第36話『ウソだろおおおおおおお!!!!???…まっいっか』セリ編

男達が俺とセリカを覗き込み手を伸ばしてくる

やめろ…触るな……クソ野郎ども……セリカに触ったら、ぶっ殺す

そう思った時、俺とセリカを覗き込む男達の首が一瞬にして吹き飛んだ

どうやってこの場を切り抜けるか必死に考えていたのに、もうそれが必要ないと言うような状況が目の前に広がる

「なっ…どういう…コトだ……」

男達の汚い血が降りながら倒れていく

「セリくん!セリカちゃん!!」

微かに誰かが俺とセリカの名前を呼ぶ声が聞こえる

そんな中で他の男達は何事かとざわめいているが、何もできないまま身体が破裂したり引きちぎられたり切り裂かれて次々と絶命していった

何が起きているのか…それは魔法なのか?

そうだと言うなら、えぐい魔法だな

「この魔法…やっぱり香月くん」

この声…イングヴェィか

それと香月もいるって言うのか?

「生物が存在しない死の世界ではなかったのですか」

「2人とも…だい…じょうぶ…じゃなさそうだね」

あっという間に男達を殲滅した香月とイングヴェィは俺とセリカに近付く

イングヴェィはセリカの姿を見てショックを受けているのか固まっている

香月は俺の姿を見ても何とも思わないのか普通に俺を抱き上げた

「香月…」

「その格好だと風邪を引きますね」

そこ!?気になるトコそこなの!?

右腕両足ないコトは気にならないのかこの魔王!?

香月は自分のマントに俺を入れてくれた

意外な行動に魔王の恐怖とやらもなくなって

なんだ…か、スゲー落ち着く

それは香月が人間でとても温かったから……

一応、心配してくれてるってコトでいいのかな?

でもなんだろ…凄く安心したってわかった

俺は助かったんだ

目の前のセリカにイングヴェィは一瞬躊躇った様子を見せたが、しっかりとセリカを抱きしめてあげてる

イングヴェィの冷たい体温が俺にも伝わってくる

イングヴェィは自分のない体温が人間のセリカには冷たく感じるコトをわかっていたから

今の寒そうなセリカを抱きしめるのが自分でいいのか迷ったんだろうな

でも、冷たいとかそんなのどうでもいいんだよ

今はとにかく抱きしめてほしかった

やっと助かったんだって実感できるから…

誰も助けてくれなかった俺とセリカを…こうして助けてくれる人がいたんだってコト…ちゃんと知りたかった

はじめてだったから…誰かに助けてもらったコト

イングヴェィはセリカに何か話しかけてるケド、俺には聞こえなかった

……違う…意識が遠退いていってるんだ

安心して…しまったから…でも、このまま眠ったら…死ぬかも

「セリ、早く勇者の剣を手に取ってください」

「えっ…でも…勇者の剣は……」

香月は俺を勇者の剣がある台座まで連れて行ってくれたケド

そこにはもう朽ち果てて剣の跡形もない

風化されてほぼ砂となってしまっている

「勇者の剣は勇者の為だけの剣です

貴方と共にいなければ生きてはいけません

少し運命がズレてしまい別の世界に転生してしまった貴方ともう二度と出会う事がないとわかっていたのでしょう

それでもこの剣は貴方を待ち続けていたのです

こうして…死んでも貴方だけを待っていたのですよ」

ちょっと…香月は魔王で敵である勇者に最強の剣をそうやってすすめていいのかよ…

魔王からしたら自分を倒すコトのできる勇者に最強の武器を勇者の剣は持ってほしくないだろ!?

「死んでも…俺を待っていた……」

でも…勇者の剣は死んだ世界を存在させてまで

ずっと…俺を待ってたんだ……

死んでも死にきれず

そして…諦めなかった

俺がいつか来てくれるって信じて…待ってたのか……

「そうなんだ…俺にはオマエの記憶なんてこれっぽっちもなくて……

なのに…ずっと俺が来るのを待ってくれてたなんて…

すまない…それから、ありがとな……」

俺は左手を伸ばし、朽ち果てた勇者の剣に触れる

すると、勇者の剣は死の姿からやっと甦る

勇者が生きているなら自分が生きているのも当たり前のように

朽ち果てて風化してほとんど砂になっていた勇者の剣は本来の姿を取り戻した

「ただいま…」

俺がそう言って、勇者の剣を左手で持ち上げる

その瞬間、底無しの魔力が俺に与えられて一瞬で失った身体の部位が再生し至る所にあった怪我も治った

薄れていた意識もハッキリする

あとなんか弱かった身体も少し楽になったような気もするし、心も少しだけ強くなったような!

そう…少しだけ……!!

勇者の剣は羽根のように軽かった

見た目は綺麗でやっぱり神聖な感じがする

そして…刃が水に濡れて滴っていたから、何でだろうと思ってなぞるとさらに水があふれてきた

あぁ、そうか…オマエは俺に会えて嬉しくて泣いてるんだな

喋らないし動かないケド、それでもこの剣には俺を想う心だけがあった

「…それが…勇者の剣?

とっても綺麗な剣……」

セリカが興味津々に近付くと、勇者の剣は刃の部分を真っ赤にしている

んだよコイツ、オスかよ

女の勇者(セリカ)を目の前にしていっちょ前に照れてやがるぞ

「そういえば、勇者の剣は勇者以外触れないって話だけど

どういう感じなんだ?触ろうとすると静電気みたいにバチッてくるとか、スゲー重くなるとか?」

勇者の剣をセリカに渡して俺は気になったコトを香月とイングヴェィに聞いてみた

「私は触れようと思った事がありません」

だよな…魔王だし

「ん~そうだね

勇者の剣は心理的に凄い来るって感じかな

触ろうと思えない手を伸ばせない

絶対に触ってはいけないと思いこまされるみたいな…

恐怖や嫌な気分にして支配してくるワケじゃないんだケド

とにかく、触れないと強い思い込みを与えてくるの

魔王の香月くん、プラチナの俺でさえそう思わせてしまうから

それも含めてセリくんだけの本当に凄い剣なんだと思うよ」

底無しの魔力を与えてくれる剣だもんな…

それは他の人だって喉から手が出るほどほしがるのかもしれない

でも、勇者は魔族以外には弱い

勇者の剣が誰にでも持てるんだったら、きっと勇者は永遠に勇者の剣を手にするコトができない

勇者の剣は本当に勇者の為だけの剣なんだ…

剣本人が1番それを自覚し理解して勇者にだけ忠誠を誓ってる…

「その剣…セリカが持っててくれよ」

「えっ?でも…これはセリくんの……」

「オマエは俺なんだからどっちが持ってたって一緒だろ」

俺達はこれからずっと一緒にいるワケじゃない

セリカとずっと一緒にいたいケド、俺はセレンと勇者契約してるから帰らないとだし

セリカはイングヴェィといたいハズ

だから…離れ離れになっても勇者の剣ならセリカを守ってくれるから

持っててほしいんだ

セリカが持っているだけで俺にも勇者の剣の加護を受けるし問題ない

「セリくん…」

俺の言ったコトを聞いて気持ちもわかった勇者の剣はいきなり光輝いて変形した

刀の形に姿を変え、刃はほんのり淡いピンク色に

宝石などの装飾で着飾り、セリカ受けしそうなデザインに

おまけにセリカの大切にしているウサぐるみもストラップみたいに付けてる

「綺麗な剣がさらに綺麗になった~

これなら私のウサぐるみもいつも一緒」

おいこら待てや!!!

この剣、色気づきやがって女の俺に好かれようと姿形まで変えて媚び売ってやがんぞ!!

さっきまでの長年の付き合いしてきた勇者の俺との感動の再会が霞むくらい

あっさり俺が女ってだけで急にデレデレして態度変えやがった!!

「ま、まぁいいケド…

喋らなくても動かなくても物だったとしても

そいつオスみたいだから、セリカは着替えとか気をつけろよ」

俺がそう言うと剣は刃を真っ赤にしてる

この真っ赤の意味は怒ってるな

なんでかわからんがわかる

セリカの着替えを期待して見るつもりだったのかよ!?

こいつエッチな剣だな!!へし折ってやりてぇよ!!?

「さて、早く帰りたい所だけど1日経たないと帰れないんだったな

香月とイングヴェィは一緒に来たのか?

2人は友達には見えないケド…」

「色々あって香月くんとは一緒にユリセリさんにこの世界に送ってもらったんだよ

この世界についた時はみんなバラバラだったんだケド、この神殿で2人とそして香月くんと合流できたね」

ふ~ん、イングヴェィはセリカが心配で来たとして

香月は…なんで来たんだ?

「えっみんな?ってコトは香月とイングヴェィ以外に他に誰か?」

「レイくんだよ

セリくんが心配でっ…てハッ!?」

イングヴェィはセリカを見て自分の口に手を当てた

「香月くんと俺以外、他は誰も来てないよ!!」

明らかにイングヴェィはウソをついてる…

前からセリカをレイに会わせたくないみたいなそぶりを見せてるし

なんでそんなに隠すんだ?

レイは俺の大親友だからいつかセリカにも会わせたいのに

でも…そっか、レイは俺を心配してきてくれたんだ……

喧嘩してるのに…レイは前に言ってくれた「オレは絶対にセリを見捨てたりしない!」って言葉を守ろうとしてくれたんだな

帰ったら…仲直り…できるかな

レイ……


帰るのに1日経つのを待たなきゃならない俺達はヒマをしていた

腹が減ったから何か食べるものがないか二手に分かれて探すコトに

そして俺は香月と食べるものを探して夜になった空を見上げながら歩いていた

えっ…魔王と勇者、100%敵同士を2人っきりにして大丈夫なのか!?って気付いたケド

まぁいいか

そんなコトより俺は風呂にも入りたいし、服だって香月のマントを借りて身体に巻いてるだけだし

とにかく早く帰りたいって気持ちしかない

さらに人間だからこの空腹感…辛い!

1日くらい何も食べなくても死にはしないだろうケド

お腹空いたら全てのやる気をなくすよな

「あっ…湖!?」

歩いていると目の前に月明かりに輝く小さな湖を見つけた

「死んだこの世界にもこんな綺麗な所がまだあったんだな!」

俺は走って湖に近づきその水を掬う

透き通る綺麗な水は変な匂いもしない

喉も渇いたし…とちょっと飲んでみると、めっちゃ美味かった

「セリがこの世界にいるから一時的に息を吹き返したのかもしれません

この世界は私と貴方で生きていたようなもの

勇者の剣を持って、この世界から離れてしまえば

この世界は跡形もなく消え去り、二度と存在しなくなるでしょう」

「そうなんだ…」

よくわかんないケド、こんなに綺麗な湖が…俺がいなくなると消えちゃうんだ……

なんだか寂しいな……

「ちょっと身体洗っていってもいい?

もうこのベタベタ汚いままってイヤなんだもん」

後でセリカにも教えてやらないと

「それは構いませんが

綺麗な湖と言っても、その底には何か危険が潜んでいる可能性も…」

香月の言葉も聞かずに俺はマントを脱ぎ捨てて湖に飛び込んだ

……ハッ前にも人の忠告を聞かずに自分勝手な行動をしたら…恐い目にあったのを思い出す

いやいや…もうないよそんなの

俺は湖に潜ってみる

深さは俺の肩くらいで、中には魚や生き物はまったくいなかった

死んだ世界だから生き物はもうあのゾンビみたいな人間以外いないのか…

とにかく湖は澄んでいて綺麗だって言うコトと人肌にほど好い水温で少し温かく感じた

「水は好き!俺を綺麗にしてくれるから、汚れを洗い落としてくれるもん…」

ベタベタした感じもヌルヌルした感じも汚いもの全てを洗い流してくれる

本当の汚れなんて少しも落ちないケド

それでも俺は自分の見た目の身体を綺麗にしてくれる水がお風呂に入るコトが好きだった

「どうせなら香月も入ったら?気持ちいいよ」

「私は…今は遠慮しておきます」

「えーなんでだー!?」

香月は俺から視線を反らすから、俺は香月の傍まで近付いた

「男同士なんだから何も恥ずかしいコトなんてないだろ

レイとだっていつも湖や川で温泉にも一緒に入ったりするし

俺も小学生いや中学生くらいまでは同性でもなんか裸見られるのは恥ずかしかったケド、大人になるとそんな恥じらいもなくなるよな

だから香月もいまさらだろ?」

ふふっと笑うと香月はそうじゃないと怒った目線を向ける

な、なんだよ……

俺なんも怒らすようなコト言ってないと思うケド…

「貴方は…何もかも忘れてしまう

私が気を使って我慢してあげてると言うのに…それにすら気付かない」

「えっ…?」

香月は湖に浸かっている俺の腕を掴み引き上げるとそのまま俺をさっき脱ぎ捨てたマントの上に押し倒した

えっ!?なに!?どういうコト!?

って聞くより、先に香月は俺に覆いかぶさり唇を塞がれては何も喋られなくなる

ちょっと今の状況についていけない俺なのに、身体は急激に熱をあげているのだとわかる

「ま、待って…!!」

香月の胸を押して俺はストップをかけた

忘れてたケド…そうだった

香月ははじめて会った時も俺にキスしたんだったな

それって…やっぱり、今もだケド……

香月は俺のコトが好き…?

魔王が?勇者を?100%の敵を愛してるって言うのかよ……

いやいや…ないでしょ

きっと香月は俺をセリカと間違えてるだけで…

それはそれでイングヴェィが恐いコトになりそうだからイヤだケド…

本当に…香月は……

「人間に生まれ変わって20年…ずっと我慢していた私が貴方を目の前にしてこれ以上待てるとでも…」

20年!?俺より年下だったのか!?全然見えない!!

違う…そうじゃない…

香月は魔王としてずっと記憶を保ってる

香月もまた20年も…長い間……

えっじゃあ…何、魔王と勇者って恋人同士だったの!?いつから!?

俺達は世界を征服か平和かで戦ってたんじゃないの!?

そんなコトより俺は前世ですら恋人(だったかもしれない)が男だったコトに絶望してるんですケド!?

「待って香月!!

俺、好きな人がいるから…こんなの困る……」

「レイって人間の青年ですか」

「違ぇよ!?もうその流れいらねぇよ!!!」

前の世界で恋人に殺されてからも、俺は今も忘れられずにアイツのコトが好きなんだ

香月にキスされて…久しぶりに何か色々思い出しちゃった……

もうアイツとは殺された瞬間に終わったコトなのに

「私には関係のない事です」

多いに関係あるだろ……

香月は俺の気持ちなんて無視して手を伸ばしたが、俺にダメって強い意志があるコトに気付いて手を止めた

そのまま香月が手を伸ばしても俺が拒否するってコトは勇者の力で香月に大ダメージを与えてしまうとわかっているから

「……私は…諦めませんから、貴方の事を

今は勇者の力で私を拒絶しても…いつかはその力に勝って貴方を手に入れてみせる」

前に聞いたコトがある…

魔王はプラチナの力をほしがっているって話を

それは人間である今の自分の弱さを補う為だけだと思っていた

でも、それ以外に…勇者の力の影響を受けない強い力がほしいんじゃないかなって…思う

「そんなに…俺のコト好きなんだ……

俺の気持ちを無視しても…」

「いけませんか

私は貴方の心が何処にあろうと構いません

美しい貴方を手に入れられるならそれで良い

私がそれを愛しているだけで私は満足なのです」

ヒドイ奴だよコイツは!!???

そんなコト言わないで…

俺の身体だけじゃなくて

愛してるなら、ちゃんと俺の心も奪ってくれよ…

もう俺は俺を殺したアイツのコトばかりに自分の心も頭も支配されたくないのに

だから…

「俺は俺の心を奪う人にしか身体もあげない

香月がどうしても俺がほしいって言うなら、心ごと奪ってみろよ」

と言っても、魔族以外なら力付くで俺の身体なんて簡単に手に入れられちゃうんだよな

でも…香月は魔族だからそう簡単には…いかないな

「随分と生意気な口を利くのですね

貴方は昔からそうでした…

いいでしょう

貴方の心ごと奪った時が楽しみですね

覚悟しておいてください」

あっ…なんか恐い……

強気に言っちゃったケド、俺なんか未来でめっちゃ後悔しそうな気がしてきた

「で…できる、もんなら…!!」

震え声のくせに何煽ってんだ俺ー!!!??

それでも俺は負けないと香月から視線を背けない

「私を誰だかわかっていないようですね

貴方は本当に…私の事を忘れている」

香月は最後にまた俺にそっとキスをする

俺は…なんでだろ、嫌がるコトもなく受け入れていた

まだ好きでもなんでもないのに、嫌がらないなんて恐がらないなんて

少しは前世のなんたらが影響してんのかなって思ったり…

それとも、今日助けてくれたのが…嬉しかったのかな

香月……



-続く-2015/05/06

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