第23話『私の大切なもの、壊さないで…お願い』セリカ編

あれから人間の女4人組からのガキっぽい嫌がらせが続いた

最初はふ~んって感じでかわしてきたケド、それもだんだんと酷くなっていく

途中で諦めてくれるかなと軽く考えていたが、どうやら私が平気なのを見れば見るほど

4人組のイジメ魂?はどんどんと燃え上がるだけみたいだった

平気だと思っていたし、乗り越えるつもりだったケド…

私がちょっと部屋を空けていて、戻ると部屋の中がめちゃくちゃにされているのを見た瞬間はさすがに肝が冷えたよ……

家具は壊され、服はズタズタに壁や床は汚物まみれ、金になりそうなものは盗まれている

どうやらとことんやられたみたいね

「人間とは弱いくせに恐ろしい事をする」

言葉とは違ってその声音には面白いという感情が含まれている

私の後ろから私の部屋を興味津々に覗くのはカトルだ

「カトル…

そうね、私も人間が1番恐ろしいと思うわ」

「他に言う事はない?」

「…何が?」

私はドコから手をつけていいかわからなくなるほどヒドイ部屋の中にとりあえず手を付けはじめる

イングヴェィが帰ってくる前に綺麗にしとかないと

これを見たら…めちゃくちゃ心配するもん

「何が?…やれやれ、それは本気?

セリカさんが言えば僕があの人間の女達を始末してもいいと言ってる」

カトルは部屋の中を片付ける私の後をついて話す

「この状況をイングヴェィが知ったら僕らだってとばっちりを受ける

そんな事はごめんだよ

君の事になるとイングヴェィは周りが見えなくなる」

「………わかってる

イングヴェィが私を愛しすぎてるって、なんとなくわかってるよ

だから、私は何も言わないし何もしてもらおうと思わない

わかってるのよ…

イングヴェィが私を愛してるから、このお城にいる人達は誰も私に近付かない関わらないようにしてる

人外の強い力は少し私に触れただけで壊れるんじゃないかって、みんな私を避けるわ

私に何かあったら、自分の命はないと言うくらいの…」

「よくわかってるじゃないセリカさん

頭が良いと言うか、他人の考えがわかるみたい

君に憧れや興味がある奴らは沢山いる

でも、近付けない

皆はイングヴェィを怒らせるのが恐い

僕も本音を言えば、セリカさんとは関わりたくない側」

それでもカトルがこうして話し掛けてくるのは、私をこのまま見捨てたらそれでもイングヴェィが怒ると判断したからだね

「心配しないで

私がそんなコトさせないから

…あの女達はイングヴェィのファンなんでしょ

だから、嫉妬で私にこんなコトするの

嫉妬ってね

相手に負けてると思うからするものなのよ

彼女達にとって私は勝者

私に負けてる所なんて何1つもないなら、彼女達からの嫉妬も嫌がらせも受け止めてもいい

それで彼女達の気が済むなら…

私は何も悲しむコトなんてない」

片付けの手はやがて止まる

汚れも落ちない

壊れたものは元に戻せない

盗られたものは返ってこない

どうしたらこの部屋が綺麗になるのかわからない

まるで…私みたいだ…

「セリカさんの顔は心をそのまま表している

いくら口で自分の考えを述べて納得していても、心は傷付いてる証拠

君は人間なんだから難しい事を考えずに単純でいれば

複雑なセリカさんは僕がやりにくいから困る」

鏡に映る私はカトルの言うように傷付いた顔をしている

悲しい…きっとガキみたいな今までの嫌がらせも私は気付かないフリをしていただけで

傷付いていたのかも……

「ダメ…そんなのできない

イングヴェィは私の心を見抜くもん

そしたら、私のお願い全部叶えちゃう

憎しみも苦しみも悲しみも全部晴らしてくれる人

私はそれを望んでるわ

悪い人間だから

でも…そんなコト絶対させたくない」

「何故?セリカさんが救われるなら良い事だろう?」

「私のせいでイングヴェィが誰かを殺したり酷いコトしたり悪いコトをしたりするなんてヤダよ!?

…どうしてイングヴェィは私に優しいの

その優しさが自分を破滅させるかもしれないのに」

憎しみも苦しみも悲しみもある

悪だよ

でも、私の奥底には小さな善も残ってるからそれが私を止めるの

「簡単な事

君を愛しているからだろ

人外の僕らより恋や愛は人間の得意分野

なのにわからない?」

カトルは私を他の人間と違ってわかりにくいと困った顔をする

恋…愛…?私にはわからない…そんなのなかったもの

「まっ好きにしたら

僕は君が言わない限り何もしない

勝手にやってイングヴェィに告げ口されても困るし」

カトルは私を理解しがたい人間で考えも変わらないとわかり部屋から出ていく

私は…自分のコトは自分でなんとかしなきゃ

私の憎しみも苦しみも悲しみも、恐ろしいものになるから

イングヴェィの太陽みたいな笑顔を一瞬でも消し去りたくないの

私のせいで、貴方の優しさを奪いたくない

隠し通さなきゃ

このコトも、私の気持ちも

いつも持っているウサぐるみを手にして見つめる

私は改めて自分の考えをハッキリとして、部屋の片付けを再開した



次の日、汚れも壊れたものも自分ではなんとかできないと判断した私はリジェウェィに頼んでなんとかしてもらうコトにした

理由は聞かないで~オーラを出していたら、困った顔をしたケド何も聞かないでいてくれた

部屋が綺麗になるのは数日かかるかなと思ったのに、数時間で完璧ってくらい驚きの白さで綺麗になっている

凄すぎる…これがプロ…

同じような家具がなかったものとか…イングヴェィ見たら気付くかな

ううん…大丈夫、まだイングヴェィはあまり私の部屋をそう来てはいないんだし覚えてないよね

「……もうお昼か…お腹空いたな……」

でも、私は自分の部屋から出る気になれない

だんだんエスカレートしている嫌がらせが、恐くなったから

ベッドの上で気持ち良さそうに眠るウサちゃんを撫でる

「この瞬間は、幸せだな」

人じゃなくても言葉が交わせなくても、生き物と一緒にいるのは癒しだ

ウサちゃんや動物達に会ってはじめてわかった

ふふっと私は笑みをもらしこの癒しに安心していたけれど

ベッドの横にある窓に何かが飛んできて真っ赤に染まるのに気付く

「……なんだろう?」

この部屋は防音みたいで窓を開けないと外の音は聞こえないみたい

ベッドに足をかけ、窓ガラスを確認すると真っ赤にこびりついているものが血液だと気付く

「えっ…なんで…?」

私はまったく少しも気付いてはいなかった

大切なものができると言うコトに

大切なものがなかった私には…わからなかった

窓を開けて外を確認すると、今日も私が顔を出すのを待っていた可愛かった動物達が無惨な姿で転がっている

顔を潰されていたり内臓を引きずりだされていたり手足を引きちぎられていたり…

どの子も私の心を深い痛みと悲しみと怒りを芽生えさせる姿にされていた…

「うっ…ウソ……なんてヒドイ…」

人間の死体なんてたくさん見てきた

自分で人間を殺したコトだってある

何も思わなかった何も感じなかった

なのに…なんで…こんなに胸が苦しくて何かが込み上げてくるの

それが…私の大好きなものだから……?

「あはっ、これは効き目あったみたいですねサユキさん」

「やっとって感じ

まだまだあたしの気は晴れないけど」

木の影から私の傷付く顔を見て笑うあの4人組が姿を見せる

「…あんた達が……やったの?」

「そう」

「さっさとここから出ていけばこんな事にはならなかったのに、しぶといんだよねぇ」

私のせい…私が大切なものがやられるコトに気付かなかったから

みんな殺されちゃったんだ……

視界が霞む…

私ははじめて自分以外のコトで泣きそうだ

あっウサちゃん…!ウサちゃんは守らないと!!

そう気付いた私は窓から顔を引っ込めてウサちゃんを抱きしめて部屋を出ようとする

だけど、ドアの前にはあの4人組の仲間と思われる男が4人通せん坊してニヤついていた

「おーいサユキ!この女の大切なもの見つけたー!」

ヒョイッと私の腕からウサちゃんの耳を掴み持ち上げる

ウサちゃんは必死にもがくケド、男が離してくれるワケがない

「やめて…!その子は私と関係ないの…!!」

私はウサちゃんに手を伸ばすケド、別の男に腕を掴まれ身動き取れなくなった

「な~にー?」

窓からサユキ達が部屋に入ってくる

ウサちゃんが他の動物達みたいにされたらと想像すると血の気が引いて冷たくなる

私は…なんてバカなんだ

私の行動は自分からウサちゃんは大切なものだって言ってた

大切なものがなかった私には守り方すらもわからないなんて……私なんて…最悪

「おもしろそー!!

この女の前でまずは兎の毛をむしり取って、そしたら手足耳を引きちぎって目玉をくりぬいて、最後は~~~~~~~」

私の最悪な想像を口にするサユキに悲願する

「やめてください…お願いします……ウサちゃんを傷付けないで

私はどうなってもいいから……」

声が届いてるハズなのに、サユキは私の思いを知ってさらに喜んで口にする

「決めた!最後はこの兎の肉をこの女に食べさせて」

「了解~~」

ウサちゃんを掴む男はサユキに言われた通りにウサちゃんのふわふわの毛を乱暴に掴み引きちぎっていく

私は力いっぱい私を捕らえる男から身体を引くケド、なんともできない

霞む視界から止まらない涙が溢れ続ける

心が壊れちゃう…やめて、やめてよ

声帯のないウサちゃんが痛みで悲鳴をあげている

ウサちゃんの子供の柔らかい肌は毛を乱暴にむしり取られると赤い血が痛々しく滲んでいく

ヒドイよなんでそんなヒドイコトができる…

人間なんて生きる価値もない奴らばっかりじゃないか!!

何もできない守れない私も同罪だ…憎いよ…人間が憎い……許せない

男は途中でやめるコトなく、毛の次は手、足、耳……と引きちぎる

最後はサユキが言った通りにウサちゃんの肉を私の口に突っ込もうとする

「この女、口が小さいから入らねー」

「ミンチにしてでも食わせろ」

無理矢理口を開かされ、ウサちゃんの肉を突っ込まれる

私はその悲しい味に吐き出したい気持ちしかないのに、次々と無理矢理に詰め込まれては飲み込むコトしかできなかった

「あはははは!!!」

「これに懲りたら、さっさとどっかに消えて?」

「バイバイ~~」

ウサちゃんの肉が全部なくなると、サユキ達は笑いながら部屋を出ていった

「うっ…ぅ……ウサちゃん……」

気持ち悪いのに吐き出すコトもできなかった

私から出ていくのは枯れるコトを知らない涙だけ

私はバカすぎる…

こんなコトになるなら、あの時カトルにアイツらを殺すのを協力してもらえばよかった

自分だけなら我慢できたなんて考えが甘すぎたの

なんで…私はウサちゃんや動物達が巻き込まれるって考えられなかったの……

私に大切なものがなかったからなんて、言い訳だよ……

許せない……絶対、殺してやる

アイツら全員…同じ目に合わせて殺す

考えたくない

もう迷いなんて何もない

「どうして…私は……」

私に残ったのはポケットに隠れていたイングヴェィにもらったウサぐるみだけ

「イングヴェィ…私は、やっぱり貴方と住む世界が違う

私は貴方のように明るい世界で生きられないみたい

あれだけ見たかった太陽がね

目も開けられないくらい眩しいのよ……」

空が真っ暗に曇っていく

私の心のように

私のこの枯れるコトのない涙が枯れた時……

また人間を殺す



-続く-2015/03/22

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