98話『病の村』セリ編

レイは大袈裟に言っただけだ

どうせ30分くらいで着くんだろって考えが甘かった

本当に村に着くまで2時間かかったわ!!

「もうスゲー疲れたんだけど!!」

村の前まで到着すると俺は最近口癖になってるスゲー疲れたを言う

村は小さかったがちゃんと実在していた

蜃気楼とか幽霊村とかじゃなくてよかったな

到着して、蜃気楼でしたってオチだったら暴れてた

「歩いて数分でおんぶしたのに?」

「おんぶされるのも疲れんだよ」

なんつーワガママ、自分でも最強のワガママだと自覚している

レイはこれくらいじゃ全然疲れてないって爽やかな顔しててまだまだ元気そうだ

若さか?5歳の違いか?10代と20代の違いですか!?(運動レベルの違いもあります)

「俺、もうじじいだからいいわ」

ひと休憩と言いながら目に入ったベンチに座る

「諦めないで!セリはまだ若い!23歳!」

「10代に言われてもな、20代と10代の違いは大きいだろ

5歳も違えば別の生き物だって言うじゃん

ローズ(5歳)が俺の娘って言ってもおかしくない年齢なんだぞ」

「セリが疲れ過ぎておかしな事を言い出した…

年齢は関係ないと思うぞ

セリは元々、筋肉が付きにくい身体だし体力も少ない

腕も足も細いし体重も軽いし、全体的に小さいだろう、可愛いし」

最後関係ある?

「手だってこんなに小さいんだ」

そう言ってレイは自分の手と俺の手を合わせる

確かに、俺は小柄で華奢だ

身長も155cmくらいしかない、靴のサイズも23cm…キッズか!!合う靴に苦労するんじゃ!!

それでも俺はこの身体が良いと思う

レイや香月みたいに高い身長も男らしさも憧れないワケじゃない

羨ましいと思う

でも、やっぱり俺はセリカだから…この身体が大好きなんだ

体力がないのも筋肉が付かないのも、それでいい

「さっ行こうか」

俺が文句言わなくなったのを見てレイは俺を抱き上げる

「待て!これは恥ずかしい!お姫様抱っこなんてまたレイとカップルに間違われるだろ!」

「いいじゃないか、どうせそう見られるんだ」

「いいわけあるか!カップルに間違われるのはもういい、諦めてるから

でもお姫様抱っこは恥ずかしいから下ろせ!」

仕方ないなとレイは笑って俺を下ろしてくれた

普段からレイとはいちゃつくけど、お姫様抱っこで村に入るってどう考えても恥ずかしい以外ないだろ…

この世界はカップルだと人前でいちゃつくのは当たり前みたいだけど、俺は香月と和彦とは人前では絶対にいちゃつかねー

和彦がよく手を出してくるが叩き払ってる

なんとなく、俺は恋人と人前でいちゃつくのは好きじゃなかったりする

自分が恋人の前でしか見せない表情も仕草も、他人に見られたくないってのがあるのかもしれない

単純に、恥ずかしいから

「ゆっくり休めそうかも、お腹空いたから先にご飯行こうぜ」

「そうだな」

村に入ると、小さいと思っていたが結構広く宿と食事が出来る場所が1つずつある

俺達は先に食事の出来る店へと入った

家の1階をお店に改造したみたいで、カウンター席がありお座敷がひとつある

他に誰もお客さんはいなく、お座敷へと案内された

「やった!貸切じゃん」

誰もいないのと、お座敷は仕切りがあったから人目が気にならずくつろげる

店主とその娘(と思う)の2人で経営してるみたいだ

店主が料理をして娘さんが料理を運ぶ

「わぉ!カニさんだ~!美味しそう!」

最初に飲み物は何がいいか聞かれたが、メニューとかなくてどう注文したらいいか迷っていると勝手に料理が運ばれてきた

「カニか、久しぶりに食べるな」

どれくらいお金取られるか知らんけど、俺達はいつも食べたいものを食べるから値段を気にしたコトがない

あまりにバカ高いのは避けるけど

とにかく美味しそうなカニを目の前にして食べないワケないのだ

レイと俺は無言でカニを食べた

無言で…

そして次の料理が運ばれてくる

今度はスッポン料理だ

生血と刺身と唐揚げと鍋、最後にぞうすいのコース

「スッポンうま~」

食べると自然と笑顔になる美味しさ

「でも、これ絶対カップルで来れないやつだ」

スッポンは複雑な骨と細かい骨があってスゲー食べにくかった

だから多少、食べ方が汚くなってしまう

めっちゃ美味いけど、今の所フグとスッポンはカップルで来れないと思ってる

「さっきのカニ、全然味なかってんけど」

「だよな」

カニって美味しいハズなのに、さっき食べたカニは味がなさすぎて無言にしかならなかった

黙って食べてたのははじめてだった

自分が何を食べてるのかわからなくなる(カニ実話)

「満腹、満腹、うまかった~」

最後はフルーツも出て来て、俺はめっちゃ満足した!

量が多かったからほとんどレイに食べてもらったけど、お会計は…2人で2万円

高いな、レイが払ってくれた、へへへ

「ごちそうさま、美味しいもの食べれてよかった」

お店から出るとすぐにレイの腕を掴む

「あぁ、また近くを通る事があったら来たいくらいだ」

小さな村だから何もないかもしれないと思ってたけど、美味しいご飯は食べられるしベッドで寝れるし悪くねぇかも

宿に向かい歩いていると前からマスクをして咳き込む男が見えた

あー風邪か?インフルエンザ?そんな季節だもんな

バカな俺は滅多に風邪引かないから、周りが風邪引きはじめると焦るわ

元気だとバカってバレそうで

そういや、さっきのお店の店主と娘さんもマスクしてたような…

「お風呂入ったら今日はもう寝るー」

「うんうん」

レイと話しながらその男の横を通り過ぎると、その男の後ろにいた人はマスクをせずに咳き込んでいた

うーん…風邪…流行ってるのか

俺はバカだから大丈夫だろうけど、レイが風邪引いたらどうしよう

心配になって俺はレイに早く宿へ行こうと引っ張った

明日は朝早く帰ろっと…

怪我は治せても病気は治せないから、慎重になってしまう

宿に着くと、ここも他のお客さんがいなくて貸切状態だった

好きな部屋を使っていいと言われたから俺達は1番良い部屋を取る

さっきの宿屋のお兄さんもマスクしてた…しかもとても苦しそうに顔を赤くしてたから熱も40度近くあるのかもしれない

早く良くなるといいねと思いながらレイと俺は部屋に入った

「ん…」

レイのほうに顔を向けると、レイは喉に手を当てている

「どうしたんだ?」

「少し喉に痛みが…」

あっ、レイの声がちょっと変になってる

風邪引いた時みたいな

さっきまで普通に喋ってたのに

「はちみつ貰って来ようか?」

風邪の引きはじめかもしれない

この村、スゲー流行ってたし

でも今までレイが風邪引いた所なんて見たコトないぞ

体調管理も完璧ななんでもイケメンのレイが珍しく俺の前で弱さを見せるから戸惑いと心配が強くなる

レイの手に触れるとさっきより少し熱い気がする

俺はレイをソファに座らせてコップに入れた水を持ってきた

「風邪引きはじめかも…お医者さん呼んで来るから、いなかったら薬貰って来るよ」

部屋から出ようとしたらレイに手を掴まれ止められる

「いや、この村で風邪が流行ってるみたいだ

セリは外に出るな、それから部屋ももうひとつ借りてそっちで寝てくれるかい」

「で、でも…レイの看病しなきゃ」

「大丈夫、オレは一晩寝れば少しはマシになるだろう…若いから」

「そんな冗談言えるなら大丈夫だな!」

「明日早くここを出よう」

レイはわざと俺を怒らせて部屋から追い出そうとする

優しい…けど、そんなコトしなくていいのに

俺はレイの言う通りに、隣の部屋を借りてそっちへ移動した

ひとりの部屋ってスゲー久しぶりだ…ひとりで寝るのも…めっちゃ久しぶり

ひとりって…こんなに静かなんだな

ベッドに倒れ込み天井を見つめる

シーンとしてる、俺が動く以外の音は何もしない

「レイ…大丈夫かな」

ただの風邪じゃん、レイの言う通り若いんだから一晩寝てりゃ治るってのに

どんな大怪我だって毒だって俺は一瞬で治せるのに…

自然にかかる病だけは治せないから……

だから…凄く心配になるんだ

ただの風邪でも

「やっぱり心配だ」

ベッドから飛び起きてレイの部屋へと行く

静かにドアを開けて中に入ると灯りは消えている

もうレイはベッドで寝てしまっているようだ

俺は小さな炎の灯りを頼りに部屋の様子を見ると、レイの服は脱ぎっぱなしでソファに放り投げられていた

いつもハンガーにかけて、ちゃんと畳むのに

それが出来ないほどしんどいんだ…

代わりに俺がレイの上着をハンガーにかけて服を畳もうとした時、ボタンが外れているコトに気付く

そうだこれ、レイに後で付けてくれって言われてたんだ

俺はあの時に預かったボタンをポケットから取り出す

簡易の裁縫セットならあるかな?

この世界の宿やホテルにはだいたいあるものだった

引き出しを開けて確かめると、やったねあったぞ

ボタンひとつ付けるくらい簡単カンタン!ちゃちゃっと終わらせてしまう

明日、レイに褒めてもらおう

ボタンを付けたレイの服を抱きしめる

絶対褒めてもらうんだもん

服を畳み終わるとレイの様子を見にベッドへと近付く

なんだか凄く苦しそうだ…

レイの額に手を当てるとめっちゃ熱かった

さっきはちょっと熱いくらいだったのに、こんな急に高熱になるなんて…

すぐに氷と水で冷やしたタオルを搾ってレイの額に乗せる

風邪…ただの風邪だよね…大丈夫だよな

心配でたまらなくなってきた

すると、レイのベッドの中からフェレートが出て来て俺に寄り添う

「フェレート、今夜はご主人様が病気だから俺と一緒に寝ようか?」

フェレートは俺の言葉とレイの様子を見て察したようで、邪魔しないようにと姿を消す

精霊は姿を消したり現したりするコトができるらしい

フェレートは姿を現すとレイと喧嘩するコトが多いからほとんど姿を消している

セリカがいる時に出て来るコトが多いな

コイツもオスだからメスが好きなんだ

「セリ…?」

あっレイを起こしてしまった

俺は水の入ったコップを持ってレイに差し出す

「お水飲むか?何かほしいものとかしてほしいコトあれば」

「いい…早く出て行ってくれ、さっきも言っただろ」

起きてるのもしんどそうなレイを見て辛い気持ちになる

「で、でも…心配で」

「いいから、我が儘言うな」

俺が差し出したコップをいらないと手で払いのけられる

そんなに強い力ではなかったが持っていた手が滑って水をこぼしてしまった

「あっごめん」

タオルを掴んで拭こうとしたがレイに奪われる

「しなくていいから早く出て行ってくれ」

こんなに冷たく俺を突き放すレイははじめてだった

それが、凄くショックだった…

「だって…心配なんだもん……」

泣きそうになるのを我慢して俺は大人しく部屋を出て行った

レイにとって俺がうざかったってのは頭ではわかってる

風邪をうつしたくないのにいつまでも周りをウロチョロされたら俺だってウザイ

でも…なんだろ、普通の風邪なのにめちゃくちゃ心配になるんだよ

簡単に死ぬんだよ?死んだら二度と会えないんだよ?

絶対大丈夫ってないんだよ…

俺はラナを殺してしまった日のコトを思うと…その日から死について凄く敏感になった

あの名前も知らない小さな女の子のコトが頭から離れない

ちょっとのコトでも、もしかしたらって

いつもなら俺が悲しい顔をしたらレイはすぐに来てくれるのに…今日は来てくれないんだ……

朝になってもレイは来てくれなかった



「寝てないから」

隣の部屋で寝ようと思っても全然眠れないまま朝を迎えてしまった

でも、一晩寝たら治るって偉そうにレイは言ってたんだ

顔を見て、元気だったら殴ってやる!心配させやがってって…そしてめっちゃ甘えてやるから

俺は着替えるとレイの部屋へと移動する

ドアを開けて中を覗くとレイはまだベッドの中だった

「レイ…?」

嫌な予感がする…心がぎゅって潰されそうだ

ベッドへと近付いてレイの顔を覗き込むのが怖かった…

「セリ…」

レイの声!ホッとした俺はすぐにレイの傍に駆け寄った

レイの顔を見てハッと動きが止まる

昨日のレイは高熱で顔が真っ赤だったのに、今日は凄く顔色が悪く青白かった

「レイ…しんどいの?」

レイの顔に触れると、とても冷たかった…

人間ってこんなに冷たい肌だったかとわからなくなるほど

「大丈夫…これくらい…今日、この村を出よう…」

レイは重そうに身体を起こしていつもみたいに笑おうとするが、笑えてないしフラフラだ

なんなんだ…普通の風邪じゃないぞ

こんな一晩で人間の体調が急激に悪化するものなのか?

「昨日はすまなかった…セリに風邪が移ったら嫌だから」

「ううん…」

謝るなよ、謝られたら…なんか怖いから

嫌な予感が増すんだよ

なんでこんなに必死になるのか…ただの風邪かもしれないのに大袈裟だ

嫌な予感がするから?普通の風邪に見えないから?それとも…

レイは俺に頼ったりしない…甘えたりしない

いつも俺を守るってカッコ付けるから…騎士でいようとするから…

そんなレイの体重が全部俺にのしかかってた

重かった……

俺が非力だからとかそんな話じゃない

あのレイが…こんなに弱ってしまうなんて

村を出るぞってレイは俺の支えなしでは立てないくらいフラフラなのに、そんな身体で帰れるワケない

「レイ…待ってて、お医者さん呼んでくるから」

またレイをベッドに寝かせて声をかけるが返事がない

意識がなくなってる…さっきまで喋ってたのに…おかしいよ

心配で傍を離れたくないが、今はお医者さんを連れて来ないと

部屋を出た俺は宿のお兄さんに医者を呼んでほしいと伝えた

「この村に医者はいないよ」

その言葉に焦りがさらに増す

小さな村に医者がいないのは珍しいコトじゃなかった

そんな…隣町?もっと都会まで出ないとダメか?

「じゃあ…お薬かなにか…」

「ない」

キッパリ言っては突き放すように宿のお兄さんはそれ以上何も言わず奥の部屋へと行ってしまった

ふと窓の外を覗くと村人はみんなマスクをしていた

顔色が悪くフラフラと歩く者もいれば、座り込んで虫の息の者もいる

人が寝転がって見えるのは…もしかして死んでいる…?

「ここ…変だ……なんで気付かなかったんだ」

みんな何かの病に侵されている…のか…?

「レイ…」

医者もいない薬もない…どうしよう

なんで俺だけなんともないんだろ

やっぱバカだからなの?

俺はまた部屋に戻ってレイの容態を確認する

レイの額に触れるとやっぱりとても冷たい

「ハハ…セリの手が珍しく温かいよ……」

俺の手を掴んでレイは笑う

すぐに意識を取り戻してくれたけど、またいつなくなるか…辛そうに…

「心配するな…明日になれば良くなる」

「それ昨日も言ってた…」

本当に?本当に…

レイは俺が心配するからそう言うだけだ

「伝染るかもしれないから…先に帰ってくれ」

「ヤダ…」

「……頼むから」

短い言葉だけ押し付けてレイはまた眠ってしまった

いつもの余裕なんてレイにはなかった

いつもなら…俺のワガママ聞くのに、それを叶える為になんでもするのに

今だって!ヤダって答えたなら、レイなら…気合いで治して受け入れてくれるのに……

それができないってコトはめっちゃヤバイじゃん……

だんだんとレイの息が小さくなっていくのがわかる

「レイ…!」

全然元気になんないじゃん!?

冷たい手を掴むと力なく重い…この感じ……凄く嫌

さっきまでは握り返してくれたのに

「レイ!レイってば!」

嫌な予感しかない…返事をしてくれないから

急だよこんなの、ウソだよこんなの

そうだろ…

お別れって急に来るんだよ、本当突然なんだから

そんなの絶対にイヤだ…

なのに、まだその時じゃないのに

その時が来るんだって込み上げてくる

熱くて悲しくて苦しい涙が溢れてしまう

「元気になって!お願いだから!レイがいなくなったら……」

温まらない手を温める、炎魔法でレイの体温を上げるように温めた

これで少しは持つだろうけど、レイ自身が自分の体温を取り戻してくれないとダメだ

「俺の為以外で死ぬなんてカッコ悪いぞ…」

聞こえてるのかどうかもわからない

「死なないで、レイ……寂しいよ……ひとりにしないで」

言葉と一緒に涙が止まらなくなる

本当にその時が訪れる覚悟の涙…

信じたくないよ、でも…もうダメなんだって……医者じゃなくてもわかるくらいなんだよ……

この感じ…俺は知ってるから、生き物が死ぬ前のコト

「………違う」

レイの手を強く握ってから離す

無理矢理自分の涙を止めて、俺はまだ諦めない

ここで俺が泣いてるだけじゃ、何も良くならないってわかった

レイは絶対に俺が助けてみせる

いつもレイが俺を…助けてくれるから、今度は俺がレイを助けるんだ

上手くいくかなんてどうかわかんない、でもやらなきゃレイが死ぬ

「待ってろレイ、俺のいない間に勝手に死ぬなよ

あと俺泣いてないから、そういうコトにしとく…」

俺が泣くってコトはセリカが泣くってコトだ

セリカの涙、レイは許さないだろうからな

いつまで持つかはわからない

俺の炎でレイの身体を温めて生かしている間になんとかしないと

そう決意して村を出るとペガサスが舞い降りてきた

「君は…俺をある人の所へ送ってほしいんだ」

ペガサスは俺のお願いに頷いてくれる

よかった…どこかで馬を借りようと考えていたから

1分1秒でも早く行って帰りたい

ペガサスは俺のピンチを察して助けに来てくれたんだろうか

ありがとう…今協力してもらえるコトがこれほど心強く助かるコトはないよ



そうして俺は半日かけてペガサスに乗せてもらってユリセリの洋館へと辿り着く

スゴイ…普通の馬なら2日はかかるのに、めっちゃ助かる

ペガサスの首を撫でてお礼を言う

送ってもらっただけでもありがたいのにペガサスは全てをわかってるかのように戻る時も乗せると待ってくれるようだった

俺の残してきた炎でレイの生死は感じるから…まだ大丈夫…でも早く帰らなきゃ

「久しいなセリ、セリカはよく来てくれるがお前が訪ねてくれるのは珍しい事だな」

ユリセリは歓迎すると俺が訪ねて来たコトに喜んだ

レイの風邪?のコトについて困っていると話すとユリセリは親身になって聞いてくれる

俺には、頼れるのはユリセリしか思い付かなかった

セレンは病で死ぬ時は運命とするし、魔族は風邪や病気とは無縁、この件で他に頼れそうな人はいない

「あぁ、あの村か…あそこはすでに地図からも消されているくらい消滅寸前の村のはずだが」

話を聞いただけでユリセリはすぐにどこのコトかわかったようだ

さらにユリセリはその村について軽く説明してくれた

あの地域で不治の病が流行り多数の死者が出たらしい

人の数は減りに減り、最終的にあのような小さな村になるまで人口が減ったと言う

1ヶ月もしないうちに今いる村人達も全滅するだろうと言われている

レイや俺がこの世界に来る前から不治の病が流行っていたらしく新しい地図には載っていない

でも、その地域のコトは誰もいまさら消えゆく地域の話をしないだけで有名であったと

「そんな…そんな所に、レイを連れて行ってしま」いや

…俺達はあの日、目的地から大きく反らされていた

いつもより敵が多かった…もしかしなくても俺達は意図的にあの村へ行くよう仕向けられた?

俺には怪我も毒も効かない、俺を殺すには即死か…病気で死ぬコト

回復魔法が効かない病で殺すコト…

「くそ!嫌な予感当たってんじゃん!!もっと…レイを止めて…野宿でもなんでもよかった……いまさら後悔しても遅いのに」

結果、俺は病気にはかからなかった

だけど俺への精神的ダメージは死ぬほど大きい

「なんで俺だけ…なんともないんだよ」

ユリセリは心配そうに俺の肩を優しく叩いた

「無意識だろう、セリの炎は内側から体内に侵入したウイルスを殺しているみたいだ

だからセリは病気にならなかった…」

ウイルスは熱に弱い、俺は無意識に自分を殺すウイルスを炎で防いでいたなんてな

普段の風邪は死なないから炎は勝手に仕事しないみたいだが

自分しか守れないなんて……

「泣く事はない、レイの病は治せるぞ」

「本当か!?」

ずっと俯いていた顔がパッと明るくなってユリセリを見上げる

やっぱりユリセリは頼りになる!ユリセリと友達でよかった!!

プラチナハーフのユリセリはセリカの友達で……あれ?

ユリセリと友達?でも、ユリセリとはどうやって出会ってどうやって友達になったんだっけ?

思い出せない…どうしてだ

魔族じゃない女神族でも天使族でもない、そんなユリセリとどうやって俺は知り合えるんだ?

そもそもプラチナは伝説上の生き物、そしてプラチナは他種族に友好的ではないと言われている

現在この世界に存在するプラチナはハーフのユリセリただひとり…だった…よな?

「セリ、早く戻らねばなるまい?すぐに用意するから少し待つのだ」

「あっでも、お金足りるかな…」

ユリセリがソファから立ち上がり俺はお財布から入ってる全ての紙幣を取り出す

タダでとはいかないだろう

ユリセリと出会ったコトとか友達になったきっかけとかは後で思い出せばいい

今は一刻を争うんだ、レイを助けるコトだけを考えなきゃ

「よい、金などいらぬ

試しに作ったもので、その方法を聞けばきっとセリは怒るだろうからな」

「方法?」

「知りたいか?」

「そこまで言われると…」

気になるじゃん、ユリセリは言いにくそうにするがちゃんと教えてくれる

「生まれたばかりの100の赤子の血と肉を使った、薬と言うよりは呪術で病を殺すと言った方法だ

どうだ?面白い発想だろう?

もちろん、使用された本人に呪いは残らないから安心して使うがよい」

ユリセリは永遠の時間を生きる種族、暇は死ぬほどある

学び興味を持ち様々なモノを創り出す

失敗もたくさんあれば成功も少なからずある

この人に作れないものってないんだろうか

呪術で病を殺す

つまり…そこまでしないと治せない病気があるんだ

そのひとつがあの村で流行っている病気ってコトか

「怒らないか」

「いちいち怒ってたらやっていけねぇよ

俺は魔王の恋人だぞ」

「確かにそうだ、では取ってこよう」

ヤな感じだけどさ、最悪だって思うよ

でも…今の俺が最悪だから

レイを助ける為なら、もしその薬が今なかったら作れって言うかもしれないから

100人の子供を犠牲にして……

ホント…俺って自己中でワガママで…最低

病を殺す呪術を取りに行ったユリセリはすぐに戻ってきた

透明な入れ物の小瓶を渡される、中の色はとても綺麗なラベンダーだ

呪術には全く見えない

「1人分しかない、それをレイに飲ませればすぐに元気になるだろう」

「1人分…」

これでレイを助けられる…待っててくれよレイ

あの村のみんなは助けられないってコトか

俺は迷うコトなくレイに使うと決まっているから、他の全員を助けたかったら人数かける子供100人を殺せと言うコトだ

「ありがとうユリセリ…この恩はいつでも返すから…なんでも」

「なんでもか?」

「エッチなコト以外ならなんでも」

ユリセリに両頬を強くつねられた

すみません、めっちゃセクハラだった

いや逆に女性だからエッチなコト以外ってセクハラにならないように配慮したつもりだったのだ

ユリセリはそういうコトは疎いから本能的につねっただけ

無表情だし意味はわかっていない

クールビューティーなのに、めっちゃ可愛くて俺はユリセリ好きだわ人として

「そうだな、何かあったら私も頼らせてもらうぞ」

そんなユリセリには恋人がいるらしい

写真で見たコトあるんだが、相手は人間の男

ずっと帰って来るのを待ってるらしい

「それじゃ俺行くよ、またなユリセリ」

「いつでもセリなら歓迎だ」

嬉しい、俺自身はあんまりユリセリの所に遊びに来ていないのにそれでもセリカを通して大切な友達だと思えてもらえて凄く嬉しかった

玄関まで来てドアを開けようとした時、チャイムが鳴る

誰か来た?そのままドアを開けると郵便屋さんが立っていた

「セリ様にお届け物です」

どこにいても必ず届けてくれる…優秀な郵便屋さんにご苦労様です

だけど、直接俺宛に来るものって嫌なコトしかないんだ

「着払いです、4500円」

ガーン!結構高い!海外からでも来たの?着払いって!?受取拒否ダメ?俺は渋々お金を払う

郵便屋さんが帰り、俺の所へ届けられたのはツインメイドの片割れだった

「ど、どうしたんだ!?」

ツインメイドの瀕死の状態を見て驚く

ボロボロじゃないか…すぐに回復魔法で治すとツインメイドは泣きながら俺に抱き付いてきた

「セリ様!セリ様ぁ!!」

「どうしたんだ?何かあったのか?」

郵便屋さんが直接来ると嫌なコトしかないのジンクス当たりまくりじゃないか

ツインメイドは泣きじゃくりながら話してくれる

「魔族軍が……攻めて来て…皆さん殺されてしまって…魔王もいて、どうしようもなくて、全滅です…うぅぅ」

「…はっ?」

その後もツインメイドの片割れは俺に色んなコトを話してくれたが、俺は何も頭に入って来ない

ウソだ…なんて?魔族が…セレンの国に?魔王が、香月が、どうして!?なんでだよ…香月!?嘘だろ!そんなん…

「セレン様はまだ生きております!セレン様を助けてください、セリ様!!」

セリカがいる…ツインメイドはウソなんてついてない

レイのコトで頭も心もいっぱいでセリカの気持ちや考えが読み取れてなかった

自分がいっぱいでいっぱいで伝わっていたのに、気付かなかった

頭が混乱する…おかしくなりそうだ

レイが病気で1分も無駄にできないってのに、でも…セレンも見捨てられねぇ

ここから近い方はセレンの方だ

香月が出て来てるなら俺が行かなきゃ絶対に勝ち目はない

レイは…あの病の村にユリセリもツインメイドも行かせられない

なんで…こんな時に…くそ、タイミングが悪すぎるだろ

泣きじゃくるツインメイドを抱きながら決めた

いや、この小瓶をセリカに渡して持って行ってもらうんだ

俺はひとりじゃないからセレンの国に行ってセリカにこの小瓶を託す

俺は先に香月をなんとかする、それからすぐにレイの所へ戻る

1秒でも迷ってる暇なんてない

「セリが助けてほしいなら手を貸すぞ」

ユリセリの申し出が凄くありがたかった

雑魚の相手してほしいから、ユリセリは最強に心強い力を持っている

レイより強い人だ

「君はここで待っていて、セレン達は必ず俺が助けるから」

「セリ様…わかりました、足手まといになりますのでここで貴方様の無事をお祈りしております」

ツインメイドの片割れにここで待つように言う

彼女の全滅って言葉が心に突き刺さる

ロックとローズも…心配でたまらない

あと光の聖霊も

天使族はセレンさえ生きていればまだなんとか…

「ユリセリ…助けて、なんでもするから」

俺はユリセリの方を振り向く

貰った呪術の小瓶は大事に閉まっておく

割れない魔法の小瓶だから安心だな

さすがユリセリ、そういう所も気遣ってくれててマジ優秀

「うむ、なんでも?」

「スケベなコト以外なら」

ユリセリに両頬をつねられた

意味わかってないって顔が可愛い

美人なのに、可愛い

俺達は外へ出るとペガサスに行き先と訳を話してセレンの国に連れて行ってもらう

レイ…ちょっと遅れるけど、頑張って…絶対助けるからそれまで踏ん張って

俺をひとりにしないで…お願いだから

香月は…なんでセレンの国を、ウソだったらいいのに

もう悲しい思いなんかしたくない

早く…行かなきゃ、確かめなきゃ……



-続く-

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