第20話『悪役になるのも愛なんだ…』イングヴェィ編
「ローズを送ってくれた方ですね
どうもありがとうございました」
老夫婦はローズを真ん中にして俺達に頭を下げた
あっ俺はそこで偶然会っただけなんだケド…
「ローズ姫の父上と母上でございりまするね
なんとも素敵な幼女…いえ娘様でござる
幼女の香りは甘ったるく危険で、プニッと触り心地の良い成長前の身体
12歳以上はもうババアでござると思いませぬか!?」
何か語り出した!?誰かこの人止めれる人いたらすぐ来て!!
「は、はぁ…」
老夫婦はロックの熱弁にポカンと口を開けている
「つまり!!娘様を拙者にくださいでござる!!」
あれ?さっき送りにきたとか言ってなかったっけ?
娘さんをくださいってご両親に挨拶しに来たの!?
めっちゃ犯罪なんだケド
20歳は離れてるんじゃないかな~…ロックの見た目年齢から数えて……
ローズが後10年経ったらおかしいコトでもないんだろうケド、今は絶対やめてお願いだから
ん~まぁ…ロックは純粋に子供が好きなだけで、ローズを気に入ってるだけで別に変な意味じゃないよね?……ね!?
この世界は男は18歳から女は16歳から成人だよ!!
男は18歳と女は16歳になれば結婚もお酒もOKなんだからね!!
「あっそうですか、わかりました」
ロックの少女愛の熱弁には口を開けていた老夫婦は娘よこせ発言で急に雰囲気が変わる
「こちらへどうぞ」
そう言われてロックと俺は老夫婦に部屋の奥へと案内された
「ママ達はこれからお兄さん達と大切なお話をするからローズは暫くお外で遊んでいてね」
「はいママ」
ローズ1人、会話の聞こえない外で待たせて
変だなとは思ったケド、ローズのママ大好きな顔を見ていると考えるのをやめた
「つまりは私共の娘ローズを買ってくれる為に来てくださったんですよね」
ニコニコと金の目をして俺達を見る老夫婦の言葉にこちら側がピシッと凍りつく空気を感じた
ん?なんて?よく聞こえなかったケド?
俺は微笑んで首を傾げる
「数日前に別の人買いがローズを80万で買っていきました
それがタダで帰ってくるなんて驚きましたよ
しかも、また別の人がローズを買ってくれるなんてありがたやありがたや」
ローズが両親と村から遠く離れた場所でロックに出会ったのはそれだったんだ
ロックが完全に凍りついてる
何か言わないと…
「えっと…人間はお金で買えないものだったような気がするよ?
俺はプラチナだから人間の常識がちょっとわからないんだケド、人間の売買は神が禁止していたような…」
人間は人間以外を売買するケドね…俺だって人間にとったら珍しい純血のプラチナ、高額な商品だよ
人間に捕まったりしないから俺を売買するなんてさせないだけでね
「神?
神が人間を守ると言うあの有名な都市伝説ですか?」
「えっ…」
注意深く見てみると、この老夫婦には信仰心がまったくない…?
今…気付いた……信仰心がなくて当たり前だ
この村には神の守りが届いてない
神の守る力の範囲よりも人間が多過ぎるんだ…
神に守られていても悪い人間はたくさんいるケド、神に守られていない人間は……どうなる……
「私共、夫婦は子を作っては必要としている人達に売って生きてきました」
「売られた子供が…その後、どうなるか知ってるの……?」
「知っています
それでも、私共は子を作り売りお金にする
それが私共の生き方です」
なんて……言えばいいのかわからなくなる
自分が感じる気持ちと老夫婦の感じ方や考え方の違いで、こんな人間もいるのかと何とも言えない気持ちになるよ
白虎の時と同じだ…どんどん人間への印象が悪くなる
俺が運悪いだけなのかも
「愛情はないの…?」
「愛情はあります
さっきから何を言ってるのかわからない
牛や豚を育てて売るのと同じ事では?」
隣で凍っていたロックが怒りの熱で身体を震えさせて椅子から立ち上がる
「黙って聞いていれば…お主らは人間の皮を被った化け物でござる!!」
「きゃー!?」
ロックは背中の剣を引き抜き老夫婦に斬りかかろうとする
「落ち着いてロック!!殺しちゃダメだよ!?」
俺はロックの剣を弾き老夫婦には傷1つなく無事な姿で、ただただ怯えるだけ
「何故でござるプラチナ殿!
拙者は今まで沢山の悪党を暗殺してきたでござるよ
今更こんなクズ親を殺した所で何も感じませぬ!」
「違うでしょ!ロックは何か大切なコトを忘れてる
俺だってこんな人間大嫌いだよ」
「貴重な幼女を80万で売買とは許せんでござる!!
拙者なら1000万で買うでござるよ!!!
幼女が売買されているともっと早くに知っていれば買い占めていたのに…くぅ」
怒った理由ってそこなの!?
しかも買う側になるって神に罰せられるよ!?
「幼女に価値がある事がわからない馬鹿共は死んで当然でござる!!」
「落ち着いてロックー!!」
止めてもロックの怒りの力の入れ方は強い少女愛でどんどん増す
「ショタには興味ないでござるが、ショタもロリも銭では買えぬほどの価値があるでござる」
なんだ…ロック、ちゃんとわかってるじゃん
人間はお金で買えないってコト
人間には絶望続きだから少し見直しちゃった
やっぱり良い人間もいる…
「12歳以上のババア?タダでもいらぬな」
………1秒前の感動返せよ
セリカちゃん23歳だもん!セリカちゃんのコトをババアだなんて怒るよ!!
「ロック、ローズは何も知らなくて両親のコトが大好きなんだよ
その大好きな両親を殺したらロックは嫌われちゃうんだよ?」
「真実を話せば…」
「真実を知って何になるの?
大好きな人のこんな真実を知って傷付くのはローズだけだよ
殺しても真実を教えても、どっちにしても傷付くのはローズなんだよ…」
「………プラチナ殿…それでは拙者はどうすれば…」
ロックは俺の言葉に力を抜けとりあえず剣を下ろした
「ん~そうだな~」
何も考えてなかった
「俺なら…さらうかな
殺さないし真実も教えないで、さらうよ
その時は嫌われるだろうケド、いつかはさらわれてよかったと思わせる」
もし、セリカちゃんがローズと同じ状況だったらと考えると自然と答えが出てくる
さらって、それからいつか自分を好きになってもらえるように頑張るよ!!
貴方にさらわれてよかったって笑ってくれるように
俺は自信満々に笑顔で答えたら、ロックは理解不能と言う顔をする
「真実も知らないで大好きな両親から引き離されて、いつかそれでよかったと思わせるとな
そんな都合良い事…そのポジティブすぎる考え方は人間ではござらんな
やはりプラチナ殿でござる」
「え~?そうかな~?セリカちゃんなら絶対言ってくれるよ~?」
妄想の中でなら…
俺は自信満々だもん!!
「それはレイ殿から彼女を略奪するとの宣言でござるか!?」
ロックの中でセリくんとセリカちゃんの区別がつかないみたい
セリくんがレイくんの彼女ってのも何か勘違いしてるんだろうな…
「……半分わかったでござるよ」
ロックは少し考えた様子を見せた後、お金の入った袋を老夫婦の目の前に投げ捨てた
「1000万はあるでござる
これはローズ姫を買う意味の銭でない
結納金でござるよ
ローズ姫は二度と実家には返さないでござるが!!」
ロックは何かが吹っ切れたのと覚悟となんかカッコイイポーズを決めて笑った
結納金ってのが引っ掛かるケド…2人の結婚は10年後でお願いします本当に
「は…はい……」
老夫婦は完全にビビッてしまって腰を抜かしそこから動けない
俺達は老夫婦の家から出ると外で待っていたローズに迎えられる
「パパとママと何をお話していたの?」
「拙者がローズ姫をさらう話でござる
…もうここには二度と返さぬ」
ニコニコ笑顔だったローズの表情はロックの言葉で一瞬で悲しいものに変わる
「…どうしてそんな意地悪を言うの?
イングヴェィさん、ロックが変だわ
私を大好きなパパとママから引き離すような悪い人ではなかったのよ」
目を見て話さないロックにローズは俺に助けるように視線を移してきた
「えぇ~プラチナ殿はイングヴェィって名だったでござるか
拙者知らなかったでござるよ~」
小声でなんか言われた
気になっても今確認する空気じゃないよね!?
「さっきロックが警官に追われてる時に自己紹介したんだよ」
小声で返した
「ローズ…ロックは……」
俺の何もできないって表情に感づいたローズは2人とも信用ならないと後退りする
「そんな…いや…パパ…ママ……いやよ」
ロックは逃げようとするローズを捕まえて片腕で抱き上げる
まるで人形のように小さな恋を知らない幼い少女…愛は両親だけのもの
この年齢で両親から引き離されるほど寂しいコトはないのかもしれない
「ロック…嘘よね
嘘って言って、お願い
私…ロックを嫌いになりたくないわ」
「拙者は嫌われてもさらうでござるよ……」
「酷いわ……ロックなんて…大嫌いよ……」
溜めに溜めていた涙が大きな瞳から流れ落ちる
俺がアドバイスしたコトだけど、ローズの大嫌いの言葉はどんなにロックの心に傷を付けたのか
見ていた俺も痛みが伝わるくらい
この痛みよりも何倍も何百倍も苦しいハズだよね……
何も知らずに両親から引き離すのも、それはそれで別の形でローズを傷付けてしまった……な
ロックはローズに1つの眠り飴玉を口に入れる
少しするとローズは涙を流しながら眠りに入ってしまった
「ロック…俺がアドバイスしたコトだけど、これで本当によかったのかわからなくなっちゃったよ
ゴメ…」
「何故謝るのでござるイングヴェィ殿?
拙者はこれでよかったと思うござるよ
ローズ姫の大好きな両親の真実を告げて傷付けるより、拙者自身がローズ姫の悪者になって傷付ける方がずっとマシでござる……」
「ロックだって辛いのに…もっと良い方法があったかもしれないし」
「人間はプラチナが思ってるような存在ではござらん
あの両親がローズ姫を拙者達が思うように大切にできるはずがないでござる
さっきの自信満々なイングヴェィ殿は何処へ?
いつかさらわれてよかったと言わせると言ったでござるよ
拙者もそうしてみるでござる
いつかローズ姫にまた笑ってもらえるように…」
「………うん、頑張ってロック
その愛はいつかきっとローズに届くから」
ロックはふっと笑い頷くと眠ったローズを抱いたまま村の出入口に足を向ける
「さぁて、イングヴェィ殿のレイ殿から彼女略奪に行くでござろうか」
「別に略奪したいワケじゃないよ
保護だよ保護ね
魔王が狙ってるんだもん
「なんと!?
レイ殿と言う彼氏がいて、伝説上のプラチナまでたぶらかした上に魔族の王まで虜とは…ビッチすぎるでござるぅ!!」
どうしよう…俺が喋る度にどんどんセリくんのイメージを悪くしていってる気が……
でもだいたい合ってるのが何も言えない
俺はセリカちゃんの恋人だし(未来の予定でまだ今は片想い)レイくんはセリカちゃんが好きだし香月くんはセリくんが好き
3人とも好きであるコトに間違いはなかった
そう考えると本当にセリくんとセリカちゃんの人間はスゴイのかも
勇者と聖女…たった1人の人間が、得ている愛はどれも世界を大きく左右するくらいの存在なんだ
セリくんとセリカちゃんこの人間1人で世界がいくらでも変わる……
「あれ?イングヴェィ様、まだこの村にいたんですか?てっきりもう出発したのかと思いました」
村を出る時、後ろにいたタラタが俺に気付いて駆け寄ってきた
「タラタ…包帯は?」
昨日会った時は瀕死の状態で包帯男だったのに、今は全身の包帯がなくなって元気な姿だ
「今から本気出そうかなって思って」
気合い出せば一瞬に治る自己回復力持ってたなんて知らなかったよ!!?
「つまり、サボッてたってコトだね」
一瞬で治るなら連絡も寄越せたハズだよね…
俺がジトーと指摘するとタラタはハッとして汗だくになり目を泳がせまくって止めた先で
「か~わ~~いいーー!!僕、子供って大好きだなぁ~」
話題反らしの為にローズをすぐ可愛いと言う女子みたいなノリで褒めた
「同士でござったか!?」
「いや僕はロリコンじゃないです」
すぐに素に戻ってるケド
「申し訳ありませぇええん!!!
人間に負けた事がショックでショックでたまらなかったんですぅ!!」
村から暫く歩いた所でタラタがずっと謝っているから、俺はあっと気付いた
「そうだロック、ローズを俺の目的に一緒に連れて行くのは可哀相だから
タラタと一緒に俺の城に戻って休んでてよ
行く所がないなら暫くいてもいいしね
タラタ、2人をちゃんと連れて帰れたら今回のコトは許してあげる」
「本当でございますか!?」
「って言うより、俺は最初から怒ってないよ」
セリくんのコトを忘れてたのは俺だもん…
俺は俺が1番許せないんだよ
タラタはパア~!って言葉も出ないくらい明るい顔になって、わかりましたと頷く
「イングヴェィ殿の城にお世話になっても良いのでござるか?
しかし、イングヴェィ殿にレイ殿達とはぐれた場所まで案内せねば」
「地図のこの辺って教えてくれれば、後は俺1人で大丈夫だよ」
俺が地図を取り出すと、ロックは腕の中で眠るローズが微かに動くのを感じローズをタラタに押し付けた
タラタは???と渡されるままにローズを抱っこしている
するとローズは目を覚まし、ロックを見た
「筒に水を入れてくるでござる
水分補給は大事でござるからな」
今はローズと顔を合わせるのが気まずいロックはそう言って少し離れた川へと走った
「あっ僕も水筒空だった
イングヴェィ様、この子見ててください」
ローズを地面に下ろしタラタも川へと走る
「ロック……」
気まずさを感じたローズはロックの背中を見つめるだけで、もう泣いてはいなかった
思い出してる様子はあるケド、強い子でやっぱり泣きはしない
「……イングヴェィさん、私はこれからどうすれば
ロックを恨まずにはいられないの」
俺はしゃがみ込みローズと視線を合わせる高さになる
でも、ローズは俯いて前髪で隠した顔を見せない
「ロックはローズのコトが大好きなんだよ
…いつか、大人になったらきっとロックの気持ちがわかるよ」
「そう、かしら…
大好きなパパとママから引き離された私はどうしたらロックの気持ちがわかるの……」
俺とローズの間に一輪の小さな名前もない花を持つ手が伸びる
俺はその意味に気付いて静かに2人から離れた
川に水を汲みに行ったロックはローズの為に花を摘んできたの
今できるロックの精一杯の励ましと愛の証
お互いに言葉もなく、ローズはロックの手にする花を見つめた後
手を伸ばして花を掴み受け取る
「大人になったら…何が変わるのかしら……」
ロックから小さな花を受け取ったローズは、その好意も想いも強く感じていた
ロックは自分を好いているのだと子供ながらにわかっていたローズは複雑な想いを俯いた表情に乗せる
たくさんの涙と笑顔を…
いつかさらわれてよかったと言ってしまうかもしれないと自分の小さな想いに触れたみたいだった
-続く-2015/03/08
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