169話『契約と秘め事』セリ編

俺の知らない間にレイは天使と一緒だったらしい

その時に天使は急いであっちの世界に帰っちゃって、大切な人の結婚式があるから暫くは留守にするって

んで、天使がセレンに借りていたハンカチをレイが受け取って返しにこうしてセレンの部屋の前へとやってきた

ノックをして返事があったからドアを開けて中に入る

セレンは俺とレイの姿を見ると嬉しそうにして近寄ろうとした拍子に大量に薄い本の入った紙袋を倒してなだれが起きる

あーあーやっちゃったな

セレンって見た目は絵に描いたような女神様なんだが、中身はドジで怠け者で色々困った女神だ

でも俺はなんやかんやでセレンのコトは嫌いじゃない

一緒に片付けようと本をかき集めてると、こんなたくさんの本なんの…あれ?

「この表紙の絵がセリに似てないか?」

レイは散らかった薄い本の一冊を拾い上げる

「えっ?こっちの人はレイに似てるけど…何この本」

気になって中を見てみると

「どおおお!!?えろおおおー!?!?やべぇ何これ!?」

かなり過激なエロ本だった

「同人誌ですわ、レイ様とセリ様の」

「えっ!?何それ!?うわ、本当だ

レイと俺の名前じゃん、キャラも特徴掴んで似てるし

えっ…やば…えぐいくらいエロいんだけど、えっ??何??同人誌ってこんなヤバいくらいエロいのか」

こんなエロ本見たコトがない…ひえー…すご……えちえちじゃん

って俺達をおもちゃにすんなよ!?いつものコトだけどさ!?

「こちらの同人誌はセリ様総受けでセレン一押し作家様の新作ですのよ、むふふ」

総受けって何だっけ?前にセレンが熱く語ってた気がするけど

セレンは一押しと言って俺に薄い本を渡す

「4人の男達から責められて」

「5P未来予知!!!!??3人はまぁわかるけど、なんで残りの1人がフェイ!?似ててスゲー嫌!!

隠しカメラと盗聴器付けられてるってくらいリアルタイムに正確なんだけど!?

こんなんフィクションだからなんとかなってっけど、ノンフィクションの現実だったら壊れるわ!!!!」

「壊れるセリ様を腐女子のセレン達は望んでいるのですわ」

「人事だからってめちゃくちゃ言うな!?」

「最近はフェイ様とセリ様のカップリングが流行っているのですが」

「やめて…」

なんでもありって趣味の世界だって理解はするけど、モデルが現実に存在する俺自身だから文句くらいは言わせてくれよ…死ぬほど恥ずかしいし…

「どうしても発禁レベルになってしまって入手困難ですの

セレンは発禁になる前に入手していますから全部持ってますけど、んふふふ」

「どういうコト…」

「フェイ様とセリ様と言えば、リョナ一択でしょう!」

なんでフェイのやべぇイカれた性癖まで正確に嗅ぎつけてるんだコイツら…

これが発禁本ってセレンに渡されて中を見ると、目も当てられないくらいの過激すぎる表現の数々だった

「……これ俺もう死んでるだろ、もう腐女子の戯れで済まないトラウマレベルの描写やぞ」

一部の腐女子にだけ流行ってるみたいだ

リョナは一般的には受け入れられなくて腐女子の中でも嫌悪されているらしい、そりゃそうだ

セレンが言うには、普通はフェイのサドさが強調されて描かれているとか

どうでもいいわ、どっちにしろ俺が酷い目に遭うのは変わらねぇんじゃん

「その時点ではまだ死んでいませんわ、最後は死にますけども」

勝手に俺を殺すな!!

「結末はフェイ様がセリ様を死姦して」

「ちょっと待て待て待て!?!?そこまでフェイは非道じゃねぇだろ!?どんだけ狂ってるんだよ!?」

「えっ?してますでしょう?そのようなご経験は?」

「あるか!!!ってか死んでたらその後のコトなんかわからねぇだろ!!?」

あまりに堂々と当然みたいな顔されて、もしかして俺が間違ってる?って思わせてくる

フェイが俺を死姦なんて……………待てよ……?

前の世界で俺は和彦に殺されて…その後どうなったかなんて知らない

まさか…もしかして………ありえる?

いくらフェイでもそこまでしな……

「私の話ですか?」

セレンの部屋のドアが開かれたと思ったら、タイミング悪くフェイが登場した

なんでいる……!!!!????

「私がセリ様を死姦ですか?ありますよ」

さらっと当然って顔でフェイが言うとセレンはですわよね!!と目を輝かせた

目眩がして倒れそう

フェイが狂ってるのは知ってたが、セレンは腐るためならどこまでも狂気

フェイ、オマエ……そこまで非道な奴だったのか…見損なったぞ!!

「あの時、和彦様がセリ様を殺してしまってすぐに和彦様も自分の刀で首を切って後を追われました

私はあまりに悲しくて」

そうだよな…目の前で自分の主人が死ぬなんて……

それに…俺は和彦に殺された時のコトは思い出したくなくて、その後のコトは聞いてない

和彦がすぐに後を追ってこの同じ世界に運良く来れたってのはなんとなくわかってたけど

「悲しくて…セリ様を犯しました」

「さすがフェイ様ですわ!!素晴らしいです!!」

フェイの真実とセレンの興奮に、俺は目眩がして倒れそうになったのをレイが支えてくれる

まともじゃない…和彦も俺も死んでるのに……不謹慎すぎて酷すぎる、最低

「おかしいだろ!!?主人が目の前で死んで悲しいのになんでその発想に至って実行した!?色々とぶっ壊れてんのか!?」

「そうですね、良いものではありませんでした

貴方の反応が少しもないのですから

やはり私はセリ様の反応があって楽しめます」

それなら殺される心配はなさそうでホッとするよ……

「1人生きる事を選べず、その後に私は火を付けて後を追いました」

主人の後を追うなんて凄い忠誠心だな

フェイは俺の顎を掬うと、顔を近付けて見つめる

……あまり…近くで見るな、視線を逸らしてしまう

逸らした視線の先にセレンが食い気味で覗き見してて怖かった

いつもその執着心に恐怖を感じる

俺はフェイの手を振り払ってレイの後ろに隠れた

前のレイならフェイが俺に触れる前に止めてくれたのに、この前のコトがあってから何も言わないし止めてもくれない

「おっと、寄り道をしてる場合ではありません

和彦様にお使いを頼まれているので、私はこれで」

フェイは部屋を出る時にレイの横を通り過ぎて、その後ろに隠れる俺へと目を向けた

俺はフェイを見なかった

そのままフェイが消えてから、胸をなで下ろす

「フェイ様の事が少し知れて次の本はもっと厚くなりますわ

フェイ様はミステリアスでどのような殿方なのか詳しく知りませんでしたもの」

その割にはフェイの性癖とか正確に捉えてたし、死姦まで正確に読めてたよな

散々俺をモデルにするなって言ってたけど、もういいよ…

ここまで来たら、好きにして……最初から俺はセレンのおもちゃにされていたもんな

勝手にレイとカップルにされて、それがはじまり…いや予知だったのか!?

あの頃はレイと会ったばっかで気が合うなくらいで、だんだんと友達になって、気付いたら信頼できる大親友になって……めっちゃ仲良くて…今は違うけど

俺は最初からレイが好きだった

最初は人としての好きってだけだったけどさ

どうしてこうなっちゃったのかな…

「セリは寛容だな」

「どうせ聞かないし、こんな生き生きしたセレン見てたらまぁいいかなって思えてくる…」

はぁっと大きな溜め息くらいは出ていると、レイはセレンの本をいくつか手にして聞く

「この本を譲ってくれないか」

「もちろんですわレイ様!セレンは個人用保存用布教用で最低3冊は持っておりますもの」

セレンの仲間に!?!?!?

レイの選んだ薄い本は全部レイと俺のカップリングだった

や、やめて…そんなの恥ずかしいから…

自分の本なんて……自分のエロ本なんて気まずい!?

「レイ様にはこちらもオススメですわ、私の1番のお気に入りでして

レイ様とセリ様の絡みが最高にエロくて未だこの本を超えるものはありませんわ」

マジでやめろ!!!!???

レイも興味津々に話聞くんじゃねぇ!?

「是非ともお2人の夜のお楽しみの参考になさってくださいな」

余計なお世話だ!!!!!

…………でも、俺もちょっとその本……気になる…セレンが最高って言うくらいだから、どんなエロい本なのか……

「ところでセリ様、気になった事をお聞きしてもよろしくて?」

どうせしょーもないコト聞いてくるんだろうが、どうぞと聞いてやるコトにした

「沢山恋人がいますけれども、特別な日はどなたを選びますの?ほらクリスマスとかお誕生日とかありますでしょう?」

たくさんって…?引っかかる言い方だな

「恋人は香月と和彦の2人なんだからイブと当日とで…」

と思ったが、隣にいるレイを見ると

やっぱりそれじゃダメだよなぁ

考えたコトねぇけど、それならイブはレイと過ごして

クリスマスは香月と和彦の2人でかな

あの2人は仲良くないが、香月はイベントとか気にしないし和彦は3P出来ればまぁオッケーな奴だから

そんな感じになるだろうな

俺もイベントはあんまり気にしないが、せっかくなら好きな人と過ごしたいから選べと言われたら欲張りになってしまう

「お誕生日は?」

それ!それ難しいんだよ!?1日しかないとか無理だろ!?

みんなとって贅沢にはいけないよな

誰に1番祝ってもらいたいか…うーん…選べない、いや選んじゃいけねぇよ

あえて1人寂しく過ごすしか…

そういや、イングヴェィが同じ誕生日だったっけ

なら、同じ誕生日同士で俺とセリカとイングヴェィでってのも

いや待て、せっかくの誕生日にイングヴェィとセリカは2人っきりにしてやりたいから

「やっぱ俺は1人かな……」

誰も選べないよ、その日は特別

とくに次の誕生日は24歳になるんだ

これまでの前世を思い出しても24歳の誕生日を迎えたコトはない、この年齢の23歳でいつも必ず死ぬ

だから24歳の誕生日をもし過ごせるなら……やっぱり…大好きなみんなとがいいかな

誰も選べない

「オレはセリの誕生日は一緒に過ごしたい」

隣にいるレイが嬉しいコトを言ってくれる

うん…レイなら絶対そうだってわかってたけど、言われるとやっぱり嬉しくて口元が緩む

「……生きてたらね…」

「何があっても生かすよ、セリとずっと一緒にいたいから」

お互い見つめ合うと、鏡のように微笑む

いつも守ってくれて…ありがとう、レイ

俺も期待してるんだ、今生きてる運命はこれまでとは違うって

だから…もっと長くみんなと一緒にいられるかもって、そしたら本当に嬉しいし幸せだ

自然とお互いの距離が縮まる

「セレンは…セレンは…こうして推しのカップルを間近で見られて…幸せですわ」

素に戻った

セレンの興奮した鼻息と血走った目で距離が生まれる

推しのカップルを引き裂いてるのオマエだぞ………

まぁレイと俺は恋人同士じゃねぇけど

大悪魔シンの契約のせいで、レイのコト心から愛せない

俺がレイを愛するコトがレイの契約した内容

それが叶うってコトはシンにレイの魂を奪われるってコトだ

俺はシンに啖呵を切ってるからな

オマエにはレイの魂をやらねぇって、だから俺はレイを心からは愛せない

恋人にはなれねぇんだよ……こんなに好きなのにな

この好きな気持ちも、大悪魔シンの契約のせいだって言う

俺が出来るコトはレイの傍にいるコト、レイの愛を受け入れるコト

レイが望むならいつでも…セレンの薄い本と同じコトを……してもいい…

とりあえず、セレンと話してると日が暮れるコトを知っているから俺はレイを引っ張る形で部屋を出た

結局何しに来たんだっけ…セレンに用があって来た気がするけど、忘れたな


部屋に帰ると、何もしてないのにドッと疲れを感じた

ソファでくつろいでいるとさっきレイがテーブルに置いたセレンから貰った薄い本が目に入る

………ちょっと気になる

手を伸ばして適当な本を取ってチラ見する

うわ~この人の絵めっちゃ上手すぎ、綺麗だし細かい

しかもエロ~…

こういうの実際にしたコトあるけど、実際にするのと絵で見るのとはまた違って…なんか……変な気分になる

レイがこの本ほしがってたから……俺とこんなコトしたいのかな……

別に俺はいつでもいいんだけど…

でも、こんなの見たら…恥ずかしくて……緊張する

俺は本を閉じてそっとテーブルの上に戻した

レイは本を置いてすぐに音楽室に楽譜を忘れたコトを思い出して取りに行ってる

すぐ戻ってくるってのはわかってるけど

変な気分になっちゃったし、先にお風呂に入って気を紛らわせるか

レイが帰ってきて変に意識したくない

お風呂は疲れも心も癒してくれるから好きだ

今日の入浴剤はこの乾燥の季節に肌への保湿が良い感じになるとかなんとかって話でラベンダーの香りらしい

美意識が高くて美容オタクのセリカが入浴剤にも凝ってるんだよな、たくさん貰った

女の子らしいセリカが俺は好き

「セリ、風呂に入っているのかい」

「うん」

ドアの向こうからレイの声が聞こえる

「オレも一緒に入っても構わないか」

「えっ…?」

いつも一緒に入ってるからダメなんて言わないけど…今日はちょっと…意識しちゃう…かも

「……いいよ…」

ダメって言う方が変に思われるじゃん!?

もうセレンのせいで…

少ししてレイが入ってきた

浴槽に入ると自然とお互いの身体が密着する

熱くなってきた…?のぼせたのかも、それともレイが近くにいて身体が触れてるから?

変に緊張してドキドキして…何かを期待する

「さっきフェイが前の世界のセリの話をしていたが」

「えっ?」

「オレはフェイみたいに出来ないな」

「普通の人はできねぇよ…アイツがおかしいだけだろ

俺はヤダよ、俺が死んだ後にレイがそんなコトしてたら」

レイは俺に手を伸ばすと引き寄せて抱き締めた

「セリが死ぬなんて考えたくない

また生まれ変わってくるとわかっていても、何度だって耐えられない

セリは人間だからいつか死ぬのは仕方ないとわかっていても

その度にオレを忘れて…なかった事になるんだろう

それを考えただけで辛くなる」

………レイも元は人間だった

光の聖霊の力で前世の前世の姿であったエルフに戻してもらって果てしない長寿だ

「俺だって…考えたくないよ、死にたくない

でももしその時が来ても、また生まれ変わった俺を見つけてくれるだろ?」

レイはいつも俺を見つけてくれた

その時は2回殺されたけど、でもレイはいつも俺を見つけてくれる

「もちろん、必ず見つけ出す

そしてまた好きになってもらう…」

レイの顔が近付いて目を閉じると、唇が触れる

その時、俺の意識はまた途切れてしまった

この後のコトは朝になって目が覚めるまで覚えていない

だって俺には意識がないんだから…

「レイ…」

「……急に雰囲気が変わった…また」

レイはすぐに気付いた

「また、あんたか」

俺が俺じゃないコトに

「そんな嫌そうな顔するなよ、俺はお前の味方だって言うのに」

今この俺の身体を、動かして話してるのは

大悪魔シンの契約だ

なかなかコイツの願いが成就しないから手助けしてやってるんだよ

コイツは契約の俺を睨み付けてるが、この勇者の姿には逆らえない所が可愛いんだけどな

「勇者に愛されたい、勇者の恋人になりたい

そんな願いを叶えてやろうってのに

勇者がなかなか折れねぇからじゃない

わかってるだろ?お前が自分の願いを叶えようとしていないから

口だけの男、もっとお前が強引に迫れば勇者の口から本音も漏れる」

「本音?悪魔の契約でそうなっているだけで、偽りじゃないか」

「それでも望んでるのはお前だろ?

どんな手を使ってでも手に入れたい…」

レイに寄り添うように身体を近付ける

「…それ以上…近付くな…」

引き離そうとしても俺の肩を掴む力が弱々しいんだよ

「こんな事は間違っていたんだ

だからオレは破魔の矢を手に入れて大悪魔シンを倒してあんたをセリから追い出してやる」

破魔の矢ね…さすがにそれはこっちとしちゃ部が悪い

数少ない弱点だ

でも、レイにそれが出来るか?

「シンを倒したら、レイは俺に嫌われて拒絶されるだけ

自分の願いと反対になるような結末を選べるか?」

「………セリに……

嫌われたくない…拒絶されたくない……」

レイには出来ない

いつだって迷ってる

間違ってるとわかっていても、自分の願いを叶えるために悪魔と契約したんだ

「もういいじゃん、悩むなんて無駄

レイはレイの好きなようにしたらいい

俺はレイのコト好きで幸せだもん

契約の力でそうなってても、幸せって感じてるから何も迷うコトないだろ?」

レイの顔に触れて、そっと自分の唇を重ねる

「その姿で…そんな事されたら…

セリじゃないとわかっていても」

「気持ちいい事しよ…いつもみたいに」

いつも我慢してたら息が詰まるだろ?

だからたまに俺がこうして息抜きしてやるんだよ

レイはもう止まれない

俺を強く抱き締めて、激しいキスをする

「……そうやって…してくれたら、いいのに……」

契約の俺とした所で無効だし、これじゃコイツを満足させてやってるだけで魂は奪えない

まぁ俺は俺で気持ちいいし、いっか

「もっと…」

全部受け入れてあげる

レイが抱きたければ抱きたいだけ

本当に…可哀想な奴、哀れな魂

結局、この男は自分のコトしか考えていない

勇者のコトより自分の気持ちが優先する

だから俺はお前が好きなんだよ、最低なお前がさ



次の日、目が覚めると自分がいつの間にか寝てしまっていたコトに気付く

あれ…また…確か、昨日はレイと一緒にお風呂入ってて…そこまでの記憶しかない

お風呂で寝るなんて、レイに迷惑かけたよな

たまにこうして記憶がない時が、最近不安に感じるコトがある

疲れているのか…それとも何かの病気なのか…

「レイ…おはよう、昨日お風呂で俺寝ちゃった?ごめん、たまに意識なくなって…レイに迷惑かけてるよな」

先に起きていたレイに声をかけて顔を覗くと、レイの表情はとても暗かった

何か物凄く落ち込んでいるような…重い悩みでもあるかのような

「レイ?やっぱり俺が寝てしまったコトに怒ってる?」

恐る恐る聞きながらレイの腕に触れると、レイはハッと今気付いたと俺の顔を見る

「セリ…いや…違うんだ…セリは何も悪くない…オレが、悪いんだ……すまない…セリ、許してほしいなんて」

頭を抱えて自分を追い詰めるようなレイを見て、俺は心配でたまらなかった

レイが悪い?許してほしい?何のコトを言ってるんだ

重い空気の中、どう言葉をかけていいかわからないままになっていると

部屋のドアがノックされて返事をすると、光の聖霊がテンション高めでやってきた

「おはよーお2人さん!レイ~~~!!聞いて聞いて、そして私を褒めて!?

ついに破魔の矢を探し当てたわよ!」

俺達の重い空気を吹き飛ばすかのように光の聖霊はテンションの高さを維持して、褒めてとレイに頭を向ける

安定のスルーでレイは光の聖霊に褒める代わりに礼を言う

光の聖霊は吹っ切れたとは言え、ノリはあんまり変わらないよな…

レイのコトは友人として変わりなく大好きみたいだが、友達のいない光の聖霊は友達としての接し方を知らなかった(最近は結夢ちゃんと仲良くて友達みたいだが)

「光の聖霊、よく見つけてくれたな

礼を言うよ」

「褒めて?」

しつこいくらい光の聖霊はレイから頭ナデナデして褒めてもらうコトを諦めていなかった

レイはスルーしてるけど、そのやり取りを近くで見てる俺は辛い

レイが好きでもない女の子に優しくしない性格ってのは知ってるけど、頭ナデナデするくらいはいいんじゃ…

って俺は思うけど、言ったら怒るからやめとこう

「破魔の矢?って何?あの神社やお寺で授与される縁起物のコトか?」

絶対違うってわかってるけど、それしか思い付かない

「ふっ無知ね勇者、あんたの前の世界じゃどうだったか知らないけど

破魔の矢は、その名の通り魔を破る矢よ

勇者にわかりやすく言うと、破魔の矢で悪魔を消滅させる事が出来るのよ」

破魔の矢は世界に数本しかなくて、何処にあるかもなかなか掴めない伝説のもの

悪魔は神族ですらなかなか倒せない存在で、大悪魔クラスになると倒せる手段がかなり限られていて

その1つが破魔の矢、と光の聖霊は語る

へー…ってコトは!?

「じゃあその破魔の矢があれば、大悪魔シンを倒してレイを助けるコトが出来るってのか!?」

「そういう事!!シンを倒す事が出来たらレイが魂を奪われる心配もなくなるわ」

それを見つけた私って凄いでしょーって光の聖霊は言うからレイの代わりに俺が頭を撫でて褒めようとしたら手を引っかかれて唸られた

俺じゃダメらしい…

とにかく、破魔の矢の話を聞けてよかった

だってシンを倒せたら俺は心からレイに愛してるって伝えられるし…恋人にも……なれるじゃん……ちょっと恥ずかしいけど

レイだって遠慮してなかなか抱いてくれないけど、シンのコトが解決したら

いっぱい愛してもらえるかも……!?なんて

めっちゃ嬉しい幸せなコトじゃん

「レイ!さっそく破魔の矢を手に入れに行こうぜ!!さっさと大悪魔シンなんて倒して」

レイの顔を見ると、俺と光の聖霊とは違った温度差を感じる

レイはずっと追い詰められたような表情をして…見てて心苦しい

「……そうだな、破魔の矢を手に入れる」

意見は一致するのに、レイは迷ってる…?

「仕方ないわよ、どんな手を使ってでも勇者を手に入れたい

悪魔に魂を売ってでも、それを自ら壊す事に乗り気なわけないでしょ」

光の聖霊はレイの悩みも不安も何もかもわかってる

100年一緒にいたんだ、光の聖霊は俺よりレイのコトをわかってる

悪いところも…

「そんな…心配すんなって、言っただろ?

悪魔の契約の力がなくったって俺はレイのコト好きだって

変わらねぇよ、俺がレイを想う気持ちは何も」

「違うんだ…セリ、オレはいつだって

……セリに嫌われるような……ズルい男なんだ」

レイ…何か朝から様子がおかしい

前にも何回か、こんな時あったな

時間が経つといつものレイに戻ってくれるけど、レイは何を何に追い詰められてるんだ

「でも私はレイに頼まれて探し当てたのよ

レイは、ちゃんとあんたから愛されたい

悪魔の契約なんてないあんたにね

まぁ…難しいでしょうけれど……」

そんな心配…無駄なのに、俺はレイが好きだって…わかってよ

俺は座るレイの前に立った

ずっと下を向くレイの顔を両手で包んで顔を上げさせて、その唇へと軽いキスをする

人前では絶対にしたくないけど、レイがずっと下向いて俺を見てくれないから

「このままじゃ、俺はずっとレイに気持ちを伝えられないよ

そんなの…嫌だな」

悲しくなってくる、寂しいって微笑む

もっと愛されたい、もっと愛したい

だから、大悪魔シンを倒そう

「セリ……オレは…………いや、わかった」

レイは不安や心配がなくなるワケじゃないけど、前を向いて俺を見てくれた

そうじゃなきゃ、レイはずっと俺を、俺だけを見てくれる

その瞳が好き、蒼い夜色の綺麗な瞳

「ちょっとー私の前でイチャつくのはやめてよねー、遠慮しなさいよバカップル」

「悪い…光の聖霊」

「まっいいけどねぇー、レイが幸せなら」

俺が謝ると仕方ないわねと光の聖霊はぷいっとそっぽ向くが、レイが立ち上がって光の聖霊の頭を撫でた

「よく見つけてくれたな、光の聖霊には昔から世話になってる

助かるよ、いつもありがとう」

「………ふぁああ…レイがはじめて私を褒めてくれた…」

光の聖霊はその場でとろけるように溶けて顔を真っ赤にして幸せな笑みを浮かべてる

もう暫くは周りの声が届かないと思う…

可愛い奴だな光の聖霊

「まずは破魔の矢を手に入れる、そして大悪魔シンを討つ」

「わかった!!俺も一緒に行くぞ」

レイがやる気を出してくれて嬉しい

破魔の矢を手に入れても俺や他の人じゃ扱えない

レイだからこそ破魔の矢を扱えて大悪魔シンを討つコトが出来るんだ

「それには、フェイの同行が必要だ」

「わかっ……いやなんで!?」

2人っきりで行くんじゃないのか!?

なんでよりによってフェイなんだよ…テンション下がるわ

「破魔の矢は伝説の1つ、そう簡単に手に入れられないだろう

オレとセリだけじゃ恐らく無理だ」

「いやわかるぜ?でも、なんでそこでフェイなんだって話」

「フェイは手段を選ばない男、和彦さんよりね」

いつの間にそんなコトがわかるくらい仲良く…?

確かに、和彦はなんでも出来るが故に手段を選び放題だ

レイが何を考えてるかわからないが、たぶん和彦のその選ぶ姿勢よりフェイの選ばない姿勢の方が良いと考えてる

「うーん…レイに何か考えがあるなら別にフェイでもいいけど…」

何日になるかわからない旅に四六時中フェイと一緒なんて嫌な予感しかしねぇんだけど…レイが一緒だから大丈夫だろうけどさ

「決まりだな、フェイに話を付けてくる

待っていてくれるかい」

そう言ってレイは部屋を出て行った

光の聖霊が声かけてもまったく動かなくなったのはこのまま放置でいいんだろうか…

とりあえず、破魔の矢を手に入れるって話か

魔物が殺されたコトも香月に確認したかったけど、今は会えないって言われてそれどころじゃない

セリカが香月に会いに行ってくれてるけど、向こうに着くのも数日はかかる

一応伝えてはいるが

俺は香月のコトも気になる…

好きな人達に愛されて両想いで悩むコトなんてないハズなのに、なんやかんや悩んだり不安になったり問題が起きたりするんだよな

この前までは和彦のコトが凄く大きかったし

最近だと、俺がフェイと浮気したみたいになって…

別に……フェイのコトなんて……好きじゃねぇし……

あ~!!もう考えんのやめ!!今は目の前のコトだけに集中しよう

まずは破魔の矢を手に入れてシンを倒して、レイにちゃんと俺の気持ちを伝えたい

ちゃんと返事がしたいんだよ

そんな考え事をしていると、部屋に鬼神が訪ねてきた

「セリ様、お客様がお見えになっておられます」

「えっ客?」

鬼神が言うには、ポップと楊蝉が連絡もなしにセリカに会いに来た

ちょうどセリカが不在のすれ違いを伝えると俺を呼べと言ってるんだと

ポップが前に女子会したいって言ってたからそれか?

俺は女子じゃないからセリカの代わりなんてできねぇぞ

「わかったありがとう、行くよ

あっでも光の聖霊をこのまま放置するワケには…」

ちらっと視線をやるとまだ光の聖霊は惚けている

「光の聖霊の事はお任せください、わしが部屋まで送りますので」

「助かるよ、それじゃあ光の聖霊のコトはお願い」

鬼神にありがとなって伝えて、俺は楊蝉とポップが待つ客室へと向かった


鬼神に言われた客室に入ると、楊蝉とポップの他に見知らぬ魔族の男が1人いた

「えっと…」

誰?って聞きたいところだが、客室に入った瞬間にピリつく空気を肌で感じて声を掛けにくい

楊蝉とポップは互いの顔を見ないようにそれぞれ反対を向き、表情も険しい

一体何が……

楊蝉とポップはセリカがいればまぁそれなりに喋ったりはするが、元から2人は何かと張り合うライバル関係みたいだ

彼氏の人数どっちが多いか、太ったんじゃない?髪痛んでるわよ?どっちが可愛いか美しいか

マウントの取り合い足の引っ張り合い罵り合い

と、まぁ2人のやり取りは誰も入れないバチバチ感が強い

キルラは2人を見たら女怖って逃げ出すくらいだ

そして、今その女怖って場所に俺は入ってしまって……ここで出て行ったら絶対怒るし何言われるか……

とりあえず、楊蝉とポップの間にいる男には触れずに2人の様子を確認するか

「みんな何か飲むか?紅茶も東洋茶もあるぞ」

女子2人の機嫌を恐る恐る気遣いながら聞くと、2人より先に男が注文する

足を組んでテーブルの上に置く態度のデカさにイラッとした

「僕はパインジュースで」

ねぇよ

行儀が悪いな、テーブルに足を置くなんて

「ジュースはオレンジかアップルしかないです

後、テーブルの上に足置くのやめてください

「はぁ?人間の分際で僕に意見するんだな?」

あーそのタイプ、まぁ魔族には珍しくはないか

魔族は弱く寿命も短い人間を見下す奴も少なくはない

そんなコトで俺は怒らないけど

「死にたくないなら生意気な態度謝ってもらいましょーかー?」

「ちょっとやめなよー、あんたの悪いとこだよ?

そうやって自分より弱い人間相手に横暴な態度

それにセリは」

「あんだよポップ、人間相手に甘いんじゃね?

魔族の僕が気分を害したって殺されて当然よ

ぼーっとしてないでさっさと謝って飲み物持って来いよグズ」

この態度には腹立つ

ポップの忠告を最後まで聞かずに魔族の男はゲラゲラ笑いながらテーブルに置いてある花瓶を取って投げつけてきた

花瓶に入ってた水が少し零れたが、俺はその花瓶をキャッチしてテーブルに置く

そして、俺は勇者の剣を引き抜いてテーブルの上にある男の足を切断して蹴飛ばす

「死にたくねぇなら謝ってもらおうか?ってオマエが言ってたよな?」

勇者の剣を喉元に突きつけ、力の差を見せ付ける

オマエは魔族の中でも超弱ぇのな、俺は本気を出してない

この程度で避けるコトも反撃するコトも出来なかったんだ

男はすぐに勝てないって身にしみてわかったのか大人しくなった

「もう言ったのにー、セリは勇者なんだからあんたが勝てる相手じゃないって

それに香月様に知られたら殺されるのはあんたの方だよー?」

ポップの言葉に男は態度を180度変えて腰を低くする

「そ、そうなんですかー?それならそうと早く言ってくださいよーごめんごめんー!」

謝り方も軽くてムカつくな

強い相手にはペコペコ、弱い相手には…ってタイプか

よくわかった

「僕は魔族のダメヤ、セリ様の事は噂程度にしか聞いた事なくてぇ

僕の事を香月様に良く言ってくれません?」

めっちゃごますってくんぞコイツ!?

「良く言うって、何を言ったらいいんだよ

なんか成果があるのか?」

「えー!?えー!?あるわけないっすよー!

僕は働きたくないんで!!」

爆笑しながら声を大きくして言うが、コイツ何を求めてんだ…

香月に良く言えって言っておきながら良く言える部分ないとか

「なぁ…コイツ何?ウザイんだけど」

俺は呆れながら左右に座る2人に聞く

「私の彼氏ですわ」「ポップの彼氏~」

楊蝉もポップも同時に発言する

えっ…こんな奴が彼氏でいいのか2人とも…

弱い奴に横暴で強い奴に媚びる、働かない

「ちょっとポップさん!私の彼氏ですわよ!」

「はぁ!?ポップの彼氏だって言ってんでしょー!?」

お互い反対側を向いていたハズなのに、お互いの彼氏と言ったら顔を合わせバチバチにいがみ合いはじめた

「二股??」

俺は人のコト言えねぇけど…この2人にそんなコトしたらこうなるのわかるだろ

二股するなら、どっちの恋人からも良いって言われない限りするな

いや待て、ポップも楊蝉も彼氏百人いるって話だったが自分は良いのか…

俺と同じで恋人がその関係じゃないと許さないってタイプばっかなのか?

「ではありませんわ、私達の他にも女がいますの

私以外の女がいるなんて許せませんわ」

「ポップだって認めなーい

ダメヤは女の子を妊娠させて捨てたって話もあるよねー

しかも一度や二度じゃない、中には10代の子供もいたって」

「ゴミやん!!?!?!???クズすぎねぇ!?!?」

「ラスティンの取り巻きの女の子に手を出して揉めた事もありましたわよね」

「それポップも聞いたよ!ラスティンの取り巻きの女の子達って大人しくて断れない子が多いからちょろいって言ってたよねー」

はわわわわわわわ、俺の知らない世界が地獄すぎる

キルラは人間の女が好きだから被害はないらしい、ダメヤは人間見下してるから見向きもしない

「人から金借りても返さない、働かずに朝から晩までギャンブル、負けたらポップの財布から抜き取る」

「私の部屋に他の女を連れ込む、私のプレゼントは全て質屋か他の女への使い回し、クローゼットに女を隠し私の目を盗んで乳を揉みしだく事も」

「気持ち悪…」

思わず言葉がこぼれ出る気持ち悪さ

ウソだろ…

出るわ出るわのポップと楊蝉からのダメヤのクズエピソード

そんなクズの極みみたいな奴実在すんの??ってくらいなんだが

ダメヤは全て事実と誇らしげにしている

「いやオマエ…ホンマに引くほどクズやぞ」

「それでも僕はこんなにモテてる」

言われてみれば、ポップと楊蝉は愚痴程度でダメヤを責めた言い方はしない

それどころか相手の女が悪いとまでなっている

「いや!?2人とも落ち着け!!こんなクズで良いのか!?

取り合うほど良い男じゃねぇだろ?」

俺は楊蝉とポップに目を覚ませと言ったが聞いてもらえない

「顔が良いから許してしまうのですわ」

「イケメンにはポップも弱いの~」

2人の言葉に俺はダメヤをもう一度見る

……イケメン…?…か、なぁ……??

「レイの方がイケメンだもん」

「レイさんは最高峰のイケメンじゃありませんか、比べられませんわ」

「最高峰のイケメンはセリにしか興味ないじゃん

セリの周りには最強レベルの男しかいないからねー」

目が肥えてる、口出すな、ってなんか怒られた…

魔族は美形族とも言われてて、美男美女しかいない

その中の1番の美形が魔王である香月

最高峰のイケメンのレイ

伝説レベルの綺麗な容姿を持つ存在自体も伝説のイングヴェィ

和彦もフェイも見た目はめちゃくちゃ良い

確かに…みんなレベル高いんだよな

そんな最強レベルの人達から、可愛いとか綺麗とか言ってもらえるのって凄い贅沢で嬉しいコトなんじゃ…

まぁ俺なんてたまたまアイツらの好みにピッタリだったってだけで、世間一般的に見てそんな言うほど…って自分では思うけど

俺は自分大好きだからセリカは綺麗で可愛いって思ってるけど

「って!!違うじゃん!!

イケメンだから、顔が良いから、って中身クズだったらないだろ!?

めっちゃ好みの香月の見た目で中身コレだったら俺は無理だし好きにならねぇぞ!!?

2人とももっと自分を大事にしろ!!」

「ダメな男に惹かれる事もあるんですのよ」

「そうそう、百人も彼氏がいたらダメな男も好きになっちゃうもんなのー」

ダメだ……俺がいくら言っても好きは他人が変えれるもんじゃない

「ポップ達はね~、ダメヤのダメ出しをしてもらう為に来たんじゃないんだよ?

ダメヤがダメ野郎ってのはわかってるの~」

わかっててまだ好きってのが理解できねぇ…

ダメな男が好きな女がいるってのは聞いたコトあるが、まさか知り合いにいるとはな

ポップと楊蝉には別れてほしいし、幸せになってほしいんだけど

「セリカ様に、私とポップさんのどちらが悪いかを聞きたかったのですわ

悪い方がダメヤと別れるって事ですの

セリカ様がいないのなら、セリ様にジャッジをお願い致しますわ」

巻き込まれてる!!!!???

悪いって…ダメヤは選択肢に入ってないのか…

って言うか、セリカにこの話するつもりだったの正気か?

ダメヤ殺されるぞ…

俺はダメヤみたいな奴とは根本の価値観から合わねぇな

ダメヤのように弱いものは叩いて強いものには媚びるっての、俺は好きじゃない

弱いものは守ってやらないといけないし助けてやりたいって思うもん

まぁ俺が弱い立場だから無理なコトの方が多いけどさ

本当にポップと楊蝉は…聞いてみるか

「ポップと楊蝉に聞いていいか?

今、幸せか?」

「幸せじゃないかなー、ダメヤって機嫌悪い時はポップの事殴るし」

「女殴る奴は最低やぞ!?!?」

「モラハラも酷いですわ、何度泣いた事かしらね」

「女泣かす奴は終わってる!!」

この部屋に入ってからすぐに気付いた

ポップと楊蝉の顔に痛々しい痣があって、涙のあとが残っているのを

2人が喧嘩してそうなったと思ってたけど、2人が殴り合いの喧嘩をして泣いた所なんて今まで見たコトなかった

女の子が顔に傷なんて…付けちゃダメだろ

楊蝉は美人でポップは可愛いんだから、それを台無しにするような男は

オマエ達に相応しくねぇよ

俺は2人の怪我を回復魔法で治す

「そんなの全然幸せじゃない…

本当はわかってるんだろ、自分が1番

不幸になるために生きてるんじゃない

幸せになれないならそんな悪縁切っちまえ

恋人は幸せにしてくれる人を選べよ

そっちの方がずっと嬉しいじゃん

信頼できて笑顔にしてくれる人じゃないと」

だから俺も幸せにしたい

好きな人に幸せにしてもらってるから

俺はできてるかどうか不安だけど…

でも、俺を選んで一緒にいてくれるってコトは大丈夫なんだと思う

だってみんなハッキリ言えるタイプだし

………ハッキリ言い過ぎで、俺が大変になってるような気も……

って今は!つまり!!オマエ達を幸せにする気持ちがダメヤにあるのかって話だ!!

「セリは、香月様といる時は良い顔で笑うんだよねぇ

それが幸せなのかなって見てて思う時ある」

「セリ様が和彦様といる時はいつも安心なさって、信頼されているのだと見ててわかりますわ」

おっと?なんで俺の話に…聞いてて恥ずかしいから…

「なのにポップは辛い事ばっか…」

「私も、最近溜め息ばかりですわ…」

聞いてるこっちも辛くなってきた…

「いつかはダメヤも変わってくれるって思って」

泥沼じゃん……

「セリ様ぁ、余計な事をこの女達に吹き込まないでくれる~?

この2人は良い金ずるなわけ、別れたら僕が良い思い出来なくなるんで」

ダメヤは両手を伸ばし2人の肩を掴み自分へと引き寄せる

「女を知らないセリ様がとやかく言う権利なし、この女達は僕に惚れてる

惚れた方の負けだから僕が女達にどんな扱いをしても自由!!」

………はっ???知らねぇけど?それでマウント取ったつもりかよ

どんな扱いも自由なワケねぇだろ…ポップと楊蝉を物みたいに扱いやがって

2人の気持ちを考えたコトもねぇんだろうな…他の女の子達の気持ちも……

久しぶりに超腹が立ったぞ

「ほざけ!!テメェはただのクズなだけだろうが!!

恋人関係になったからって相手に何してもいいってコトにはならねぇんだよ」

「セリ様とは考えからして合わないな」

「オマエの考えなんて理解したくもねぇな

おいポップ楊蝉!オマエらも目覚ませよ!!

金ズルって言われてそれで良いのか!?

この先この男と一緒にいてももっと傷付くだけだぞ」

ポップと楊蝉は俺の目を見ようとしなかった

何も言えないのも、本当は心の奥底ではわかってるってコトなのに

コイツへの好きを断ち切らねぇと…2人は前に進めない

「百人も彼氏がいるなら、その中からオマエ達を大切にしてくれる男がいるだろ」

「じゃあ聞くけどぉ、セリは4人恋人いてさ~

4人もいるんだから誰かと別れろって言われて別れられるー?」

ポップに聞かれて俺は言葉が詰まった

いや待てや、4人って誰よ

なんでみんな最新情報共有されてんの

ってか俺の恋人は2人だけだから!!

「一瞬止まったけど、よく考えたら俺の好きな奴にクズなんていねぇから別れる必要なんてねぇもん」

やべぇのしかいないだけで…

「関係ないですわ、好きだから別れられないのですわ」

「そーゆー事~」

えっ…いいの!?ソイツで良いの!?もっと良い男いっぱいいるだろ!?

不幸しか約束されねぇぞ!?

「つまりオマエ達はコイツと結婚す」

まだ話してる途中なのに、ダメヤが爆笑して無責任であると自己紹介をはじめた

「僕がこの女達と結婚?無理無理するわけない、何かあっても責任取らないから

メリットがなくなったら別れるだけ

金がなくなったら、魅力がなくなったら、バイバーイ」

スゲーなコイツ、自分のクズさを包み隠さず正直に言えるの

しかもそれ聞いてもポップも楊蝉も何も言わない

これがダメ男にハマる女って言うやつなのか…?まったくわかんねぇ…

女心がわからないってよくセリカに言われるが、わかるかこんなん!!

ってかセリカもわからんだろ!?

身も心もボロボロになっていく…

目に見えてきてるような気がする

楊蝉はもっと美人だったし、ポップももっと可愛かった

恋をするともっと綺麗になる可愛くなるって本当なのに、逆だよ…気付けよ2人とも

「オマエ…頼むから…2人と別れてやってくれないか…

ポップも楊蝉もオマエと付き合ってたら……お世辞にも良い女なんて言えないくらいになってる

もう俺はそんなの見てて辛いんだよ」

女の子はいつも可愛くいてほしい

見たいよ楊蝉とポップの笑った顔が、2人の笑顔が奪われてるのに

俺は黙ってなんかいられない

だってどっちも大切な仲間で友達だから、仲間が苦しんでるなら助けてやりたい

「あのさぁ勘違いしてない?セリ様

あんた関係ないんだから口挟まないでもらえますかねー?」

「関係なくねぇよ、ポップも楊蝉も俺の友達なんだ

友達の目を覚まさせてやるのも友達の役目だ」

「この場で反対してるのはあんただけ

勇者様だか香月様の恋人だか知らないけどね~

あんたは所詮人間なんでしょ

人間の分際で僕に物言うなって殺すよ?」

ダメヤは殺気立てて俺を見下した

「それなら話は早ぇ、その傲慢へし折って2人の目を覚まさせてやるよ」

お節介とか余計なお世話かもしれない

楊蝉もポップも俺みたいな勝手に怒って反対する友達ウザイしいらないのかもしれない

でも…だけど……

友達が幸せになれないってわかってるのに、見過ごせるほど…俺はクールじゃない

頭に血が上っていた俺は簡単なコトが抜けていた

ダメヤは俺を勇者と知って勝てないコトくらいわかってる

なのにそれでも喧嘩をふっかけてきた

俺は最初から勝てないって知っていたから

勇者の剣に手をかけると、それに反応してポップと楊蝉が俺の腕を掴んで拘束する

魔族のポップは勇者の力でなんとか振り解くコトが出来たが、天狐の楊蝉の力には敵わず振り解けない

そのまま後ろに回られて楊蝉に羽交い締めにされた

「楊蝉!?ポップも…なんで…コイツを庇うんだよ……」

悲しくなった…みんなに俺が間違ってるって言われてるようで

きっとそうだ…ここにいる誰もが俺が間違ってるって

でも、俺は俺が間違ってるとは思わない

身動きが出来なくなって何も出来ない…クソ、俺は足を強く床に叩きつけるしかできなかった

「よくやったね楊蝉、処刑タイムといこーかセリ様?」

ダメヤは刃渡りの長いナイフを取り出すと、俺の肩に深く突き刺した

回復魔法で痛くはないがこのままだとマズいのはわかる

「うっ……」

俺の背後から苦痛の声が漏れ聞こえる

ダメヤは俺の肩を突き刺しただけじゃなく、その後ろにいる楊蝉の身体まで傷付けていた

「おいダメヤ…楊蝉にまで突き刺さってるんだから気を付けろよ」

俺は目に見える範囲でしか回復魔法が使えない

だから背後にピッタリくっついてる楊蝉に回復魔法は使えないんだ

そう言ってるのに、ダメヤは遠慮するコトなく足と腹を続けて後ろにいる楊蝉と一緒にナイフを突き刺してくる

「聞いてんのかバカ!!」

「聞いてる聞いてる、楊蝉さ~僕の為なら何でもするって言ったの覚えてる?」

嫌な笑いが響く

面白がってる…コイツにとって女は代えがいくらでもいる物にしか思っていないんだ…

「もちろんですわ…セリ様、私は好きな人を守って死ねるなら本望ですわ」

「守って…?こんなの違うよ楊蝉」

声だけでわかる、凄く痛いのが…身体だけじゃない心から聞こえる

なのに…俺の声は少しも届かないんだな…

「ね…ねぇ…ダメヤ、そろそろ気が済んだでしょ~?

本当にセリを殺したりしないよねぇ…?」

ポップはダメヤの機嫌を伺うように恐る恐る聞くが、それがダメヤの機嫌を損ねたのかポップに手を挙げて力いっぱい殴った

「きゃあ!!」

「ポップ!?大丈夫か!?」

殴られた勢いでポップは倒れてテーブルの角に頭をぶつけた所まで見えたが、ダメヤがポップを背に隠し俺から見えないようにした

これじゃ回復魔法で治してやれない

「テメェ…ポップのコト殴りやがったな

自分より弱い女に手を挙げるなんてどこまでも腐ってんぞ」

「女は殴れば言う事聞くって、女を知らないセリ様は覚えておいたらいいね」

クズが

ポップの泣く声も楊蝉の泣く声も聞こえるのに、なんで…2人ともここから抜け出せないんだよ

「僕の女への扱いに文句言うあんたみたいなタイプ嫌いだなぁ、殺したいくらいムカつくんで」

ダメヤは俺の首に刃を突き立てる

でも、それは出来なかった

ドアが開いて、和彦が鬼神2人を連れて来てくれたから

「オレのセリくんを殺そうなんて、死にたくなるくらい痛い目見せてやる」

ダメヤを掴んで俺から引き離してくれる

圧倒的な力の差を感じたダメヤは腰を抜かし声も出ず震えてしまった

和彦!待ってたぜ、気付いてくれてよかった

あのままじゃ逃げられない俺は殺されてたかもしれない

足で強く床を蹴って音を鳴らす、助けてって合図だ

近くにいて聞こえたらこうして助けに来てくれる

まぁ普通の人は聞こえないから、生死の神になった和彦と耳の良いエルフのレイくらいしか通じないけど十分(他は香月とイングヴェィくらいか)

「魔族の女子よ、大丈夫か?怪我をされておるな」

「天狐の姉さんも酷い怪我じゃねぇか」

鬼神はポップと楊蝉に駆け寄ってくれた

解放されたコトで俺はポップと楊蝉の怪我を治す

「やっべーまっじー生死の神と鬼神のセット勝てる気がしない、とどめは勇者っておわた」

ダメヤは状況を素早く理解して、コロッと態度を変えて強い者へ媚びはじめた

「ちょっとしたおふざけでして、冗談ですよ~!

セリ様とは意見の食い違いからちょっとした口論になりましたが、意見の食い違いなんて誰にでもある事じゃないっすかー!

ポップも殴って悪かったな、ポップの事愛してるから僕を許して?

楊蝉も痛かったか?好きだから許してくれるな?」

必死に言い訳をしたかったんだろうが、ダメヤのその言葉が鬼神の怒りを買ってしまう

「あっ?オメェ自分より弱い女殴ったんか?」

硬派で古風な鬼神は自分より弱い女性に手を挙げる行為を許しはしなかった

うーん…ポップはもしかしたらダメヤより強いかもしれないが…

でも、惚れて殴り返してこない相手ってわかってるから弱いよな

「男ならその力で好きな女守れや!!弱いもん殴る力じゃねぇぞ!!!」

あ~あ~…鬼神が容赦なくダメヤをボコボコにし始めた

暫くして鬼神は姿形の変わったダメヤに蹴りを入れて戻ってくる

「セリくんが許すならさらにオレもやるけど?」

あのダメヤを見ても和彦はまだやる気!?

俺が止めそうってわかってて確認してくる

「もうやめてやれ…それにこんな男でも楊蝉もポップも庇うから、これ以上は2人が」

って楊蝉の方に視線を向けると、鬼神が声をかけていた

「天狐の姉さん、あんな男はあんさんに相応しくない

もっとええ男いっぱいいるやん!

今は辛いかもしれんけど、べっぴんさんの姉さんなら良い男いっぱい寄ってくるって」

優しい~!!良い男はアンタだよ関西弁の鬼神、親近感わくし

楊蝉の暗かった表情が、ずっと俯いていた顔が、鬼神の顔を見上げるとだんだんと明るく変わっていく

「そんな…べっぴんさんだなんて……

もうこんなクズ男の事なんて忘れましたわ

新しい恋が上書きしてくれましたもの」

ほほほほと楊蝉は頬を染めて笑っては、鬼神の腕を掴む

「えっ…?」

女慣れしていない鬼神はいきなり楊蝉に腕を掴まれ固まってしまった

………ん?何?なになに!?いきなりなんか状況が一変してる!?

「そんなに私を気に入ってくださったのなら、考えて差し上げてもよろしくてよ?

鬼神さんよく見ると私の好みですし、男らしくて素敵ですものね」

おやおやおや!!???!?!

「天狐の姉さん…言ってる意味がわからんで???」

女慣れしていない鬼神相手に遠回しな言い方は気付けないぞ楊蝉!?

数分前がなかったかのように楊蝉の表情はとても可愛くなっていた

いつもの美人な楊蝉の魅力が輝いて見える

新しい恋が楊蝉を取り戻してくれたってコトで…いいのか、これ??

えっ…そんなすぐに忘れられるんかダメヤのコト??

「女の恋は上書きだからね~」

ポップはケラケラ笑っている

「オマエは大丈夫なのかよ、笑ってるけど」

「んー??」

ポップもさっきと一変して表情がいつもに戻ってる

いつもの可愛くて天真爛漫な振る舞いのポップだ

「不思議だよね~楊蝉がダメヤに興味なくなったらポップも興味まったくなくなっちゃった!!キャハハ!!」

ええええええーーーーーーー!!!????

なんだオマエら!?俺が必死に訴えかけても一切心動かなかったくせに!!???

イケメンの鬼神が登場しただけであっさり解決!?

女ってわかんねぇ!!??

「今となっては、なんでこんな男よかったんだろって笑い話だよ~」

「遠い昔話みたいに言ってるが、数分前だぞ」

「それにセリを殺そうとするなんて、香月様を殺すのと同じだから許せないよポップ!!」

ケラケラ笑ってたかと思うとプンプン怒り出した

でもまぁいつものポップに戻ってくれたからよかったのかな…

「鬼神には興味ないけど~このまま楊蝉が上手くいったら彼氏の人数で負けちゃうから邪魔しよ~っと」

応援してやれよ!?

ポップは俺が止めるのも聞かず、みんなが聞こえる声で話す

「ねぇねぇ鬼神、楊蝉がどんな女か教えてあげる~

元カレの他の女達の悪い噂を流したり、裏で嫌がらせとかして、凄かったんだよー

魔族のポップもドン引きの陰湿~

ホント、女狐だよね~」

鬼神、女性に夢見てたのか顔が引きつったまま固まる

「なんですって!?ポップさんだって人の事言えませんわよね?

元彼の他の女達を人前の目立つ場所で見せしめのように壮絶ないじめをなさっていたじゃありませんの」

さらに鬼神から表情が消える

楊蝉は陰湿タイプ、ポップはオープンなタイプで、どっちも地獄でしかない!??

「女怖…」

俺も夢見てた分、これが女かと思うと怖い部分もある

女心もわかんねぇし

とにかく見た目の可愛いだけの生き物じゃないってコトなのかもしれない

思わず呟いた言葉に隣にいた和彦が小さく笑う

「ふふ、セリくんには女は扱えないな」

「はっ?」

「知らなくていい、セリくんにはオレがいるから

不満か?」

いちいち言い方にムカつくが

「不満じゃない…」

って素直に答えとく、楊蝉見てたら好きって良いなって思ったから

楊蝉の笑顔があまりにも可愛くて、きっと俺も人から見たらそんな顔してるんだろうな

「2人とも落ち着きーや」

楊蝉とポップの蹴落とし合いに鬼神はまぁまぁと宥める

「他の女の子に意地悪するんも、男がそうさせたんが悪いやろ

男が他に女の子作らんと大切にしとったら、そんな事せーへんもんな?」

「えぇ、もちろんですわ

なんて誠実な殿方なんですの…周りにはいなかったタイプですわ

そんなにも私だけを一途に想っていてくださっているなんて」

楊蝉は完全に鬼神に惚れてしまったんだろうが、自分に都合の良い解釈して思い込みが激しすぎねぇか…しおらしい所は可愛いけど

もう1人の鬼神なんて何が起こってるか理解できてなくてポカーンとしてるぞ

「えーつまんないの楊蝉、張り合いがなーい」

ポップは楊蝉がやり合うのをやめたコトに不満を持ちながらも邪魔するのを諦めてくれたようだ

鬼神はまったく気付いていないが、楊蝉は誰が見ても鬼神のコト好きってオーラが出ちゃってる

これからどうなるか気になるところだな

鬼神なら俺も良いと思うよ、見た目もお似合いだし

「あんなにわかりやすいのに気付かない鬼神との恋愛は大変そうだな楊蝉」

「えっ?セリくんが言う?

人の事には鋭いのに自分の事にはわざとかってくらい鈍いセリくんが」

「悪口!?俺は鈍くねぇよ、ちゃんとわかってるもん全部」

何故か和彦はめちゃくちゃ優しい表情でめちゃくちゃ優しく俺の頭を撫でた

なんだコイツ煽ってんのか、なんかムカつく

「フェイの好きな人って誰か知ってる?」

「知って…いや、フェイは和彦に内緒にしてるって言ってたから言えない」

「フェイはオレに隠してるつもりだがあれもわかりやすい、フェイ自身もオレがわかってる事には気付いている

セリくんがわかってるコト当ててやろうか?

フェイの好きな人はセリカだって思ってる」

さすがと言うか、俺が気付いて和彦が気付かないワケがないよな

「うんそう…フェイが好きな人ってセリカなんだって

やっぱ和彦も気付いてんだな」

「……………。」

何その間!?

フェイが特別優しい女の子ってセリカだけだもん

「セリくん可愛い、襲ってしまいそう」

「急に発情!?アホか!みんないるのに変なコト言うな」

ふと、開いたままのドアから視線を感じて振り向く

そこには遠慮がちに覗き見る光の聖霊の姿があった

「光の聖霊?どうしたんだそんな所で」

「はぅ!?べ、別になんでもないわよ!!」

「なんでもないって顔じゃないが…」

光の聖霊は少し寂しそうな顔をしていた

さっきまでレイに頭撫でられてご機嫌だったのに、やっぱり女の子って複雑でわかんないな…

「別に…何も……

鬼神ってあんな砕けた喋り方するのねって思っただけ」

関西弁のコトか?鬼神にも個性があるから、今のところあの鬼神だけの口調かな

「私には敬語なのに……やっぱり私の事は聖霊の一種なのね

あの天狐のように色っぽい女じゃないし…」

ん?んんん???

もしかして光の聖霊…あの鬼神のコト気になって…?

レイのコトは吹っ切れて良い男探すって聞いてたけど、その見つけた良い男があの鬼神だったりするのか?

「光の聖霊には光の聖霊の良いところがあるじゃん、鬼神の好みがどうか知らないが

俺は光の聖霊可愛いと思うぞ」

「いつもレイに可愛いって言われてるあんたから言われると虫酸が走るわ」

めっちゃ恐い顔で毒を吐かれた

頑張れよとは言えなかった

楊蝉も鬼神のコト好きっぽいし、どっちかの応援は俺はできない

2人には幸せになってほしいし

見守るしかないよな…

「んじゃポップは帰るね~

セリを殺そうとするのは香月様に逆らうのと一緒!これはポップが責任持って処分しておくね~」

ポップは笑いながらボコボコにされてその辺に転がっていたダメヤを引きずって出て行った

アイツ死んだな…

「私は暫くここにいてもよろしくて?セリ様」

楊蝉は暫くは鬼神と一緒にいたいみたいだ

ここは死者の国だし鬼神は和彦の部下だから、和彦に良いか聞いてみた

「好きにするといい、セリくんの友人なら駄目な理由はない」

「ありがとうございます和彦様!!」

よかったな楊蝉

暫く滞在となる楊蝉に部屋を案内すると鬼神と一緒に部屋を出る時、楊蝉は光の聖霊に気付き声をかけた

「あら貴女もしかして光の聖霊さん?」

たぶん2人は初対面だよな

光の聖霊は急に声をかけられてビックリしている、気持ち的にも複雑な感じが表情から読み取れた

光の聖霊は特徴的で誰が見ても聖霊とわかる

人の形をした女の子だ

全身が淡く光っていて常に裸で多少地面から浮いてる

本人が言うには光が服らしいがどう見ても全裸

「セリカ様からお話を聞いておりますわ

女神結夢さんと一緒にネイルをしたいと、せっかくお会い出来たんですもの

明日お時間ありましたら女神結夢さんと一緒にいかが?

ネイル道具一式はセリカ様もお持ちですからセリ様に持って来てもらいましょう」

楊蝉は好意的で光の聖霊にニコニコと優しかった

その楊蝉の柔らかい物腰に光の聖霊は

「こんなに…こんなに優しくて美人な女の人に…私が勝てるわけないじゃなーーーい!!!」

と泣いて飛んで行ってしまった

楊蝉は優しいけど、恋愛絡んだら陰湿でえげつないって聞いてから怖いって思ってる

そっちに関しては優しくないかもしれないぞ!?

楊蝉は逃げられてしまったと何故かわからずショックを受けている

「私何かしてしまいましたでしょうか?」

なんもしてないけど、してるとも言えるような…

「光の聖霊は人見知りかもしれんな、わしが声かけた時もセリ様と話す時と違って固まっとったし」

それは光の聖霊がオマエのコトが好きだからだろ

「そうですのね、わかりました

少しずつ仲良くなりますわ

セリカ様のご友人ですもの、私もお近付きになりたいですわ」

はははうふふと鬼神と楊蝉が笑い合っている

うーん…見守るしかないな

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