第3話『運命が手招きしてるように』イングヴェィ編
セレンさんの所でセリくんの話を聞いてから1週間ほど経った
まだこの世界に来る気配はないな
最近はこのコトで頭がいっぱいだよ
セリくんに会えば、何かが絶対わかるような気がしてならないから…
今日はリジェウェィの壊れてしまった魔術道具を新しく買い替えるのに付き合いで街に来ていた
このニアの街は魔力があまりない者には見えるコトも入るコトもできなくて
魔術を使うなら様々な種族が集まる場所だから中立な立場がある
悪魔と天使がバッタリ会ってもケンカしないが暗黙のルールでトラブルは少ないほうなんだケド
混ぜるな危険ってくらい色んな種族が集まるから他の街とは少し変わった雰囲気がある
なんて言うかピリピリしたようなみんながみんな気が抜けないって感じのね
暗黙のルールなだけで絶対的なルールじゃないからいつ誰に後ろから刺されたり殴られたりするかわからないってコト
とか思っていると、前から歩いてくる10代後半くらいの少女2人が俺を見ると自分達のしていた会話を止めてアッとする
「ちょっとちょっと~!もしかして、あれプラチナじゃない~!?」
「噂には聞いてたけどー一目見ただけでわかるって本当だったんだー」
珍しいものを見つけたとキャッキャッと近付いてくる
こういうのははじめてじゃなくて、この後はだいたい
「サインください!」
「握手してください!」
ってなっちゃうんだよ!?
自分がそんなに有名人だって自覚はないんだケド、他の世界でのプラチナは伝説上の存在とされていて見たコトがないってのが多いらしいからそういう人達はこう反応するのかもしれない
俺はどう対処していいかわからないからとりあえず言われるままに苦笑しながらサインと握手をする
「「ありがとうございました!!明日学校のみんなに自慢します!!」」
やったやったー!と喜んで去っていく少女2人を手を振りながら見送って
そして、いつもこの時に俺は思うんだ…
今まで恐くて聞けなかったケド…いつも気になって仕方がないコトだったんだよ…これは
「もうよいか、行くぞ」
隣を歩き目的の店をまた探し始めるのは俺の兄のリジェウェィ
髪の色は同じワインレッドなんだケド、リジェウェィの目の色は金で
俺より背が高くて肩下くらいある髪を一つに結んでいる
顔も…ちょっと似てない
リジェウェィのほうが大人っぽくて知的な感じかな
眼鏡はかけてないケド(眼鏡=知的なイメージがある)
リジェウェィは俺より魔力が高くて魔術の才能はとっても優秀なんだよ
強力な攻撃魔法をいくつも使えるんだもん(回復魔法は使えない)
でも、リジェウェィは魔法を使うより
魔法道具や魔法武器、魔術で何かを作るコトが好きでよく部屋に篭ってる
色んな魔法関係の本を読むのも好きで同じ城に住んでるのに気付いたら数日も見かけないコトはよくあるんだよね
困った時はいつも力になってくれる自慢のお兄ちゃんなんだよ!
なのに…なのに…リジェウェィはいつも
プラチナと、言われたコトがない……
俺やユリセリさんが持つプラチナの雰囲気がなくて他存在を魅了する力もない
俺は聞いちゃいけないってわかっていたのに
ずっと気になっていたコトを口にしてしまった
「…ねぇリジェウェィ……俺達は兄弟のハズだよね?」
「…急にどうした?」
リジェウェィの声がいつもより重くなる
俺が話す度に少しリジェウェィの表情が変わっていくのがわかっていたのに
それ以上聞くなと言う雰囲気がわかっていたのに…止まらない
「兄弟なら、どうしてリジェウェィはプラチナじゃないの?
この世界に存在するプラチナは今の所、俺とユリセリさんだけだって言ったよね
そんなのおかしい…よ」
「…………………。」
暫くの沈黙の中でリジェウェィは何を思ったのかな
目を合わしてくれないし、怒ってるのか呆れてるのか
兄弟似てないと言えば似てないかもしれないケド、リジェウェィの鼻や唇の形とか俺と似てるし…そこくらい…!?
「…どうでもよい事だ」
「っどうでもよくないよ!?
記憶のない俺はみんながそう言うからそうなんだって思って過ごしてきたもん!
でも、なんかおかしいって思ったらリジェウェィは一体何者なのかって考えちゃうじゃん!
兄弟ってッ」
あれ…?兄弟ってなんだっけ?
俺の中でまた感情が消えていくような感覚に陥る
血が繋がってるってコトしかわからない
前はもっと大切なものに感じていた気がするのに
兄弟って何があるの?…何もないよ……
だから軽いコトで、どうでもいいコトで…あってるよ……
心がまた冷たく凍りつくような感覚
だんだんと自分が自分の心をなくしていくような気がする
始めてこの世界に来た時と違って
心が色々と忘れていくような感じがする
記憶がないのに、心まで大切なコトを忘れてしまったら…
俺は……
「イングヴェィ…オレはお前の兄だ
それ以外の何者でもない
オレは…お前の兄でいたい……」
「…………………。」
リジェウェィは俺の両肩を掴んで悲しいけれど少しだけ笑う
でも、その笑顔はすぐに消えて悲しいものだけになった
「あまり時間がないようだな
イングヴェィ、お前の笑顔を最近見ていない」
「えっ?笑ってる…つもりだよ……」
さっきのサインと握手の時だって、苦笑いだったケドしてたつもりだし
いつもいつも笑顔だよ…?
言われて、近くにあったガラス窓に自分の顔を映すとそこにいる俺は確かに笑顔を失っていた
「……なんで…笑えないの……」
はじめて気付いた
心が凍りつくような感覚は何度か自覚していたけれど、今自分の姿も
笑顔が消えてしまったのだと知る
無理に笑うコトもできない
楽しいコト嬉しいコト幸せなコト、思い出せば笑顔になれるハズなのに
思い出せない
いや…何が楽しいのか嬉しいのか幸せなのかわからない
どうしてみんなは笑顔が消えた俺と違った表情をしているの…
わからない理解できない知れない
…俺が持ってないものを持ってるみんなが……知ってるみんなが……
「イングヴェィ!思い出せ!
お前の運命は止まったままだ
それだけではない、お前の運命が止まると皆の運命が止まったままなのだぞっ」
何もかもなくなった自分に絶望のカケラを感じているとリジェウェィが俺の姿を映した鏡を壊した
「運命が止まっている…?」
「お前ならまた必ず見つけ出せる
それがお前の運命だろう
その時、記憶が戻ればオレの事も思い出す
記憶が戻ったらお前がどう思うかはわからないが…オレはイングヴェィの兄でありたいだけだ」
リジェウェィは俺が記憶を失ってからはじめてちゃんと話してくれた気がする
天に運命を任せていれば勝手に動き出すとリジェウェィは知っているから、わかっているコトはわざわざ言わない性格だもんね
でも、そういうコトはちゃんと言葉で聞きたいよ
「……どんなコトを思い出したって、リジェウェィは俺のお兄ちゃんだよ
大丈夫」
俺がそう言うとリジェウェィは安心したように小さく息を吐いて落ち着いた
いつものクールなリジェウェィだ
そっちのほうが俺も安心するな
「あっそうそう
この前、カトルと一緒にセレンさんの話を聞きに行ったのはリジェウェィも知ってると思うケド」
俺は勇者のコトが書かれてある本にあったセリくんの姿を超絵が上手くてソックリに描ける人にお願いしてハガキサイズで貰ったのを取り出して見せた
「セリくんがどんな人かまだ見せてなかったよね
いつこの世界に来るんだろね」
すると、リジェウェィは目を大きく見開いて息を呑んだ
「これが勇者…か?
同じだ…いや同じだが、何かが少しだけ違うような…
このような事があるなんて……」
「リジェウェィ知ってるの!?」
「知っているが知らないと言うか…」
どういう意味なんだろう?
俺は自分の手に持つ絵を見る
セリくんの絵を見ていると少しだけ凍りついた心が溶けていくような気がするんだ
自分がわからなくなって苦しくなった時の為にいつもお守りみたいに持ってる
勇者だから絵を通じて不思議なパワーかなにかで癒してくれてるのかななんて
「……勇者じゃなく、聖女ならよく知っているのだが………
まぁイングヴェィが笑っているのならこの勇者も聖女も同じなのだろうな
だが、恋をしていないのならやはり少し違うのだろう」
リジェウェィはふふふと笑って俺に鏡を見せた
そこには明るく笑ってるいつもの俺の顔がある
リジェウェィは同じと言ったり違うと言ったりよくわからないケド、セリくんがいつか来るんだって思うと嬉しいし
きっと会えば全てがわかる気がするから、大丈夫
リジェウェィの買い物が終わった後、近くだしちょうど用があったからとユリセリさんの家を訪ねるコトになった
なんでもリジェウェィはユリセリさんにしか処分できないものを渡しておきたいんだって
ユリセリさんはプラチナと人間のハーフだって言ってたね
プラチナのハーフはどんな種族が相手でも銀髪で赤瞳の子供が生まれるみたい
ユリセリさんは20歳で成長が止まってるらしくて、300年以上は生きているクールビューティな女性
確か、ユリセリさんのプラチナとしての能力は色んな異世界を行き来したり武器や道具を取り出したりするコトだったよね
自分自身に強力な呪いをかけて他の呪いなどの類を一切受け付けない
そしてその呪いは自分の力を奪われない為だと聞いている
プラチナの力をほしがる香月くんがユリセリさんを狙わないのはその強力な呪いでユリセリさんの力を得るコトは不可能だからだ
それだけ聞くと自分の身を守る呪いスゴイ!って思う
でも、呪いは呪い…
強ければ強いほどユリセリさんにとっての負担も計り知れないハズ
とりあえず、ユリセリさんのコトで知ってるのはこのくらいかな
久しぶりに会うユリセリさんがどんな人か思い出しながら、ユリセリさんの住む場所へリジェウェィと一緒に向かった
ユリセリさんが住んでいる場所は静かで深い森の中だ
あまり誰かと関わるのを好まない人
俺も冷たくされてるようだケド、リジェウェィが言うには同族のよしみで俺にはまだ友好的だと言う
記憶がないから同族のよしみとはピンと来ないのにな~
でも、リジェウェィとユリセリさんは結構仲良しなんだよ
2人とも頭が良くて高度な会話をする知識仲間なんだもん
「なんだお前達か、今日は何の用だ?」
ユリセリさんはいつも冷たい表情で相手を見るからやっぱり嫌われてるのかと思ってしまう
いつもクールで感情を表に出さない人
そういう所は魔王の香月くん(まだ人間)と似てるかも
応接室に案内されるとユリセリさんの使い魔達(ウサギと犬みたいなの)が紅茶やお菓子を持ってきてくれた
一応、歓迎はされてるみたいだからやっぱりリジェウェィの言う通り同族のよしみってやつなのかな
使い魔達が可愛くお辞儀をして応接室を出て行ってから
リジェウェィが魔法で小瓶を取り出してテーブルの上に置いて見せる
透明な小瓶の中には見るだけで嫌悪感を持つような真っ暗な紫色と雰囲気があった
「これは…」
それを見るとあのユリセリさんでも眉を寄せる
「魔術を使って新しい薬を作っていると、少し失敗してしまったのだ…
この薬は蓋を開けると空気に一瞬で広がり、1つの世界を破滅するほどの影響を与える」
何それ恐すぎだよ!!???
こんな小さな瓶の蓋開けただけで世界がサヨナラなんて、それちょっとってレベルの失敗じゃないよね!?
リジェウェィは優秀だけど、優秀でも失敗する時はあるんだね
優秀だからこそ失敗も大きいものを生み出しちゃうのか…
破滅するほどの影響が何なのか気になるケド、知らないほうが絶対幸せだと思うよ
「この小瓶を私の力で何もない世界に処分してほしいと言うのだな」
「あぁ、頼む」
この世界で厳重に保管して万が一があるより、異世界に通じるコトができるユリセリさんに頼んだほうが遥かに安全か
ユリセリさんって本当にスゴイ人だな
とりあえずユリセリさんは小瓶をその辺の棚に置くと俺達にゆっくりしていけと紅茶を手に取った
小瓶そんな所で大丈夫!?ちょっと棚に身体が当たったり地震とか来たら終わりだよ!?
お言葉に甘えて俺も紅茶を手に取ってみたケド、危険すぎる小瓶が気になって仕方ないんだケド
-続く-2014/12/23
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます