第22話『なんか俺、話に置いていかれてるんですケド…』セリ編
暫く身体が動かせないほど辛い日が続いたが、数日経ってやっと熱が引いていき身体を起こせるくらいまでマシになった
今俺がいる場所はドコかの小さな洞窟みたいだ
雨風も防げて良い場所をレイは見つけて運んでくれたんだな…
洞窟の中には色んな薬草や何かを調合したあとが残っている
レイがどんだけ俺の為に頑張ってくれたのか…一目でわかった
いつもレイって本当全力なんだ
俺が逆の立場ならここまで出来たかどうかわからない
薬草とか何の知識もないし
それでレイはドコに…?
見当たらないなと洞窟の外に出ようとすると怒られる
「病み上がりなら大人しく待っててくれないと困るじゃないか」
ちょうどレイが果物を沢山抱えて帰ってきた
「レイ…」
「熱も引いてきたし、そろそろ目を覚ますんじゃないかっていっぱい採ってきたぞ
あまり食べれなくてもちゃんと食べようなっ」
変わらないレイの爽やかな笑顔はまだ元気ではないけれど目を覚ました俺を見て安心している
「もう少し身体が良くなったらまた村を目指そう」
「うん…」
レイは綺麗に食べやすいように次々と果物をカットしてくれる
俺はなんでもしてくれるレイを見て、いつも思う
戦えもしない何もできない完全に足手まといの俺が…レイの為に何ができるのかって
レイはこんなコト望んでないだろうケド、俺はしてもらってばかりじゃなくて
俺だって大親友の為に何か役に立ちたいんだもん…
「ほら、これ食べて笑いな
甘くて美味しいから」
みずみずしく甘い香りのするリンゴを受け取り俺は頑張って笑ってみた
今、レイが見たいのは俺の笑顔なんだってわかるから
俺にはそれしかないのか……
何日も寝ていて、起きた今日もまだ動くなって言われて1日中洞窟の中でゴロゴロだよ…ヒマすぎて飽きた!!
太陽が沈んで夜になって、俺は洞窟の外へと出る
「何処へ行くんだい?」
「ちょっと暑いから涼しい夜風に当たろうかと思って」
「夜は昼と違ってモンスターも凶暴化していて危ないんだぞ」
レイの注意に対して平気平気って前にもなんかこんな流れあったよな……
洞窟から出ると森の中で木に囲まれている
恐いって感じはなくて、涼しい風と木の自然の匂いに心が癒されるみたい
凶暴化したモンスターなんて出る気配ないよ
こんなに静かなんだから…って隣を歩くレイを見上げると
「えっ…?」
いきなりレイの両膝から下の足がなくなって吹き飛ばされる
「レ…イ……?」
目の錯覚、悪い夢でも見てるんだと思いたいのに…隣にいたハズのレイの血が俺の顔や身体に浴びる
「っ…」
数メートル先に飛ばされたレイの小さく声を漏らすのを聞いてまだ生きているとわかった
ワケがわからないまま俺は急いでレイに近寄ろうとしたが、誰かに強く腕を掴まれ引っ張られる
「なっ誰!?何するんだ!?離せよ!!」
俺を掴む誰かのほうを振り向くと、息を殺されるような全身が怖じけづき凍るような感覚が駆け巡った
黒髪に紫の瞳、長身美形の男
見た感じ年齢は20歳は超えた俺と同じくらいか
いや…そんな見た目なんかどうでもいい
俺はこの人を一目見ただけで恐怖に支配される
恐い…ただそれだけしか感じられない
この人の纏う雰囲気と言うかオーラと言うか何かがナイフのように鋭く突き刺さるみたいだ
同じ空間で息をしていると激しい痛みを感じるような錯覚が息苦しい
コイツ絶対あかん奴やと思ってしまった
一言で例えるなら、まるで魔王みたいな人だ……
そしてそれはレイを一瞬にして瀕死にした奴だとすぐにわかった……
「っ……」
金縛りにでもあったかのように目も反らせず動けるコトもできずにいると
魔王みたいな人は俺に顔を近付けるとそのまま唇を重ねてきた
………!?
一瞬何が起きたのかわからない
少し離れた所で大親友が瀕死な状況なのに…キスされるなんて
えっ何!?なんなんだいきなり!?変な人!!
なんでキスされたのかまったくわからんのだが…
いや、よくあるパターンで俺を綺麗な女と勘違いした山賊かなんかで女はさらえってやつなのかもしれん
魔王は俺から顔を離すと表情1つ変えるコトなく初の一言がコレだ
「危ない所でした」
いやオマエが1番危ねぇよ!?色んな意味で!?
人ひとり瀕死にしていきなり俺にキスしてくるオマエが1番危険で恐ぇわ
心も頭もパニックすぎて言葉が出てこない…
「……不意打ちで私の攻撃を喰らって即死を逃れる人間は始めて」
魔王はレイを見下ろし言う
レイは魔王の攻撃に気付いて避けたみたいだが完全には避けきれなかったから膝から下の足だけが吹き飛ばされてしまったのか
「レ…レイ……」
微かに息もある動こうともするレイを見て、俺は血の気が引くような思いでレイの傍に駆け寄りたいが腕を引いても押しても少しも解放してもらえる気がしない
そんな俺に魔王は何故逃げるのだと聞く
「何処へ行こうとするのですか」
魔王を見上げると、めちゃくちゃ恐いと感じるのに不思議とこの人からの俺への敵意や殺意はまったくない
でも…レイに対しての敵意も殺意もめちゃくちゃ強く感じた……
「ドコにってそこに倒れてる俺の大親友の所に、ってなんでいちいち君に説明しなきゃいけないんだよ!!???」
「あの男は貴方を殺します
なので、私が先に殺して差し上げます」
俺が強く掴まれた自分の腕を引こうとすればするほど相手の力は増していく
少し離れた所からレイの様子を見るとレイの身体は少しずつ暗い何かに被われていく
もしかしてあれは毒か呪い…?
「はっ?何言ってんの?
レイはこの世界に来てから俺をずっと守ってきてくれたんだ
レイが俺を殺すなんて絶対ありえねぇ
今5分以内に出会った誰かわからん君なんかよりずっとずっと信じてるんだよ!!」
「本当に生まれ変わる度に記憶がない貴方には世話が焼けますね
今が問題なくともこの先はわからない
あの男は何度も貴方を殺した
きっと今回もいつか貴方を…殺します……」
何……言ってんだよ……
初対面なのに、俺を知ってるみたいな言い方して……オマエ……
ストーカーかよ!?
マジか、まぁストーカーなんて珍しくねぇもんな
「絶対そんなコトありえねぇって信じてるし絶対ないって言い切ってやる!」
でももし、その時が来たら………
そんなコトないケド…そんなコトあるなら……自分でなんとかする…
なんとかって何か今は思い付かないケド、俺は黙って殺されたりしねぇ
恋人に殺されて親友にまで殺されたら笑えねぇだろ…
「…こんなものでこの私を倒せるとでも」
顔の横を風を切りながら何かが過ぎる
俺の目には見えなかったケド、魔王はその何かを掴んでいた
その位置は魔王の額を正確に狙った氷の矢だった
レイの矢だ…気付いた俺はレイのほうを振り向く
「……その手を…離せ……っ」
レイは瀕死の状態でも弓を引き意識を保っている
俺はその姿を見て、なんでそこまでするんだって思うしかなかった
命を懸けてまでレイは俺を守ろうとしてる…自分の命を懸けてでも……
そんな奴がいつか俺を殺す?
今死ぬかもしれないのに……
「私への殺意が強い…
足を半分失っても正確さが鈍る事のないその腕は評価しますよ」
魔王はレイの氷の矢を砕いて、何か様子が変だと言うコトに気付いている
さっき俺が思ったコトと同じ
自分が言ったコトと現実の矛盾
レイは俺を殺してきたと言ったのに、今は命を懸けても守るコトに何かが違うと……
「……そういえば、私が殺した後に転生した世界が…
そう、そういう事ですか…」
魔王は自分だけわかっていて納得した様子に俺は???しかできない
「その世界で貴方は聖女に恋をしたから、その一心同体であるセリを守っていたと
人間が運命に抗うとは、面白い事をしますね」
面白いと言うのに魔王はやっぱり表情1つ変わらない
聖女?一心同体?運命に抗う?なんだそれ?
よくわからないケド、このままじゃレイが死ぬ
それだけはわかる
「離して…レイを助けてくれよ」
俺は掴まれていないほうの手で前にレイに渡された果物ナイフを取り出して魔王に向けた
こんな果物ナイフじゃ何にもならないのはわかってる
でも……
「このままじゃレイが死んじゃう!!」
「落ち着きなさい
あの男がこのままいなくなっても何も問題はありません
守ってほしいのならこれからは私が貴方を守って差し上げましょう?」
モタモタしてる時間なんて1秒もない
焦りと不安と心配が俺を襲い感情的にさせる
「何言ってんだよ!?
守ってもらうとかそんなんじゃない
レイは俺の友達なんだよ親友なんだよ大親友なんだよ!?」
「それが何か?」
魔王の冷たい言葉に俺の心がズキリと痛む
「アンタ…魔王みたいと思ってたケド、本当に魔王みたいな奴」
「そうです」
そうなんかい…
「大切な友達が死ぬかもしれないのに心配しない奴なんていない
不安にだってなるし焦ったりだってするんだ!
勝てないってわかってても…邪魔するなら
俺が死んでも、アンタを倒してレイを助ける……」
俺がキッと睨みつけると、ずっと変化のなかった魔王の表情が少しだけ反応したような気がする
その隙を逃さず、果物ナイフを俺の腕を掴む魔王の腕に突き刺した
俺のイメージではちょっと痛ッて感じだったのに
すると、魔王の腕は刺した場所から大量の血と共にちぎれるように腕半分が落ちる
えぇえええ!!!?????ウソだろーーー!!!!????
ちょっと待ってちょっと待って!?何この殺傷能力!?
果物ナイフ恐すぎなんだケド!?これこんな危険な武器だったの!?
「えっいや!ゴメンなさい!!ちょっと離してくれるほどの痛みを与えればいいと思ってただけで
こんな大事になるなんて思いもしなくて……」
魔王は痛みを感じてないかのようにやっぱり表情1つ変えずに落ちた片腕を拾っている
「当たり前の事です
貴方は勇者、どのような武器でも魔王の私にとったら…貴方からのダメージは大きい
貴方の言葉すらも私にとっては凶器にもなる……」
勇者?誰?俺のコト?
あっ…なんとなくだけど、表情は変わらないのに…声音も変わらないのに
魔王が少し悲しんでるような気がした
なんで…こんなコトわかるんだろ
魔王はちぎれた腕を俺に差し出してきた
「私は回復魔法が使えません
今の人間の私では自己回復もできない
なので、セリ…貴方が治してください」
「はっ!?俺は医者でもなんでもないぞ!?」
ちぎれた腕から滴る血から目を反らせない
俺にどうしろと……
「あの男を助けたいのでしょう
回復魔法が得意な貴方なら出来ますよ」
何言ってんだよ~…
生まれて23年間回復魔法なんて使ったコトねぇよ…マジで無理難題だろこれぇ……
俺のいた世界に魔法なんてなかったんだって
「難しい事はありません
貴方にとってそれは息をするのと同じ事
自然にかかる病気以外なら何でも治せますから、あの男の足の再生も呪いの解除も」
「で、でも…」
「早くしないとあの大親友とやらが死にますが?」
なんなんだよ
めっちゃ敵って感じなのに、急に味方みたいな感じになって……
でも…今はそんなコト考えてる場合じゃない
俺は魔王のちぎれた片腕を掴んだ
息をするのと同じ…それくらい簡単なコト
わからないケド、集中しろ
本当に俺が回復魔法を使えると言うならレイを助けられるのは俺しかいないんだ
何もできなくて足手まといだった俺が、はじめて役に立てる時じゃんか…
俺は目を閉じて、当たり前のコトを考えてみた
魔王の片腕はちぎれてなんていない
ちゃんと…繋がっている……
「あっ…できた」
目を開けると、魔王の腕は最初からそうだったかのように普通にくっついている
傷痕もない…
見てないからどうやって回復魔法を使ったのかわからないケド、でもなんとなくわかったような気がする
「上出来です」
魔王はくっついた腕を確かめるように動かす
「…今日はこれで帰ります」
「はい…サヨナラ……」
「また近いうちに貴方をさらいます
それまでサヨナラ…
私の名前は香月、覚えておいてください」
香月……なんだか知らないのに知ってるような名前
自分を香月と名乗った魔王は俺の頬を撫でると暗闇の森の中へと消えていった
それを見て、もう大丈夫だと思った俺はすぐにレイの元に駆け寄る
「大丈夫、レイ…まだ息がある
すぐに俺が治してやるからな!」
さっき香月にやったように俺は当たり前のコトのように回復魔法を使う
レイの痛みに耐える表情が少しずつ和らいで息も落ち着いてくる
レイのなくなった足はあっという間に元通りになった
呪いも消えてる
破れた服は治らないケド…
本当に、完璧だ綺麗に治ってる
こんな大怪我を一瞬で治す俺ってめっちゃスゴくねぇか?
ほらもっと褒めてくれてもいーんだぞ!!
「あっ!?セリッ大丈夫か!?」
足が元通りに治ると薄れていた意識をハッキリ戻したレイが飛び起き真っ先に俺を心配する
「なに寝ぼけてんだよ
それは俺の台詞だろ
もうレイ死ぬかと思ったし……本当、よかった…」
「セリが無事ならよかった」
ハハハとレイはいつもみたいに爽やかに笑うから俺も釣られて笑う
ホッとした本当に
さっきまでマジでレイが死ぬかもしれないって恐かったから…
俺ははじめてレイの役に立てた
この回復魔法があれば少しは足手まといじゃなくなるかも
でも、なんだったんだアイツは…変な人ってコトがわかったくらいだ
魔王みたいな奴と思ってたらそうだって言うし、信じられないが俺を勇者と呼ぶ香月は本当に本物の魔王なのか?
ってか…えっ?勇者?俺が??いやないでしょ!!!???
ハッ!?もしかしてこの左腕にある小さなアザが勇者の証だったりして……(関係ない)
香月の言う俺が勇者だから回復魔法が使えたって言うなら、本当によかった
運がよかったよ…俺が勇者じゃなかったら、レイは助からなかったかもしれないもん
本当に……
いきなり勇者とか言われても自覚ないケドさ!!
「さっきの男…普通じゃなかった…」
うん、色んな意味でな
さっきのコトを思い出すレイは爽やかな笑みを消し去って眉を寄せる
「あのままオレは殺されてセリがさらわれるんじゃないかって始めて恐怖を感じたよ…」
前の世界でモンスター1000匹に囲まれて殺されても恐怖を感じなかったレイがそんなに…なのか
「心配するな
さっきも大丈夫だったし
レイのコト、俺が殺させたりなんてしないよ」
何より俺にはこの殺傷能力の高すぎる果物ナイフがある!
見た目で騙されてた!!
これがあればどんな敵にでも勝てそうな気がするじゃん!!!
この時は勇者の力のせいじゃなく、完全にこの果物ナイフが伝説の武器みたいに祭り上げてたぜ俺
「違う…そうじゃない
あの瞬間、オレは過去に経験した事がないはずなのに
自分が殺されて大切な何かを連れ去られる感覚……恐くなる
また失ってしまうのかと…もう奪われるのは」
「…落ち着けレイ
急にあんなコトがあって心が不安定になってるんだ
夜も遅いし、もう休もう」
レイの不安と恐怖で押し潰されそうな様子に俺は休めとしか言えなかった
その想いは今のレイのコトじゃない
レイ自身もわかってない
俺にもわからないコトになんて言えばいいのかわからないから…
ただ、レイが少しでも安心してくれるなら…俺は手を貸すよ
「……すまない…オレらしくなかったな、ハハハ」
不安に歪ませていた表情は俺の手を掴むと戻っていく
レイにとって、俺の存在は笑顔にするくらい大きいみたいだ
香月の言ってたコトが頭の中を巡る
レイは聖女に恋をしたから…って、それの一心同体が勇者の俺だとか
香月が言ってたコトは少しもわからないコトばかりだった
いつか、全てがわかる日が来ると言うコトなのか
-続く-2015/03/17
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます