第37話『ピクニック、お弁当作ったの美味しくできたかな』セリカ編
夜になってお腹が空いてきた私達は2組に分かれて何か食べるものがないか探すコトになった
服のない私はイングヴェィが上着を貸してくれて、ギリギリ…パンツが見えるか見えないかの丈に
イングヴェィが明らかに照れてあまり私を直視しない…
「セリカちゃん…本当にゴメンね
俺が早くに気付いて最初から君達についていってればこんなコトには…」
これで何回目だろうか
イングヴェィは私が凄く恐い思いをしたコトに心配で、そして自分を責めてる
「ううん…もうダメって時にイングヴェィは私達を助けてくれたから大丈夫だよ
それに私は今回はこれでよかったと思ってるの…」
今回のコトで私は自分にやっと受け入れてもらうコトができた
弱かった私は私が大嫌いだったから…
諦めて自分を犠牲にして我慢してイヤな思いをして穢れと傷を増やして…
でも、もう私は自分を見捨てたりはしない
それは私の心をとても軽く温かくしてくれるものだった
大嫌いな私が私を大好きになれた
とっても幸せなコト
自分を大切にするって…こういうコト…
私は腰にあるセリくんから貰った勇者の剣に触れる
少しは…私も強くなれたかな
「セリカちゃん…」
「だから、もう気にしないでイングヴェィ」
私、イングヴェィが助けにきてくれて嬉しかったよ
抱きしめてくれて…嬉しかった……
イングヴェィは体温のない自分の身体が人間の私にしたら冷たく感じるってわかってるし
それで私の身体を余計冷たくしてしまうんじゃって一瞬戸惑ったみたいだケド
それでも…イングヴェィは私を心から抱きしめてくれた
その冷たい身体で…
私は…温かいと思った
それまで恐かったから、イヤだったから
安心した…イングヴェィに抱きしめてもらって、やっと自分は助かったんだって思えたよ
心が温かくなれば身体だってポカポカだもん
だから…気にしないで
私はイングヴェィの体温が冷たいコトを気にしたりしないからね…
「…あっ!あんな所に果物っぽいのがあるよ」
イングヴェィにもう気にしてほしくないから、私は目の前に見つけたリンゴっぽいものに近付いた
「待って、食べちゃダメだよセリカちゃん
俺が先に毒味をしてあげる」
「こんなに綺麗なリンゴだよ…毒なんて」
今まで見たコトないくらい輝くような真っ赤なリンゴはとても甘い匂いを漂わせて美味しそう
それにもし毒が入ってたとしても、私には回復魔法があるし
「これ、めちゃくちゃ怪しいよね!!!??」
「あ~あっちにもたくさん転がってる」
私は綺麗なリンゴをみんなの分と1つずつ拾い上げていく
「セリカちゃんダメ~!!めちゃくちゃ怪しいってば!!
木にくっついてるならまだわかるケド、地面に落ちててそんな綺麗なリンゴ何もないワケないと思うよ!!?」
イングヴェィの声は聞こえてるケド
空腹の限界とこの甘い匂いとみずみずしく美味しそうな綺麗なリンゴ…
私は何も考えるコトができないみたいで、手にしたリンゴをそのままかじってみた
「セリカちゃん……!!」
イングヴェィは私が怪しいリンゴを食べたコトでどうにかなるんじゃないかって心配のしすぎで今にも倒れてしまいそうだ
でも、イングヴェィの心配するコトなんてなくて
やっぱりこの怪しいリンゴは普通に食べれる美味しいリンゴだった
「大丈夫、なんともないよ
イングヴェィはいつも私を心配しすぎ」
私はかじってない綺麗なリンゴをイングヴェィに手渡す
するとイングヴェィは迷わずに自分もリンゴを食べて怪しくないコトを確認した
「本当だ…普通に食べれるリンゴだね
今まで食べたリンゴより甘くて美味しいけれど」
でも、イングヴェィは私の軽はずみな行動を叱る
「このリンゴはなんともなかったからよかったケド、もしかしたらってコトもあるんだよ
もうこんなコトしないで…君にもしものコトがあったら……俺の気はおかしくなっちゃう……」
あれ…私…いつも、かもしれないって悪いコトも考えながら行動するのに
何故か今は何も考えないでただみんなお腹空かせてるだろうからってそれしか思わなかった……
いくら自分もお腹空いてて回復魔法もあるからって、こんな軽はずみな行動しないわ…
「私らしくなかった…ゴメンなさいイングヴェィ……」
そうか…私はいつの間にかイングヴェィがいれば大丈夫だって安心して
自由に自分の思ったコトを深く考えずに行動しちゃうんだ……
「…いつも…イングヴェィが心配してるのに、私はそれに甘えてた……」
「ハッ!?セリカちゃん泣かないで?
怒ってるワケじゃないんだよ
俺はセリカちゃんが痛い思いしたり苦しい思いしたりするのがイヤだから…
だから、ね…」
まだ泣いてない…
イングヴェィの言いたいコトも気持ちもよく伝わってくる
優しい言い方、優しい声
イングヴェィはいつも私にだけ優しいもん
私を落ち着かせようとイングヴェィは私の両肩を優しく掴んでくれるもの
その時、私は自分の唇の違和感に気付いた
なんか…誰かにキスされたような……
その違和感と一緒に身体がほてるような感覚もある
イングヴェィは私にキスをしてない…
目の前にいるのだからわかる
あっ…察した
私じゃないなら…そうこの感覚はセリくんから伝わってるものだ
そっか…そうなんだね
イヤな気持ちはない
まだ戸惑ってわからないだけ
「ちょっと…疲れちゃった
ここで休んでいこうよイングヴェィ」
「えっ?セリカちゃん疲れたの大丈夫?」
2人は座れそうな大きな岩を見つけて休むコトにした
そして、少しイングヴェィにもたれ掛かって目を閉じる
疲れちゃったよ…色々あったんだもん……
人前で視界を真っ暗にするなんて私にはありえないのに…
やっぱり私は心の何処かでイングヴェィを少しでも信頼してるんだ
誰かを信頼して
そうして…好きになれたら…恋に落ちたら、愛するコトができたなら
どれだけ幸せなコトなんだろう…
ミクさんはいつか私にもそれがわかる日が来るって言ってたケド…
まだ…ハッキリとわかんないよ
いつか…私にもわかる時が来るなら…
その時、私の隣にいるのは…イングヴェィなのかな…?
優しい手が私の肩を抱き寄せて、そのいつも私を守ってくれる腕で私を包み込んでくれる
悪くないな…こういうのも……
そうして、私達は無事に前世の勇者の世界からユリセリさん達のいる元の世界に戻ってきた
セリくんが勇者の剣と共にその世界を離れた瞬間、その世界は綺麗に消え去ってしまう
セリくんと私は今回のコトでお世話になったみんなにお礼をしようとピクニックに誘ったんだケド
助けてくれた香月は気付いたらいなくて、前世の勇者の世界に送ってくれてセリくんと私のきっかけを作ってくれたユリセリさんには外は苦手だからと断られてしまい、セリくんの大親友とやらも心配して来てくれたのにイングヴェィが帰らせたとかで
結局…イングヴェィとセリくんと私の3人…寂しいピクニックとなってしまった……
「セリくんもセリカちゃんもそんなに落ち込まないで」
イングヴェィのお城からすぐ近くお花がたくさん綺麗に咲いている野原でお弁当を広げていた
「みんな、2人のコトは大好きだよ」
少人数のピクニックに寂しさを感じている私達をイングヴェィは必死に励ましてくれてるケド
それが余計に辛いんですケド……
「そんなコト、言われなくても…わかってるし!!
でも、俺とセリカが普段はやらない料理を一生懸命にお弁当作ったのに…いっぱい……」
セリくんはみんなでピクニックが楽しみだったからちょっと拗ねながら卵焼きを食べてる
私達はわかってる
みんな私達を好きでいてくれてるコトは
でも、私達はいいケド
複雑な関係で私達以外はあまり仲が良くないみたい…
まぁ…普通に考えてあのメンツで仲良くピクニックなんて絶対ないよな…無理無理
「香月にはいつか俺の作った料理食べてもらうもん…
なんかムカつくし、せっかく俺が作ってやったのにいないとかさ!!はぁ!?みたいな
帰るなら帰るって一言くらい俺に言ってくれてもいいのに…なんやねんアイツ」
「セリくん…香月くんと随分仲良くなったみたいだケド、何かあったの?」
あの魔王と仲良くなるなんて絶対無理なコトだよとイングヴェィは不思議に首を傾げてる
「っ!?べ、別に何もねぇよ!!あんな奴となんてッ」
イングヴェィに言われてセリくんは顔を真っ赤にしておしぼりを投げつけている
イングヴェィは意味わかってないケド「怒ってるセリくんもセリカちゃんソックリで可愛い」って笑ってるし
「ユリセリさんは見るからに太陽の下に出たくないってのはわかるケド
なんでレイまで追い返したんだよ
レイなら絶対にピクニックに来てくれたし
せっかくの仲直りのチャンスだったってのによ」
「レイ…?」
私はレイと言う名前に反応する
セリくんには大親友がいるってのは聞いていたけれど
その名前がレイ……
前にイングヴェィに私の前世の噂の騎士と聖女のコトを聞いたら
その騎士の名前がレイって言ってた…
くん付けしてた
そして、イングヴェィは前世の勇者の世界でセリくんに「みんな?他に誰か?」って聞かれた時にうっかり口を滑らせて「レイくんだよ」って言ったわ
同じようにくん付けして、この執拗に私からセリくんの大親友のレイの話を避けようとする…
もしかして…私の前世で関わりのあった騎士って
今はセリくんの大親友だって言うレイのコトなの?
ただ単純にイングヴェィが私に他の男を近付けさせないようにしてるだけで
私の考えすぎかもしれないケド…
「レイは…っ」
セリくんがレイの話をしようとすると、イングヴェィがセリくんの口を手で塞いだ
「セリくんもセリカちゃんもせっかくピクニックに来たんだから、3人でもおもいっきり楽しもうよ
俺はセリカちゃんが作ってくれたお弁当とっても楽しみにしていたんだからね」
「う、うん…
みんなの分を考えて作りすぎちゃったケド…」
「大丈夫!ちゃんと俺が全部食べるもん」
私はお弁当箱をイングヴェィの目の前に出していても
今はレイって人のコトが少し気になっていた
自分の前世と深い関わりがあったと言われたら覚えていなくても
多少なりとも気になるのは…変なコトじゃないよね
聖女は騎士と駆け落ちをしたって話だけど…
そんなの私は覚えてないし……
気になるってだけで、会ったからって現世も前世のように恋人同士になるなんて…
「……あっ、イングヴェィ?美味しくなかった?」
私は考え事をしていた
でも、イングヴェィが私のお弁当を食べても何も言わないからハッとする
……イングヴェィ…私がレイのコトを気にしているのに気付いているのかも
「……えっ!?もちろん…お、美味しいよ
ちょっと…不思議な味がするかなって思ったり…思わなかったり……」
私がレイのコトで考え事をしていたのに気付いて黙ってたんじゃなくて
普通に私の料理がまずくて言葉を失ってたんだ!!!??
「うっ…どうせ私は料理下手だもん……まずいなら正直にそう言ってくれたほうがいい」
私はイングヴェィに出していたお弁当をさっと引いた
するとイングヴェィはそのお弁当を死守するとばかりに私の手を掴んだ
「誤解だよセリカちゃん!!
今まで食べたコトのない味にビックリしただけで」
「それがまずいって言うんだよ!?無理して食べなくていいもん!!」
他のみんなに食べてもらわなくてよかった…
こんなのお礼どころか嫌がらせじゃん…
「違うよセリカちゃん!
確かに不思議な味がするケド、俺はマズイなんてこれっぽっちも思ってないから
この不思議な味が癖になって…俺はセリカちゃんの料理好きだよ
本当だよ
だからもっと食べたいな」
食べれば食べるほど癖になる不思議な味
とイングヴェィは言う
それは…良いのか悪いのかまったくわからないんだケド…
イングヴェィ的には素直に褒めてるんだよね…
「イングヴェィが食べたいって言うなら…」
私はお弁当を引く手の力を緩めた
するとイングヴェィは嬉しそうに笑って、お弁当の中にあるおにぎりを取った
まぁ…いいか、イングヴェィがいつもみたいに太陽のように明るく笑ってくれるなら
私のお弁当は成功なんだ
でも…私…最近なんだか自分に自信がないのか
イングヴェィの言うコトを否定的に悪い風に取っちゃって
本当はそんなコトないのに
自分で自分を苦しくしてるみたい…
どうして、いつもイングヴェィは私を1番に想って大切にしてくれるのに
勇者の剣は少しだけど精神面も強くしてくれるって聞いた
なのに、ちっともそんなコトない
私はイングヴェィのコトになると、不安…無意識に確かめようとしちゃう
貴方の愛を
「俺、今回いなくてよくね?」
セリくんは自分が蚊帳の外ってコトにちょっと不満そうにしては、もうデザートのプリンを食べていた
-続く-2015/05/06
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