第21話『いつもひとりぼっちなんだから、いまさら寂しくない』セリカ編

私が高熱を出して倒れてから数日が経った

自然?と熱が引いて身体が少し元気を取り戻し起き上がれるようになる

「イングヴェィ…?」

ベッドの横にあるテーブルの上にイングヴェィに買ってもらったウサちゃんのぬいぐるみが置いてあったから私は思わずそれをぎゅっとしてしまう

ぬいぐるみの下にメモがあるコトにも気付いた

「何語…」

メモに書かれているのは英語みたいな文字だけどちょっと違う…

言葉は通じるケド、世界が違うから同じ言葉でも文字はそれぞれ違うのかもしれない

どうしよう困ったな…イングヴェィいないし……

とても寂しい気持ちになる…なんで……

「むっ?セリカ、目が覚めたのか

どうだ?体調は辛くないか?」

ノックなしで部屋に入ってきたのはイングヴェィのお兄さんのリジェウェィさん

私が眠っていると思ってノックしなかったんだろう

「起きれるくらいにはマシになりました…

あの、イングヴェィは…?」

「イングヴェィならお前を捜しに暫く城には戻らないぞ」

リジェウェィは私が持つメモを指差し

「やはり文字は読めないのだな

そのメモにイングヴェィの字でオレが言った事が書かれているのだ」

私が聞きたいコトの2つを一気に答えてくれた

「私を捜す…?」

「あぁ、お前を…と言っても勇者の方をだが」

何言ってるかまったくわかんないんだケド…

私を聖女と呼ぶ人もいれば勇者と呼ぶ人もいるの…それのコトかな?

でも、やっぱりわからないよ

まるで私がもう1人いるみたい…

「もうすぐ、ライがお前の洗濯物を取りに来る

今着ている服も新しいものに着替えて出すと良い」

「そ…うですね」

暫くイングヴェィがいない……

なんだか物凄く不安になるな

今までこんな不安になるコトなんてなかったのに

少しでも他人に心を開くと一気に弱くなるわ…

シッカリして私

世界は…私の敵なんだよ……

「…イングヴェィがいなくて寂しいのか?」

「いや、お腹空いたなって思ってただけです」

自分に暗示をかけるかのようにして冷静さを取り戻していく

支配してよ私は私を

1人でも平気だって…

弱い私は生きていけないんだから

「ほう、なら朝食の準備をするよう伝えておく

少しすればダイニングルームに行くといいぞ」

「はい、ありがとう」

私はパジャマから新しい服に着替える

後でライって人が洗濯物を取りに来るって聞いたから、来てからにしようかと待ってたケド

何日もほとんど眠っててあまり食べていない私は空腹に耐えられず、わかりやすい所に洗濯物を置いて部屋を出た


ダイニングルームがドコにあるのかは最初の頃にイングヴェィに案内されたからなんとなくわかる

高級ホテルのレストランかってくらい広くて綺麗でオシャレだった

食事もやっぱり高級ホテルのレストランで食べるようなくらい豪華で綺麗で美味しい

ほとんど洋食、私が来てからはたまに和食も取り入れてくれるようになって嬉しかったな

「あ~らぁ、セリカちゃん久しぶり~!

高熱を出して倒れったって心配したよ~

もう大丈夫なのん?」

ダイニングルームと繋がるキッチンから私に気付いた料理長のルルさんに明るく声をかけられる

彼女は人間で、料理長と言っても25歳と若い

誰にでも親しく付き合えてコミュ障の私から見るとスゴイ人の一言しかないわ!

料理への情熱は人一倍で、たまに幻のレシピを求めたり食材を自ら調達したり創作料理でスランプに陥ると出かけてほとんどこの城にいなかったりする

ってイングヴェィに聞いた

つい最近この城に人間がたくさん増えた時に仲間になったんじゃなくて、ルルさんとライさんはその少し前からいるんだって

「歩けるくらいにはマシになりました…

心配かけてゴメンなさい」

「少しでも元気になったならよかったわ~

謝らないで、身体が弱いからって気にしない!

あたしはセリカちゃんのメニューを考えて作るの1番好きよ

健康も美容も内側から、食事は大切

少しでもセリカちゃんの身体が元気に、元から綺麗な肌を保ちながらもっと美しく

そうして皆の事を考えて作って、喜んでもらえたら嬉しいのよ~」

ハイ、セリカちゃんの今日の朝ゴハンと言ってルルさんは私に食事を手渡してくれる

「わっパンケーキだ、ヤッタ~

美味しいからこれ好きぃ

ルルさんの料理はいつも美味しいから大好きだよ

私の為に作ってるって食べててわかるもん

いつも…ありがとう……」

ルルさんのコトだからこの可愛い盛り付けのパンケーキは普通のパンケーキじゃないハズ

好きな食べものを健康と美容に良いものにして作れるのもルルさんの得意技

よくあるめっちゃ身体に悪い色したお菓子とか私が食べたいと言えば、健康と美容に良いお菓子に変えて作ってくれるもん

「こちらこそ、いつも美味しく食べてくれてありがとねっ

新種の野菜の情報を手に入れて、また明日から暫くあたしはいなくなるけれど

弟子達にセリカちゃん用のレシピを渡しておくから毎日美味しいもの食べられるわ」

ルルさんは人見知りでコミュ障な私でもちゃんと会話してくれる

やっぱり誰かと会話なんて慣れないし、長く話せないケド

ルルさんは…私の知る人間と違って良い人……たぶん

そんなルルさんはまだ今日で2回しか会ってない

また明日からも暫くいなくなるの…ね

私は食事を受け取ると少しルルさんに笑って、空いてる席を探し始めた

高級ホテルのレストランみたいな所だけど、食事は自分で運んで好きな所に座るの

もちろん、食べたら食器を返すのも当たり前だもん

時間が時間だし、一気に仲間が増えたって言ってたから混んでるな…

あっ、あそこの席空いてる

私は4人組の人間の女性グループが座る6人テーブルに目が止まった

あの人達とはまだ喋ったコトないな…

仲良し同士でお喋りしながら食事か

ちょっと羨ましいな

ご飯食べる時っていつも1人だったもんね私

「あの…ここ、座っても…」

私が人間の女性達のテーブルに近付き声をかけようとすると、人間の女性達はピタリとお喋りを止めてまだ残っているお皿を持って席を立った

……あれ?

「行こ行こ~」

「あ~ぁ~さいっあく

食欲なくしたし~~」

「リン~よかったんじゃない?あんたダイエット中でしょーよ」

「食欲なくすのと制限は違うっしょ~!!」

「それもそーね、今度から外で食べよ

またうざいの来たら嫌じゃんね」

ガーン…

キャハハと私に聞こえるくらいの声で4人組はダイニングルームから出ていってしまい、私は6人用のテーブルに1人座るコトになってしまった

……あの人達…話したコトないのに、なんだか私のコト嫌いみたい

こういうの慣れてるからいいケド…

「……ウサちゃんと食べるから別にいいもん」

私はイングヴェィから買ってもらったウサちゃんぬいぐるみをテーブルの上に座らせ眺めた

…寂しくなんて…ないもん……

「まぁまぁセリカ様よ

体調はよくなったのかしら」

「心配したわ本当、もう起きても平気なの?」

「そう思うなら本人に直接聞けばよろしいのに、ほほほ」

1人静かに食べていれば、自然と周りの声が耳に入ってくる

この世界は不思議

人外からは私に憧れの眼差しが

「あたしらと同じ人間の癖にイングヴェィ様の恋人だとかなんとか

信じられないんですけどー」

「あのプラチナが簡単に心奪われるわけない

どんないやらしい手を使ったのかしらねぇ」

同じ人間からは妬みが

これはよくあるコトで、嫌われてるのだから私に好意で近付く人なんていない

「聖女様が現れるだけで皆興味津々だ

イングヴェィ様が紹介する前に出会っていれば、あの綺麗な人に声をかけずにいられまい」

人外は人間の感情に疎すぎるみたいで、人間が私のコトを話すのも興味津々とか言っちゃう

和むわ~そういう人外のピュアなのか天然なのかわからない所

人外達には嫌われていないってのはわかるケド、誰も私に声をかけようとしないわ

いつも離れた場所から私を褒めてくれる

私を好意的に見てくれる

それだけ

私から声をかけても少しすると「きゃーセリカ様に声をかけられちゃった」って喜んで逃げるんだもの

だから…好かれていようが嫌われていようが

私に友達なんて、できないのよ…

妬まれて嫌われるのが当たり前だったケド

好かれるのが現実になっても、簡単に友達なんてできないのだとわかった

寂しくなんてないわ

いつも1人だったのだから、それが私の当たり前なんだから…

「そうよね……」

私は小さく声を目の前のウサちゃんぬいぐるみにかけた

久しぶりの美味しい朝食のハズなのに、味もわからなければ食欲もなくただ食べるコトをするだけ


朝食を終えて、部屋に戻ると私のベッドで何か白い小さな丸いものが動いているのに気付く

「なんだろあれ…目の錯覚?」

不思議に思いながらもそのフワフワした白いものに近付くと、やっと正体がわかる

開いた窓から射す太陽の光に包まれていた両手に乗るくらい小さなその白いフワフワを持ち上げる

きっとその窓から入ってきたのね

「もしかして…ウサギさんじゃない!?」

お耳がピンと長くて、クルクルしたつぶらな赤い瞳、真っ白でフワフワな毛並みは私の大好きなウサギ以外の何物でもなかった

「本当に!?この世界では滅多に見かけるコトもできない超レアな動物ウサちゃんなの!?

う~可愛いよ可愛いな~~本当に可愛い」

大きさや毛並みから見てまだ子供のようなウサギに私は頬擦りする

ウサギの動物の匂いがするな

「オマエ、私に会いに来てくれたの?」

私はベッドに腰かけ膝の上に乗せて撫でてあげる

まぁ話し掛けても動物は人間語がわからないし、私も動物語がわからないか

でも、逃げようとしないでいてくれるから好かれてはいるんだよね…?

「私は動物の中で1番オマエが好きよ

ほら、可愛いでしょ?」

ウサぐるみ(イングヴェィに買ってもらったウサちゃんのぬいぐるみの略)を取り出して見せると、生きてるウサちゃんはウサぐるみに頭突きをかましては噛もうとする

嫉妬か……

「噛んじゃダメだよ

オマエの歯はとっても痛いんだからね」

このウサぐるみは私の大切なものなんだもん…

ふふふ、でもさっきまで気分は落ちてたケド、動物のウサちゃんに会えて嬉しい

開いた窓から白い小鳥が入ってきて私の肩に止まる

加えていた花が私の手元に落ちた

「あら、ありがとう」

小さなピンク色の花、私へのプレゼントかな

次に窓から入ってきたのはリスで、リスは頬袋に溜め込んだ餌を吐き出している

それを私にやると…?食べろと…?

「気持ちだけ受け取っておくね、嬉しいよ」

私は窓の外を覗き込むと、またたくさんの動物達が集まっていた

「今日も遊びに来たの?」

言葉は通じなくても、私はこうして動物達が会いに来てくれると嬉しくなる

そうして私は朝から昼まで動物達と過ごした


お腹が空いて来たからまたリビングルームへとやってくる

何も考えずに来てしまったら、ちょうど混雑する時間みたいでまた席が1つしか空いていない

朝と同じ場所だ

そこだけ不自然に6人も座れるのに空いてるなんて、もう私の定位置みたいになってるな

テーブルに近付くと花瓶が置かれているコトに気付く

お花…だけど、あのお花って仏壇とかお墓に飾ったりするのだよね……

すぐに意味はわかった

学校であるイジメの1つにイジメ対象の机の上に花瓶を置いて死者扱いするやつだ

えっ…マジか…これ

「わ~!お花だ~~~私、お花好き」

花瓶ごと持ち上げお花をまじまじと見る

その私の様子に周りがざわつき、あの人間の女性4人組が私に聞こえる声で舌打ちするの

「あれ何?花瓶の花の意味もわかってないの?」

わかっててワザとなんですけども

「馬鹿なんじゃない?見た目だけで中身は空っぽなんでしょー

それよりまだ気付かないの?」

そう聞こえてきて私は花瓶の底に水で張り付いてる紙に気付いた

紙を広げてみると

「あっ気付いた気付いた」

まぁ予想はしてたわ…

紙に書かれた内容は死ねとか消えろとかキモイとかなんとも幼稚なコト

「見て見てあの顔、時間止まっちゃったー?

ちょっと可愛いからって調子乗りすぎ」

ちょっと可愛いとか私思ってない

私は…めっちゃ可愛いし綺麗って思ってるもん

ってかさ

生温いんだよオマエら

こんなしょーもないコトで私が泣くかボケ!!

あの世界で生きてきた私を甘く見んなよ!?

…………………って、口に出しては言えない………

「左からナオ、マキ、リン

あんたら、あの女はこれくらいじゃダメージ低いよ

ちゃんと見な」

「サユキさん」

あっ左からって丁寧に自己紹介ありがとうございます

サユキって呼ばれたあの1番態度のデカい女がリーダー格っぽいね

私は紙を丸めて近くのゴミ箱に捨てて、テーブルに戻り昼食をはじめた

お昼ゴハン美味しいな~とか思いながら

そんな私を見た4人組は気に入らないと言う目で私は睨みつける

そう…コイツらが見たかった私は泣いて部屋に帰る姿でしょ

だから私が気に入らないのよ

こんなガキみたいなコトする奴らの思い通りになってたまるか

私に……恐いものなんて何もない………



-続く-2015/03/13

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