92話『光の教会』セリカ編

素直にレイと向き合うと決めた私はレイととても仲良くなった

当たり前のように一緒にいると楽しいと感じる

さすがセリくんの大親友は私の扱いをよくわかっていた

私がレイの音楽が大好きだって知っているからいつも聴かせてくれる

笑顔にしてくれるレイの素敵な音楽は今日も私を楽しませてくれた

「レイって本当にどんな楽器も完璧に使いこなせるのね」

どうやって音鳴らすの?って思うようなよくわからない楽器まである

レイ専用の音楽室はセリくんと私しか入れてないらしい

だからいつも私はレイの音楽を独占しているような感じがして嬉しいような勿体ないような…

「たまたま音楽の才能があっただけさ」

「たまたまイケメンでたまたま弓の才能もあってたまたま音楽の才能があってって…なんかズルイ!!

私にはなんの取り柄もないのに」

イケメンには何でも与えたくなっちゃうんだね神様は

「セリカにだって……」

レイは私を褒めようとしたけど、笑顔のまま言葉を詰まらせた

「なんの才能もないよ」

「セリカは綺麗だ!」

「それは才能じゃない」

別にいいの、私にはなんの才能もなくったって

才能のある天才に私はいつも純粋に楽しませてもらえるコトができるんだもん

それって超お得だと思うのよね

ふふっと私が笑うとレイも爽やかに笑ってまた一曲聴かせてくれた

次はピアノを使った曲…

……あっ、この曲…ずっと前にイングヴェィがレイのピアノと一緒に歌ってくれたやつだ……

私の妄想のハズなのに、はっきりと覚えてる…レイの素敵な曲にイングヴェィの透き通るように綺麗な歌声を思い出す

はじめてこの曲をイングヴェィに歌ってもらった時、私は感動して泣いちゃった

とても…

イングヴェィ…

「……セリカ?」

いつの間にか曲が終わっていて、レイが私の顔を覗き込んでいた

「あっ…ゴメン、ちょっと感動しちゃって

良い曲だよね、全部好きだけどこの曲は特別好きなひとつ」

「セリカの為の曲なんだ

オレは歌詞を書くのも苦手なら、歌も得意じゃない

しかし、この曲は歌があればもっと良くなると思っているんだが…」

私の為の曲…そして、この曲は完成ではない

「なかなか…オレがイメージする歌声と出会えていないんだ」

レイは苦笑して残念だと言う

私はその歌声を知っているのに、何も言えなくてただ…寂しいと心が苦しくなるだけ

「いつか…見つかるといいね」

無理に笑ってみせる

そんなの…永遠に見つかるワケないのに…

この曲にピッタリの歌声はイングヴェイ以外ありえないもの

イングヴェィは私の妄想だから…ね…

「あぁ、きっと見つかるさ

そしてその時にこの曲が完成する

セリカにプレゼントするから、待っててくれよ」

レイは優しく私にハグをする

が、私は自然に避けた

するとレイの爽やかな笑顔が少し引きずったような気がした

別にレイからのハグは今まで何回かあるし嫌じゃない

セリくんなんて喜んでるし、私もいつもこうして避けてるワケじゃなく受け入れる時もある

でも…今はなんかそんな気分じゃなかった

イングヴェィを思い出したからかな…



なんやかんや、私はレイといるコトが多くなった

セリくん至上主義のレイも、セリくんが香月か和彦の所にいる時は安心して私と2人っきりになれる

セリくんは四六時中恋人と一緒ってのが嫌なタイプだからって嫌がってたけど、レイとセリカの為だから我慢するって言ってた割に

和彦と香月と毎日一緒にいても楽しく幸せに過ごしていた(全て伝わっている)

今日のレイと私はと言うと

「光の聖霊の話を聞いたんだ

セリカを守る為に、もっと強くなりたい

どうにか彼女に力を貸してもらえないか頼もうと思ってな」

光の聖霊とは、フェレートと似たような存在で加護を得られるコトが出来ると力を貸してくれるらしい

フェレートの氷と光の魔力もかなり強いものみたいだけど、光の聖霊の魔力はこの世界では一二を争う強大な強さとの噂

誰もが喉から手が出るほどほしい力だけど、この世界では光の聖霊は誰にも見向きはせず力を貸した者はいないと言われている

今では光の聖霊がいるとされている場所は光の教会と呼ばれ、種族問わず超大人気の結婚式場となっているようだ

ここで結婚すると永遠に結ばれる!みたいなジンクスもあったりしてね

もう本当に光の聖霊がいるのかいないのかわからないくらいになって、結婚式場としての方に人気が流れてしまったみたい

光の聖霊の影響なのか、夜でも教会は明るくとても美しいみたい

「力を借りれる事が出来なくても、セリカはそういう綺麗な所好きだろう?

見に行くだけでも損はないと思うぞ」

まぁ…そんなめっちゃ綺麗な光景が見れるって話なら…興味はめちゃくちゃあるな

でも、教会って…人気の結婚式場ってのがね…シャレにならないじゃん!!?

レイにプロポーズされたらどうしよう…とかソワソワしちゃうよ!!?

私達、まだ早いと思うの

レイはまだ18歳だし、レイの前の世界も今の世界でも結婚が当たり前の年齢かもしれないけれど

それでも…まだ早いと思うのよ!!?

とりあえず、その光の聖霊とやらがいる場所に私達は行くコトになった

微妙に緊張しながら


明るい森に囲まれ真っ白に光溢れる教会を目の当たりにした私は思わず感動のため息が出てしまう

「わ~…本当に綺麗……」

大人気の結婚式場と聞いていて、たくさん人がいるかなって思ったけど深夜に着いたから私達以外は誰もいない

夜でもこんなに美しい場所が今は私達だけの独り占めなんて、ちょっとした優越感

「中に入ってみよう」

外観だけで満足していて見取れていた私はレイに言われて光の教会へと足を踏み入れる

内装もとても綺麗だった

真っ白で埋め尽くされては光の聖霊の優しい光で照らされている

窓からは夜の静けさが入り込んで昼間より光の灯りも大人しいのだろうが、それが幻想的でとても相性が美しい

私はこの落ち着いた光も好きだな…

いつも太陽の明るさを持っていたイングヴェィを思い出す

イングヴェィは朝って感じ、夜は夜色の瞳をしたレイって感じだね

深い蒼いレイの瞳はとても綺麗だからね

「光の聖霊…いる?」

内装の美しさに見取れていた私はハッと目的を思い出す

「強い光の魔力は感じるが…聖霊らしい気配は感じないな」

光属性のない私は魔力があるかないかがわからなかった、ただ眩しいかどうかくらいしかわからないですね

私は教会の奥にある人間の女性の等身大くらいある像を指さした

「あの全裸の女の石像は光の聖霊をモチーフにしてるのかしら」

「よくある事だな、神や女神を崇めるのに人が像を作り建てるのは

人の想像で作ったものだろうから、本物と姿は違うだろうが…」

レイはその辺を注意深く見ていたが、光の聖霊の手掛かりはなさそうだと笑った

「あんまり残念そうじゃないね、せっかく強い力が手に入るチャンスだったのに」

「光の聖霊は誰にも力を貸さないと聞いていたし、構わないさ

また次を探せばいい、オレ自身も強くなる努力をする」

「この世界では、でしょ?光の聖霊は自分の前の世界では力を貸した人がいたかもなら、チャンスはゼロじゃないわ」

まぁ結果はダメだったけど

「ありがとうセリカ、光の聖霊の力は惜しいが…

それより…今日はセリカとここに来たかったんだ」

あっヤバい…これプロポーズされる雰囲気…!!?ど、どうしよう…緊張してきた

そっとレイに両手を掴まれる

いつもの爽やかな笑顔が、どことなく緊張しているのが触れた手から伝わってきた…

「もうオレの気持ちは知ってると思うから」

すっとぼけたい所だけど、もう私は目を逸らさないって決めたでしょ

ダメだよ、ちゃんとしっかり前を見なきゃ私

「…今日はセリカのオレへの気持ちを聞かせてくれないかい」

「………。」

私の…レイへの気持ち…

「オレはセリカが好きだ」

目は逸らさなかった、でもなかなか答えられなかった私にレイはまた自分の気持ちを示してくれる

「私は…」

レイのコト嫌いじゃない

好きか嫌いなら、好きに決まってる

「レイのコト、好きだよ」

恥ずかしいからか、慣れていないからか、私は笑顔が上手く作れないまま笑う

私の言葉を聞いたレイは今までに見せたコトのない幸せいっぱいの笑顔で私を強く抱きしめた

「セリカ!!嬉しい、ありがとう」

レイの強い腕からは私への愛がたくさん溢れるように伝わる

レイが喜んでくれて私も嬉しかった…

たくさん抱きしめて、その手が緩んで私の両腕を掴んではレイの顔がゆっくりと私へと近付いてくる

「あっ…」

咄嗟に私は両手で自分の唇を覆うとレイの唇が私の指へと当たった

「ご…ごめんなさい…ビックリしちゃって」

一瞬だったけど私に拒絶されたんだと思ったレイの驚きとショックの表情は私の心を痛ませた

「いや、すまない…嬉しすぎて調子に乗ったオレが悪いんだ

両想いになってすぐにキスは急ぎ過ぎたな

セリカの気持ちも考えないで…」

すぐにいつもの爽やかな笑顔で私に優しくしてくれた

私、レイのコト好きだよ…

でも…キスは…よくわからない

トラウマだから?私がそれを受け入れられないのは…私が穢れているから?それで恐いと思うから…

一生私はこの穢れに苦しまなきゃいけないのか…

「オレはセリカが傷付く事は絶対にしない

セリカが恐いと感じなくなるまで、オレは待つよ」

レイは私の手を引っ張って光の聖霊の石像の前に連れて行く

「この光の聖霊に誓って、これからもセリカを守ってみせる」

この光の教会で結婚式を挙げたカップル…つまりは愛を誓ったら永遠だというジンクス

レイは誓ってくれたんだ…私に、わかるように

「スゴイね…レイは…こんな私に」

こんな私を…愛してくれて

私はレイに釣り合うような女じゃないのに

いつまでも妄想の夢から覚めたくなくて、現実のレイにちゃんと向き合わない最低な女だよ…

わかってる、レイがどれだけ私を大切にして愛してくれているか

なのに私は…なのに私は、どうして…レイを受け入れられないの?

イングヴェィと同じだ、私は自分が貴方に釣り合わないからって勝手に決め付けて……

「………ん?」

あれ?なんか…私の目の錯覚かしら?

レイは私の心配をして私の方を向いているから気付いていないみたいだけど、光の聖霊の石像に私への愛を誓ったレイの手が触れた石像にヒビが入っている

「どうしたんだい?」

待て、待て待て待て!!?

どんどんヒビが大きくなってるぞ!?

私が気のせいじゃないとわかってレイに教えるより先に石像に入るヒビのスピードは全体に回り粉々に崩れていく

さすがに崩れていく音に気付いたレイが振り向くと

「レイ~~~~~!!!!!!」

崩れた石像の中から全身が淡い光に包まれた高校生くらいの女の子がレイの名前を笑顔で叫びながらレイへと飛び込んだ

しかもその勢いでレイにキスまでして…

「な、なんなんだ…あんた」

未遂だった、レイがギリギリの所で女の口元を手で抑えて遠ざける

「会いたかったわ!レイ!!」

「はっ?誰なんだ、あんたは一体」

ここから私は置いてけぼりになる

「いやぁね、レイったら人間に生まれ変わってる!私の記憶がないのね、悲しい~」

女の子は泣く真似をするだけで、レイに会えて嬉しいのかずっと笑顔だ

光に包まれてるからスゴイ眩しい、サングラスほしい

人間ではないのは一目見てわかるけど、光に包まれた身体…そして石像にそっくりな女の子…

もしかしなくても、この子が光の聖霊?

でもどうしてレイのコトを知ってるのかしら、めっちゃ親しげだし

「私達、恋人同士だったじゃない」

キャッキャッと女の子はサラリと恥ずかしげもなく言うと、レイはドン引きした

まぁ…そうだよね、知らない人にいきなりあなたの恋人とか言われたらそうなるわ

私にも経験あるしね

「そんな記憶はない、セリカに誤解されるような発言はやめてくれないか」

レイは女の子を睨み付けては私の隣に戻る

そうだった、セリくんが言ってた

レイは自分以外にはとても冷たい態度を取るって、だからセリくんが女の子には優しくしろっていつも怒るんだって

セリくんや私に見せる顔と違ってとてもクールだと

イケメンにこんな冷たくされたら傷付くわ~

「セリ……はっ!?どうして勇者が!?」

女の子は顔色を変えて私を敵として見る

今の女の子にとってそれはレイが私を好きだからではなく、私が勇者だからと言う事に深い意味があるようだ

女の子は素早くレイの後ろに立ち弓を引くように私へとその矢を向ける

「早く矢を放って!絶好のチャンスよ!あの魔王もいないみたい」

「っやめないか!」

レイが女の子を強く振り払うと、きゃっと小さく悲鳴をあげて尻餅をつく

ちょっと!それはいくらなんでもやりすぎだぞレイ!?

「大丈夫!?ちょっとレイ、女の子になんてコトを」

私は女の子の傍に寄り手を掴もうとすると払いのけられた

あっ傷付くそれ…

「触らないで!!汚らわしい!人間のくせに魔王にたぶらかされて落ちぶれた勇者が」

「セリカに無礼を働く奴はオレが許さない」

私に強気だった女の子はレイに氷の矢を今度は自分に向けられると大きな瞳に涙をたくさん溜めて悲しんだ

「ど、どういう事…レイが恋人の私に矢を向けるなんて…」

「オレの恋人はセリカだけだ」

えっ、いつから?付き合ってとか恋人になってとかは言われてないよ?

それを聞いた女の子は溜めた涙を一気に流しては泣き叫んだ

「えーん!どーしてー!?

いつからレイは男に目覚めちゃったの?私が長い間眠りに付いていたからって、浮気者ーー!!

知らない間に人間に生まれ変わってるし…私の知ってるレイはエルフだったのに…」

「レイに似た人違いかもしれないよ?あと、私は男じゃなくて女で」

「うるさいおばさん!!」

ガーン!!高校生くらいの年齢から見たら23歳はおばさんだろうけど…まだ若いよ!!

「勇者が女になってレイをたぶらかしたのね

魔王と言う恋人がいながら、いやらしい女」

レイがエルフだった?

魔王にたぶらかされたかどうかはわかんないけど、魔王と勇者ってコトはこの女の子はセリくん達のいた前の前の(さらに前かもしれないけど)世界の存在ってコト?

そして、その時にレイとセリくんは同じ世界にいた

ちらっと前にセリくんが香月から、レイに殺された前世があるのを聞いたって言っていた

今のレイとはバカップル並みに仲良しだからそんなコト完全に忘れてるみたいだけど…

「レイは忘れたの?魔王を倒さないと世界は平和にならない

魔王を倒せるのは勇者だけ、でももっと簡単な方法があって勇者が死ねば魔王も死ぬ

だから私達は2回も勇者を殺したじゃない、その氷の矢で」

女の子は思い出してとレイに微笑む

私は彼女の言葉にドキッとした

前世の記憶があるワケじゃない

私が心臓を奮わせたのは、大親友のレイが本当にセリくんを2回も殺したと言うコトが真実だったら…

昔のコトは関係ないと頭でわかっていても、悲しい気持ちにはなるよ…

「……オレは…セリを殺したりしない…前世だって、セリを傷付けたりしない

セリとセリカは俺の命を懸けて守る、あんたの話なんて聞けない!」

レイは認めないと女の子を睨み付ける

その視線に女の子はとても寂しそうにした

「…いいの?勇者を放置して、沢山の人々が苦しんでいる事にレイは目を逸らすの?

勇者は誰にだって殺せる、弱いから

でも魔王が守ってるから誰も手を出せない、レイ以外

レイなら魔王に気付かれない距離でその氷の矢で勇者を殺せるよ」

彼女のひとことひとことで心臓の苦しみから逃れられない

レイがそれに気付いてセリくんを殺すかもしれないって思ったら…

「セリ…セリカ以外の事なんてどうでもいい」

レイは私を引き寄せる、ぎゅっと強く離さない

迷いなんてなかった…レイの気持ちに

「…レイ…可哀想に、その女に騙されて

私が聖霊じゃなかったら…その女はこの手で殺しているのに

私のレイを横取りして…許せない」

こわっ、て正直思った

レイがエルフだった世界での自称恋人、もしかしたら人違いかもしれないけれど

私の前世の騎士で恋人だったレイはさらに前世では別の人が恋人らしい

んー…ノーコメント

怨みはあっても聖霊だから直接殺しに来ないとわかったらちょっと安心だ

「とりあえず、服着よう」

いくら淡い光で全身が覆われていて大事な所が見えないからって女の子が全裸はよくないと思う

「えー?あなたのちんちくりんな体型の服が私に合うわけないじゃない」

「服貸すなんて言ってない!買ってあげるのよ!!」

「こんな微妙な胸でいいの?レイ?私の方が大きいのに」

「セリカの親切に免じて服だけ買ったら何処かへ行け」

レイの冷たさに女の子はその冷たさも悪くないとか言い出してついて来るようになってしまった

光の聖霊は名前がないらしく、世界の違う昔のレイも光の聖霊と呼んでいたからそう呼んでと言われた

彼女のコトは不安の方が大きかった

セリくんを、レイの手で2回も殺させたのだから

でも、レイは絶対にそんなコトしないって誓ってくれたから私はレイを信じてる…



-続く-

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