第67話『世界に広まる大罪人の名は…』セリ編

北の果ての国から帰るのも当然2週間はかかる

予想以上に事は大きくなっている現実に、まだ帰りの道が長いコトに少しずつ焦りが増す

俺達が歩くより、走るより、話すより

追い越して、女神を盗んだ大罪人の名は世界に広まる

だから、俺達は宿を取るコトもできずに夜になれば森の中で隠れながら休むコトになった…

みんな…俺の姿を見たら、悪者だと言って捕まえようとしたり殺そうとしたりしてきた

俺の話なんて誰も聞こうとしなかった

巻き込まれただけのレイにまで危害を加えようとして…

思い出しただけで、嫌な気分になる

この辺はまだ知らない国の中、それも暫く続く

俺達の味方なんていないようなもん

セレンの国に帰ればまだなんとかなるかもしれないが…それもどうか

俺のせいでセレンの国が危険に晒されないか…

あそこにはみんながいる

セレン、ローズ、ロック、ネクスト、ツインメイド、動物達…他にもたくさん…

俺は本当のコトを言っただけだ

それが悪いって言うのか

こんなコトになると知っていたら、俺は目の前のコトに

「ついてきてる…」

この女神結愛に、目を逸らすコトが出来たのか?

結愛ちゃんは自分のせいでと思っているのか悲しい表情のまま俯いてる

いや…俺は目を逸らさない

俺が逸らすってコトは、同じように俺も誰かに目を逸らされるってコトなんだ

いつまでも救われないなんて、そんなコトあってたまるか!

間違ってなんかいない…

コイツも、セレンの国も、大丈夫

なんとかする

レイは何か食べるものを探して来ると言って行ってしまった

フラグにしか見えない

ここにいるのは俺と結愛ちゃんだけ

「…そんな申し訳なさそうにするなら帰れば?

アンタが出来るコトってそれだけだろ」

なのに、俺はなんでこんな言葉を口から出してるんだよ…

カッコわる…全然ダメじゃん…

何も変わってない

俺は弱いままで、余裕がない時はそれがとくに強く出る

イライラする…人間として、俺自身も大嫌いな人間だって思い知らされる……

「……………。」

酷い言葉をかけてしまった時、俺は彼女から目を逸らしてしまっていた

逸らしちゃいけないって決めたのに

結愛ちゃんは何も言わない

そして、俺の言葉で俺の傍から姿を消した

「………何やってんの…俺」

とてつもない落ち込みが俺を襲っては腕に顔を埋める

そんな時、足元に何かが擦り寄るのに気付く

顔を上げて足元の何かを確認すると、小さなリスがいる

「可愛い…動物は、どの国も変わらないんだな」

リスは加えていた小さな赤い実を両手に持って俺に差し出す

俺のコト、心配してくれたのか、元気付けてくれたのか、大好きを表現したかったのか

それ全部…全部

…素直に受け取ったよ

そのリスの優しい行動に俺はさらに惨めになる

自分は何やってんだと

こんなコトも忘れて、自分のコトばっかり心配して、イライラして当たって

これじゃ、俺は自分が大嫌いな人間達と変わらない

俺はずっとそうならない、なりたくないって思ってきていたくせに

なのに、できなくて…できてなくて

忘れたなら、何度だって思い出して

やればいいじゃないか

自分がしたいコト、自分が正しいと思うコト

「…ありがとう!俺、行かなきゃ」

俺は手の中にいるリスにそう言って笑いかけると木の上に乗せた

行かなきゃ、結愛ちゃんを追い掛けるんだ

彼女がなんで俺についてきたのか、よく考えろ

それは見捨てちゃいけないコトなんだ

他の誰かじゃ見えないのだから

俺しかいないんだ…

自分の迷いと弱さを吹き飛ばして、改めて決意を固めると俺は結愛ちゃんを捜しに走った


逆方向を捜してたらヤダなと思いながら走っていると、すぐに見つかってくれる

「待ってくれ!」

森の外に出た所、歩いているのを結愛ちゃんに追い付いて手を掴もうとした

ケド、彼女に触れたらアレが見えるのを思い出して手を掴む前に動きが止まる

あっ…違う

よく見てみると、何処かで俺が知らないうちにいつの間にか

その手には手袋をしているコトにやっと気付いた

出逢った時は半袖だったのも今は長袖になっていて、なるべく肌の露出をなくして不意の接触も大丈夫にしてくれてるのか…俺に気遣って…

だから、俺はそのまま結愛ちゃんの手を掴んで足を止めた

「悪かった…」

振り向く彼女に対して頭を下げる

あったかい…この手が、普通の人間と変わらないみたいに

女神なのに、俺にはただのか弱い女の子に感じる

「アンタが俺について来たのには何かあるんだろ…」

それは俺に何か伝えたいのか教えたいのか助けを求めてるのか逃げてるのか…どれもこれもわからないコトだが

何もなくついてくるような人じゃないと思うんだ

女神が自分の国と守るべき者から離れるなんて…よっぽどのコトじゃないか

「なのに、俺はアンタのコトわかってやれないで酷いコト言ったよ

追い掛けてきたのは…そんな自分が嫌だったから!

アンタのコトが心配とかじゃない

自分が嫌だから!アンタのコト見捨てて目を逸らす自分が…嫌だったから

俺、自己中だよ

アンタのコトでしてやるのは俺の自己満足だぞ

それでも…結愛ちゃんは俺についてくるのか?」

まっすぐに見つめられて、なんか照れ臭くて俺は目を逸らしてしまう

この逸らすは悪い意味じゃないからいいんだ

少しの沈黙の後、俺の掴んだ手が返事をする

ハイと言うように、結愛ちゃんの手は俺の手を強く優しく握り返してくれた

「……結愛ちゃん……っ」

しかし、その手の感覚はすぐになくなる

何故なら俺の腕は身体から離れて彼女の手の中にあるまま引き離される

「夜道の独り歩きは気を付けなさいとお母様に教えられてないのかね?」

「くっ…タキヤ…貴様」

いつの間にか囲まれてたタキヤと騎士団に俺はすぐに拘束される

回復魔法で腕は再生しても、見動きが取れなきゃ意味ないのに

「私の愛する女神よ!盗人から助けてあげましたよ!」

嫌がる結愛ちゃんの身体を引き寄せて、タキヤは彼女の首筋を舐める

「やめろ!嫌がってるだろ!!」

「嫌がる?何の話でしょう?」

周りの奴らが見えないからってすっとぼけやがって!キモイんだよ!!

「さーさ、皆さん女神の力を盗んで世界を手に入れようとした大罪人に死を!」

ただ盗んだだけじゃなくて、世界征服までするとかどんだけ話大きくしてんだよ!?

しかも全部ウソじゃねぇか!!

騎士団が一斉に剣を振り上げる

前に俺を殺すなら即死させるんだなって余裕こいてたからそれがなんか今スゴイピンチになってて終わりそうなんだケド!?

本気だよ!?コイツら俺を殺すのが!?

「ストーップ、えーなになに……女神結愛のお言葉をお伝えしましょう

大人しく帰るからセリ様を開放して…と」

結愛ちゃんは紙に何かを書いたのか、それをタキヤに見せる

タキヤの言葉、女神の言葉をありがたがる騎士団は剣を一度収める

「なんと!女神の慈悲は大罪人まで救おうとするとは……」

なんかみんな女神の慈悲って言葉に泣いてる…

正直に女神の言葉を伝えてる所は腐っても聖職者ってワケか

「さすが我らが女神様!」

スゴイ崇めてる!?

みんな女神に夢中なのに、俺の拘束は解いてくれない

「女神よ、お戻りになられる事ともう1つ約束して頂きたい

前々からお願いしております事を

さすれば、勇者は開放しましょう」

タキヤがそう言うと結愛ちゃんは胸を痛めて表情を曇らす

お願い…なんだそれは?

タキヤのお願いだからどうせロクなコトじゃねぇだろうが

「あなた様のお力があれば、この世界を全てあなた様のものにする事が出来るのです!

それは私も国の者、皆が望む事」

タキヤのお願いの本当の意味は結愛ちゃんの力で世界を自分のものに、征服するコトだった

そんなコトを望まない結愛ちゃんだから今まで頷かなったんだ

俺の前でそんな大事なコトをペラペラ喋っていいのか?

あっ…殺されるんだ…察したわ

「…早くお返事を

この綺麗な若者があなた様の目の前で首を飛ばしますよ?」

タキヤは騎士団の1人から借りた剣の刃を俺の首に当てる

「おい!これって脅しだろ!?卑怯じゃねぇか!

騎士団のオマエらも、この大神官おかしいって思わないのか!?」

そう呼びかけても誰も俺の話を聞かない

本当にここにいる奴らはタキヤが正しいと思ってるのか…

「タキヤ様は世界の統一を目指す素晴らしいお方!」

「異教徒は根絶やしに!」

「女神様とタキヤ様がいれば他の国の奴らを思い通りに出来る!」

この国を見て、おかしいと感じたコト

女神に守られて完璧に見える平和の国には似合わない騎士団の大きさ

あれは国を守る為にあるんじゃなかった

他の国を侵略して奪う為の準備…

女神を使って、その国の人間達は世界を手に入れようとしてる

そして、世界を虐殺と奴隷にしようと言うのか…

やってるコトは魔族と似てるかもしれない…

でも、なんかこっちのほうがムカつく

違いは、魔族は自分達の力で

こいつらは嫌がる女神を無理矢理使おうとして…

「さあ私の女神よ!お返事を!!」

タキヤが聞く

すると、結愛ちゃんは自分の意志を押し殺して頷こうとする

だから俺は

「女神が脅しに屈するのか!?

たったひとりの俺を助ける為に他の大勢を犠牲にするって言うのか!?

それでもアンタは女神かよ!

そこで頷いたら、結愛ちゃんもタキヤと変わらないってコトだぞ!!」

やっぱりイライラするよ…

利用されるコトを選ぶ、その判断に

自分が我慢すればいいって考えに

マシな状況になるなら自分を傷付ける

なんかムカつく…

昔の自分を見てるみたいで…

「小僧…!」

タキヤは俺を黙らせようと首に当てた剣の刃を引こうするが、氷の矢がタキヤの腕を貫く

「ぐおおおお!!!?」

タキヤが俺から離れた瞬間、俺を拘束していた騎士達も氷の矢で貫かれ解放される

レイが援護してくれてる、さすが俺の騎士!!

オマエらとは違うんだよ!バーカ!!

逃げるなら今だ

「結愛ちゃん!自分が嫌だと思うコトに蓋なんてすんな!!

例え、最悪なコトになったとしても自分を犠牲にするなんて愚かだ

それこそが1番の最悪なコトなんだから!

それでも不安でたまらないなら、俺と一緒に来るか

俺に不可能なコトなんてない、なんとかしてやっから」

と大口を叩いて結愛ちゃんに手を差し伸べたが

俺がなんとかできるのかどうかは…わからん!!

俺だって不安だよ…でも、見捨てたくない

嫌がる女の子を利用するような奴らの所に置いておけるか

「……じゃあ、行こうか」

結愛ちゃんは目に涙をたくさん浮かべて俺の手を取った

優しく強く握る手の意味は、ハイだから…

さあレイの下に戻ろうとする前に、腕を貫かれ氷の痛みに悶えるタキヤに言っとく

「そんなに世界征服したきゃ、自分の力でやれよ

まっそん時は勇者の俺がアンタを倒すケドな」

タキヤはそんな俺を睨み見上げるが、何も出来ず俺を逃がした

人間相手に勇者の力使えないのに…そうなったらどうするんだ俺……



そうして北の果ての国から帰って来たら、セレンにめっちゃ怒られた

わかってたケド…

俺達が帰るより先にもうここまでも勇者は女神結愛を盗んだ大罪人であると言う話が流れていて

さらにそれを決定付ける結愛ちゃんがそこにいるコト…

セレンは結愛ちゃんの姿も見えない声も聞こえないが、同じ女神として微かだけれどいるコトを感じるんだって

はじめて感じる存在にこの前まで疑っていた自信のなさもなかったコトになっている

「セリ様!女神を盗むなんて…」

「だから!盗んでねーし、そんなコトよりあの大神官タキヤがイカれてるって!!」

「はぁぁぁ…私はショックでございましてよ

勇者様ともあろうお方が盗みなんて…」

聞けよ!?くっそ…仕方ねぇ、嫌なやり方だがパニックを起こしてるセレンを落ち着かせてから話したい

「おい、セレン!

俺の恋人はレイなんだろ?男が恋人の俺が、なんで女を盗まなきゃなんねんだよ!!」

いやー!自分で言ってて泣きたい

しかも隣で聞いてるレイはまた何も言わないし

「………はっ!そうでございましたわ!!?

セリ様は女神結愛を盗んでおりませんの

そうですわ!セリ様の後をついてきたストーカー女が悪いのですわ!」

腐スイッチが入ったセレンは我を取り戻して、今度は結愛ちゃんを責めるように歩み寄る

「何故貴女はここにいらっしゃるのです!?」

……セレンの向いてるほうに結愛ちゃんいないケドな

ここにいるってのは微かにわかるだけで、ドコにいるのかは正確にわからないようだ

「貴女の姿が見える人がもうひとり現れて、その人のほうが綺麗で可愛いからと言って乗り換えようなど

とんだビッチではありません事!?」

腐の敵と言わんばかりにヒロインを叩くセレン

やめんか!!それでも女神かオマエは!?まったく

「落ち着けよセレン、怒る気持ちもわかるが

あのクソ大神官の所に帰すのは可哀想じゃん…」

セレンに言われて結愛ちゃんは申し訳なさそうに俯いている

「しかしセリ様…!」

「俺だって、帰れって言うよ

タキヤがまともな奴だったらな

でもあれはダメだ

アイツは自分だけしか女神が見えない声が聞こえないのを良いコトに、好き放題言ってやってるんだぜ

それだけじゃねぇよ

女神の力で世界征服を企んでやがるんだ」

「人間が…そのような事を…」

「セレン、オマエは人間を愛してるからショックかもしれない

でも、そんなのオマエの幻でしかないよ

人間に夢見すぎ

俺達の敵は悪魔や魔族だけじゃない

人間も敵になるんだよ

人間ってそんなもんだよ…残念だけど」

「セリ様…」

セレンには可哀想だが、これが現実だ

別に俺を信じなくてもいい

タキヤを信じるかどうかはセレンが決めればいいから

考えるセレンから俺は結愛ちゃんへと視線を移す

他の人には見えない女神が俺にはこうして見えている

もしかしたら俺以外にも見えていた人がいたかもしれない

それなのに、女神が見えるのはたったひとりしかいないと言われているのは

そういう人が現れたらタキヤが殺しているのかもしれない…と悪く考えてしまう

俺も殺されかけたし、これからもタキヤは俺の命を狙うだろう

「わかりましたわ…私はセリ様を信じます」

「本当か!?」

「大神官タキヤにはどう妄想しても萌えませんので…」

オマエの判断基準ってやっぱそれだよね!?

「しかし、これからはこれ以上に大変になりますわね…」

「すまん…セレン……」

行く前はセレンの為にって思ってたのに、帰ったらセレンに余計負担をかけてしまうなんて…ちょっと反省

「女神結愛の力は借りられないのかい?

世界を手に入れるほどの力を持っているのなら、この国を守るくらいの事は出来るのでは」

おぉ!それだよレイ!!スッカリ忘れてた

「それは無理ですわ…ここは私の国ですもの

他の神は力を使えませんの

私より強い力を持っていたとしても

神は決まった土地でしか力を発揮出来ませんわ」

神自身が治める国は少なくても人間がいればそこには基本的に神はいるとの事だ

土地の全てに目が届いているかと言えば難しいそうだが、それでもそこはその神の土地

そして、神は自分の土地で強い力があるのならドコまでも力が使えるそうだ

「そっか…じゃあ無理だな」

俺の言葉に結愛ちゃんはいちいち落ち込む

「気にすんなよ、別にアンタを責めてないし」

そう言っても気にするよな…

「大丈夫!俺、これからはいつも以上に頑張るよ

自分が強くなるのもそうだケド、周りの国が仲間になってくれるように頑張るから!」

苦労をたくさんかけると思って俺はセレンを気付かったが

「身体を売って?国の権力者の男達に、あんな事やこんな事をされて…」

こいつ、マジ殴りたい

女じゃなかったら殴ってる本気で

「そんな事はさせない

セリの事はこれからもオレが守るから」

「レイ!オマエだけだよ!俺の味方は!」

嬉しい!と抱き着く

そしたらレイはいつもと変わらず抱きしめて頭を撫でてくれる

結愛ちゃんは微笑ましいと笑い、セレンは萌え死んでいる

「とにかく、今日から結愛ちゃんもここの仲間ってコトで

あっみんなは見えないか

でも、ヨロシク!」

結愛ちゃんにそう言って笑いかけると、何故か頬を染めて微笑み頷いた

これからどうなるかわからないケド、なんとかするから

もうあの悲しい顔、我慢して耐えているのは見たくない

一緒じゃないのに、なんとなく昔の自分を思い出すから…



―続く―2016/06/12

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