167話『君が幸せになる日』天使編

セリくんがプチ旅行から帰ってきて、お土産たくさん貰ったんだよ

それで今日はセリくんがレッスンの日って聞いて見学に来てみた!

はじめてセリくんのコンサートを見た時、楽しそうで俺も踊ってみたいなって思ったんだよね

「天使、来てたのか」

休憩になるとセリくんが気付いて声をかけてくれる

「うん!あのね、俺もセリくんのダンス覚えたんだよ

さっきの曲、一緒に踊ってもいい?」

「いいよ」

やった~!休憩終わるの楽しみにしながら待つ

ちらっとレイの様子に目を向けるけど、基本レイは俺のコト空気みたいに無視するんだよね…

さっきも挨拶したら無視されちゃった

続けて俺はセリくんに話し掛けてみた

「ねぇねぇ、イングヴェィは凄くお歌が上手だけど一緒にアイドルしないの?」

って言った後だけど、イングヴェィが歌って踊る姿が想像できないかも

運動神経抜群だし、見た目も超美形だし、うーん…でもアイドルって感じはしないや

セリくんはソロでアイドルって珍しいタイプだからイングヴェィと一緒にって考えてみたけど…やっぱ違うよね…うん絶対違うな

イングヴェィがアイドルってイメージじゃないよ

「ん?イングヴェィ?うーん…イングヴェィは、賛美歌っぽい感じやクラシックのような曲調の音楽が得意だから歌って踊っての姿は想像できないな」

「だよね~、イングヴェィのお歌は静かに聴きたいと言ってて思ったもん

そういえば、アイドルってすっごくモテるイメージあるけどセリくんも女の子にモテてるの?」

「……………。」

セリくんが笑顔で固まって動かなくなった

代わりにレイが口を挟んだ

「死者の国の人達はみんなセリを応援してくれているが、アイドルによくいるガチ恋のようなタイプはセリにはいないんだ

街の意見を聞くと、応援したくなるくらい大好きで魅力的だけど恋するようなタイプじゃないとバッサリの声しかないんだと」

そういえばローズが言ってたっけ、永遠に推せるくらい大好きだけど異性として見れないって(ローズとは年齢が近いから子供同士仲良し)

「別に俺はモテたいからアイドルやってるワケじゃねぇし!!

純粋にダンスが大好きでレイの曲が大好きだから…」

「危ない男のストーカーが増えたくらいだよな、まっオレがいるからその辺の心配はないが」

「セリくんは優しいし男らしい所もちゃんとあるのにね

見た目もセリカちゃんにソックリだからめちゃくちゃ良いのに」

「見た目はあんたも一緒だろうが…」

「天使……めっちゃ天使、オマエはずっと天使で良いぞ!!」

思ったコトを言っただけなのにセリくんは良い子だと撫でてくれた

そうしていると休憩時間は終わりに近付く

「それじゃ天使と一緒に踊ってみるか」

「うん!」

セリくんに言われて、壁一面が鏡の前に立つ

お互いの姿が鏡に映って

こうして見ると見た目は瓜二つで黙ってたらどっちが自分かわからなくなるくらいソックリだ

レイがさっきと同じ曲をかけてくれる

一生懸命覚えた楽しいダンスを、セリくんと一緒に

だけど、俺のダンスはレイにコテンパンにダメ出しされる

「天使、ワンテンポ遅れてる

ちゃんと曲聴け」

「う、うん」

レイの言う通り、セリくんのダンスに追い付くのに必死になってる感じがあって遅れてるのは自分でも鏡を見てわかる

「手が上がってない、セリの姿を見てみろ」

見てるつもりなんだけど、やっぱりいっぱいいっぱいで踊り切れてない

ダンスってこんなに難しいんだ!?大変だよ…

「足上げすぎだ、品がないだろ

その見た目で下品な振る舞いはするな」

えっなんかごめんなさい…

そうだよね…俺の見た目ってセリカちゃんとも一緒なんだから、気を付けないとダメなのかも

「笑顔がない、顔が引きつっているぞ」

む…無理だよ…もう無理!俺にはダンス向いてないんだ!?ショックだよ!?

「全然違うな、下手くそ、帰れ」

曲の終わりになった頃には俺はめちゃくちゃ落ち込んだ

レイが優しくしてくれない…厳しすぎる…

「そこまで言うか!?天使は子供なんだぞ

もうちょっと言い方優しくならねぇのかレイ

落ち込んじゃって可哀想に」

セリくんが気にするなと慰めてくれる

俺が楽しく踊れるならそれで良いんだって言ってくれるのに

レイときたら

「そうやって周りが甘やかすから駄目なんだ」

ずーっと意地悪言う

「まったく、レイって天使のコトになると」

セリくんはレイが大人げないって言って呆れて、レイはレイでセリくんにそう言われたコトに納得がいかないと拗ねる

そんな微妙な空気の中、結夢ちゃんが差し入れを持ってきてくれた

結夢ちゃんの姿を見ると、さっきまでの落ち込みようはコロッとなくなってパッと明るくなる

「いらっしゃい結夢ちゃん」

俺が近寄ると結夢ちゃんはニコッと笑って、みんなで食べてと差し入れを渡してくれた

これは…マフィンか!?手作りのマフィンだ~!

美味しそうなお菓子!

「ありがとう!嬉しい、俺甘いもの好き

作り立てなのかな、あったかいよ」

レイの所へ持って行ってハイどうぞと配る

「疲れた時は甘いものが食べたくなるな」

「わかるー!それに結夢ちゃんの作るおやつもご飯も美味しいからね」

ほらやっぱりってマフィンを食べて顔が綻ぶ

「そうだな、セリも女神結夢の料理は上手だと褒めている」

結夢ちゃんらしい優しい味で身体にも優しい

うまうまと食べてるとセリくんがいないコトに気付く

探すように視線を向けると結夢ちゃんと話してる

「結夢ちゃん来るって聞いてたから、これ旅行のお土産」

そう言ってセリくんが紙袋を渡すと、結夢ちゃんはありがとうと微笑んだ

「それからこれも、この前ポップのお使いで化粧品買いに行った時に、この口紅の色が結夢ちゃんに似合いそうだなって」

口紅を手渡した時、結夢ちゃんは少し照れるように赤くなる

「よかったら付けてみて」

セリくんが言うと、結夢ちゃんは困った素振りを見せた

「もしかして口紅ははじめてか?」

って聞くと、結夢ちゃんは恥ずかしながらも頷いた

「そっか、じゃあ俺が塗ってあげるよ

たまにセリカの口紅を塗ってやるコトもあるから任せとけ」

セリくんは…俺には出来ないコトをする

結夢ちゃんの見たコトない表情を引き出せてセリくんにだけ向けられた

唇にしか…その色を塗っていないハズなのに、ほんのり染まる頬も

「セリって天然だよな、オレがセリカに口紅なんか塗ったらそのままキスするよ」

「えっ…?それってどういう意味……?」

どういうコト…?レイの言葉の意味もわからない

「やっぱり、この色は結夢ちゃんにめっちゃ似合う可愛いよ」

優しいピンク色、本当に結夢ちゃんに似合ってる

いつもも可愛いけど、いつもとは違った可愛い姿は

きっと口紅だけのせいじゃないのかもしれない

結夢ちゃんが可愛くなるのは良いコトのハズなのに……

なんでだろう……なんか…わかんないけど…

なんか……嫌……

俺は立ち上がるとセリくんと結夢ちゃんの方に近寄って、セリくんの腕を引っ張った

「もう休憩ばっかは終わり、練習たくさんしないとダメなんでしょ」

結夢ちゃんから引き離して

「天使は厳しいな、でもその通り」

なのに、セリくんは変わらず笑って練習の続きするよってレイの所へ行ってくれた

その時、結夢ちゃんは少し残念そうにセリくんを見つめているのに気付く

…もっと…セリくんと話したかったんだ…結夢ちゃん…

俺とお話すればいいのに、それじゃダメなの?

結夢ちゃんの手を繋いで帰ろうって少し強引に引っ張って教室から出る

それでも結夢ちゃんは俺に優しく微笑んでくれるんだね

俺はきっとワガママ言ってるハズなのに…

「もうすぐしたらあっちの世界に帰るから結夢ちゃんと遊べる時間が…」

あっちの世界って俺はペンダントに手をやると…あれ?ない……あれ?ウソ?

ないってコトに焦ってポケットやら鞄やら探してみるけど、ペンダントがない

「えっウソ…どうしよう…ペンダントなくしちゃった……」

血の気が引いていく

ペンダントがないと俺はあっちの世界に帰れない

明日はせりかちゃんの結婚式なのに、大切な日なのに

「どう……しよう……やだ…うっ」

焦りばかりで、不安が広がって、わかんなくなって、声を出して泣いてしまう

結夢ちゃんが困った顔で俺を心配してくれる

「まぁまぁせり、どうしましたの?」

俺の泣き声を聞いて偶然近くにいたセレン様が駆け寄ってくれた

なんか薄い本が入った紙袋いっぱい持って、お買い物の途中なのかな

「うわ~ん」

「泣いていてはわかりませんわ」

セレン様がハンカチを渡してくれて、俺はそれで涙を拭く

でも涙は止まらなくて泣きながら、ペンダントをなくしたコトを話す

「まぁ…それは困りましたわね」

「明日は大切な結婚式があるから、帰れなくなったら…うぅ」

考えただけでやっぱり泣いてしまう

すると、レイが駆け寄ってきて心配してくれるのかなと思ったら怒鳴られた

「泣くな!!気が散るだろう!?」

普通なら聞こえない距離なのにレイはエルフだから人間とは違って耳が良い

「レイ様、天使は大切なペンダントをなくして困っているのですわ

そんな強く言っては可哀想ではありませんか」

「女神セレン、天使は泣けば誰かがなんとかしてくれると甘えているだけだ

そうやって周りが甘やかすのが駄目なんじゃないか」

………そうだけど?

みんな俺が泣いたら優しくしてくれるし、なんでもしてくれるもん

セレン様も結夢ちゃんも俺の味方をして慰めてくれるけど、レイだけはこんな時でも厳しかった

「ペンダントをなくしたのは本当だもん!!

それがなきゃ帰れないから困って泣いてるんじゃん!!?」

「甘えるな、ペンダントをなくしたと言うならこんな所で泣いていないで

ユリセリさんとリジェウェィさんに話してなんとかして貰えばいいだろう」

「どっちも無理だよ、遠すぎてここからじゃ明日までに間に合わないもん

本当は前日の今日に帰りたいのに」

「………確かに」

俺に言われたコトが気に入らないみたいだが、当たり前のコトを言われてレイは小さく無理だって理解を呟く

「本当に困りましたわね、セレンもどうにかならないか考えてはいるのですが…」

暫く沈黙が続いてしまう

だけど、結夢ちゃんがハッと思い出したように紙とペンを取り出して地図を描いて見せてくれる

「ここに…行けってコト?」

そう聞くと結夢ちゃんは強く頷く

地図を見ると場所は近くみたいだけど、ここに行ってどうするんだろう?

「はっ!?ここは、そうですわ…ありますわ」

地図を見たセレン様も何かを思い出したように微笑む

「せり、よくお聞きなさい

この場所には千年に一度だけ咲く願いの花がありますの

運良くその千年が今年なのですわ」

「願いのお花…?」

名前からしてなんでも叶えてくれそうな感じだけど、そう思っていい?

「一輪しか咲かない貴重なお花でして」

「ちょっと待って!?今年って!?今から行ってもないんじゃ…」

そんな凄いお花ならもう誰かに摘まれてるよね

「あるとは言い切れませんが、その花については神族ですら一部の者にしか知られておりませんわ

世間では噂にもなっていないお話ですし、何より神族であってもその花を摘む事は難しいんですの」

セレン様は話ながらチラリとレイに視線をやる

「その花がある道中には最高レベルのモンスターの住処があって通ろうとする者は殺されてしまいますわ

香月様や和彦様くらいお強い方でない限り勝てはしないでしょう

レイ様ならなんとかなるかもしれませんが」

チラッチラッとセレン様はレイに視線を送る

それに気付いているレイが嫌そうな顔をした

「オレに天使のために同行しろと言ってるのかい?お断りだ

言うなら香月さんか和彦さんに頼めばいい」

「あのお2人がセリ様以外の頼みを聞く事はありませんわ

せりではお話する機会も与えてもらえないでしょう」

「それで頼みやすいオレにと女神セレンは言っているのかもしれないが、オレも2人と同じでセリ以外の頼みを聞く気はない

同じ容姿をしていたとしても、天使はセリではないからな」

セレン様は俺のために一生懸命レイを説得してくれてるけど…もういいよ

だってこれは俺の問題だもん

だから

「セレン様ありがとう、俺1人で行くよ

倒す力はないけど目的は願いの花を摘むコトでしょ

超強いモンスターに遭遇しても逃げればいいだけ」

そう言うと結夢ちゃんは心配と言った顔をする

「せり…簡単におっしゃっても、逃げ切れる相手では」

俺は結夢ちゃんが描いてくれた地図を取って走り出す

「時間がないもん、ちょっと行ってすぐ帰ってくるから心配しないで」

バイバイって笑って手を振る

結夢ちゃんが心配だって追って来ようとしたから待っててって笑うと足を止めてくれた

超強いモンスターがいる所に結夢ちゃんを一緒には連れて行けない

香月や和彦じゃなきゃ勝てない相手なら守れる自信がないからね

俺が1人で逃げ切れたら良い方…最悪は死ぬかもしれない

でも、俺にとって大切な人の大切な瞬間に帰れないなら死んだ方がマシなんだ

だからどんな危険でも帰れる可能性があるならそれを選ぶ


えっと…地図に描かれた場所の入口にはついた

この大きな洞窟の奥か、空から飛んで行ってモンスターを回避しようって思ってたけどそう簡単な話にはならないよね

洞窟の中で逃げながら花を回収するのは難しいのかも

でももう時間がないから迷ってる暇はない

俺は覚悟を決めて洞窟の中を進んでいく

薄暗い洞窟の中を魔法を使って足元が見えるくらいの灯りと一緒に少し歩くと、透明な何かに引っかかって身動きが取れなくなってしまった

「えっ…何これ!?」

焦って動こうともがけばもがくほど絡まってくる

お、落ち着いて…ビックリしたけど、冷静に魔法を使って…

その時、近くで何かが動く気配と音がする

……この感じ…人間じゃない、すぐ近くにモンスターがいる…!?

超強いモンスターってセレン様言ってたよね!?このなんかよくわかんないのに引っかかって逃げれるもんも逃げられないよ!?

ひらりと足元に真っ白な羽根がいくつか落ちる

……換羽期は…この前終わったばっかだからこんなに抜けるコトなんて……

翼が引っ張られてる感覚と背後に感じる気配、俺は灯りを照らして後ろを振り向く

「うっ………」

言葉を失うくらい強そうな奴が目に入る

巨大な蜘蛛みたいなモンスターが俺の翼をむしりながらかじっていた

そのうち翼を引きちぎろうと強い力が加わる

「痛い!?翼が折れちゃうよ!?それ以上引っ張らないで!?」

わかってたけど蜘蛛モンスターは俺の言葉を無視してじわりじわりと食らっていく

このままじゃ翼だけじゃない、俺の身体も食べられて…そんなの死んじゃうよ

落ち着いて…落ち着かなきゃ…

俺の魔法は相手を傷付けるコトには使えない

だから、戦うコトはできなくてここから逃げるにはどんな魔法を使えばいいのか…

焦ってる、何も思い付かない

どうしよう…どうしよう……!?

翼が折れそうな痛い音が貫く

怖い…痛い……帰りたいよ

もうダメかもって思っていたら、蜘蛛モンスターの力が弱まって俺の翼から離れた

「……あれ…?」

なんでだろうってまた後ろを確認すると、蜘蛛モンスターは俺を背にして向きを変えていた

でも、次の瞬間その巨大な身体は氷付けになってトドメの数本の矢が突き刺さるとバラバラになって崩れ落ちていった

蜘蛛モンスターの反撃すら許さず一瞬で倒してしまう強さ

そして氷と矢と言えば…

「……レイ?」

名前を呼んだけど、反応はない

すぐにわかった

あの時みたいにまた助けてくれたんだって

姿は見せない所がまたレイらしいよ

俺のコト嫌いって言ってるんだもん、出てこないよね

でも俺はちゃんとわかってるから、レイが心配してくれてるんだってコト

それだけで嬉しくなる

俺は魔法で透明な絡まった蜘蛛の糸を外して食われた羽根を回復させて先を進むコトにした

暫く歩くと

「…行き止まり……?」

辺りを確認するけど、お花らしいものはない

おかしいな…もっと詳しく調べてみると、足元に風が当たるコトに気付く

屈んでそこを覗くと低くて狭い穴があって1m先くらいにまた開いた道があった

大人が伏せたまま進まなきゃいけないくらい低いな

お洋服……また汚れちゃうな、これもセリくんに借りてるのに

またセリカちゃんに怒られちゃう

……ハッ!?って言うかセリカちゃんに黙って1人で危険な場所に来てる!?もう怒られるの確定だよ!?

じゃあお洋服汚してもいいや~、どうせ怒られるなら……ごめんなさいセリカちゃん

でも俺はどうしてもあっちの世界に帰らなきゃいけないから、また帰ってきたらたっぷりお説教聞くからね!!

迷ってる場合じゃない、早くお花を見つけて帰るんだ

俺は伏せるとそのままズリズリと先を進む

もう強いモンスターも倒したし後は安心して……

「……いや…そんなワケないのが…現実だよね……」

狭い穴の中で目の前から数匹の毒蛇モンスターと目が合った

この毒蛇のモンスターは超強いとは言えないし、たまにその辺にいる奴だ

でも猛毒で噛まれると数時間以内に解毒しないと命にかかわる

ヤバい…人間じゃない俺ならこの毒蛇の1匹や2匹に噛まれても毒のダメージで苦しみはするけど死にはしない

でもさ…1匹2匹って話じゃないんだよ!?いっぱいいるよ!?

さすがにこんだけの毒蛇に噛まれたら俺だって死んじゃう!?

戻ろうとしたけど伏せた状態の俺の動きより毒蛇達の方が素早い

「まっ…!?」

待ってと声に出すより先に誰かが俺の足首を掴んで引きずり戻してくれた

乱暴に放り投げられ、その人は追ってきた毒蛇達を短剣で首を切り落として始末する

「あっ…危なかった~!?絶対死んだって思ったもん!?こわー!?」

自分が生きているコトに感謝をする

そして

「助けてくれてありがとう、レイ」

俺は助けてくれた人に笑顔でお礼を言う

「………。」

無視された

まぁ…いいけど

でも、やっぱりレイは来てくれたんだ

あれだけ知るかって態度だったのに、なんか嬉しいな

「うん、言わなくてもわかってるよ

レイが俺を心配して来てくれたってコト」

「はっ?」

めっちゃ恐い顔で睨まれた

「オレはあんたの心配なんてしていない

天使に何かあるとセリカが悲しむからだ」

「そ、そっか~…セリカちゃんのために、レイってなんだかんだ言って優しいよね」

レイは先に行くと言って狭い穴を通っていってしまった

基本俺のコト無視なんだね、いいけど

続いて俺が狭い穴を通って行くとまだ奥に毒蛇が残っていたみたいでレイは始末してくれていた

そして、俺がもたもたしていたからレイは手を掴んで引っ張ってくれる

「ありがとうレイ」

意地悪言われるけど、なんやかんやレイは優しいって俺は思うんだ

笑ってお礼を言うと寄るなって突き飛ばされた

なんで!?自分が引っ張ってくれたのに!?

酷い…ちょっと悲しくなって涙が…

「泣いたら殺すぞ」

「過激!?な、泣かないもん…!!」

その後はレイが先を歩いてくれて、超強いモンスターが出てきてもなんとか倒せてトラブルも簡単に乗り越えてサクサク進めた

そうして洞窟の1番奥へと辿り着いた

「あっ!お花あった!!」

一輪だけ咲く淡く光る綺麗なブルー色の神秘的な花

その空間だけお花の良い香りが漂う

「これが願いを叶えてくれるお花か~、どうやって使うんだろ?

持って帰ってセレン様に聞かなきゃ」

誰にも摘まれていないってラッキーだった

まぁ道中を考えればここに辿り着くなんて普通は無理だよね

レイが一緒にいてくれたおかげだよ、本当に

「ごめんね」

そう花に声をかけて手折る

不思議なコトに花はしおれるコトもその輝く光も衰えるコトはない

「帰るぞ」

「あっうん、あのレイも本当にありがとう

今日お礼言ってばっかりだね

恩返ししたいから俺に出来るコトがあったらなんでも言ってね」

「ないな」

……うん、まぁそうだよね

レイはなんでも自分で出来るし、俺だって何を返したらいいかなんてわかんないくらいだもん

「あっあるぞ」

「えっ何!?」

レイが俺に出来るコトがあるなんて…

「オレの視界に入るな」

むちゃくちゃ言ってくる!?!?!?

ちょっと…助けてもらって悪いんだけど、そんなに俺のコト突き放さなくてもよくないか!?

どんだけ嫌いなんだよ!?さすがに傷付くわ!!!

「俺はセリカちゃんと一緒にいるコトが多いけど、レイはセリカちゃんに会えなくなってもいいの?

俺が視界に入っちゃうから嫌なんだよね?

あんまり意地悪ばっか言うならセリカちゃんに言い付けるからね!」

さすがのレイもここまで言ったら考え直してくれると…

思ってた、でもレイの反応は予想外だった

「……別に構わない」

「えぇ!?なんで!?レイはセリカちゃんのコト好きなんでしょ!?」

「そうだが、あんたの姿を見る方が嫌だ」

そう言ってレイは帰るぞって来た道を戻る

俺は何も言わずレイの後を追った

大好きなセリカちゃんより……俺が嫌いってコトの方が上回るってコトなの…?

でも…レイの表情は、嫌いだから拒絶と言うより

もっと複雑で…きっと俺にはわからない葛藤があるような気がした


そして、レイと俺は無事洞窟から脱出できてその頃には夜になっていた

「はぁ…疲れた、結構深くて長い洞窟だったね

何時間かかったんだろ、すっかり夜だよ」

普通の何気ない会話はほぼ無視される

もうこれも慣れた

どっぷりした夜だ、絶対せりかちゃん心配してる

前日の今日の夕方には帰るからねって約束したのに

早く帰ってセレン様にこの花の使い方を聞かなきゃ

手の中にある花はこんな真っ暗な夜の中でも淡い優しい光を放っていた

レイの後ろを歩きながら帰ろうとすると、2つの人影が道を塞いだ

警戒したレイは立ち止まって俺にも立ち止まるよう手を出す

「その天使ちゃんが持ってる願いの花をこっちに渡しな!!」

目の前の2つの影は男女2人組みの悪党面をした人だった

人を見た目で判断しちゃいけないって言うけど!?刃物取り出して奪う気満々でやってきてるよ!?

めっちゃ悪人面の悪人が登場して道は塞がれてしまった

俺は何がなんでもこの花を渡すワケにはいかないもん

このお花で俺は絶対にせりかちゃんの所へ帰るんだから

「ほら早くしなぁ!!」

セレン様は、この花は一部の神族しか知らないって言っていたのにどうしてこの人達は知っているの?

「いや……嫌、渡せない…渡さないもん……」

「その羽根むしり取るぞ!?」

怖い

わっと男の人に怒鳴られてビクッとしたけど、レイが矢を向ける

レイは邪魔な2人を殺す気なんだ、それもダメ!!

俺はレイの腕を掴んで止めても、レイはそれを振り払った

すると女の人がわっと泣き出してその場に崩れた

「天使様!どうかその花をアタイらにお譲りください!!

家には難病の子供がいて、その花がないと長くは生きられません!!」

豹変が……

崩れ落ちた女の人を支えるように寄り添う男の人を見て、やっぱり…せりかちゃんは正しかった…

人を見た目で判断してはダメ、この人達は自分達の子供のために必死だったんだ

きっと神様がこの夫婦と子供のために願いの花のコトを教えて、ここへ来たんだね

それじゃあ………

「……天使、何を」

レイが止めるのも聞かず、俺は夫婦の前まで歩み寄ると手に持っていた願いの花を差し出した

「天使様……よろしいのですか?」

仕方ない……じゃん……

このお花がないと、子供は助からないんでしょ

女の人が俺の手からお花を受け取る

願いの…花が…俺の手から離れていく

大切な…何よりも大事なせりかちゃんに会いたいのに……

選べなかった

「早く……帰ってあげて、そのお花の使い方は君達の神様に聞いてね

そして元気になった子供と一緒に幸せに暮らして」

言葉が詰まりそうだ、何を強気になってるんだろう

俺だって死んでも叶えたい願いを自ら手放すなんて

でも…この選択に後悔はない

せりかちゃんは偉いね良い子だって褒めてくれるから、これが俺にとって正しい選択

夫婦は頭を下げてお礼を言うと夜の先へと帰って行った

「花を渡すなんて馬鹿だな、今日帰りたかったんだろう?もう帰れないじゃないか」

レイは呆れて俺を見下ろす

「セリならこんな選択はしない、見ず知らずの他人を見捨ててでもオレを助けてくれた事だってある

あんたの選択は賢いとは言えないな」

………違うもん……

レイの言葉に俺は納得いかなかった

セリくんならあの人達を見捨てるって?……やっぱり……そうなんだ

「違うもん…!俺はセリくんじゃないもん!!

俺だってあの願いのお花で帰りたかった!!

でも、仕方ないじゃん!?仕方ない……よ……

目の前で困ってる人を見捨てて自分だけ大切な人の所へ帰っても……ずっと後悔する

そんなの…選べない…」

「大切な人の大切な日に帰れなかった事の方が後悔するだろう

オレはあんたのそういう偽善な所が大嫌いだ」

目元に涙が溜まる、瞬きをすると大きな粒がこぼれ落ちる

そんなの…言われなくても、俺が1番わかってる

せりかちゃんの幸せを俺が壊してしまうって、俺がいなきゃせりかちゃんは大切な明日を笑顔で迎えられない

俺は……悪い子だ…

でも…だけど……わかんない、無理だよ、できないよ……どうしたら

「…最悪…泣くなクソガキ」

「帰らなきゃ…帰りたい……どうしよう…もう間に合わない……うぅ…」

泣いたら

「…ん、急に冷えてきたな

おい泣き止んで早く帰るぞ、風邪でも引かれたら……雪?が降って…この季節に」

冷たい空気…冬の香りと共に真っ暗な空から良く映える真っ白な雪がふわふわと舞い降りてくる

「帰りが遅いと思ったら」

レイとは違う声が聞こえて俺は顔を上げる

泣いたら……誰かがなんとかしてくれる

いつも…いつだって、最後は

目の前に現れたのは明日せりかちゃんの旦那様になる人

「…イングヴェィ……」

安心する…安心した

迎えに来てくれたんだって、すぐに理解する

「イングヴェィ…さん?……いや…そっくりだが、違うような」

レイはこの世界のイングヴェィしか知らない

だから、俺の世界のイングヴェィにはじめて会って

そっくりでも別人だから違和感を抱いてはすぐに俺の世界の人だって理解した

「イングヴェィ…!ごめんなさい、ペンダントをなくして」

迎えに来てくれて帰れるってわかった俺はイングヴェィに抱き付いて嬉しいけど泣いてしまう

「そんな事だろうと思ったよ」

優しく撫でてくれる手が落ち着く

「君」

イングヴェィはレイへと声をかけた

「せりくんを助けてくれたみたいだね

俺からもお礼を言うよ、ありがとう」

「……どう…いたしまして…」

いつもこっちの世界のイングヴェィとは険悪なのに、あのレイが素直に受け答えしてる!?

「やっぱり心配だな」

「心配?」

イングヴェィが呟いた言葉をレイが拾う

「せりくんは俺の義理の兄になるんだけど、君も知ってる通り永遠の子供みたいなもの

せりかちゃんも心配してるし、子供を1人この世界に置いておくのはね」

「……はっ?……それって…貴方は天使を…いやせりをもうこの世界には帰さないと言うつもりですか?」

「ペンダントをなくしたんだよ

良い機会だからね、この子もずっとせりかちゃんの傍にいる方が幸せでしょ」

イングヴェィとレイが何やら難しい話をしてるから、早く帰ろうよ~と急かす

でもイングヴェィに撫でられると大人しく黙って待つ

「……あんたの顔持ってる人ってムカつく」

「ふふレイくん、君が望んだコトじゃなかったかな

俺は君の視界にせりくんが入らないようにしてあげようって言ってるんだけどね」

イングヴェィの言葉にレイはカッとなって俺の服を掴んで引っ張った

「おい天使!こんな性悪がセリカにそっくりなせりかさんの旦那で良いのか!?オレは反対だぞ!?

あんたが帰らなければ明日の結婚式は中止になるなら帰るな!!中止しろ!!」

「えっ何!?デジャブ!?それ同じ顔の人が同じコト言ってたよ」

「あっちの世界のオレは根性なしか!?諦めるな!!」

レイっていっつも怒ってる

イングヴェィは何考えてるのかよくわからない時があるけど、でもこれだけはわかるんだ

イングヴェィは絶対俺の味方で、せりかちゃんを絶対幸せにしてくれる人

どうやってこっちの世界に来れたのかはわかないけど、イングヴェィの魔法は不可能なコトがほとんどない

嬉しかった…迎えに来てくれて、せりかちゃんのために俺を迎えに来てくれて

「ねっ?泣いたら誰かがなんとかしてくれるでしょ?」

俺はレイにふふっと笑って見上げた

「泣いたら誰かがなんとかしてくれるのは、幸せな証拠だな…あんたは

あんたとはやっぱり違う、泣けば上手くいく甘い運命とは…セリの事を考えると…」

レイは俺をセリくんとして見てる時があるなってたまに感じるよ

だからセリくんと俺の違いが見えるとレイは俺を受け入れられない

何度言ったって、この見た目である限りそうなのかも

でも、わかってるよ

「オレはやっぱりあんたが嫌いだが

二度と会えないとなったら……寂しいよな…」

それでもレイは俺を嫌いじゃない

目を合わせてくれないなら、俺からその視界へと入っていけばいい

俺はセリくんじゃないって、ちゃんと俺として見てくれるまで

「えっ?なんて?もっと大きな声で言って?」

レイの逸らした視線の先に移動して、笑顔で首を傾げる

「その顔で寄るな!!恐ろしい!!あんたはオレに近付くな!!」

わかってて言ってる

レイがそんな反応するって、だって面白いんだもん

イングヴェィにそろそろ行こうかって声をかけられて俺は

「バイバイ、レイ」

と笑顔で手を振ってイングヴェィの傍へと帰った

レイは何も言わなかった

いつもなら二度と帰ってくるなって言葉をぶつけてきそうなのに、それもなくて

俺はイングヴェィに連れられて、大好きな大切な人の所へ…あっちの世界へと帰るコトができた



「せりかちゃんただいま!!遅くなってごめんね」

君の顔を見たら思わず抱き締めて、その温かさを感じる

一時は本当に帰れないかもって思って本当に怖かった…

こうして君の傍にいられるコトが1番の幸せ

「せりくん…バカね、心配したわよ

いつまで経っても帰って来ないんだから」

「帰ってくるよ絶対、信じてくれてなかったの?」

「誰が迎えに来てくれたの?」

イングヴェィが迎えにいってくれなかったら帰ってこれなかったでしょとせりかちゃんからお叱りを受ける

「どうせペンダントをなくして泣いてたんでしょ」

なんでもお見通し!?

図星だけど、強がってみる

「ち、違うもん!!なくしてないもん!!」

「それならペンダントを見せてくれる?」

「……………。」

なくしてるって言ったらまた怒られる…

「まぁまぁ2人とも、明日は早いからもうお休みしようね」

イングヴェィが助けてくれる

せりかちゃんもイングヴェィに言われたら仕方ないもんね

「あれ?でも結婚式の前日はホテルに泊まるハズじゃ…」

ここっていつもの家だよ?

「せりくんがなかなか帰って来ないから…このまま帰って来なかったら、結婚式なんてできないわ…」

……やっぱり…せりかちゃんならそう言うと思った

だから何がなんでも帰りたかった

俺のせいで君が幸せになる明日を壊すなんて絶対に嫌だった

なのに…俺は…願いの花を手放したの

それって…俺は悪…

「でもこうして帰ってきてくれたから安心したよ

明日は早起きしないといけないけど、せりくんが帰ってきてくれて、いてくれるだけで私は十分ね」

君の微笑みを見れたなら、これで全てよかったと思える

イングヴェィはせりかちゃんの笑顔を守ってくれるから

「ありがとう…イングヴェィ…」

呟くようにお礼を言うとイングヴェィは笑顔を返してくれた



そして、次の日の朝

思ったより早起きさせられまだ外は真っ暗でとても寒かった

「いつまで寝てるのせりくん!早く支度しなさい

それから昨日の服も脱ぎっぱなしにしないでちゃんと片付けて」

うぅ…まだ凄く眠いのに……

眠気に逆らいながら無理矢理身体を起こす

向こうの世界じゃ、セリカちゃんがお洋服も片付けてくれるのに

って言ったら甘やかされてるから甘やかさないように言わなきゃねってまた怒られそうだから黙っておこう

もっと俺を甘やかして

寝ぼけながら昨日の服を片付けようと手に取ると、コロッと何かが落ちた

「あれ……」

落ちた何かを拾い上げて何度も確認する

これ…なくしたと思ってたペンダントだ!?

なんで!?服のどこかに引っかかってた?

とにかく…見つかってよかった!!

安心感が広がる

これでまた向こうの世界にも行ける…

あれだけ探していたペンダントが見つかって不思議なのに

不思議なのはそれだけじゃなくて…ほんのり香る花の匂い

ふんわりと鼻を掠めるのは、最近嗅いだコトがあるお花の香り

服に残り香が…ついてるのかな

「見つかってよかったね」

「イングヴェィ?もしかしてイングヴェィが見つけてくれたの?」

「俺は何もしてないよ、誰かさんがせりくんに帰ってきてほしいと思ってのコトじゃないかな」

なんでもわかってるって顔でイングヴェィは微笑む

「あちらの世界でも、みんなせりくんに会いたいんだ

また好きな時に遊びに行っておいで」

うん!もちろん、俺だってみんなに会いたいもん

もうペンダントなくさないようにしなきゃ…

帰るのもギリギリになってせりかちゃんにも心配かけちゃったし

俺はペンダントを首からかけて大事に服の中へとしまった


今日は俺にとって、大切な日

イングヴェィにとって、せりかちゃんにとって大切な大切な日になる

君が幸せになる日がついに来たんだ

俺は生まれてからずっと君の傍で君を見守ってきた

時には喧嘩するコトだってあったし、色々あって悲しいコトもあったし、辛いコトだって苦しいコトだって

生きていれば、あったよね…あって当然だよね

でもね、いつだって俺は君が大好きで幸せにしたくて傍にいたくて

それが俺の1番の幸せ

だからね……だからね、やっと君が…幸せになる日に立ち会えて俺は死ぬほど幸せ

心から祝福する

今日は俺の大好きなせりかちゃんの結婚式

ずっと両想いだったイングヴェィのお嫁さんになれた

いつも綺麗で美人だけど、今日は真っ白なウェディングドレスに身を包んだ君は特別綺麗で可愛かった

(性格は難ありな所もあるけどって言うのは今日くらいは黙っておく…そこも含めて俺は大好きだけど!!)

イングヴェィに見せる表情は俺には一度も見せたコトない素敵な笑顔に、ちょっと妬けちゃうけど

せりかちゃんのその幸せな笑顔はイングヴェィにしか引き出せないから

「よかったね…せりかちゃん…

おめでとう…イングヴェィ」

キラキラ輝いて見える

天から祝福の光が注ぐ教会で愛を誓う

この日が来るまで本当に長かったよ

だから…あれ、なんでだろう…

嬉しいハズなのに、泣けてきちゃった……

だってせりかちゃんが泣くんだもん…

幸せなハズなのに、泣いたりなんかするから…俺まで泣いてしまうでしょ

君は気が強くて俺にすら弱みを見せない人だったから、泣くなんて……変なの

君を泣かせる人は絶対に許さないって思うのに…

この涙だけは…邪魔しちゃいけない

これで良いんだって、俺は微笑んだ


「あ~ぁ、せりかちゃん人気者で全然近寄れないや」

披露宴の時もあんまりお話できなかったのに、二次会ならもっとお話出来て暫く会ってなかったから甘えたかったのに

ぷくーっと膨れていると

「せりかは主役だから仕方ないさ

そんな事より、はぁああああ」

隣でめっちゃ重く深い溜め息をつく俺の親友

「せりかがついに人妻になってしまった……」

「えっと……まぁ……レイはイケメンだから他に良い人がすぐできるよ」

慰めながらお酒をついであげると、レイは悪い酔い方をしてしまう

「そうだな、人妻でも構わないか」

えっ?俺の話聞いてた???よくないよね!?!?

レイとの出逢いはかなり特殊だったから、レイの気持ちを考えると複雑かな

本当はイングヴェィとせりかちゃんが先に出逢ってその時には2人とも両想いだったんだけど

なんやかんやあって過去が変えられて、せりかちゃんはイングヴェィより先にレイと出逢ってしまって

レイとせりかちゃんが良い感じになってたんだよね

せりかちゃんってイケメン好きだからコロッとレイに惚れてしまったワケで…

「せりかが私以外の男と結婚するなんて…

離婚するのを待ちます」

「えっ!?香月もせりかちゃんのコト好きだったの!?」

レイと反対側の隣に座っていた香月がまさかの発言に驚く

気付いてないのオマエだけって感じの周りからの視線を感じる

香月は毎年せりかちゃんにプロポーズしては断られていたと話してくれる

へー!!そうなんだ!?あの香月が!?

俺の後輩の香月が…ねぇ…??

ふふ、香月は俺と同じ存在だから人間じゃなくてね、しかも俺より年下なの

そう!俺の方が先輩なの!!!えばってないもん

だけど、香月は人間の生活に早々に馴染んで海外でお仕事するくらいのカッコいい大人の男になって

………あれ、同じ存在なのになんで俺だけ大人になれてないの???

「それだ!!明日別れないだろうか」

おめでたい日にやべぇ発言するアホ2人呼んだの誰だよ

って言うか、せりかちゃんって乙女ゲームのヒロイン並みにモテるけど

みんな良いの?性格ちょっと悪いよ?見た目は凄く若く見えるけどアラサーだよ?

そう言う俺も、せりかちゃんのコト大好きでたまらないんだけどね!!

「もう2人とも!!失恋して辛いのはわかるけど、せりかちゃんの幸せ壊したら怒るし絶交だからね!!」

「せり、大人の話に子供が口出す事じゃないんだ

君にはまだわからない事だろうが、大人には大人の」

ウザイなコイツ、レイはいつも優しいしカッコいいのにせりかちゃんのコトになるとキモくなる時がある

「そうです、せりも大人になればわかる事」

わかりたくないよ!?そんなドロドロななんか怖い感情!?

人を子供扱いして!!酷いよ!!

「いやいや!?ってか香月、翼隠してるけどまた真っ黒になってるんじゃないの!?

たまには確かめた方がいいよ!?死んじゃうよ!?」

2人とも危ない思考をしてるって思うでしょ

でも、本当は2人ともせりかちゃんのコト大好きだから

「みんなで楽しそうに何話してるの?」

楽しそうに見えてるのはアンタが浮かれすぎだからだよ

せりかちゃんはイングヴェィと一緒にやっと俺達の所へ来てくれた

「今日のせりかが一段と綺麗だって話をしていたのさ

おめでとう、せりか」

そんな話してたっけ?

レイはせりかちゃんに変わらない爽やかな笑顔で言った

「おめでとうございます、せりか」

香月も多くは語らない性格だし、あんまり表情も豊かな方じゃないけど

香月が珍しく微笑んでるのが、なんかよかった

2人とも、せりかちゃんが大好きだから

幸せを壊したりしない

ちゃんとおめでとうって伝えられる

だから、俺は2人とも大好きな友達

………イングヴェィもいるのに、イングヴェィにおめでとうはないの?

一切見ようとしない所が闇深かった

「せりかちゃん、今日は……」

みんなちゃんとおめでとう言えたのに

俺は…面と向かって、言えなくなる

嬉しいよ、せりかちゃんが幸せになった日だもん

それは本当

でも……もう……2人っきりで暮らすコトはないんだよね……

これからは変わっちゃうんだよね…

イングヴェィは俺も一緒においでって言ってくれてるし、せりかちゃんもそれを望んでるのに

今までが変わるコトが、変化するコトが

ちょっと不安だよ

俺がこんなんじゃダメなの…わかってるのに

「何も変わらないよ

せりくんと私はずっと一緒、何も変わらないから

いつも通りにしていればいいの

気を使うコトもないわ、イングヴェィもわかってくれてる」

そう言ってせりかちゃんはいつもと変わらない感じで抱き締めてくれた

安心する…君のぬくもりも匂いも声も何もかも

気を使わせてるのはいつも俺の方

……大丈夫、俺は

「せりかちゃん…イングヴェィ…おめでとう

幸せになろうね、3人で」

俺らしくいるのが1番、それがせりかちゃんの幸せだって知ってるから

イングヴェィは必ずせりかちゃんを幸せにする

だから俺もせりかちゃんを幸せにする

君が望むなら、ううん望まなくても、俺は永遠に大好きな君の傍にいるからね

「当然でしょ、せりくんがいなきゃ私は幸せになれないわ」

俺を抱き締めてくれるせりかちゃんと、そして俺とせりかちゃんを優しく包むようにイングヴェィが抱き締めてくれた

えへへ…嬉しいな

これからもせりかちゃんとずっと一緒だけど、それは嬉しいけど

でも…新婚旅行くらいは2人っきりにさせてあげ…

「ところで新婚旅行は何処へ行く予定なんだい?」

たいなって思ってたら、レイがその話題を振った

「ヨーロッパよ、ずっと行きたいって憧れてたの」

素直に答えるせりかちゃん

「へぇそうなんだ、偶然だなオレもちょうどヨーロッパへ行く予定なんだ」

ウソだろ?

「偶然ですね、私も仕事でヨーロッパへ行く予定です」

ウソだろ?コイツら…

その後レイと香月はせりかちゃんに日時や何処へ行く予定なのかとか根ほり葉ほり聞き出した

せりかちゃんは知らない人には警戒心強いけど、知った仲だと疑うコトなく素直だから全て話してしまった

「今から飛行機とれるかい?香月さん」

「任せてください」

ほら!?確信犯じゃん!?レイはプライベートで香月は仕事で偶然とか言っておきながら合わせてるもん!?

2人がもう新婚旅行まで邪魔する気じゃん!?

心が強すぎる!?好きな人が結婚して折れないどころか略奪を諦めていないけど!?

イングヴェィならわかってたんだろうけど止めなかった

チラッと視線を送るとイングヴェィは微笑むだけ

いや…この人が1番残酷なのかもしれない

2人が邪魔すると見せかけて、実は新婚旅行を見せ付けるなんて……

大人は怖いな~って、この3人から気持ち離れると

ふわって強い良い香りがした

「はい、せりくん」

せりかちゃんは結婚式で持っていた真っ白なブーケを渡してくれた

「わ~綺麗、せりかちゃんにとっても似合うお花だね良い香り」

真っ白な百合の花、それも香りがとても良いカサブランカがメインのブーケ

このブーケはせりかちゃんにとても似合ってて綺麗だったな

「このブーケをね、あちらの世界にいるセリカさんに渡してほしいの

いつもせりくんがお世話になっているお礼と、セリカさんの幸せを願って

私にそっくりなんだもの、幸せになってほしいの」

せりかちゃんはきっと気付いてる

少しの短い間でしか会ったコトないのに、あっちの世界のイングヴェィとセリカちゃんが両想いだけどなかなか進展しないってコトも

セリカちゃんには俺も幸せになってほしい

そうだ、俺はまだ終わってない

せりかちゃんが幸せになってよかったで終わりじゃないんだ

あっちの世界のセリカちゃんも大好きだから、今度はセリカちゃんが幸せになれるように見守りたい

俺のせりかちゃんよりちょっと気難しいんだよね、その辺

儚く消えてしまうんじゃないかって思うくらい不安定だ

「わかった!このブーケはセリカちゃんに渡すよ」

世界が違うものを持ち込むと時間が立てば朽ちてなくなっちゃうけど、生花だから最初から長く持つものじゃない

だけど、このブーケはセリカちゃんに幸せを届けるもの

あっちの世界のセリカちゃんにも凄く似合うお花だよね

新婚旅行は1週間後だから、ブーケを渡す余裕は十分ある

本当は新婚旅行くらい2人っきりにさせてあげたかったけど、レイと香月が不安で心配だから俺も一緒に行くしかないかな

まったく…でも、まぁ…本当にせりかちゃんが結婚しても変わらないってコトなのかな

良いのか悪いのか、でも俺はせりかちゃんとみんなが一緒なら幸せだよ

ずっと笑顔でいられるように、これからもよろしくね

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