第35話『強く願えば自分を守ってくれるから、俺は俺を守りたい自分を守ってみせる』セリ編
この死んだ世界でまだ生きていた住民の男達から追われながら、森の中を走って勇者の剣があると言われた神殿を目指す
もう少しで森が抜けられる
そう神殿が近付いて見えた時、女の自分のスカートに木の枝が引っ掛かり破れた
「あっ…!」
ちょうどポケットの所が破れたらしく、自分の大切にしているウサぐるみが地に転げ落ちる
足を止め振り向いて落ちたウサぐるみを確認した俺は考えるより先に拾い上げて自分に渡した
これは自分が1番大切にしてる物だって言われなくてもわかったからだ
「しっかり持っとけよ」
「うん…」
再び走ろうと自分の手を引っ張った時、もう神殿へ続く目の前には追ってきた男達に回り込まれ俺達は囲まれてしまった…
クソ…この死に損ないどもがッ
「もう逃げられませ~~~~~ん」
「久しぶりの女に興奮してきたあああ!!!」
俺は自分を庇うように背にした
目の前の男達はゾンビのようなくすんだ肌の色をしていたのに、女と言う存在の自分を見ては性的な興奮が高まったのかみるみる肌の色が赤く染まっていく
さらには一部の男達は背中から怪しい触手みたいなものまで出してきた
ちょっと何ソレ!?オマエ達人間だろ!?ウソでしょソレ!?
いや…おかしいコトじゃない人間は生き物は世界の環境に応じて進化し続けてきたんだ
この死んで腐った世界で生きる人間なら、こんな意味わからん化け物に進化してもおかしくはない
しかも脳内は女のコトしかないみたいだしな
それに特化したって言うのかよ…冗談じゃねぇぞ
「…気持ち…悪い………」
俺の背中で自分が恐いと俺の腕を掴む
「見た目はグロテスクでさーせん
でも、すぐに気持ちよ~くさせてあげますよ~~~」
俺は必死に考えた
後ろに逃げてもこの距離じゃ簡単に捕まる
だからと言って前に出てこの人数を武器もなしに突破なんてできるワケがない
魔法なんて回復しか使えないのに…
でも、こいつらには俺達への殺意はまったく感じられない
殺す気はサラサラないようだ
ただクズらしく自分の欲を満たしたいだけのおもちゃか何かと見られてる
それじゃ…一か八かでも、俺が一瞬の隙をついて自分に勇者の剣がある神殿まで走らせる…
勇者の剣さえあれば…なんとかなるかもしれない
「でも…」
俺の考えは言わなくても自分は同じ考えを持つ
俺が囮になるコトに不満そうだが、俺はアンタなんだから囮になるのはどっちでも一緒だろ
「…じゃあ行くぞ」
「…うん」
俺は1番ひ弱そうな男に向かって走り出した
ソイツは手斧を持っていたから構える
それで俺を脅したつもりか
「逃げないで自ら向かってくるなんて、勇者さん達もその気ね~~~」
バカ言え
俺は手斧を持つひ弱な男の目の前で力いっぱい踏み込んだ
コイツを踏み台にして…って考えていたら、背中から触手を持っていた男が俺の首に巻き付き引きずり下ろそうとする
でも、超ナイスなタイミングで自分が俺の後ろから俺を踏み台にして男達の上を飛び越えた
その息の合いすぎた(自分なんだから当たり前)俺達の行動に一瞬信じられないと男達が目を見開く
でも、すぐに気付いた触手持ちの男が神殿に向かって走る自分の右足を取った
「バカが、んなこた予測済みなんだよ」
俺がなんでこの手斧持った奴を選んだか
ひ弱そうだから楽々飛び越えられたらラッキーなのと
俺はおもいっきり自分の右足を男の持った手斧へと蹴り上げる
すると、綺麗に俺の右足は切断され自分に絡み付いていた触手から逃れるコトができた
瞬間回復魔法で何事もなかったかのように自分の右足は再生され、自分は後ろを振り返らずに神殿だけを目指して走る
やっぱりあれは俺なんだな…
俺が傷付けば、自分にも同じ場所に傷が付く…
試したコトはなかったケド、わかってた
だからこそこの作戦を思い付いたんだよ
「ぶったまげた
勇者はその回復魔法で無茶をするって聞いた事がある」
「ふん、勇者の剣を手に入れたら全員ぶっ殺してやるから覚悟しとけよ」
首に巻き付いたままの触手がヌメヌメしてて気持ち悪い
その触手が俺を引っ張った
俺がまた何か仕出かすのを警戒して手足を拘束してひざまずかせる
「はぁあ?何か勘違いしてるね~~~~
オレらの仲間がこれで全員だって思う勇者は甘い甘い!!」
「ちゃんと集合かけときやした!!」
な、何言ってんだ…
こんな死んだ世界にまだ仲間がいる?って言うのかよ
それが…俺を…自分を捕まえると言うのか
「数十年振りの女と聞いて逃がすわけないっしょ
皆、楽しみにしてるからしっかりと全員の相手してちょーだい」
「く…クソが……」
吐き捨てた言葉は自分が神殿にたどり着く前にコイツらの他の仲間に捕まったんだとわかった
見えなくても、身体で感じるから…
俺はなんてバカだったんだ
とにかく自分を神殿へと逃がすコトしか考えてなくて、もしかしたらなんてコトまで考えなかった
いや…もしかしたらなんてどうしようもないコトを考えるのがイヤだったのかもしれない
今となっては絶望しかない
何もどう抗っていいかわからないから…
やっぱり……弱い俺には逃げるコトも戦うコトもできないんだな
いつものコトじゃん…こんなの
「どうせなら勇者が会いたがってた勇者の剣の目の前でお楽しみとしましょーや」
「いいですなーそれ
勇者の唯一の仲間(笑)だった剣の前でするとかさらに興奮ものですな」
死ね…こんな奴ら今すぐ死ねよ
俺は自分が先に待つ神殿の中へと引きずられていく
神殿の扉が開かれるとこの死んだ世界の外と違って綺麗な空気と神聖さがある
神殿の中は綺麗で汚れの1つもない
セレンの国とはまた違った感じの清らかな場所だった
「今まで扉がびくともしなかった神殿が勇者が来たってだけで簡単に開きやがりやしたね」
「勇者がいれば開くと思ってた~~~」
神聖な神殿の中がクズな人間どもの進入でどんどん目に見えて穢れていくようだった
やめて…汚さないで……綺麗な場所が…泥だらけになるよ……
神殿の奥には朽ちて今にも風が吹いただけで消えてしまいそうな剣らしきものが台座に置かれていた
その姿はさらに俺を絶望として襲う
あれ…が、勇者の剣?そんな……ウソだ
あれじゃ……もし自分がここにたどり着いていたとしても、まったく…使えねぇじゃねぇか……
台座の少し前に捕まった自分がいる
「もう…ダメなんだね……」
完全に諦めたその顔は心あらずって感じだった
そりゃそうだ…こんなざっと見て50人もいたら、どう足掻いたって弱い自分にはどうしようもないって
言われなくてもわかるもん……
一度に50人か…さすがに、死ぬかもな……
「大丈夫、我慢してたらいつか終わるから大丈夫だよ」
今から自分がどんな目に合うかなんて今までの経験からしてわかる
抵抗したってイヤなコトが長引くだけだってのも知ってる
弱い自分が勝てるワケもない
だから、諦めて耐えて終わるのを待つ
心なんてとっくの昔に死んでる
なのに…
「久しぶりの女なんだ
皆に行き渡る前に壊すな殺したりもするな~~」
「男でもいい奴はそっちの勇者も好きにしろ」
俺と自分を囲む男達は半々くらいだった
自分に最初に手を出したのはリーダーっぽい奴
自分はそいつに強く服を捕まれて破かれた瞬間
凄く怯えた顔をして涙を浮かべる
恐い苦しいイヤだ汚い気持ち悪い…そんな気持ちが強く身体を駆け巡る
…なんで…そんな……顔
いつも諦めてたよ!?早く終われって祈りながら耐えてたじゃん!?
なのに
なんで今になっても……
心は死んでなんかいないまだ壊れてなんかいない
ちゃんと感じるわかってる伝わってくる
「……だから…やめろよ…そんな顔するなよ……!!」
本当は本当は何度だって恐いよ
イヤだよ気持ち悪いよ
憎いよ苦しいよ悲しいよ
誰か助けてって願った所で誰も助けになんか来てくれたコトなんてなかった!!
俺がこんな顔して泣いてるのに!?
俺自身すら助けてくれなかったよ!!!
俺を…自分を泣かせてるのは……すぐに諦めて心を殺してきた……俺なんだって、言うのかよ!!!??
「セリカっ……そうなんだな……」
本当は自分に見捨てられるのが1番イヤだった
誰も助けてくれないなら、せめて自分だけでも自分を助けてほしかった
どうせ何もできない弱い自分を知っていたから、だからってもう仕方ないんだって諦めるってコトは
俺はずっと自分を見捨ててきた
どうせ、同じ結果になるってわかってても
勝てないとわかってても
最終的に負けたとしても
せめて…俺だけでも自分を、最後の最後まで何度だって見捨ててほしくなかった
自分の1番の味方は俺だけなんだって…
今、やっとわかったよ……
悪かった…セリカ……ずっと自分を泣かせてたのは俺だったんだな
俺はこの瞬間、はじめて自分を受け入れた
その弱さも憎しみも苦しみも悲しみも全て俺が背負わなきゃいけないコトだ!!
「うわっちちちち熱ーーー!!??」
「急になんだ!!!??」
俺達に群がっていた男達が熱い熱いと騒ぎ出して身を引いたコトに気付く
抑えられていた身体は自由になり、自分の手を見てみると綺麗な色をした炎が身体全体を覆っていた
「…もしかして……これが俺の炎魔法……」
今まで見た火の中で1番綺麗な色をした炎だ
自ら光を発してキラキラとした赤色の…天の色……
男達は熱いと騒いでいるケド、俺もセリカもまったく熱さを感じていない
俺の身体を覆って守ってくれた炎は少しすると右手の中に集まっては1本の炎の剣として形を変え俺に委ねる
「俺に力を貸してくれるんだ…な」
炎魔法は自ら意志があるかのように、俺が自分で解決しなくちゃいけない想いに応えてくれたようだ
炎は魔族以外に弱い俺を守ってくれる唯一の魔法だった
俺はセリカとの間にいる邪魔な男達を睨みつける
もう俺は自分を見捨てたりしない
諦めたりなんかしないから、俺は自分を…セリカを助けてみせる…!
「は~~~ん!?いきなりの炎魔法に一瞬びびっっただけで、この大人数に勇者1人で勝てるつもり~~~~~~!!!??」
「例え、勝てなくても意識がある限り俺は抵抗するコトをやめたりしねぇ
そこをどけよ!!!
俺はセリカを助けてみせるから!!」
「セリくん……」
また触手が俺を捕らえようと飛んでくるが、そんなワンパターンは予測済みな俺は炎の剣でたたき落とす
それを見た男達は一斉に襲い掛かってくる
全部を相手にできるほど俺は強くない
とにかくセリカとの間にいる目の前の敵を倒してその道を開きたかった
背に受ける攻撃なんて平気
俺には瞬間回復があるんだからな…
「ちっ、女こっちに来い!!」
「イヤ……」
男の俺より女のセリカのほうが弱いと判断した男の1人がセリカの腕を強く引っ張り奥に連れて行こうとする
「汚い手で触らないで…」
でも、俺が炎魔法を使えるようになったならセリカも炎魔法が使えて同じような炎の剣を手にして自分を連れていこうとした男の腕を切り裂いた
俺達の間にいた邪魔な敵は片付けて
やっと自分の目の前まで来たよ
「セリカ!!」「セリくん!!」
お互いに手を伸ばし、やっとその手を掴むコトができた
もう目の前に俺がいるコトに、セリカは安堵の笑みを見せる
よかった…もう、俺は自分をセリカを見捨てたりしない
もうセリカのあんな顔を見るなんて絶対イヤだから
セリカを泣かせる自分を俺は許したりしないから
俺は自分の誓いの意味を込めて、セリカの唇に自分の唇を重ねた
「すまなかったなセリカ…今までずっとオマエを苦しめてた
でも、もう俺は自分を苦しめたりしないからな…
大好きだよ俺は自分がセリカが……」
「セリくん…嬉しい
ありがとう…私も、やっと自分が大好きになれた……」
はじめて会った時、俺はセリカを一度見捨てて逃げ出した
その弱さを受け入れるのが恐かったから、押し潰されそうだったから
でも、今は違う
セリカを受け入れた今
それをセリカもわかっていて、さっきまでの俺への不信感は消え去り
信頼の眼差しを向けてくれる
自分に好かれるってこんなにも…嬉しくて幸せなコトだったんだな
俺は元から自分大好きだったケド、弱い自分は大嫌いだったから…
弱い自分がいなくなった今ちゃんとセリカに愛されてる気がする
俺も…自分が、セリカが好きだよ
愛してるもん…
誰も助けてくれなくても、俺だけは自分を…助けるから
「……早く…帰ろうな…」
セリカの俺を見る眼差しは優しかったけれど
その身体は複数の男に触られて汚れてしまっている
せっかく可愛い服を着ていたのに、破かれて……
こんな姿になっちまって…
やっぱり男なんてクソだよな!!
いつもいつも俺達の身体を自分の欲を満たす為だけに好き勝手しやがって!!
俺達は男のおもちゃでも道具でもなんでもないのに…
目の前にいる自分の姿が俺自身をも映していた
「う…くっ」
俺は右腕の違和感に気付いて視線を向ける
飛んできた手斧に右肘から下が切断されているのが見えた
あれ…おかしいな……瞬間回復が……追いついてない……?
その時、俺はユリセリさんの言葉を思い出した
勇者の剣は勇者に底無しの魔力をくれるものだって話…
それはつまり…勇者の剣がない今の俺には魔力に限界があるってコト…?
それに気付いた時は目の前のセリカは頭から血を流し、両足が引きちぎられて地面に俺と一緒に崩れ落ちる
微かに残る魔力で痛みを感じないようにして意識は保てるが
両足、右腕がなくなった今…どうやって……
この状況を抜け出せって言うんだよ……
「おい、やりすぎだやめろ
勇者達はもう瞬間回復が使えないようだ
これ以上やるとオレらの楽しみがなくなる」
男達は俺達の動きを封じたコトでこっちの様子を見ながら静かに近付いてくる
「セリ…くん……」
「大丈夫…絶対…」
俺は残った左腕でセリカの腰に手を回し引き寄せた
大丈夫だって言ったのはウソになるかもしれない
だって…こんなのもう何もできねぇんだもん……
いやだ……イヤだ……
やっと自分を助けられると思ったのに…
諦めたくない諦めたくない諦めたくないよ……
この感情、はじめの頃を思い出す
俺ははじめから諦めていたワケじゃない
何度だって抗おうとしたさ
でも、非力な俺は弱い俺は結局何もできなかった助からなかった
だからもう…いいやって…諦めて流されて……
また俺をめちゃくちゃに壊されてしまうのかと…思うと…
イヤだよ
せっかくセリカを受け入れて俺が守るって誓ったのに…
視界が霞んでいく
それは命が切れる前触れなのか、ただ悔しくて悲しいから…涙が流れるのか
-続く-2015/05/06
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