180話『空想を抱きしめて』セリ編

和彦達と一緒に死者の国に帰ってきた

レイはコンサートの後片付けとかで忙しくて結局会えてないっけ、フェイはレイと一緒だし

なんか久しぶり!って感じ、そりゃそうか1ヶ月振りくらいだもんな

「セリカ、もうイングヴェィに会えなくて寂しくなってないか?」

セリカの部屋でセリカとイチャつく、セリカは暑いから離れてとクールだ

俺はこんなに自分のコト好きなのに

「まだ数日しか経ってないのにそんなすぐ寂しくなるワケないでしょ」

……人にもよるが、俺がそうだからそっか

恋人のコトはめっちゃ大好きでも四六時中ベタベタするのは俺もあんまり好きじゃないもん

「セリカは俺がいるから寂しくない!!他の男になんてやらん!!嫁にしたい男は俺を倒してからにしろ」

「セリくん弱いじゃない…逆にセリくんだからこそ誰も倒せないかもだけど

そうね、私は私のものだからセリくんのものね」

イングヴェィだから許してるが、よくわからん男だったらどんな手を使ってでも始末する

イングヴェィは俺も好きで認めてるからな…

なんでかわからんが、イングヴェィが傍にいるとへにゃってなって甘えたくなる

イングヴェィの能力かなんかなんだろうか!?って思ったが、他の人に聞いたら別にって言ってたから不思議だ

「そういやイングヴェィとレイのコンサート凄かったな、なんかまた泣いちゃった

なんで2人の音楽って心に強く響くんだろう

レイの音楽が好きなのもあるけど、アイツ凄いよ本当

それにあのイングヴェィの歌声、人間じゃないな」

褒めてるぞ!?イングヴェィは伝説上の存在で人間じゃないから

「うん…とても切なく素敵なのよね」

「イングヴェィの声で名前呼ばれただけで死んじまう」

悪い意味じゃないぞ!?

香月も和彦もレイもフェイもそれぞれ良い声で好きだけど、イングヴェィは次元が違う

「綺麗で透き通って明るい心地良い声だよね

女っぽい感じじゃないのに、あの優しい高い声も私好きよ」

「思い出しただけで俺まで恋煩いしそう…

別に俺はイングヴェィにそんな感情ねぇけどさ

俺の方がイングヴェィに会いたくなっちゃってる!?

でもイングヴェィってめっちゃ優しいし良い匂いするもん」

大好きなみんなもそれぞれ良い匂いするけど、優しさは皆無だよな…たまに優しいくらい

「えー!でもセリカをイングヴェィに取られるのもヤダな~」

自分が好きすぎてセリカを抱き締めてキスしようとしたら手を突っぱねられ、窓の外を見たセリカが言う

「ずっと植物モンスターの出入りが激しいわね、死者の国では珍しい外からの客人かしら

帰る前より緑や花が増えたような気もするわ」

「それ俺が頼んだ、香月のとこで勝手に庭園作ってたから死者の国もお願いして和彦にも許可取ったぞ」

「和彦…セリくんに甘すぎだと思うの、死者の国のルール半分以上セリくんで決まってるよね」

そうか?死者の国に大きく影響するルールはそう簡単には変えられないみたいだぞ

「セリカが上手くバラ育てられないって言ってたのも見てほしいって頼んどいたぜ」

「本当?ビオトープも作りたいんだけど、お願いしようかしら」

……何それ…まぁ植物関係のコトなら全般オッケーだろ

死者の国は広いし、暫く植物モンスターは滞在してるだろうしな

俺も庭園がどんなの出来るか楽しみだし

いつの間にか植物モンスターはフラワーショップまで開いていて(たぶんこっちは無許可だよな…無許可で商売する奴多いな)

死者のお客さんも多く切り花や苗やフラワーアレンジメントやらがたくさん売れているようだ

窓からその様子を眺めていると鬼神の姿が見える

あっそうだ、鬼神に空の神のコト聞きたかったんだ

「俺出てくるよ、それじゃあセリカまた

イングヴェィに会いたかったら我慢せずに言うんだぞ!!」

「はいはい、いってらっしゃい」

セリカの笑顔に見送られて外へと急いだ

確かフラワーショップの近くにいて…こっちの方に歩いていたハズ

走れば追い付くかな

この先って…路地裏か

表通りとは雰囲気が違うな……薄暗いし人通もないしちょっとホラータウンを思い出すような感じで寒気がする

本当に鬼神こっちの方に行ったのかどうかも曖昧だし…まぁ死者の国、和彦の国だからヤバいコトにはならないだろうけど

恐る恐る…路地裏に足を踏み入れる

だって怖いの怖いもん!!

静かで俺の足音以外なく少し歩いた所で、ガッと手を強く掴まれた

うわーーー!?テレビで見るような怖いお化けは存在するんだ!?!?!?

夏だしたくさんいるのかも!?

ビックリしても振り向くのは怖くてぎゅっと目をつむる

振り返らなければそのうち離してくれる…たぶん

とにかく怖いの我慢……

「セリ…?やっぱり怒ってるのかい…こっちを向いてくれないって事は」

いや……オマエかい!?掴む前に先に声かけろや!!

ビビらせやがって……いやビビってねぇけど……

帰って来るの早かったんだな

振り向くとレイが悲しそうな顔をしてる

「驚かすなよレイ!!」

「えっ?」

「別にビビってねぇけど!?お化けなんて俺は見えないから存在しないもん!!」

「怖かったんだな、驚かせてすまなかった」

「怖くないって言ってるだろ!?」

はいはいとレイは笑って俺の目元に溜まる涙を指で拭う

別に……泣いてないし……ちょっと、目にゴミが入っただけだもん……

「セリは見えなくても、悪さをする悪霊はいるから気を付けろって遊馬が言ってたじゃないか」

「怖がらせたいんかオマエ……」

悪霊に遭遇したら勝ち目はないな、遊馬と違って俺達は悪霊と戦える霊力は持っていないからだ

遊馬と俺達は同じ世界にいても住む世界は違う不思議な感じだな

そんな遊馬はセリカに何かあればいつでも助けに来るから!って言ってくれたけど、出来れば悪霊には会いたくない…

怖くて泣くかもしれないじゃん……

こういう会話するとフラグになって何か起きそうじゃねぇか?ちょうど夏だし…

「セリ、ずっと会いたかった

あの時の事まだ怒っていたりするかい?」

あの時のコト…?1ヶ月前レイと最後に会ったのは……あぁフェイとめちゃくちゃしてきたやつか

「もうそんな1ヶ月前のコトなんて怒ってないよ

いつものコトだし

それにレイのコンサート凄くよかった

俺もずっと会いたかった、レイに…」

俺の心の中にはそれぞれの想いのスペースがあってすぐに切り替えられるようになってる

香月といる時は香月のコトだけを見てるけど、その隠れた下の方ではちゃんと和彦やレイに会いたい気持ちも募ってる

他の男といる時に他の男のコトに気を散らしたりはしないけど、想いはみんな平等に愛してるから

よっぽどのコトがあれば、話は別だが…

和彦が殺された時とかは和彦のコトしか考えられなかった

「セリ……」

レイに引き寄せられて抱き締められる

1ヶ月振りのレイの腕の中は懐かしくて愛しくて……でも、愛してるって言えない

こんなに好きなのに……

シンを倒さないと、レイと恋人にはなれないんだ

「キスしたい…」

「……外は嫌だけど、誰も見てないから…少しだけならいいよ」

1ヶ月も会えてなかったもんな、ダメなんて言えない

和彦に怒られてるし……

目を閉じるとレイの唇が優しく重なる

もっと…してほしいって思うけど、外は嫌だから少しだけをレイは守ってくれた

レイも我慢してるだろうな

こうしてキスしても…恋人じゃない、まだ……

「……それにしても、こんな路地裏に1人で来るなんて危ないじゃないか」

「ハッ!?そうだ、聞きたいコトがあって鬼神を追い掛けてて」

レイに話すと一緒に来てくれると言ってくれる

そして2人で路地裏を抜けると、鬼神に会うコトができた

「おっセリ様とレイやん、こんなとこに何か用が?わしは見回り当番やけど」

鬼神の言う通り、こんなとこは何もなく行き止まりではないが民家が続くだけで知り合いの家に遊びに来たでもなければ通らない道だ

「鬼神を見かけたから追い掛けてきたんだよ、聞きたいコトがあってさ」

ほう、と鬼神は懐中時計を取り出して時間を確認すると笑顔を見せた

「ええよ、ちょっと早いけど休憩時間にしてセリ様の話聞くわ」

鬼神は俺の背中に手を当てて来た道を戻ろうと言う

「戻った先にカフェあったやろ?あそこ楊蝉姉さんに教えて貰って美味しいらしいねん

パフェが有名やったかな、そのパフェがまた綺麗な色して可愛くてな~」

「パフェ!?食べる!!暑いからイチゴ味のカキ氷食べたいって思ってたけど、パフェ食べたくなってきた

楊蝉のオススメなら期待できるし、楽しみやんな」

ニコニコ笑顔になる

「カキ氷言うたら、今度夏祭りする事になってん

それでそれぞれ鬼神も屋台出すんやけど、わしカキ氷屋さんやるからセリ様食べに来てや~」

「マジ!?そんなん和彦から聞いてへんぞ!?」

「今日決まった事やからな、花火大会もやるで」

「うわ~!!めっちゃ楽しみで夜しか眠れへんくなりそう!!」

「健康的や!!」

鬼神の話を聞くと、死者の国は数日の夏祭りの間だけ外からの生者の出入りを良しとするはじめての試みだそうだ

前生死の神が死者と生者の関わりは禁忌として、立ち入るコトはできなかったが

(実際は入ろうと思えば入れて警備がバリ厳しいだけ)

俺もそれが当たり前で死んだら二度と会えないって仕方のないコトだと思ってた

でも、日本のあの世からこの世へ戻るお盆 の風習を取り入れた逆の発想を和彦がやってみようって

それなら俺もわかる気がする!!

前の世界じゃほとんどの人は見えないけど、この世界は触れるコトは出来なくてもちょっと透けて見えて話すコトができる

この世(外)からあの世(死者の国)に会いに行く

ハロウィンもそうだよな、先祖の霊が戻ってくるって風習

「もう死者の間でも広まってて、楽しみにしてくれてる人も多いねん

みんな生前の縁者達に会いたいねんな~

元花火職人って死者もおってやる気満々でな、鬼神も皆お祭り好きやし

わしも楽しみでたまらんねん」

「ええなええな」

「そういう事やから楽しみにしてや

ほなセリ様の話聞こか」

鬼神に背中を押されて来た路地裏を戻って歩く

すると、途中でずっと黙ってたレイが鬼神の手を掴んで俺の背中から離した

「セリのやんな…ええなええな…が可愛すぎて時止まってたが……

夏祭りそんなに好きなら色んな街のとこへ連れて行ってやるのに

ちょっと待て、あんた馴れ馴れしくないかい?」

「どしたんレイ?」

鬼神は俺と変わらない笑顔でレイに聞く

あっ…これまたレイが勘違いしてメンヘラになってるな

「馴れ馴れしいって言ってるんだよ

セリにベタベタ触りやがって、話し方だって前は主人の恋人って弁えていたはずだ

オレがいない間に……」

鬼神の手を掴むレイの手を俺が掴んで離させた

「レイ、考えすぎだ

鬼神とはオマエが思うようなコトは何もねぇよ

この前ペットのイベント一緒に行って気が合って友達になっただけ

別にベタベタ触ってるワケじゃねぇし、これくらい普通の友達のするコトだ」

「香月さんと一緒だとオレに嘘を付いて内緒でデートなんて……」

「考えすぎだって言ってんだろ!!他のみんなも一緒だったからな

メンヘラしてないで、レイは俺だけ見てろよ」

そう言うと半分だけ納得してくれる…そうだな、レイからしたら香月と和彦が恋人の俺にまた増えるんじゃないかって不安になるか

それに気付いた鬼神がフォローしてくれる

「そうやでレイ、わしはセリ様の事好きやけど主人の和彦様の恋人には手ぇ出せんし

それにわしはそっちの気はないから安心してや

セリカ様なら嫁にしたいと思うけどな」

あっ最後余計なコト言った、レイは俺もセリカもどっちもほしがる欲張りな男だぞ

「セリカを…嫁にしたい……?

ならあんたはやっぱりオレの敵じゃないか」

鬼神はレイの怒りを見て余計なコト言ったと笑顔で誤魔化しながら俺に小声で囁く

「面倒くさい人やん、この人~怖いわ~」

「はは、そうやな…でも俺はこの人が好きなんよ」

そのメンヘラの所も受け入れる…でも周りに迷惑をかけるのはやめてほしい所だ

とりあえず、仕方ねぇなぁレイは

俺はレイの隣に立って上目遣いに見上げ囁くように言う

「早く部屋に帰ってレイといっぱいキスしたいぞ

1ヶ月振りだしたくさんイチャつきたいのに、レイが怒ったら鬼神との話が長くなって帰りが遅くなるじゃん

レイがそんな時間いらないって言うなら怒っててもいいけど…」

レイの腕に手を添えて身体を寄せる、トドメに背伸びしてレイの耳に息を吹きかけた

「………何をもたもたしてるんだ、早くカフェに行って話をしようじゃないか!」

レイはさっさと誰よりも足を速めた

そんなレイの変わりように鬼神はポカーンとしてる

「どんな魔法使こたん?」

「ふふ、秘密」

男って単純だよな(俺も相当だが)

とくにレイはわかりやすくチョロい、年下だからなのかも?

そういうとこは可愛いんだよな~年下彼氏(予定)ってのは同い年(和彦)や年上(香月)にはない可愛げがある

イケメンで俺より背が高くてカッコよくて強いのに、中身は年下らしい可愛さがたまに見えるとグッと来るかもしれん

あっ年下のフェイには可愛げなんて一切ないから人によるか

レイに急かされカフェに入ると席に案内されて座った瞬間

「5分だけ許そう」

レイは早く帰りたいようだ…どんだけ早く俺とイチャつきたいんだ!?

ちょっとは大人になれよ!?

「5分でパフェ来ないよ!?パフェ食べたいー…」

「セリがパフェ食べ終わるまで許す」

じゃあゆっくり食べよっと

「スゴーイ、夏限定のアクアリウム風パフェだって超可愛いじゃん

セリカ好きそう」

「今度セリカをデートで連れて来てやらないとな」

まだ彼氏面してんの…!?

「俺これにする!」

みんな決まって店員さんに注文する

レイはアイスコーヒーで、鬼神は特大パフェを頼んでドヤってレイをチラ見する

「食べ終わるまで時間かかるな~これ」

「あんたが食べ終わるまで待つわけないだろ!?1人残って食べてろよ!!?」

「男なら男らしく特大パフェ一択やろ!」

そもそもパフェって男らしいのか…?

特大でも盛り付けめっちゃ可愛いやん、リボン付いてるし

「和彦ならそれ後2つ頼んで3つ綺麗に平らげるぞ」

「えぇ!?スゲー!さすが和彦様や!!」

「その後ラーメンも大盛りで食べるからな替え玉もするし、アイツの胃袋は底なしだよ」

「そんなのもう足向けて寝られへん!和彦様強すぎてわしら鬼神は何やったら和彦様に勝てるん!?

大食いなら自信あったのに、酒の飲み比べでももう負けてんのに」

あ~和彦は酒もバリ強いよな、いくら飲んでも酔わないしいくらでも飲む

鬼神は強さこそが全ての価値観だ

今は自分の主人の和彦も、自分達より弱いとなったら容赦なく殺そうとする

もう和彦に完膚なきまでに叩きのめされてるから心酔し心底慕ってるみたいだが、それも和彦が強いままでなければならない話だ

あっ、レイのアイスコーヒーと俺のアクアリウム風パフェが先に届いた

お魚の形したやつはゼリーか?

可愛い……これは可愛すぎるパフェで食べるのがもったいないぞ

「先食べてええでアイス溶けるやろ」

鬼神に言われて俺はいただきますする

1番上の青いアイスクリームをスプーンで掬って口に運ぶとソーダクリームの味がする

「うま~!!めっちゃ美味しいでこれ」

生クリームも上品な甘味と旨味、フルーツも新鮮で美味しい

「そんなに美味いん?」

「一口いるか?マジうまいから」

ほしいって言われて俺はスプーンで一口掬うと鬼神の口元へと手を伸ばす

が、その手をレイに掴まれ強引に一口がレイの口の中へと放り込まれた

「ヤキモチか?仕方ない奴だな、レイはガキなんだから」

気にするコトじゃないのに、鬼神は友達なんだし当たり前のコトって俺は何も思わなくてもレイからしたら嫌なんだろう

俺は回し飲みとかも気にならないけど(知らんおっさんとかは嫌だが友達なら別に)

それが気になる人もいるワケで、レイは俺にはそういうコトしてほしくないって思う人なんだ

わかった、レイの嫌がるコトはしたくないって俺は店員さんにもう1つスプーンを頼む

「オレはガキだよ、セリから見たら5歳も年下だ」

ムスッと完全に拗ねてしまった

「それじゃあ大人の俺とは付き合えないな」

「付き合える!オレは18歳の成人でセリと同じ大人なんだ」

言ってるコト子供やん

でも、レイって俺のコト本当に好きすぎるんだなって思う

ちょっとしたコトでヤキモチするから、面倒くさいけど仕方ないなって笑って受け入れられる

「はいはい、大人のレイの後が怖いから機嫌直してくれよ」

もう一度スプーンでパフェを一口掬って、レイの口元へ持っていく

「食べないのか?溶けるぞ?」

「……食べる」

レイが口を開ける前に少し溶けたアイスが添えていた手に落ちる

「あっ」

スプーンのアイスを食べた後、レイは俺の手を掴んで溶けたアイスがこぼれた手のひらを舐めとった

「あっバカ!外でそういうの禁止!!」

「他に客はいないし店員は裏に引っ込んでるからいいじゃないか」

鬼神が見てるって言おうとしたら、恋愛事に免疫のない鬼神は自分で目隠しして顔を真っ赤にしていた

見てなくても見られてるのと一緒の反応!?

「それでも嫌だ」

「セリが悪い」

「なんで俺のせいにする…」

「可愛いから…久しぶりで今すぐにでも食べてしまいたいのに」

素直なところがレイの良いところでもあるが、ふいに恥ずかしいコトを言われると俺まで余裕をなくして意識する

「お待たせしましたー!特大パフェお持ちしました!!」

ドーンとテーブルの9割は支配する特大パフェが目の前の鬼神の姿を見えなくする

「思ってたよりデカくね!?」

店員はテキパキと俺達3人に専用のスプーンを手渡す

「10人前です!完食頑張ってください」

サーッと店員は裏に消えていった

10人前!?3人で10人前!?ってかこれ鬼神1人で食べるつもりで頼んだやつ……

「……さ、さ…すがの和彦様でもこれ3つは無理やろぉ……

わしならこれ1つ余裕やけどなぁ…あ…あ…ぁぁぁ」

鬼神の震え声が微かに聞こえる

なんで和彦3つ食べれなかったら1つ完食出来た自分勝ちみたいなルール作ってるんだ

「いや和彦ならこれでも3ついけるで!!」

「男に二言はないで!!わしはこれを完食する!!」

鬼神は気合いを入れたのち、チラッと横からレイの方に顔を出し

「レイもこれ手伝ってな…」

コソッとズルしてる

反対側、俺の方をチラッと覗いて

「セリ様好きに食べてな、ここはわしの奢りやから遠慮せんとって」

無理って自分が1番わかってんじゃん!?

鬼神の調子の良さにレイは仕方ないなと、自分の目の前の部分からパフェを食べ始めた

俺も鬼神のパフェを手伝って食べる

味は美味いがもうお腹いっぱいだ

「全然減らへんぞこれ!?」

「オレもそんなに大食いじゃないからな、2人分が限界だ」

それでもレイの方を見てみるとよく食べてる方だ

「大食いチャレンジじゃないから時間制限はないが、これ食える気がしねぇぞ

最悪和彦呼んで食ってもらうしかないやろ」

「和彦様には負けたくないんやけど!?」

「すでに負けてるわ!!」

鬼神が泣きべそかいてる、男らしさどこいったんだ

レイは黙々と食べて、俺を気遣ってくれる

「セリ無理はするな、食べ過ぎてまた気持ち悪くなったら大変だろう」

「でも残したらもったいない…」

「いつも言ってるだろ、セリが残した分はオレが食べるって

そうしてきたし、それでなくても少食なんだから

オレも限界が来たら和彦さんを呼ぶしかないと思ってる」

レイは…和彦のコトよく思ってないのに、俺を気遣って和彦に頼るコトまで考えてるなんて良い奴……

たまにガキだけど、レイは大人びててちゃんとカッコいいんだよな

たまに俺より年上か?って思う時だってある

世界一のイケメンだもん、レイ

それからなんやかんや鬼神も頑張ってなんとか鬼神の顔が見えるくらいの高さまでパフェを減らすコトができた

「……で、わしら何しに来たん?」

本来の目的を忘れてたな

俺も一瞬、何しに来たん?って思ったわ

俺は鬼神に空の神のコトを聞いてみた

千年前に堕落させられ悪魔になった空の神

「わー懐かし~そんな奴おったわ」

「知ってるのか!?」

「わしら鬼神が封印される少し前までな

封印された時は大空の神に交代しとったわ

レイみたいな爽やかなイケメンさんやったのに、急にナルシスト野郎に代わってたからどしたん!?ってな」

鬼神の知ってる空の神は神族で位も高いのに、驕るコトなく平等に優しかったみたいだ

神族特有の自分のような存在を許さないってのもなかったみたいで、鬼神とも浅いが付き合いはあったと言う

神族の中で言うなら結夢ちゃんのように優しい人ってコトだ

………えっ誰だそれ?堕落した空の神そんなんじゃなかったぞ!?

堕落して悪魔になるってコトはそういうコトなのか…

変わらず綺麗な心なら堕落して悪魔にならないもんな

でも、そんな結夢ちゃんみたいな優しい人がどうやって堕落するんだ?

結夢ちゃんを堕落させてみろってなっても絶対無理ってくらいの人格者だよな

「女人やろ」

「えっ?」

「ハニートラップにかかったって噂や

所詮あの爽やか優男もオスやったって情けない話やで」

なんだそれーーー!?イメージ崩れるんやけど、堕落した元空の神の「可愛いから許す」発言が妙に納得する~~~!!!??

「今まで女人を知らんかったんやろ、わしもやけど……

1人2人やない女人に溺れ堕落しドロドロのドロ沼やったって話やん

あの牢獄でそんな噂が流れてきた時は、皆ひっくり返って驚いて

まさかあいつがーー!?そんな事する人とは思わんかったわー!ドヒャ~!って笑い転げたわ」

笑い事じゃないやろ!?

あの深い牢獄は誰も入れないのにって思ってたら、鬼神は小鳥さん達から聞いたと教えてくれた

小鳥さんとお話できんの!?いいな~

でも、まさかあの人が…ってのはよくあるコトだよな少なからず俺にもあるし

「小鳥さんの話や、わしらが直接見たわけやないけど

あの大空の神ならやってもおかしないな…」

「そんなに大空の神って……」

鬼神が真剣な表情から、溜めて注目させておちゃらける

「いや知らんけど!大空の神はわしら鬼神を封印したムカつく危険な1人ってだけでどんな奴か詳しくは知らんねん」

ずっこけるわ!!知らんのかい!!

「和彦様から聞いたで?セリ様に無礼を働いたやっぱりムカつく奴って

でも、なんでセリ様が空の神の事を?千年前の神族なんて知らんはずやろ?」

鬼神に聞かれて、俺はさらに詳しく話す

堕落した元空の神は、今の大空の神から地位を取り戻したいって

「無理やろ、一時的に取り戻せても一度堕落したならそれを断ち切るのは難しいんちゃうか

もう女人とドロドロドロ沼はやめられへんねんやろ」

うーん……鬼神の言う通り!!

香月の所にいる時に、小さなトラブルの中には元空の神が魔族の女性にちょっかいかけたりして苦情入ったりしたもんな

悪魔の女の子を呼び連れ込んだり、キルラは自分の部屋を好き勝手使われキレて暴れるし当たり前やけどそれ

鬼神の言う通り、元空の神は戻れない可能性の方が高そうだ

大空の神の天空も返す気なんてあるワケないだろうしな

「ありがとう鬼神、よくわかったよ」

「セリ様気を付けてや、いつも変な奴に利用されそうで心配やわ」

「心配もありがと、俺は大丈夫だよ」

「自分は大丈夫って思ってる人が大丈夫じゃないねんで」

鬼神は俺を心配して話しながらもパフェを食べる手を止めず、なんやかんやレイと2人で頑張って……ついに奇跡の完食!!

「ぷはーーー!食った食った、食ったで~」

「もう今日はご飯いらないな……」

どっちも苦しそうだが完食の達成感に凄まじい

「おぉ!2人ともスゲー!!よく完食できたな!!」

「もう動かれへーん」

「あんた仕事の途中じゃ…」

「早退しま~す」

「和彦さんに怒られないか?」

腹を抱える鬼神にレイは大丈夫かと声をかける

「大丈夫大丈夫」

「和彦はこんな細ぇ事気にするような男じゃないから大丈夫だよ」

和彦のコトをよく知ってる俺は鬼神の大丈夫に同じように頷く

「それじゃ、オレ達は帰らせてもらう

ここは鬼神の奢りだったな」

「そういう話だったけど、俺が話したいって言ったからやっぱり俺が払うよ」

「セリが払うならオレが出す」

レイと俺が自分が払うってやり取りをしてると鬼神は手をヒラヒラして、はよ帰れと言う

「わし夏のボーナスたんまり入ったから気にせんと帰りやお2人さん

和彦様のとこは高給やから、レイ就職するなら来たらええで~」

「死んでも和彦さんの下で働きたくはない

それに気を使わなくてもオレも結構稼ぎがいいんだ」

レイは音楽でかなり稼いでるもんな

俺?俺は恋人から多額のお小遣い貰ってますね

たまに働いてそのお金は自分以外に使ってるかな

どっか行った時にみんなのお土産とか、プレゼントとか

恋人のお金で恋人のプレゼントとか他人へのプレゼント買うとかおかしいもん

そういうのはちゃんと自分のお金で買いたい

俺がたまに仕事してくるって言ったら香月も和彦も足りないなら出すって言ってくれるけど、そうじゃないもん

気持ちは嬉しいけど、ちゃんとしたいから

「じゃあ鬼神また、パフェ奢ってくれてありがとね」

「おーまた~セリ様とレイ~」

鬼神とバイバイしてカフェから出ると外は夕暮れ時だ

レイと一緒に部屋に帰る頃には夜になりそうだった


久しぶりの自分の部屋…懐かしい

もう最近は夜はレイと一緒にいられないからここに住んでないんだよな

部屋に入るとレイは1ヶ月の我慢を満たすかのように強引に引き寄せられ、激しいキスをされる

「あ……レ…イ……っ」

息継ぎもままならない、音を立てて、久しぶりのレイの熱さも味も感じる

レイのキス…久しぶりだ……舌がこんなに熱くて……腰が砕けそう

イチャつくって約束はしたけど、やっぱり久しぶりだと凄く感じる

何も考えられなくなるくらいに

レイの背中に手を回す力が入らない…でもレイはしっかりと俺を抱き締めて支えてくれる

「……はぁ…セリ…待っていたよ、おかえり…」

「……レイ…ただいま、遅くなってゴメンな」

会えて嬉しい……レイに抱き締めて貰えてキスされて……もっと…ほしくなる

ぎゅっと抱き締め返して離れたくなかったのに、レイは俺を離すと優しく笑って頭を撫でてくれた

「もう夜になる…また今度、セリは和彦さんの部屋に帰るんだ」

もうそんな時間?と寂しく残念な気持ちで押し潰されそうになる

久しぶりに会えたのに…甘えたいし、もっと…キスしてほしい…したいよ……

「なんで……夜はダメなんだっけ…」

「……セリを傷付けてしまうから」

「別に俺は平気だよ、めちゃくちゃにされてもいいもん…レイなら……いいよ

このまま離れたくない

せっかく久しぶりに会えて、もっと……もっとレイがほしい…」

レイに抱き付いてお願いすればいつも、うんって言ってくれるのに……

「……嬉しいけど、ダメなんだ

そんな事をしたらオレはシンに魂を奪われて二度とセリに会えなくなる

オレはずっとセリと一緒にいたいから、今は耐えなきゃいけない」

「そう…だったな……俺がワガママ言った

悪かった……レイのコト……もっとレイに触れたかったけど、レイと二度と会えなくなるのは絶対嫌だから俺も我慢するよ」

最後にレイは抱き締めてキスしてくれる、今日はこれでおしまいか

「今すぐシンをぶっ殺したくなった

シンを倒したらセリの事、嫌って言われるくらいめちゃくちゃにしてしまうかもしれないな」

「………それはちょっと……」

「さっきはいいって言ってくれたのに!?」

「さっきはなんか血迷った」

「ずっとオレは我慢してるからセリに触れたらもう止まらないよ

好きでたまらない、君がほしい……好きだ…セリ」

「………うん…それじゃ俺はもう行くね」

夜になる前に部屋を出る

レイの告白…何度目かな、凄く嬉しい

俺だって好きだって……言いたかった

レイに俺がほしいって言われて、俺もレイがほしくなる

でも今はまだダメだ…シンを倒して悪魔の契約を破棄しない限り、俺達はこれ以上は進められない

このレイを好きな気持ちは大悪魔シンの契約の影響だって話だけど……

俺はそんなものなくったって…もうレイを愛してるよ

前シンに言われた通り、愛してるのに愛せない苦しみを味わってるな…



本当の自分の部屋はレイと同室だけど、大悪魔シンを倒すまでは夜はレイと一緒にはいられない

だから暫くは和彦の部屋で生活するコトになってる

と言っても、和彦も仕事が忙しすぎてほとんどいない夜も遅いし

昨日も俺が寝てる間に帰ってきてたみたいで、俺が起きた頃にはもう仕事に行っていた

俺も今日は久しぶりにダンスのレッスンがあるから早起きした方なんだけどな

レイが俺に会えない間に新曲をいくつか作ってて次の秋に予定してるアイドルコンサートの練習だ

朝から夕方まで美樹先生に振り付けを教えて貰って、レイの曲と合わせながら一通り

やっぱレイの曲って素敵だ、身体が勝手に動いてくれるもん

こんなに好きって身体ごと表現する

そういや、最近はレイとフェイが一緒にいるイメージだったが、常に一緒ってワケじゃないのか…昨日も今日もフェイはいなかったし

まぁ俺はフェイのコト嫌いだが……嫌いだが………

ずっと会ってないと、フェイにもちょっと会いたいかな…かもって思うのは…なぜだ

そんなどうでもいいコトが過りながらレッスンが終わって夜になる前に解散

途中まではレイと一緒に帰ってきて、俺は和彦の部屋に帰ろうと廊下を歩いていると

近くの空き部屋のハズのドアが開いてその暗闇から手が伸びて声を出せないように口を塞がれたまま引きずり込まれる

えっ!?こわっ!?ホラーじゃん!?こうして神隠しにあうのか……

まぁ俺はそんなに驚いていない

たまにこういうコトがあるし、匂いでわかるもん

それで誰!?って奴だった時が1番の恐怖

でも

「お久しぶりですね、セリ様」

空き部屋に引きずり込まれるとドアに鍵を閉められて、いつもなら何すんだよ!?って突っかかるとこなのに

久しぶりにフェイの顔が見れて、思わず口元が緩む

いつものフェイならすぐに嫌みや意地悪なコト言ってくるのに俺が微笑んだコトでフェイはその言葉を飲み込んだ

「……何がおかしいんですか?」

「いや別におかしいワケじゃなくて……久しぶりにフェイに会えてちょっと嬉しいなって」

アハハ何言ってんだろ俺って笑うとフェイの表情も動きも固まる

「……………。」

……………どうしたこの沈黙!?なんでフェイは黙ってるんだよ!?

いつもなら嫌みも意地悪なコトだって言ったりするのに……

瞬きもしないから心配になってきたぞ…

「……フェイ?」

大丈夫か?ってフェイの顔の前で手を振る

そして、ハッとしたフェイは急に顔を真っ赤にして俺を突き飛ばした

なんでか知らんがめっちゃ怒ってる!?俺なんかそんな怒らせるようなコトしたか!?

「っそんなセリ様は嫌いです!!!」

捨て台詞を吐いてフェイはドアに手をかけ出て行こうとしたが、鍵をかけたコトを忘れているのか開かないコトに一瞬戸惑ってから力付くで鍵を壊して出て行った

……なんなんだアイツ…

ふん…ほら見たコトか、レイも和彦もフェイは俺のコト好意があるみたいに言ってくるがちゃんと嫌いなんじゃん…

わかってたけど……結構ショックかもしれん

嫌いなら嫌いで……優しくすんなよな…バカ

和彦の部屋に帰ってからも1人モヤモヤとしていた

フェイのコトは俺だって嫌いだ

でも…ハッキリとフェイから嫌いって言われて……こんだけダメージ来てるってコトは

やっぱり俺って………フェイのコトも好きだったの…?

いやちょっと前から自覚はあったけど…

アイツの言動で好き嫌い好き嫌いが交互にやってくる

やっぱ嫌いだ、やっぱ好きかも、って…その繰り返し

振られたコトなんて今までなかったし…

そもそも、自分から告白するってコトもなかったか

そういうの考えなくても、上手くいって(流されて)きたもんな~

モヤモヤしながらもいつの間にか眠ってしまって、次の日になってフェイと顔を合わせるのは気まずさしかなかった



朝早く起きると、ちょうど和彦が仕事へ行く用意をしていた

「おはよ和彦、昨日も遅かったみたいなのにあんまり寝てないんじゃ?」

「セリくんがなかなか香月の所から帰って来ないから迎えに行った数日分の仕事が溜まっていてね」

「………すまん」

なんやかんや忙しくて帰れなかったし、香月と一緒にいる時間だってそんななかったんだよな

和彦のコトだって忘れていたワケじゃなくて、俺も早く会いたかったもん

「セリくんを責めているわけじゃない

オレが我慢の限界を超えて迎えに行っただけだから」

そう言って和彦は俺の頭を優しく撫でてくれる

迎えに来てくれたのは正直嬉しかった

そんなに俺に会いたかったの?そんなに好きなの?って自惚れちゃうから

和彦は俺にまだ起きるには早いから二度寝をするといいって寝かしつけてくれた

そして二度寝から起きて顔洗ったり着替えたりしてると、テーブルの上に和彦の忘れ物が目に入った

これ二度寝する前に持って行くとか言ってたような……

和彦が忘れ物なんて珍しいな、やっぱりアイツ疲れてるんじゃないか

忘れ物した所で近いから取りに帰って来るだろうけど、仕方ないな俺が届けてやるか

俺は和彦の忘れ物の書類を持って仕事場へと向かった

相変わらず忙しそうにして目が回りそうな場所だな

「セリ様!」

俺に気付いた鬼神が駆け寄って声をかけてくれる

「和彦様にご用が?」

「うん、和彦に届け物」

そう言うと鬼神はいつもの部屋にいますと案内してくれる

部屋に入ると、偶然にもフェイがいてなんとなく目を反らしてしまう

「ん?セリくん来たのか、どうした?」

「和彦が珍しく忘れ物したから届けに来ただけ」

和彦の傍まで近付いて書類を手渡す

「あぁこれか、やっぱり明日でもいいかと思って置いていたんだが届けてくれてありがとう

嬉しいよセリくん」

だよな!?和彦って忘れ物とか絶対しない完璧な奴だもん!!

最初は持って行くつもりでも途中で変わるコトもあるよな

「そっか…じゃ!俺はこれで!!」

フェイと同じ空間にいる気まずさから逃げるように離れようとしたら、和彦に手を掴まれる

「ふーん…何かおかしくないか?」

「お、おかしいって何が…」

早く手を離せって引っ張るが和彦がそう簡単に離すワケがない

「セリくんは顔に出るからわかりやすいけど、フェイがセリくんに何も言わないのは変だ」

確かにフェイは顔を合わせる度に嫌みの1つや2つ言って来るけど!?

「私は……別に…」

フェイを見ると目を反らされる

………おいおい…なんだそれ!?何かありましたって顔!?

ホンマにこれって言う何かはなかったけど!?

いつもみたいに嫌みの1つや2つ言ってくれよ!!こっちも調子狂うじゃん……

「セリくん…フェイに何したんだ?」

和彦に聞かれて俺は全力で掴まれていない方の手を振る

フェイらしくないフェイを見たら誰だって俺がなんかした?って思うか!?

「俺は何もしてねぇぞ!?いやホントに」

って言ってるのに和彦は俺のポケットから部屋の鍵を抜き取った

「セリくんは今日から暫くフェイの部屋で寝泊まりするように」

どうして俺がそんな罰ゲームを受けなきゃならねぇんだ!?

俺は何も悪くねぇのにさ!?

和彦は俺に原因があると思ってるようだ

「えっ!?なんで!?ヤダよ!?

オマエは猛獣の檻に小動物放り込むとか正気か!?」

「セリくんとこの小動物は猛獣すらも蹴り殺す勢いだけど」

カニバのコトか!?アイツはまた特別じゃん

気が強い性格だが、ウサギでありながら人型の時はそれなりに強いって普通じゃありえないぞ

「バカ!!何かあったらどうすんだよ!?

和彦は俺の恋人だろ!?フェイがどんな奴かわかってて俺を放り込むとかおかしいだろ!?」

「何かあってもいいと思ってる」

ハハハと寝取られフェチがなんか笑ってるから殺意が湧く

「いいワケあるか!!」

何を言っても和彦は自分が言ったコトは曲げない

つまり俺は今日からフェイの部屋で寝泊まりするコトが決定してしまう…

フェイ自身が嫌だと言わない限り

でも今のフェイならハッキリ嫌と言ってくれるんじゃないか

俺のコト嫌いみたいだし

「まったく、貴方って人は自意識過剰ですね

いつでも周りの男は皆、自分を狙ってるだなんて」

「そこまで酷い勘違いしてねぇよ!?!?!?」

ずっと黙っていたフェイは急にいつもの様子を見せる

あれ…?フェイの奴、もう機嫌直したのか?

「和彦様も香月様もレイも、セリ様の事を好きだからでしょうけれど

私までその仲間に入れられては困ります」

「誰がオマエなんか!?」

噛み付かれたら噛み返すっていつもの流れが、なんか急に嬉しくなって俺は途中でふっと吹き出してしまう

「……なんです?」

そんな俺にフェイは眉を寄せるが

「いやなんか…こうしていつも通りなのが、やっぱ良いのかなって」

俺が笑うと、フェイはまた固まってすぐに顔を真っ赤にする

「……和彦様…」

それから俺を指差して震えながら和彦に言った

「……私はこの人が……嫌いです

同室なんて無理です…お断りします」

「はいはい、わかりやすいなお前も

フェイ、お前はいつまでもガキじゃないんだ

そろそろ大人になって向き合わないとこじらせるぞ

すでに手遅れなこじらせた部分は仕方ないが」

和彦に言われてフェイは黙り込む

俺は和彦が何を言ってるかよくわからないが、やっぱりフェイは俺が嫌いみたいだし

同室も嫌だって言うなら仕方ないんじゃ…

「和彦…フェイが嫌だって言うなら可哀想だよ

俺だって嫌いな奴と同室なんて死んでも嫌だし」

「フェイは嫌じゃないし、セリくんを嫌ってるわけじゃない

それにフェイはオレの言う事に逆らえない

嫌でも暫くセリくんと一緒にいてもらう」

パワハラ上司だ!!

くそ~和彦の言うコトは絶対だもんな…

フェイは物凄く嫌そうな顔をしている

うわ~…超気まずいじゃん……


それから夜になって俺はフェイの部屋にお邪魔するコトになった

「和彦様の言う事は絶対ですから、仕方ありません…セリ様と同じ部屋は嫌ですが我慢します」

なんかわからんがスゲー傷付く…俺は苦笑した

「あ~…そんなに嫌なら俺は他の人の部屋に泊めてもらうからいいよ、無理しなくて」

俺もこの気まずい重苦しい空気に耐えれねぇしな

さっさと出て行こうとしたが、フェイに先回りされてドアの前で通せんぼされる

「……他の男の所へは行かせません

レイは駄目なはず、それなら新しい男ですか?

最近あの鬼神と仲が良いと聞きましたが、どれだけ男たらしなんですかね」

「オマエも俺をなんだと思ってんだ!?鬼神はただの気の合う友達だよ!?」

やっぱコイツ、ムカつくな

「なんだと?尻軽ですよね」

「尻軽……!!だけど!?オマエから言われるとムカつく!!オマエなんか嫌いだ!!」

俺が怒るとフェイは一歩俺へと近付き俺は一歩下がる

それを繰り返していると後ろを見ていなかった俺は何かに足元を取られ転びそうになったが、フェイに掴まれ引き寄せられた

「そんなに怒って、そんなに私がお嫌いですか?」

「嫌い…っ!?」

言葉の途中でフェイに唇を奪われる

突き放そうとするとフェイは力付くで押さえつけてきて……そのうち力が抜けてしまう

それは諦めたんじゃなくて…

嫌いって言っても……俺はフェイにキスされて、嫌じゃないって思ってる

でも、フェイは俺のコト嫌いだから俺が嫌がるコトをする

このキスだって俺が嫌がると思ってのコトだ

コイツは俺の嫌がるコトならなんだってする奴で……

昔の俺なら本当に心から死ぬほど嫌だったよ

なのに、今は……ううん、あの時から俺は…王女事件の時から

フェイのコト、嫌じゃない……

その前からも度々助けてくれてたよな…

「……泣くほど嫌だなんて興奮します」

フェイの唇が離れて顔を覗き込まれる

見ないでって手で顔を隠そうとしたら手を掴まれて、きっと酷い顔してる

「違う…嫌だから泣いてるんじゃない

フェイは俺のコト嫌いだから俺の嫌がるコトをするんだってわかってるけど……後、寝取りフェチだって知ってるけど

そうじゃなくて……じゃあなんで……

ずっと嫌な奴なら…よかったのに」

「嫌じゃない……?」

フェイの手が離れて俺は解放された手で涙を拭う

そのままフェイの顔を見るとまた顔を赤くして…どこで怒ったの!?怒ってたの俺だよな!?

「……やめてください

最近の貴方は私の心をかき乱して……困ります…

私を嫌いでいてくれないと………どうにかなりそうだ……私は変わらないと思っていたのに」

やめろって所しか聞こえなかったが、やめろって何を?

俺は何もしてない……と思うんだが

「もう、さっさと寝てください」

フェイはベットを指差して俺に休むように言う

「いや俺はソファで寝かせてもらうからいいよ、フェイのベットだし」

「和彦様の恋人をソファでなんか寝かせられませんよ」

ソファで寝かせるのはダメだけど、自分の主人の恋人に手を出すのはダメじゃないんか……

そんなの和彦に言わなきゃわかんないのにって言ってもフェイは聞かずに無理矢理ベットに押し込められる

いつものフェイなら同じベットに入ってきて酷いセクハラの嫌がらせだってして来るのに何もして来ないなんて、やっぱり昨日から変だ

いつもとは違う場所で寝るって少し緊張するな…フェイの匂いがする……

そんなコトを感じながら、知らないうちに眠りに入った



次の日、目が覚めると部屋にフェイの姿はなくまぁいいかって俺は着替えたりしているとフェイはレイを連れて帰ってきた

「セリ!フェイから聞いたぞ

和彦さんに言われて暫くフェイと一緒の部屋にさせられたって」

レイは俺を見るなり抱き締める

ふふ、なんか落ち着く…レイに抱き締められるの

「なんか和彦が意味わからんコト言い出して、さっさと大悪魔シンを倒してまたレイと一緒の部屋がいいんだけどな」

俺もレイを抱き締め返そうとしたらレイは俺の両肩を掴み顔を覗き込まれる

「オレもそうしたい…すまないな、なかなかシンを倒せそうになくて」

そう簡単に大悪魔のシンを倒せるワケないってのはわかってる

とくにレイの強さを奪われているのに、フェイがレイの代わりに弓を引くと言っても難しい話になる

「フェイに何かされなかったかい?」

「ん?あーキスされた」

変に隠してもバレるし、素直に言ったらレイが目に見えて不機嫌になっていく

基本的に聞かれたコトは素直に答えるコトにしている

恋人が2人もいて好きな人と気になる奴が1人ずついる俺はそういうコトの隠し事はなしにしようってみんなに言われているからだ

聞かれなきゃ言わないけど、よっぽどのコトなら自分から話すコトもあるが

「わかっていた事だが……やはり腹立たしいな」

「でも、フェイのやるコトはただの嫌がらせだし

レイ達みたいに俺のコトが好きだからとかじゃないから、動物に噛まれたようなもんで気にするコトじゃないよ」

「………セリは自分が思っているよりモテるぞ!!」

急にどうした!?レイは俺しか見えていないし自分がこんなに好きだから他の奴もこんなに好きに違いないっておかしな思い込みがある危ないメンヘラだ

「フェイだって…あっいや、ほらあのなんだ?大空の神がセリを気に入ってるって話を聞いて

あれには気を付けろって話だが、ほらモテているだろう?」

「嬉しくねぇぞ!?それに俺はモテるとかどうでもいいし興味ねぇもん

大勢にモテるより、好きな人だけに愛されたいから」

もうちゃんと好きな人だけに愛されてるから俺は幸せなんだよ

「オレもセリを愛しているよ」

「うん、だったらレイと一緒にいるためにさっさと大悪魔シンを倒そうぜ

フェイの弓の腕もかなり上がってるって聞いているが、これからどうするんだ?」

ある程度の距離も、動くものにも矢を当てられるくらいには上達しているみたいだが

天才すぎる弓使いのレイには永遠をかけてもその強さには届かない

超長距離でも光の速さで射抜くコトが出来るレイの右に出る名手はいない

その気付くコトすら出来ない超長距離の強さは魔王の香月でも二度やられているくらいだ(香月の傍にいた俺を二度レイが殺したと言う意味で)

そんなレイが悪魔を消滅させるコトが出来る破魔の矢を使えば一瞬で終わらせられるけど、タイミングが悪すぎてそれは無理になってしまった

「色々と考えているんだが、まだそれと言った策はない」

「ふーん……それでその破魔の矢はフェイが持っているのか?」

「そうですね」

「どこに?」

「………そこのクローゼットの中に」

「そっか…」

クローゼットの中に破魔の矢があるんだな

暫く勇者には眠っててもらおうか

破魔の矢は契約の俺にとっても厄介でしかない

そんなものでシンを倒されたら俺だって消えちまうだろうが

もっとレイと一緒にいたいのに……

おっと…前コイツらに酷い目に遭わされたから入れ代わったコトに気付かれないようにしなきゃな

「まっ、とにかくレイもフェイも頑張って!

2人が力を合わせたらシンなんてあっという間に倒せるって」

いや頑張らなくていいし、フェイは邪魔でしかない

とにかく怪しまれないように振る舞って…

「……そうだな、シンを倒してセリとの約束を果たすよ」

レイは俺をぎゅっと抱き締めてくれる

あ~……レイ……死ぬほど大好き……

もっと強く抱き締めてくれてもいいんだぞ!

キスしてほしいけど…フェイがいるから無理だろうな

でもレイにいっぱい愛されたい……深く…強く……


そんなこんなで夜になってフェイのベットで寝たフリをしてチャンスを待つ

ラッキー、和彦のおかげで破魔の矢を奪うチャンスにグッと近付けてるよ

そうだな…後はフェイを部屋から追い出すにはどうしたら……

朝から晩まで四六時中一緒で吐き気がする

それがレイならどんなに良いか…

何か隙を……

そういや最近のフェイの言動がおかしいって勇者自身はわかっていないみたいだが、あんなのフェイは勇者のコトが好きなの丸分かりじゃん

なんでわかんねぇかな

小学生のガキみてぇなわかりやすさ

勇者がフェイを嫌いなうちは余裕こいて、ちょっと勇者が心開いただけで自分の気持ちに押し潰されそうになってただのヘタレじゃん

その年齢で初恋か?こじらせすぎだろ21歳

………って、勇者の周りってよく考えたらみんなそうなんじゃ…

「フェイ……起きてる?」

そうだ、それだ

フェイは勇者から来られるのに弱いんだから、俺もそうすればフェイは部屋から出て行ってくれるハズ

「セリ様…?」

ソファで横たわるフェイの上に跨がって顔を覗き込む

こんな色仕掛けみたいなコト鳥肌が立つほど嫌だが、契約の俺がレイと一緒にいるためには仕方がねぇ

「どうかしましたか?眠れないのですか?」

「うん……なんだか……」

フェイの頬に触れると、その手を掴まれあっという間にひっくり返されて立場が逆転する

「本当に、尻軽なんですね…男なら誰でも良いなんて

そんなに欲求不満なら私が解消させてあげますよ」

………あれ!?なんか思ってたんと違う!!!!????

ど、どういうコトだ……最近のフェイなら耐えられなくなって部屋から出て行くハズなのに……

フェイの手が服の下に滑り込んで、ゾワゾワと鳥肌が立つ

やめ……ろって抵抗したら、逆効果だ

フェイはそっちの方が燃える

だったら…俺も引かずに押し返すしかない

俺はレイしか好きじゃないし愛してないけど……

フェイの顔を掴んで自分の方に引き寄せて、その唇へと重ねる

「……好きだよ、フェイ」

トドメの一言

すると、フェイは自分の口を手で抑えて

「…………それは…反則です」

俺から離れるとそのまま部屋から出て行った

「は~~~…ビックリした」

とにかく助かった、でもレイ以外とキスは気持ち悪い

好きも言いたくなかった

まぁ…この身体のおかげで上手くいったか

洗面所で顔を洗ってから、昼間フェイが言ってたクローゼットから破魔の矢を見つけ出す

それじゃ……これ持ってシンに会いに行くか



近くにいた低級悪魔達を護衛に付けて、数日かけて大悪魔シンの元へ帰った

シンは女神結夢の聖地から少し離れた場所の洋館にいる

表向きはタキヤの別荘とされていた

悪魔は神族の聖地には入れないからな、俺は悪魔じゃない契約だから入れるけど

「ククク、よくやった契約よ」

「よくやったって言うならなんか褒美でもくれよな、苦労したんだぜ」

この俺がおぞましい色仕掛けまでしてさ

ほらこれが破魔の矢だってシンに渡そうとしたが受け取れない

「我はそれに触れられん」

「あっそ、じゃあその辺に置いておくよ

ってかこの部屋暗すぎねぇ?今昼間だぞ」

ってカーテンを開けるとシンは苦しみ出した

「ぎゃー!眩しい!!」

「えっ?悪魔って日光弱点だったっけ?」

「引きこもりには日光が弱点なのである」

「外出ろ!!!暫く見ない間に太ってるぞ!!」

カーテンを全開にしてシンに日光を当ててギャーギャー騒いでるのを楽しんでいると、ドアの向こうから声が聞こえた

「セリちゃんの声と匂いがする!?」

「カーニバルくん、ここは私の別荘ですから小僧はいませんよ~」

そうしてる間にドアがガチャって開いた

「ほら!セリちゃんだ!!」

「ぎゃーーーー!!!!!」

満面の笑顔のカニバとは違ってタキヤは日光を浴びたシンみたいになった

「あれでも…セリちゃんじゃないな……匂いはそうだけど…」

すぐにカニバは俺の正体を見破る、さすが動物だ

「ここここここ小僧!!貴様!!私の別荘で何やっ…!?」

怒り狂って突っかかってくるタキヤを思いっきり蹴り飛ばした

「面倒くせぇ奴だな、オマエはいつも

冷静になれば今の俺が勇者じゃないコトくらいわかんだろ?」

後ろに転んだタキヤの腹目掛けてもう一蹴りぶち込む

「あ~もっと……さすがカーニバルくんの飼い主……」

タキヤはいつの間にか目覚めていた

カニバの奴、間違った方向に調教してないか……大丈夫かコレ

「この部屋、椅子ないじゃん?」

キョロキョロしていると目の前でタキヤが四つん這いになって椅子になりきっていた

まぁ遠慮しなくていいか、そのまま俺はタキヤの背中に腰掛ける

「あ~~~この重み!軽いです!!……ありがとうございます!!」

「タキヤ……オマエ…僕の時はそんなキモくないだろ…」

調教した本人のカニバがドン引きしている

まぁカニバは子供だからタキヤは目覚めててもそこに性的な感情は含まれていない

もちろん、勇者が死ぬほど嫌いなタキヤが勇者相手にそんなコトもない

契約の俺だから、カニバの飼い主だから、複雑が絡み合っているんだと思う

で、契約の俺が元々Sだってワケでもない

契約の性格はその身体の持ち主の性格と同じ

勇者の周りがやべぇ奴らしかいないからMになってしまうだけで、勇者は人によってSな一面もある

「ってか!オマエ、セリちゃんじゃないんだろ!?セリちゃんの身体返せよ!!」

タキヤの次は怒って突っかかって来たカニバの頭を優しく撫でた

するとカニバは気持ち良さそうに目を閉じる

「帰る前に、シンはもっと俺に褒美を与えるべきだって話を戻すが

レイがもっと俺に夢中になるようにしてくれないか?」

セリカのせいでレイは自分を強く持つようになってしまった

あんな女の言葉なんて聞けないくらい盲目になってほしい

「今の我にそのような力があると思うか?」

引きこもりすぎて贅肉がたくさん付いてるシンを見て何も言えない

「久しく人間の魂を喰っていなくて力がない」

言い訳だろ、引きこもりのせいじゃないのか

「レイほどの魂を喰えたら強い力を手に入れられる」

わかってる……レイはいつかシンに魂を喰われるってコト

そしたら契約の俺も消滅するし…シンが倒されても俺は消える

レイと契約の俺がずっと一緒にいられる未来なんてない……

だから…限られた時間で、レイにたくさん愛してもらえたらそれで良い

それが俺の幸せだ

「ふん、使えねー奴」

これ以上話しても何もならないとわかった俺は帰るコトにした

部屋から出る前に、タキヤが「もっと!もっと!!」と興奮していたから無視したら余計に興奮してしまってる

放置しよう

カニバは何も言わずに俺を見送った


玄関に向かって廊下を歩いていると近くの部屋のドアが急に開いて一瞬にして伸びた手が俺の口を塞いで引きずり込まれた

後ろから抱き締められたような形になって、耳元で囁く声は引きずり込まれた瞬間からアイツだとわかっている

「ここまで案内してくださって、ありがとうございます」

フェイ…!?つけられてたのか!!

気付かれていないと思っていたのに……

俺は甘かったのか、フェイなら最初から気付いていたのかもしれない

「大悪魔シンの様子も知れてよかったです

今のシンなら私でも倒せそうではありませんか、レイ?」

フェイがレイの名前を呼ぶと、薄暗い部屋の奥からレイが姿を現す

フェイの手が緩んだのを感じて振り解くと俺はレイに駆け寄った

「まっ、待ってレイ…」

「そうだなフェイ、あれなら簡単に倒せるだろう

オレ達は運が良かったみたいだ」

レイの俺に向ける冷たいその視線は死ぬほど辛かった

惨めになる……勇者とはまったく違うその目は俺を傷付ける

自分が失敗したんだって今更気付いても遅い

フェイもレイもシンを倒す絶好のチャンスを逃しはしない

それでも俺は必死に止めるコトしか出来ない

「シンを倒さないで!お願い!!

シンを倒されたら俺は消えて、もう二度とレイに会えなくなっちゃうんだよ!!?」

「オレはあんたに会いたくないし、セリの中から消し去りたい

何を言われてもそれは変わらないってあんたはわかっているだろう?」

「嫌だ!レイが俺を嫌いでも会いたくなくても、俺はレイが大好きで会いたいもん!!」

行かせないってレイの腕を掴むが、レイは簡単に振り解いてしまう

冷たく突き放される度に俺の心が壊れてしまうんじゃないかってくらい痛む

それでも俺は何度もレイの前に立つ

「そこをどけ」

「どかない……死ぬほどレイが好きだから…

レイだって勇者のコトが死ぬほど好きなら……俺の気持ちもわかるだろ?」

壊れてしまいそう……好きがこんなに自分を苦しめるなんて……

レイは俺の頬を力いっぱい叩いた

「あっ……痛い……うぅ…」

壊れてしまった……涙が止まらない

それなのに、好きはちっともなくならない

「嫌だ……嫌……俺はレイに愛されたいだけなのに

それだけしかないんだよ……それがなくなったら俺が存在する意味も何もない……

たった一時の命…幸せになりたいだけ……」

叩かれた頬がじんじんと痛む、手で押さえてショックで膝から地面に崩れ落ちる

止むコトもない涙は、いつ枯れるのか

「あんたの気持ちなんてわからないし、わかるつもりもない

その顔で泣くな、その声でオレの名を呼ぶな

二度と出て来るなと言ったはずだ」

情けなんてあるワケない

レイは短剣を引き抜くと俺の足に容赦なく突き刺した

「いったああああぃ………っ!!」

動けなくするためだってわかった

シンを倒すのに俺の身動きを封じたんだって

勇者と違って俺は回復魔法が使えないから、ただただ足に深く刺さる短剣の痛みに必死に耐える

「……レイって私より冷酷な時ありますよね

いくらセリ様ではないと言え、身体はセリ様ですからその姿であそこまで言われたら私なら折れますよ

泣かれたら違うとわかっていても冷たく出来ません」

「それはフェイよりオレの方がセリを好きって事になるな」

「考え方や捉え方の違いなだけでしょう

それで私に勝ったと思わないでください」

レイとフェイが部屋を出て声が遠くなる

俺は痛みに耐えながら震える手で足に突き刺さる短剣を引き抜いた

ありえないくらいの血が流れ出てしまう

このまま勇者と心中して目に物見せてやりたいところだが…

やっぱり…レイに会えなくなるのは嫌だ

止血にベルトを使って、痛すぎる足を引きずってでも2人を追う

貧血がヤバすぎて勇者と入れ代わりたい所だが、今俺が引っ込むと確実にシンが殺されてしまう

あの2人に勝てなくても、シンの盾にはなれるハズ

この身体を盾に使えばあの2人も死ぬようなコトは絶対しない

勇者を殺すコトだけはしないもんな

とにかくすぐにはシンを殺せないハズだ

タキヤがなんとか抵抗するだろ

出遅れたがなんとかシンの部屋まで戻ってきた

開きっぱなしのドアは部屋の中で大きな騒ぎになっている

やっと部屋の様子を見るコトが出来て、思った通りタキヤが応戦してくれているがフェイ相手じゃやっぱ押されてるな

シンは太りすぎてて動きが鈍い、アイツ大悪魔の名折れだろ!?

あっという間にタキヤがやられて、フェイがシンに弓を向けようとした

もう時間がないと俺は力を振り絞ってシンの前に飛び出し盾となる

それと同時にフェイが破魔の矢を放つ、この位置なら腹に突き刺さるがなんとか耐えられるか

「カーニバルくん!?」

目を閉じて痛みが来るのを我慢していたらタキヤの声で目を開く

すると、目の前にカニバがいて破魔の矢はカニバの肩に突き刺さっていた

「ひええええ~~~!!この無礼者めが!!カーニバルくんになんて事をぉぉぉ!?」

「はっ?あの動物何を勝手な事を……」

タキヤは顔面蒼白になってカニバに駆け寄ろうとしたが、カニバが手を上げて待てを示す

フェイはカニバを睨み付けた

そういやフェイは動物と子供嫌いだったな

今のカニバは人の姿になっているが、フェイはカニバを動物だと認識している

「僕はさ」

話しながらカニバは肩に刺さった破魔の矢を引き抜いた

「もう二度とセリちゃんを泣かせたりしないって決めたんだよな」

「……何が言いたい?

セリのペットなら後ろにいる飼い主が本物じゃない事くらいわかっているんだろう?」

「そんなの当たり前じゃん、コイツがセリちゃんじゃないコトくらい

でも、僕はフェイと同じ考えかな

嫌なんだよ…セリちゃんが泣いてる姿を見るのは」

「耳が良いと勝手に聞こえて大変だな」

ウサギのカニバは俺達との会話が全部聞こえていたってのか?

「無理にレイに理解しろなんて言わねぇよ

でも、コイツはセリちゃんの性格と一緒だ

コイツが僕の頭を撫でたけど、セリちゃんと一緒だった

なんて言うのかな、もし本物のセリちゃんもレイに片想いだったらこうなってるって話

「わからないな、とにかくそこをどけ

邪魔をするならセリのペットでも容赦しないぞ」

「は~レイってホンマにセリちゃんしか見えてねぇんだな、まっレイだけじゃねぇけど

容赦しないか…いいぜ、かかってこいよ

相手になってやる、今のレイなら僕の方が強いぜ?」

カニバは中指を立ててレイ相手に舌を出して見せた

「こら~~~!カーニバルくん!中指を立てるなんて悪い子ですよ!!そんなコトしちゃいけません!!」

カニバも調子に乗ってそれはさすがにセリちゃんにも怒られるって顔をして震えている

目に見えてレイがキレているコトがわかる

強さを失っていないレイだったらカニバは5回は殺されているかもしれない

「生意気具合が飼い主のセリ様そっくりですね

レイ、落ち着いてください

破魔の矢はセリ様のウサギに取られたままです

私なら奪い返せますが、そのような動きをすれば矢を折られてしまうでしょう

飼い主に似て頑固ですから、一度決めたらそれが後に自分の首を絞めるとわかっていてもやりますよ」

「……言われなくてもわかっている

セリの事はよく知っているから」

フェイがレイを止めてくれて2人が落ち着いているコトを確認してカニバは俺の方に振り返った

「……さっき僕はオマエにセリちゃんの身体を返せって怒ったけど…

オマエはシンの契約…その身体でしか存在できない

それってどうしようもないコトなのに……

僕だって何が正解なんかわかってねぇし、間違ってるかもしれないけど

まだ消えるには早いって思った…同情かな

でも、セリちゃんに悪さしてるワケじゃないし」

カニバは俺を信じて認めてくれてる…?

本物の飼い主じゃないのに……

悪さ……まだしてないかもしれないが、嫉妬して…たまらなくて

この身体と心中するか、勇者を消し去って自分が成り代わるかって考えたコトはある

「……カニバ……オマエは、良い子だな…」

手を伸ばすとカニバは撫でて貰えるとわかっていて頭を差し出す

手が届いてカニバの頭を撫でてやると嬉しそうにした

「本当……飼い主が飼い主ならペットも甘すぎるんじゃありませんか

すぐに同情なさるんですから…

シンを倒せなくて困るのはレイだけなので、私はどちらでも構いません

どうしますか?レイ

せっかくのチャンスですよ」

フェイの言葉はまさにその通りだった

カニバだっていつか隙が出来る、破魔の矢を取り返すのも時間の問題だ

シンは自分が倒されないと確信したのか、ただの怠け者かわからないが

背を向け寝転んでアニメを見ながらスナック菓子を食べコーラを飲んでいる姿を見たら、今なら確実に殺れるって誰もが思う

契約の俺はこんなグータラな悪魔から生み出されたのか……堕落しすぎだろ

「…セリと話して決める」

「話した所であのウサギと同じ事をおっしゃいますよ

セリ様もすぐ情に流される人だって事はレイも知っているでしょう

良いんですか?シンを倒さなければ貴方達の関係は変わりません」

フェイの言う通り、レイにとって俺は邪魔でしかない

俺が存在する限り前に進めないからだ

レイが大悪魔のシンと契約した願いを、このまま叶えてしまうとレイはシンに魂を奪われる

だからシンを倒さなきゃいけない、その契約ごとなくすために

俺はどっちに転んでも消えるだけ

レイの願いが叶って契約が終了しても、シンを倒されても、終わりだ

「言われなくてもわかっている」

フェイにそう返してからレイは俺に近付く

…ヤバ……レイが近くに来るってだけで意識してドキドキが大きくなる

足の痛みなんて気にならないくらい

そしてレイは俺を抱き上げた

「レ、レイ……!?」

信じられない…!?レイに……こんなの死んじゃう…!!

「怪我のせいで血を流し過ぎている

セリを休めたいから部屋を貸してくれないか?」

優しすぎる!!俺の心配してくれるなんて、優しすぎないか!?こんなの惚れる

「あんたの心配じゃなくてセリの心配をしているんだが」

顔に出ていたのか、レイはムッとした顔を見せる

照れ隠しじゃん!?ツンデレって奴!?

レイはそんなに俺が好きなのか~……嬉しい

「ここは私の別荘です!!小僧に貸してやる部屋などありませんねぇ!!!」

どんな時でも勇者は敵なタキヤ

そんなタキヤにカニバは後ろから蹴りを入れて、部屋の出入り口に立つ

「この別荘にも僕の部屋があるからそこを使って、案内するよレイ」

カニバに案内されて部屋に入ると、シンの部屋とは違い広く綺麗で豪華だった

溺愛されてるなウサギ……

ふかふかのベットに寝かされるのを見届けるとカニバはシンの部屋で暴れているタキヤを止めに行くと戻ってしまった

久しぶりにウサギのカニバもナデナデしたかったな

「さて、すぐにでもセリに代わって貰おうか

あんたじゃその怪我は治せないんだ」

「……レイが手を握ってくれたら」

「調子に乗るな」

ふんってレイはそっぽ向くと、何を勘違いしたのかフェイが俺の手を握ってきた

「うわー!?気持ち悪ぃ!?触んじゃねぇ!!!」

反射的に手を引こうとするがフェイの強い力は俺の手を口元まで持って行くとキスされた

「おかしいですね…この前、誘ってきたのは貴方ではありませんか?

私に好きと言ってキスまでしてきたのに」

「えっ…?」

フェイの発言にレイが俺に視線を戻す

「な、何をデタラメなコトを!?俺はレイ一筋なんだぞ!?オマエなんか死んでも好きにならねぇし!!

ビッチで尻軽な勇者と勘違いしてんじゃねぇのか!?

レイに誤解されるようなコト言うなよ!!」

破魔の矢を奪うのに油断させるために自分の心を殺してまでやったコトだが…

やっぱりフェイの奴、あれが勇者じゃなく契約の俺だって気付いていたのか

気付いて泳がせてシンの場所を突き止めた

「そんなに私の事が好きだったなんて、今日はちゃんと最後まで相手してあげます」

「あ……あ、アホか!?死んでもオマエなんか」

あまりに話が通じなくて開いた口が塞がらないかと思った

フェイは俺の指を軽く噛む

「俺は怪我人なんだぞ!?」

「私はそっちの方が興奮します」

「何が!?もしかしてさっきからちゃんと会話できてないんじゃ!?」

フェイの手が足の傷に触れて鋭い痛みが走る

な、なんじゃコイツ!?頭おかしいんじゃないか!?って勇者の周りって頭おかしい奴しかいないじゃん!!?

フェイはやると言ったらやる男だし、俺が勇者じゃないとわかってても身体は勇者だからって割り切れるタイプだ

そんな……そんなの

「……フェイ」

もう絶望だって思っているとレイがフェイの腕を掴んで俺から引き離してくれた

「……なんですかレイ?今はセリ様じゃないので貴方に止める理由はありませんよね?」

レイ……また止めてくれた…?

この前も、レイは勇者じゃないのに俺がフェイから酷い目に遭う前に止めてくれた……

やっぱりレイは優しい……

この身体を守っているだけかもしれないけど、それでも……ちょっとだけ期待する

俺を心配してくれてるのかなって

「話をややこしくするな、あんたは早くセリに代われ」

はっ!?そうか!!なんか自分で我慢して受け止めなきゃいけないのかって考えてたけど、嫌なコトは俺が引っ込めばいいんだ

レイに言われて俺は意識を勇者の内側へ引っ込める

契約の俺が表に出てる時は勇者は眠ってるような状態でその間は記憶がない

俺は勇者と違っていつでも意識を保てる

だから勇者がレイ以外の男とイチャついたりするのも全部見えてるし感じてるから最悪だ

意識の交代は俺にしか出来ないから勇者は何もわかっていない

レイ達から話を聞いていて俺の存在は知っているみたいだが

それじゃ…俺は静かにしとくか

「………ぁっ!?何ッ!?なんか足めっちゃ痛すぎて……!?」

足に激痛を感じて意識がハッとする

飛び起きてすぐに回復魔法で痛みと怪我を治す

「えっ?何?ホンマ意味わからん、また急に意識がなくなって…寝てるだけなのにどうやって怪我したんだよ

………ってか、どこだここ……?」

いつからかまた記憶がなくなってる…?

まったく自分の知らない場所にいるコトにちょっと動揺するが、レイとフェイの姿はあるから大丈夫とわかって落ち着ける

「すまないセリ、足の怪我はオレが刺した」

おっ?どうしたオマエ?

なんでそんなコトするのレイ!?気が触れたか!?

「なんでそんな意地悪するんだよ!?そんなにフェイとの同室が嫌だったのか!?」

「セリ様にとって刺される事は意地悪で済ませられるんですか……」

珍しくフェイが引いてる

えっだって1番ヤバい時のレイは殺しに来てたから刺すくらいなら可愛いもんだろ

「フェイとの同室は嫌だが、刺したのは別の理由だ」

そう言ってレイは何があったかを話してくれた

たまに俺の記憶がなくなるのは契約のせいか……

レイは自分の願いを大悪魔シンと契約して、その契約は俺の中に生まれた

シンの契約だから敵だと思っていたし、消し去るコトだけを考えていたが

契約は契約でちゃんと生きてるんだって、カニバが突きつけた

感情も何もない、ただの悪魔の契約だと思っていたがそんなに複雑で報われない存在だったのか

カニバの言う通り、人間みたいに恋をして傷付くコトも泣くコトもする……

俺ではないけど…レイの理想の俺が、俺の中で生きてるってワケか

「俺は何も覚えてないけど、そういうコトがあったのか……

片想いの俺か……カニバがそう言ったんだっけ

変な感じ

俺は片想いとかしたコトないし、振られたコトも失恋したコトもねぇもんなぁ…」

「嫌な人ですね、振られた事ないとか失恋した事ないとか

何こいつって思います

周りの男達からモテすぎて調子乗りすぎです」

腹立つな~フェイにはもちろん、確かに俺の発言も何コイツって自分で思う

でも香月も和彦もレイも俺のコト好きでいてくれたもん

「フェイなんて誰かを愛したコトすらないだろ!!」

「偏見ですね、私にも1人くらい愛してる人はいますよ」

「えっ……フェイに好かれるなんて可哀想に…最大の不幸だ

その人はちゃんと逃げられた?」

「すぐ手の届く所にいますよ」

「監禁!?!?!?監禁してるのか!?

フェイならやりそうなコトだからとくに驚かないが、自由を奪うのは可哀想じゃないか」

冗談には見えない本気のフェイの笑顔にゾッとした恐怖を感じる

さすが和彦の部下、まともではねぇよな……

…そっか……フェイにも…いるんだ

好きな人…

当たり前だよな、フェイだって21歳の男なんだし、好きな女がいてもおかしいコトじゃない

……なんで、こんなに気持ちがざわつくんだろ

ってか!ちゃんと好きな女がいるのに俺にセクハラすんなよな……フェイにとっては俺への嫌がらせでも

嫌だよ

「オレに…片想いのセリ……か

そんな風に考えた事なかったな

オレは一目見たその百年前からセリをずっと想い続けてきた

セリが片想いをする時間は1秒もないくらい

だから、変な感じだ…」

「うん…でも、俺だってそうなってたかもしれないよね

好きな人に愛されないってコト

俺はたまたま両想いしかなかったけど、それが片想いだったら考えただけで死ぬほど辛いよ」

片想いの辛さは俺は想像でしかわからないが、百年前から片想いだったレイなら契約の気持ちは痛いほどわかるんだろうけど

それにこれはやっぱり俺が決めるコトじゃないだろう

レイと契約の問題だ

「レイが決めてほしい

その契約を俺として認めるか、別人と感じるか

この身体と性格は同じ、意識は別だけどさ」

「契約はシンが作り出した俺の理想と願望だ

夢や幻のようなもの

本当のセリじゃない……」

ふと思ったコトをそのまま口に出す

そう考えるとシックリ来ると言うか

「レイは空想で俺のコト考えたりしたコトないのか?

脳内で俺とイチャついたりしたコトないのか!?」

俺は少なからずあるぞ!?

この前だって久しぶりに香月と会えるって時にこれから香月と一緒に出かけたりイチャイチャしたいって考えるもん

「それが具現化しただけだろ

俺のコトは気にするな、レイのしたいようにすれば良い」

レイの空想の中の俺は俺じゃないじゃん

いくらでも都合良く、レイの中の俺は他の男には見向きもしなくてレイだけを一途に想って超惚れてるんだろ

空想だから当たり前に俺にその記憶はない

「……確かに…そうかもしれない

オレの空想なのだから、性格がセリなワケだ

でも、あれはオレに心底惚れているかもしれないが、悪魔の契約だって事には変わりない

あの子の意思に関係なくオレの魂は奪われてしまうだろう」

「そうだな……」

それは変えられない事実だ

1人の人間のように感情を持っていても、悪魔の契約として生まれてしまったからには結末は救われるコトはない

……俺はそんな救いのない話は嫌いだな…

自分の運命もまたそうだから……

「セリカと約束したんだ

オレは絶対に悪魔に魂を奪われないって、強くなるって」

「うん…」

「そして、契約を生み出してしまったのもオレの責任だ

そんな事も忘れてシンや契約が悪いと押し付けて、オレが悪いのに

オレが悪魔と契約しなければよかった話なのに

向き合うよ…またオレはセリから逃げていたんだな」

レイはいつも強い、ちゃんと気付いてくれる

「レイ…俺はそんなレイが好きだよ

シンを倒すのはずっと後になりそうだな

大丈夫、俺はずっと待ってるから

来世でもいいし、契約と違って俺は死んでも生まれ変わるからレイとの関係は来世の楽しみにしようかな」

救われないなら救われてほしい

無理だとわかっていても、幸せになってほしい

じゃなきゃ…俺だって無理なんじゃないかって絶望してしまうから

俺が笑って言うとレイは俺の両肩を掴んで距離を近付ける

「それは嫌だ!空想と現実は違う!!

オレは現実のセリが好きだ

1秒でも待てないのに……こんなに好きなのに……

セリはいつも……ズルいぞ」

上手くできなくてごめんな、レイ

俺だってレイのコト大好きだよ

お互いの想いが繋がる日が待ち遠しかった

レイは契約は俺に似ていない所もあるって言うが、俺は自暴自棄になるコトもあるのは知ってるだろ

自分で自分を傷付けるのも大切なものを壊すのも、俺はしてしまうよ

だから追い詰められた契約が大切に育てた花の花瓶を壊したのも、俺だってその立場ならするってコトだろう

いつもの自分とは違うような言動になるくらい追い詰められたら俺だって自分が何をするかわからない

俺ははじめて自分から契約に出て来るように言う

するとすぐに意識がなくなった

「レイ……」

レイと勇者の話は全部聞こえていた

まさか勇者が俺を庇ってくれるなんて……

レイは…俺がいると凄く苦しいんだな…

「ごめん…勇者に出て来るように言われて……

レイは俺のコト嫌だろうけど」

もう勇者じゃないからって俺は両肩を掴むレイの手を離させようとしたが、レイは手に力を込めて離さなかった

「セリは本当にズルくて勝手だな…そんな所も好きだ」

レイは俺の顔をじっと見つめて複雑に笑う

そして、俺を契約と知って抱き締めた

……!?一体何が起きたんだ!?

急に抱き締められてパニックになる

「オレが望んだ理想のセリ……

オレだけを死ぬほど愛してくれる

……好きに決まってる、オレの願望なのだから

あんたはセリじゃない事くらいわかっているさ」

「レ、レイ…?」

それならなんで抱き締めたりなんか…?

う…嬉しいけど……困惑するぞ

「あんたが存在するのはオレの責任だ

ちゃんと責任は取るから安心してくれ

空想なら夢なら…悪く考える方がおかしい

オレの空想だから、また良い夢を見させてくれるかい…?」

「へっ…?」

何もよくわからないままレイの手が頬に触れたのを感じて、気付いたらレイの唇が重なって………

ゆ、夢だ……俺こそ都合の良い夢を見ている

空想だ、レイに愛されたいあまりに……

キスされながら強く抱き締められる

全身がレイを愛してるって震えて…熱くなって…

レイのぬくもりはこんなにリアルなのに……

「……レイ…ど、どういうコト…」

レイの唇が離れてもまだ胸のドキドキが止まらない

混乱したままでもこの高鳴りが止まるコトはなくて……これは夢じゃないのか?

「あんたはセリと違って、オレ達の会話は聞こえていたんだろ?……そういう事だよ」

「いや……いやいやいや!?全然わかんないよ!?」

「あんたは悪魔の契約でオレの空想が具現化しただけの存在

オレは現実のセリしか愛していないが、空想のセリとは現実以上に仲良しだ

いつか空想と同じくらい現実のセリに愛されたい

そんな願望を持つのは当たり前なのに、目の前に存在するってだけでオレ自身がそれを否定していた

違うよな…オレの空想も願望もあるからこそ現実で叶えようってなるのに」

きっと冷静になれば、レイの言ってるコトはなんとなくわかるんだろうな

でも今は頭も胸もいっぱいで何も考えられない

ただ、感じるのは…レイは俺をもう拒んでいない

それどころか受け入れてくれる

「……セリ、悪かった…もう泣かせたりしない」

オレはレイの空想、だから契約って名前じゃない

レイの愛するセリだってコト…

はじめて名前を呼ばれて…凄く嬉しかった

嬉しくてレイに抱き付いて、泣かせないって言われたのに泣いてしまう

また突き放されるんじゃないかって怖かったけど、レイは優しく受け止めてくれて抱き締めてくれる

「嬉しい…嬉しいよ…レイ……大好き…死ぬほど大好き、愛してるのはレイだけ」

「それ…セリにどれだけ言われたかった事か」

そりゃレイの都合の良い空想だからな

でも、空想の俺は心からそう想ってる

「驚きです

セリ様が甘いのはわかっていましたが、自分の身体を貸してまで契約の幸せを叶えるなんて信じられません

それにレイもレイです

私が契約に手を出そうとしたら止めてましたから、レイも少なからず情を持ってしまっているのではと思いましたが

まさかこうして認め受け入れるとは思いませんでした」

俺はレイが好きすぎて腕を掴み身体をくっつけていると、フェイは呆れたと言うような顔をする

だってずっと俺にくっついていてほしいってのがレイの願望の1つだからね

「フェイはそんなセリが好きなんだろう?」

そしてレイにストレートに言われると顔を真っ赤にして天の邪鬼になる

フェイはどんなに嫌なコトも酷いコトをしても勇者がなんやかんや反応してくれる甘さも好きなんだろうな

後、いつも勇者の小さい足を褒めてるから足フェチなんだと思う

「黙りやがれ」

反応が小学生なんだよな~、小学生の時に初恋を済ませてないからこんなにこじらせたんだろうな

なんやかんやと落ち着いた頃を見計らってカニバが部屋へとやってきて、レイに破魔の矢を渡す

「セリのカニバ……世話になったな

さすがセリのペットだ、いつもオレはセリの言葉に自分を気付かされる」

「まぁ僕はセリちゃんのペットだからレイのコトもなんとなくわかってるよ」

カニバは俺に視線を送るとニコッと笑った

よかったなって言ってくれてるようで、ペットなのに子供なのになんて大人な奴なんだって感動してる

カニバの後ろでついてきてるタキヤは俺達を睨む

「この破魔の矢はレイがどうするか決めなきゃいけない

次は僕も止めないから」

破魔の矢を見つめカニバの言葉にレイは俺へと視線を移す

いつかは…シンを倒して、レイは現実で叶える

俺はレイが現実で叶うまでのただの願望や空想

わかってる、最初から…俺は自分がなんなのかを

ずっとレイと一緒にいたい…でもレイの幸せを想うなら、願いを叶えようとするなら

「……いいよ、俺はもう十分幸せだから

最期にレイが俺に向き合ってくれて嬉しかった

それだけで思い残すコトなんて何もない」

俺はレイから離れて、大丈夫だって無理して笑う

別れなんて最初からわかってたもん

シンを倒せばレイは夢でも空想でもなく幸せになれる

もう勇者だってレイのコトが好きでその時を待ってるんだもん

すぐそこに叶う願いがある、今もう掴めるんだぞレイ

もっと…ずっとレイと一緒にいたいって思うのは俺の勝手で、それこそ契約違反だ

「大丈夫…レイ、俺のコトは忘れて…幸せに……」

今まで俺からレイにすがって突き放されてだったよな

まさか俺がレイから離れるなんて…

「……まだ最期にするには早すぎるだろ

オレの空想が勝手に決めていい話じゃない

あんたをどうするかは、オレが決める事だ」

レイは俺の手を掴んで引き戻した

やってるコト……逆になっちゃった

「そんなに…優しくされたら……もっと欲張っちゃうぞ…」

「欲張りなのはセリの性格だから仕方ないな

それにオレにおねだりするセリは好きだよ

もっといつもみたいにワガママ言ってほしい

嫌なら嫌と言っていいんだ」

「嫌だよ…消えるなんて嫌に決まってる

もっとずっとレイと一緒にいたい

ほしいものだってたくさんあるもん……」

「あぁ、なんでも好きなもの買ってやる」

「結構高いんだけど」

「いくらでも」

ラッキー

レイとデートだ!!

なんだか本当に夢みたいだ

レイが勇者と同じくらい優しい…嬉しい

急な変わりようでビビってるけどな

「どさくさに紛れて調子に乗って貢がせようとしてませんか…

和彦様が甘やかすから

そう言う私も人の事言えませんけど……」

「えっ?買ってくれるって言うから遠慮したら悪いじゃん

タキヤ、桃が食べたい」

「はい喜んで!只今買いに行って参ります!!」

「水蜜桃の糖度13.5度以上のやつね」

「畏まりました!!」

「ほら、本人は喜んでる」

「……飼い主が飼い主ならペットもペットですね…小悪魔な所は」

「僕は人見て言ってるよ

そういうフェイだって主人があれだから相当なもんじゃん」

「そんな私の主人の恋人ですよね、貴方の飼い主は」

「ふん、セリちゃんと向き合うのが怖いのはフェイも一緒なんだろ

レイはちゃんと向き合ってる

次はオマエの番じゃねぇの?」

「………私は子供も動物も嫌いなんですよね」

「両思いだな

僕もフェイは嫌いなんだよ、セリちゃんに酷いコトするから

どれだけ好きでもセリちゃんに痛いコトする奴なんて反対だな」

「子供の動物にはわからない大人の人間の愛し方ってのは色々とあるんですよ」

タキヤが猛スピードで部屋から出て行ったと思ったらフェイとカニバが笑顔でバチバチしているのが目に入った

あの2人相性最悪そうだな…どっちも気が強いから

ペットと言っても全部が飼い主に似るワケじゃねぇし

こうして俺はまだ消えるコトはなくレイに受け入れて貰えるコトになった

帰る前に俺の意識は引っ込めて勇者に代わる



そんなコトがあって死者の国に帰って来てから暫く経ったある日の夜、フェイからそのコトについて話し掛けられた

俺は和彦の部屋に帰るコトをまだ許されてなくて、いつになったらフェイと離れられるのかって不満もあるがなんやかんや慣れてきたりしてる

と言っても、フェイが珍しく酷いコトして来ないから気持ち的に落ち着いているのか……いやこれは油断か!?

「セリ様はたまに契約にご自分の身体を貸しているみたいですが、よろしいのですか?

人ではないのかもしれませんが、他人に身体を貸してるみたいで私なら嫌だと感じるのですが」

そろそろ寝ようと思った時に話し掛けられたから俺はベットの上に座って返した

潔癖症なフェイからすればそんな言葉も出るだろうな

契約の事情を知らなければ俺だって気味が悪いと思ったかもしれない

身体は俺でも意識は俺じゃない誰かよーわからん奴がレイとイチャつくってめっちゃヤキモチ焼くわ

「俺は別に気にしねぇよ

ちゃんと話を聞いて納得してるから」

「そうですが…」

「最初から自分では変えられない運命ってのは、あんまりだと思わねぇか?

俺はこれまで何度も似たような生まれ変わりを繰り返して、それが幸運なら最高かもしれないが

呪われてんのかって思うような運命だよ

逃れたくても逃れられねぇし、どうしようもないからどうしようもないまま生まれてそのままどうしようもないまま死ねなんて俺は嫌だね」

そんな俺が契約の運命を知って、それでもどうしようもないまま死ねなんて言えねぇし

どうしようもないまま死んでほしくない

レイが願わなければ、俺じゃなかったら

コイツは存在していない

レイの願望や空想が、俺の中で生きてるなら受け入れてもいい

それが出来た元の俺はレイに愛されてるコトに変わりないし

「それにレイがやらかしたコトに俺は関係ないかもしれないが、俺はレイのコトも好きだから

好きな奴がやらかした時に一緒に背負ってやらなきゃ、本当に好きなんて言えねぇじゃん」

「セリ様はたまに大人ですよね」

「オマエより年上なんですけど!?2歳も年上やぞ!?」

「わかりました、そういう事なら

セリ様の決めた事ならそれが良いのでしょう

ですが、私は…それでも嫌ですね……」

「ん?心配してくれてるのか?それはありがたいが大丈夫だろ

契約はレイも俺も傷付けるつもりはないだろうし、まぁ契約の意思関係なくレイの魂が奪われるかもしれないって心配もあるが

もうレイの心はそんなものに負けないくらいの強さを取り戻したって俺は信じてるぞ

だから契約のコトはレイに任せてるんだ」

「私もレイの事は信じていますから

そうではなくて……」

ベットの上で座りながら話していたが、フェイがゆっくりとベットに乗って近付いてくる

えっ…何……

ちょっとずつ逃げるように反対側に下がる

「せっかく和彦様に同じ部屋にして貰ったのに、たまに夜帰って来なくなるのは寂しいです

事情が変わったからと言ってレイだけズルいですよ

シンを倒してレイが強さを取り戻してからって約束を私だけ守っているのに」

「な、何言って……」

ベットの反対側まで逃げてきたがもう後がない…

そんなコトわかってるフェイは俺を自分の方へと引っ張り寄せる

「お、落ち着けフェイ!?オマエは疲れているんだ

さっさと寝よう!早寝早起きしなきゃ!!」

なんか…変にドキドキしてきちゃった…

「別に疲れてはいません

レイが悪いんですよ…意識は契約だからってセリ様の身体でお楽しみですから

だから私も寝取ってやります」

「オマエは何か誤解してるぞ!?

そのコトはこの前レイから聞いてて、まだみたいだからオマエが俺を寝取る理由はない!!」

いつかはそうなるってレイは言ってた

その前に身体は俺だから話しておきたいって言われてさ

まぁレイの空想だし、そこは好きにしてもらっていいかな

他人の空想や願望に他人が文句言う権利ないもんな

身体は俺だから完全に他人ではないし、割り切るしかない

契約もレイに愛してもらうのは幸せだろうし

もちろん、これが俺の身体じゃなければめちゃくちゃ嫌で許してないかも

俺の身体だから良いって言ったんだ

「まだって事はそのうちあるって事じゃないですか」

ちょっと怒ってる?

フェイは俺の顔を両手で掴み、唇が触れそうな距離まで顔を近付けた

絶対キスされるじゃん…!?

「私だって…ずっと我慢していました……」

わかってた通り、フェイの唇が重なる

我慢って…何……

オマエ我慢なんて出来る人間だったのか?

……嫌だと思ってたのは、最近は思い込みなんだって…気付いていた

いつからか、フェイのコトが嫌じゃなくなってる

………やっぱりたまに酷いコトしてくるからその時はスゲー嫌だけど

認めたくないのも、俺の意地だったのかも

正直、俺はフェイのコト好きかどうかわからない

嫌じゃなくなったってだけで…最近は物凄く意識する

……ヤバい…本当に俺は尻軽のビッチじゃん

フェイとまでこうなるなんて……

長く続くキスに、俺は手をフェイの背中に回してそっと触れると

フェイはビックリして俺から離れた

えっもしかして背中弱かったり?わかる~そっと触られるとこしょばいよな

「……嫌がられると思っていたのに

……近寄らないでください…嫌い…です」

また何で怒ったのかまったくわからず、フェイは顔を真っ赤にしてそれを隠すように部屋を出て行った

「………なんやねん!オマエ!!

いや!?近寄ってきたのオマエやん!!」

ワケわからん!!ってフェイが出て行ったドアに枕を投げつけた

もう今日は帰ってくんな!!

嫌いならキスしたり触ったりすんなよ

どんだけそんな嫌いな俺に嫌がらせしたいんだっての

ムカつくな~って思いながらベットに潜り込む

いやアイツが腹立つのは最初っからだし

………枕ないと寝にくいな、さっき投げつけたドアの前まで取りに行った

この瞬間超虚しいやつ、キレた自分の後始末

和彦はフェイと俺が一緒の部屋になったら喧嘩しかしないってわかってるハズなのに

なんでこんな酷いコトするんだよ、まったく

早く和彦の部屋に帰りたい、和彦と一緒に寝たいよ

………腹立って眠れねぇな、今日は契約と代わろうかな

…嬉しい~!!サンキュー勇者って、俺の声は聞こえねぇか

あれから数日経って死者の国に帰ってきても俺は勇者に代わってやると言われるまで大人しくしている

そしたら何回かは代わってくれるんだ

俺と勇者は直接会話出来ないから、いつもまだ?まだ?ってソワソワして待つ

今日はレイに会えるって嬉しさしかない

勇者はなんかフェイと複雑みたいだけど、まぁ頑張れや!俺は関係ないもん

さっそくレイの部屋に走って行く

「レイ!」

部屋を訪ねてレイがドアを開けてくれるとすぐに抱き付いた

「えっと…契約の方か?」

「当たり!会いたかった」

えへへって部屋の中に入れてもらう

「そうだな、セリには夜は会えないって言ってあるし

今のセリを見てもオレは平気だから契約だってわかるが、契約なら契約だと言ってくれ」

「なんで?わざわざ言わなくてもどうせレイすぐに気付くじゃん」

今日はレイと朝まで一緒だもん

本当はずっと毎日朝も昼も夜もレイと一緒にいたいけど、勇者の生活を邪魔したらレイに怒られるってわかってるからちゃんと我慢してる

意識の切り替えは俺にしか出来ないから勇者に戻らないってコトもできたりするからさ

勇者がくれる時間だけ身体を借りて、その時間は大事に使うんだ

勇者にはやっぱり嫉妬するけど、感謝はしてるもん

ベットに腰掛けると、レイは俺の前に立って影を作った

「間違えてセリとの約束を破ってしまうかもしれないから…」

そう言われて、レイにキスされたまま押し倒される

あっ…何日振りの…レイとのキス

そうだ、勇者とはキスより先は…

レイが大悪魔シンを倒して、勇者の本当の気持ちを聞いてからって約束をしていた

それは俺と間違えたら大変だ

「わかった…次からはちゃんと俺だって言うよ……」

それを聞いたレイは俺の首筋へとキスしていく

またレイに愛してもらえるなんて……死ぬほど幸せだ

「今日こそは……してくれるの?」

「あんたの事は二度と抱かないと決めたのにな…何日かは迷ったよ

でも、ちゃんと幸せにするって約束したしセリにも話した

オレの空想に自分は口出しする権利はないって、セリは理解ありすぎて優しいんだ…

オレはそんなセリが好きだって惚れ直したよ」

「……ヤキモチ妬くな…そんな勇者だから俺は幸せなのに、変な感じ嫉妬する

レイが俺以外を好きって人の話するの……」

レイは俺の手を掴み指を絡める

「あんたもセリだ、それもオレだけの…

オレだけを愛して受け入れてくれるじゃないか」

もちろんだよ、だって俺はレイの理想のセリだから

レイの願いそのもの、空想で…大悪魔の契約

「うん…俺はレイだけを愛してる

レイ、大好き……大好きだよ」

「オレも愛してる…セリ……」

深く唇を重ねて激しくなる

レイに愛されて…死ぬほど幸せ

やっと…俺は幸せになれたような気がする

本物じゃないただの空想の俺をレイは受け入れてくれた

もう俺はいつ死んでも構わない…レイの本当の願いは勇者と結ばれるコト

その時まででいい、短い時間で構わないから

俺も生まれてきてよかったって……幸せなまま死ねたらそれでいい

「あっ…ぁ、レイ……気持ちいいよ……大好き

大好き…ぃっ…」

もっともっと、深く、いっぱい、愛してね…大好きレイ

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