第4話『君のかけら』イングヴェィ編

ふと小瓶から視線を外した俺の視界に可愛らしい花柄フレームの写真立てが見える

あれは…ユリセリさんと…男の人が写ってる?

引き寄せられるように俺はその写真立ての前に立つ

真っ白なドレス、これはウェディングドレスかな?を着たユリセリさんをお姫様抱っこしている虎の尻尾を持った元気な笑顔を見せている男の人

この人…人間だ…なんで虎の尻尾がついているのかわからないケド、人間の男の人だよね

しかもユリセリさんが…めっちゃ照れてて表情が固まってしまっている

こんなユリセリさん始めて見た

もしかして…この男の人はユリセリさんの恋人?

写真の中のユリセリさんの照れて固まってしまってるケド、幸せいっぱいなのが伝わってくる

この感じ…俺にもわかるような気がして、変な感じがする……

自然と口元が綻んで、未来が明るく見えるような

不思議な感覚…

なんだろうこの感じ…心の奥底がざわつく

「あっ…」

じっと見ているとすっとユリセリさんがやってきて写真立てを倒して隠してしまった

「あの人、ユリセリさんの恋人?」

目を伏せてクールな横顔のユリセリさんに気になって聞いてみる

「私の事より、街に行けばイングヴェィは結構女達に好かれているようだが?

プラチナの魅了の力は強力だな自分でもうんざりするほどに思うぞ

…誰かを恋人にする気はないのか」

はぐらかされてしまった

「好かれてるのかどうかはわからないケド、今は誰かを恋人にしたいと思ったコトはないかな…

恋とか愛とかよくわからないよ

そういうのは一目見たら運命を感じて恋に落ちるんだって気がするんだよね」

「それでよい」

クールな横顔のユリセリさんが微かに微笑んだ気がした

どうやら俺の答えはユリセリさんにとって正解だったらしい

「私にしか出来ない事はいつでも力を貸してやろう

同族のよしみでな…」

そう言ってユリセリさんはまた紅茶のある席へと戻る

ユリセリさんの力を借りるコト…異世界へ行くコトが俺にはあると言うコト

恋も愛もわからない

わからないケド、口にすると懐かしい感じがする

知らないハズなのに、なくした記憶にはそれを知っているような気がする

それなら…俺は誰に恋をして愛したんだろう?

あぁ…なんだかとても死ぬより苦しい

忘れちゃいけないコトを俺は忘れているの……

少しずつ気付いていくと今までより心がとても苦しくなる

もう自分を保てないくらいに俺はまだ正解にたどり着いていないんだ



それから数日後、自分に余裕がなくなっているコトに焦りを感じていた

最近ずっと変だ

誰かが笑っていたり楽しんでいたり幸せそうにしていると

壊したくなるんだ…

どうしてって?

俺が持っていないものを他者が持っているコトが目障りに感じるんだ…

羨ましいのか

理解できないからそうじゃない

知らないからわからないから認めたくないだけ

そんな気持ちから逃げたくて外に出かけるコトが多くなった

誰もいない街と街の間にある森の中や草原を歩いてるほうが何も考えなくて楽

たまに魔物とかが攻撃してくるケドね

今日も1人で夜の森を息抜きに歩いていると、ここら辺にいる魔物とは違った強い魔力を感じた

ナイフのように冷たく鋭い空気がピリピリする

この感じは何度か…

「こんばんは、イングヴェィ」

目の前に現れたのはやっぱり思った通りの

「か、香月くん…」

何度か香月くんにプラチナの力を狙われて殺されかけたコトがあるから自然と身体が引いてしまう

香月くんの強さは本当に人間やめてるレベルだもん

プラチナの力を得るにはそのプラチナの心臓を自分に取り込めばいいって噂がある

本当かどうかわからないケド、だから香月くんは俺を殺しにかかるんだよね

「恐いですか私が、安心してください

今夜は貴方を殺しに来たのではありません」

「楽しくお茶しようってコトでもないんでしょ?」

偶然通りかかっただけ?それとも俺に用があって?

香月くんは少しも笑わない

冷たい表情は人間らしさのカケラもなく相手に恐怖を与えるだけ

「貴方の事を調べたのです」

楽しくお茶!って所スルーされた

「私は何故この世界に来る事になったのかずっと疑問でした

勇者を倒し倒されが運命の世界で、何故その世界から違う世界に来てしまったのかを

何故、私は二度も人間に生まれる事になったのか

何故…人間に生まれた私の目の前には勇者がいないのか……」

香月くん…それって魔王の記憶があるってコト?

セレンさんの所で見たセリくんの書物に書かれていた魔王は生まれ変わっても記憶を保つって

それじゃやっぱりあの世界の魔王は香月くんなんだ…

もう魔王と噂されるじゃなくてやっぱり本人なんだね

人間やめてる強さだから言われなくてもわかってたよ!?

「香月くんの言ってる勇者ってセリくんのコト?」

俺はセリくんの写真を取り出して見せた

すると香月くんはそうだと頷く

そっか、香月くんとセリくんは同じ世界だったんだ

「売ってください」

「…えっ?ゴメン、よく聞こえなかった」

「それがほしいので私に売りなさい」

魔王と勇者が相容れない仲だと思い込んでるからちょっとよく聞こえない…

「待って!?どうしたの香月くん!?セリくんはアイドルじゃないんだよ!?

そんなアイドルの生写真(絵だけど)を目の前にして大金払う熱狂的ファンみたいだよ!?」

「セリは私のものです

なので、その絵も私のもの

渡しなさい」

売れからよこせに変わった

まっ、待って…魔王が勇者をたぶらかして~ってあの書物に書いてた気がするんだケド

これって魔王のほうが勇者に惚れてる感じがするよね

「あ、あげます」

これ以上渋ったら殺されそうで恐いし

ほしがってたから絵を渡したケド、笑わないから嬉しいのかどうかわかんない

でもそっか、香月くんはセリくんの事が好きなんだね

男同士なのに…?

急に素に戻ってしまった

「調べてわかった事は勇者には一心同体の存在がいたのです」

「えっ?」

香月くんは話を戻す

「一心同体の存在は別世界で聖女でした」

聖女と聞いて心が反応する

「別世界で同じ時間を生き死に運命を繰り返す

それがある時、何度も繰り返すだけの止まった運命を動かす者が聖女の前に現れた」

香月くんの話を聞いていくと忘れた記憶に触れるかのように胸が熱くなってくる

思い出せないのに、わかるような気がする

それは…

「その者が世界から聖女を連れ出し運命を動かした事で勇者も影響を受けあの世界から消えました

魔王の私は勇者の存在で存在する

だが、聖女を連れ出した者の影響で私と勇者の時間は狂い

前の世界では出逢う事はなかった

だから私は魔王の力を失ったままなのか…

今離れ離れなのも、貴方が聖女の運命をもう一度動かさない限り変わらないのです」

俺なんだ…その聖女を連れ出し運命を動かした者は

覚えてなくても、自分のしたコトだからこんなにも心が反応する

やっとわかった気付いたよ

「貴方が動かさない限り、運命は止まったまま

聖女を救うのも助けるのも守るのもイングヴェィ

貴方自身の運命だと早く気付きなさい」

「…香月くん、ありがとう

色々調べて教えてくれて」

「私はセリに早く会いたいだけ

目的が達成すれば、貴方の力は変わらず手に入れようとします

死が少し伸びただけ感謝してください」

「アハハ、セリくんに関係するコトだけは優しいんだ

でも、俺はもう殺されるワケにはいかないって前より強く思っちゃったよ」

香月くんの話を聞いてやっと微かに運命を感じ取ったんだ

俺にとってなくてはならない存在、とっても大切で必要な聖女を必ず見つけだしてずっと守っていかなくちゃならないの

そう強く思うから

もうすぐだよ記憶も心も全て取り戻せる

…君に早く会いたい



君の存在に気付いた時、俺は君を無限にある世界から見つけ出せる自信があった

それは本当に運命だと言うように意識すればするほど君のコトを強く感じる

まだ思い出せない忘れたまま

でも、香月くんの言葉で気付けた

俺には運命の人がいるんだって

それが誰なのか今は忘れていても、顔も声も名前も…

わかってる…わかるよ

一目でも君の姿を見るコトができたなら、必ず俺はまた恋に落ちるから

不安なんてない心配もない恐いコトも全然ないよ

あるのは、早く会いたい言葉を交わしたい触れてみたい

そう込み上げる熱い気持ちだけ

俺はユリセリさんの家を訪ねて事情を話し、まずは無限にある別の世界を見せてほしいとお願いした

ユリセリさんの能力がないと君を見つけるコトはできない…

俺がユリセリさんと知り合いなのは、君に出逢う運命の1つとしてあったのかもしれない

「イングヴェィ、少しは休んだらどうなのだ

3日は寝ていないように思えるぞ」

「えっ?もう3日も経ってるの!?」

お願いした日に応接室に案内され、それからユリセリさんに協力してもらって小さな鏡のようなものに映された無限にある別世界を片っ端から見ていたんだケド

こうしてユリセリさんに声をかけられるまでそんなに時間が経っているとは思っていなかった

「プラチナが不老不死とは言え、眠る事も食べる事もしなければ

やはり身体は辛いものだぞ」

それはそうなんだケド…

1分でも1秒でも早く見つけ…たくて……

「あっ」

ユリセリさんの話を聞きながらも別世界に通じる小さな鏡を見ていると、ある世界で俺の動きが止まる

この世界…空が悲しんでる気がする

冬の寒さとは違う空気がとても痛くて冷たい

何がと言われたらわからないのに、何故か恐いと感じる

世界が死んでると言うのだろうか

「あぁ、良い気分ではないだろうが

このような世界は稀にあるのだ

世界が死んでいると感じるのは、人が世界を壊しているとても醜いものが溢れていると言う事だ

世界が生きるのも死ぬのも人次第であるのに、それに気付かない愚かな世界の住人もこうしているのだぞ」

ユリセリさんは俺が衝撃を受けていると後ろから別世界に通じる鏡を覗き言った

違う…ユリセリさんの言う通り、この世界にそれを感じてはいるケド

俺の時間が止まったように動けないのは

「ここにいるよ…」

捜していた君がこの世界に存在していると感じているからだ

もっともっと捜さないとこの広い世界を片っ端からじゃなくて

ドコにいるかなんてすぐにわかる

今見ている場所から運命を感じる糸を辿って君を捜して捜して見つけだす

やっと…見つけた…

「やっと…やっと…見つけたよ……遅くなってゴメンね…」

鏡の中に映る君の姿を一目見た瞬間、眠ってしまって忘れてしまった心の感情が目を覚ます

恋しい気持ち、愛しい気持ち

知らない気持ちなのに、誰に教わるコトもなくそれが恋なのだと愛なのだとわかった

言ったでしょ…運命の人なら一目見た瞬間に恋に落ちるんだって、俺はわかっていたんだよ

黒なのに光が当たるとほんのり茶色に見える背中の真ん中くらいまである長い髪

長い前髪は左右に分けて綺麗な顔を隠したりしない

少し色素の薄い茶色の瞳に右に泣きぼくろがあって、白く綺麗で光が当たると反射して輝くように美しい肌

身体は細く小柄

可愛いより綺麗系なのに君の持つ雰囲気にはドコか可愛さも含まれる

絵で見たセリくんにソックリ瓜二つの人間の女の子

(性別と髪の長さが違うくらい)

聖女…

君が俺の運命の人…

運命の人と心から感じていても記憶が戻るコトはなかった

「ユリセリさん!今すぐこの世界に俺を連れて行って、お願いだよ!?」

小さな鏡の中に片腕は入っても、君にはまったく届かなくて触れるコトも気付いてもらうコトもできない

俺はユリセリさんに強くそうお願いする

いきなりのコトで驚いたユリセリさんはまず俺に落ち着けと言う

「すぐに会いたい気持ちはわかる

だが、私の能力には大量の魔力が必要だとイングヴェィも知っているだろう?」

それは…わかってるんだケド、つい気持ちが焦っちゃって…無理なコトを言ってしまった

だって…君はあの世界で少しも笑ったりしないから

ただ無表情に見えるだけでも、俺にはわかる

君には憎しみも苦しみも悲しみもあるんだって…

まだ話したコトもないのに、一瞬だけ君の姿を見ただけなのに

俺は不思議と君のコトがわかった

心の声が聞こえてるワケでもなければ、テレパシーで通じてるワケでもない

それでも、俺は君のコトがわかるから

今すぐに助けに行きたいの

君をその世界から救って、これから先ずって守っていくんだもん

それが俺が君に恋に落ちた愛の形だから

そう…思ってるのは俺だけなのかな

俺は君を運命の人とわかったケド、君は俺を見て恋に落ちてくれる?愛してくれる?

運命は絶対だケド、稀に運命に抗う者もいる

それは絶対的な自信に少しの不安を誘うものだよ


抗うなら俺は運命に関係なく、君を奪うだけだけど

君は抗ったりしないよね…



-続く-2015/01/01

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