127話『抗う証明』セリ編

魔王の力をセリカが持って来てくれたコトで、香月の復活も近い

キルラが言うには、魔王復活の儀式?みたいなのを行ってそれが1ヶ月くらいかかるらしい

本当にそれで復活するのか?って心配もあるが俺にはわからないコトだから黙って見守るしかないんだ

香月にもうすぐ会えるって嬉しいハズなのに、でも今はセリカのコトが心配でたまらない

俺が無理をさせているってわかってるのに…

俺は何も出来ない、自分に甘えてしまっているなんて…情けない

こうして、上手くいくコトを願うくらいしか

「セリくん、大丈夫か?」

「いや…あんまり…」

口数も少なくすぐに顔に出てしまう俺は和彦に心配をかけてしまった

「どうしたら、いいかわからなくて

俺には何が出来るのか、何をしたらいいのか…」

これ以上傷付くのも失敗するのも悪い方向にいくのも…全てが怖くて臆病になる

本当に自分がダサくて情けなくて弱くて、嫌になる

それがまた自分を落ち込ませる

自己嫌悪、負のループだ…

「今のセリくんに何か出来る事はない」

「………慰めてくれたっていいじゃん…相変わらず薄情な奴だな」

「セリくんは調子に乗りやすいタイプだからこうでも言って落ち込ませておいた方が大人しくしてくれるだろ」

「俺が動いたら悪い方にいくみたいな!?」

いや、和彦の言う通りだ…

俺が動けば、もがけば、それだけ悪い方向にいってるような気がする

やっと和彦が戻ってきてくれてそれだけでも嬉しいコトだ

「いつも、勝手に決めて勝手に動いて…心配するオレの身にもなれ」

なにそれ…そんな、いまさら素直に嬉しいコト言ってくれるなんて…誰コレ?

心配とか出来たの?人の心があったの?

「やっぱ偽者なんじゃ…」

「夜になったら泣かすぞ」

「冗談じゃん!!」

ダメだな、この冗談はお互いにとって苦い記憶なワケだから

俺も素直に受け止めれば良いだけで

でも…なんか…照れちゃって、変な感じがちょっと慣れないから?逃げたくなるって言うか

面と向かうのが恥ずかしいって…付き合い長いのに今更俺もなんだってんだ

「まぁ、もうすぐ香月が復活するならそれまで待つよ

セリくんが生意気言わずに良い子にしてたらの話だが」

釘を刺された

ちょっとずつちょっとずつ…立ち直るから、和彦と香月と…それから……

「そういえば、昨日から八部衆の誰も見かけないな」

「鬼神は一度眠ったら数日は目を覚まさない

久しぶりの地上にはしゃいでいたから暫くは起きないだろう」

子供か

「そっか、なんか静かだなって思ったら」

「心配するな、セリくんの事はオレが守ってやる」

………だから、さっきから恥ずかしいコト言うなよな

何も言えなくなる…慣れてなくて

心配してないよ、だって和彦が傍にいてくれるから

守ってくれるって信じてるから……

守って……信じてたな…レイのコト

信じていたのに…なんでこんなコトに

俺が、前世の宿に泊まろうなんてバカみたいに…

全部…全部、俺が悪い

「セリくん…」

和彦の心配する声も届かないほど、落ちてしまう

ずっと不安定だ自分が、弱くてバカで自分を追い込むコトしか出来ない

「……ちょっと冷えてきたな」

ひんやりと身体が冷たく感じて重い

「そうか?そろそろ冬の季節にもなるし、体調が悪いなら少し休むといい」

「そうするよ」

最近、あまり眠れていないのもある

前から悪夢を多く見る方だったが、ここ数日それがかなり酷かった

セリカに負担がかかる度にそれを背負い込んでいるから吐き気がするほど気持ち悪くなるコトもある

色々と精神的なものから来ているんだろうけど、その悪夢がやけにリアルで現実と変わりなく感じる

過去のコトだったり、自分が不安に思うコトだったり、様々なコトが悪夢となっている

前は誰かが隣にいてくれるとそれもマシになっていたのに、今は和彦が隣にいてもダメだ…

日々の悪夢が自分を追い詰められていくのが……もう、耐えられなかった



いつまでも、いつまで経っても、逃げられない

様々な悪いものが巡ってくる

何度も見る夢はいつも俺を苦しめる

他人の目が手が怖い

たくさんのトラウマが襲いかかる

いくつもの人は違えど、生まれ変わる度に1つだけ変わらないコトがある

それはいつも生まれ育つ環境だ

何度も何度も、吐き気しかない

俺はずっと義理の父親に同じ目に合わせられる

それが俺の決まった運命かのように

ずっと忘れていたコトもあった

でもある時、ハッと思い出すんだ

あの時…自分がやられていたコトがなんだったのか

大人になってからわかる

子供の頃は、ただただ嫌で仕方なくて気持ち悪いのに意味もわからなくて…

だから大人になってからそれがなんだったのか理解した時、言葉じゃ表せないような感情が渦巻いた

これから先も逃れられないんだってわかってる

だって過去は変えられないんだから…

死ぬまで…死んでまた生まれ変わっても…

永遠に…支配される…思い知らされる

嫌なのに、気持ち悪いのに、汚いのに、言うコトを聞いてしまう

逆らえない、怖くて…わからなくて…

それが大人になっても染み付いている

もうこんな過去の夢は嫌だ、助けて、逃げたい、助かりたい……

いつまで経っても打ち勝てない

「セリくん!しっかり!!」

和彦に肩を揺すられ、少しだけ現実に引き戻される

「っ和、彦…」

「最近、酷いな…ちゃんと眠れてもいないだろ」

なんだろう…おかしい

嫌な夢なんていつも見ているし、起きたら凄く気分は落ち込むけど

まだ過去のコトだからってなんとか耐えれてきたのに

どうしてか、最近は酷くのしかかってきて寝るコト自体が恐怖でしかない

「寝るのは怖い、でも眠い、寝たら怖い夢を見る、自分が大嫌いになる夢だ

あんなの俺じゃない、でもあれが…現実…もう嫌なのに」

人なんて自分でもわからなくなる時なんてあるだろう、自分がこんなにも弱くて不安定なんだって惨めを知るコト

いや…俺は昔から弱くて…何も出来ない男だったじゃないか…

もう…こんな自分は…

ぐっと力強く引っ張られ抱きしめられる

すると、少しだけ落ち着くから

和彦の温かさが…俺を落ち着かせてくれる

「夢の中でも、起きたらオレがいるって事を忘れるな」

和彦がいるから、なんとか生きていられる

和彦がいなくなったら…また…いなくなったら……

「……面倒くさい奴になってるな俺、和彦の重荷になってるのスゲー嫌だよ」

だから、また自分が嫌になるんだ

迷惑かけてるのが嫌なんだよ

和彦は大丈夫だって言ってくれるけど、俺が嫌だよ

こんな弱くて情けない自分

だけど、和彦がいてくれると安心しちゃって眠くて仕方ない俺はまた夢の中へと戻ってしまう

誰かに触れられるのが怖かった俺なのに、好きな人にはたくさん触れられたい

嫌なコト全部忘れるくらい…



目が覚めるとまた新しい重くのし掛かる感覚がハッキリとする

セリカに…何かあったんだ……

レイに何かされた?わからない

わからないけど、セリカの負担は俺が背負うからそれを強く請け負ってしまう

暫くすると、さっきから物音ひとつしないシーンと静まり返っているコトに気付く

おかしいな…いつもはキルラとかポップとかキルラとかポップとかがうるさいんだが

あの2人がうるさくなくても昼近くならみんな活動しているから何かしらの音はあるのに…

不気味なくらい静かな俺は部屋から出る

なんだろう…この不安感……押し潰されそうだ

耳元で嫌な幻聴すら聞こえてくる…

ダメだ、考えるな、和彦に…会わなきゃ

廊下を歩いていると、見たコトあるような石像が不自然な場所に置いてある

こんな石像こんな所にあったか…?

それにこれ誰かに似てるような……

そう思うのがいくつもあって、俺は嫌な予感に走り出す

もしかして……これは…

和彦の部屋へたどり着いてドアを開けると、そこには和彦ソックリの石像があった

「あっ…ウソ…だ、和彦……」

違う…ソックリとかじゃなくて……これは、さっきまでのもみんなみんな石化されている…?

そんな、どういうコトだ…?

この世界に石化魔法なんて…俺が知らないだけであったのか?

俺以外がみんな石になってる…?なんで、どうして………

「和彦…オマエ、こんなにアッサリ負けるような奴じゃないじゃん…」

回復魔法で治せない…

もう無理だ……和彦がいなくなって……

ずっと耳元で嫌な声の囁きがする

「1人に…しないで……和彦……」

涙が…もう泣きたくないのに

石化してしまった和彦にすがりついていると、ドアが開いて声がする

「セリ様!?これは一体どうい」

声がして振り返ると俺へと手を伸ばしたところで石化したフェイの姿が目に入る

な、フェイまで…?

一瞬、知った声がして安心したのにすぐに絶望へと変わる

やっぱり…俺以外が石化している…

吐き気がするような嫌な声が耳元で何度も何度も繰り返される

「死ね死ね死ね」

義理の父親の声が俺の耳元に張り付いて俺を追い詰めてくる

嫌だ、思い出したくない、汚い、気持ち悪い

助けて助けて助けて…

逃げられないなら……死ぬ、しかない…

もう……辛い……

この声を頭に過る顔を消し去りたい…

一時でも…楽になれるなら


気付いたら俺はこの城の1番高い場所にいた

あぁ…この高さ…前世のいつかの俺が自ら命を落とした場所に似ているな

そんなコトを思い出しながら下を見る

もう怖くなんてなかった…

ずっと死ぬのが怖くて、死ぬ勇気がなかった

生きるのが辛くて苦しくて嫌なのに

死ぬ度胸もない本当に情けねぇ男…

このまま生きてても、ずっと過去の記憶に苦しめられる

誰かに傍にいてほしかった…

じゃないと生きられない弱い俺なんだなって、本当に…

強くなりたかった…無理な話だ、これが俺なんだから

きっと何度生まれ変わっても、また同じような運命なのに

わかってても、でも一瞬でも安らぎがあるなら……死ぬのも悪くな…い……

足が浮くと地面へと引っ張られる

終わり…これで俺も…またいつもと同じように……

いつか、自分の最悪な運命にサヨナラが出来たら…いいのに

「セリくん…!!何もかも諦めるには早いだろ!?」

いつもと…違う……!?

俺を呼ぶ声に目を開けると和彦が飛び込んで来る

な、なんで和彦…?オマエは石化してて……

『和彦くんは運命に抗うコトが出来る人なんだね』

なに?この言葉?俺の頭に過る誰が言ったか思い出せない

運命に…抗う……?俺はここで死なない?

和彦は俺を掴むと強引に壁をぶち破って掴む

それできるのオマエしかいないわ……

「バカ!!後一歩遅かったら…」

和彦は怒りながらも心配したと震えながら言う

「ダメ…なんだよ……俺……ダメ」

弱音しか吐けなくなっている俺の唇を和彦は思いっきり噛んだ

血の味が染みて痛いけど、和彦が本気で怒っているコトに俺は言葉を詰まらせる

「死ぬな、オレはセリくんの運命の人じゃない

死なれたらもう二度と会えないかもしれないだろ

そんなのは…嫌だって、言ってるんだよ」

和彦は…運命の人じゃない…

そうだ、この人生で死んだらもう和彦には会えないかもしれない

そんなの…俺だって嫌だよ

和彦は俺にとって……

急にガクッとバランスが崩れるとまた地面へと引っ張られる

な、何が!?和彦の壁を掴んでいた腕がないのに気付く

「まずい…!!」

誰かが和彦の腕を切り落とした!?どこから攻撃が!?

すぐに和彦の腕を回復魔法で治したけど、落下位置も変わっていて和彦の馬鹿力で掴めるものが周りに何もない

このままだと死……?

それを俺より先に察した和彦は俺の頭を胸に抱いて守るように体勢を変える

待って、それだと和彦が頭から地面に落ちて和彦が死ぬんじゃ……

それは嫌だ!俺を生かす為に和彦が死ぬなんて嫌だ!!

そんなのおかしい!それこそ俺の為なんかじゃないよ和彦

1人残されて死なれる方がずっとずっと辛いのに……!!

地面が近付いてもうダメだと思った

和彦を助ける方法も何も思い付かず自分だけが助かるのが……死ぬより怖かった

…………。

…あれ?いつまで経っても何の衝撃もない?

いくら和彦に守られてるからってあの高さから地面に叩きつけられたら…

恐る恐る目を開けると、目の前には顔立ちの整った超美形の少年がいた

「あ、あれ……?和彦は……?」

しかも俺はその美少年に抱き上げられている

ど……どういう状況…?

その美少年をよく見ると物凄く香月に似ていて……目が離せなくなる

「待っていなさいと言ったはずですよ」

声が……

「えっ!?香月!?えっウソ!?」

姿も顔も声も幼いが、香月に間違いない

香月は俺を地面に下ろすと背を向けるから、俺は前に回ってマジマジと見る

「ウソ!?可愛い!!!中学生くらいか!?俺と背が近い!!?やば!可愛い!!

髪も少し長くなった?」

俺よりは背が高いけど、いつもより目線が近くて新鮮だ

死にかけていたのにテンションが急変する俺は自分でも頭がおかしいんだと思った

まぁ頭おかしくなかったらコイツらと付き合えてないってコトで納得している

ってか、香月の子供時代ってこんな感じなんだ~めっちゃ可愛い

魔王に子供時代はないって聞いてたけどな

復活する時にはすでにいつもの大人の姿なんだって

子供なのに、スゲードキドキする、幼くてもカッコいい

「………。」

「あれ、香月何処行くの?」

俺の横を通り過ぎて香月は去ってしまう

すると少し離れた上の方から声が聞こえた

「セリくんが香月を子供扱いするから」

声のする方に目をやると、和彦が木に引っかかっている

香月、和彦も助けてくれたんだ…雑だけど

和彦は木から下りて俺の隣へとやってくる

「肝を冷やしたよ、さすがに死ぬと思った

香月には借りができたな」

あの香月が和彦を助けたコトは意外だったけど、それは俺の為を思ってしてくれたのかもしれない

なんて考えは、良い風に取り過ぎか?

香月の復活には1ヶ月くらいかかるって聞いていた

俺を助けに来てくれた香月は中途半端に復活してしまったから、あの姿になってしまったんだろうか

あの魔王に固執していた香月が……なんか素直に嬉しい

「それにしても」

和彦が喋ってる途中で俺は感極まって和彦に抱き付いた

「どうしたセリくん?」

「ごめん…!それから、ありがとう

バカな俺を見捨てないでいてくれて…」

和彦が俺の自殺を止めてくれて、香月が助けてくれて……本当によかった

死んでたら本当に…後悔した

この人生は諦めちゃいけない

だって、和彦がいるから…

今までに会えなかった人達にたくさん出会えたから

死ぬ寸前で、まだ生きたいって思ったんだ

「セリくん」

和彦は抱き付く俺を引き離すと、軽いキスをした

「ん?今キスする流れだった?」

「やっぱり」

和彦は苦笑する

「あの顔は香月にしか見せないんだな」

「あの顔??」

どんな顔してた俺?変な顔か?

「セリくんにとって香月は特別なんだって見てたらわかるよ

オレにはきっと永遠にない事だ」

和彦は少し寂しいような顔で笑う

よくわからないけど

「和彦だって特別だぞ?だから恋人なんだし、同じくらい愛してる」

「愛してても…恋はしてないんだろうな

香月は一目でセリくんをここまで明るく出来るのに、オレは」

呟くような和彦の言葉は俺に聞こえなかった

「早く香月と仲直りして来い、せっかく香月が復活したってのにこれじゃいつまで経っても抱けないだろ」

「えっ仲直りって、香月は照れてただけだよ」

「いやあれは子供扱いされて怒ってるんじゃ」

「それに香月が子供のうちはそういうのダメだ、大人になるまで待ってやらないと

未成年に手を出すのは犯罪なんだからな」

「未成年も何もそもそもアイツ人間じゃないだろ、セリくんは真面目だな」

和彦は俺をグッと引き寄せて抱きしめる

「とにかく、セリくんが生きててよかった」

左手で腰を抱き、右手を俺の指に絡める

なんか…それだけでも……ドキドキするなぁ…

「ごめん、和彦を殺すところだった…

もう二度とこんなコトしない、俺は和彦とずっと一緒にいたいから

だから……もう諦めない」

和彦にさっき噛まれた唇を舐められる

軽く痛みが走るけど、熱くてそれが心地よくも感じた

「それに覚悟も決め」

「キスしたいから喋るな」

うん…って返事をするより先に和彦に唇を塞がれる

絡めた指に力が入る

忘れてた…和彦の温かさもぬくもりも

死んだら失ってしまうなんて、簡単にわかるコトなのに

もうあの嫌な囁きも聞こえなくなって

和彦が命懸けで助けてくれて、もう死なないって誓った

香月が目の前に現れて、心の中にずっしりと重く苦しめていたものが晴れたように感じた

心がスッキリとまではいかないが、もう一度立ち上がるには前を進むには十分だった

ここから、取り返しにいくよ

自分の大切なもの、ひとつひとつ向き合って

今度こそ幸せを掴みにいく

運命が俺の邪魔をするって言うなら抗ってみせる

それはもう不可能じゃないって、目の前の人が証明してくれたから

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