94話『たまに変な夢見る』セリ編

今日は久しぶりに帰ってきた!

セリカが帰るって言ったから、俺も帰って来たんだ

レイとはいつも一緒にいる感覚はあったから寂しくはなかったハズなのに、それでもなんか寂しかったって思うから

今日はいっぱいレイに甘えようかな

「ただい!…ま……」

機嫌良く元気良く自分の部屋のドアを開けると、全裸の光った女がレイに抱き付いていた

えっ…何この女……

「セリ!おかえり…っておい離れろ、セリに誤解されるだろ」

レイは目一杯嫌がって女の子を引き離している

「大丈夫、誤解とかじゃなくて真実だから

レイが女を部屋に連れ込みやがったって、そうだろ結夢ちゃん?」

結夢ちゃんと一緒に帰ってきた俺はこの光景を見てどう思う?って意見を求めた

結夢ちゃんは困った表情を浮かべて頷きはしない

へぇ…そういうコトか、だからセリカは急に帰るって言い出したんだ

レイが浮気したから、俺が汚いものを見るような目を向けるとレイは慌てふためく

いや、浮気されて帰ったワケじゃないってわかってっけど

「ち、違うんだ!本当に誤解なんだ!」

「えっ?何が誤解なのかわかんない?

服まで脱いだ女に抱き付かれといて」

ソファの上にセリカでも結夢ちゃんでもないサイズの服を指す

「それはこの光の聖霊が、服を着るのは落ち着かないと言い出して」

「言い訳なんて見苦しいぞ、レイ!!男は浮気をする生き物だ、さっさと認めろ!!和彦は言い訳も隠したりもしないんだぞ!?」

言ってて悲しくなってきた…

男でも香月と俺は絶対浮気をしないのに(俺はどっちも本気だもん)

「違うって!話を聞いてくれセリ!

ほら光の聖霊からもセリの誤解を解いてくれないかい?」

レイが光の聖霊と呼ぶ女の子はふんっとしてそっぽを向く

「勇者は敵」

「そうじゃなくて、オレ達の間には何もないって事を…」

「私とレイはいつかの前世で恋人同士だったわ、男の貴方が入る隙なんてないくらい!!」

今にも噛みつきそうな目で俺を睨み付ける

なんか勝手にライバル視されてるような…

いつかの前世って、最近のじゃなさそうだな

近い前世ではレイはセリカの恋人だって話だし、それより古い前世か…複雑な気持ちになるな

「俺はレイの恋人じゃねぇよ、大親友だ

そんな目で見られるような存在じゃない」

セリカにはその目を向けるかもしれないが、まぁ俺も一緒と言えば一緒だが

そう言ったにも関わらず光の聖霊はさらに強い敵意の視線を向けて来る

「いいえ、貴方は敵よ

貴方さえ死ねば世界は平和になる

いつか私のレイに勇者の貴方を殺…!」

話の途中でレイは光の聖霊の口を手で塞ぐ

光の聖霊は暴れているがレイに抑えつけられて喋れない

俺が死ねば世界が平和に…?なんで?

いや、そんなコトより…レイが俺を殺すってコト……

この光の聖霊もそう言うのか…

最初の頃に香月が言ってたのを思い出す

レイは俺を二度殺したと、香月が嘘を言う奴じゃないってわかってるけど…不安だった

香月以外にその話をする人がいる

不安が大きくなって恐くなる

本当にレイが…いや、記憶のない前世のコトなんて関係ないじゃん

今が大事、俺はレイを…

「セリは誰にも殺させない

オレが命を懸けて守るから、あんたは黙っていろ

オレ達の仲をかき乱すって言うなら許さないぞ」

俺はレイを信じてる

レイは絶対に俺を裏切らない

…これって、フラグとかじゃないよな?

レイは絶対に、絶対に…俺を裏切ったりしないよね……

「レイ…俺はレイを信じてるよ

…ちょっと、久しぶりに帰ってきたからセレン達に顔見せてくるね」

手に強く力を入れて、大きな不安と心配を抑えつける

俯きながらレイに背中を向けてドアへと向かう

だってちゃんと笑えないし

「…言葉だけじゃその不安も心配も消えないかい?」

ドアのぶへと手をかけると後ろからレイにその手を止められ抱きしめられる

「オレは絶対にセリを裏切らない

何回言葉にしたって未来はわからないよな

それが嘘じゃないって永遠をかけて証明してみせるから」

レイの力強い腕に抱きしめられて、不安も心配も少しは軽くなる

未来のコト、わからないのに悩んだって仕方ない

俺はレイのコトを信じてるんだから

嬉しかった…凄く

後ろで光の聖霊が恨み節を呟いていたが聞こえないフリをした

めっちゃこわいし

結夢ちゃんはよかったねと微笑んでくれる

レイの腕が少し緩んだ所で俺はレイに向き合った

「仕方ないなぁ、女連れ込んだコトは許す」

「まだそれを怒ってたのかい?オレはセリとセリカ一筋さ」

俺が笑うとレイも笑ってくれて、額にキスをくれる

お返しにと俺はレイの頬にキスする

まーたバカップルって言われそうだけど、いいんだよ俺達はこれで!!

「そろそろ行くよ、セレン達に顔を見せたいってのは本当だから」

「わかった、また後で」

レイの爽やかな笑顔で見送られて俺は不安も心配も気にならなくなった

なくなったワケではなくても、レイを信じるには十分だ

優しくていつだって大切にしてくれる、それだけでいい

まぁ…あの光の聖霊のコトは気にならないと言うには嘘になってしまう

自称レイの恋人で、勇者の俺を知っている

いつかの前世を知っている存在が香月や魔族以外にも現れた

正直、彼女のコトは悪い意味で気になるが…気にしても仕方ねぇよな

あと…なんとなくレイの恋人って聞いて、ヤキモチしちゃった

レイを取られたような気持ちになって…

レイにセリカ以外の恋人ができたら…俺と一緒にいる時間なんてめちゃくちゃ減るだろうし

優しいのも大切にしてくれてたのも、全部なくなっちゃうのかなって思ったら…凄く寂しいよ

大親友に1番を求めるなんてワガママ過ぎるってわかってるケド、俺ってワガママだもんな



気が付くと、俺は何故か中学生になっていた

しかも記憶は大人のまま身体と時間だけが中学時代に逆戻りしている

あれ?俺あんま見た目変わんなくね?

中学生の俺はちょっと幼いくらいで23歳になっても未成年と間違われる大人の俺は一体なんなのか

それより制服とかめっちゃ懐かしい!!男は黒の学ラン!!女子はセーラー服でめっちゃ可愛いんだよな!

俺、全然学ラン似合わないわ…中学の時も思ってたけど、大人目線でもスゲー似合わねぇ

ジャージとかも死ぬほど似合わねぇの、みんなからも言われるくらい似合わない

セリカはセーラー服可愛いんだろうな~と想像してはニヤける、自分大好き

中学と言や和彦も一緒だったけど、その時は同じクラスでも顔見知り程度で全然関わりなかったからあんまり覚えてないな

和彦は女顔だから学ラン似合わなさそう

でも、思い出してみるとカッコよかったかも…

アイツなんやかんや言ってカッコいいし…俺が惚れてるからそう見えるだけか?

いや!!待てよ!?なんだこの状況!?突然過ぎねぇ!?どうした!?何があった!?

おいおい、世界が違うぞ…前の世界だ

時代も中学まで逆戻りしているし、一体どういうコトだ?

まいっか、不思議なコトが起きるのは今にはじまったコトじゃねぇもん

俺は何故か楽観的で当たり前のように学校に来て、教室に入ると

「おう!久しぶり!夏休み中なにしてたん~?」

「9月になってもまだ暑いなぁ」

友達に話しかけられる

「澤田!渡邉!スゲー久しぶりやん!夏休み?…わかんね、寝てた」

夏休み開けの学校って設定か、十年くらい前の夏休み何してたなんか覚えてねぇよ!!?

「犬飼…自分ももしかして…」

「へっ?」

スゲー忘れてたけど、俺犬飼って苗字だったわ!!

あの世界じゃ苗字を名乗るコトねぇもんな…

セリカは聖藤だったって言ってたのを思い出す、そうそう!和彦は北条なんだよな!

懐かしい~…俺、大嫌いだった最近まで和彦のコト北条って呼んでたわ

「中学時代に逆戻りしたやろ?」

澤田にそう聞かれて、俺は2人と同じ状況なのだとわかった

澤田は最初に会ったクラスメイトに大人の自分が中学生になった話をしたら笑われたらしく、その後にちょっとしたボケをかまして他のクラスメイトの反応を見て判断したそうだ

そこで渡邉も同じ状況だったとわかり、質問された俺も何も考えず辻褄の合わない回答をしたコトでわかったとのコト

今日は5月の月曜日で夏休みでもなんでもなかったってワケ

「これで3人目か」

「それにしても中学のおれらってこんな幼かった?」

「ほんまそれ!!23のおれめっちゃおっさんやん!って思ったわ!!」

「高校の時からもうおっさんやったで!!」

澤田と渡邉はお互いを指差して爆笑している

「えっ俺…あんま見た目変わってないねんけど……」

「あー犬飼は大人になってから会ってへんけど、おっさんの姿が想像できん」

「ないない!ええんとちゃう?」

おっさんにはなりたくないけど、幼さが抜けたくらいでカッコ良く成長してないなんて…ちょっとショック…

中学生の時は大人になれば自然とカッコ良くなってるとか夢見てた気がする

ならなかった!残念だったな、中学生の俺

この時代の俺は和彦の恋人になるとかも思いもしなかったし…未来はもう明るくなかった

でも、幸せだから明るくなくても暗いと思わない

俺は今が良いんだ、大好きだから

後悔なんてないよ

で、俺達はどうして一部だけが過去に来ているのかわからなかったが

細かいコトはいっかってコトで楽しく話していた

そうして授業が終わり放課後になると澤田と渡邉は部活に行くと言うから別れて、俺も部活に行くかって着替えようとした

部活はバドミントンだよ、9割筋トレしかしないバド部

筋トレしても俺は全然筋肉と無縁で苦労したっけ

2年の途中でバド部やめた途端さらに力と体力は落ちて行く一方でな……いや、思い出すのはやめよう

あまり良い思い出じゃねぇし

そういや更衣室とかなくて着替えは教室でしてた記憶がある

体育の時は男女を2クラスに分けて着替えてたけど、部活での着替えは周りあんま見てなかったけど普通に教室で着替えてた気がするな

それって女子もいるんじゃないか!?

着替える前に周りを見回す

決して女子が着替えてるかもと言う淡い期待じゃなく、俺がこれから着替えるから変態がいないかどうかを警戒してるワケで…決して女子の着替えが見たいとかじゃ……

「なぁ犬飼くん」

うわーー!!ごめんなさい!!!出て行きます!!すぐ!!

女子に声をかけられてビクッとなる

振り向いて森谷さんと市村さんと木下さんの3人の姿を見た瞬間、俺はなんとなくこの3人も過去に来たんだと見ただけでわかった

「やっぱ犬飼くんも過去に来た人なんや、うちら3人もそうやねん」

「そ、そうなんや…」

やべぇ俺、女子とあんま喋ったコトねぇからどう会話していいかわかんねぇ

彼女達が言うには大人の記憶を持った人は澤田と渡邉と俺以外は先生を含め他にはいないらしい

不思議だな、この現象は…

「これから3人でショッピングモール行くんやけど犬飼くんも一緒に行かへん?」

なんで俺を誘う!?ってか、過去に来た話するんじゃないの!?

それはもうどうでもいいの!?澤田と渡邉もだけど!?

「ええけど」

「夏の新作コスメが今日発売やから!お金はないけどテスターでメイクしよって」

だからなんでそれに俺を誘う!?男の俺と夏の新作コスメになんの関係があるの!?

まぁ中学生だから金はないよな

「楽しそうやな」

心にもないコトを言った

他にも誰か誘うのかと思ったけど、男は俺1人と女子3人でショッピングモールへとやってきた

女子3人は俺をそっちのけでテスターでメイクをはじめる

器用だな~と思うのと同時に中学生でメイクは早いような、メイクしない方が可愛いのにと女子を敵に回すような感想を心の中で呟いてみたり

俺は化粧品ダメなんだよなー、超敏感肌でセリカはメイクすると顔が痒くなったり荒れたりするって言ってた

「次は犬飼くんやね!」

「えっ!?」

「色白で肌も綺麗やしメイクのしがいがありそうや」

「犬飼くんはブルベ夏だからパステルカラーがめっちゃ可愛いと思うねん!」

ブルベ夏ってなに!?

お…女…こぇえ!?双子メイドを思い出した

付き添いで部活まで休んだ俺で遊ぶために誘ったのか!?

「いや…それはちょっと…嫌や…」

隙をみて俺はダッシュで逃げた

よく女装させられる時にメイクもされるけど、あれはなんか顔に違和感があって苦手だ

森谷さん達は追い掛けては来なかったが、俺はいつの間にか3階の人気がない所まで来ていた

あー店舗のない従業員通路まで来ちゃったのか

女の子は可愛くて大好きだけど、たまに強引な所は苦手に感じるが…まぁそれも女の子らしくて可愛いのかも

さてどうする…戻るか、このまま帰るか

迷っていると少し先に見るからに怪しい男が立っているコトに気付く

もう5月なのに冬のコートを着ている

暑そうと思うより先にヤバイと言うのを感じた

向こうも俺が警戒したコトに気付いたのか襲ってくる

うわっもう最悪!!

運良く捕まらずに後ろを振り返り走って逃げる

まだ何かされたワケでもないのに、見ず知らずの奴に追い掛けられるってのはとてつもない恐怖を感じるぞ

必死に逃げ切った先の1階は人がたくさんいるトイザ○スだった

これだけいたら安心だとホッと胸を撫で下ろす

あの変態は…振り返ると男は姿を消している

一体なんだったんだ

森谷さん達はまだコスメの所にいるだろうから大丈夫だとは思うが心配だ

少し様子を見て戻ろう

人が多いからもう安心だと俺は思っていた

だが、今度は少し離れた所で別の若い男がバッグから出刃包丁を取り出して近くにいた人を切りつける

切りつけられた人は大量の血を流して倒れ込み、床一面に赤い水溜まりができた

周りも俺もその状況を理解するのに時が止まるような感覚だ

でも、出刃包丁を持った若い男がニヤリと笑って次の殺人を犯すのに足を踏み出すと周りはパニックを起こして逃げ惑う

若い男は女だろうが子供だろうが関係なく近くにいる人から切り殺していく

俺は足が竦んで動けなかった

なんでかって、自慢の…俺にはもうそれしかないと言ってもいいくらいの自慢の回復魔法が使えないんだ

目の前で切りつけられ苦しんで死んでしまう人達を誰ひとりとして助けられない

中学生だから?世界が違うから?

恐い…誰も助けられないコトより、自分が殺されるかもしれないコトに大きな恐怖を感じた

頼れるものが何もないって…自分のコトだけでいっぱいになる

他の人が殺される度に自分じゃなくてよかったなんてクズみたいな安心感と次は自分かもしれないって情けない恐怖感

何が勇者だ、世界を救うなんて夢物語もいい加減にしろ

誰も救えないくせに

自分が弱いって……わかってたよ!!ずっと昔から今だって!!…何にも勝てないよ……俺は

逃げ惑う人々のひとりとして俺も目の前の恐怖から逃げ出した

外へと思って走ったが、誰も外へ出ようとしないコトに不思議に思い立ち止まる

よく見ると出入口にはよくわからない白い糸が張り巡らされていて、それに触れた人はそのまま死ぬなんてトラップがあった

はっ?なんだよこれ、これはちょっと意味わからないぞ…

足が止まっている間にも殺人犯は迫ってきて周りを1人ずつ殺していく

いや違う…この殺人犯はさっきの若い男じゃない

見渡すといつの間にか殺人犯は数人増えている

嘘だろ…おかしいだろ!!?

また俺は殺人犯の目の前から逃げる

どこへ?外へは出られないのに?

どうやって逃げるかを考えていると、子供用の秘密基地が目に入った

ナイス!おもちゃの国、小さくて狭いが俺くらいならギリギリ隠れられる

後で冷静になったら絶対バレるのにって思うのに、この時の俺はどうかしてた

殺人犯の目を盗んで秘密基地へと隠れて時間が過ぎるのを待つ

意外に誰も隠れに来なくて俺は外の騒がしさが落ち着くように祈った

現実逃避をするように目を耳を閉じても、聞こえてくる…完全には消えない起こってる出来事

暫くして警察がやって来たようだ

殺人犯達はみんな仲間だったみたいで固まって舌打ちをして秘密基地のすぐ隣に集まる

警察が来たからには数分後には殺人犯達はいなくなる

でも、すぐ近くにいるコトに強い緊張とともに息を殺し身を潜めた

最後まで見つかりたくなかったから…

「ちっポリ公が来たせいでここでゲームオーバーか」

「もっと殺せると思った~」

「また次があるじゃん!」

数人の殺人犯達は妙なコトを言っていた

現実では出ないような台詞を

「そうだろ?お前も次は参加しろよ」

ドクンと心臓が脈を打つ

殺人犯の1人が秘密基地の窓から顔を覗かせる

俺が隠れているコトに気付いた

しかも

「お前もおれらと同じ未来から来た人間なんだろー?

殺人をやれとは言わない、おれらはゲームがしたいんだ

お前が仲間を集めておれらの殺人を止めてみろ

楽しみしてっからなぁ??

次はよろしく」

俺が未来から来た人間ってコトにも気付かれている

仲間を集める?そしてコイツらの殺人を止めろって?正義の味方か

仲間と言われて思い浮かんだのは澤田と渡邉と森谷さん達の過去へ来た同級生だった

次は、次もあるって言うのか?

なんでそんなゲーム、参加しなきゃならねぇんだ

なんでこんなコトに巻き込まれて……



「って夢を見たんやけど!!こわない!?恐かってんけど!めっちゃ!!

こわかったのに、めっちゃ続きが気にならへんか!?スゲー気になるねん、恐いのに」

俺は朝起きてすぐに和彦の家に来て自分が今朝見た夢を覚えているうちに話した(実夢)

「セリくんの関西弁は久しぶりだな、可愛くて萌えるよ」

「そこじゃない!!

ってか、澤田と渡邉って誰だよ!!知らねーよ!!女子3人組も現実にはいなかった面だったよ!!?」

「オレも知らないな」

まぁ夢だしと和彦は笑う、確かに夢だけど…夢だから……

「和彦は同じクラスだったのにいなかったし、和彦がいたらあんな殺人犯達も恐くないのに…

守ってよ…夢の中でも」

「無茶苦茶言うね」

だって…恐かったし…凄く

夢だから?それとも回復魔法が使えなかったから?

ただたんに恐い夢を見た、それだけだったんだ

そんなコトは今までにも何度だって数え切れないくらいあった

悪夢を見るコトの方が多いよ

「…恐い夢を見ない方法ならある」

俺が恐かったコトをやっとわかってくれたのか和彦は俺の頬に手を触れてそのままキスしてくれる

「寝なきゃいい、オレがセリくんを寝かせないよ」

そのままソファに押し倒されて和彦は俺の上に覆い被さる

「アホ、寝なきゃ死ぬだろ!やめろやめろ離れろ

まだ朝なんだよ」

和彦の肩を押して起き上がる

「レイには慰めてもらったんだろ?」

「うん…」

目が覚めてすぐに隣で寝ていたレイに抱き付いたら気付いてくれて慰めてくれた

だから恐い夢はもういいんだ

和彦の所へ来たのは、中学の夢を見たから話したかったのと

「なんか…昔のコト色々思い出しちゃって

レイには知られたくないし話したくない」

「うん」

「和彦は俺と再会した時に俺のコトは何でも調べたって言ってたよな」

「言ったね、今は黒子の数までわかるよ」

「きっも」心の底から

ゴミを見る目を向けても和彦は笑っている

でも、和彦はちゃんとわかってて俺を胸へと抱き寄せてくれた

何も言わずに…何も言わないけど、俺の過去を知っている和彦に慰めてほしかった

抱き締めてもらえるだけでよかった

思い出さないようにしてるだけでトラウマはなくなったりなんかしない

そのトラウマを思い出すと俺の心は醜くなるようだ

抑えつけるように、自分を落ち着かせる

だって…ここはもうあの世界じゃないのだから


今日で何回目かな、ここに来るのは

和彦が住んでる所はセレンの神殿に近い街外れにある屋敷だ

俺や香月が住んでる所に比べれば広くはないが、それでも広いお屋敷に住んでる

この世界で俺と会う前は別の所に住んでたみたいだけど、近くがいいからって引っ越したみたい

俺は屋敷は自由に出入りしていい、歩き回っていいと言われているから遠慮なく好きに使わせてもらっている

この屋敷にはトップが和彦で仲間がたくさんいるワケだが、堅気の人達じゃない

見た目が恐い人も多い

でも一般人には紳士的で危害を加えたりはしない

いつもみんな笑顔で挨拶してくれるし

表面上は……裏のコトは知らない

和彦も話さないし俺も聞かないし、徹底しているのか和彦はそれを俺に見せたコトがなかった

和彦とは付き合いが長いけど、半分くらい知らないんだと思う

知りたいと思ったコトはない、好きでも俺はなんでもかんでも知りたいって思う性格じゃなかったから

浮気は許さないけど!!

和彦が知ってほしいってなら知るけど、別にそうじゃないならわざわざ深くは追求しないんだ

現状で何も不満はない、目に見えてる和彦が好き

和彦も俺を愛してくれる、それだけでいい

「こんにちは、セリさん」

廊下を歩いているとまた挨拶される

「こんに…げっ!」

すれ違いに声が聞こえた方に顔を向けると思わず嫌な声を出してしまった

まさかコイツもこの世界にいるなんて思いもしなかった

フェイだ、フェイ・ア・ラモード

プリンみたいな名前だなと密かに思っている

和彦の側近の男、俺達より2歳ほど年下だったような気がする

俺はコイツがとても苦手だった

何故なら、過去にこの男に襲われたコトがあるからだ

和彦もいない、誰もいない廊下でバッタリ会ってしまい俺は目を合わせずに通り過ぎようとしたが

「酷い嫌がりようですね、お久しぶりです」

フェイは俺が避けようとしてる空気を読まなかった

「…シカトですか」

「……シカトされる心当たりないの?」

「ありますけど?」

最初からなんとなく生意気な奴でムカつくなとは思うコトはあった

「ここで貴方に会えて嬉しい」

素直な性格で、その素直さを後先考えずに押し付けてくる所があった

でも、今は後先を考えられるくらいにはなったようだ…たぶん

「俺は二度と会いたくなかったわ」

「そう言わずに、私を好きになればいいのに」

絶対ないよ、ないない

ってコトは言わなくてもフェイもそれはわかっている

何故なら

「そしたら、こんな事にはならなかったのに…」

そっと右手で左肩に触れる

フェイの左腕はそこから先がない

「…ゴメン」

って俺が謝るのもおかしいコトなのだが

フェイの左腕は和彦に切断されたんだ

俺に手を出したから…

和彦は俺の心がどこにあろうと、誰を好きでいようと気にしない

だから俺が好きなら香月とのコトも構わないとしている

でも、俺が好きじゃない、嫌なコトには怒るし守ってくれるし助けてくれる

誰でもいいワケじゃない、ほったらかしにされているワケでもない

和彦はちゃんと俺を大切にしてくれているから、フェイのコトはこのような結果になってしまった

和彦はフェイを許さなかった

腕一本と言う手加減はしたけれど

それがあったから、俺はフェイのしたコトに目を閉じた

「あ、今の俺ならフェイの腕を治せるよ」

「いえ結構です」

「なんだよそれ、せっかく親切にしてやってるのに」

目を閉じたとは言え、やっぱりフェイは恐いし嫌い

でも、和彦のしたコトだからなんとなく恋人の俺がカバーしなきゃいけないって気がしてさ

「貴方が、セリさんが私を好きになったら治してください」

「オマエね…俺のコト諦めてなかったのか」

ってか、男ばっかに好かれてしまうのは何故だ…めちゃくちゃ複雑な気持ちになるわ

「貴方以上の人が現れたら興味なくなるとは思うのですが…なかなか」

「俺以上の人なんてめっちゃいると思うぞ」

「そうですね、だらけだと思います」

腹立つな~…

そうだよ!俺なんて全然ダメな奴だよ!知ってるって!!

「それでも、今の所はセリさん以外だめなんです

男でも女でもどっちでもいい、他の人を好きになれたら楽でしょうね」

「頑張れ頑張れ!!」

片手を上げて応援する

好きは頑張ってなれるもんでもないが…

俺から興味をなくしてくれるなら全力で応援する!

ドンッ!と右手で壁ドンされた

「な、なに…」

嫌な予感しかしない

フェイは満面の笑みで迫る

「腕はもう一本あるし、失っても構いませんから」

「落ち着け!?早まるな!オマエはまだ若い!だろ?」

なんで俺の周りって変な奴多いんだよ!

どうにかして逃げようと考えていると、和彦がフェイの肩を掴み引き離してくれた

和彦!俺が実は屋敷の中で迷子になってるのに気付いて迎えに来てくれたの!?

自由に歩き回ってるフリなだけで実は同じ廊下の景色に迷っていただけだった

「いいだろ?セリくん、フェイの残りの腕一本懸けてもいいって根性

また抱いてもらえば?」

ハハハと和彦は面白おかしく笑う

「オマエは俺を助けてくれたんじゃねぇのかよ!嫌に決まってんだろ!」

「なんなら今夜3」

「嫌だよ!!アホ!」

寝取られフェチか!夜になる前に帰るわ!!

「だって?残念、フェイ

次セリくんに手を出したらもう出す手もなくなるな」

和彦はにこやかにフェイにその笑顔を向けるが、俺はその笑顔が恐かった

本気でやる奴だから…

「構いませんよ」

フェイの間もない返事も恐かった

そこまでするコトに理解ができなかったから

今でも脳裏に焼き付いている

和彦は俺の見てる目の前でフェイの左腕を切り落としたんだ

当たり前のように、なんてコトない風に

いつも通りの和彦のままで

フェイのコトは嫌いだ、無理矢理やられて憎いとも思う

だけど…

フェイは少なくとも俺に好意を持っているから…他の奴らとは違って

いや、だからなのかも

腕一本で済んだのは

「やめろやめろ、2人とも

とにかく俺はフェイの気持ちには応えられないし襲ってくんのも禁止」

「どうしてセリさんに禁止されなきゃいけないんですか?」

「相手が俺だからだろ!?何言ってんの!?」

「合意いります?」

「いるよ!?歪みすぎて引くわ!」

「全力で嫌がられるのが良いのに」

「そういうプレイしてくれるお店に行けば!?俺じゃなくてもいいよねそれ!?」

納得いかないと言った態度のフェイにいつまでも付き合ってられない

「もう!帰る!送って和彦」

玄関どっちかわからないけど、とりあえず廊下を進む

フェイの視線を背中に感じながら

なるべくアイツとは関わらないようにしよう

セリカにも要注意人物って言っとかないとな、偶然にも会ったら俺にそっくりなセリカに手を出す可能性は高い

フェイは男でも女でもって言ってたし、危険だ

「泊まっていけよ、セリくん」

隣を歩く和彦に言われても断る

「無理、レイと結夢ちゃんにすぐ帰るって言ったもん」

とりあえず玄関わからないけど1階に向かえばいいか

「この前は珍しくセリくんから誘って来たのに」

うっ…それは…和彦と喧嘩して香月が留守で久しぶりに会ったらボコボコにされて…

会えない日が長かったから凄く寂しくて

「忘れろ、この前のコトなんかなかった」

急に恥ずかしくなって顔が熱くなる

それを隠すように和彦より足を速めた

「香月とは最近ご無沙汰なんだって?」

「変な言い方すんな、会ってないだけだよ」

最近…会ってない、なんとなく避けちゃってる俺が

聖剣のコトが…ちょっとモヤモヤしちゃって、頭ではわかってるけどまだ立ち直れてないって言うか

「呼んだらすぐ来るだろ?今日は3人で」

「オマエほんと好きだなそれ、いまさらだけど寝取られフェチか

やだよ、俺だけしんどいやつ」

オマエら仲悪いし

和彦は俺の前に回り込み足を止めさせた

「セリくんはいつもそう言うけど、嫌じゃないじゃん」

「………。」

あっなんで俺、すぐに嫌に決まってる!って言えなかったんだ

この間の後に否定してもウソにしか聞こえない

「香月と会いにくいならオレがついててやろうか」

「和彦はエッチしたいだけのくせに」

「まぁね」

素直だよね、まぁいいけど

「でも…やっぱり…会いづらい、かな

今日は帰らないから、香月はまた今度」

もう少し気持ちに整理がついてからにしたい

向こうはなんとも思ってないから、俺の意識を変えるしかない

「最初からその気で来たんだろ」

「違うし…」

軽く触れるようなキスが来る

和彦に手を掴まれ指を絡まれるとキスも激しくなる

いや、ちょっとはその気で来たかも

本当はレイと結夢ちゃんにも今日は帰らないと思うって言ってきたし

素直になれないんだよな…俺って

恥ずかしいからって、そんなコトないってフリする

照れ隠しして、それでいて和彦に強引に迫られるのが嬉しい

香月のコト、日を開ければ開けるほど会いにくくなる

早めに会わなきゃ

1人で!和彦について来てもらわなくていい

俺は嫌がってみせるけど、たまには3人でってのも悪くない

たまにはな…



-続く-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る