第43話『守りたいのにどうして動けない…そしたら目の前の現実を認めたコトになるから』セリ編

レイが俺を置いて1人で珍しいフェアリーを探しに行ったコトに怒っていたし拗ねていた

レイは自分の用事だから俺に迷惑かけたくないって言ってたケド、本当は俺が足手まといだから置いていったんだ!そうに決まってる!!

俺には回復魔法があるもん……足手まといじゃないもん……役に立てるもん……

はぁ…レイがいないとこんなにもつまんない毎日だなんてなー

魔族が本格的に攻め入るって話だったのも俺がラナを倒しちゃったコトで警戒されて暫く大人しいし、つまり俺はヒマを持て余していた

「あっそうだ!買い物でも行ってパーッと気分転換すっか」

自分の部屋で1人では大きすぎるベッドでゴロゴロしていた俺は思い付きでセレンのここの城下町ではなく少し離れた第二都市まで行こうとまで思った

着替えやらなんやら出掛ける準備をして、うん完璧!

鏡の前で自分の姿をチェックして部屋を出る

廊下を歩いているとローズの部屋の前を通ったから、前にローズが第二都市にある巨大図書館に行きたいとか言ってたな

一緒に連れて行ってやるか

そのままドアをノックしてローズが「どうぞ」と言ってくれたから開けた

部屋の中は勉強机で熱心に文字の読み書きをしているローズと天井に黒い変態が張り付いているのを見た時、俺はダッシュで警備の人を呼びに行った

「おまわりさんアイツです!!」

天井に張り付いている黒い変態、ロックは天使の警備員2人に取り押さえられ連れて行かれた

「レイ殿の彼女、何故通報するでござる!?拙者は幼女の部屋に怪しい者が侵入しないか見守っていただけでござるよ!?」

「その怪しい奴がオマエだよ…」

連れて行かれるロックをいつものコトだからとローズは「いってらっしゃい」と笑顔で手を振っていた

ローズはロックが天井に張り付いてるのも気付いていて部屋の飾りの1つとして思うコトにしたのかもしれない

「セリくん、今日はどうしたのかしら?」

嵐が去って落ち着くとローズは俺を見上げる

「これから第二都市に買い物に行こうと思うんだが、前にローズがそこの図書館に行きたいと言ってただろ

一緒にどうかと思って」

「まぁ!行きたい!とっても行きたいわ!!

誘ってくれてありがとう

すぐ準備するわね」

「それじゃ、厩舎で待ってるから」

そうして俺はローズを連れて第二都市に買い物に行くコトになった

ここから第二都市までの道のりは馬で3時間ほどだが、セレンの加護があるからモンスター達に遭遇するコトはなくまぁ安全なほうだ

レイやロックがいなくても、俺とローズの2人だけでも大丈夫ってコト


ローズと合流して馬を歩かせて3時間ほどで第二都市へと着いた

「わ~素敵!思っていたより大きな図書館だわ!」

図書館の目の前まで来るとローズははじめて見る巨大図書館に感動している

行き道で話していたんだが、ローズには魔力もなく強さもない自分はみんなの役にどうしたら立てるのだろうと悩んでいたみたいだ

行き着いた答えが学者になるコトと大きな夢を持ったんだって

スゴイよなローズって、まだ5歳か6歳くらいなのに普通のその年代よりずっと大人びていてシッカリと自分を持っている

夢に向かって頑張るローズの一生懸命な姿は俺も素直に応援したくなるよ

俺なんてこの第二都市に買い物に遊びに来たんだぜ!?

勉強?何それ嫌い

「連れてきてくれてありがとうセリくん!

すぐに読みたい本をいくつか借りてくるからセリくんは買い物を楽しんでいてね」

「ゆっくりしてていいよ

また後で迎えに来るな」

俺の買い物って迷わないからすぐ終わるんだケド適当に時間潰すし、せっかく来たんだからローズが満足するまで暗くなる前までなら好きにさせたいよな

俺とローズは一旦別れてそれぞれの目的に向かった


1時間後

「買い過ぎた……」

広場のベンチに座り隣に買ったものを積み上げると自分の背より高くなっていた

はじめての給料が出て浮かれていたのもあったが、だって今日は好みがたくさんあったんだもん!!

俺は悪くない!俺がほしいと思うものたくさんあるのが悪いんだ

だからたくさん買っちゃったんだ

ちっ、こんなコトならロックを通報しないで荷物持ちとして連れてくればよかった

ロックは俺をリア充(レイ)の彼女として嫌ってる風に見えるが、なんやかんや女に弱い奴でロリじゃなくても女に頼み事をされると結局は断れない奴なんだ

「ん…?なんだあれ?」

少し離れた所で騒がしくなってるなと気付いて目を凝らすと、その騒がしさの中心が俺のほうに飛び出し走り寄ってくる

どっかで見たコトがあるような…と記憶を遡らせているとそいつは俺の座るベンチの下に隠れては足元で震えていた

そしてまた足元にいる何かと同じやつが人の群れの中から飛び出しては俺のほうへと走ってくる

思い出した…あれ前に会ったコトがある魔物のアンゴラウサギみたいなやつじゃないか

確か3mくらいあったような…それで俺を丸呑みにして誘拐された時のコトを思い出す

3mもないな、バレーボールくらいのまだ小さい子供のようだぞ

町にはモンスターや悪魔避けの結界は張ってあるが、それ以外の魔物とかに対しての効果がある結界はなくてたまに紛れ込むやつもいるって話は聞いたコトがある

きっとこのアンゴラウサギみたいな魔物(略してアンウサ)もわからずにこの街に紛れ込んだのかもしれない

俺に向かって走って逃げてくるアンウサは少し手前で転んだ

「あらら、どうしたんだそんなに急いで…」

俺が転んだアンウサに近付こうとベンチから立ち上がると、アンウサを追い掛けていた人の群れが手に持っていた棒でアンウサをおもいっきり殴り殺した

「えっ…」

俺の目の前で小さく弱く簡単に殺されてしまったアンウサはフサフサだった身体が弾けて大量の色とりどりの綺麗な宝石となって広場の地に広がる

「やった殺したぞ!これはオレのもんだ!!」

「何言ってんだい!あたしが先にこの魔物を見つけたんだよ!」

「拾え拾え!!」

目の前で地面にへばりついて宝石をかき集める人間達を見て、俺は1つの考えに行き着く

アンウサは死ぬと宝石に変わる魔物だったのか

それを街で見つけた人間達は目の色を変えてアンウサを追い掛け回して殺している…

俺は心が凍りつくようなイヤな苦しい思いをして、ベンチの下に隠れているアンウサを抱き上げた

に、逃げないと…コイツも見つかったら殺されちまう

腕の中で俺にくっついてはこんなに怯えてるアンウサがどれだけ人間に殺される恐怖を持っているか痛いほど伝わってくる

アンウサは抱いてるやつとさっき殺されたやつ以外まだいるみたいで、逃げ回っていたやつはみんな俺に助けを求めるように集まってきた

でも、俺の所にたどり着く前に捕まって毛を引きちぎられたり首を折られたり蹴られたりしては次々と殺されては地面に大量の宝石を散りばめていく

「やめて…なんだよこれ……」

人間の醜い部分は何度も見てきた

でも、何度だって慣れやしないこんな光景

殺されて流すのは血の変わりに綺麗な宝石でも、俺は広場に広がるアンウサ達の死に強い吐き気がする

「こんなのおかしいだろ!?」

俺は短銃を手にして空に一発撃ち放ってその銃声で少しの間だけ人間達の動きを止めた

「勇者様、どうなさったんですかそんな恐い顔して?」

「今すぐその魔物達を逃がしてやれ

じゃないと今度はオマエ達にこの銃口を向ける…」

シーンと静まり返ったのは一瞬で、すぐに反発の声が広がる

「それって勇者様がこの宝石に変わる魔物を独り占めにするって?」

「はったりでしょ

勇者様があたし達人間を殺す事は絶対しないよね~」

「それで脅したつもりですか?

所詮、勇者様も宝石を独り占めにしたいってだけ」

何言ってんだコイツら…

俺がおかしいのか?こんなのおかしいって思うのは…

「違う!俺は宝石がほしいワケじゃない

この魔物達がこんなに怯えて逃げているのに、それを追い掛けて殺すなんて…」

息が…詰まりそうだ

心が押し潰されそうで無意識に後退りしてしまう

「魔物は人間の敵だろ!殺して何が悪い!!」

「そうだそうだ!!殺せ殺せ!!」

俺の言葉なんて掻き消されてはまた人間達はアンウサ達を追い掛け始める

目の前で次々とアンウサ達が殺されていけばいくほど俺は死ぬほど苦しくなって頭がおかしくなりそうなのに

目の前の人間の誰1人に引き金を引くコトが出来なかった…

そうすれば何匹かのアンウサ達を助けられたかもしれないのに

なんで…なんで、できないんだよ俺は

短銃を持つ手は震えては力が抜けていく

俺に助けを求めて向かってくるアンウサ達を助けるコトも出来ず人間達に捕まり無惨に殺される姿を目を閉じるコトなく記憶に刻み込まれていく

こんなに悲しいのに、俺はなんで…人間を撃つコトに戸惑いを持ってる……

人を殺すコトははじめてじゃないくせに

「………こんなの…見たくない……」

俺は腕の中にいるアンウサだけを抱いて町の外に向かって走った

まだ残っているアンウサ達がいるのに、見捨てて……


悲しかったんだ

怒りより憎しみよりも

苦しくてただただ悲しかった

どの世界でも人間は醜いんだって絶望を感じてしまうから

敵だから魔物だから殺していいなんて考え俺にはわかんないよ

危害を加えるわけでもなく怯えて逃げてるだけの相手なら敵だろうがなんだろうが、殺すなんて俺にはできない

俺だって金はほしいケド、何かを殺してまで得たくない

必死でアンウサの宝石をかき集める人間達に誰も俺の声なんて届かなかった

俺だけが間違ってるみたい

俺だけがおかしいみたい…

もしそうだとしても俺は自分を曲げたりしないのに

人間の醜さを信じたくなくて逃げ出したんだ

殺したら、絶望したコトを認めてしまうから……

アンウサ達を見捨てて…まで

俺は後悔してしまった

ずっと前から絶望しているのに、いまさら何を迷っているんだって

助けたかった助けられなかった

後悔しかない…

町の外に出て、1匹だけ連れてきたアンウサを強く抱きしめた

「ゴメン…オマエの仲間達助けられなかった

俺が変に迷ったから…

人間なんて…大嫌いだよな」

抱きしめた後、俺はアンウサの顔を覗き込んで頭を撫でた

さっきの怯えた表情から俺が撫でたコトに嬉しそうな表情をしてる

アンウサは知能が低く弱い魔力しかない素直な魔物だ

きっと仲間がやられたコトもわかってないのかもしれない

「大嫌いって思ってるのは俺だけかな…

殺したい…殺してほしい…醜い人間なんて1番大嫌いだ」

前の世界から毎日のように思ってたコトが頭の中を今までの記憶と一緒に巡る

嫌い…人間なんて…殺したい殺してほしい

強く…思ってる……

「セリ様~~~

やっと今回も香月様の仲間になる時が来たりする~~?」

アンウサに顔を埋めていると聞き覚えのある声がする

この強い魔力の気配…キルラとラナか

顔を上げると思った通りの面が揃って俺を見下ろしていた

「キルラとラナ…なんでココに…」

セレンの国の第二都市のすぐ外に魔王四天王の2人がいるって大事だぞ!?

「次はこの第二都市を攻めよっかな~ってちょっとどんな所か見学っすよ」

「言うなっ馬鹿ああああああああ!!!!!!」

今そんな気分じゃないから漫才とかやめてくんねーかな

「いやだってセリ様、人間殺すってぼやいていたし

また前みたいにこっち側に来てくれるかな~って、ウヘヘヘヘ」

こっち側…?魔王側に…勇者の俺が?

前みたいにって前世の俺は魔王を倒すコトを放棄したって言うのか?どうしてだ?

「まぁセリ様が来てくれればね

オレ達には敵なしで、世界征服もやりやすくなりますねぇ」

「………………。」

それもいいかもしれない

俺は人間が嫌いだし、なんで人間を守る為に俺が魔王と香月と戦わなくちゃいけないのかわかんない

世界征服…なんかカッコイイ……

そんな迷いに揺らいでいた時、ローズが俺を捜す声と町の外へと姿を見せた

「セリく~~~ん!…一体どうしちゃったのかしら」

まだローズは俺には気付いていないみたいだが、キルラは町から出てきたローズを見て殺気を高める

まさか…

「キルラ待っ……て…」

思った通り、キルラはローズ目掛けて無数の鋭い羽根を飛ばした

それを読んでいた俺はローズの前に飛び出しキルラの攻撃を全て身体で受ける

「うげっセリ様なんでっ!!!??」

「セリくん!?どうしたの大丈夫!?」

キルラはしまったと顔を青ざめてラナはヤバイと顔を青ざめる

ローズは背中に無数の鋭い羽根が突き刺さる俺に駆け寄り心配で顔を青ざめた

アンウサも俺の足元に駆け寄っては飛び跳ねて心配してくれている

「大丈夫…こんなの全然痛くないよ」

回復魔法を使うと深く突き刺さっていたキルラの無数の羽根がパラパラと地面に落ちて背中の傷は一瞬にして綺麗に治る

「セリくん…あの人達と何かトラブルでも?」

「いや、あれは知り合いみたいなもんでローズが心配するようなコトはないな」

俺が大丈夫だって微笑むとローズもいつもと変わらない笑みでよかったと言ってくれた

ローズに会って思い出した…

すぐに忘れてしまうコト

人間はみんな同じじゃないって当たり前のコトだ

俺は人間が大嫌いだケド、それはローズを目の前にしては言えないコトだった

俺には人間の大親友のレイがいて、仲間のロックとローズ…

好きだよ…人間なのに好きな奴だっているよ

すぐ忘れてしまっても、すぐに誰かがその気持ちを思い出させてくれる

俺があの時、引き金を引けなかったのは無意識にこういう心が止めていたのかもしれない

人間だからって全員が全員そうじゃない

俺は魔物だから敵だって言う人間達と変わらない同じようなコトをしようとしてた

敵も味方も種族もひとりひとり違うんだって知っているのに

「あの~セリ様?

僕がセリ様に怪我を負わせた事は香月様には内緒にして頂けないでしょーかー」

キルラが恐る恐る聞いてくる

「ん~どうしよっかな~」

「はあ!?さっきのはセリ様が飛び出したから当たっただけだし!オレ様悪くねぇし!?」

キルラは俺が人間を殺してほしいって言ったから、町の外に出てきた俺の仲間と知らずにローズを殺そうとしただけなんだ

キルラは悪くないってわかってるよ

俺が悪いってコトもな

「この魔物を人間達に見つからない所に連れて行ってくれたら許すよ」

俺は足元にいるアンウサを抱き上げてキルラに渡す

殺されたアンウサ達のコトを思うとやっぱり人間は許せないケド、俺自身ももっと頑張れば助けられたかもしれない

悲しくて絶望して何も出来なかったなんて言い訳だ

俺は自分に向き合うコトはできたのに、まだ目を背ける癖はそう簡単に抜けてはいなかったんだな…

「そんな簡単な事でいいんですかあ!?よっしゃーーー!!」

キルラはアンウサを抱いたまま空へと飛び立つ

アンウサは見えなくなるまで俺を寂しそうに見ていたけれど、俺の傍には置いておけないよ…

「セリ様を連れて帰れなくて残念だな~

この前のアンジェラ要塞の無様な結果で香月様の顔が見れなくて…

セリ様を土産に持ち帰れば香月様も喜ばれますからね!

それじゃまた何処かで」

そう言ってラナも地上から走って空を飛ぶキルラを追い掛けた

お土産ってな…俺は物じゃないぞ

「ローズ…帰ろっか」

2人が消えるとローズが俺の手を握るから、俺はローズを見下ろして笑った

「うん!」

人間は…嫌いだよ

でも、嫌いじゃない人間もいる


町の広場に戻るとアンウサも宝石も人もいなくなっていて、俺が座っていたベンチに買った荷物だけが残されていた

さっきの無惨な光景なんてなかったかのように、綺麗な広場のまま…

荷物を持ち上げるとカツンと小さな音が落ちた

目で追うとアンウサのように真っ白な宝石が転がっている

「ウソでも…夢でもないんだよ……」

拾いあげた宝石は確かにここでアンウサ達が無惨に殺された真実だと俺に突き付けた

みんな俺に助けを求めて向かってきては捕まって殺される光景が甦る

忘れたりなんてしない…

俺が何も出来なかったコトも全部含めて…人間は大嫌いだよ……

俺は荷物とアンウサ達の残した宝石を握りしめてローズの待つ図書館へと足を向けた


それから、3時間かけてセレンの神殿に帰ってくる

すっかり夜だな…

疲れた~と部屋のドアを開けて明かりを点けると

たくさんのプレゼントの箱と花束が届けられていた

「えっ俺誕生日1月なんだケド?」

今は6月です

俺は上着と靴と靴下とズボンを脱ぎくつろぎモードになりながらプレゼントを1つずつ開けてみる

箱の中身は服、靴、アクセサリー、宝石、なんか高そうなアンティークとか…そして全部女物

「嫌がらせか!?」

差出人は誰だよ!?って確かめると、まさかの香月からだった

俺にこれを身につけろと言うのか……

香月が…俺に贈り物?

ちょっと…嬉しいかも……なんでかわかんないケド

香月って俺に好意的だから、勇者やめて魔王に寝返るのもいいかな~って思えてくる

メッセージも何もない名前しか書いてないカードに顔を近付けると香月の良い匂いがするな…

人間を嫌いな俺はいつか勇者をやめて…香月の傍に行くかもしれないって考える時がある

俺の選択肢は魔王を倒すって1つじゃないんだ

いくつもあるなら好きに選びたくなる

「疲れた…眠い…」

ソファで寝転びながらカードを眺めていた俺は瞼が重くなって、そのまま眠りについてしまった

まだ魔王がどれほど恐ろしいか知らない俺は軽く簡単に考えてしまうのかもしれない

人間が嫌いなら魔王側につけばいいんだって、本当はそんなに単純なコトじゃないのに…



-続く-2015/06/07

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