第2話『君への手がかり』イングヴェィ編
「ようこそ、いらっしゃいましたわ
イングヴェィ様とカトル様、そしてリジェウェィ様……あら?リジェウェィ様はどちらに??」
セレンさんの神殿に着き応接間へと案内されるとすでにセレンさんはそこにいて華やかな歓迎ムード満開で迎えてくれた
「今日は一緒じゃない」
カトルがそう伝えるとセレンさんの女神の笑みが凍り付いて歓迎ムードは一瞬で終わる
「い、いいえ…リジェウェィ様はいつもお忙しい方、私の急な呼び出しがよろしくなかっただけですの
今度は私からリジェウェィ様を訪ねに行きますわ」
凍り付いた笑みは割れるコトなく、セレンさんは女神の微笑みで周りを照らした
誰もがイメージする女神そのままのような人だ
リジェウェィのコトは除いて…
どうぞと天使が持って来てくれた紅茶とお菓子がテーブルの上に置かれると、セレンさんは今回俺達を呼び出したコトについて話始めた
隣でカトルが今食べていた自分の肉まんと出されたお菓子をどっちから食べるか悩んでる
「イングヴェィ様
貴方は今もまだご自身の記憶も力もお戻りではない事は私もわかっております
ですが、いくら力を失っている状態だとしても貴方はプラチナである事には変わりありませんの」
プラチナ…それはユリセリさんもだケド、俺達の種族の名称をそう付けたのは遠い昔の神か人間かと聞いた
あまりに昔のコトだから誰が決めたかなんてわからないケド、今では俺達のコトはプラチナと言う人型の人外だと認識が浸透している
この世界は色んな世界の者がたどり着いた先だから、ほとんどの世界でのプラチナは伝説上の存在だったみたいだ
プラチナを知らない世界も少なからずはいるらしい
特徴は不老不死で美しい容姿をしていて体温がなく無意識に他者を魅了する力があり、その力の他にプラチナは個々に特殊な力を持っているらしい
ユリセリさんのようなハーフのプラチナは片親がどんな種族であっても銀髪の赤瞳であるが、純血のプラチナはワインレッドの髪とガーネットのような深い紅い瞳をしているらしい
それから見ると俺はどうやら純血みたいだケドね
やっぱり…君はプラチナだって言われても、記憶がないからよくわからないよ
そして、プラチナは自分以外の存在を殺しまくった悪い奴だって話とか力のない弱い動物や人間にも優しく太陽みたいな笑顔を振り撒く良い人だって話とか色々あって
ん~結局よくわからないってコトだった
この世界にはプラチナは俺とユリセリさんだけみたいだもんね今は
「プラチナの力がなくとも、イングヴェィ様はお強く私は信頼しておりますのよ(リジェウェィ様を)」
今なんかセレンさんの心の声が聞こえた気がする…
「リジェウェィを信頼するほど仲良かったっけ」
テーブルの上にあるマカロンを食べながらカトルは言う
どうやら気のせいじゃなかったみたい
「今日はどうか、私達にイングヴェィ様達のお力を貸して頂きたく…」
今の神族と天使が悪魔や魔族達と戦っているコトは知っていた
セレンさんの疲れたため息が今どれだけ大変なのかがなんとなくわかる
神族と天使は平和を愛し友好的で色んな種族と交流があり
その中でもとくに人間を愛していて力の弱い人間を大切に守っている
だから、人間や仲間の種族を惑わしたり酷いコトをしたりする悪魔や魔族とかの種族とは衝突が絶えない
戦いを好まない神族や天使にとってその衝突は苦痛だケド、守らなきゃいけないものがあるから戦っているのだと言っていたのを思い出す
…守らなきゃいけないもの……守るもの……か
この言葉はずっと頭に残ったままだな…
「お願いいたします
魔族との戦いに力を貸してほしいのですわ
今は悪魔より魔族の方が厄介なのでございます」
「魔族ならこの国に入る前に三馬鹿にあった
そう厄介だった
しかし、セレンの言う厄介とは違う」
カトルは疲れたセレンさんのため息を聞くとポケットからキャンディーを取り出して渡した
「三馬鹿…?
あら、ありがとうございますカトル様
でも私キャンディーでは釣られませんわよ
私の心はリジェウェィ様のものですもの~うふふ」
カトルの優しさに疲れが少し癒えて微笑むセレンさんに
「は?何この馬鹿女」
女神にバカ女って言えるのカトルくらいだよ…
魔族達との戦いか…
今まで魔族や魔物は力が弱い存在としてコソコソと隠れて生きていたのが大半だったと聞いている
悪さをする魔物もいたみたいだケド、力が弱かったからそれほど驚異でもなく神族や天使、他の種族の敵ではなかった
でも、魔王の生まれ変わりと噂される人間の香月くんがこの世界に現れてからはまったく違う
魔王が存在すると魔王の力に比例して魔族や魔物の力が変わるらしい
そうして魔王のいなかった時代の不満や欲望を爆発させるかのように力を手にした魔族や魔物達は好き勝手に世界中で暴れるようになり
その強大になった力は神族の敵である悪魔に匹敵するとして神族が頭を悩ませてるんだよね
もう魔王の生まれ変わりと噂されるって噂どころじゃなくて真実だよね香月くん!?
影響与えちゃってるんだもん
でも、魔王はいつも魔王として何度も復活するって話みたいなのに
どうして今回は人間として生まれちゃったのかな
香月くん達、魔族もこの世界じゃなく他の世界から来たから変わったの?
それとも香月くんは普通の人間で本物の魔王は他にいるとか…
考えてもわからないコトだよね
香月くんとは何度か対峙したコトあるケド、正直あれは人間辞めてるよ…
強すぎて、冗談抜きでね
人間じゃ弱いからプラチナの力をよこせって俺を狙ってるんだよ
今でも十分魔王やっていけるあの香月くんに、プラチナの力が加わるか本当に魔王になったら世界は破滅するんじゃないかな
人間になっちゃったのはハンデかなんかだよきっと
それでも香月くんの強さはトラウマ…
でも…このまま放置にはできない
魔族の残酷なやり方は止めたいと俺も思うから
「プラチナの力がない俺は普通の人間よりちょっと強いくらいだから足手まといになるかもしれない
でも、神族は悪魔との問題も大変だろうし
俺もみんなを守りたいと思うから、魔族を止める為に力を貸すよ」
「まあ~!イングヴェィ様ならそうおっしゃってくださると信じておりましたわ!!
さすがリジェウェィ様の弟ですわね!」
セレンさんはありがとうと肩にあった重りが軽くなったかのように微笑んだ
「困った人を助けるのがイングヴェィか…」
カトルは俺が言うなら自分もとマカロンを食べながら頷く
少しでも誰かの力になるなら…頑張ってやるねって気持ちが前ほど強くないのを感じていた俺は引き受けたコトに少しの不安もあった
この先の俺に最後までやり遂げられるのかなって…
「それと、続けて申し訳ないのですが…別にもう1つ大切な頼みごとがありまして」
セレンさんはさっきのコトよりこれから話すコトのほうが重要だと言うかのように表情の真剣さを増した
「今はまだ人間の魔王でも、その力は絶大である事はイングヴェィ様もご存知ですわよね
今程度の魔王の力ならば、まだ互角で私達でも抑えられる事はできますの
ですが…魔王を倒す事は神でも天使でも悪魔でも、プラチナの貴方様でも
どのような種族の力でも出来ない事なのですわ…」
考えただけで恐ろしいとセレンさんは頭を抱える
それは香月くんが今よりも強い力を手に入れたり、本物の魔王になってしまったら世界は終わるってコトがあるかもしれないと強い危機感を抱いているみたい
「…魔王は誰にも倒せないなんて、詰んだ
あれで今は人間と言うのだから親の顔が見てみたい」
カトルは他人事ではないと珍しく真剣に聞いている
香月くんのお父さんとお母さん想像もできないんだケド…
カトルも弱いとされているハズの人間を、香月くんの強さを軽く見てはいないんだ
「うふふ、でも大丈夫なのですわ
実は私達は魔王を倒せる唯一の存在を見つけましたの!」
セレンさんはこれは大発見!と目を輝かせ古い書物を取り出してきた
ドコかの世界の歴史書みたいだ
何らかでこの世界に紛れ込んだ書物との話、もしかしたらこれは天からの贈り物かもしれないとセレンさんは感謝の心を捧げる
でも、その本はかなり痛んでいて今にも消えそうなくらいボロボロだ
「魔王を倒せる存在、それは……………っ」
勿体振るように溜めて
「っっっ勇者様ですわ!!!!!!!!」
と声高らかに発表
「王道」
なんとなくわかってた
魔王って言えば勇者かな~って
「もっと驚いてくださいましな!!
ただ勇者ってだけじゃなく、この書物にはどのような方とかが記されていて大発見なんですのよ!!
しかも私の部下の預言者が言うには、近いうちにこの世界にやってくるとの事なのですわ!!」
預言の的中率は5%ですけど、と自信なさげに小声で付け足したのが聞こえてしまった
5%なの!?それ望みが薄いよね!?期待できないよ!?
来てくれたらいいなレベルだし夢で終わるかもしれない話だよ!?
とにかく見て!とセレンさんは自慢するように書物を突き出すから受け取りページをめくる
「違う世界の文字は難しいね
読めないコトはないケド」
訳すのに少し時間がかかる
これはドコの世界の話なのかはわからないケド、作り話じゃなく実在した本当のコト
読み進めて行くとこの勇者の魔王や魔族に対する力だけはスゴイと書かれている
それ以外には非力で弱いらしい
どんな人なのか想像できないな
たくましい感じじゃなくて小柄なのかな?性別は男みたいだケド
ページをめくっていくと勇者の絵が写真レベルに描かれているのが目に飛び込んできた
「えっ…?」
その勇者の姿に俺は書物を落としそうになるくらいの衝撃が走る
慌てて書物をシッカリ持ち直したケド、動揺が隠せない
な、何…この感覚……この感情……
消えてしまった記憶、眠ってしまった心が奥底でざわついてるのがわかる
「どうしたイングヴェィ?」
俺の様子がおかしいコトにカトルが気付き声をかけてくれたケド、俺は返事もできず書物に描かれた勇者の頬に触れる
俺はこの人を知ってる…?
しかも、ただの知り合いじゃなくて…とっても大切な……
自分の動かない心臓が微かに反応する
この感じ…凄く懐かしい
思い出せないケド、記憶が叫んでるような気がする
早く思い出したいって…
心から俺の涙を引き寄せて視界を霞める
「この人は…いや、なんでもない」
何かを強く感じるのに
…でも、何かが違う
この人だけどこの人じゃないってなんか変な感じがする
どういうコトなのかな
「勇者の名前は…セリ…くんか」
名前を知るとまた心の奥底がうずく
でもやっぱり何かが足りない
緊張みたいなものを感じながらもページをめくっていくと
あまり良いコトが書かれていない部分にたどり着く
魔王と勇者は戦い倒され倒しで、生まれ変わりを繰り返しそれを永遠に続ける関係だとされていた
だけど、いつからか魔王は唯一自分を倒す力がある勇者をたぶらかすようになり
勇者は魔王を倒す運命を放棄し、人間の敵になるようになったと
その原因は生まれ変わる度に記憶を失う人間の勇者と違って生まれ変わっても記憶を保てる魔族の魔王が
自分の弱点に気付き、それを取り込むコトで自分の弱点を完全になくす方法に気付いたから…
それから最後どうなったのかはその先のページは朽ちてすでになくなっていたからわからなかった
これって…
「そう、イングヴェィ様にお頼みしたいもう1つの事とは」
俺が勇者のコトを知るとセレンさんが口を開ける
「勇者様がこの世界に現れた時
魔王が勇者様に接触する前に、勇者様を保護してほしいのですわ
悪魔との問題も抱えている私達ではすぐに対応できる自信がありませんの…」
魔王を倒せる唯一の存在は絶対に手放したくない
ケド、セレンさんがそればかり気にかけていたら悪魔達にその隙を突かれてしまう
セレンさんにとって魔王を倒せる勇者は絶対に必要なんだね…
「わかったよ
勇者…セリくんのコトは俺に任せて」
俺は書物を閉じて頷く
この気持ち…感じるコト、セリくんに会えば何かわかるかもしれない
セレンさん達の手助けもあるケド、これは自分の問題として気になる部分も多かった
「まあまあ~!助かりますわ!!
お願い致しますわね」
また1つの悩みが消えたようにセレンさんは楽に微笑む
「うふふ、この勇者のセリ様は綺麗で可愛い感じの方でしょう?
すでに私達の中でもファンがたくさんいらっしゃいましてよ
これで人間の男性であると言うのだから、天は特別な力を持たせた彼をとても愛しているのでしょうね」
私達が人間を愛するのと一緒でとセレンさんは微笑む
人間にしては、少し人間離れした綺麗な容姿なのに雰囲気はドコか可愛らしい
やや女性よりの中性的で細く小柄
見た目だけで見ればちょっと気の強そうな美人タイプだけど、絵からでも滲み出るその可愛らしい雰囲気は何もしなくても他者を魅了する神秘さ神聖さがある
魅了するのはプラチナに似ている所があるケド、全然違うタイプだな
プラチナは近付くなんて恐れ多い遠くから眺めたい魅了タイプに対して彼は触れたくてたまらなくなるような魅了タイプって感じかな…
太陽の光に当たるとほんのり茶色に染まる黒髪と色素の薄い焦茶色の瞳
肌は太陽の光がキラキラと反射するほどの美しい白色
この人もある意味人間やめてるような…
こんな人間見たコトないよ!?
写真レベルの絵だから、かなり美化されてたりするのかもだケド
もし、これほど美しい人だったら頭おかしくなる人とかいそうだもん…
この魅了はプラチナより危険かもしれない…
「しかし…天は私達神族のように姿形があるわけではありません
どれだけ勇者様を愛し、美しい容姿と特別な力を与え人間として生まれるようにしても
その後は助ける事も守る事も救う事もできませんの
魔王にたぶらかされ、人間の敵になっても…」
天は美しい容姿を与えたコトも特別な力を与えたコトも、本人が幸せになれないなら意味がないと後悔しているのかもしれないとセレンさんは言った
勇者として人間に生まれる彼はどんな運命を辿ってきたんだろう…
「それは…どんなに愛していてもセリくんを守る運命の人が天じゃないからだよ
彼を守る人は別にいるってだけで、この書物は最後のほうのページがなくなっちゃってて結末がわからないケド
セリくんを守る人がきっといるよ」
セレンさんがセリくんのコトで気の毒だと表情を曇らすから、俺はそれを晴らすように笑う
王道なら勇者にはたくさんの仲間がいるんだもん
だからきっと大丈夫
(魔王にたぶらかされて人間の敵にって話は忘れた)
「そう、ですわね
もしいなかったとしても、この世界にいらっしゃれば私達神族が勇者様を全力でお守りいたしますもの
これからは何も心配はありませんわ」
セレンさんも釣られて微笑みを取り戻す
そして、俺から書物を受け取って見ていたカトルもふっと笑って
「不思議な事もある……は勇者と一心同体なのか」
「えっ?カトル?」
勇者の前に何か聞こえないような声で呟いた
わからず聞き返したケド
「イングヴェィが笑ったの久しぶり」
「俺はいつも笑顔のつもりだよ!?」
「全然違う」
はぐらかされてやっぱりカトルの言う意味がわからなくて、カトルはセリくんの絵があるページを開いたまま書物を俺に返した
全然違うって…そんなコトないのに
と、思いながらも俺はセリくんの絵を見ながら遠くに感じる想いに心が温かくなった
-続く-2014/11/09
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