125話『想いを失って』セリカ編

魔王の力を取り返した私は急いで魔王城へと転がり込んだ

急いで来たとは言え、数日は経っている

その間も今もフェイのコトが心配だった

「キルラ!いた!?はい、これお願いね」

「セリカ様、はいって…ぎょえーーーーーー!?!?」

魔王の力を渡すとそれから感じる恐怖やら強さやら様々なものが精神的に重くのし掛かる

「あー!セリカ、魔王様の力取り返せたんだー?スゴーイ!これで香月様復活できるねぇ!!」

ポップは憔悴しきったキルラを見下ろしケラケラ笑っている

「じゃ!私急いでるから!!」

後は任せたとポップに伝えてエントランスを通ると和彦とセリくんが待ち構えていた

「…セリカ、無茶してるだろ?」

足を止めている暇はないのに、セリくんは私を通してはくれなさそうだ

「してないわ」

「俺はオマエなんだぞ、わかるに決まってるだろ

オマエに無茶させたくて俺はオマエの全てを負ってるワケじゃねぇ

セリカがやるなら俺がやる、オマエはここにいろ

和彦がいるここなら安全だから」

「ダメよ、セリくんに死なれたら私も終わりだもん」

「俺は女の自分に守られるほど情けなくねぇぞ」

男のプライドねぇ…女の自分としては立ててあげたい所だけど

「そんなメンタルで行って何が出来るの?何も出来ないどころか、また深く傷付いてショック受けて泣いて帰って来るだけじゃない

そんなの超ダサいじゃん」

ダサい自分を見るくらいなら私が行く、まだ私の方が上手くやれる……きっと

「セリカには関係ないコトだろ!?これは俺の問題だ!!」

「関係ないけどあるわよ!!セリくんは私なんだから!都合の良い時だけ別人装わないでよ!どう足掻いたって貴方は私!私はセリくんなの!!」

「もうアイツは…俺が知ってるアイツじゃない……」

セリくんはレイの名前を出さなかった

和彦に知られたくないんだろうけど、たぶん和彦は察してると思う

それでもセリくんが隠してるから和彦は汲み取って何も言わないだけだ

「アイツは自分の目的の為なら何でもする奴だ、セリカのコトだって俺達の想像を超えるようなコトをしてくるぞ

嫌だ……俺……セリカは俺だから、だから…セリカだけは綺麗でいてほしい

汚くなるのは俺だけでいい……」

女の自分に理想を、夢を持っている

それが自分の逃げ道…それがないと壊れてしまうから

わかってる…わかってるわ……そうあってあげないといけないのも

でも

「とっくの昔に私はもう穢れているのよ?」

何をいまさら…わかっているコトを、いくら貴方が私の憎しみも苦しみも悲しみも全て負っているとしても

過去の出来事がなくなったワケでも変わるワケでもない…そんなのわかってるでしょ

「………。」

ここで話してる暇はない、私はすぐに戻らなきゃ

セリくんは私が隣を通り過ぎても俯いたまま顔を上げるコトがなかった

わかってるよ、私だってそうありたい

でも、でもね…死んじゃったら意味がないから私は私の為にどんなコトも…耐えてみせるよ

「セリくんの気持ちはわかるが、オレもセリくんに死なれるのは困る

セリカに同行したい所だが、セリくんを1人にしても同じ事」

「うん、和彦がここにいてくれなきゃセリくんが狙われちゃうからね」

「……フェイはセリくんの為なら死ねる男だ

いざって時はあいつの気持ちを汲んでくれるか」

セリくんの為に腕1本懸ける男だもんね、命まで懸けられたら重いわ

「私はフェイのコト好きじゃないから汲み取れないわ、それじゃあセリくんのコトは頼んだからね和彦」

よろしくと私は伝えて、また来た道を急いで戻る

待っててねフェイ、私が行って何も出来ないかもしれないけど

2人なら逃げ切れるコトくらいは出来るかもしれないから



数日かけて私はフェイと別れたところに戻ってきたけど、そこには誰もいなかった

当然か…あれから何日経ってるか

誰もいない変わりに大量の血が地面を染めている

「フェイ…」

最悪なコトが頭を過る

レイの最後の言葉はフェイに殺すって言っていたから、もしかしたら…

いや、まだ諦めるには早い

レイがフェイを殺したならここにフェイの姿がないコトがおかしいもの

だけど、ここに誰もいないなら私はどうすれば…手掛かりもないのに

「あれ、なんかぬかるんで」

地面が雨に濡れて柔らかくなったかのように足元が緩む

と思ったら、地面に身体が少しずつ沈んでいく

「や、やば!?何これ…!!」

近くの木を掴もうとすると地面から黒い手が伸びて私の身体を抑え付けて引きずり込んでいった

息が……できる!?

地面に引きずり込まれた私は真っ暗な空間へと招待される

一体なにが…でも、このタイミングはフェイと関係のあるコト?

なら、私は動揺してないでしっかりしなきゃ

その先にうっすら何かが見えるのに気付く…あれは何?

「ククク」

この笑い声は…シン?

ぼんやり見えていた何かは次第に姿を表し、そこには大悪魔シンと瀕死のフェイがいた

「危なかった所だ、あの男は手加減もなしに殺そうとする

我はあの男だけと契約しているわけではないのでな、タキヤとの約束も守ろう」

レイの姿が見えないのと危なかったってコトは、シンがフェイを助けてくれた?

でも、タキヤとの約束って……

「フェイは、生きているのね」

「もちろんだが、勘違いするな

この空間では小娘の回復魔法は使えぬだろう

取引をしよう」

さっきから使えないと思ってたらそう言うコトか

私の回復魔法は死には反応しないから、一瞬死んだのかと思って…怖かった

「取引?何かしら」

フェイが無事ならいいわ、どんな取引が来ても…受けましょう

「タキヤは小僧を自殺に追い込みたい、それが我との契約

ありとあらゆる方法で追い詰めているのに、何故未だに小僧は生きておるのか

小娘、あの牢獄からも脱出しおって

忌々しい…我は早く醜い魂を喰らいたいのだよ」

「オマエ…死ぬわよ?」

「何?」

「気付いてないようだから教えてあげる

大悪魔シン、オマエが契約したのは腐っても大神官

女神様が守っているのよ

つまり、オマエに魂をよこすワケないっての

利用するだけして、終わったら神の力で存在消されて終わりね」

あのタキヤが悪魔に魂喰われて終わるなんてありえないでしょ

アイツは自分が聖職者であるコトに誇りを持っているの

憎くてたまらないセリくんを最大のタブー(自殺)で殺そうとするような野郎よ

自分が最大のタブー(悪魔に魂を売る)なんてするワケないじゃん

アイツがやったコトは、悪魔に魂を売ったんじゃなく悪魔を利用する

当然、契約関係と思ってるのもシンだけでタキヤはシンを上にも横にも見ていない、下に見ているのよ

そして最後に殺すって流れでしょうね

私の勝手な考えだけど、あの粘着ストーカー野郎ならそんなもんって思ってるわ

「詭弁だ、我を動揺させ逃げようとするな」

「信じようが信じまいがオマエ次第よ」

「小娘が生意気な」

大悪魔シンが人間の小娘にイラついてる様子が声音から読み取れる

喋ってる暇なんてないけど、言い返したかった

やられっぱなしはムカつくもん

「容赦せぬ、取引だ!」

「来なさい、飲んでやるわ

そしてフェイを助ける」

何も知らないとは恐ろしいコトだ

この後、自分が立てなくなるかもしれないと考えないのだから

私には大切なこの想いさえあれば、絶対に挫けないと信じているから

私の運命の人……イングヴェィ

「生意気に立ち向かうその心にあるものよ

小娘、1番大切なものを心から消す

それと引き換えにこの男を助けてやろう」

「………。」

そ…そう、来るか……

読まれている?私のコト…

ひんやりと頭が冷たく全身を駆け巡る

「セリカ…様…私の事は、捨て置いて…くださ…い」

「フェイ…!?」

意識が少し戻ったフェイは事切れそうな声で言う

「私は…貴方に死なれたら……和彦様に、叱られ……」

「喋っちゃダメ!心配しないで、私が助けるから……」

フェイ…私の大切な仲間の1人……

何もかも失った私を助けてくれた人

フェイのおかげで私は1つ大切なものを取り戻せた

そして、フェイのおかげで香月に会える可能性に近付けた

フェイは、私の恩人だよ

「助けなくていい!…私から、楽しみを奪わないで…貴方が死んだら……寝取れない…」

「バカ!アンタが死んでも寝取れないでしょ!?」

やめてよ、良い奴にならないでよ

前はそんなコトなかったじゃん…

めっちゃ嫌な奴で…クソ生意気で…酷い奴で……

だけど、だけど……!!

いっぱい助けてもらった……

私は…私は、いつかイングヴェィに逢えると信じてここまで立って来れた

負けなかった、挫けなかった

何度だって立ち上がれる

そんな私からイングヴェィへの想いがなくなったら?

フェイに言われた通りに、私は本当に空っぽになってしまう

何も、本当に何もなくなって

憎しみと苦しみと悲しみだけになって、絶望とともに死んでしまう

「早く決めろ小娘、この男か自身の想いか」

「フェイを助ける」

「セリカ…様…!」

バカね…目の前の仲間と、私の妄想の王子様どっちが大切かなんて

迷うコトないじゃない

イングヴェィは私が私を救うための妄想の王子様なんだよ

私が前を向けるための、立ち上がるための……現実逃避

私の想いなんて、私の妄想と仲間を天秤にかけるまでもないわ

…なのに、どうしてこんなに涙が溢れて止まらないんだろう

私…イングヴェィのコト…大好きだった……

「ククク、小僧の命もそう長くなさそうだ」

シンが勝ち誇ったような笑いを残すとフェイと私は元いた場所へと戻される

フェイの身体の傷は私が治さなくても綺麗に治っていた

「セリカ様…どうして……」

フェイが声を掛けてくれるものの、私の心にはポッカリと大きな穴が空いていて妙な感じが思考を放棄する

なんだろう、何も考えられない何もわからない

私は何をしていたんだろう

何か目的があって動いていた気がするのに

私の足は地面にペタンとくっついて立ち上がれなくなっている

「和彦様に叱られるではありませんか、貴女がそんなでは…」

「フェイ、私は…いつも通り

もう辛い人生は終わりにしよう

このまま生きていても運命は変わらないのよ

だって、私は自分を殺すのだから」

ちょっと前までは運命は変わると思っていた

それは何かがあったから……誰かとの出逢いがあったから…??いつか…いつか……再会を

……そうだったかしら?

「ほら、立ってください」

フェイが手を差し伸ばしてくれるけど、私は首を横に振る

「もう…」

私は立ち上がるコトが出来ないんだ

何があっても、どんなコトが起きても

挫けないと誓っていたのに

でもね…後悔はしてないわ

フェイを助けたコト、絶対に後悔しない

例え、私が死ぬコトになっても

暫く沈黙が続いた後、1つの足音が近付くのが聞こえた

「セリカ様、立ってください誰か来ます」

フェイが引っ張り私は力ない足で立ち上がろうとしたけど、フェイの私を掴む手に氷の矢が刺さる

「シンの邪魔で殺し損ねた」

「また貴方ですか、しつこいですね」

レイの狙いは私だ、そんなコトはわかりきっている

今度は…フェイが逃げる番だよ

私はレイとフェイの間に入って2人が衝突するのを止める

「私が行けば、フェイには手出ししないって約束して」

「さすがセリカ、話が早い

オレの目的はセリカだけだからな

その男は気に入らないがセリカが来るなら見逃すよ」

フェイは納得出来ないと私を掴もうとするけど、私は振り払う

「私はセリカ様の為ならこの命惜しくは」

「やめてよ!!」

命を懸けないで…私に背負わせないで

そんなの全然嬉しくない

「自分の意思でいくの、フェイ貴方は主人の下に帰りなさい」

嬉しかった

命を懸けてまで守ってくれるコトが

フェイを見てると苦しいよ、思い出すから…

ずっと傍にいて守ってくれて、大好きだった…レイのコト

大好きだったのに……

「私では、守れないのですね…」

「ごめん、今までありがとうフェイ」

私はフェイの顔が見れなかった

これでよかったんだ

レイについて行くコトでフェイは助けられる

「やっと手の届く」

傍まで行くとレイは私の頬を撫でるように包む

私はレイの顔も見れなかった

その手はもう私の知ってるレイの手じゃない感じがして、怖さすらある

あんなに仲が良かったのに、あんなに大好きだったのに

もう貴方は別人だ

私の知っている人じゃないみたいに

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