170話『破魔の矢』セリ編
レイとフェイと俺の3人で光の聖霊が教えてくれた破魔の矢がある場所へとやってきた
光の聖霊から色々情報を聞き出したかったが、鬼神のコトがあって聞くに聞けない雰囲気でなんとか場所だけ教えてもらってそれ以外は何も知らないまま来た
つまり…破魔の矢を手に入れるのは簡単そうではないと今思っているのだ
むしろ絶対無理だなと思っている
光の聖霊が見つけた場所は、小さな村の中で村人達は破魔の矢を悪魔除けとして大事に祀ってあるんだ
「いくら勇者様の頼みでも、破魔の矢をお譲りする事は出来ません」
こっちが無理を言ったのに申し訳ありませんと頭まで下げられてしまった
代々受け継がれてきて一度も悪魔がこの村に近付いたコトはないと、もしこの破魔の矢がなくなったらどうなるか
小さな村は滅んでしまうかもしれない
それじゃあ仕方ねぇよな
「せっかくいらしてくださったので、今日はこの村に泊まって行ってください」
夕方だったコトもあって優しい心遣いに甘える
美味しいご飯も食べれたし、まぁちょっとした旅行になったな
風呂から上がってベッドに転がり込む
「あ~疲れた、ここに来るだけで疲れた」
ってあれ?もう寝る準備してるの俺だけ?
「セリ、疲れているなら先に寝ていてくれ」
ん?レイが一緒に寝ないなんて…
「フェイと夜遊びするのか!?最近オマエら仲良いもんな」
「そんなに羨ましいなら私が遊んであげますよ」
フェイがベッドに乗って俺の顎を掬う
パシッと手を払って無視すると、真面目に答えてくれる
「破魔の矢を盗みに行くんです」
フェイは当たり前のように笑って言った
レイは何も言わなかったけど、たぶん俺の知らない所で意見を合わせてる
フェイは手段を選ばないってこういうコトなのか?
そんなの
「ダメに決まってんだろ!?この村の破魔の矢は諦めて明日帰るんだよ
破魔の矢は数本存在するって話だ
わざわざこの村が大切にしてる破魔の矢じゃなくていい、そんな焦る話じゃねぇしな」
「はぁそうですか、そうなると今夜暇じゃありませんか?」
「寝ろよ」
フェイが大人しく言うコト聞くような男じゃないってのは知ってる
意味不明なコト言って、何が暇だ、夜は寝るしかないだろ
「セリ様が私の相手をするって事でいいんですね?」
そう言ってフェイは俺を押し倒して上から意地悪な笑みを覗かせる
「大人しく寝ろ!!」
レイに助けてって目を向けると、ちゃんと助けてくれて俺はそのままレイに抱き付く
「わかった、セリが言うなら諦めよう」
「レイ!!レイならわかってくれるって信じてた!!」
守ってくれるしわかってくれるし、いつものコトなのにそのいつもが嬉しくて俺は力いっぱいレイを抱き締める
「我が儘な人ですね、私に添い寝してほしいなんて…良いですよ」
「オマエとは会話が成り立たねぇわ!!床で寝ろ!!」
ソファすら許したくない
レイから引き離すようにフェイは俺を抱き締め寝かせると布団を被る
「近付くな…!!」
って抵抗するが、まったく抜け出せる気もせずそのまま力尽きてフェイに抱き締められたままになる
………別にフェイのコトは好きじゃないけど…優しいフェイなら…嫌がるコトはないし……
「ぃって!!?」
耳にフェイの唇が当たったかと思うとおもいっきりかじられて痛みで熱を持つ
やっぱコイツ嫌い!!
俺が痛がる姿も嫌いだって睨む視線も、フェイは嬉しそうに笑ってる
「フェイ、あまりやりすぎると嫌われるぞ」
またレイが助けてくれて間に入ってくれた
これでとりあえずは安心して寝れるか?
「私は嫌われたいんです」
「はいはい」
俺に嫌われたいってコトは、やっぱりフェイも俺のコト嫌いなんだな…
好きになってくれたら…優しくしてくれるのかな……って!!別に俺はフェイとどうこうなりてぇワケじゃねぇもん!!!
それにフェイはセリカのコトが好きなんだし…俺のコトなんてなんとも思ってないよな
俺1人で意識してアホらし
寝よ寝よ
レイの隣は落ち着くからすぐに眠くなって一度は寝てしまったが、暫くして物音がして目が覚める
と言っても眠すぎてすぐに頭は働かない
「あれ…レイ?こんな時間に出掛けるのか?」
まだ外は真っ暗の夜中だ
部屋から出ようとするレイを呼び止める
「起こしてしまったか、すまない
すぐに戻るから心配はいらないよ」
そう言ってレイは出て行ってしまった
こんな時間に…どうしたんだろう
眠いけど、レイが心配だからついて行こうとしたら手を掴まれ引き止められる
「行ってはいけません」
「フェイ…?」
なんでオマエ隣で寝てんの、床で寝ろって言ったよな?
「いつものレイじゃないから心配だ、追い掛けないと」
何か深く悩んでるような、追い詰められてるような…レイが何か問題を抱えてるってのはわかる
なんでもないって言うけど、どれだけ一緒にいるんだっての
レイのちょっとした変化くらい俺はわかるんだからな
「逆効果だと言っているのです
貴方が追い掛ければそれこそレイを追い詰める事になりますよ」
フェイの言葉に引っかかる部分があった
なんでフェイはそんなレイのコトがわかってるような言い方をするんだ…?
最近2人が仲良いのは知ってるが…レイは俺よりフェイを信頼して悩みを打ち明けてるってコト?
俺じゃ頼りないって?何も出来ないって?
なんだそれ……俺はレイの1番だって思ってたのに
「へぇ…随分と仲良しなんだな2人は」
「そうですね、セリ様より私の方がレイの秘密を知っています」
ムカッとした
フェイが意地悪なのは最初からってわかってるが、レイのコトでマウント取られるとムカムカする
「はっ?俺の方がレイのコトなんでも知ってるし!!レイはオマエより俺の方が好きだもん!!」
嫉妬が強く出てしまう
「レイはセリ様だけが好きなのは言われなくてもわかっていますよ」
嫉妬しなくても誰も取らないからとフェイは呆れている
誰もはあるぞ!?レイは超イケメンだからめっちゃモテるんだぞ!!?
俺に言わないし隠してるけど俺は気付いてるし知っているのだ
めっちゃ告白されたりとかアプローチされたりとか数え切れない女の子達がレイのコト好きなんだってコト
よくよく考えると超モテる超イケメンを好きになるって大変なんじゃ…
レイってメンヘラな部分さえなきゃ、イケメンで強くて守ってくれて優しくて爽やかで一途で大切にしてくれてまさに王道のイケメン
モテないワケがない、むしろメンヘラな部分も一部のフェチに突き刺さるだろうし
レイの理想の見た目の女の子が現れたら俺なんてどうでもよくなるかもだし…考えるとハラハラする
「良いですよね」
「良い?イケメンのレイが羨ましいのか?」
って言っても、フェイだって見た目はめっちゃ良いだろ
あの目の肥えた狂った王女に見初められたくらいなんだし
中身は最悪でも、見た目だけで言ったらレイと同じくらいモテるハズ
「そうではなくて、レイは私の友人なので
その友人の好きな人を寝取るのは最高に興奮すると言っているんですよ」
フェイは俺の顎を掴んで顔を近付き見る
コイツ…友達いなさそうじゃなくて、本当に友達いないんだろうな……
フェイの手を叩き払う
「殺されるぞ、触んな」
「レイは貴方には知られたくない事があるんです
追い掛けても何も出来ません
……暫く距離を置いた方がいいかもしれませんね」
俺に知られたくないコト…?
レイはなんでも俺にぶつけてきた
自分の異常な愛も執着も…
そして、俺はそんな強すぎる想いを受け入れてる
それ以上に俺に言えないコトって?
いまさらだろ、いまさら言えないコトなんてあるか?
距離を置くほど?
「知られたくないって…どんなコトだって受け入れるって言ったのに」
でも…レイが言いたくないコトなら聞けない…
それこそレイを追い詰めてしまうから
フェイの言う通り、俺達は近すぎるから距離を置くのは大事なのかも…
「……いや…わかった…
俺が原因なら、レイが自分で解決するまで待ってる
俺はいつも通りにしてればいいんだろ?」
「そうして頂けると助かります」
フェイは俺には意地悪で嫌いだけど、レイのコトは気にかけてそれなりに友達と思ってくれてるんだ
友達か…良いな…
俺も、本当ならレイが大親友でずっと友情が続くと思ってた
でもそんなのなくなって…なんか寂しいな、そして羨ましい
ベッドの中でぬくぬくしているとまた眠くなってくる
朝になったらきっとレイは隣にいてくれるって待ってる
いつの間にか眠ってしまって目が覚めると、ちょっと寝過ぎたコトに気付く
とくに何か用があるワケじゃないが帰りが遅くなるからもっと早く起きたかったかな
って言っても隣でレイも珍しく遅くまで寝ていた
昨日夜中に出掛けてたから仕方ないか
何もなく戻ってきてくれて嬉しい
「レイ、おはよう
そろそろ起きて……あれ?フェイは??」
レイの身体を揺すって起こすと、夜中まで隣にいたフェイがいないコトに気付く
「セリ…もうこんな時間か、フェイ?出掛けているのか?」
レイもフェイのコトは知らないみたいだ
子供じゃないんだし、そのうち帰って来るか
俺達は帰る準備をしながらフェイを待っていた
それからも昼食を済ませ部屋で待っているが、フェイは帰って来ない
置いて帰ろっか、勝手に帰ってくるだろ
「セリ」
ふいにレイに名前を呼ばれ身を寄せられて密着する
レイの肩に自分の肩が触れてドキッとしてしまう
ドキドキしながら顔を見ると全身が熱くなるようだった
やっぱり…俺…レイのコト好き……
一緒にいればいるほど気持ちが大きくなってるって最近凄くわかる
「レイ…」
レイの顔が近付いて目を閉じると、唇にレイの温かくて柔らかい唇が当たる
ヤバい…めっちゃドキドキする……
「オレは…セリの事が好きだ」
「う、うん……知ってる」
「ずっと考えていたんだが、もう大親友じゃ我慢できない
君の恋人になりたい」
恋人…レイが俺の恋人に……
変なコトじゃない、レイは俺の事情やらなんやら全て理解して受け入れてくれてるし
俺だってこんなに好きなんだから…同じ気持ちなら恋人になるのは自然の流れ
またレイにキスされて
「…返事を…聞かせてくれるかい?
セリの事を愛してるんだ」
唇が離れると囁くように言われてしまう
「俺も…レイのコト、愛してる」
直後に手の甲に痛みが走る
「痛っ!?何!?」
痛みが走った手の甲に視線をやると、刃物にパックリ切られたような傷があった
痛い…?傷も…治らない
急に?一体どういうコトなんだ…回復魔法も使えない
またセリカに何かあったって言うのか…?
その時、部屋のドアが勢いよく開く
「セリ様!?」
フェイが慌てた様子で部屋に入ってきて俺の腕を掴みレイから引き離した
「無事のようですね…何か変わった事はありませんか?」
ただならぬフェイの様子に俺はだんだんとおかしなコトに気付く
さっき…レイに告白された…?それに俺は応えてしまった…?
ありえないぞ!?
俺は確かにレイのコトを愛してるけど、それは口には出しちゃいけないコトだった
レイと恋人になるってコトは大悪魔シンとの契約が成立してしまって、レイの魂が奪われるってコト
好きならそんなコトは絶対にさせるワケにはいかない
雰囲気に流されたからって言い訳にはなんねぇ
さっきの俺は、レイも…何かおかしかった
でも……もう遅い
「いや…無事じゃない、レイに言っちゃった…」
「遅かったと言うのですか…」
フェイの言葉からして、フェイは何かおかしいコトにすでに気付いていたようだ
「大悪魔シンが来る…このままだとシンにレイの魂を取られる…」
「落ち着いてくださいセリ様、まだ言葉だけです
それに」
フェイは時間はないが、これがあればなんとかなるのではと1本の矢を見せてくれた
えっ…この矢って……
「破魔の矢です
これが本物かどうかはわかりません、倒せるかもわかりませんよ
しかし、もう時間がないのなら試す他は」
「ちょっと待て!?破魔の矢は諦めるって話しただろ!?」
「何を甘い事を言ってるんですか
セリ様がそんな情けない事を言ってるから私が1人で奪いに、いえ貰いに言ったのです」
奪いに行ったのか!?言い直しても奪ったコトには変わりねぇぞ!?
情けないってなんだよ!?優しいって言えよこの鬼畜野郎!!!
「この村はおかしいです
朝方まだ外は暗い時間に私は破魔の矢を奪いに外に出ました」
やっぱ奪いに行ってんじゃん
「その時、私の前に迷子の子供が現れたんです
親を探しましたが見つからずしつこかったために殺しました」
「はぁあああ!!!!!????
悪魔かオマエ!!??ドン引きだぞ!!????」
「そうです、殺した子供は低級悪魔が化けていたんです
さすがの私も子供が嫌いだからと言って殺しはしませんよ
殺したのは不自然さを感じ、おかしいと確信して」
本当に嫌いだからって理由だけで子供殺すような奴だったらどうしようもなかった
フェイがそこまで悪い奴じゃなくてよかった
でも、低級悪魔?おかしくないか?破魔の矢があるから悪魔は近付けないって話だったろ?
もしかして、それは最初から騙されて勘違いしていた?
本当は破魔の矢が人間の村を守っていたんじゃなくて、悪魔が自分の弱点を奪われないように守っている側…?
それじゃあフェイの盗んできた破魔の矢が本物かどうかわからない
光の聖霊がデタラメな情報を持ってくるとは思えない、本物があるのは確かなんだろうが…
「時間はありません、強い悪魔の気配を感じます」
今は…この矢に賭けるしかない
のこのこ悪魔の巣窟にやってきて、悪魔側からしたらラッキーと言わんばかりに俺達はハメられたんだ
惑わされて無理矢理レイの願いを叶えようとしてきた
「レイ、この矢で大悪魔シンを討つのです」
フェイはレイに破魔の矢を手渡した
見守るしかないけど…レイの様子を見ると迷っているように感じた
さっきから話にも入って来ないし、まだ悪魔の影響を受けておかしいままなのか…
「しっかりしろよレイ!!」
「セリ…」
フェイから渡された矢を持つ手に力が入っていないコトは見ててわかった
このままじゃレイが死ぬかもしれない、それはレイ自身がわかってるのに
このまま…死ぬつもりかよ…そんなの許さない
俺を置いて死ぬなんて…俺を悲しませるなんて……
俺の大好きなレイはそんなコト絶対にしない
「大悪魔シンを倒して契約が解けて、もし俺がレイのコト拒絶したって
オマエならしつこいくらい手に入れるまで追い掛けてくるだろ!?
それすらも諦めるってのか!?
オマエの愛ってそんなもんか!!
そんな程度の愛で俺を手に入れるなんて思うなよ!!
いつか俺が押し負けるまで来いよ!!
死んじゃったら終わりなんだよ……
終わりにしたいくらいの恋だったのか……そんなの寂しいよ、悲しいよ」
矛盾してる…
レイが辛いなら俺との関係はなくなった方が良いんじゃって思ったりするのに
でも、なくなるコトが死ぬなら反対だ
俺はレイのコト好きだもん、もっと愛されたいって
自分ばっかりワガママ
本当にそう思ってるかどうかもわからないのに
でもでも…死んでほしくないんだよ
「セリ……君は、オレの恐ろしさを知らないから言えるんだ
本気を出していいのかい?後悔はしないか?」
えっ…そこまで言われたら…迷うじゃん
「シンを倒してもしセリがオレを拒絶したら、絶対に諦めないぞ?
オレのしつこさと手段を選ばない性格はよく知っているな」
ど、どうしよう…だんだん自信なくなってきちゃった……
最初嫌いだった和彦が恋人で、最初嫌いだったフェイが今はそんなに…いや嫌いだけど
でも…たぶん……ちょっとは…ほんのちょっぴりだけ、意識してる……かも
だから、レイのコト嫌いになってもいつか好きになる
悪魔の契約なんかなくても、いつか辿り着く先はそうだって知ってる
それに、レイはいつも俺を助けてくれて守ってくれるだろ
忘れないよ、レイの良いところ…俺のコト想ってくれてレイなりに大切にしてくれるから
「諦めないで、いつか本当に好きにさせてくれるって楽しみにしてる」
俺の言葉にレイはいつものレイを取り戻してくれたみたいだ
最近レイはネガティブな感じだった
レイらしくなくて心配してたけど、いつものレイが好き
「私が心配しなくても2人は上手くやっていけそうですね」
「ふふ、違うぞフェイ
タイミングもあるんだよ、きっと昨日の夜はフェイの言う通り追い掛けちゃいけないが正解だった
そして、今はフェイじゃなく俺の言葉がなきゃダメだった
フェイは良くレイのコトわかってる
妬けるくらいフェイとレイは友達なんだな、羨ましいよ」
「セリ様…レイと大親友に戻りたいのですか」
フェイの言葉は凄く重かった
俺はそれを望んでいたコトだったから
でも、もう戻れない
好きになったらもう友達には戻れないんだよ、俺はね
よく別れて友達に戻るってあるけど、俺はそんなの無理だ
そんなに器用じゃない
一線を越えて友達に戻るは俺には出来ない
「ううん、戻らない
レイが友達に戻りたいって言っても、俺には無理だよ」
「そうですか…私も戻りたくないので、それには同感です」
「オマエに関しては無だから、無より下なんてないから戻るとかないから」
「それは上がるはあるって事ですか?」
「ポジティブ!?ねぇよ!!フェイだけ平行線だから!!ずっと無の嫌い!!」
「私が嫌がられる方が好きってのをよくわかってくださっているのですね
そうやって冷たく突き放すのも裏を返せば私が好きだからとも」
ボキッと何かが真っ二つに折れる音が響いた
音のする方を見ると、レイが睨んでいる
「…オレの前でイチャつくなんて」
イチャつく!?どの辺が!?全然仲良くないけど!!!??
あのフェイに惚れてた王女もイチャつくなとか言ってたけど、まったくイチャついてねぇだろ!?
「フェイ、オレからセリを寝取れるものなら寝取ってみろ
そう簡単にお前に渡しはしないぞ」
「さすが私の唯一の友人、張り合いがあります
やはりレイはそうでなくては」
唯一!?やっぱりフェイって友達いなかったんだ……
フェイはレイの反応にご満悦だ
まぁ和彦は寝取られフェチだから、寝取るなら寝取れってタイプだし、フェイはどうぞって差し出されるよりレイみたいな渡してたまるかってタイプの方が燃えるみたいだ
どっちでもいいわ、俺は寝取られたくねぇんだけど
とにかく、俺のために争わないでって一度は言ってみたい台詞の1つ
ん?ちょっと待て!?さっきのボキッて音!!!!??
「レイ!?破魔の矢折ってるじゃん!!!???」
何やってんだーーー!?って慌てるところなのにレイは動揺すらしない
「問題ない、セリがフェイとイチャついてる事の方が動揺したぞ」
「だからイチャついてねぇっつてんだろうが!!!」
問題ないと言ってレイは折れた破魔の矢を氷魔法を使って修復する
矢として使えるようにしたレイは窓を開けて外へと飛び出した
窓から顔を出してレイの姿を確認する
その先には大悪魔シンの姿があった
ついに……現れたか
フェイと俺は見守るコトしか出来なかった
後は破魔の矢が本物であれば……
「ククク、魂を回収しに来た
すっかり汚れきっているな…契約と関係まで持つとは哀れな男」
「その時のオレはどうかしていた…
自分を見失っていたよ…追い詰められて不安になって焦って、勝手に絶望して
今思えば悪魔の手口だな
あんたを倒して、その事もセリに伝えて…例え拒絶されても
いつかは心から受け入れて愛してもらう
もうあんたの卑怯な力は必要ない」
レイが弓を引く、さっきまでの迷いは欠片もない
矢を放てば必ず当たる
レイの矢を避けられる奴なんていないくらい
もうレイが負けるコトなんて絶対にない
「その矢が本物なら勝っていたな」
レイの矢が大悪魔シンを貫く
だけど、シンの言う通り本物じゃないただの矢はシンをすり抜け、シンの手がレイの身体を貫いた
「レイ!?」
「あの矢はやはり偽物…まずいですね」
俺はレイの傍に駆け寄ろうとしたが、フェイに止められる
シンの手がレイの魂らしきものを引き抜く
そんな……レイが……死…
「くっ……」
死んだと思った
けど、レイはまだ立っていた
「……半分しか取れぬか…
最後まで叶えていないと、何故…邪魔が入ったか?」
シンが俺の方へと悪魔の視線を向ける
目が合う前にフェイが俺を引っ張って窓から離れた
「失敗しました、逃げますよ」
そのままフェイは反対側から逃げるように俺の手を強く引く
「ダメだ!!レイを置いてはいけねぇよ!?」
フェイの手を振り払おうとするが、フェイは言うコト聞かない俺を抱えて部屋を出る
「あの様子なら心配いりません
最後までされていないのが救いでした」
何を言っても抵抗してもフェイは振り返るコトなく、俺を悪魔の村から連れて逃げた
その時は、レイが心配で冷静な判断が出来なかった
ずっと心配だが、少し頭が冷えると確かにフェイの判断は正しかったんだ
あの村は悪魔の陣地…あのままいたらまたおかしくなって、それこそレイのトドメを刺すようなコトになっていたかもしれない
「でも、レイが殺されてたら…」
「落ち着いてください
それはありえません
悪魔は契約に忠実、自ら破る事はしません」
まだ俺は冷静じゃなかった
フェイはこんな時でも冷静で正しい判断をしてくれる……
「とにかく、セリ様は悪魔に付け入れられないように
早く死者の国に帰らねばなりません
あそこは神の聖域ですから、悪魔は入って来れません」
聖域でも悪魔の契約が無効になるわけではないので、レイの人が変わった様はその契約のせいでしょう
それでもレイの弱さからなったものですが
とフェイは言う
レイ…俺はずっとレイは強いって思ってた
でも、メンヘラの部分も悪魔と契約するくらい弱いところもある
俺がいないとダメで、俺がいないとレイはレイらしくいられない
いつも支えてくれるから…俺だってレイを支えたい
メンヘラにさせない、悪魔と契約なんて必要ないくらいちゃんと愛したい
早く…会いたい
でも、今は逃げないといけない
俺が悪魔に捕まるってコトはレイにトドメを刺すってコトだ
「死者の国はここからでは遠いので…さて、どうしましょうか」
「神の聖域…入ったら殺されるかもしれない場所なら知ってるけど、行くか?」
俺の言葉にフェイはすぐに察してくれる
普段なら悪魔を気にしないが、大悪魔シンはやっと魂を食べれるって思っていたら半分しか食べれなかった
すぐに半分を手に入れたいと思うだろう
狙われるのは俺だ
「女神結夢の国ですか、確かにここから近いですが
そこに留まって和彦様に迎えに来てもらうしかないですね」
生死の神になった和彦なら頼りにしかならん
結夢ちゃんの国、只今女神様が不在でタキヤが権力を持ってしまい地獄みたいになってるって噂
俺はその国じゃ女神を攫った大罪人で指名手配中だ
忘れてたけど、たまに追いかけられてる
見つかったら捕まって殺されるのだ
なんか狙われてばっかだな
「変装しましょうセリ様」
フェイの提案で、俺達は結夢ちゃんの国へと近付いた
聖域入ったギリギリの所でフェイに待っていろと言われる
「貴方の黒髪は珍しく目立つのでこれを被っていてください、すぐに戻ります」
そう言ってフェイはフードの付いたマントを貸してくれて、俺はそれを纏ってフードを深く被って待つコトにした
フェイが離れてから少しすると、お腹が鳴る
そう言えばずっと何も食べてなかった
レイ…大丈夫かな…
心配しながらお腹が鳴っていると、たまたま目の前を通りがかった人に声をかけられた
こんな所、人通るんだ……
「お腹空いてるの?ご馳走するよ、おいで」
「えっいいんですか!?じゃあ」
おいでおいでと手招きされて、フラ~っと聖域から出そうになった所でフェイに手を掴まれた
「待っていてくださいって言ったのを忘れたんですか!?」
「はっ!?」
フェイに止められると、おいでおいでしていた人が舌打ちして姿を消す
あ、悪魔だ!?悪魔が俺を誘い出していた!?!?
「本当に信じられません…馬鹿とは思っていましたが、そんな簡単に騙されるなんて」
「す…すみません……」
今回は何も言い返せねぇ……俺が悪い、俺がバカだった
「さっさと変装して、そのお腹黙らせに行きますよ」
フェイは変装一式買ってきてくれて、紙袋から色々取り出す
………俺に女装しろって…?
フェイが買って来てくれたのはそう言うコトだった
俺のコト、セリカにしたいだけじゃ?私情挟みやがって
さっきのコトがあって文句は言えなかった
「ウイッグ付けてください、その黒髪隠さないと」
「はい」
ラベンダーピンク色の少しウェーブがかった長い髪、素直に被る
「………似合ってますよ……可愛…過ぎます…」
急にフェイの顔が赤く染まる
可愛いのは当たり前だろ、俺はセリカなんだぞ
セリカが可愛すぎるのは当然
服もセリカが似合いそうな感じのものだった
フリルとレースは絶対外せないな
スカートは慣れないけど、真っ赤なワンピースが可愛くてフリルとレースが白なのがまた可愛い
可愛いしかなかった
「メイクはポイントだけ軽くしておきましょうか
セリ様は肌が綺麗なのでファンデいらないです」
そう言ってフェイはメイクまでささっとしてくれた
鏡を見ると上手い
「フェイってメイク上手いの意外だな」
「はじめてしました」
「はじめてでこれ!?!?」
「セリ様と違って器用なので何でも出来ます」
褒めようと思ったけど、ムカつく言い方されたからやめた
「最後に口紅、元々の薔薇色の唇も綺麗ですが今回はピンク色で…色が白いので似合いますね」
おぉ、鏡の中の俺はセリカになっていた
めっちゃ可愛い
今度ピンクの口紅プレゼントしよう
「どお?可愛い?」
あまりにセリカになった自分が可愛すぎて、調子に乗ってフェイに聞く
キモッて言われると思ったら
「とても可愛いです」
意外に素直に褒めてくれた
優しい顔で見られて…ドキッとする
でも、この姿ってセリカだから…フェイってセリカにはこんな優しい顔するし優しいもんな
俺に向けられたもんじゃない…
フェイと一緒に街の中へと入る
和彦に迎えに来るように知らせを出して待つコトに
あれからレイも…大丈夫かな…
心配しか出来ない……ずっと頭に過る
「心配するだけ無駄です、そのうち会えますよ」
フェイは俺の目に見える心配を気遣ってくれるけど、顔を見るまでは心配ってのはなくならないよな
「それより」
隣を歩くフェイが急に立ち止まって俺も釣られて立ち止まる
「女神結夢の国はこんなにも物騒なのですか?」
悪魔から狙われなくなって、変装もして俺だとバレなくても、どうやら安全ってワケじゃないようだ
目の前に数人が立ちはだかる
「金持ってそうなナリしたカップルだ、命が惜しかったら金目の物置いていけ」
だーーー!!!???いきなりカツアゲに遭ってピンチに!!?
「いや!カップルじゃねぇし!!」
うわー懐かし~、よくレイと一緒にいてカップルに間違われる度に言ってたよな
「セリ様…いいから下がっていてください」
フェイは呆れている
こんな強そうで怖い人達に囲まれたら震えるけど、フェイが一緒だから大丈夫って信頼してる怖くない
「これで勘弁してくれませんか?」
フェイは相手が満足するくらいの大金を渡して、怖い人達は満足気にフェイをブラザーと呼んでご機嫌に去って行った
「金で解決するんかい!!!」
「話が通じると思いますか?
セリ様は暴力でねじ伏せろとおっしゃるつもりで?」
「えっフェイならそうするかと思った、フェイだし」
こういう時、みんな対応の仕方が違ったりするんだよな
フェイが金で解決するなら、レイは追っ払ってくれるし
和彦は意外にも話し合いで解決するタイプ
香月はそもそも絡まれない、一部以外あの香月の恐怖の雰囲気に耐えられないから
「心外です、セリ様はもっと私の事を知るべきですよ」
「オマエのコトなんか興味ねぇよ
それにしても、さっき物騒な国なのか?って聞いたよな
結夢ちゃんの国にはずっと前に来たコトがあるんだが、その時と雰囲気が全然違うな」
この国に入った時から違和感があった
すぐにさっきのカツアゲに絡まれてしまったが、改めてこの国を見てみると
まず匂いが違う…
結夢ちゃんがいた頃はもっとこうお花の香りがするって言うか、自然の緑が豊かな澄んだ香りだった
国も民も豊かで明るく幸せが溢れていたハズ
タキヤと言った汚物は混ざってたが、それでも結夢ちゃんの国は素敵だったのに
今は、異臭が漂って花は踏み荒らされてしまっている
住人達の面構えも酷く変わってみすぼらしくもなっている
本当にここは結夢ちゃんの国なのかと疑うくらいだ
何より、女子供が見当たらない…?いや、数えるくらいはいるか
でもこんな少なかったか??
「でしょうね、女神結夢は心優しい女性です
神が治める国はその神の理想に近い形になりますから」
つまりセレンの国が腐女子で溢れてたのはそういうコトかよ
確かに、セレンはおっとりとのんびりした性格で人々もそんな感じだったな
和彦が生死の神になったってコトは、死者の国は和彦の理想の国になるってコトなのか…
大丈夫だろうか…まぁ和彦なら完璧だから上手くやってくれるか
「ここにいては目立ちます
余所者の私達は歓迎されないようですね」
フェイは俺の肩を掴んで裏路地へと移動する
どこか身を隠す場所を探さないといけないのか、この国のコトはそんなに詳しくないから困ったぞ
狭い通路でまたすぐに囲まれてしまった
フェイから大金を貰ったグループから聞いて来た新しいカツアゲグループだ
「見つけたお兄さん、僕達にもお金くださいよ~」
おいおいフェイがお金なんか渡しちまったから、こんなの何回も来るぞ
いくら金があっても足りねぇよ、どうすんだフェイ
「それと、お金と一緒にお兄さんの女も貰っていくって事でオッケー?命が惜しかったら…」
グループの1人が俺に手を伸ばす
だが、触れられる前にフェイがその汚い手を叩き払った
「あっ?何勝手に人のもんに手出してんだ?殺すぞ?」
フェイの豹変にビクッとする
えっ…怒ってるのかフェイ?
あの王女の時も…フェイがこんな風に怒っていた
「おーこわ、命が惜しくないってかお兄さん」
「指一本でも触れたら殺す、テメェらこそ命が惜しいなら消えろ」
フェイは強い、ただの人間が何人束になって掛かってきても歯が立たないくらい
でも嫌な予感がする……何か見落としてるような……
そうか!思い出したぞ!?
「フェイ!無理だ!コイツら結夢ちゃんの加護で攻撃が通らない!!」
正確には、結夢ちゃんの守護の力は自分の国の民が受ける全てのダメージを結夢ちゃんが代わりに受けると言うコト…その痛みも傷も全て
「……そういう大事な事は早く言ってください」
またバカって言われる!?
とにかく、この状況はどうしようもないってコトがわかった
フェイが殺されるくらいなら…
「囲まれて逃げられない…俺がコイツらと一緒に行くから、そしたらフェイは助かる」
それしか方法がないなら、後のコトは運が良ければ…助かるくらい……
「また……また、私にあの時と同じ思いをしろと言うのですか…」
俺の言葉にフェイは酷く怒ってしまった
「ナメられたものですね……許せません
私も貴方を守る事くらい出来ます」
フェイは目の前の数人を槍でなぎ倒し、一瞬の逃げ道を作る
俺の手を掴んで踏み越えて走り抜けようとしたが、倒れた1人に足を掴まれてしまう
すぐにフェイは足を掴む手首を貫いて助けてくれた
「何やってんだ!逃がすな追え!!」
後ろから聞こえる怒鳴り声に振り返らず逃げる
だけど、ドコに逃げたら……きっとフェイもわかってない
この場所のドコが安全かなんて
逃げ回っていると、傍の家から手が伸びて腕を掴まれてしまう
「えっ…?君は」
またかと思ったフェイが振り返るが、俺はそれを止める
「早く中に入って」
俺を掴んだのは10歳くらいの女の子だった
言われるまま俺達はその家の中に入れて貰い、追っ手から逃れるコトが出来た
……もう…大丈夫そうか?
通り過ぎていく声と足音が遠ざかって、助かったと胸をなで下ろす
「は~…どうなるかと思った
助かったよ君、ありがとう」
「どういたしまして」
女の子はニコニコと笑ってくれた
外の雰囲気とは違って、笑顔が失われてないな
「ほらフェイもお礼言えよ」
「………ありがとう…ございました…」
せっかく助けてもらったのにフェイは何故か凄く機嫌が悪い
俺の顔を見ないし、どうしたんだ?
「フェイ?何拗ねてんだよ」
「はぁ?何をおっしゃいますか
私は……守れると言っておきながら、人に助けられて…結局守れていなかった事に…」
何やらお得意のブツブツ独り言が始まった
ほっとこ
「お兄さんとお姉さんはこの国に観光に来たの?
最近は危ないから他の国から人は来ないのに」
女の子は首を傾げる
お姉さん……まぁセリカの姿じゃ仕方ないか
「観光……じゃないけど、ちょっとね
それにしても、前に来た時と随分雰囲気が変わったように思うんだが」
俺が聞くと女の子は悲しそうな表情に変わり話してくれた
「勇者って人に女神結夢様を連れ去られてからこの国は変わっちゃったの…」
うぐっ……痛いほど胸に突き刺さった
「大神官タキヤ様の独裁がはじまって、まるで悪魔かのような恐ろしい所業の数々」
タキヤは神の使者として誇りを持っている、いやいたが…結局悪魔と長く手を組むコトで徐々に侵されていったんだろう
元から歪んでいた所に漬け込まれてしまったのかもしれない
女の子が話してくれて、この国に何が起きたのか知るコトができた
結夢ちゃんを取り戻すために子供達を次々と生贄にしていたと言うのだ
それは悪魔に捧げたのか、でもタキヤの願いは叶わない
相手が女神だから悪魔は手を出せず、まだ足りないとかなんとか言ってそんな悪行をさせているのか
そして、子供達を奪われるコトに抵抗したお父さんお母さんは殺されてしまった
タキヤのやり方に反発した人だけじゃなく、ちょっとした不満を漏らしただけで殺される
誰がこんなコトを言っていたと人々がお互いを監視し合い、時には気に入らない相手を陥れたりと国全体がおかしくなっていったと話してくれる
タキヤは自分に対しては小さなコトも見逃さないが、町で犯罪が横行しても知らん振りでこうなってしまったと
「アタシはお母さんが上手に隠してくれて守ってくれたからこうして無事だったけど…」
女の子の一層辛そうな表情に、俺はお母さんは?って聞けなかった…
「お母さんは薬を作るのが得意で、それで怪我や病を治すのが得意だったわ
この国の人達は結夢様の加護で平気だけど、お母さんの薬は近隣の国の人達からとても頼りにされていたの」
リジェウェィと同じ職業の人か、凄い人だったんだな
「それがタキヤ様は気に入らなかったの
怪我を治せる力…勇者の回復魔法を思い出すからと言って……お母さんは…殺されて……」
涙が零れ落ちていく…この子は…1人でこの国に耐えて生きてきたって言うのか?
いつから……そして、いつまで…
「ごめん……」俺が結夢ちゃんを連れ出してしまったから…俺のせいだ
でも…結夢ちゃんのコト…ほっとけなかったんだ……
俺は屈んで女の子の頭を撫でた
すると、女の子はずっと張り詰めていた心が緩んで
「どうしてお姉さんが謝るの…」
そのまま我慢していた涙を零して抱き付いてきた
なんとかしなきゃ…俺が招いた結果なんだから
俺はその小さな女の子の背中を撫でた
「信じるおつもりで?その子供を」
フェイは話を聞いていても冷たい言葉を放つ
「私がタキヤなら、その子供にナイフを持たせて貴方を刺すように言います」
「フェイ…オマエ、泣いてる子供にそんな酷いコトよく言えるな」
「天才子役かもしれませんよ?」
「オマエ…!」
俺が怒ろうとしたら、女の子が離れて涙を拭いて笑顔を見せた
「アタシ、泣きません!決めていたの
この国の外から来た良い人に出会ったら」
女の子の瞳は強い意志と勇気に満ち溢れていた
まっすぐに前を、未来を見て突き進める
「良い人?私は悪い人ですよ
そしてそこのお姉さんはただ甘いだけで役に立ちません、馬鹿ですし弱いし」
めっちゃボロカス俺のコト悪く言うじゃん!!??
「本当に良い人は自分の事を良い人って言いません
それにアタシは人を見る目あると思ってます!!」
フェイに負けないくらいの強さで笑ってみせる
この世界の子供って、強くて大人だな
ローズと言いこの子と言い
「いや、このフェイってお兄さんは本当に悪い人だから近付かないように
俺はいつもいじめられてます」
「貴方がいじめてくださいって顔をしているんじゃありませんか」
「そんなブタみたいな顔してねぇよ!!!!」
「しています、見てるといじめたい気持ちになるのは貴方がそんな顔をしていたり雰囲気を出しているからでしょう」
「オマエの性根が腐ってるだけだろ!?」
ああ言えばこう言う、まったく生意気にもほどがあるぞ年下のくせに!!(年齢でしか勝てない)
「ふふふ、お兄さんとお姉さん仲良しなんですね
いつから付き合ってるの?」
「まだ付き合ってないよ!?」
この世界の子供はおませだ
ローズと同じコト聞いてくるし、恋バナに興味津々と言った表情が眩しい
「…………まだ……って……私と、そうなりたいと………可愛い人」
またなんか怪しい笑み浮かべてブツブツ言ってるし、怖いからほっとこ
「ところで君の名前は?
俺はセリ、この悪い人はフェイ」
「アタシはマールミ
フェイさんセリさん、アタシを一緒に連れて行ってください!」
マールミの勢いは断れるものじゃなかった
当然断るつもりはない、この国に置いていけないからな
俺がわかったと言うより先にフェイが釘を刺す
「ナイフを隠し持っていないと言えますか?
私は今日会ったばかりの子供を連れて行くのは反対ですよ、セリ様」
そういやフェイって子供嫌いだったような…
「フェイさんが疑うのも無理ないです
もしアタシがナイフを隠し持っているとわかったら殺してくれても構いません」
マールミは一歩も引かない
強いな…俺がマールミと同じ10歳の子供でフェイに会ったら怖くて泣くわ
大人になった今でも泣かされてるのに…違う意味で……
「よそ者の私達よりこの国で助けてもらえる人を見つけてはいかが?」
そのフェイの言葉に勢いのあったマールミが弱さを見せる
「……それは…この国の人は…私に酷い事をするんです
とくに男の人は怖い…」
「もういいだろフェイ!!マールミに裏なんかねぇよ…
それに俺はナイフで刺されたくらいで死なない、だから大丈夫だ
フェイが心配してくれるのはありがたいが、俺を信じて」
マールミの言葉は…言わなくても察した
酷い目に遭ったマールミを俺は見捨てられない
「心配……しますよ……貴方は弱いから…
わかりました
セリ様は頑固な所がありますし、これ以上私が言っても変わらないんでしょう」
フェイをなんとか説得して、マールミも一緒にここを出るコトになった
と言っても和彦が迎えに来るまでここに隠れてなきゃいけないんだがな
「迎えが来るまでこの家を好きに使ってくださいね
家が狭いから、部屋は男女一緒になってしまいますが…んーカップルだから良いですよね?」
マールミはうふふと楽しそうに笑う
「カップルじゃないって!!フェイは廊下で寝かせるから部屋はなくても問題ないな」
「同じ部屋の床からドアの外の廊下にまで落とされるんですか?私は」
「レイがいないのにオマエと2人っきりの部屋なんて何されるかわかんねぇーからよ」
「さすがの私もレイの事を心配しているので、貴方に手を出す気分じゃありませんよ
自意識過剰じゃないですか?
周りから可愛い可愛い言われすぎると調子に乗るのは動物と一緒ですね」
………めっちゃムカつく、俺だってずっとレイのコト心配だし!!オマエより心配してるもん!!!
「レイと無事会えたら、その時に可愛がってあげますから大人しく待っててください」
「オマエこそ自意識過剰だろ!?俺は待ってなんかいねぇもん!!
今すぐレイに会いたいし、俺の方がレイの心配してる!!」
「まぁまぁ2人とも痴話喧嘩はその辺にしてお部屋でお休みになって、疲れたでしょう?」
マールミは苦笑しながら間に入る
痴話喧嘩って…だからフェイとはそんなんじゃ…
喧嘩しても仕方ないから、マールミに空いた部屋へと案内される
買い物は高いお金を払えば売ってくれるって話で、フェイが服を買ってきてくれたお店もいくら払ったのか聞くとぼったくりじゃん!?とたまげた
文句も言わずに払ったフェイは金銭感覚狂ってるんじゃ…和彦はもっと狂ってるけど…
マールミはお母さんの莫大な貯金でなんとか暮らしているみたいだ
でも、よそ者の女性が歩くのは危険だからと俺は外に出ない方が良いと言われてしまった
俺の場合は女装をやめても勇者だからどっちにしろ無理だよなと部屋のベッドに寝転んだ
……お腹が鳴った…
「フェイ…お腹空いた…」
廊下に放り出したかったが、さすがに可哀想なので一緒の部屋に
「我慢してください」
「えー!?買いに行けるのフェイだけじゃん!?お腹空いたお願い」
「駄目です、セリ様を1人には出来ません
傍を離れるとすぐに危ない目に遭うでしょう」
うーん……いつもそんな気がしてきた……
「私はマールミを信用していません」
「なんでだよ?良い子じゃん」
「そうやって貴方が簡単に信用するから信用しないのです
マールミにお金を渡して代わりに買ってきてもらいます」
「いくらこの国の人間だと言っても子供のマールミも危なくないか?1人で行かせるのはさ」
「そうやって1人で生きてきているので買い物くらいは大丈夫でしょう」
それもそうだけど…俺が心配しすぎか?
フェイは一貫してマールミに冷たいと思うけど、フェイはマールミじゃなくても疑うのかもしれない
和彦の部下なら情に流されるコトは出来ないよな…
そもそもフェイには情ないか
「……お風呂屋さん行きたい…」
「数日は諦めてください」
ガーン!?やっぱり!?お風呂入れないとか辛すぎる
仕方ないのだ……顔洗って身体拭くくらいしか出来ない
ウィッグ取って着替えるか
そんなこんなでフェイはマールミを疑ったまま夜を迎えた
1つしかない狭いベッドで一緒に寝る寝ないでちょっと揉めたけど、寒さに負けてフェイと一緒に寝るコトになる
ベッドの中に潜って目を閉じると、レイの心配が増してくる
俺が一緒にいる方が危険だってわかってるけど、だからなのかも…心配しか出来ない
「和彦様が迎えに来てくだされば、私がレイを連れて帰ります
それまで我慢してください」
……フェイはいつも意地悪なのに、たまに優しいよな
フェイにとってレイは友達だからフェイも心配してる
本当なら俺のコトなんて気にしないでレイの所へ駆け付けてもいいのに
俺が和彦の恋人だから守らないとって思ってるのかも
レイの無事を祈りながらいつの間にか眠ってしまった
真夜中の誰もが寝静まっている時間
そっと静かにドアが開く、一歩一歩誰かが部屋へと忍び足で入っては近付いてきた
俺へと伸びるその手首をフェイが掴んで止める
「きゃっ!?」
「このような夜中にセリ様に何かご用ですか?
怪しいですね…マールミ」
ビックリして小さな悲鳴を上げたのはマールミ、その手を掴んだのはフェイだ
フェイは起きていたワケじゃない、寝ていて気配を感じて起きただけ
「ごめんなさい!驚かせてしまって
フェイさんの彼女の正体を確かめたくて」
「正体を確かめる…?」
フェイは乱暴にその手を突き放す
そんな話し声が聞こえて俺は目を覚ました
「……むー眠いのに…何騒いで…」
起き上がろうとしたらフェイは俺の頭をベッドに押し付けてきた
「この人の正体?それを知ってどうするのか先に教えて貰いましょうか」
ちょっと…ちょっと待って!?息出来ないんだけど!?フェイの奴ついに俺を殺す気で!?
苦しくなってフェイを叩く
「あの…お姉さん…苦しそうですけど、大丈夫ですか?」
そう言われて気付いたフェイが手を離してくれて俺は飛び起きた
「何すんだよフェイ!?俺を殺す気か!?!?」
「いえ…殺す気はありませんでした…申し訳ございません
貴方の正体を知ろうとする怪しい人がいるん
です」
「えっ?」
フェイの言う怪しい人に振り返る
怪しい人って…マールミのコトか?
なんでこんな時間にこの部屋にいるか謎だけど、怪しくはないだろ子供だぞ
「やっぱり!お姉さん…いえ、お兄さんは勇者セリ様!!
お名前聞いた事があると思ってたんです」
「あー…悪い、騙すつもりじゃなかったんだが……」
言い出せなくて…って言うか、結夢ちゃんを連れ出した悪い奴ってこの国ではなってるから……悪い奴は追い出されるよな
この国がこんなになったのも俺のせいなら恨まれてもおかしくない……
「セリ様の正体を知られたからには生かしておけません
何も知らないままでいればよかったものの」
フェイは容赦なく決断する
マールミへと手を伸ばすが、俺はフェイの前に回り止めた
「フェイ、バレたらもう仕方ねぇよ
ここを出よう…マールミを殺すなんてダメだ
こっちが最初から騙していたようなもんだろ」
俺の言葉に何回聞いたかわからないくらいの呆れた声をまた聞くコトになった
「馬鹿ですか……ここで殺しておかないと、貴方が危険な目に遭うかもしれないんですよ」
「マールミを殺すコトと俺が危ない目に遭うなら、俺が危ない目に遭う方がマシだ」
「合いませんね、私は貴方を守りたい…その為なら」
守ってくれるその気持ちは本当にありがたいが、その為に…そんなのは俺は嫌だ
「合わねぇな、俺のために誰かが犠牲になるなら」
お互い力付くで言うコト聞かせるしかねぇ
もちろん、フェイと真正面からやりやって俺が勝てるワケがない
俺の勝ちはマールミを逃がすコトになる
「その生意気な口、二度と叩けないように調教してあげます」
「生意気なのはテメェだろうが、年上だぞ敬えや」
ピリつく空気が流れると、マールミが間に入って止めるように言った
「ちょっと待ってください!!どうして2人が喧嘩するんですか!!」
「とぼけないでください
セリ様の正体を知って、この国がこうなった原因の勇者に恨みがあるのでしょう?」
フェイの鋭い睨みに怯むコトなくマールミは首を傾げる
「アタシが勇者様を恨む?ないですよ
この国が変わったのも勇者様のせいとは、アタシは思っていない
タキヤ様は勇者様の事を悪人と言ってましたが、アタシはそう思わないんだ」
マールミはニッコリと笑って話してくれる
その笑顔に嘘も偽りもないと俺は見えるけど、フェイはそのマールミの笑顔も言葉もどう受け取ってるかはわからない
「女神結夢様は見えないしお話も出来ないけれど、とっても優しい女神様で私達を心から愛してるってのは感じてた
そんな女神様が、この国から離れてしまうってよっぽどの事があったのよ」
ねっセリ様?とマールミと目が合う
タキヤから救いたかったってのは本当だ…でも、結局守れなかった……
俺のせいで…結夢ちゃんが傷付いたコトもあった……
中途半端で…守れる強さもないくせにでしゃばって…
でも……後悔はしない、掴んだ手も無理だからって離すつもりもない
タキヤとはいつか決着を付ける
そして、この国に結夢ちゃんが帰れるようにしてみせる
「きっと結夢様は勇者様と恋に落ちて駆け落ちなさったんだわ」
………ん?なんて?
「そうでしょセリ様?
いつも私達を見守ってくださった女神様の恋だよ?
応援しないわけにはいかないでしょ!」
マールミの話にタンマをかける
「え…ええええええええ!!!??俺と結夢ちゃんが駆け落ち!?違うぞ!!??
結夢ちゃんが俺みたいな男(同性が恋人の尻軽クソビッチ)好きになるワケないって!!」
「またまた~そんなコト言って、女神様の恋人なんてやるじゃん?
へーふーん~結夢様ってこんな男の子が好みだったんだね~ニヤニヤ」
観察するようにマールミの視線が突き刺さる
「違うって!!!なぁフェイ、オマエからも何か言ってやってくれよ!?」
恋人が2人いて、他に好きな人が1人いて、フェイとも肉体関係があるなんて口が裂けても言えねぇ眼差し向けられてる…
「…………まぁ…そうですね、セリ様が鈍すぎて酷いくらいで女神結夢とは恋人関係ではありませんよ」
「なるほどなるほど」
ふむふむとマールミは納得…してくれたのか?
「それは結夢様が帰って来ない理由がわかっちゃったね~
恋は人を狂わすって言うし、わかりました」
それは身にしみてよくわかってる
レイのメンヘラで…恋は人を狂わす
なんで急に恋の話?
「アタシここを出たら女神結夢様を探すつもりでした
そして見つけたら帰ってきてほしいってお願いするつもりでしたが!!
女神結夢様の恋をお傍で応援します!!」
マールミは明るくやる気を満々に出して宣言する
よくわからんが、結夢ちゃんがこんなにも自分の国の人に愛されているってのがよくわかって良いな
「女神結夢の想い人が誰か知りませんが………セリ様には恋人がいますよ」
「えーーーーーーーー!!!!???別れさす」
急に別れさせ屋になるマールミ
やっぱ俺のコト恨んでんじゃん!?こわ!?
「しかも2人も恋人がいます」
こらフェイ!?そんなコト子供に言うんじゃない!!
「うわ二股ですか…最低」
「いえ四股です」
「それは引きますね…」
めっちゃドン引きされてる!?
事情知らなかったらそうなるよな…
「四股って1人心当たりねぇぞ!?」
「目の前にいるじゃありませんか」
「誰がオマエなんか!!」
はいはいうるさいから黙ってとフェイの手で口を塞がれる
「セリ様の名誉の為に言っておきますが、4人ともその関係を望んでの事です
最低ではありません、それでドン引くかは個人の勝手ですがね」
「そうなんですね、それなら良いと思います!!」
マールミは笑ってなんだそっかーとローズと同じで理解があった
本当に子供か…ってくらいこの世界の子供は大人だな
「とにかくフェイさん!アタシは敵じゃありません
アタシを疑うのをやめてとは言いません
アタシは女神結夢様をお慕いしております
その結夢様がついて行った勇者セリ様に酷い事はしませんよ!!
だから、迎えが来たらアタシも連れてってくださいね!!」
「勇者が女神結夢を無理矢理連れ出したって思わないのですか?」
「セリ様は人間ですよね?
人間が女神様を無理矢理連れ出すなんて出来ませんよ
だから、アタシは結夢様が自分の意志でセリ様について行ったと思ってます!!」
フェイのマールミへの疑いは暫くはあると思う
でも、フェイはまっすぐなマールミの意志に仕方なく様子を見ると言った感じで引いてくれた
どうやら俺に勝ちを譲ってくれたみたいだな
「セリ様…わかりました、マールミを殺さずに連れて行く事を許可します」
「フェイ…ありがとう」
フェイがわかってくれた所で、マールミは夜中にごめんなさいと謝って部屋を出て行った
とりあえず…一段落かな
「じゃあ寝…いてててて!?」
騒ぎも落ち着いてベッドに寝転ぼうとしたらフェイに怪我をしている手を掴まれた
「わざとか!?」
「包帯を取り替えてあげようと思いまして」
心遣いはありがてぇけど、なら優しくして!?
フェイに任せたまま手を差し出す
レイのコトが心配でこの怪我のコトを気に留めるヒマなかったが、この怪我ってやっぱりセリカに何かあったってコトだよな…
魔物殺害事件といい、レイの大悪魔問題、結夢ちゃんの国の酷い変わりよう、次から次へと解決しなきゃいけないコトがいっぱいだ
セリカと会ってこの怪我のコトについて情報を共有しねぇと、何かあるってんなら俺が……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます