126話『さよなら』セリカ編

フェイを助けるために私はレイに付いて行くコトを決めた

レイが私を連れて来た場所は、結夢ちゃんが女神として守っている大国の中心部

つまりは、因縁のあるタキヤのいる場所ってコトだった

そっか…今のレイはどこにいるのかと思ったら、ここにいたのね

あの大悪魔シンと契約してるのだからおかしい話ではない

でも…凄く複雑だ

ここにいるってレイがタキヤの仲間みたいに思えて…

「最悪ー、まさかまたあんたと一緒なんてね」

そして、そこには光の聖霊もいる

ユリセリの館で姿が見えないと思ったらレイと一緒だったんだ

光の聖霊は私の姿を見るなり、面白くないと不機嫌になる

「嫌なら出て行ってもらって構わないが」

私に対しての態度を見たレイは光の聖霊に厳しい態度を示す

「出て行かないわ!私はレイと一緒がいいの!!」

光の聖霊がレイの腕を掴むと、レイはその手を強く叩き払う

「オレはセリカ以外はいらない、勝手に付いて来ただけの女が」

「酷いよレイ!」

光の聖霊への仕打ちが見ていられなかった私はレイを止める

「そんな突き放し方はないと思うわ、光の聖霊の気持ちを考えてあげて」

私の言葉にレイは冷たく見下ろす

「自分の事は棚に上げて、よくそんな事が言えるな」

自分の言葉に私は喉を詰まらせる

咄嗟に出た言葉だけど、それは…おかしいコトだった

「君は好意のない相手から好意を持たれると冷たく突き放すじゃないか

気を持たせる方が残酷だって言ってただろう

なのに、オレには優しくしろだって?」

そうだ…レイの言ってるコトは……何も間違ってない……

レイの光の聖霊への態度は、私だってやってきたコトだ……

外から見るとこんなにキツく冷たいなんて…でも、それでも私は変に優しくするよりはと思ってしまう

「ごめんなさい…レイの言う通りだわ」

だけど、私は光の聖霊と同じ女として、好きな人に冷たくされて振り向いてもらえない辛さも感じてしまったから出た言葉だった

「セリカがオレを突き放すのも拒絶するのも、そういう事なんだな

君の事はなんでも知っているから…余計に……」

頭を下げる私にレイは最後の言葉を飲み込んだように思えた

そのまま私から目を逸らすとレイは去ってしまう

「レイ…」

顔を上げて私はレイが消えて行った長い廊下を見つめているしか出来なかった

今のレイが何を考えているかわからない

仲が良かった前は、レイのコトならなんでも知っていた気がして唯一無二の大親友だって信頼していたのに

今は…ただ怖くて、知らない男の人だって思ってしまう

「何よあんた!私に同情してるの!?」

いきなりバチンと頬を叩かれた

「やめてよね!惨めになるじゃない!!あんたなんて大嫌い!!」

光の聖霊は悔しいと涙を溜めて私を睨み付ける

「私は嫌いじゃないけど」

「……………。」

光の聖霊のコトは嫌いじゃないわ

ムカつくけど

好きな人が自分じゃない誰かを好きだったら、そっちに矛先が向くのもある話だもの

私がその立場なら諦めるで関わらないようにするけど、面倒くさいの嫌いだし

わざわざ突っかかるのもしんどいよ

「………あんたには…たくさん愛してくれる人達がいるじゃない……

男のくせに、男にしか愛されないけど」

最後トゲが強いなぁ!?

「しかも美形ばっか、羨ましいわ」

本音で来るタイプだね

「だからレイはちょうだいよって思ってるわ

でも、前にあんたに言われて頭ではわかってるのよ

誰を好きになるかはレイが決めるんだって

他人の心は他人が決めるコトじゃないって

でもでもでも!!嫌なものは嫌なの!!!」

「そうだね」

「私だって、レイの事がなかったら勇者の事は嫌いじゃないわよ

最近は……レイが好きなのが、勇者でよかったと思ってる…言いたくないし認めたくないけど

他の女なら許せてなかった」

「私のコト、認めてくれるの?」

ずっと、心の底から憎まれ嫌われてると思ってた

でも光の聖霊は私に嫌がらせとかしたコトなかった

面と向かって言われるコトはたくさんあったけど

ふふ、可愛いところもあるのね

「話聞いてた!?認めたくないって言ってるのよ!?

だけど……あんたの事は、殺させないわ……

これ以上、レイがおかしくなるのは見ていられない」

光の聖霊の言葉に私の口元が緩んでいく

「何笑ってるの!?気持ち悪いわね!!

あんたの為じゃないわよ!!私はレイの為だけよ!!

レイがまた笑ってくれる為に私は私なりに頑張るの!!」

「うん…」

「最悪…あんたがレイの恋人になって、それで笑ってくれるなら……私はそれでもいい

レイが幸せなら、私も幸せ……」

思わず私は光の聖霊の頭を撫でた

何この子、可愛い、めっちゃ良い子

「はっ!?バカにしてんの!?」

すぐに払いのけられたけど

「ううんバカにしてない、良い子だなって思って」

好きな人が幸せなら、自分も幸せか…素敵な愛ね

「あんたねぇ……まっ、この問題は勇者がレイを受け入れるだけでさっさと解決すると思うのだけれど

そんな気ないんでしょ、あんたには」

「セリくんは……わからない」

今の私には、セリくんと繋がっていないからわからない

繋がってなくても、セリくんはレイを恋人には見れないコトくらいはわかるけど

「じゃあ聖女としてのあんたは?」

「私は……」

「好きな人いるんだっけ?」

好きな……人?私に…?

誰かを…私は…誰も、愛してなんか……

あれ…わからない…?

「レイの何が不満なわけ!?あんな良い男いないわよ!!」

えっ?メンヘラDV男がなんだって?

もっと世界に目を向けた方がいいよ!?光の聖霊さん!?

「ダメ」

「どうして?メンヘラDV男だから?」

わかってんじゃん

「いや、なんとなく…なんかダメなような気がして、レイがダメとかじゃなくて」

なんだろう、この晴れない心は…

「いや……レイは…やっぱり怖いわ」

色んなコトがあったもの、今更レイを好きとか…無理だわ

怖くて…そんな気持ちにはなれない

「レイは諦めないわよ、あんたを

あんたが助かる道はレイを受け入れるただ1つだけしかない」

光の聖霊の言葉はとても重かった

それは私にもよくわかっていたから、レイは絶対に諦めない人だ

手に入らないなら…何だってする……どんなコトだって

「あんたの周りも巻き込んでね」

「それは!!」

「わかってるんでしょ、もうそうなってる」

自分がどうなるかより、私の周りに危害が及ぶ方がずっと辛い

「レイは、勇者の大切な人をどうにかするわよ

和彦だっけ、あの鬼畜男

あの男は物凄く強いけど、勇者の事になると足掬われるでしょ」

それは、鬼神の牢獄の件でよくわかったわ…

あの和彦がはじめて簡単にやられたのはセリくんの話を持ち出されたから、昔の和彦ならそんなヘマしない

だけど、今の和彦はセリくんのコトで…

「和彦に…それはダメ!!嫌だ!!

和彦がいなくなったら、本当に…和彦に何かあったら……俺…俺は…」

手に力が入らなくなる…

すると、光の聖霊が私の手をバッと掴んだ

「セリカ」

私の名前を呼んで…

はじめて名前を呼ばれた気がする

「今日は休みなさい、和彦の事は心配でしょうけど今は大丈夫

和彦をどうこうする時、レイは私の力を必要とするでしょうから

その時セリカに知らせるわ、今は休むのよ」

そう、そっか…あの和彦だもの、レイ1人では無理よね

疲れたわ、光の聖霊が言うように休みましょう

でも、光の聖霊が優しいと嬉しい、後名前呼ばれて嬉しい

「気持ち悪い女ね、調子に乗らないでよね

私はセリカの事も勇者の事も嫌いなんだからね」

心を読まれてるのか光の聖霊は自分らしくやっぱり私が嫌いとハッキリ言う

ツンデレにしか聞こえないけど

私は光の聖霊に言われて部屋で休むコトにした

レイが私の為に良い部屋を用意してくれて、それが懐かしく気を使ってくれるのがレイらしいなと思った…



暫く部屋で休んだ私は勇者の剣を手に取る

この子はいつも私と共にいてくれてとても頼りになる

「私は…どうしたらいいと思う?」

だけど、この子から返事が来るコトはない

話せないけど動けないけど

それでもこの子が私とともに喜んだり悲しんだり、心配してくれたり、色んな感情が伝わってわかるコトはたくさんある

今だって、とても心配してくれて、そしてとても悲しんでいる

私が…セリくんに、もう後がないとわかっているかのように…

「光の聖霊はレイを受け入れれば解決する話なんて簡単に言うけど、そんなの無理よ

レイが今までして来たコトを許せるワケない、受け入れるなんてどうかしてるわ」

勇者の剣を傍らに置き、私は枕に顔をうずめる

その反面、やっぱり優しくていつも頼りになっていたレイとの思い出も忘れられない

それがあるから心が揺れる、悩んでしまう

………レイと話すべきでは…?

ふと私の脳裏に過る

そういえば、関係がこじれてからレイとちゃんと話していないじゃない

セリくんがレイを避けてしまっていたから、傍にいても歩み寄るコトが出来なかった

私の全ての絶望をセリくんが負っている今、動けるのは私だけ

まだ…まだ私は死ねないわ…

もっと生きたいから、私は信じて立ち上がらなきゃ

大丈夫…きっと…大丈夫だから…


そう思った私はレイの部屋を訪ねた

途中の廊下でたまにすれ違う人々は私を嫌な目で見る

タキヤの周りの人達からすれば、私は女神を奪った悪者だからだ

なのに、無傷で自由にここを歩き回ってるのが納得いかないんでしょう

タキヤもそれは快く思っていないだろうけど、レイがいるから下手なコトは出来ない

タキヤからしたらめちゃくちゃ面白くない状況かもしれないわね

「レイ、私だけど入ってもいい?」

レイの部屋のドアを叩いて、返事が来てから中に入る

「…セリカが訪ねて来るとは思わなかったよ」

やっぱりレイは、私の知っているレイとは違う表情をしている

もう、本当に…知らない人みたいだ…

どうしてこんなに変わっちゃったんだろう

凄く、心細くて悲しくなるよ

「レイとちゃんと話せてないと思ってね」

「嫌われているからな」

……う、うーん…そ、そうだね

レイは目を逸らし私を見ようとはしなかった

「レイが嫌われるようなコトしたからでしょ、なんで好かれると思うのよ」

「オレの最近の言動で好かれるなんて思ってはいないさ

自分が止められなくて…避けられれば避けられるほど引き止めるのに必死になってそれ以外何も考えられなくて余裕がなくなって」

レイもレイなりに悩んで苦しんでるのか

お互いに余裕がないから、前には進めない

「自分の前世の記憶が蘇ってから……オレはオレを止められない

もう自分がどんな男だったかもわからなくなる」

俯き弱った姿のレイを見て、私は思わず傍に寄ってその頭に手を伸ばす

見ていられなかった

いつも頼りになってカッコ良くて優しい大親友だった人のこんな姿が…

そっとレイの頭を撫でる、こうしたのははじめてかもしれない

いつもレイが頭を撫でてくれていたから

いつも…レイは、弱味なんてないかのようにこんな姿を見せたコトはなかった

今の今までも、レイはこんなに悩んだり苦しむコトなんてあったんだろうか?

いつも自分ばかり助けられて守られていたような気がする

レイが大変な時は自分だって支えたいよ、力になりたいよ

だって、俺達…大親友だろ…

「……やっぱり、セリが悪いんじゃないかそうやって優しくしておいて、その気はないんだろう

こっちが迫ったら冷たく突き放して手に入らない」

レイに触れていた私の手首が強く掴まれ離される

はっ!?メンヘラにやっちゃいけない中途半端な優しさ!?

選択を間違えたのか、でもじゃあ冷たく突き放せって!?

大親友なのに出来るか!?

大親友だから支えになりたい力になりたいって思うコトは…

いや…レイは、大親友なんて…最初から思ってないじゃないか……

「違う!俺は大親友だから、オマエの支えになりたくて…!!」

「オレはそんなものは望んでいない、最初から大親友だなんて思っていなかった」

ほら、やっぱり最初からレイと俺はお互いすれ違っていた

「話がしたいと言ったな

手に入らないなら、嫌われてもいいからその頭も心もオレで埋め尽くしたい」

私の長い髪を掴みレイはナイフを取り出し刃をあてる

「なに…するの……」

嫌な予感しかしない

「綺麗な髪だ、大切にしている事もわかっているから」

やめてと口にするより早くレイは私の長い髪をザクリと音を立てて切り裂いた

「奪うよ」

私の長かった髪を掴んだレイの手から離れた私は足から力が抜けて床へと座り込んでしまう

その低い視線からレイの手の中にある私の髪を見ると、涙が溢れてどうしようもなくなる

「なんで…なんで、酷いよ…」

とても大切にしていたのに、髪は女の命って言うほど大切なものなんだよ…!!

「それだよ、忘れられないだろ?」

忘れられるワケない

レイの望み通りに、嫌なコトでもレイのコトが頭から離れない心に残ればレイの勝ちだ

「髪が短いとセリにしか見えないな、セリカ」

しゃがみ込み私の頬に触れるレイの手を叩き払う

だけど、何も言葉が出なかった

立ち上がり逃げるようにして部屋から出る

レイは追いかけては来なかったけど、私の心はぐちゃぐちゃでもう何がなんだかわからなくなってしまう

私が私であるコトが…出来なくなったら……



自分の部屋に戻ってそのままショックで疲れて眠ってしまって、目が覚めた私は無意識に男物のセリくんが着るような服に着替えていた

鏡を見ると雑に切られた髪をどうにかしたいと思いながらもこれ以上少しでも髪が短くなるのが嫌だった

私は長い髪が好きだったから…女の子らしくてお姫様になりたかったから……

でも、今の私はもう私じゃないみたいだ

勇者の剣を手に取り部屋を出る

私は…これからどうしたら……

「何男装してんのよ」

廊下に出ると光の聖霊が仁王立ちでいる

……いつからそこにいたんだろう…

この人、光ってるからよく見えないだけで全裸なんだよなぁ…全裸で仁王立ちってなぁ…

「いちいちやることが気持ち悪いわね、髪切られたくらいで女捨てるなんて」

「髪は…私にとって、大切なものだったから…」

光の聖霊がツンデレだってのはわかったけど、誰かと話す気分じゃなかった私は光の聖霊を避けて廊下を歩く

とくに目的もなく

「レイと話したんだって?なんでそんな無謀な事…」

「レイは…大親友だったのよ、話せばわかってくれるって思って」

レイのコト、わかったような気はする

でも私じゃレイを救えないコトだけはハッキリとした

「バッカじゃないの、メンヘラなめすぎ

受け入れる覚悟もないくせに何とかなるなんて現実は甘くないのよ」

光の聖霊の言う通り過ぎて何も言えない…

ついて来る光の聖霊と目的もなく歩いているとだだっ広いエントランスへと出る

そこで私は鉢合わせしてしまった

「こ、小僧!?貴様何故ここに!?金髪の小僧は女の方を連れて来たと聞きましたが…」

タキヤと…その後ろに結夢ちゃんの姿があった

私に気付いた結夢ちゃんはタキヤの横を通り過ぎて駆け寄ろうとしたけど、すぐにタキヤに腕を掴まれ止められる

「またあの小僧の下に行くつもりか!?この女!!!」

結夢ちゃんの腕を掴む反対の手でタキヤは結夢ちゃんの頬を力いっぱい叩く

それを見た瞬間、心の底から熱いものが灯る

タキヤに近づき、もう一発叩こうとするその手を掴み止めた

「小僧め!また女神を奪いに来たか!この盗っ人の罪人が!!」

ずっと…心の片隅にあった

ずっと……心配だった、後悔しかなかった

結夢ちゃんのコト

余裕がなかった俺はずっと君のコトを後回しにしてしまっていた

すぐに助けるコトが出来なかった

だけど、目の前で見てしまったらここから逃げるほど男辞めてねぇ

「それはこっちの台詞だ、女神を監禁して暴行してるじじいが」

タキヤは結夢ちゃんを突き飛ばし、腰の短剣を引き抜き振り下ろす

「殺してやる!!殺してやりますよ!!女神の心に居座り続ける小僧めが!!」

そう来ると読んでいた俺は勇者の剣で受け止め弾く

「頭に血が上り過ぎてねぇか、オマエは俺が自殺するのを楽しみにしてたと思うけど」

「憎い貴様を目の前にして冷静でいられますか!」

タキヤの腹を蹴り飛ばしよろけた隙に結夢ちゃんの傍へと駆け寄る

「大丈夫か?」

結夢ちゃんは俺が手を差し出すと、驚いた顔をする

その顔に影が映ったコトで背後にすぐタキヤが来ているとわかった俺は振り向かずに勇者の剣を後ろへと突き刺す

「うぐ…」

手応えはあった、でもタキヤはそのまま振りかざした短剣を俺の背中へと突き刺す

武装していない護身用レベルの短剣じゃそれほどダメージもなし回復魔法のある俺には無意味だと侮っていた

なのに、俺は目の前の光景と自分の背中の痛みと熱い血がいつまでもなくならないコトに驚くばかりだ

「結夢ちゃん…どうして……」

目の前にいた結夢ちゃんは喉が裂け大量の流れる血を吹き出しながら息苦しさを耐えている

振り返ると俺の勇者の剣が当たったであろうタキヤの首元は逆再生かのように傷が治っていく

「ふははははは、馬鹿め!!

ここは女神結夢の聖域、そしてその加護を受けているこの私のダメージは全てその女が受けてくれるのですよ!!」

この聖域に住む者全ての人間が、とタキヤは言う

そう…いえば……ずっと前にこの国に来た時、そんなコトがあったような……

忘れていた!!タキヤを攻撃するってコトは結夢ちゃんが傷付くってコトを……!?

「そして小僧お得意の回復魔法も無効なんですよ!!

どこぞの親切な方が、魔法無効化の方法を教えてくださってね」

なつかしー…そんなんあったな

って、最悪じゃねぇか…俺に勝ち目のない戦い

「私に攻撃したければどうぞ?その女が苦しむだけですが?」

タキヤは短剣を俺目掛けて突き出す、弾こうと勇者の剣を掴んだが背中の痛みで腕が上がらない

そのままタキヤの短剣が右肩をえぐる

い、いてぇ…死ぬほど、泣くくらい

痛みがある戦いってこんな辛いんか、今まで自分の力に甘えきっていた

勇者の剣が握れなくなる

「殺したいほど憎いですが、殺しはしませんよ?小僧が自殺するのを楽しみにしていますからねぇ

いたぶるくらいはさせてくださいよ

その痛がる顔も悔しい表情も、すっきりします」

痛みに耐えながらタキヤを睨み上げていると、タキヤは俺の左目に短剣を突き刺す

咄嗟に左手で目を庇ったが左手ごと左目をやられる

「ぃっ…く…」

「気に入らないですねぇ、その反抗的な目」

やば、片目をやられて視界がすこぶる悪い

しかも右肩もやられて勇者の剣を掴むのも困難だ

しかも死ぬほど痛い、逃げ出したいわ

この聖域から離れれば回復魔法も使える

タキヤは俺を殺す気はないようだから、早くここから…

視界の悪い右目に映るのは結夢ちゃんが俺を庇ってタキヤの前に立つ

「おやめなさい女神、その小僧を庇ってどうします

その小僧はそのうち自ら命を落としこの世界から消えるんですよ

いつまでその小僧に執着なされる

困るんですよ、女神の力は永久に我が物

他の者にその力を奪われるのは、貴女様は永久に私にだけその力を与えればいいのです

ここから出る事は許しません、貴女様に自由などないのですよ」

気に入らないとタキヤの苛立ちが声色からわかる

左手で勇者の剣を掴み、結夢ちゃんを後ろへとやる

だけど結夢ちゃんは俺を心配して前に出ようとするから手で制する

「ちっ、折れない小僧」

「嫌なんだよ…昔の自分見てるみてぇで

助かりたい救われたい守られたい

そんなの…俺にはなかった

どの世界でも、そんなものないって言うなら

自分がそうなればいい、そしたら、そんなコトもあるって証明できるから!!」

立ち上がれる、まだ負けてねぇ

ずっと、結夢ちゃんのコト昔の自分と重ねていた

自分じゃ自分を守れなくて、どうしようもなくて、絶望しかなくて

誰かに助けてほしいのに、でもそんな都合が良いコトあるワケなくて

救われたくても…無理だった

耐えて我慢して苦しんで辛くて、ここまで生きてきた

なのに、俺は結夢ちゃんを守れなかった

守るって約束したのに、どうしても彼女を見捨てられなかった

それが昔の自分を助けるコトだって重ねていたんだ

最低だよな、俺

でも、今は違う…

結夢ちゃんは俺の大切な仲間の1人

だから助けたかった……

今の俺じゃ何も出来ない助けられない

力がない…弱くて情けなくて……

勇者の剣が手からこぼれ落ちる

手の感覚がない、痛みのせい?

視界の悪い目で手を見ると少しずつ消えてるように見える

「小僧?その姿は」

足も見えなくなってきた

あぁ…そうか…私が、私じゃなくなったからだ…

結夢ちゃんが私の目の前で何か叫ぶように口を開くけど何も聞こえない

私が消える、私がいなくなる……

私を保つ要素が何もなくなってしまったから……私は……

最後に視界に映ったのは、光の聖霊がレイを呼んでくれたのかレイがタキヤを止める姿

こうやって、いつもレイは助けるくれていた

その姿が最後に見れただけでも、よかったか…な……

さよなら、私…さよならセリカ…

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