168話『見えない力』セリカ編

私はラスティンに送ってもらって、無事に死者の国へと帰ってきた

ラスティンは大丈夫…と自信なさげに言ってたけどやっぱり和彦の姿を見るなり部屋の隅に隠れて出て来なくなってしまう

「回復魔法が使えなくなった?」

和彦に言われて、私はさっき切られた傷を見せる

「痛むか?」

「うん少し」

自然に治るのを待つなら暫く痛みもある

とくにお風呂入る時は辛いわね

「セリカの身体に傷が残っては困る」

そう言って和彦は鬼神を呼んで手当てするように言った

この世界は回復魔法が使える人は珍しい

その中でも瞬時に治せるのは勇者だけ

だから、この世界はある程度の傷なら薬を使って綺麗に治すコトが出来る

痛みを和らげるコトも

リジェウェィのような人達がそれを得意として日々怪我や病の回復について研究してくれているのだ

回復魔法を持ってる私には関係ないコトと思ってたけど、今はとてもありがたいと感じる

リジェウェィのような賢くて偉い人達にとっても感謝

「セリカ様の陶器のような白い肌に傷を付ける輩がいるとは!許すまじ!!」

「殺す…」

力強いな…

鬼神は手当てしながら怒りで鬼の形相

「2人とも手当てしてくれてありがとう」

薬を塗ってもらって包帯を巻いてくれる

数日もすれば綺麗に治ると聞いて安心ね

私がお礼を言って微笑むと鬼神は鬼の形相をやめて顔全体を緩めた

「ラスティン」

和彦に名前を呼ばれたラスティンは部屋の隅で背を向けていたが、ビクついてそろっとこっちを向く

「ごごごごめんなさい…セリカを守れなくて…怪我させてててっ」

怒られると思っているのかラスティンは顔も上げられなくなっている

だけど、和彦は怒ったりなんてしない

だってラスティンはもう私を守れるくらい男になったんだってわかってるから

「セリカを送ってくれて礼を言う

お前がいなかったらセリカは危なかった

強くなったな」

ラスティンは和彦の言葉が入って来ないくらい恐怖で固まっている

酷い思い込み、一度和彦に怒られてその恐怖が忘れられないのね

「オレは褒めているんだが?

礼にほしいものを何でもくれてやる、遠慮なく言え」

「……はっ!?僕は今和彦さんに褒められている…!?」

ようやく自分がそうであるとわかってラスティンは少しずつ緊張を解く

「ほしいもの…?遠慮なく言っていいなら、美人なお姉さん」

………昔は迷うコトなく牛肉って言ってた食いしん坊なラスティンが……すっかりオスになっちゃって……

別の意味で食いしん坊だけど

しかも和彦相手に遠慮なく欲望のまま答えるメンタル復活の強さ

和彦もラスティンからそんなコト言われると思ってなかったのか面食らってるし

「わかった、今夜良い店に連れて行ってやる

お前達もどうだ?たまには付き合えよ」

大喜びのラスティンとは反対に鬼神は顔を真っ赤にして取り乱した

「いいいいえええ!!!遠慮しておきます!!!

そんな破廉恥なお店には行けないです!!」

硬派で古風なのよね鬼神は

ミニスカートの女の子が通るだけでビックリして、女人が足を出して歩くなどけしからんとか

海とかで水着なんか見ちゃった日には失神するんじゃないかってくらい女慣れしてない

だから、和彦のコトは尊敬してて慕っていてもそこだけは相容れない感じ

鬼神は総じて女性には弱い

「私も一緒に連れて行って」

「…女の子のセリカは連れて行けない場所だ

セリくんも連れて行けないけど…」

「どんなお店に行くか気になるの」

「……怒ってるなら怒ってくれていいんだが…」

「ううん怒ってないわ、和彦も男の子だもの

そういうの好きだって知ってるし

別に浮気しに行くワケじゃないってちゃんとわかってるから

どんなお店に行ってどんなコトするのか知りたいだけよ

私もそれ体験するの

和彦と同じ体験してどんな気持ちになるのか知りたいわ」

セリカが、セリカ様恐いって声が周りから聞こえる

「セリくん怒ってる!?」

「怒ってないって言ってるでしょ」

「………わかった、セリくんがいるから行かないよ」

そう言って和彦は私の頭を笑って優しく撫でてくれた

別にいいのに…ただ気になるだけなのに私は

………ウソ、本当は嫌に決まってるよ

でも、和彦がそれが好きなら…嫌ってあんまり言えない

セリくんばっかりワガママ言えないもん…

「ラスティン、悪いがフェイが帰ってきたら」

「ふーん…フェイもそういうお店に行くのね」

フェイって名前に私はすぐに反応してしまう

和彦が行けないならフェイにラスティンを連れて行ってもらおうってコトだよね…

なんだろ、フェイのコト信頼はしててもつい最近まで気にならなかったのに

だってセリくんが嫌ってるから

なのに…なんか…今は…嫌、かな…

心境の変化?私…じゃない、セリくんがフェイと何かあった?

もしかしてあの時の感覚……

「セリカ?……いや、フェイじゃない他の者に頼むよ」

「僕は誰でもいいんで、怖くない人なら」

ラスティンは女の子のお店に行くのは楽しみみたいだけど、終始和彦に恐れている感じだ

「オレもフェイも行かないからセリカそんな顔をするな」

ん?どんな顔?

行かないって聞けて、無意識に顔が緩む

それを見た和彦が気が抜けたように微笑んでくれた


そして、私は鬼神に送られて部屋に帰るコトにした

和彦には回復魔法が使えないなら原因がわかるまで出歩くなと言われてしまった

そうよね…大人しくしとこっと

一体どうしてしまったのかしら…私

鬼神と並んで廊下を歩いていると

「危ない!?セリカ様……!!」

鬼神の声とともに、窓のガラスが大きな音を立てて割れる

ビックリしたけど鬼神が引き寄せて守ってくれた

廊下の床に転がるのは野球のボール

「すみませんーーー!!!大丈夫ですか!?」

外から男の子達の声が聞こえる

普通の人間の死者の男の子達だわ、元気に遊んでただけの

「ごらああああああ!!!謝って済むかクソガキどもおおおお!!!

こんなとこで遊んでんじゃねぇボケが!!!!!!!!」

そんな言わんでも……鬼神が怒ったら人間は怖いわよ

「始末しますか?セリカ様」

鬼神は私に当たったらと激おこしているが、そんなに怒らなくてもと宥める

「子供達がしたコトよ、ちゃんと謝って反省してるんだから許してあげなさい

2人が守ってくれたから怪我もないし」

ふふって微笑む私の顔を見て鬼神は凍りつく

この世の絶望みたいな顔で

「………セリカ様……お顔に傷が…」

気付かなかったけど、言われて顔に触れると血が手につく

ガラスの破片が当たったのね

「我等がついていながらセリカ様に怪我をさせてしまうなど…」

「もう2人ともそんな大袈裟な、大丈夫だってば

私には回復魔法があるんだから、痛みもないし傷だって綺麗に消えるわ

ほら」

そう言って私は回復魔法で頬の傷を治して血を拭って綺麗なままの肌を見せる

「で……ですよねーー!?!?…あれ?」

鬼神は知ってた!って反応をしてすぐにおかしなコトに気付く

「セリカ様……回復魔法使えないって話では…もう普通に使えるようになりました?」

………あれ?

鬼神に言われて私は、もう一度確かめるために床に散らばったガラスの破片を拾い手を切る

そしていつも通り回復魔法を使ったら……綺麗に治る、痛みも無効にできる

使える…回復魔法、ちゃんと使えるわ

「よかったですよ、オレはその事を和彦様に報告するのとここの片付けをするんで

もう1人の鬼神が部屋までお送りします」

私も片付けするって言ったけど、鬼神が危ないんでと強引に背を押されてしまった

回復魔法が使えても、怪我してほしくないって鬼神は私を女の子扱いしてくれる

それに甘えて私は部屋へと送り届けてもらった


部屋に帰って1人になると、私は鬼神に黙っていたコトを考えた

さっきは確かに回復魔法が使えたわ…

でも、ラスティンと一緒に帰っていた道で襲われた傷は治せない

せっかく手当てをしてもらった包帯を解いて確認したけど、この傷は自然にしか治せないみたいだ

つまり…あの謎の人物は、回復魔法を無効にする術を持っていたってコト?

ラスティンは私を襲った奴は自害したと言っていて詳しいコトはもう聞けなくなってる

もし無効にする術があるなら、タキヤ辺りに知られると厄介ね……

そろそろ、あのしつこいタキヤと決着付ける時かしら

何かはわからない恐ろしい術があるって知ってしまったら、それの対策を早く考えなきゃ

私の回復魔法がなくなったら…みんなを守れないし助けられなくなっちゃう

私の大切な力……いざって時に使えないと意味がない

部屋で考え事をしていると、ノックする音が聞こえて返事をする

開いたドアからお花の良い香りと一緒に天使が姿を見せた

「セリカちゃんただいま!!」

「天使、おかえり

でも早いわね、暫くは帰れないって聞いてたけど」

「うん!すぐ帰るよ

今日はね~せりかちゃんから頼まれて、これを届けにきたんだ」

そう言って天使は華やかな香りのするウェディングブーケを私に手渡した

真っ白で綺麗なカサブランカのブーケ

手にした瞬間、私の心は強く動かされる

「そのお花、凄くセリカちゃんに似合うね

特別なせりかちゃんもとっても綺麗で似合ってたんだよ」

お世辞の言えない天使はまっさらな笑顔で心から言ってくれる

私を悩ませていたこの花は…誰も差別なんかしないんだ

だって、私が持っているのに枯れたりしないから

綺麗に…咲き誇ってその顔を見せてくれる

華やかな香りと一緒に、私を見てくれているんだから…

「うん………綺麗…嬉しい……」

「あっ、セリカちゃんのイヤリングも一緒

えへへ可愛いね」

そう言って天使は私の耳元へと触れる

嬉しかった、褒められて

だから

「良いでしょ、イングヴェィに貰ったの」

って自慢したくなる

「そっかー、イングヴェィね…うん、良い感じだよね

あっネイルもお揃いで、セリカちゃんはいつも可愛い!」

天使の無邪気さの方が可愛い

「ありがとう、とても嬉しいわ

せりかさんにもお礼を伝えてくれる?」

「うん!!じゃあ俺はもう行くよ、みんな待ってるからさ」

「新婚旅行だよね、3人で楽しんできてね」

「んーん、3人じゃなくて5人で行くんだよ」

えっ…?新婚旅行だよね??仲良しグループの高校卒業旅行とかじゃないよね??

どういう面子なんだろ…

天使はバイバイ!また帰ってくるねと消えてしまった

私はずっと貰ったブーケを手に見つめていた

結婚式…か…

私には縁がないって…思ってた

いくつもの前世を思い出しても、結婚をするってコトがなかった

いつも23歳で死んでしまうから、ってだけじゃない

運命の人がいなかった…恋人なんていなかったから……

でも…そんな前世の人生ばかりなのに、私はバカみたいに1つ1つの人生でいつも

いつかは幸せになれるって、大好きな人に出会って結婚式を挙げて

素敵なお嫁さんになるんだって…夢見てた

自然とそうなるんだって……いつかは

でも、現実はいつだってそんなコトなかった

現実はいつだって残酷で絶望なんだ

私はセリくんとは違う……

私には香月がいなかった

私には…運命の人が……

部屋のドアが開く

きっと私はノックに気付かないくらい絶望の記憶に堕ちていたんだろう

貴方に声をかけられるまで…

「セリカちゃん、いる気配はあるのにノックしても返事がなかったから心配したよ」

「イングヴェィ…あっ、ごめんなさい

考え事をしていて」

なんでだろう…どんなに、気が遠くなるような前世の繰り返しの絶望な運命も

たった一度、はじめて今生で…イングヴェィに出逢えた事で

それまでの全てが癒えていくような気がする…

はじめて、心から大好きと思える人に出逢うための必要な運命だったと言うなら

私は耐えてきてよかったと、こうして報われるなら過去のコトなんて……辛くても悲しくても

忘れられなくても…良いんだよね……

「そのブーケとても綺麗だね」

「えぇ、せりかさんのウェディングブーケを天使が持ってきてくれたの」

「うん……うん、やっぱり」

イングヴェィはブーケを持っている私を見て、1人で頷いては笑顔を輝かせる

「セリカちゃんはその花が1番似合って凄く綺麗!

いつか、そのブーケを持った特別なセリカちゃんに会いたいな

もちろんその姿の君の隣は俺だからね」

ふふっとイングヴェィは思ったコトは素直に口に出る

恥ずかしい言葉も、照れもせずに

でも最近は違う

私がイングヴェィの言動に照れて恥ずかしがると、イングヴェィはその時に気付いて

自分まで時間が止まったかのように身体を固まらせて、みるみる顔を真っ赤に熱を上げていく

「……ちょ…ちょっと…待って…

さっきのは……なし、いや!なしじゃなくて

ちゃんと……言いたい

タイミングがあるし、まだちゃんと手も繋いでないのに

そういうのちゃんと考えて……

あっ、イヤリング付けてくれてる!」

イングヴェィは素直だから、抱き締めたり頭撫でたり手を掴んだりは気持ちのままするけど

こうして意識してしまったらそれが出来なくなってしまう

恥ずかしいとか緊張するを感じて、だからちゃんと手を繋ぐところから

はじめられたら…いいよね

私も恥ずかしいし緊張するから……

「イヤリング…気に入ったの、とても

だから…ありがとうイングヴェィ」

「思った通り、セリカちゃんにピッタリ

嬉しかったよ、プレゼントしたものを気に入って付けてくれるの

セリカちゃん…いつも大好き」

また感情が高ぶって素直な言葉を口にする

私は恥ずかしくなって、ブーケで顔を隠す

こんな私でも、受け入れてくれる

この花が私を幸せに導いて、祝福すると約束してくれるような

私は、前世で叶わなかったバカみたいな夢が今度こそ叶うんだって希望を見る

でも……私、まだまだ

面倒くさい女なんだよ…

私、幸せになりたいのに…イングヴェィのコト大好きなのに……

他人に触れられるのが…怖いの……

悔しい…私の運命がもたらした絶望は消えるコトがないって思ったら



それから数日後、やっぱりイングヴェィと一緒にいると恥ずかしいのと緊張するのとで

臆病になって避けちゃったりして、私のバカ…って落ち込んでしまったりとあるけど

イングヴェィはそんな私もわかってるのか、健気に気遣ってくれる

いや…自分の気持ちを押し付けてくる…って感じかもしれない…

でも、私はそれくらい強引な方が良いのかもしれないな

そうして今日はイングヴェィと一緒にいるコトになった

一緒にランチに行こうって誘われて私達はレストランへと足を運ぶ

さっきまでイングヴェィと話してて、そろそろ死者の国も落ち着いてきたから帰ろうかってなっている

もちろん私はイングヴェィについて行くつもり

セリくんならわかるけど、私が和彦の所にいるのも変だし

まぁ和彦は私なら構わないって言ってくれるかな

「あっセリくんとレイくんも一緒の時間なんだ

こんにちは」

イングヴェィは2人を見つけると、その席へと私の手を引っ張った

でも、セリくんめちゃくちゃ機嫌悪い

感情も繋がってるからその気持ちはわかってるけど、それぞれの目で見た記憶まではわからないから

なんで機嫌が悪いかの理由まではわからないわ

どうせレイと喧嘩したか、和彦が浮気したか

「イングヴェィとセリカ、今日は可愛すぎる自分に抱き付く気分じゃないかも…はぁ」

セリくんは自分大好きのナルシストだからいつも私を見るととにかく抱き締めてはテンション高い時なんてキスまでしてくるのに

これは重症ね

「どうしたのセリくん、溜め息なんて」

優しくイングヴェィが聞くと、私がイングヴェィを好きな影響でセリくんは心を緩め重たい口も開く

「香月が会いに来てくれるって言ってたのに、やっぱり暫く会えないって手紙が来て…もう最悪」

香月が?一度約束したら守ってくれるのに

それに香月だって最近は和彦に独り占めみたいにされてたから会いたいハズだよね

自惚れるけど、香月はセリくんが大好きだから次会えるの楽しみにしてたもん

この前も早く会いたいって言ってたし

私はセリくんから香月の手紙を受け取って確認する

うん、ちゃんと香月の字で書かれてるわ

誰かが真似したとかは難しい

私とセリくん(和彦やフェイも)の前の世界の文字の読み書きが出来る人はかなり限られてる

知ってる中で香月と、教わって知ってるイングヴェィとレイだけ

「その理由を聞きに行こうと言ったんだが、嫌みたいだ」

レイがどうやって機嫌取ったらいいかわからないと困っている

うーん…自分ながら、申し訳ないけどこうなった私はどうしようもないのよね…

「別に理由なんてどうだっていいよ

香月が会いたくないなら俺だって会いたくねぇもん

知らない、嫌い香月なんて、ふん」

あーあーあー…客観的に見る自分はこうもワガママなのか…

いつからこんなワガママになったのかしら

周りの男達にチヤホヤされて調子乗ってるのね

何してもみんなが離れないから、自分勝手が過ぎるわ

仕方のない私、ハッキリ言えるのは自分しかいないか

みんな甘やかすもん

「最近随分と生意気にワガママ放題じゃない

そうやってみんなを困らせるの、良くないわよ」

「別に俺はワガママなんて……!!」

途中で言葉が詰まったのは心当たりがありすぎるからね

「嫌いってツンデレも可愛いけど、今の態度

レイが一緒なのにないんじゃない」

レイもイングヴェィも、私の厳しい言葉にまぁまぁと宥めてくるけど

ダメ、貴方達がそうやって甘やかすからつけあがるのよ

「うぐ…うぅ……自分の厳しい言葉が深く突き刺さる……胸が痛いぞ」

「恋人が複数いるセリくんは、他の恋人の前で別の恋人のコトを引きずってはダメ

失礼よ」

「複数って…?香月と和彦の2人なんですけど…」

「惚けるなよ、4人はいるだろ」

セリカの冷たくて鋭い視線と言葉が辛いほど恐い……

「よ…4人って…レイはわかるけど………」

いや下手に言ったらもっと恐くなるだけだ

ここは話を戻そう、脱線してるもんな

言われなくても…わかってた…

でも、俺はきっとみんなに甘えて甘えすぎて度が過ぎてしまったんだ

誰も言ってくれないのは、みんなの優しさに甘えてのコト

反省しねぇと、みんなに迷惑かけるなんて嫌だから

「以後、気を付けます…申し訳ないです…

レイも悪かった、香月のコトは気にしなくていいよ」

「セリ…オレは別に

セリカがビシッと言ってくれて嬉しいが、オレはセリのワガママ放題甘えてくれるのも嫌いじゃないんだ」

あっコイツただのセリくん至上主義だった

みんなが言わないのは優しいんじゃなくて、全員イカれた変態だってコト忘れてたわ

私が口出すコトじゃなかったのかもだけど、情けない自分を見るのは自分が嫌なのよ

「セリくんのワガママなんて可愛いもんだよ」

ねっとイングヴェィがニッコリ笑う

この人も私だったらなんでも良い人だった

「珍しくイングヴェィさんと意見が合うな

セリは怒ってても可愛いんだ

不機嫌なのも怒るのもオレの事が好きだから、甘えられる存在だから、心を開いてくれてるんだって実感出来て」

「セリカの言う通り、このままワガママ放題甘えてたらレイがキモくなっちゃうから気を付けるよ……」

レイの異常なまでのセリくん至上主義に本人が1番ドン引きしている

「それじゃあ、香月のコトは会って確かめるのね?」

ってセリくんが会いたい気持ちは私にはわかってるからね

「いや…レイがいるのに香月に会いに行くなんて…」

「それは違うぞセリ!!

セリカが言ってるのは、香月さんのコトで不機嫌になって当たるのをやめろって話で

セリが不安になってるコトを確かめに行く事を反対しているわけじゃない

オレだってそうだ、セリが香月さんの事で不安になってるならオレも一緒に会いに行ってやるから、心配するな」

レイって……やっぱりイケメン、心広すぎ

精神安定してる時に限るけど

メンヘラに傾いたら全てをひっくり返してぶち壊しに来るもん

「レイ…ありがと嬉しい、でもいいよ

香月が暫く会えないって言うには、よっぽどの理由があるんだろうし

俺はまた香月が会いに来てくれるまで待ってるよ

それに、今はレイと一緒にいたいから」

最後の一言でレイの心鷲掴みやな、さすが小悪魔ビッチ

男の心掴むのは得意ね

レイはセリくんの笑顔に顔を赤くしてしまう

「そう、じゃあ私は香月に会いに行くわ」

レイと一緒にいたいのは本当よ、でも香月のコトだって気になってる

身体が1つしかないなら残念ね

でもセリくんと私は天が創ったたった1人の人間

身体は2つあるの

「セリカ…俺は別に……いや、香月のコトも気になる

頼んでも良いか」

「たまには向こうで女子会しなきゃね、ポップが言ってたんでしょ」

この前は女子会せずに帰ってきちゃったし、行ったばかりでまた行くのかって感じだけど

私が微笑むとセリくんも微笑む

そうして、私はイングヴェィと一緒に香月に会いに行くコトにした

香月の手紙の書き方…ちょっと気になるのよね

セリくんはショックのあまり気付いてなさそうだけど、香月の会えないってのが変なのよ

何か用があってならそう書く人よ、曖昧な表現は使わない人ってコト

不安なのは好きじゃなくなったとかだったら辛すぎる…でも、香月ならハッキリ言うだろうし…うーん

とにかく、香月に会って確かめたいのよ



イングヴェィと一緒に歩く道中は、とても楽しかった

2人っきりって最初は意識して恥ずかしかったけど、イングヴェィがそれじゃダメだって色んな話をしてくれたわ

私が恥ずかしがったりするとイングヴェィも釣られてそうなっちゃうけど

普段のイングヴェィはとっても明るくて元気な人

一緒にいて楽しいし、私はイングヴェィの話をうんうんと微笑みながら興味を持つ

私はイングヴェィが楽しそうにしてるのを見るのが幸せだと感じる

この太陽みたいな眩しい笑顔が大好きなんだ

私まで明るく照らしてくれて…嫌なコト全て吹き飛んでいきそうなくらい

「あれ?セリカちゃん少し髪切った?」

ふいにイングヴェィが私の髪に触れる

凄い…ちょっと毛先を揃えただけなのに気付くなんて

「えぇ昨日ヘアサロンに行って、カットとスパとトリートメントして貰ったの」

だからいつもより髪が綺麗で嬉しい

ヘアサロン行ったりネイル新しくすると気持ち上がるよね

私は自分の黒髪が好きだから今はカラーはしないけど、ポップはカラーもしてるんだよね

会う度に髪の色が変わってたりする

キャンディーみたいな派手な色を好んでるわね

見ててたまに私も違う色にしたいかなって思うけど、結局黒髪のまま

私の髪色が変わったらセリくんも変わっちゃうし、レイが黒髪好きだから絶対染めるなって強く言われたみたい

たまに彼氏面するとこが恐怖を感じる時があるとも言ってた

セリくんの周りは強引な人多いからね~大変そう

そんなこんなでイングヴェィと2人旅を楽しみながら、香月の城の近くまでやってきた

すると空からキルラが降り立って私達の道を塞ぐ

「よぉセリカ様」

「キルラ、迎えに来てくれたの?」

ここくらいまでになれば私の気配を察知するコトが出来るし、まぁキルラが今まで出迎えてくれたコトなんてないから珍しいな

「はっ!ここは通さねぇよ!!

通りたければオレ様を倒して行くんだな!!」

まぁキルラったら…悪役みたいな台詞吐いて、こういう時は決まって

「キルラ、セリカちゃんと戦うってコト?それなら俺が」

イングヴェィは私を守るように前に出たけど、私はイングヴェィを止めた

「大丈夫よイングヴェィ、キルラは敵になったワケじゃないの

たまにあるのよ、キルラがこう言う時はね」

勇者と手合わせしたいってコト

いつもセリくんに対して勝負を挑む

どっちが強いかって、いつもセリくんの勝ち

キルラは勝ちたいのよセリくんに…勇者にね

面倒だけど、やらなきゃ通してもらえなさそう仕方ないな

私はイングヴェィに後ろで見ているように言った

イングヴェィは事情をわかってくれて下がってくれる

「無茶はしないでね、セリカちゃん」

心配しないでと微笑んでから私はキルラの前に立つ

「今日こそオレ様の方が強ぇえって見せてやんよ!!勝負だコノヤロー!!」

「かかってこいよ、何度だって泣かしてやる」

短剣を引き抜いてキルラを迎える

勇者の剣じゃないからそんなに長くは戦えない

この短剣なら勇者の力には耐えれて5回くらいか

十分、2回で勝つ

キルラは鳥型で空も飛べるのに、意外に近距離な戦いをする

翼を振り回し拳のように扱っては私に殴りかかる

スピードは魔族の中でも速い方

でも、私の方がキルラより速く動ける

避けていると、なかなか当たらないから頭にきたのか掴み掛かろうとしてきた

「ちょこまかとぉ~!!!!ムカつく野郎だなぁコラ!!」

「野郎ね…女には手を挙げないって言ってたの誰よ?」

「うるせぇええ!!セリカ様はセリ様だから勇者は男でいいんだよ!!とりあえず一発殴らせろ!!」

じゃあ遠慮なく一発食らわせてやるか

私はキルラの懐に入り込み、足を引っ掛けた

そのままバランスを崩したキルラの顔が落ちてきて、思いっきり膝を振り上げて超痛いのをぶちかます

「うおおおおお!!!??死ぬほど痛ぇえええ!!??顔面変わったんじゃねぇ!?」

「大丈夫大丈夫、変わらず男前よ

ギブアップする?」

ちょっと鼻潰れたくらい…いや…酷い怪我かも

「ま、負けてねぇ……オレ様は女に暴力振るわない主義だから本気出せてねぇだけよ」

「はいはい、さっきのセリくんの2回くらい前の前世で同じ負け方してるわよ」

「だから負けてねぇつってんだろうがよ!!!??」

カッとなったキルラはまた私に掴みかかろうと手を伸ばす

ちょっと反応遅れたけど、キルラに捕まるほど私はマヌケじゃな…

「いッた…!?」

避けた…避けたハズだった、だけどキルラの手(翼)には私の長い髪が掴まって引っ張られてしまった

そうか、セリくんと違って私は髪が長いからその分気を付けないと…やられる!?

「捕まっ……いんや、オレ様は女殴らねぇつってんじゃんよ」

殴られると思って身構えていたら、キルラは手を離した

私の髪がサラリと戻って頬に当たる

「はんっ!セリ様だったらその長い髪は捕まえられなかったし、そりゃ卑怯ってもんっしょ」

キルラが勝ちたいのは私じゃない、勇者に勝ちたいんだ

もちろん、前世のどこかでセリくんがキルラに髪を掴まれて殴られたコトもあるけど(百倍にして返したった)

女の私に勝ってもキルラにとって意味はない

じゃあたまに私にも喧嘩売るのやめてほしいわ、すぐ忘れて売ってくるんだから

「キルラ…オマエ…やっぱり良いや…つ!?」

掴まれた髪を撫でて感心していると、キルラは私の片足を掴んで逆さにして吊り上げた

「殴れねぇからパンツでも拝んでさっきやられたのをチャラにしてやんぜ!!」

「全然良い奴じゃねぇ!!寝てろ!!」

スカートが重力に誘われる前にもう片方の足をキルラの顔面に思いっきり蹴りを入れる

キルラが倒れると同時に手の力が緩んで片足は解放される

無事に地面へと華麗に着地すると、キルラは音を立てて倒れて動かなくなった

大人しく寝てくれたみたい、この程度じゃ死なないわ

結局短剣使ってないし…

「お疲れ様セリカちゃん、強いね」

イングヴェィが私の傍へと寄って微笑む

「ううん、キルラは私だから手加減してたわ」

と言っても私が女だからってのもちょっと違う

セリくんは男だからキルラも私よりは遠慮しない

だけど、セリくんが香月の恋人になる前まではキルラはもっと強かった

キルラ1人でピンチになるコトもあったわ

勝負と言ってもキルラはかなり手加減している

地面で寝ているキルラを見ていると、強い気配を感じて前を見る

「セリカ」

気付いていた香月が近付いてるコトは

「暫くは会えないと言ったはずです」

香月の恐ろしい雰囲気がピリピリと感じる

いつも通りだ…でも、何かちょっと違う…?

私の勘が、香月と距離を縮めてはいけないと言っている

「香月くん、急に会えないって理由を教え」

イングヴェィが香月に一歩近付いた瞬間、身体が真っ二つに切断される

「いっ…イングヴェィ!?」

駆け寄った瞬間、イングヴェィに引っ張られバランスを崩したがヤバいのが来るってわかった時には私の手をかすめていた

「……痛い…なに、これ……」

すぐに距離を取って、痛みに手を押さえる

イングヴェィに引っ張ってもらってなかったらもっと大怪我してたわ…下手したら死んでたかも、油断した

かすり傷程度だが手の甲にスッパリとした傷が付く

本来なら回復魔法で治せるのに…治せない…

こんな時にまた回復魔法が使えないなんて……

マズい…頭がグチャグチャで混乱してる

さっきの香月の攻撃、私を殺す気だった

「逃げてください…私に近付いてはいけません」

どういうコト…香月は逃げろって言うのに、なのに殺す気で攻撃してくる

逃げろなんて…このままイングヴェィを置いていけない

香月と…戦う?この短剣で?いや…無理よ

本気の香月には勇者の剣があっても五分

香月が一歩近付けば私は一歩下がる

「セリカちゃん!逃げて!!俺は大丈夫!死なないから!!早く!!」

イングヴェィの上半身だけの手が香月の足を掴んで止める

だけど、香月はすぐにイングヴェィの掴む手を切断してしまう

「やめて!イングヴェィに酷いコトしないで!!」

そんなものを見せられたら私はそっちに飛び込んで行ってしまう

香月の攻撃を短剣で弾きながら近付く

でも無理だ…これ以上は短剣が魔王と勇者の力に耐えられなくて壊れてしまう

私の足がさらに一歩前に踏み出す前に身体が空高くへと浮く

素早く一瞬の出来事に私は混乱したままだった

「セリカ様しっかりしろや!!イングヴェィは不死の生き物なんだから死なんって」

私を助けてくれたのはキルラだった

キルラはこんなに速く空高く飛べたのかと思うくらい、私を一瞬で安全な位置へと連れて行く

遠く離れた場所で私は地面に下ろされた

キルラの言う通り…イングヴェィは死なない…わかってる

なのに、私は目の前でイングヴェィが殺されたと思って…我を忘れていた

「どういうコト……キルラ、香月はどうして私を殺そうとするの?」

私は手の甲の痛みを感じながらさっきのコトを思い出す

思い出しても、何がなんだかわからない

殺す気で攻撃しておいて逃げろなんて言葉もおかしい

それに香月が敵になったとも考えにくい

香月は魔族の王様、魔王様が勇者を敵とするなら魔族であるキルラだって私を殺す気で襲ってくる

それどころかキルラは私を助けた

「それはオレ様にもわかんねぇす

気になるのは妙な武器を拾った事っすね」

「妙な武器?」

それを聞いて私にも心当たりがあった

私は試しに短剣で自分の手を切って回復魔法を使う

やっぱり…治せる

同じ現象だ、回復魔法が使えないのは妙な武器で傷を付けられた時

それを香月は拾ってしまったってコト?

「最初はオレ様が拾ったんすよ、その辺で死んでた男が持ってた武器が普通じゃない感じがして気になって

そしたら何故かセリ様を殺したい衝動に駆られたワケ」

私を殺したい衝動に?

「これはやべぇ呪いって思ったぜ!?もし本当に殺したら香月様に殺されちゃいますからね!!」

呪いか…確かにしっくり来るわね

セリくんを殺したい呪いならあのしつこいタキヤの仕業かしら

あれ、でも

「呪いって香月には効かないんじゃ?」

「そうなんすよー!!香月様は呪いを無効に出来るはずなんすよ、オレ様から拳を切り落として武器を取り上げたらあぁなっちゃってオレ様達魔族もわけわかめなんで」

香月をも超える呪いってコト?それとも何か他の……

キルラはその妙な武器はそれぞれの武器に宿ると言う

キルラなら拳に、香月なら…

「それにしてもセリカ様って香月様の攻撃見えるんすか?いつも不思議に思ってて勇者スゲーなーって」

香月の最大の武器は、見えない力

「見えてないわよ、なんとなく来るって感じるだけ」

魔法じゃない

今までの経験からして距離も決まってる

中距離くらいで、さっきみたいに一定の距離を保っていれば届かない

刃物のように切れるようなものもあれば、手かのようにそのまま掴んで来るコトもある

見えない重いもので押し潰すようなコトもするし

掴まれる力も恐ろしく強い、岩をも簡単に砕くほどで武器破壊も簡単にしてくる

勇者の剣はさすがに無理みたいだけど

香月の雰囲気だけで人は自ら死を受け入れてしまうくらいの恐怖と絶望を感じ、万が一戦えても武器破壊に見えない力

誰も香月には勝てない、魔王は恐ろしい存在

勇者以外は…それも必ずではない

距離が近すぎて忘れがちだけど、香月は良い存在ではないんだ

香月と戦った回数が1番多いのはセリくんでも、まだまだ未知な部分はある

そんな最強の力だけじゃない素早さもある

とにかく感じ取っているとは言え、見えない力とは厄介で対処がしにくい

まだ私の知らない部分があるかもしれないし

「なんとなくわかるだけでもスゲーなおい、勇者以外なんとなくもわかんないっすよ」

「困ったな…キルラの話を聞いて、武器を取り上げるコトが出来たら元に戻るみたいだけど、香月から取り上げるなんて無理な話よ」

「確かにぃい!!!!」

それに出来たとしても、次はその人が私を殺しに来るわ

私自身だったら?私が私を殺すだけだ

どうしたら…

もう…二度と香月に会うコトも…触れるコトも出来ないの……?

「イングヴェィは大丈夫かしら…」

不死だから大丈夫だってわかってるけど心配

「心配ないっすよ!セリカ様が目の前にいなきゃ香月様もいつもの香月様なんで、イングヴェィもそのうち帰って来るっしょ」

そうよね…香月に話さなきゃいけないコトもあるのに

セリくんから聞いた魔物が殺害される事件

セリくんと私以外に勇者の力を持った人がいるかもって不安もあるのに

「ねぇキルラ…勇者の力ってセリくんと私以外に持ってたりする?」

「はぁ?ありえねぇって」

でもこんなコトがあったのよと私はキルラに話す

「それはおかしいっすね…香月様に伝えてみるっすよ」

「お願いねキルラ」

不安の消えない笑みを向けると、キルラが何かに気付く

「オレ様はこれで、何かわかったら連絡しますんで」

大きな翼を振ってキルラは空高く飛んで行ってしまった

そのすぐ後にイングヴェィが私の目の前へと帰ってきてくれる

「セリカちゃん!無事でよかった」

キルラの言う通り、香月は私がいなければいつも通りなんだ

イングヴェィは解放されて私を追い掛けてくれた

「イングヴェィこそ無事でよかったわ、心配した」

「あぁ~本当にビックリしたね、香月くんがいきなり俺を殺しにくるんだもん

まっ俺は死なないけどね」

アハハとイングヴェィは笑う

違うわ…香月はイングヴェィを殺そうとしたワケじゃない

私を殺すために邪魔だから殺そうとした

イングヴェィが自己回復でここまで来れたのが証拠だよね…

「聞いたよ、香月くん妙な武器を拾ってあぁなってしまったみたい」

イングヴェィはキルラと同じ話を香月から聞いていた

「私もキルラから聞いたわ

おかしいのは、その武器が呪いではないのに呪いのような効果がある」

「そうだね…それに香月くんの武器は見えないから確かめるコトも難しいと思う」

「このままじゃ…香月と死ぬまで戦うコトになっちゃうのかな…」

セリくんに私の気持ちは繋がってるとは言え、事情までは話さないとわからない

あまり話したくないコトだわ…香月が命を狙ってるなんて

それも本心は嫌いになったワケじゃなく、変わらず好きなままなのに

「1つ解決する方法があるよね

セリくんが香月くんをもう一度倒して、キルラ達に復活をお願いすれば良いんだよ」

………イングヴェィは人間じゃないから、人の気持ちに寄り添えないコトやわからないコトもたまにある

「出来ないよ!!恋人を殺したコトも殺されたコトもあるから、それがどれだけ辛くて苦しいコトか……」

セリくんは和彦に殺されて香月を殺したコトがある

死ぬほど悲しくて辛かったわ…それをもう一度しろなんて……無理よ

「そうでもしなきゃセリくんかセリカちゃんが殺されちゃうんだよ

俺は君が殺されるくらいならセリくんが香月くんを殺してくれる方を選ぶ」

イングヴェィは私しか見えていない

セリくんのコトも大切にしてくれるけど、セリくんか私なら私を選ぶ人

どれだけセリくんが心の傷を負っても、私が傷付くよりはマシだって話

嫌よ……そんなの……セリくんは私なんだから……

そんな選択できない

イングヴェィは私の傷付いた手をすくい上げる

「痛かったね…セリカちゃんを傷付ける人は誰だろうと許さない

そんなにセリくんが出来ないって言うなら……探そうよ」

「えっ…?」

イングヴェィはいつもと変わらない笑顔なのに、私はその笑顔にゾクリと嫌なものを感じる

貴方の言葉が辛く重たかった…

「魔物が殺された事件…君達以外に魔族を、香月くんを殺せる力を持つ人がいるってコトでしょ?

その人に殺してもらおうよ、俺協力する」

セリくんと私以外の勇者…

出来れば…会いたくない……

だって…勇者だったら……香月を取られちゃうかもしれないって…考えが過る

香月と結ばれてる運命は唯一無二の魔王と勇者だからって思ってて……

その関係が崩壊するのは……死ぬより恐い……

今まで生きた運命の全ての前世を含めて、なかったコトになりそうで…

考えすぎかもしれない…でも、香月だけは誰にも奪われないって安心しかなかったのに

もしかしたらって…不安が広がる

恐い…香月は、俺が今日まで生きてこれた希望だから

「大丈夫だよ、永遠のお別れじゃないでしょ」

イングヴェィの私を気遣ってくれる言葉がフラグにしか聞こえない…やめてよね

「他の…誰かに奪われるくらいなら……

自分で殺す方がマシ

俺以外の勇者なんて認めねぇから……」

「………セリカちゃん……」

私が…殺す、好きだから香月を殺して復活させる

そして、自分以外の勇者がいるって言うなら私が殺して存在を消すわ

セリくんは甘いからきっと殺せない

私が私であるために何者にも邪魔をさせない

「……セリカちゃんを追い詰めたつもりじゃないんだけどな……

わかった、君が望むなら俺は助けるよ

セリカちゃんに背負わせたりしない

君以外の勇者は俺が殺してあげるね」

イングヴェィは私の手の甲の傷をハンカチでしばってくれる

貴方の笑顔が眩しくて、でも頼もしい

私の間違ったコトですら貴方の笑顔は照らしてくれる

まるで私が正しいかのように錯覚させて

セリくんは疑問を持つかもしれない

だってセリくんは私と違って、香月って救いがあった

だから立ち止まれる

私は立ち止まれない

セリくんは私のようには生きられない

私はイングヴェィに出逢うのが遅すぎた

セリくんのように愛してる人と愛し合うコトすらできない

私には…そんな幸せな人生を歩むには…もう遅かった

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