第19話『忍者のお届けもの』イングヴェィ編

高熱で倒れたセリカちゃんを部屋に運んでお医者さんに診てもらったケド

どんなお医者さんも首を横に振ってしまう

「どうして!?セリカちゃんのコト治せないの!?」

「特殊な病とかではなくよくある疲労から来る高熱なのですが、どのような薬も魔法も効きません

このような事は始めてで私共も驚くばかりです」

お医者さん達も不思議と言っては困り果てている

セリカちゃんは元々身体の弱い人だ

それだけじゃない

セリカちゃんにはセリくんって一心同体の存在がいる

2人は文字通りの一心同体

2人で1人なんだよね

セリカちゃんが感じるコトはセリくんも感じる

セリくんが怪我をすればセリカちゃんにも同じ場所にその怪我が現れる

セリくんはセリカちゃんでセリカちゃんはセリくんなの

天は1人しか人間を作らなかった

それがセリくんとセリカちゃん、勇者と聖女

それぞれ別々の世界に存在して、この世界で始めて1人が同じ世界に存在する

2つの意識と身体があるケド、心も身体も運命も共有した同じ存在なんだよ

言葉じゃ難しいケド…

つまり、セリカちゃんに何をしても治らないってコトはこの高熱はセリくんから来るもの

セリくんの高熱が治まらない限りセリカちゃんが落ち着くコトもな………………………

ハッ!?ヤバイ!!どうしよう!!???

今気付いちゃったよセリくんのコト!!!

俺ってバカじゃん!セリカちゃんのコトで浮かれてて嬉しくてセリくんのコトをスッカリ忘れていたなんて……

セレンさんとの約束が…

セリくんが死ねばセリカちゃんも死んじゃう

あれから何日経った?ううん何日でも関係ない

すぐに見つけに行かなきゃ!!

「ちょっとまた出かけてくるね!

リジェウェィ、セリカちゃんのコト暫く見てて~~~!!」

俺は全力で部屋を飛び出す

1分1秒を争うよ!?

「おいイングヴェィ…

あいつの足は速いな

行ってしまったか

セリの事ならイングヴェィはすっかり忘れていると思っていたが

仲間の何人かに捜索をさせていても何の連絡もない……

そろそろ自ら探しに行ってみようかと考えていたのだが」



さ、さすがに1日全力で走るとプラチナの俺でも死にそうな思いをするよ……

気持ちばかりが先走っては、この限界が辛い

馬を使うより俺が走るほうが速いし、馬に無理をさせられないもんね

疲れから来る高熱だってお医者さん達は行っていたから何日か休めば自然に治るから大丈夫だとは思うケド、やっぱり心配でならない

空腹もセリカちゃんが食べればセリくんも満たされるから餓死の心配もない

そして…ラッキーなコトに数日生きているのは誰か強い人が一緒に同行してくれてるんだと考える

だけど、それがいつまで大丈夫なのかはわからないよ

香月くんもセリくんに会いたがっていたからもう見つけたかな?

セレンさんに協力しているから香月くんより先にセリくんを見つけたい所だけど

「ちょっと休もう

疲れたまま走ってもスピードが落ちるだけだ」

小さな村につき宿を取る

すると、借りた部屋に続く廊下で包帯男とすれ違う

「イングヴェィ様!?何故このような所に!?」

「えっ誰!?」

「私ですよ私」

包帯男の声からして…もしかして仲間のタラタ?

「リジェウェィ様から勇者様の捜索を任されていたんですけれど」

俺がセリカちゃんに浮かれて忘れてたのを黙って見守ってくれて裏でちゃんとしてくれてたリジェウェィに感動

本当にゴメンって感じ……

「見つけて連れて帰ろうとしたら、一緒にいた男にやられてしまいました」

「タラタ…想像だけど強引に連れて行こうとしたんじゃ……」

「おら来い!っていきなり強く引っ張ったのが駄目だったんですかね」

「拉致だよそれ!?そんな言動じゃ警戒されて当たり前だよ」

「人間相手に下手に出たら負けかなと思って」

「半殺しだよねその包帯」

タラタは勇者発見報告しようにもこの大怪我とこの小さな村には伝言する術がなかったと言う

他に何人か捜索に向かってるケド、何も報告なんてなかったな

「一緒にいた男ってどんな人だった?」

「金髪で蒼瞳の爽やかなイケメンでしたよ

人間のくせにとてつもなく強かったです」

金髪の蒼瞳…もしかして…いや、金髪で蒼瞳の人なんてたくさんいるし……

「勇者様がその人の事をレイって呼んでました」

「レイ!?やっぱりレイくんなんだね……」

レイくんはセリカちゃんの前世で聖女の騎士をやってた人だ

そして、レイくんはセリカちゃんのコトが好きだった……

セリカちゃんだけに関わりがあったワケじゃない

聖女の騎士をやる前の前世で勇者のセリくんと同じ世界で先に関わりがあった

セリカちゃんを好きだったレイくんがいくら記憶がなくなり生まれ変わった人間だとしても好きな女の子と一心同体のセリくんを守るのは魂からして当然なコトなのかもしれない…

俺は存在は知ってるだけでセリくんとは関わりがなかった

レイくんはセリくんともセリカちゃんとも関わりがある…

これも運命なのか……

「レイくんは人間にしてはとっても強い

タラタが無事なのはラッキーだったよ」

「ひぇ~恐ろしや~~」

「情報ありがとう

俺は少し休んで体力を回復したら、セリくんを捜すから

タラタは傷が治ったらもう城戻っていいからね」

「イェッサー!!」

タラタと廊下で別れ俺は借りた部屋で休みを取る

でも気持ちがまったく休まらない

レイくんが一緒ならセリくんは大丈夫って安心はある

命を懸けてでも守り抜くハズだもん

心配なのはレイくんがセリカちゃんとまた出会ってしまったら……

香月くんもセリくんを捜してる

もし俺より先に見つけてレイくんが守ろうとしたら

香月くんなら…レイくんを殺せる…よね……

「何…バカなコトを考えてるの俺は」

恋のライバルがいなくなればいいなんて…

心を沈めて今は眠らないと、体力を回復してセリくんを捜さなきゃ……



いつの間にか眠っていて起きると体力はちゃんと回復している

これで今日も1日ちゃんと走れそうだね

さてと、準備もしたしと村を出ようとした時

忍者っぽい男と幼い少女の不思議な組み合わせが村に入ってくる

見た目からして兄妹でもなさそうだし、少女がイヤがってるワケじゃないから誘拐でもなさそう…

「あっ!待って2人とも!?」

すれ違うと微かにセリカちゃんの匂いを感じて、もしかしてセリくんの知り合いかもしれないと呼び止める

「ほぉ、これは伝説上の生き物とされるプラチナではござらんか

幻想巻物で見た事があるでござる」

「プラチナ?有名な人?」

忍者のほうはプラチナを知っているみたいで俺を珍しげに見るケド、少女のほうは知らないみたいで首を傾げている

「拙者達に何か用でござるか?」

「えっと、黒髪で色が白くて肌が綺麗でこれくらいの背丈の人間離れしたようなめちゃくちゃ綺麗な人間に会わなかったかな?」

人間で黒髪はとても珍しい

セリくんとセリカちゃんの顔立ちは天が創ったものだから神が創った人間達と少し違う

「黒髪の…もしかしてレイ殿の彼女の事でござろうか?」

レイくんの名前が出てきて俺の内心は穏やかじゃなかった

えっ彼女って何…

「セリくんの事かしら?

お兄ちゃんはセリくんのお友達?

それなら大変なのよ

レイさんとセリくんはモンスターに襲われて、私達と離れ離れになってしまったの

ロックはレイさんがいるから絶対大丈夫と言うのだけれど、私は心配だわ…」

ロックってこの忍者の人の事か

レイくんがいれば絶対大丈夫ってのは信じられる

「ローズ姫はそんな心配しなくてもよいでござる

言ったでござろう

ローズ姫を父上と母上に送り届けたら2人を捜しに行くと」

レイくんの他にも仲間がいたんだね

このロックって忍者もレイくんに劣らないくらい強いってわかる

それから、ロックはこのローズって少女に物凄い愛を感じるな…

「プラチナ殿

レイ殿の彼女の知り合いで捜しているなら少し待って頂けないでござろうか

目的が似ているなら同行した方が良かろう」

「それはとっても助かるよ!俺からお願いしたいくらいだもん」

ロックなら何処ではぐれたか知ってるもん

やみくもに捜すよりはぐれた近くを中心に捜せば見つけやすいよね!

もう少し待っててねセリカちゃん

ちゃんとセリくんを連れ帰るから

「はぁ…レイ殿の彼女はあの容姿でプラチナ殿もたぶらかしていたとは」

「えっ?たぶらかされてないよ!?

セリくんはセリカちゃんだから特別なだけだよ」

「とんだ胸なしビッチでござる

レイ殿もプラチナ殿も胸なし女子の何が良いのやら」

それセリカちゃんが聞いたら怒ると思うな~…

セリカちゃんは胸がないんじゃなくてちょっと物足りないだけだよ!?本当ちょっとだけね!?

「リア充もイケメンも爆発しろ」

ロックからスゴイ妬みの感情を強く感じる…

ロックだって見た目は普通にイケメンだと思うケドな

とロックの容姿を改めて見て、次に瞬きをすると目の前に太った男に変わる

そういう体質…民族かな?

「おっと、暫く何事もなく歩くだけだったから身体が鈍ってしまったでござる」

鈍ったの!?

イケメンボイスだったのに声も野太く聞きづらくなってるよ!?

忍術とかじゃないんだね…

「イケメンが憎いでござる!!彼女がいるイケメンはもっと憎いでござるよ!!

女子は全員ビッチ!!」

えぇ~~~!!?妬みの強さも増してる!?

「あらロック、それなら私も10年ほどすると貴方にビッチと呼ばれてしまうのね」

ロックの豹変振りに慣れているローズはクスクスと笑っている

「ふぅふぅ…ローズ姫は永遠にこの姿でござるよデュフフフ」

ど、どうしよう…

ロックの荒い息遣いと微妙な距離からのローズを覗き込むような姿勢、触りたいケドまだ触れないもどかしさのヤバイ手の動き

誰がどう見ても少女を襲おうとする不審者だよ…

止めたほうがいいような気がするくらい不審者

「おまわりさん!あの人です!!」

村人に通報されてるよ!!???

「そこの不審者ー!!今すぐ幼女から離れなさーい!!」

この小さな村に警察いたんだ…

ロックは警察に追い掛けられて走り出しすぐに見えなくなる

「忍者だからなのかな

あの体格なのに結構足速いね」

「そうね」

そしてロックは村を一周して戻ってきた

全力で走ったからなのかまたスリムなイケメンの姿に戻って…

「プラチナ殿、ローズ姫行くでござるよ」

「逃げ足の速い不審者め何処へ行った」

すぐ近くで警官が必死に捜しているケド、きっとこの村であの不審者はもう見つからない

ローズのパパママはこの村にいると言う

ロックはこの村から遠く離れた旅の途中でローズと出会い、パパママの所まで送ると約束してここまで来たみたい

「やっと大好きなパパとママに会えるわ

私の家はあの丘の上よ」

ローズは嬉しそうに村の端にある小さな家を指差す

「小さくてぼろいから豚小屋かと思ったでござる」

「ちょっとロック!?」

失礼なコトを言うロックを小突く

色んな町や村を見てきて、色んな人達の暮らしを見てきた

この世界も貧富の差が激しいんだなと思ったけれど、ローズの家はとても貧しいほうに見える…

ロックが思わず口に出すほど貧しさの俺の想像を超えていた

複雑な気持ちになるな…

ローズが自分の家を開けると驚いた老夫婦の姿が目に入る

「ろ…ローズ!?まさか帰ってくるなん……」

ローズの後ろに俺とロックがいるのを確認した老夫婦は驚きの表情から優しい笑顔に変えてローズを迎える

「ああ!ローズよく帰ってきてくれたね!!とても心配したのよ」

「わしらの可愛い1人娘がいなくなってから生きた心地がしなかったわい

おぉローズ…わしらの可愛い娘」

「ローズ姫の父上と母上?ジジババじゃ」

「もうロックってば!!」

俺はロックを突き飛ばして黙らせる

遅くに子供が出来るってコトもあるでしょ!と言い聞かせて

ロックってズバズバ言う人だな

でも、なんだかロックは何かを疑うような感じでこの老夫婦を見ている気がする

旅の途中で出会ったとしか聞いてないケド、どうして少女が遠く離れた場所にパパとママと一緒じゃなかったんだろう?



-続く-2015/03/08

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