97話『馬の楽園』セリ編

やっと…!動物王国に来たー!!

「……本当の動物しかいないじゃん」

「動物王国だからな」

ただのジャングルだった

俺のイメージしていた動物王国となんか違った

いや!俺のイメージがおかしいんだよな

普通に動物園かなんかと勘違いしてた、悪かったホント

可愛いのとカッコいい動物を見てふれあえる所だと勝手に思ってた

実際はジャングルの奥深くみたいに、動物以外にも虫もいれば俺の苦手な蛇もいる

しかも…襲ってくる!!

巨大蛇が俺達を餌と勘違いして追いかけてきた

「やだやだやだ!蛇こわい!!」

「心配するな、セリ」

俺が走って逃げるとレイも走る

心配するなって心強いコト言っといて逃げてんじゃん!?

レイは氷魔法で巨大蛇を凍らせて足止めした

「ほら心配するなって言ったろ」

セリが走るからオレも走ったんだってレイはなんか俺のせいにしてくる

早くやって!!できるなら早くそれやって!!

「うー…俺やっぱり蛇って苦手に感じてしまう

だからポップも苦手なんだよな…下半身が蛇の女」

凍ったら蛇をまじまじと見るがこわいものはこわい

「苦手なものは仕方がないさ、セリが好きな犬や猫が苦手な人もいるわけだしな」

「そうだけど…」

ポップはセリカのコト大好きだから、苦手って感じてしまうのはあんまりだって思うし

まぁセリカはあのポップの無神経さやウザさが好きじゃないみたいだけど

「レイは苦手なものってないのか?

俺はマジックテープの音が無理、思い出しただけでもなんかこわい!(黒板に爪立ててキー!ってするのと似たような感覚、俺はそれは割と平気)

あと、食べ物はきなこが嫌い!」

「オレは…苦手なものはないかもしれない

怖いと思う動物もいないかな」

ライオンやクマにも勝てそうだしレイって…

「音もなんでも平気

食べ物もなんでも食べれるよ

セリが残した分は全て代わりに食べなきゃいけないからな」

レイはハハハといつものように爽やかに笑う

イケメンに弱点なんかなかった

「つまりレイに弱点はないってコトだな

強くてイケメンで怖いものなし」

「そんな事はない、オレだってセリを人質に取られたら弱いぞ」

「……まぁ、そうかも」

それは俺がよく知っていた

苦手なものはないかもしれない、でもレイは弱点もこわいものもあって…それは俺なんだってわかってる

「じゃあ…ここは思ってたより危険だから帰ろ?」

殺生しませんって可愛い動物に囲まれて癒されるつもりで来てたけど、実際来てみると周りは殺生しますって顔の奴らが俺達を囲んで睨んでいた

いつ食われても…おかしくない!!状況なんだ

俺が手をレイの方に近付けるとレイはその手を強く掴んで引っ張ってくれる

「すまなかったセリ、こんなに危険な場所とは思わなかったよ

動物王国って名前だから可愛い動物に囲まれて」

俺と同じ考えか!イメージで判断したらいけないってコトだな

これだけ虫を含め動物がいれば毎日赤ちゃんが産まれるのも当たり前だった

ふれあえるのもウソじゃなかった

できるもんならやってみろって話なだけだけどな

「いいんだよ、こうして旅行できてなんやかんや気分転換になったから…ありがとうレイ」

動物王国の来た道を戻りながら話す

俺がお礼を言って笑うとレイは足を止めるから繋がれた手で俺も足を止める

「セリ…この前…なんでもするって言ったよな?」

「ん?言ったけど」

今ここで!?まぁいいけどさ

レイは言いにくそうに、何故か顔を真っ赤にしている

えっ!?何!?まさか、○○○してほしいとか!?それとも○○○?いや、もういきなり○○○○?いやいやレイのコトだからまず最初は○○だろ?

「やらしいコトでも要求するつもりか!?俺はセリカじゃないんだぞ!?」

「何故そうなるんだ!?」

レイが怒った、怒ってないけど

セリカがレイを恋愛対象として見るように意識するから、どうにも最近下ネタに走ってしまう発想が

前はこんなコトなかったのに、セリカの関係が変われば俺の関係も変わるのかな…逆も同じコトだよな

「なんでもする=エロ要求以外なんかあるか!?」

「期待してたのか!?」

「してないけど!!ボケられるコトには期待した」

レイにそんなコト要求されても困る

そこまで言ったのに、それでもレイは顔を真っ赤にしたまま

「服のボタンが取れてしまったから付けてほしいんだ」

「はっ?紛らわしいわ!!なんでそんなコトくらいで顔を赤くするんだよ!?」

なんじゃそら!?

「いや…セリはオレがなんでもできる男だって思っているから…

裁縫はどうも苦手で、いつもはツインメイドに頼むんだが」

「完璧と思っちゃいねぇよ、裁縫が苦手な男は珍しくもねぇだろ

後でやってやるよ」

俺もそんなに裁縫が得意ってワケじゃないが、ボタンくらいは付けられる

仕方ねぇな…なんでもするって言って、ただボタンを付けるだけなんて

こんなのいつだってしてやるのに


暫く歩いていると、怪我をして倒れている馬を見つけた

ここは動物王国、弱肉強食でこれも自然の流れなのかと思っていたが

「あっこの子、槍が刺さっている」

近付くと腹に槍がお尻や足に矢が刺さっている

どう見ても動物にやられたと言うワケではない

俺が槍や矢を抜こうとしたが、グッサリと奥深くまで刺さっているのを抜くには力がいる

「動物王国の野生馬じゃないな」

レイは自分が抜くからと俺に代わるように言う

俺とは違ってレイは簡単に馬から槍や矢を抜いてくれた

すぐに回復魔法で治してやると馬は元気良く立ち上がる

野生じゃないか…鞍や手綱が付けられているから持ち主がいたハズ

でも馬が怪我をして使い物にならなくなったから棄てたと言うのか?

まだ生きているのに

「もう大丈夫だぞ」

鞍も手綱も全て外して馬の首を撫でてやると馬は嬉しそうにする

戦争か何かで移動手段に馬を使うコトはよくある

勝手に巻き込まれてとばっちりを受けて狙われて、怪我をしたり死んだりする…

そういうのはたくさん見て来た…

俺はそれが嫌だったんだ

動物が好きな俺は、馬も好きで、可愛いし

巻き込みたくないけど、巻き込まれてしまう

馬を使う、それが当たり前となってしまっているから

この子の怪我を見たら、そういうのに巻き込まれてしまったのかなって思ってしまう

人の命は考えられ優先されるけど、動物の命は物として扱われる

「セリは本当に動物が好きだな」

「だって可愛いじゃん」

レイは俺の頭を撫でる、俺は馬の首を撫でる、妙な光景ができた

それじゃそろそろ行こうかなと馬から手を離すと、馬は俺の服を口で掴んだ

「ん?どうした?」

ぐいぐいと引っ張られ、こっちに来てと言わんばかりだな

「なんか来いって言ってる?」

「セリの事を気に入ったんじゃないか?

怪我を治してくれた恩人と言う事は動物でもわかる」

うーん…まぁ別に用事があるからとか急いでるとかじゃないから暫くはこの子に付き合ってもいいかな

俺達は助けた馬に連れられて動物王国の奥へとまた逆戻りとなった

どうしよう、迷子になって動物王国から出られなくなったら…

馬に案内されながら歩いているとジャングルのような景色が徐々に薄れてきた

少しずつ変わっていった景色はいつの間にか開けた広場に出て、そこは神秘的な森と泉が姿を現す

空気も澄んでいて涼しい空間

ここは馬しかいない、馬の楽園だった

「わ~…すご…めっちゃ綺麗……」

「動物王国にこんな場所があったなんて…」

誰も立ち入れない、そんな魔法がかかっていそうなくらい美しい場所

助けた馬に案内されなかったら絶対にたどり着けない場所なのかもしれない

広場の中央辺りに座らされ、次から次へと料理が運ばれて来た

全て、草食動物のご飯みたいな葉っぱか野菜

「もしかして俺達めっちゃ歓迎されてる!?」

「ハハハ、そのようだ」

みんな普通の馬だから言葉も通じない、表情もわからない

でも、この子達にとってのご馳走が俺達の目の前に運ばれて来たら好意があるってわかる

「嬉しい…ありがとう…」

食べて食べてと馬は鼻で意思表示をする

俺はたくさんある草食動物のご飯の中から野菜スティックを手にした

「ちょっと待て、普通の馬しかいないのにこの綺麗に切った野菜スティックはどうした!?人でもいるのか!?」

見渡しても人影はない、人が手を加えたような建物もないし…

そもそも野菜はどこから…誰が育てたの?

まぁいいか、世の中に不思議なコトは山ほどある

「このニンジン甘くて美味しい~」

今まで食べたコトないくらい美味いかもしんねぇ!

野菜好き、葉っぱ好き、モグモグ

「そんなに美味しいのかい?味見いいか」

俺が食べているニンジンスティックの反対側をレイが食べる

「味見はいいけど、口当たった!」

アハハと2人で楽しく食事をした

えっ?手で半分に割って食べるってやり方はしないの?しないです

レイと俺は味見と言ったらこのやり方、お互いが反対側から一緒に食べるのだ!

仲良しだもん、仲良しだからするんだもん

「あれ、そろそろ日が暮れて来たな」

楽しく野菜と葉っぱを食べていると夜が来る

太陽の光がなくなって真っ暗になるかと思っていたが、灯りはあった

神秘的な…明かり、そのおかげでこの馬の楽園は夜でも優しい明かりに包まれている

それが何かはわからないけど、夜になっても別の顔のあるここはとても綺麗だった

「夜までには動物王国を出ようと思っていたが、今夜はここに泊まらせてもらおう」

夜のジャングルは危ないし、仕方ないな

でも俺また、かもしれないって想像が頭によぎって

朝起きたら俺、馬になってんじゃないか!?って考えてしまう

「セリ、馬達が用意してくれたみたいだ」

レイに呼ばれて行くと、簡単だけど葉っぱや草で作ってくれたベッドが用意されていた

こんなに親切にされているのに俺は何を疑っているのか…

「どこ行っても、ベッドはひとつ枕はふたつなんだね」

前の旅館も布団ひとつ枕ふたつだった

「ベッドがふたつあっても、どうせひとつは使わないだろう」

そう、レイと一緒に寝るのが当たり前になりすぎて今じゃひとりだと落ち着かなくなってしまったんだよな

最初セレンに部屋を貰った時はふざけんなって言ったけど、これも今じゃセレンの作戦勝ち

でもレイと香月と和彦以外はダメ、別のベッドでも同じ部屋に他人がいると俺は眠れないくらい神経質だった

いや!俺が言いたいコトはそうじゃなくて!!

なんで最初からベッドひとつなんだよ!?どこ行っても動物ですら俺達はカップルですか!?

「ほらセリ」

先にベッドに座るレイが両手を広げて来いよと言っている

レイがそうするからみんな勘違いするんだ

俺はいつもレイの熱烈なファンから石投げられてるんだぞ、わかってんのか

まっいいけど…それで気が晴れるなら俺はいくらでも受ける

石当たったくらいで痛くもなんともねぇもん、俺は

「レイ…」

そう、俺も悪いんだ

レイに甘えるから、バカップルって言われるくらい

でもこれがレイと俺の友情なんだから他人に口出されるコトじゃない

俺のコトより、心配なのはセリカの方だ

セリカがレイの恋人になったら…どうなるか……

俺はいつものようにレイに抱きつこうとしたが、後ろから明るい光を感じて振り向く

そこにはこの場所の優しい夜の光の中に、一際目立つ美しい光

「ペガサスだ…」

レイの呟きに俺はその美しい光、美しい姿にそうだと頷く

真っ白な馬の姿に綺麗な翼…

「神獣に出会ったのははじめてだ、凄いなセリ

伝説の生き物だぞ」

はじめて…見た…俺も……

そのハズだよ、ペガサスなんて伝説上の生き物

この世界でも誰も見たコトがないって話だ

なのに…なのに、俺は…

「……どこかで、君と会ったような気がする……」

静かにペガサスに近付くとペガサスは逃げはしなかった

手を伸ばすと大人しく俺にその首を撫でられている

「ペガサスに会った事がある?本当かい、そんな話は今までセリから聞いた事はないが」

いや…会ったコトなんてない、見たコトだってない

レイと同じくここでこうして存在をはじめて知った

なのに…なのに…俺は…

何か知ってるような気がした

セリカの妄想の王子様がペガサスに乗っていた気がする

そう、妄想の中なら俺だってペガサスを想像したコトくらいある

誰だって憧れる伝説上の生き物

そうだ、気のせいだ

ただの妄想…頭の中での

なのに…

「セリ…泣いてるのかい…」

レイにはペガサスに会えて感動してると思われたみたいだ

わからない、自分でもどうして泣いているのか

…会いたい…そんなよくわからない感情が心をいっぱいにしていた

誰に会いたいんだろう、俺は…誰に…セリカ……誰に会いたいんだ

「いや、もう今日は寝る」

レイがいつものように俺の肩に手を伸ばすから俺はそれに気付かないフリをして涙を自分で拭きベッドへと向かった

「セリ…」

「おやすみレイ、また明日」

自分でもいつもの自分じゃないって感じてる

でも、なぜか…今はレイに触れられたくなかった

なんでかは本当にわからない…

どうしても…ダメだった…どうしても

この日は俺は珍しくレイに背中を向けて寝た



朝になって俺は自分の姿が馬になっていないコトにホッとした

昨日はなんか取り乱しちまったな

レイのコト傷付けちゃったかも…

一晩寝ると頭もスッキリして、起きてからペガサスを見ても昨日のような感情はなかった

あれはなんだったのか、ちょっと精神的に不安定だったのか?

「セリ、おはよう」

「レイ!おはよう」

レイは俺の顔を見ると複雑な表情をしていたから俺はとびっきりの笑顔でレイに抱き付いた

昨日のコト、レイは引きずってたんだ

うーん…だってあからさまに避けたもんな…俺だってショック受ける

でもレイは俺がいつも通りだとわかるといつもの爽やかな笑顔を取り戻してくれた

それからレイと俺は帰るコトを伝えると動物王国の出口までペガサスが送ってくれると言った…ような気がした

乗れと言うような仕草をしたので、そうかなって思って俺達はお言葉に甘える

ペガサスって…やっぱり空飛べるんだ!感動

俺も天魔法で少しの間だけなら飛べるんだけど、結構難しいんだよな

歩くとめっちゃ時間がかかるのに、ペガサスに送ってもらうとあっという間だった

「ありがとう、送ってくれて」

ペガサスの首を撫でると喜んでくれる

また来てと言われてるような気がした

「バイバイ」

手を振ってサヨナラするとペガサスは俺達が見えなくなるまで見送ってくれた

「さーそれじゃ、セレンとこ帰るか~」

しっかり休んだし、暫く歩ける体力はあるぞ!

「帰る途中でまたどこかで一泊しないといけないな」

レイは地図を見ながらどの辺りまで今日は行けるかを考えている

「この辺りは温泉で有名だから、どうだろうか」

レイは俺が温泉好きと知っててそういうコトも考えてくれるのは嬉しい

俺、温泉好きだよ!日本人だから!!

「良いね、そこまで頑張って歩くぜ!」

今日は何故かテンション高い日だった

レイは地図を閉まって頑張ろうなと俺に笑う

「帰ったら久しぶりに和彦のとこへ行くよ」

「それは構わないが…最近、香月さんとは会っていないのかい?」

レイは心配してくれてるってのはわかる

最近の俺は和彦のコトは口に出すけど、香月のコトは…避けてる

聖剣の一件でまだ避けてるんだ

香月からも俺に会いに来ないし

和彦は頻繁に俺に会いに来るけど、香月はよくわからん

会いに来るコトもたまにはあるが、和彦ほど来ない

俺からはまだ会いに行けないけど、香月が来てくれたらその時はなんでもないって顔して接するよ…

ラナのコト…香月は何も思わないし言わない…

聖剣の時と一緒で、冷たい奴って正直思う

また余計に会いたい気持ちが…起きなくなる

嫌いになってないよ…好きだから辛いんだよ、この気持ちが

「会いたくない」

ちょっと不機嫌にそっぽ向いてしまう

「セリが大丈夫なら…

オレがセリにそれだけ無視されたら死ぬと思う」

知ってる!よくわかってる!レイと喧嘩が長引くと無理心中してくるって知ってる!

「香月はそんなの平気だよ」

いやレイは香月の心配をしてるんじゃない

俺に、そんなに香月に会えなくて寂しくないか?って俺を心配してくれてるんだ

寂しい…ね…俺は恋人が2人いるから気が紛れてそんなコト感じないのかな

それともセリカが香月の傍にいるから寂しく感じないのかな

香月とは…今はまだ会えない

「あっそうか、レイは俺が香月のとこに行ってくれないとセリカと旅行できないからだ?」

「そんなつもりで聞いたんじゃない」

とか言ってレイは顔を赤くするからセリカと旅行に行きたくて仕方ないみたいだ

「そのうち、そのうちな!」

そのうちまたいつも通りになるよ

だって俺って気分屋だし、香月がいつも通り会いに来てくれたらその時は俺ももう気にしない

いつも通りだよ

香月のコトなんやかんや言って俺は大好きだから

そうしてレイと喋りながら、たまに敵に襲われながら時間が過ぎていく

「今日なんか襲われるの多くない?」

レイが強くて守ってくれるから大したコトじゃないけど…

モンスターに襲われると言うよりは、人間が多かった

なんやかんや過ごせてたから忘れてたが、俺が女神を盗んだ悪党だって話はまだなくならない

一部の国、とくにタキヤの所は俺に多額の賞金までかけているからたまに襲われるコトはある

勇者としての知名度があってか、俺はそんなコトしないって思い直してくれる人達も多く出て来て最近は減ったと思っていたんだが

ただ賞金がほしいだけの奴とタキヤ関係の人間だけ

それでも鬱陶しいコトには変わりない

それに今は結夢ちゃんはタキヤの所にいる…と思う

あのコトがあって出て行ってしまったから…

だけど、俺に敵が多いコトだけは変わらなかった

まぁいいさ、自分の撒いた種だ

自分で解決するぜ(実際はレイに守られてるけど)

「敵はそれほど強くはなかったとは言え、目的地よりかなり反らされてしまったな」

レイは地図を広げて、ここに行く予定だったのに今ここと教えてくれる

めっちゃ遠回りしてるけど!?地味な嫌がらせ!!うー今日は温泉なしかぁ…残念だ

「どこだよここは!?」

「この辺はとくに何もないか、最悪野宿になるかもしれない」

「えっ!?やだ!野宿は嫌!!」

ロックに女かってバカにされるけど、何回したって野宿は慣れないんだもん

やだやだとただをこねても、何回地図を見てもこの辺りには何もありませんとなる

「夜中も歩き回るかい?」

「それも無理!眠くなるもん!」

レイは俺のワガママに苦笑する

夜中に歩き回るのはレイ自身もあまり賛成ではなかった

昼間より危険なのをわかっているから

でも、もう夜になる

何もないこの場所で文句言ったって何も変わらない

だけど

「…あっ…あるかもしれない」

「えっ何が?」

レイはどこか遠くを見ているが、俺の視力じゃ何も見えない

「この先に小さな村がある」

見えねぇよ、何も

レイはタカやワシ並みの目を持っていた

だからどんなに遠く離れていても正確に矢を貫くコトもできるし、こうして普通の人じゃ見えない遠くも当たり前のように見える

集中すると今以上にも遠くを見るコトが出来るとも言う

神様はイケメンだったら何物も与えるんですね

「それじゃ、今日は野宿しなくていい?」

「そうだな…しかし、あの村は地図に載っていないような」

何度も地図を確認するが、レイの見えてる村は地図上にはないようだ

「蜃気楼か幽霊村だったりして…気になるならやめとくか?」

「いや、セリに野宿はさせたくない

今夜はあの村に泊めてもらおう

地図に載らないくらい小さな村はたまにあるさ、気にする事じゃない」

まぁそうだけど、地図なんてそれなりに大きくないと載らないもんな

でも、なんだか嫌な予感がする

気にしすぎかな…

なんでも疑う癖なのかも

俺が迷っているとレイが手を差し出す

そうされると俺は掴むしかなくて、レイと手を繋いでレイの見えてる村へと足を向ける

レイに任せておけば大丈夫、何かあってもレイがなんとかしてくれる…レイが守ってくれる

だから俺は安心してたらいいんだ

「何分くらいで着く?」

「120分くらい」

2時間!?遠すぎだろ!そんな遠くまで見えるとか人間じゃないし、視力がタカやワシ超えてんじゃん!?



-続く-

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