第68話『別の世界から召喚された英雄達』セリカ編

風邪…を引いてしまった

私は自分が風邪を引いているコトに気付いていなかった

風邪とか滅多に引かないからだ

いつもより身体がダルいなって思うくらいで…

でも、今日になって身体が動かないくらい辛くて

もしかして風邪か!?って思って、ベッドから起き上がれず寝込んでいる

なのに…

「まーたセリカ様、体調崩してー

えー?いつものじゃないんすか?風邪…?」

「今度は風邪??ねぇねぇ風邪ってなにー!?しんどいの!?なんでー!?どんな感じー!?」

「これだから人間は弱っちぃんすよねーアハハハ!」

ラナポップキルラの三馬鹿は私の部屋で馬鹿騒ぎをする

魔族は風邪だけじゃないケド、病気には無縁だから私の風邪がとても珍しいと言う

「う、ウザイ……」

静かに寝かせろ!!

ラスティンは早々に大人しくハウスしてくれたと言うのに

やっと絞り出した言葉も三馬鹿には聞こえていない

三馬鹿の声がデカすぎて私の声はすぐに掻き消されてしまうから

病気を知らないから看病するとかもない、ただ騒ぐだけ

こんな時にも香月は城にいないし…

私もう今日死ぬかも、ホントしんどすぎて……

自然にかかる病気には回復魔法が効かないし…最悪だよ

風邪なんてヤダヤダ嫌い

そんな時、部屋のドアが開いて三馬鹿の騒ぎがピタリと収まる

「この騒がしさは何事か」

品のある声音、薔薇の香り、そして他者を圧倒するような強い雰囲気

「げっ…ユリセリ…」

「あっとっと~…解散~解散~」

その存在を目にして、そそくさと出て行く三馬鹿

強い者には逆らわない

ユリセリはプラチナのハーフだけど、とても強いから

「病人の部屋で騒ぐとは、馬鹿者共め…

大丈夫か?セリカ、私が風邪によく効く薬を持って来てやったからすぐに良くなるぞ」

ここに来てからすぐにユリセリはテキパキと色々看病してくれた

どうして私が風邪だと知っているのか

本当は今日、私はユリセリに会いに行く約束をしていた

なのに、朝になってからこんな状態で行けなくなったと知らせを送ったの

だからユリセリは私を心配して来てくれたんだ

「ありがとう…ユリセリ

………夕張メロンのゼリーが食べたい…冷たいの」

「……ユウバリとは…普通のメロンではいけないのか?

いや、セリカが食べたいと言うのなら美味しいメロンを用意してやろう

少し待っていてくれ」

そう言ってユリセリは部屋を出た

メロンのゼリーを楽しみにしていたけれど、静かになってしまった部屋で私はすぐに眠りに落ちていく

ユリセリが持って来てくれたお薬飲んだから、目が覚めたら元気になってるよね…そうだったらいいな


ユリセリと私は何故か仲がよかった

いつからかはわからない

はじめて会った時に優しくしてもらったから

ユリセリのおかげで私は自分に向き合えたの、私を見捨てないコトができたの…

そのまま私はユリセリに微笑むようになったわ

ユリセリはなんとなく香月と似ていて、表情の変化がない

嬉しいのか楽しいのか、怒ってるのか悲しいのか、心にあるものを表には出してこない

笑った所、見たコトないのよ

香月はなんとなくわかるんだケド、ユリセリはまったくわからない

私は彼女の言動を素直に受け取っている

それに裏があるとか上辺とか嘘とか、考えない

友達ってワケじゃない、仲間ってワケでもない

だって、ユリセリは人間が大嫌いだから

なのに私は特別

プラチナに愛されているから…

イングヴェィが私を好きだから…

それだけ

本当に…人間でも特別になるコトがある

……私はユリセリの館で見たから知ってるんだ

写真を、ユリセリと一緒に映ってる男の人…誰なんだろ

ユリセリにとってその人は何なんだろう

聞いてない

古い写真だったから、きっとその男の人…もうこの世にいないんだって思ってしまったから

写真に写ってたのは、人間の男の人……でしょ


自然と目が開いた時は薬の効果で少しだけ身体が楽になっているコトに気付き半身を起こす

「セリカ、用意しておいたぞ」

「嬉しいユリセリ、ありがとう」

冷えたメロンゼリーをユリセリの使い魔が持ってきてくれる

ユリセリの狐っぽい使い魔はいつ見ても可愛い、動物大好き

「いただきます」

私はひとくちスプーンで掬い口に運ぶ

んー……し・あ・わ・せ~~~~~~!!これ超美味しいよ!

幸せだわ…本当

「気に入ったみたいだな、よかったぞ」

「うん!」

ふたくちめをとスプーンで掬い口に運ぼうとした時

ドーーーン!!!と大きな音と共に城が揺れた

そして、スプーンからメロンゼリーが落ちる

「あーーー!あ、あ~~~………」

「セリカ…可哀想に、しかし問題ない

また作らせて持ってこさせよう」

ユリセリは私を慰めながら落としたメロンゼリーで汚れたパジャマを新しいパジャマに着替えさせてくれた

「まだ熱があるようだ

おかわりは後でにして、もう一度寝たほうが良い」

「うんじゃあ、寝ようかな」

ベッドに入り直して寝ようとした時、また騒がしいのが舞い戻る

「何事もなかったかのように過ごせる女2人ほんっと恐ぇえーわ!!」

さっきの大きな音と共に部屋に入って来ていた三馬鹿のキルラがやっとツッコミする

大丈夫、カーテンしてたから着替えてたのは見えてない

「いつも言ってるケド、レディの部屋に男が入るのは許されないコトよ」

「そんな場合か!?ほら見て!セリカ様寝てる暇ないっすから!!」

キルラが窓のカーテンを開けて外を指差す

うわ眩しい、やめて、寝れないから

昼間の晴天の下、いつかの植物系のモンスターがまた大量にこっちに向かっていた

なんか前にもあったなコレ、香月が留守の時に

「今日はキルラ1人じゃないから大丈夫だよ」

「オレ様とラナとポップの3人しかいないんすけど!?」

「四天王(笑)揃ってんじゃん」

「いやいやいやいや、あの数見てみ?

雑魚っぽい見た目してっけど意外にレベルたけーんすもん

あの牙も爪もないクソ虎は使えねーし」

楊蝉もいないしね

確かに…この前の奴らよりは強い力を感じるわね

香月がいない時に来るのは偶然か知っててなのか

「私…」

話してる途中でまたドーーーン!!!と大きな音がする

さっきからなんなんだと思っていたら、この音はモンスター達がこっちに向かい走りながら爆弾を城に投げている音だった

しかも結構威力高い

「城壊れてんじゃん!?」

窓から覗き確認すると、私の横の横の部屋に大きな穴が空いている

これは…困るよ

香月のお城を壊されるのも奪われるのもヤダ

お世話になっているのだから守るくらいはしないと!

でも、この身体で戦えるのか?

「ちょっと、私風邪引いてるんだよ!?」

「セリカ様いないと無理っすー」

それはわかってるし、身体が辛くても出るわ…

心配なのはちゃんと守れるのかどうか

私がいれば三馬鹿だけであれを返り討ちにするコトは不可能じゃない

長期戦にはなるケドね

その長期戦に今の私の身体が耐えられるかと言えば無理ね

「セリカ、無理はするな」

「無理しないと…ダメだよ」

キルラにすぐに用意してと伝え部屋から出て行った後にユリセリは着替える私を気遣う

「なら、私も行こう」

「でも…ユリセリに迷惑かけるワケには」

「この城が三馬鹿がどうなろうが知らぬ

私はセリカを守るだけだ」

「ユリセリ…」

なんか…嬉しい

「お前に死なれるとイングヴェィは世界を壊すのだ」

なんだそっち…世界の心配ね、嬉しくなって損した気分

「セリカはこの世界で幸せになるから、だから死なせない」

………なんだやっぱり…嬉しいじゃん!

私の表情が自然とほころぶ

ユリセリはどんな想いで私にそうしてくれるのかはわからない

私が思うより、複雑で深いものがあるような気がするだけ

ユリセリは人間が嫌い

でも、私のコトだけは親切にしてくれてるんだと思う


ユリセリ、私、キルラ、ラナ、ポップ、おまけに心配で見に来ただけのラスティンの6人は城の外へと出て植物モンスターの大群を迎える

「それじゃ、頑張って…キルラ、ラナ、ポップ…」

「うぉっしゃーー!やったるでぇえ!!!」

「なめんな植物どもぉぉぉ!!!」

「やっるよーーー!!」

気合を入れて植物大群に立ち向いに行った3人を見送ってすぐに、私はパタンとその場に倒れた

「って、うわーーーーー!!!??」

「ちょちょちょ!!セリカ様っ!!」

微かな意識はあっても、今回の風邪の重さは立っているのも辛い

勇者の剣を持っていれば魔力は無限に使えるのに、魔法を使うコトが今の身体じゃ無理なんだってわかる

私が倒れたコトにすぐ気付いたキルラ達は綺麗なUの字で帰ってきた

「全然駄目じゃないっすか!!」

「セリカいないとポップ達戦えないよ~」

倒れている私の周りで騒ぐ三馬鹿

その後ろには迫り来る植物モンスター達

「セリカ!逃げる!」

それを見て慌てふためくラスティンは私の腕を引っ張っている

オマエらな……

私が呆れ返っていると

「ふん、自分達が情けないとは思わないのか?」

さっきまで騒いでいた三馬鹿がその一言でシーンと静まり返る

一瞬だけで、すぐにキルラが口を開く

「聞こえなかったんですけどー?」

ユリセリの一言にカチンと来たらしいキルラは上から覗き込むように突っ掛かった

「自分より劣った存在にしがみつかなくてはならないくらい貴様らは無能なのかと聞いているのだ」

「はっ?」

キルラ、キレる3秒前だなこれは

「で、でもぉ…ユリセリぃ

セリカがいないとポップ達だけであれを相手にはできないよぉ?」

「そそうですよ!香月様もいないんですよ?

いくら僕らが四天王でも、香月様が人間の今は大した力も持ってないし…ごにょごにょ」

キレそうなキルラと違ってポップもラナも不安を抱いている

3人の言うコトもわかるわ…

本当にこの3人だけじゃ勝てないもの

でも、ユリセリの気持ちも知ってる……

ユリセリは自分がハーフであるコトに強いコンプレックスを持っていて

何より種族性にも強いこだわりを持っている

ユリセリにとって魔族は他者を圧倒する強い存在であるべきだと考えているから

それは本当のコトだから…

香月が人間の今、その心持ちも見失っているだけ

「ユリセリさんは最初から強いですし…ねぇ?」

魔族は魔王の香月がいなかった時代はとても弱い存在だったって話は、私は知っていた

それでも、強くなった魔族が弱い人間の私に頼る姿はユリセリから見たら情けないのひとことで

ユリセリの強さは努力の賜物

本当ならプラチナハーフとして純血のプラチナにも魔族にも足元には及ばないのだから

「それは…違うわ

ユリセリは最初から強いんじゃない

ユリセリの…強さは、ユリセリが死ぬほど頑張ったから

私はキルラ達を甘やかし過ぎたのかもしれない

私がいれば、君達は絶対に負けないから…ね」

私は重い身体を立たせながらユリセリとキルラ達の間に入る

「ちっ、香月様が人間じゃなかったらオレは誰にも負けねぇんだよ」

「そうだねキルラ、香月が人間のままでいてくれるのは私を守る為だから、悪いわね」

魔王の力を持っているレイがセリくんを守る為、今だけ

喋ってるヒマなんてないのに私達は余裕があるみたいに見える

すぐそこまでモンスターが迫ってきて、襲いかかる時

モンスター達は真っ二つになって消滅するものと大きな穴を空けて灰になるものとで分かれた

いきなり何が起きたのかわからなくて時間が止まったかのように見える

そして、知らない声とともに時間は動き出す

「またユリセリさん、オレのプライバシーもプライベートも関係ない呼び出しか…」

「ははは、リューはいつもタイミングが悪いね」

モンスターの大群を背景に私達の前に急に現れたのは住む世界の違いを感じさせる風貌をした2人の男性

1人は身体の半分以上が機械で出来た2メートル近く身長がある人間の男

パンツ一丁で頭から足先までの全身が泡だらけだった……

風呂に入っている途中だったんだろうな

ユリセリの別世界からの召喚に瞬時に対応してギリギリパンツ着用と頑張ってくれたね…

「…ん?見ない面揃いだな

はじめての人には自己紹介しろってのが家訓

オレはリュスト、神も天使も悪魔もいない人間だけの世界から来た機械と人間の身体で半永久の命を持ったセレンのフィアンセだ!」

「……………。」

「……何こいつ?」

待てキルラ、1個ずつ順番に言わせて

まず!この状況で自己紹介!?

次から次へと襲いかかってくる植物モンスターを軽く機械の大砲で殲滅してくれてるから

スゴイ!って思…えない!だってパンツ一丁だし!?泡塗れだし!?

泡が流れて来て、隠されていた片ティクビが見えそうで

それはそれはもう…!

「変態だ!!?」

のひとことしかない

「この人変態だよ!?」

「セリカ様落ち着いて!また熱が上がりますよ~!」

「あと!なんか!セレンのフィアンセとか言ってるケド!?あの腐女子に恋人がいたの!?

いや、ってかセレンってリジェウェィの大ファンで片想いだったハズじゃ…」

スッカリ忘れていたが、セレンがリジェウェィの大ファンで片想いしてるって設定あったな

セリくんに出会うまではイケメン好きのただのミーハーって感じだったのに、あのホモバカップル(自分に皮肉を込めて)のせいで腐に目覚めて今は立派に腐ってるよ

私は風邪であるコトも忘れたかのようにリュストに指を差しながら言うと、リュストの中ではその名前は禁句だったみたいで顔を曇らせる

「リジェ……ウェィ……あーあのスカした野郎な…まだ死んで無いの?」

「生きてますケド」

「ぶっっっ殺っっっっ!!!」

す、が憎しみのあまり聞き取れなかった

「こわ!!恋のライバル(しかも一方的)なだけで殺すとか!?この人本気だよ!?」

「あんたんとこのイングヴェィと変わんねーぞ!?」

他人事のように驚いていると、キルラの鋭いツッコミが入る

「ほぇーーー、男女の関係って恐いねーーー、まっポップ達には関係ないしぃ♪」

「ほんとほんと、オレらには無縁の話」

オマエら彼氏100人(ポップ)彼女100人(ラナ)いて何言ってんだ?

刺されても知らねーからな、無関係みたいな顔してっケド刺される確率高すぎて今すぐ事件になってもおかしくねぇからよ

「オレもセッ○スしてーーーーえ!!」

しね

種族は違えど、男はそれしかないのか…

だから嫌いなんだケドね、ふん

キルラは人間族の容姿が好みだから、彼女出来ないのよねぇ可哀想に

しかも高望みでモデルや女優狙い

人間族は魔族恐がってるから近付かないもんね

私は人間だけど、他種族に対して差別や偏見はないもの

「ちっ、この戦いが終わったら決着をつける」

あっ死んだな、リジェウェィにじゃなくて今

「おいソウ!とっととこいつら雑草片付けんぞ!」

「リョーカイ!」

リュストは戦いながら喋くり倒した後、集中すると言ってソウさんと一緒に植物モンスターの群れへと走った

ユリセリが召喚したのは彼ら2人だけではなかった

召喚するには一時的にでも大量の魔力が必要なのに一体どこから…

疑問に思ったのは一瞬で、その答えはすぐにわかる

みんなが倒した植物モンスターの魔力を根こそぎ奪い取り、それを使って次から次へと新しい別世界の英雄達を呼び出している

「スゴイ…ユリセリ……」

「おーこぇー…」

「敵にしたくない女だよねぇ…ポップ勝てる気がしないよー」

敵の数が多ければ多いほど、死体が多ければ多いほど…ユリセリの強さに上限はなくなっていく

いつの間にか、あれだけいた大量のモンスターを超える別世界の英雄達を呼び出していた

「セリカ、辛いだろう

すぐに終わらせてやろうからもう少しの我慢だぞ」

えっ…もうなんか色々ありすぎて、しんどいのどっか行ったよ…

キルラ達はオレらなんもやる事ねー!とか言って映画でも見に来たかのように、ポップコーンを片手にあぐらをかいてる

「ねぇねぇ見てぇセリカ!これ秋の新色ー!可愛いでしょーーー!?」

ポップなんかネイル塗ってんだケド、今やんの!?

「私、ネイルはしないの」

爪は短く切って整える、透明のコートを塗って、保湿してお手入れ完了

「セリカは短い爪がいいって言ってたよねー!短い爪って女子としてどうなのそれー!?キャハハ!」

イラッ…私は好きでこうしてるのよ

女の子達の長い爪やジェルネイルも可愛いとは思うわ、見るのも好きだし

でも、私は自分がそれをするのはイヤなの

指先に違和感があるのが苦手、爪はめちゃくちゃ柔らかくて困ってるんだケドね

「うわっポップきも!!!魔女みたいな爪して小石ついてっし!」

「なんで爪が巻き貝みたいになってんの?

そんなに伸ばしてデコりすぎたらスプーンも持てないっしょ?」

まぁ確かにポップはやり過ぎな感はあるな…

「なによー!キルラとラナの男子には女子の可愛さがわかんないんだからーー!!黙っててよ!!」

この世界でも女の子のネイルに男は理解できないのか

……私は男(セリくん)でもあるから仕方ないってコトなのか…

「でも、ユリセリの爪は長さもネイルも上品で好き!美しいよユリセリ!!」

隣にいるユリセリの冷たい手を掴み指を眺め撫でる

「綺麗なのはお前の方だ」

「ユリセリ…(ドキドキ)」

いや、どう見てもユリセリのほうが私より美人なんだケド!?

この世界の綺麗の基準って私が最高位だよね…いつも思うケド

この世界の人達はたくさんある美しさの中でも、私が好みのようだ

まぁ私が綺麗なのは当たり前なんだケド

気分は悪くないわ、みんなに綺麗って言われるの

同じひとりから何回も言われると飽きて逆にイラつくケドな

「嫌味か!!!??」

「何キルラ!?」

「全部声に出てたぞ!!」

「魔族って美形一族で有名だよね」

「ふっ、香月様が魔王様にお戻りになられたらさらに5割増しっすよ」

あっ一瞬で気分良くした

魔王の力スゲー!?強さの力がないってのは聞いたケド、容姿までレベルアップすんのかよ!?どんな力それ!?

「魔族の女達の胸はワンカップアップ」

「喧嘩売ってるな」

べ、別に私はないワケじゃないもん…この世界がおかしいだけだもん

巨乳(Eカップ以上)が当たり前の世界がおかしいよな!?私はおかしくないよな!?

「そして、魔族の男達の股間は……っっっ!」

股間を思いっきり蹴ったらキルラは息絶えた

言わせねーぞ?

なんかんやふざけていたら、いつの間にか敵がまた近くまで迫っていた

一気に形勢を逆転された敵達は私やキルラ達ではなく、ユリセリが召喚したコトに気付き向かってくる

「ユリセリ危ない…!」

私が名前を呼んでも、召喚された英雄達はユリセリを庇う気配はない

敵は召喚師さえ倒せれば、あの英雄達が消え去って勝てると考えたようだ

「殲滅に時間が掛かっておるな

英雄とは名ばかりか、使えぬ者共め」

「結構頑張ってますよ?彼ら」

キルラがポップコーンを口いっぱい含め、飛ばしながら感心の言葉を放つ

それを無視してユリセリは別世界の扉を開けて手を突っ込む

そして、そこから引き抜いたのは禍々しく明らかにめちゃくちゃ呪われてる感じの片手剣を取り出す

うわー…見るだけで目から血が…もう教会ごときじゃ絶対に解けない呪いかかってるよあれぇ…

神すら無理なやつだって、めっちゃヤバイじゃん…

「目がー!目がー!!」

「わー…見てー!涙が赤いよ!」

「えっ?オレ鳥目だから何も見えねーわ」

今昼間だから鳥目関係ねー!!!

めっちゃ血出てるだろキルラ!?現実見ろ!

いや今見たら目がヤバイから見るな!!

「目の前真っ赤だし」

それ呪いの影響だぞ!!?

この呪い…血の涙だけで済んでるのは私の回復魔法のおかげか…

なかったら、どうなっているのか……

私の瞬間回復をも上回るものが存在するなんて…ありえないぞ……

それほど強力…

ユリセリは呪いにかからないからあの片手剣とは相性抜群ってコトか

ユリセリが片手剣を取り出した瞬間、敵の動きが止まる

一振りすると…敵が全て消滅した

キレイサッパリ、もう最初からなかったかのように

呼び出された英雄達も急に終わった戦いに「えっ?」ってみんなこっち見てるよ!?

超気まずいやつ!呼び出しといて!!

最初からそれ使ってくれたらよかったじゃんユリセリ!?

ユリセリは静かになった戦場を見渡した後、呪いの片手剣を変な世界に返した

「可哀想にセリカ、血の涙を流すほど風邪が悪化したのだな」

アンタのせいですケド!?風邪ごときで血の涙が出るか!出たら死ぬ病気だろ!?

気付いてないのか!?あの片手剣の周りへの影響に!?

まぁいいか、死んでないし

「あの片手剣か?蟻だけの世界で1匹の蟻が蟻を10匹殺した伝説の剣だ」

すくなっ…あっいや、命に少ないも多いもないな

えっ!?アリ!?しょぼっ…あっいや、命は小さかろうが平等だな

いや!?蟻10匹でどれだけ強い呪いになってんだよ!?

人間100人殺した剣とかたくさんあるケド、まったく呪われてないしその辺に転がって砂埃被ってるよ!?

そもそもあの人間サイズの片手剣をどうやって蟻が使ったんだよ!?殺せないし!!

どっかの火星みたいに蟻が物凄いマッチョ進化したとか!?

「このような蟻ばかりの世界だ」

ユリセリは足元を指す、普通の蟻だわ…

「セリカ……お前は何でも信じるのだな?

私が詐欺師だと、セリカは怪しい壺を1億個買わされてしまうぞ?」

貴女…そういうキャラじゃないだろーが……!!

どんなアホでも1億個も買う奴はいねーよ!?

詐欺には引っかからない、金にうるさい人種ナメんなよ

「でもあの片手剣が蟻殺しの剣!とかじゃなくてよかったよ

ユリセリがそんなの持ってたらイメージ違うもん

陰険で陰湿で弱い者イジメが趣味なラナならまだしも」

「待って!?」

「ラナは良い人そうな優男に見えて、実はキルラより性格がクズ」

「ええ!?」

「あーわかる!オレ様が目立ってっから、その影でやってんだよなー?」

「ポップも知ってるよぉ、ラナって他人の靴に画鋲入れるタイプ」

「なんで皆知ってるんだよ!?」

適当についたウソが本当だったコトにビックリ

「セリカ!腹減った!」

敵が恐くて隠れていたラスティンが何処からか出てきて私の腕を食い千切った

「それで、英雄のみなさんは?」

ユリセリの召喚した英雄達は時間切れが来たのか次々姿を消して自分達の世界へ戻っていく

何しに来たのって状況になったな最後、申し訳ないわ

「セリカ様!それでって言える状況ですか!?それ!?」

ラスティンは右腕を食い終えるとまだほしがって左腕まで持っていった

「これで、リジェウェィと決着をつけられるな」

生きてたのか、あのフラグなんで回収してないの?

「おつかれリュー」

他の英雄達は帰って行ったのに、リュストとソウさんは当たり前のようにいて私達の前に戻ってきた

「さっきは自己紹介ができなかったね

ソウです

身体のサイズは違うけれど、リューやセリカさんと同じ人間だよ」

ソウさんはリュストの肩に乗れるくらい手のひらサイズに小さな人間だった

小人と言うワケでも妖精と言うワケでもなく、彼の世界では人間として存在している

でも、周りの景色はこの世界と同じ大きさだから足元にあるこの小さな花と同じくらいらしい

「ヨロシクね

ソウさんとリュストは自分達の世界に帰らないの?」

リュストと違ってソウさんはしっかりとした好印象のある少年だった

「ユリセリさんの手伝いをする変わりにギリギリまでこの世界にいられるようにしてもらってるんだ

ここには少ない友人がいるから

セレンはそのひとりさ」

「セレン?」

聞いたコトある名前だけど、思い出せないな

「セレンは元はオレの世界にいた女神で、オレは彼女から力を授かったんだよ」

「セレンって名前の女神がいるんですか?」

「あの頃は腐ってなかったよハハ」

はっきり言った!?もう腐ってる女神って1人しかいねー

あいつ友達いたのか…腐じゃない友達

ふーん、セレンはソウさんと同じ世界の人だったんだ

しかもその世界ではまともに女神やってたみたいだし

「毒竜王と戦える力をね、そして囚われのお姫様を救う」

誰でも思い付きそうな名前のラスボスだな

「王道勇者って感じだね、小さな勇者って素敵

夢と冒険の、明るいファンタジーって感じの世界なんだ」

いいな…なんか…本当に、絵本の中みたい

綺麗な世界…あって当たり前なのに、私にはない世界で

絵本の中みたいに、みんなが憧れる守られた世界

同じ勇者なのに…私は……誰も見たくないような…世界だ

「リューとはユリセリさんの召喚で知り合ったよ

まさかセレンに惚れ込むとは思っていなかった

リジェウェィさんには、リューとセレンの2人から迷惑かけてしまって申し訳ないかな」

本当にね…

そして、意外にハッキリ言う人だ

リュストとセレンを迷惑とか…ウソつけないなんて

なんてピュアな人!!

「行くぞソウ!!オレ達には時間がないんだ!

1週間以内にセレンと結婚式を挙げるんだからな!!

その為に、身長も伸ばしたからよ」

セレンは女神族だからサイズが人間よりデカイ

「こわ!やっぱこの人変態だよ!?」

「セリカ様のイングヴェィもそうだってば」

まだ付き合ってないし、私のイングヴェィじゃないし

「招待状送るからな」

リュストは当たり前のように私達にキメ顔で言い放つ

「二次会も来てくれ」

全然仲良くないのにご祝儀の3万包まないといけないの!?

「三次会もやっちゃおうかな」

やらんでいい

「引出物はオレとセレンの出会いからゴールインまでを描いた漫画とオレとセレンの写真入りの食器とオレとセレンの名前入りのTシャツとオレとセレンの似顔絵入りのケーキとオレとセレンの写真立ての真ん中に未来の子供の名前入りで生まれたらハガキ送るから飾ってくれ是非

名前はリュストとセレンを合わせて、男ならリュレン、女ならセレスト」

う、うわー…超いらねーものオンパレードによくできるな

未来の子供のコトまで考えて引出物作るとか…引くわぁ……

「さすがのセリカ命のイングヴェィでもそれはやらないな…」

あの表情のわからないユリセリさんが引いてるのがハッキリとわかる!?

「それに、女神族は子を作れないはずだが?人間とは違うからな」

「!?………て、天使は……オレとセレンの天使…」

「あぁ天使は神によって創られているが、人間が人形を作るのと同じで相手は必要ない」

ユリセリ、リュストの夢をぶち壊し心をえぐっているが全然そんな気も悪気もないから…私どうすれば

「あー?何絶望みたいな顔してんだよ?機械オンチ」

機械オンチは違うと思うぞキルラ

「女神だろうが天使だろうが、女には穴があるだろーが!

穴があれば………っっぐあああああーーーーーー!!!」

キルラを思いっ切り蹴飛ばして遥か彼方へ消した

「男にも穴があるってあいつ知らないの?馬鹿だよねー鳥って」

ツッコミする所そこじゃないからラナ!!

「まっ、そういう事だからプロポーズしてくるぜ」

「がんばってー(棒)」

私はそっと後で涙を拭くためのハンカチをリュストに渡した

「それじゃまた、みなさん」

「行くぞ!ソウ!!」

ソウさんは爽やかに、リュストは必死さを撒き散らしながら消えていった

「嵐が去ったな…」

そして、私は忘れかけていた風邪の症状が重くなって倒れた



風邪で倒れて目を覚ましたのは深い夜

薄暗い明かりの中に看病でついていてくれたユリセリがいる

「ユリセリ…帰ってなかったんだ」

「あの三馬鹿+ペットしかいないここにセリカをひとりには出来ないな」

「ありがとう…ユリセリのおかげでかなり楽になったよ」

少しお話しようと私は身体を起こす

ユリセリはハーブティーをいれてくれる

私はその姿をぼーっと眺めていた

プラチナの持つ魅了の力のせいなのかな?

ハーフでも、それは強いのかもしれない

飛び抜けた強さと力を持ち、最高に美しい容姿は近寄りがたい

ユリセリは本当に綺麗な人だ

私なんて足元にも及ばないくらいずっとずっと…

こんなに美しい人が同族にいるのに、イングヴェィはユリセリのコト好きにならないのかな…

……別に…気にしてないケド!

「実は…私には恋人がいるのだ」

いつもクールなユリセリが、その言葉を言った時とても悲しそうで寂しそうな表情を見せる…

あの時、気になって、でも聞けなかったコト…

やっぱり、そうなんだ……

このユリセリの心を射止めた人ってどんな男の人なんだろう

写真を見た限りじゃ、元気だけはあり余ってる露出狂のイケメンって感じだけど…

見た目だけなら、いくらイケメンでもユリセリが好きになるとは思えない……なんて失礼な感想を持っていたり

「…セリカ、イングヴェィとはどうなのだ」

私は渡された温かいハーブティーを一口飲んでユリセリに聞かれる

えっ!?何!?

ユリセリの話が始まるんじゃないの!?なんで私!?

それにユリセリもガールズトークしたいの!?

「どうって…どうもない……」

「好きなのか?嫌いなのか?」

グイグイ聞いてくるぞ!?どうしたの!?

ユリセリ、普段こんなコト聞いて来ないのに…それともユリセリさんも種族は違えど乙女な所は変わらないのか?

「好きでも嫌いでもないよ…よくわからない」

曖昧にして濁す

きっと私はイングヴェィのコト好き

運命がそう言ってるから

でも、それが本当に自分の心が思っているコトなのか?

私は運命に流されるなんてイヤ、従ったりなんかしない

自分がちゃんと好きって思う人と一緒にいたいから

「それでは、レイの事は?好きか?嫌いか?」

「どうしたのユリセリ!?」

レイのコトは…良い奴だとは思う

恋人って言うよりは友達って感覚なのよね

セリくんの影響かな、そう思うとレイはちょっと可哀想

「私はセリカに幸せになってほしいのだ

イングヴェィもレイも、どちらを選んでもお前は幸せになれるだろう」

「そのお願いはとっても嬉しいケド、私もユリセリには幸せになってほしいよ」

一方的に聞かれるだけ、私からユリセリのコトが聞けない

触れていいコトなのかわからないもの

ユリセリはずっと一人暮らしっぽいし

なんとなく…ユリセリの…写真に写ってる人はもうこの世にいないんじゃないかって思ったら

恐くて聞けなくて…

ユリセリから話してくれれば聞くのに

おもいっきって聞くか…私!?

「ゆ、ユリセリは…その好きな人……」

「私の恋人か?すぐ帰ると言ってからそろそろ100年は経つか」

お、おお……辛すぎる年月

「どんな人?」

「人間の男で…」

確実にもうこの世にいない人じゃん!?嫌な予感当たったぞ!?

人間の男がユリセリの恋人だってコトにもビックリだけどさ!

100年経ってるならもう…ダメだよね

ダメとは言えなくて、それでも待ち続けてるユリセリになんて声をかければいいのか…

おもいきって聞いた私がバカだった

「プラチナのイングヴェィと人間のセリカが上手くいけば、もしかしたら私も上手くいくのではないかと思ってな」

期待してる…ユリセリは私達に自分の願いを重ねて、待ってるんだ

運命なら必ず結ばれると

どんなに離れ離れになっても、いつか…いつかはって

ユリセリの永遠の恋が、愛が、ずっとその人を待ってる

なんか…私、悲しくなってきたな

ユリセリの気持ちを思うと

「セリカ、頑張れ」

そう言われてドキリとした

ユリセリさんは永遠の命と永遠を待つ苦しさを、イングヴェィの気持ちがわかるから…


私は夢を見ている

いつか、素敵な恋ができる、素敵な愛をもらえる、そんな幸せな物語りを


でも、現実はどうだ?

男は嫌い…気持ち悪い…

息苦しくなる、喉に詰まって、熱くこもる涙

私に恋愛なんてできるのか、死ぬまで救われずひとりではないのかと…


思ってた

あの世界では



でも、この世界に来て

そう思わない人もいる

香月と、レイと…イングヴェィ……と……

私のこの心が変わって、誰かを好きになれたら

愛せたら、それは幸せなコトなのかな

私が心から笑顔になれる日、あるのかな

あったら、いいな……

「ユリセリ、運命は動き出してるよ」

イングヴェィと私が出逢ったから

「だから、ユリセリももう待つ日々は終わり」

「…っ、セリカ…」

ユリセリは私の言葉に一瞬言葉を失う

そして、無表情のユリセリは明るい光が見えたかのようにそれを表現する

花瓶に生けてあった深紅の薔薇を私の髪にさしたのだ


永遠の愛はもうすぐ、目の前に現れるから…



―続く―2016/09/23

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