差!?

「セリカは男前だもんね!」

「男装なさってみては、もっとカッコ良いですわよ」

「それもう俺だよね!?俺だぞ!?」

なんで俺とセリカの時と反応が違うんだって口を挟むと、光の聖霊がわかってないわねと冷めた目を向ける

「宝ツカの男役と同じ感じで、男が男役するのとはまた違うのよ!!女が男役するから魅力的なのよ!!」

えーーーーー!?なんだそのわかるようで悔しい負け方!?

セリカが俺を見て、ふって笑うー!?自分の方が女の子にモテるって俺を笑うよ!?自分なのに!?

わかってねぇのは、オマエらの方だ!セリカが男になったら俺なのに!!

そんなにセリカが好きなら、俺が女になったらセリカなのに…うー

「わしはセリ様もセリカ様もどっちも素敵やったよ、可愛かった」

鬼神が慰めてくれる、優しい…

でも、セリカはイングヴェィの前だけは女の子なんだよな

自分をずっと女の子でいさせてくれる、本当の自分でいられるコトが幸せなんだって

スゲーわかる

だって、セリカは俺なのに

イングヴェィの隣にいる時だけ俺じゃないんだから

そんな女の子なセリカが死ぬほど可愛くてたまらないけど、今回は悔しい……

それから俺達は好きに歌ったり喋ったり楽しい時間を過ごす

みんなが歌い疲れた頃、曲を入れていない状態で流れる映像にまた無意識に目が行く

今度はイケメンが映っておらず、楊蝉と光の聖霊はまったく興味なくお喋りしている

「は~今時の女人はスカート短すぎへんか、可愛いから目のやり場に困るわ」

「俺は何も思わんけど、千年も時間止まってたような鬼神からしたら刺激が強いか」

パッと次の映像に切り替わると、目だし帽を被った見るからに怪しい男がイケボでインタビューに答えている

「こいつ信用ならへんわ~」

「ククク……っ急に…何」

「言ってる事立派やのに全部嘘臭く聞こえる」

「強盗帰りやろ」

「えっ!?凄いセリ様!わしが不安に思ってた事一言で当ててくるやん!?

このインタビューしてるねぇちゃんの顔が完全に大金掴まされてると思うねん

笑顔が信用ならへん」

「アハハハ!!…何それ、しょーもない!ひでぇ、人を見た目で判断するなんて」

と言いつつ、俺もそう思ってる

少しするとCMだったのか、最後の最後でボロを出してきた

「誰でも簡単にすぐ大金を稼げる!!まずは連絡をください」

この一言で、コイツらは人は見た目のパターンになってしまった

「詐欺CM!?本当の悪党やったんか!?」

「笑えへんぞ!?」

ネタじゃないんかい!!怪しい感じにしといて実は良い奴なんかい!って流れじゃなかったのか!?

俺達のオチを潰しやがって!!

オチが潰されたコトに、2人で吹き出して笑ってしまう

「男子ってしょーもない事で盛り上がるわよね~」

「いつまでも子供って言いますもの」

光の聖霊が冷静に頼んだお菓子を摘まみながら、楊蝉は温かく見守ってくれる

セリカは我関せず

「いやー、面白かった

鬼神って面白い奴なんやな」

そう言うと鬼神は誰が頼んだかわからんカレーに付いていたナンを持って

「ナンってなんなん~!?」

ってふざけてきた

「ウザッ!?超ウザ~アハハハ、腰痛いからやめて」

アハハと俺は鬼神を押し退ける

爆笑すると腹じゃなくて腰が痛くなる俺の身体の不思議、なんで

またみんなのドリンクのおかわりを取りに鬼神と一緒に部屋を出る

「あ~こんなふざけて楽しいのめっちゃ久しぶり」

涙出るくらい笑ったと鬼神と喋りながらもみんなのドリンクのおかわりを忘れないようにしないとな

楊蝉はアイスコーヒー、光の聖霊はジンジャエールだったか

セリカは俺と同じだから今回はココアな気分かな

「セリ様がそんなに笑ってくれるなんて思わへんかった

他の鬼神もいっつも冷たい目で見て来ますもん」

それは…辛かっただろうな…千年以上ボケても誰もツッコミしてくれないとか、笑ってくれないとか

俺も和彦やレイの時は軽めのおふざけくらいはたまにするととりあえずは笑ってくれるが全力ではしない

そういうタイプじゃないってわかってるし

香月なんて一切無理、ちょっと冗談言っただけで気まずい雰囲気になる

なんか言って!!ってなる

フェイは論外、それこそ冷たい目を向けられて何言われるか…

かと言ってみんなといるのはちゃんと楽しいし苦じゃない、フェイは除く

でも、鬼神とは全力でバカやれて笑えるってのが……物凄く懐かしく感じる

「気を使ってくれてるんだろうけど、敬語じゃなくてええよ

鬼神の普段通りで話してくれた方が俺も気楽やし」

「ええの!?わしのこの喋り方、仲間から変や言われるんやけど

セリ様が同じ喋り方するって知った時は嬉しかったな~」

「地元一緒の和彦も喋れるハズやけどな」

「えー!?和彦様も!?意外や!!」

とは言ったものの中学の時に同じクラスだっただけで、その時はそんなに話したコトもないし

和彦がどんな風に生きてきたか知らない

あの和彦の性格からして中学の時に強引な関わりがないのは、中学の時から俺を気にかけていたワケじゃないのか

大人になって再会したのも偶然だったし

でもその再会した時に和彦は俺の見た目が好きだって言ってたよな

いやでも気にはなってたとか言ってたような…所詮アイツも中学の時は子供だったってワケか、可愛いとこもあったんじゃん

中学の時から恋人……ってなってたら…どうだったろうか……和彦は…和彦なら……助けて

いや…子供の頃のコトを思い出すのはやめよう

過去は俺を殺す

「あっセリ様!?それジンジャエールじゃなくてリンゴジュースやで!?」

余計な考え事をしてたらドリンクのボタンを間違えて押してしまったみたいで、鬼神に言われてボタンを離したがもう遅かった

「……えっ!?あっヤバ…リンゴジュース半分くらい入っちゃった

いいや、これは俺が飲んで光の聖霊の分は新しく入れ直そう」

「でもセリ様はココアの口なんやろ?」

鬼神は任せとけと言わんばかりに自分の胸を拳で叩いた

「わし、ちょうどリンゴジュースの口やってん」

優しくて面白くて

「ウソつけ、コーヒー牛乳にハマったおかわりって言ってたやん」

鬼神は俺からリンゴジュースの入ったコップを奪い取ると、強引にコーヒーと牛乳を混ぜて飲んだ

「まず……いや、意外にイケるでこれぇええ!!」

「ホンマか?」

鬼神は奇跡の発見とか目を輝かせて俺に一口飲んでみ?とコップを返した

コーヒーは苦手なんだが、せっかくだしとちょっと飲んでみる

うーん…俺はやっぱりコーヒーの味が苦手やから、でも好きな人は好きな味かも

俺の失敗も上手く対応してくれる鬼神の優しさに笑顔で返す

すると、鬼神も笑ってくれる

「それじゃセリ様、皆の分入れたし戻ろか」

すっかり鬼神と意気投合してしまった

楽しい奴、面白い奴

他の誰にも引き出せない俺を引き出してくれる

昔の幼なじみの親友を思い出す…

「セリ様って、様付けしなくてええよ

セリって呼んでくれても」

俺も鬼神を前の世界の幼なじみで親友だった男に重ねてしまっている

鬼神は鬼神なのに、一緒にいる楽しさも面白さも相性の良さも…とてもよく似ていたから……

「セリ様……それは出来ません」

言われて、俺の心を見透かされて突き放されたのかと思った

「セリ様とは気が合うし、一緒にいておもろいし楽しいけど

セリ様はわしの主人である和彦様の恋人ですから、呼び捨てには出来ません

それに我らが天女のセリカ様であるセリ様を呼び捨てになんかしたら他の鬼神に殺されるで」

呼び捨てにしただけで殺されるって過激すぎる!?

鬼神の中でセリカが憧れの天女様になっているから抜け駆けは許さないってなってるんだろうか…

和彦の話も納得しかないか、自分の主人の恋人を呼び捨てになんて恐くてできないよな

あのフェイですら俺を呼び捨てにしないし

俺の考えが浅くて、自分のコトしか考えてなかった…

「悪い…鬼神、俺は自分の立場をわかっていなかった

一緒にいて楽しい友達みたいに接してたな」

でも…ちょっと寂しい、せっかく友達になれそうなのに

「セリ様は悪くないで!?呼び方だけで、わしは何も変わらへん

セリ様と今日みたいにおもしろおかしく付き合えたらええって思ってるし

それが友達って呼んでええなら、わしはこんなに気の合う友達に出会えたんはじめてで嬉しいわ」

「………鬼神…」

オマエ…やっぱ、めっちゃ良い奴……

だから楊蝉も光の聖霊も惚れたんだろうな

良い男だもん

「ありがとう、みんなのおかわりも入れたしそろそろ戻ろうか」

全員分のコップを持って戻ろうとした時、ちょうど団体のお客さんがやってきていた

それを見た鬼神がポツリ

「知らん人しかおらんな~」

「当たり前や!!」

死者の国じゃないし、はじめて来た街だ

この広すぎる世界で知り合いに偶然会う方が凄い

「うは!それそれ!セリ様の鋭いツッコミ最高!」

素早い反応がベストと鬼神は喜んでいる、楽しそうだな俺も楽しいわ

知らない人達のハズだった

だが、ふとその団体を見ると見知った顔に嫌な気持ちが蘇る

顔に出やすいのか、俺の様子が急変した鬼神はどうしたん?と気遣ってくれる

「…セリ様?」

声をかけられてハッとした俺は鬼神の後ろに隠れた

何も言わない俺に鬼神も何も言わずにそのままでいてくれた

まさかこんな所でも会うなんて……

ある意味、噂をすればってやつなのか…?

団体は若い男女で、その中には前の世界の幼なじみの親友だった男の姿があった

この世界に来てから…二度目か?会うのは…

でも、会いたくは…ないな、やっぱり…

前も俺にキツかったし

はじめての俺の友達はレイじゃない

いくつもの前世を思い出しても、友達はいなかった

そんな俺にはじめて出来た友達は、前の世界で幼なじみだった男だ

面白くて友達思いで、とにかく良い奴

いつも2人でバカやってアホやって、しょーもないコトで笑って楽しかった

まぁでもそんな親友にも、義理の親父のコトなんて一切話してないワケだが…

とにかくその友達は死ぬまで友達だと思うほど仲がよかった

だけど、ソイツが俺の全てを知らないように

また俺もソイツの全てを知らなかった

中学生の時に同じクラスだった同級生の和彦

大人になってから再会して、なんやかんやあって俺は無理矢理和彦の恋人になってしまった

当時の俺は和彦のコトが大嫌いだったし、義理の親父と同様に知られたくないコトだったから親友には話したコトがなかった

なんとなく、中学の時の北条和彦って覚えてる?くらいは聞いたコトあるが

親友は同じクラスじゃなかったから、顔くらいはって感じだった

そんなこんなで、時間が経って俺は少しずつ和彦を好きになりかけた頃

たまたまだった…本当に…ただの偶然

和彦と一緒にいる所を見られた

しかも最悪なコトに、キスしている時に……

夜だったから、暗かったから、誰もいないから

気を付けていたつもりだったが…たまたま…本当に最悪の偶然

親友の俺を見る目は厳しかった

もう…友達でもなんでもない

厳しい視線と冷たい言葉

「気持ちが悪い」

それから何度か連絡を取ってみたが、完全に避けられたと言うか一方的に絶交されたと言うか…

俺は親友を失った

今でもたまにその言葉が頭を過る

親友から気持ち悪いと言われたコトは酷く傷付いたし、失ったコトは悲しいし辛いし寂しいが

それでも俺は和彦が好きだ…離れたくない

自分の気持ちにウソついて生きたくない

他人の価値観もどう思うかは自由で、男の俺が男の恋人がいるコトに誰がどう思おうが構わない

でも親友だからこそ……欲を言えば…俺のワガママだけど、理解して貰いたかった……

俺を気持ち悪いと思うのも、オマエの自由なのにな…自分が傷付きたくなかったと押し付けてる俺が悪いのに

「セリ様、もう大丈夫や」

暫くすると団体は消えていて、俺はホッと胸をなで下ろした

鬼神は何も聞かずにいてくれる

なのに…俺は…なんでこんなコトを聞いてしまうんだろう…

「鬼神は…和彦と俺が恋人なん……どう思う?」

こんなコト聞かれたら、困るってわかってるのに

「ん?そうやな、和彦様はセリ様の事はとても大切になさってるし

ある意味一途?めちゃくちゃ惚れ込んでるし、羨ましいくらいの関係やんな

わしもそれくらい愛し愛されるような恋愛したいわ

ええ関係やと思うで

もし和彦様が悪い奴やったら許さへん」

………その言葉は、俺の幼なじみの親友に言われたかったんだって理解してほしかったんだって、心に染みる

安心したかったんだ……

そんなコトないって……いつも、消したかったんだ

いつも残る…消えるワケじゃないのに

でも、楽になった……

フェイも……あの時、俺のコトは気持ち悪くないって言ってくれて……嬉しかった

鬼神は鬼神だ

他の誰でもない

「泣くなや~、セリ様泣かしたら和彦様に怒られるんわしやで?

仲間の鬼神からも天女様泣かしたって八分にされるわ」

「泣いてねぇよ」

笑いながら涙を拭う

単純に嬉しかっただけ

胸につかえていたものがスッとなくなったような気分だ

もう…思い出さなくても良いコトだよな

忘れなきゃ

「それじゃ、戻るか」

ちょっとふざけたりしてて遅くなったけどって笑っていると、急にゾワゾワと気分の悪さと一緒に鳥肌が立つ

なんだこの…最悪な気分は……

もしかしてセリカに何か、女の子達に何かあったのか?

セリカが感じるコトは同じように感じる

そこから読み取れるのは嫌な予感しかしない

俺の様子が変わったコトに鬼神も気付く

「セリ様…どうかしたん?」

「セリカ達に何かあったかも…早く戻らなきゃ」

俺が言うと鬼神はわかった!と頷き俺達は急いで部屋に戻った

部屋の前では数人の男達がいて、その1人がセリカの腕を掴みどこかへ連れて行こうとしている

それを見た鬼神が目に見えてキレて相手を皆殺しにしてしまうんじゃないかってくらい怖い顔になる

普段の鬼神からは忘れていたが、本来鬼神は好戦的で強さこそが全て

封印前はあちこちで喧嘩をふっかけては暴れまくっていたと言う噂もある

女性に弱く、今は和彦の部下で大人しく見えていただけだが……

一度火がつけば、本性は隠しきれなくなるかもしれない

このまま鬼神は突っ込んでいくと思っていたが、急に立ち止まり俺は鬼神の背中にぶつかった

「わっ!ビックリした…?」

鬼神は手を出して自分より前に俺が出れないようにする

なんでだろ?って不思議に思いながら背中の影から顔を出して様子を伺うと、反対側の廊下から男達の仲間が1人合流する

「あっ……恋時…」

仲間の1人は前の世界の幼なじみで親友だった男だった

その姿を見ただけで出て行く勇気が出なくなる……

でも、セリカ達に何かしようとするなら…そんなコト関係ない

助けに行く

それなら鬼神が先に駆け付けるし、俺を足止めする理由は?

「おいこら、おめーら何やっとん

勝手に抜け出して、よそ様の女子に手出しすんなや」

仲間…に見えていたが、仲間割れか?

恋時の言葉に他の男達のイラつきが隠せない

「は~?せっかくの合コンも女は全員恋時に夢中

つまらない無駄な時間に付き合うほど暇じゃねーのよ」

「こっちはこっちで好きにさせてもらう!文句言うな!!」

確かに恋時はカッコ良いから昔からそれなりにモテる

女の子達がみんな恋時に心を奪われるのは仕方ない…可哀想だが…

俺もそうだった、女子はみんな恋時に夢中

「女子が嫌がってるやろ、その子っ……から、手を離せ」

恋時はその瞬間にはじめてセリカの顔を見た

言葉の途中で詰まったのは……

「おまーに言われると余計にやめたくね~な~!?ヒャハハハ!!」

興奮してる男は無意識に手に力が入っているのか、その強い掴みにセリカの顔が痛みに反応する

俺の手首にも、その痛みが伝わり赤みが増す

折れる折れる!?回復魔法を使えば痛くはないし最悪折られてもどうとでもないが不快感は募っていく

「後で殺す…!」

それを見た鬼神が本格的にキレた!?でもすぐに助けに行かないのはなんとなくわかっていたんだと思う

「言うて聞かへんならしゃーないな…」

呆れた恋時はセリカを掴んでる男に殴りかかった

たった一発で気絶させ伸びてしまった1人を見て他の男達はシーンと静まり返る

「文句ある奴はかかってこいや」

恋時の言葉に誰も逆らう気はもうない

全員でかかれば恋時だってしんどいのに、そこに集まった奴らは腰抜けばかりと言える

恋時は普通の人間でも強い部類に入る

モテるから女子守るには強ないとあかんやろってカッコええコトを実現してる

「……ちっ、もう行こうぜ」

誰か1人が言うと全員大人しくその場から去っていく

伸びてるお仲間も一緒に連れて帰ってやれやと思うが、集まった奴らはそんな仲ではないのかもしれねぇな

「大丈夫なん…?」

落ち着いた所で恋時がセリカを見下ろす

「えぇありが……あの…なんですか?」

セリカはジロジロ見てくる恋時を怪訝に思う

「いや……知ってる奴に、めっちゃそっくりやな~って……」

「ナンパ?」

さらにセリカは恋時を警戒する

結局はオマエもさっきの奴らと一緒なのかと鋭く睨む

セリカの後ろで楊蝉と光の聖霊がイケメンなんだからナンパなら受け入れなさいよ!とかなんとかよくわからんコト言ってる

セリカはガードが固いから無理だぞ…

恋時は確かにイケメンだが、セリカのタイプじゃないし

「ちゃうちゃう!!

そっくりやけど……やっぱあんたは女よな~……

声や雰囲気までそっくりやから、ビックリしてんねん

悪かったな、変な事に巻き込んで

じゃ~オレはこれで」

助けて見返りを求めないイケメンな後ろ姿に楊蝉と光の聖霊はカッコよかった~ってなんか女子っぽい盛り上がり方をしているが

セリカはなんとなく恋時が俺の知り合いなんだろうってコトを察したようだ

俺は少し怖かった…

俺にソックリなセリカをちゃんと見たら……俺を思い出して気持ち悪がるんじゃないかって……

セリカにそれを言わなくてもセリカを通して嫌な顔は出るかもしれないなんて…

でもそんなコトなかったし

恋時は途中でセリカを見て俺にソックリだと気付いても、ちゃんと助けてくれた

良い奴なんだよ……ちゃんと良い奴なんだって知ってる

何も変わってない

オマエと俺の友情は壊れても、恋時の人柄が変わるワケじゃない

もう戻れないけど、俺はオマエと親友で良かった

全て受け入れてもらおうなんて俺がワガママだったんだ

恋時には恋時の考えや価値観がある

それに俺は受け入れてもらえなかっただけで、恋時が悪いなんてのは絶対にないから

「恋時!助けてくれて…ありがとう……」

久しぶりの幼なじみで親友だった男に言葉を送る

「おわ?おれ、あんたに名前言うたっけ?まぁええわ

どーいたしまして、気を付けやあんた美人さんやねんから」

俺の声に振り返って、でも恋時はセリカの声としか聞いてない

振り返った恋時の笑顔は仲が良かった時の俺へ向ける笑顔と何も変わらなかった

セリカはそんな恋時に微笑んで手を振る

良い奴…ではあるんだよ……

だから、今でも親友でいたかったと思うよ

さよなら…恋時……

もしかしたら、また偶然どこかで会うかもしれない

その時はあの時みたいに嫌なコト言われるかもしれない、傷付くかもしれない

でも……俺はオマエが悪いと思わない

もちろん、俺は自分が悪いとも思わない

オマエは同性愛を嫌悪するタイプで、俺は同性が恋人

どっちも悪くない

ただ…合わなかっただけ…

俺は理解してくれなんて押し付けたくはないから、仕方ないコトなんだ

「……セリ様、大丈夫ですか?」

鬼神が俺を気遣ってくれる

大丈夫か?と聞かれたら…そりゃ俺も人間だから頭ではわかってても

やっぱ辛ぇよな

でも、俺は自分にウソ付きたくないし

無理したらしんどいだけだ

和彦が恋時のコトを「それまでの縁だったんだろ、気にするな」って言ったコトがあった

そうだな…時には友達の縁が切れるコトもあるよな……

辛いけど、そういうのは俺だけじゃないだろう

って言っても、俺の周りってちゃんと友達いるのか?って奴らばっかだが…

香月は絶対友達いないだろうし

和彦から友達の話なんて聞いたコト一切ないし

レイもフェイもお互い友達になる前はいないぽかったし

俺の周りって変な奴しかいないんじゃ……

「大丈夫だよ」

鬼神にはそう答えて笑った

「ならよかったわ

じゃわしはちょいっとばかしさっきの奴らぶっ殺しに行ってくるんで」

後で殺す!って発言忘れてない!?

鬼神は笑いながらも怒りが目に見えてわかる

俺の腕を掴み、手首が赤くなってるコトに怒り浸透だ

「我らが天女セリカ様の陶器のような白い肌を傷付けて許せるほどわしら鬼神は穏やかやないで」

「いやいや落ち着けって、そんな大したコトねぇし

傷ってちょっと赤くなってるだけやん」

すぐ治るやつ

「セリ様が止めても無駄やから!」

「相手は人間やぞ、鬼神が息吹きかけただけで死ぬような相手にムキにならんでも」

「いくら人間でもそこまで弱ないやろ!?吹き飛ぶくらいで息だけで人間殺せへんよ!?鬼神なんやと思ってるんですか!?」

吹き飛ぶんだ…恐ろしいな鬼神の息吹

たまにレイをからかうのに耳元で息吹きかけて遊ぶけど、それができないってコトか…

レイが何やっても我慢してるって反応見て面白がってる

いつも後で覚えてろよって言われて、笑ってるけどそのうち笑えなくなりそう

「とにかく、俺の言葉はセリカの言葉

やめてほしいって言ってるんだ

オマエはセリカの、女の些細なお願いも聞けないのか?」

「………セリカ様が…そうおっしゃるのなら……

ズルいわ~、セリ様が止めるだけなら殺しに行ったけどセリカ様が言うのとはまた違うからな」

「不快なだけで何かあったワケじゃねぇから、セリカは仕返しとか嫌がるぞ」

「わかりました!!」

俺とセリカは同じでも、やっぱり男の俺が言うより女のセリカが言う方が鬼神は聞いてくれるな

セリカが言うなら怒りは収めると鬼神は気持ちを切り替えてくれた

そうして俺達はセリカ達と合流した

イケメンに目がない楊蝉と光の聖霊は、暫く恋時が助けてくれたコトがドラマみたいでカッコよかったと盛り上がって話しているのを

俺はなんとなく気まずく、気にしないように鬼神と何気ないアホな話を繰り広げて

香月とイングヴェィが戻るのを待った

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