運命の世界

Celi

第1話『止まったままの運命に』イングヴェィ編

気付いたら、この運命の世界に存在していた

自分が今まで生きていた前の世界で死んだと言うコトはなんとなくわかるくらいで…

自分が何者なのかも前の世界の記憶も俺は忘れてしまっていた

自分のコトより、俺の記憶の中で何かとっても大切なコトを忘れているような気がする

その大切なコトが忘れて小さくなっていくのを感じる度に自分の心を失うみたいで恐くなって、時間が経つごとに焦りと不安が大きくなる

このままじゃ絶対ダメなんだって、強く思うのにどうしたらいいかわからない



1ヶ月ほど経つとこの世界にも少しは慣れてきた

前の世界で一緒だった兄のリジェウェィも友人のカトルも同族のユリセリさんもいたから、心細いと言うコトもなかったし

とくにリジェウェィとユリセリさんは頭が良いからすぐにこの世界のコトも理解して色々と教えてくれる

3人とも、前の世界の記憶はあるみたいだケド

俺が忘れているコトに対して、オマエはこうだったんだと教えはしない

協力はするケド、俺が自分で思い出さなければ意味がないとわかっているからだ

俺もそう思うよ

他人に自分の過去を教えてもらった所で、記憶がなければ他人の話を聞いてるみたいな感じできっとわからないまま

ん~…自分の記憶についてはずっと気になっていたケド

この1ヶ月は長いような短いような、あっという間に過ぎていったな

忙しすぎてね

環境も最初にここに来た時から一気に変わっちゃって、やっと少しだけ落ち着いたって今日に今までのコトを振り返ってみようと…

「イングヴェィ、何をぼけっとしている

さっさと準備をして、行こう」

思っていたら、友人のカトルに声をかけられた

「えっドコに!?今日何か予定あったっけ?」

カトルは渦巻きのペロペロキャンディーを加えながら1枚の手紙を俺に手渡した

カトルのオレンジ色の髪に明るい黄緑色の瞳は今食べてるキャンディーと似たような色をしていて、第一印象の見た目はお菓子みたいな人って感じだっけ

(記憶がないから、この世界で始めてカトルを見た時の感想)

しかし、その印象は間違ってはいなかった

カトルはカラフルな色のお菓子を常に食べていては甘い匂いを撒き散らしている

まぁお菓子が持ち歩きやすいってだけであって、お菓子が1番好きとかじゃないみたいだよ

常に何か食べていたいらしいの

この前はチキンの丸焼き食べながら歩いてたよ

その前は近くの川で流しうどんやってた1人で

前日が大雨で川が荒れに荒れてたから流れがめっちゃ速すぎてうどん食えないってめっちゃ怒ってたもん

なんでやる前に誰も止めなかったんだよ

俺は流れて行ったうどん達の行く末が心配でたまらなかったね

よく女の子達がダイエットとか言ってるのを聞くケド、カトルはどんなに食べてもそんなものとは無縁だった

そんなカトルは悪魔と妖精のハーフだったっけ…

記憶があやふやって言った時に軽く自己紹介されたコトを思い出す

確か、お母さんをずっと探してるって言ってたな

お母さんが妖精さんなんだよね

この世界で見つかるといいねカトル

今はカトルとリジェウェィとなんやかんやできたたくさんの異種族の仲間達と暮らしている

森に囲まれた湖に浮かぶ古城を見つけてね

みんなでここに、静かで自然で動物もたくさんいて良い所かな

「この手紙は、セレンさんから?」

カトルから受け取った手紙の内容を確認すると、『勇…あっ何でもない、まぁなんでもいいからちょっと来て』ってコトしか書かれていなかった

えっ何、勇って!?スッゴイ気になるよ!?

書き間違えたなら新しい紙に書いてよ!?

もしくは塗り潰すとか!?

あっなんでもないとかそれ手紙に書くコトじゃないよ!?

会話してる時にしか使わないよ!?

セレンさんとは顔見知り程度だっけ

お互いがどんな立場にあるかってコトしか知らないかな

セレンさんはセイレンティリアと言う名(長いからみんなにはセレンと呼ばせている)の女神で人間と共存している大きな国の頂点にいる人

一言簡単に言えば、その国でめっちゃ偉い人なんだよね

だけど、その国ではの話で神族の頂点ってワケではないみたい

かなり力と位の高い神族であるコトは変わりないケド

神と天使と人間が仲良く暮らしてる国か…

あまり近寄りたくないんだよね…何故か本能的に

どうしてだろう

「預かった2枚のうち1枚はリジェウェィ宛てだったから先ほど渡しておいた」

「セレンさんはリジェウェィ好きだね」

誰もが知っているコト

一目惚れしたセレンさんはリジェウェィの大ファンだってコトをね

ラブレターなのかファンレターなのかはわからないケド、かなり熱狂的なんだよ

「その手紙を見たリジェウェィは頭を抱えて、自分は行かないと言った」

リジェウェィは引いてるケド…

「この世界で生きる為にはセレンの所とは仲良くしておいて損はない

リジェウェィがいる限り、何もしなくても安泰だとは思っても

意味もなく呼び出すような女ではない」

この手紙の書き方だけ見ると、会いに行ったら『呼んでみただけ~テヘ☆』ってなりそうだよ……

何か大事なコト…

万が一、手紙がここに届かず誰かに盗まれたりなくしたりして

内容を書いていたら情報が漏れる場合もあるからと思って

あっなんでもないって隠したのかな

いやそれでもやっぱりそうなら新しい紙に書いてほしかったって何とも言えない気持ちにはなる

「うん、わかった

すぐに準備するからみんなには暫く出かけるって伝えてて」

セレンさんの国、セレンさんのいる神殿になると国の中心になるから行くには数日はかかる

暫く自分の城から離れるのは心配もあるケド、リジェウェィがいるから大丈夫

準備を終えて、リジェウェィに城を任せて俺はカトルとセレンさんの国へと向かった



そして、数日後

セレンさんのいる国が後少しと見えて来た所で物凄い魔力と敵意を感じた

この広い沼地はセレンさんの管轄外だから、荒れているしイヤな空気は感じていていかにも何か出そうって時に目の前に本当に何かが現れた

「ジャジャジャ~ン!!呼ばれて飛び出てっ…あれ?」

「逆逆!!!」

………ッ何この人達!?

上から降って現れた大きな翼の両手を伸ばして俺達を通せん坊する鳥系の人型で男魔族と、鳥のボケにすかさずツッコミ入れてる上半身が人間だけど胸毛が真っ白フワフワな下半身がガッチリしたムキムキの羊の男魔族と、2人を見て爆笑してる上半身は人間で下半身が蛇の女魔族が現れた

「後1時間くらいでセレンの国に着く」

「疲れたね~」

完全にスルーするカトルはエクレアを食べながら馬を歩かせ3人の隣を通り過ぎる

俺も疲れて幻覚でも見たんだと思って何もなかったコトにした

「ちょちょ!呼ばれた気がしたからこうして登場したっつーのにシカトっすかお兄さん達~」

「気のせいだよ」

俺達に待ってと手を伸ばす鳥にそう言ったら手を引っ込め後ろ頭をかく

「そっすかそっすよね

気のせい…っいやいやいやいやいや!!待って待って

シカトとか立派なイジメだよ?先生に言い付けちゃうよ?」

えっなんかめんどくさいのに捕まったよ…

「オレらよぉ貧乏で今日のパンツも買えないくらいでさ

お兄さん達にお金を少~しばかり貸してもらおっかなって」

下手に出てるような声色と姿勢の羊だけど、これがカツアゲなのだとすぐにわかった

「はい」

まぁ下着くらいのお金ならいいかなってお金を渡した

「あざーっす!!

ってひゃっくえんっ!?少ねぇ!!!」

「消費税忘れてた、はい」

「108円ッ!

これでパンツは買えますね

ありがとうございましたーってバカッ!!」

………ツッコミできる人がいないからめちゃくちゃピンチなんだケド……

カトルに助けを求めるよう視線を向けるケドやっぱり関わらない聞かない止まらないの完全スルー

こういうノリは俺じゃなくて、あの………っ

あれ?俺、一瞬何か思い出しかけたような……

「こんな金でパンツが買えるかよ!最低でも100万は置いてけやコラボケ!!」

唾飛ばす勢いで俺達に凄む鳥の言葉に蛇が頭にハテナを浮かべて首を傾げた

「えー!キルラのパンツっていつも100万するのー!?

それ高いよー?絶対ぼったくりされてるよー!?」

声の大きい蛇に羊が口を塞ぎ俺達から引き離す

「まぁまぁまぁ、うんうんポップはちょ~っとお口チャックしときましょうね~

オレ達はパンツが目的じゃなくて有り金全部奪うカツアゲ中だからね~」

カツアゲってもう言っちゃったよ

「ラナ何すんのー!もごもご」

「カー!ごちゃごちゃうっせーんだよ兄ちゃん達よぉ!!!」

俺とカトルは消費税を最後に何も言ってない…

「オレ達を魔王様の四天王とわかってねぇなぁ!!!?

強いんだぞ!?恐いんだぞ!?やべーんだぞ!?」

魔力はかなり高いってコトはわかるのに、何故か弱そう恐くないって思ってしまった

ある意味ヤバイってのはわかる

「四天王?どう見ても1人足りない」

カトルがうるさいと言うようにポケットからラムネを取り出し大口開けてた鳥…さっき蛇のポップって呼ばれた子がキルラって言ってたな

キルラの口に投げ入れた

「っこのラムネうめー

よく見ろよ!!ここにもう1人いんだよ

オレ達のオヤビンなんだぜ!!」

ラムネを飲み込んで感想を言った後、キルラは手首にかけている透明な袋に水が入った金魚を見せて来た

お祭りの帰りだよねそれ絶対

俺とカトルは金魚掬いでゲットしたであろう金魚を見た瞬間、思った

四天王じゃなくてコイツらはただの三馬鹿だと…確信した

「魔王の三馬鹿っじゃなかった四天王…ってコトは君達は香月くんの仲間ってコト?」

「えっ…もしかして魔王様のお知り合いの方ですか?ご友人とかでございますか?」

魔王を香月くんと呼ぶと3人は急に態度を変える

魔王が香月と言う名であるコトはあまり知られていない

一部の者だけだから、この人達が香月くんの知り合いと思うのも自然かも

香月くんとは友人関係ではないんだケド、むしろ香月くんは俺の力を狙っている

俺はいきなり攻撃されて「君は誰?」って聞いたら普通に名乗ってくれただけなんだよね

自分の存在が俺はまだわからないケド、リジェウェィ達は知っていて

特徴があるからその存在を知ってる者は誰もが俺をそういう存在だと見る

魔王がほしがるほどの力を俺が持ってるなんて、俺自身はわかっていないのに変な感じだよ

ほしがる理由はちゃんとあるのはわかっている

香月くんは今は人間だから…どうしても強い力がほしいのだと

「魔王様の知り合いならカツアゲできないよー!」

「すんませんでしたぁ!!」

「この事は魔王様に告げ口しないようお願い申し上げます!!

じゃっ、オレらはもうすぐ塾の時間なんでサヨナラ!!」

何か誤解したまま3人は慌てて逃げて行ってしまった

結局なんだったのかな

3人ともかなり強い魔力を持っているコトは痛いほど感じた

(オヤビンはただの金魚)

正面から激突したらたぶん俺とカトルの2人でも…勝てなかったかもしれない

あの香月くんの四天王だと名乗るだけのコトはある

「どうせ塾なんて行ってないだろ

…馬鹿だったのがせめてもの救いか

あれらとはやり合いたくない」

カトルがラムネを口に入れる前にそう呟いて、変な人達に遭ったコトは記憶の端の方へ追いやりまた馬を歩かせた


カトルの言う通り1時間でセレンさんの国へと着いた

足を踏み入れただけで空気がガラッと変わる

純粋そのものの澄んだ神聖な力がこの国を悪い者から守ってるように感じた

実際そうなんだケド、悪魔や魔物とかはセレンさんの国には入れない

この感じ…やっぱり慣れないな

俺には落ち着かないと言うか胸が痛くなると言うか

同族のユリセリさんもこの空気が嫌いだと言っていたから、種族として俺も居心地が悪いってコトかな

でも、そう思ったり感じたりするってコトは俺は何か悪い種族なのかもしれないと考えてしまう

最初はどうしてって思っていたハズなのに、日が経つごとに自分が自分じゃなくなるような気がして

この空気を居心地悪く思うのは当然なんだって…受け入れているコトがある

なんとか理性で振り切ってはいるケド、いつ俺は俺じゃなくなって

心の奥底に眠っている忘れた記憶のコトすらもなくなるような感じがして

恐い…ただその一言

大切な記憶だってコトだけはわかる

それだけは消えてほしくないよ

早く思い出したい

どうして忘れてしまったの…

自分の本当の力なんてどうでもいい自分が何者かもどうでもいいよ

俺が思い出したいのは知りたいのはそこにある大切な記憶だけ



-続く-2014/11/03

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