第34話『過去のライバルは現在もライバル』イングヴェィ編

「えっ!?セリくんとセリカちゃんが前世の勇者の世界に行ったの!?」

この城にユリセリさんがセリカちゃんに会いに来たと聞いて、ユリセリさんに挨拶しに来てみれば信じられないコトを言われた

「うむ、勇者に勇者の剣は必要不可欠であろう

もう死んでいる世界だ

それほど危険もないと思ってな」

ゲストルームで優雅にお茶をしているユリセリさんと違って俺は気が気じゃなかった

「いやいや!!もしかしたらってコトもあるかもしれないじゃん!?

100%安全じゃないなら、そんなのダメだよ!?

俺は2人が心配でたまらないよ

ユリセリさん、俺を今すぐその世界に送って」

「イングヴェィは心配性だな

あまり過保護にしすぎると何も出来ない子になってしまうぞ

お前はあの2人に、自分で解決してほしい事があるのだろう」

「そ、そうだケド…

でも……なんか凄くイヤな予感がするんだもん……

だって、俺達の知らない世界なんだよ?

そこにセリくんとセリカちゃんが…」

ユリセリさんは別世界を鏡で覗けるから何も言わないってコトは今は大丈夫なんだと思う

でも、これから危険になる可能性があるから心配なんだ

俺がそう話していると、ゲストルームのドアが静かに開いた

ここは大部屋だから何人も客人を迎え入れるコトができる

今はたまたまユリセリさんしかいなかったケド、ドアが開いて誰かが入ってきたコトで俺は口をつぐんだ

「セリが…別世界にいるだって……?」

部屋に入ってきた声に俺は聞き覚えがある

「レイくん…どうしてここに?」

まったく考えもしなかった

レイくんが俺の城へ来るコトなんて…なんで…

セリカちゃんから遠ざけてるのに、レイくんは少しずつセリカちゃんに近づいてくる……

「女神セレンから聞いたんだ

セリが暫くこの城にいるって、だから会いに来た…」

レイくんをこの部屋に案内した仲間がドアを閉めて去っていく

セリくんはレイくんと喧嘩してるって言ってたから…仲直りしに来たってコトだろうか

今セリカちゃんがいなくてよかった…ってホッとしてる自分がいる

「なんだ貴様は、セリの彼氏か?」

「違うよ!?」

ユリセリさんのレイくんへの質問に俺がセリくんの変わりに全力で否定してあげといたからね!

「セリが別世界にいるって詳しく話してくれないかい

危険なんだろう?」

「レイくんには関係ないコトだよ

セリくんもセリカちゃんも俺が守ってあげるから、大人しく待ってて」

一応お客様だから俺はその辺にある新しいカップに紅茶を注いでレイくんに渡して座るように言う

「関係なくない…

セリはオレの大親友なんだ

危険な目に合ってるなら助けに向かうのが当然だろう」

「人間の癖に何ができるって言うの?

確かにレイくんは人間にしたら強いケド、セリくんは勇者なんだよ

魔王と戦ったりするの

いつか君はそんなセリくんについていけなくなる

守るどころか足手まといになるんだもん

あんまり…こっちのコトに首を突っ込まないでくれる?」

「そんな事…言われなくてもわかっているさ

それで喧嘩した事だって、オレが悪いってわかってるつもりだ

あんた…はじめて会った時からオレに対して敵対心剥き出しだが、どういうつもりなんだ?

今セリが危険かもしれないこの状況で、あんたにそんな事言われるのは違う」

うっ…俺はレイくんにライバル心剥き出しで、話を反らしたかもしれない

今の状況なら協力するのが正解なのに

だって……俺はレイくんが嫌いなんだもん…

レイくんに対しては嫉妬の塊で少しの優しさもかけてあげるコトができなくなる

俺はレイくんを目の前にすると余裕がなくなる

セリカちゃんを奪われるんじゃないかって…コトばかりが頭の中を不安が広がるの

レイくんはまだセリカちゃんに出逢ってもいないのに…

前世のコトを覚えてるのは俺だけなのにね

2人はカケラも覚えてないよ…

「私が話を戻してやろう

別世界に行くには大量の魔力が必要なのだ」

俺はいざって時の為に前から魔力を溜めておいた

その宝石を取り出してユリセリさんに渡す

「大量の魔力…」

レイくんは知らなくてそんなものを用意してるハズもなかった

「お前達が喧嘩するのは勝手だ

だが、別世界に行って2人に会うと言うなら大量の魔力がなければ話にならんぞ」

ユリセリさんは冷たい視線をレイくんに向けた

普通の人なら、人外でさえ失神するようなユリセリさんの鋭い視線を受けてもレイくんは臆するコトがない

「大量の魔力があれば…セリに会えるんだな」

「1日すれば帰ってくるから会いたければ待っていればいい」

「いや…危険な目に合うかもしれないと思ったら待ってなんていられない

1時間で…用意してみせる」

そう言ってレイくんが部屋を出ようとドアを開けるとまた別の誰かが入ってきた

長身美形の人間の男…

その人はレイくんも顔見知りなのか鉢合わせして驚いている

俺も驚いたよ…その人に

だってまさか…この城に

「香月くん……」

魔王が訪ねてくるなんて思いもしなかったんだから…

「忌ま忌ましい神の地…

やっと離れたセリをさらいに来たのです

イングヴェィ、私にセリを渡してください」

正面から当たり前のように入ってきて誘拐宣言!?

別に敵対してるワケじゃないケド、俺は一応プラチナの力がほしい香月くんから命を狙われてるんだよ

リジェウェィの結界で平和ボケしたこの城の警備なんてなかった

香月くんならリジェウェィの結界くらいなんでもないし

でも最近はそんなコトがないから諦めてくれたのかな~…なんて思ったりして……そんなに甘くはないか

そっか、香月くんは最近までセレンさんの所にいたセリくんには手が出せなかったんだ

俺の所に来ているのを何かで知ったんだね

「別にいいケド、今はいないよ」

「おいちょっと待ってくれないか

別にいいってイングヴェィあんた何言ってるんだ?

この男が何者か知らないのかい?」

「知ってるよ魔王でしょ」

俺はセレンさんに勇者の保護を頼まれて引き渡した

その役目は終わったもん

セレンさんと同盟関係ではあるし、魔族と戦うコトもあるかもしれない

状況が変われば同盟破棄もありえるし

でも、香月くんがセリくんをどうするかなんてのは俺が口出す問題じゃない

セリくんがイヤだって言うなら俺はセリくんの味方をするだけ

レイくんは俺のいいよ発言が許せないみたいで怒りに震えてるケドね

「生きていたんですね人間の青年」

香月くんは今レイくんの存在に気付いたと見下ろす

「あの時は本気で死ぬかと思ったよ」

レイくんは確かに恐怖を感じてる

でも、人間が香月くんの目の前にいて気がおかしくならないなんて…

普通ならその恐怖に発狂して死んじゃうのに

ユリセリさんの時も思ったケド、やっぱりレイくんは普通の人間みたいに甘くはないんだね……

「今はここにいないとはどういう事ですか」

香月くんはレイくんにはこれっぽっちも興味がないみたいで俺の近くまで来るとユリセリさんを見る

「別世界にいるのだ

セリの前世の世界に…勇者の世界だ

魔王のお前の世界でもあるな」

「懐かしいですね…何も思いませんが

私はセリと同じ世界なら何処でもいい

そうですね…ついでに、ないとは思いますが私は自分の魔王の力も探してみましょうか」

ついでなの!?俺のプラチナの力は諦めて本来の魔王の力を探してよ本気で!!

ユリセリさんの能力を知っている香月くんは黙って魔力を溜め込んでいる宝石を取り出した

自分も連れて行けってコトだ

俺の溜め込んでた宝石よりずっとたくさんの魔力がある…

力の差を感じるようだよ

香月くんと俺は準備ができている

後はユリセリさんの力でその世界に送ってもらうだけ

「……っ」

圧倒的な存在の違いにレイくんは劣等感を強く抱きながら部屋を出ていった

仕方ないよ…俺達は君とは違う

君は弱い弱い人間なんだもんね…

本当に1時間で必要な魔力を溜められるのかな…

と俺はレイくんの背中を見てすぐに目を反らした

だって俺が気にかけるコトじゃない……

「今からお前達を勇者達の世界に送ってやるが、確認の為に話しておこう

この世界はすでに死んでいる

空気が死んでしまっていてな

ないわけではないが、生物には有毒になっているのだ

そのせいで生物は死滅している可能性が高い

勇者達は回復魔法で何ともないが、人間の身体の魔王とプラチナの力がないイングヴェィでは息苦しく感じるだろう

きっと1日その世界にいる事は出来ないはずだ」

生物は死滅している可能性が高いか…

でも、環境に適して進化する生き物はたくさんいるから…俺の心配は消えなくて

なんだか凄くイヤな予感がするんだ

ただの心配性なのかな…

思い過ごしならいいんだケド…

早く無事であるコトを確認したい

セリカちゃんの傍にいてあげたいよ

「半日だ

それが今のお前達の身体の限界だな」

「そうですか…毎日嫌になります

人間に生まれ変わった事が屈辱でたまらない

本当に弱くて何も出来ない下等な存在」

「香月くんは今は人間かもしれないケド、もう人間辞めてるくらい強いから気にしなくていいと思う」

もう今じゃ世界中の誰もが香月くんがまだ人間であるってコトは忘れてると思う

ユリセリさんはついさっき力を使ったから、1時間待ってくれと言った

別世界から物や人を取り出したり呼び出したりするより、別世界に自分や他人を送るほうが大変で疲れるみたい

1時間…それってレイくんが魔力を溜めて帰ってくる時間だよね……

いや…無理だよ

人間なんだよ人間がユリセリさんの力が必要とする魔力をたった1時間で集められるワケがない……

俺の心臓は動かないのに焦りと不安で動悸がするようだ……

部屋の中で待つコト30分、とくに会話はなく時間だけが過ぎていくとこの部屋のドアがまた開く

「用意してきた…これでオレも一緒に連れて行ってもらえるな」

ウ、ウソでしょ……

俺はレイくんの帰りに目を疑った

1時間どころかたった30分…ふざけてんの?

そんな…焦るコトなんてない

きっと足りないよ…

レイくんは魔力の宝石を2つユリセリさんに渡した

「ふむ…良いだろう」

「ユリセリさん本気!?本当に魔力足りてるの!?」

「外にいる大量のモンスターと」

レイくんは窓の外を見つめる

リジェウェィの結界の外には無謀にもこの城を攻めようとたまにモンスターやらなんやら敵が騒いでるコトが多い

確かにあれらの魔力をかき集めれば…

「以前、下級悪魔の大群と遭遇した時に魔力を貰っていたのを思い出したんだ」

それって俺がはじめてセリくんを見つけた時のコト…だよね

キルラに仕返ししようと来た悪魔達に巻き込まれて

下級悪魔達の魔力と外の奴らを少し倒せば充分な魔力は得られる

30分もあれば………そう、ラッキーだったねレイくん

「イングヴェィ、言いたい事はあるだろうがこの人間は私が言った魔力を用意したのだ

私は言った事は守る」

「…………………。」

悔しいケド…ユリセリさんが言うなら反対できない

レイくんがついにセリカちゃんに出逢っちゃう……

そんなの……イヤ

弱い人間がセリカちゃんを守れるなんて、ぜっっったい出来ないんだから!!

俺はきっとこれからもレイくんを人間だと見下して、それで余裕だと思い込んでたいんだろう

レイくんは普通の人間じゃない

彼の想いは人間をも超えるんだよ

いつか俺を超える力を手に入れる可能性だってあるのに…

それを想像するのが恐い……

負けたくないから……

レイくんがどんなに強くなったって負ける気なんてしないハズなのに

いつまでもレイくんを人間だからと見下していたいの…

俺はあの時からずっと怯えてる

セリカちゃんの前世の世界でレイくんに会った時から…

最後は俺が勝ったよ…ちゃんと殺したよ…

なのに…レイくんは…『次は負けない…この先、何度あんたに殺されたって……必ずセリカを』って言ったんだもん!!

不老不死じゃないくせに!!

しつこいんだよ!!!!

永遠のように生まれ変わって、記憶も何もかも忘れちゃうくせに

生まれ変わるなら新しい人生を楽しめばいいのに…

レイくんはセリカちゃんを捜してる…

大切な何か…わからないって言うのに…魂からもうわかってる

レイくんはセリカちゃんの運命の人じゃない…絶対に2人は結ばれないってわかってるよ

それでも、レイくんの運命に抗う強さは…運命を変えてしまうかもしれない……ってあの時に思ったんだ

………邪魔するもん…

俺は絶対にセリカちゃんを誰にも渡したくない

例え…セリカちゃんが俺を愛してくれなくても……離さないから

奪おうとする奴は殺す…

レイくんはセリくんの大親友って立場で厄介だから…もうダメだって思う時までは生かしておいてあげる……

本当はこの焦りも怯えも消し去るように、今すぐにでも殺しちゃいたいんだケドね……

「どうしたのだイングヴェィ、急に顔色が悪くなったが」

過去のコトを思い出していると自分を追い詰めたみたいでそれが顔に出ちゃったみたいだ

ユリセリさんが声をかけてくれた

「いや…ちょっと昔のコトを思い出しちゃっただけ

もう大丈夫、今はセリくんとセリカちゃんが心配だからユリセリさんお願いするよ」

「そうか

それと、レイだったか…お前の身体であの世界に耐えられるとは思えない

長くて1時間だ」

「わかった…」

1時間…1時間、レイくんにセリカちゃんを会わさなければいいんだ……

レイくんの返事を聞いたユリセリさんは俺達3人を前世の勇者の世界へと送る準備をする

待っててセリカちゃん、今行くからね



-続く-2015/04/15

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