第18話『マジ!?温泉回だって!?…まぁ…現実はそうだよな』セリ編

誰かが俺の名前を呼ぶ声が遠くから聞こえる

それが近付いてくると俺の意識はハッキリしてきて、自分が少しの間だけでも意識を失っていたとわかった

「セリ…よかった気が付いたか」

「…ここは」

目が覚めた景色は固い土の壁に囲まれていて、腐敗した何かや生物の骨もたくさん転がっている

全身は泥水に塗れて超不快な気分、口の中までも泥の味がするな

思い出した

レイと俺はモンスターの巣に落とされたんだ

流れの速い泥水でモンスターの食糧庫まで運ばれてきたってトコだな

さてと…どうやってココから逃げれば

「ここから出る

セリはオレの背に掴まっていてくれ」

レイは俺の前で背中を向けてしゃがみ込む

俺が気を失ってる少しの間にレイはちゃっちゃっと逃げ道(レイの強力な矢で天井に穴を開けて外の光が漏れている)を作っていたみたいだ

「えっ!?」

「心配するな

モンスターは倒した」

レイに言われて見ると、土の壁だと思ってた一部分に矢が刺さってすでに生き絶えているモンスターの顔があった

恐すぎてドン引き……

「倒す逃げるまでがピンチになってからめっちゃ早いんですケド!?

これからどうする?どうなる!?ってよくある展開じゃなかったの!?」

「泥水で汚れたから早く風呂に入りたいってセリが言うかなって」

「それだ!!今めっちゃ風呂に入りたい!!」

俺はよくある展開でこの泥だらけの身体でいるより今すぐお風呂に入りたい

素直にレイにおんぶしてもらって、巣からはい上がった

「ロックとローズとはぐれちまったな」

「結構流されたみたいだ

ロックなら大丈夫だろうが、何処かで2人と合流できるといいな」

「うん………ん?」

今自分達がドコにいるのか確認するヒマもなく、俺は自分に被る大きな影に気付き見上げる

そこには3mはあるアンゴラウサギみたいな魔物が俺を見下ろしていた

えっ何コイツ……

数秒、見つめ合った後にアンゴラウサギは俺を丸呑みにする

「うわぁ!?」

「敵意を感じなかったから油断した…

っなんて足の速い魔物なんだ……」

俺を丸呑みにするとレイが追いつけないくらいの物凄いスピードでアンゴラウサギは俺を連れ去った

丸呑みされて超スピードで走り揺れるアンゴラウサギの腹の中はめっちゃ酔う…気持ち悪い……

次から次へとちょっと休憩させて!?来るなら休憩してからで!?


暫くすると俺はアンゴラウサギの腹の中から解放される

吐き出された俺が目にしたのはドコかの洞窟の中で、綺麗な宝石やキラキラ光る金貨や銀貨、可愛いぬいぐるみがたくさんある所だった

アンゴラウサギの俺を見下ろす顔は満足そうだな

「これはもしかして…俺はオマエの宝物の1つにされたのか?」

宝石を拾いあげ、アンゴラウサギから見たら俺はこれと同じもんかと複雑な気分になる

「オマエに敵意がないからあんまりキツく言いたくねぇケド

俺はオマエの宝物にはなれないぞ

ここにある宝石やぬいぐるみのように黙って動かない物とは違う……」

綺麗な宝石…俺がたまたま拾いあげた紅く自ら光る美しい物を見ると

ふと、前の世界でのコトを思い出す

俺は黙ってないし動きもする…人間だ

でも、アイツにとっては俺を恋人と言うよりは物としか見ていなかった

アイツにとって俺は1番の宝物

決して人間としてじゃない…ただの物

そんなコト気付いてたし知ってたし

それでもいいと思ってたよ

ほしいものは何でも買ってくれるし俺がピンチなら助けてくれるし、愛してもくれた…

最初はあんな奴めっちゃ嫌いだったケドな

でも、いつの間にか好きになってた

今も好き…殺された今でも好きだ…

もし、アイツが俺を人間として愛していたら

俺はダメだったかもしれない

あの世界で信じるとか恋も愛もないのだから

疑って疑って疑って、しんどいだけ

だから物として俺を扱い愛してくれたアイツはスゲー気楽だったよ

浮気しまくりなのは嫉妬したケド……

もう…殺された時点で永遠の別れなんだケド…な

でも、会いたい…

また俺のコトを愛してくれるならって思うもん……

「…………………。」

紅い宝石を手の中に握ってみると指の隙間から微かに輝きがこぼれ落ちる

俺の何かを察したアンゴラウサギはそのモフモフの身体を優しく俺に擦り寄せてくれた

「良い奴だなオマエ

魔物って、オマエみたいに俺に懐いてくれるタイプと攻撃してくるタイプがいるケド

なんでなんだ?

人間と同じで良い奴もいれば悪い奴もいるってコトか」

言葉はわからなくても魔物が自分に好意的かそうでないか言いたいコトもなんとなくわかる

……ちょっと疲れたな…頭がぼーっとする

慣れない旅続きだもん…

「やっと見つけた」

眠くなってきた所でレイが助けにきてくれたみたいだ

「レイ…また助けに来てもらって、申し訳ないな」

ピンチじゃないケド、レイはいつも助けてくれる

こんな所まで…本当レイって

「騎士っぽいな

俺が女だったらレイに惚れてるぞ」

「それはどうも」

アンゴラウサギはレイを見ると敵意を剥き出しにして俺を背中に隠す

「やめとけ

魔物は無謀な奴が多いな本当」

俺が自分からレイの元へ行くとアンゴラウサギはわかってくれたのか

洞窟から俺が出て行くのを見えなくなるまでずっと眺めていた

「なんか心が引っ張られる気分…」

「いくら魔物がセリに懐いていたとしても、魔物と人間が共存する事は不可能だ

魔物と人間は敵同士

あの魔物も人間を殺すだろう」

「うん…

俺が何を言ってもレイに対しての敵意は揺るがなかった

最初に会ったスライム達も……」

敵が俺には懐いてるからこそ悩む

と言ってもちょっと強い魔物になると襲ってくるケドさ

「あぁそうだ、セリにこれを渡しておく」

渡されたのはレイがいつも果物を切るナイフだった

そのまま果物ナイフ

俺にリンゴの皮でも向けと言うのか

「何かあった時に武器は持っておいた方がいい」

果物ナイフで怪物に勝てる気がまったくしねぇ…

「ってそういう台詞は口にするなよな

それめっちゃフラグじゃん

この先、絶対なんかあるだろ」

「気持ちの問題だ

そんなナイフでは何にもならないさ

オレがセリを守るから、そのナイフを使う事はないかもな」

ハハハと爽やかに笑うレイに貰ったナイフが自分の指すら切れないように見えてきた

「レイ…弱い俺を守ってくれるのはありがたいよ

レイがいなかったら1日目で死んでたかもしれない

でも、たまに無理してないか?って思うんだ

こんな会ったばっかで、しかも男を守るなんて」

「そうだな

確かに、何故オレはセリを守っているのかわからない

考えた事もない

オレは前の世界で1人で旅をしていた

色んな人に会い、仲間の誘いもあったさ

しかし、オレは誰かと共にいた事はないんだ」

あっ仲間…俺も友達いなかったんだ!!

急にめっちゃ親近感が湧いた

「男も女も、誰かと一緒に旅をする事を考える余裕がないほどに

わからない何かを探す事で頭も心もいっぱいだった」

「だから彼女とか作らなかったのか

今はどうして…?わからない何かはもうどうでもいいのか?」

「セリを一目見た時、わからない何かが半分わかった気がしたんだ

ずっと見つからずに余裕のなかった心が軽くなって

この人と一緒にいればいつかわかる気がする

命を懸けても守らないといけないって思ったのさ」

レイの曇りのないまっすぐな爽やかな笑みは俺の言葉を失わせた

きっとレイのわからない何かは前世かなんかで強い繋がりがあった恋人じゃないのかなと思うほどに

その想いは強いと感じる

たぶん俺はその人に似てるとかなんだろう

いや…前世だったらその相手が俺だったのかも知れないぞ

俺の前世は女とか想像できないな

こんな誰かの為に命を懸ける男なんて見たコトないな…

自分には持ってない男と言うものを持ってる嫉妬さか羨ましさか

「レイのコトはわかった

でも、俺はレイが探してる何かじゃない

だから命懸けなくていいんだよ

本当にヤバイ時は俺を見捨てていいからな」

俺の為に死なれるなんてゴメンだ

「レイは友達なんだから、親友なんだから…大親友に……してやってもいい……」

あれ、友達なんていなかったからなんかツンデレみたいになったし!!?

大親友に命懸けて死なれたらイヤだよ

「セリ嬉しいよ

でも、オレはどんな状況になってもセリを見捨てたりしないから

必ず…守ってみせる」

「そういう台詞は好きな女の子に言え!!」

根っからの騎士タイプだなレイは

レイのわからない何か、それが女だったらめっちゃ見てみたいわ

「そんなコトより俺は温泉に行きたい!」

さっきからチラチラ視界に入ってた気になる『この先、温泉あります!』の看板

長旅で、いつも冷たい川や湖とかで身体を洗っていた

しかし!今!やっとあったかいお湯に入れると思うと……涙が出てくる

泥塗れからのアンゴラウサギの唾液塗れな俺の頭は風呂に入りたいが99%占めてる

正直さっきのレイとの会話も99%風呂入りたいって思ってた

「温泉か、久しぶりだな」

「混浴か!?」

「さぁ…こんな所に女性がいるとは思えないが」

「レイ…温泉だぞ?絶対女の子いるって

いや、いなきゃダメなんだよ!?

よく考えろ!男2人の温泉シーンなんて誰得だ!?

サービス回だよ今から!!」

「期待しないほうがよくないかい?…現実はそんなに甘くないぞ」

奇跡ってこれから起こるものだって俺は信じてるぜ

確かに現実に混浴なんて期待できない

でも、世界が変われば混浴も変わる!よな!?

そんなこんなで楽しみにしながら温泉へとやってきた


「まぁ現実なんてこんなもんだよな…」

レイの言う通り、こんな所にある温泉には俺達以外に誰もいなかった

誰だよ混浴、女の裸がなんたらとか期待させた奴

………俺だよ

「足元滑りやすいから気をつけるんだぞ」

「親かオマエは!小学生か俺は!」

温泉は底が見えないくらい白い色をしている

疲労回復はもちろん美肌効果もあるらしい

確かに、温泉に浸かると肌が少し変わってスベスベする即効効果がある

「温泉最高だな~」

熱くもなくぬるくもなく調度良い温度だ

幸せ……あっ

「あっち洞窟見たくなってんじゃん、面白そう!!」

洞窟風呂ってなんかワクワクするよなって見つけた俺は1人で行ってみる

「おい、危ないぞ

何かいるかもしれないんだ」

「平気平気………」

じゃなかった

ちゃんとレイの言うコト聞いておけばよかった

洞窟に入ると変なおっさんがいた

おっさんは俺が現れたコトに驚いたが、すぐにイヤな顔で笑う

コイツ…ヤバイ奴や……すぐにわかる

俺は前の世界でイヤと見てきて経験してきたのだから……

「………っ」

俺が恐さを感じ怯んだのをおっさんは見逃さない

すぐに捕まえようと俺に手を伸ばすが

「オレの連れに何か用かい?」

レイがおっさんの手を掴み捩り上げる

「いでで!僕は悪くないじゃない!!その美人な男が悪い!!

目の前にいたら触らずにはいられないいでで」

「触ってここで沈められるか、触らずに消えるか、決めるんだな」

「馬鹿にするなぁ!!僕は彼氏持ちの男には興味ないんだぁ!!」

レイがおっさんの手を離すとおっさんは逃げるように温泉から消えていった

レイは彼氏じゃねぇし

「セリ大丈夫か?何かされたか?」

「大丈夫…何もされてない……」

自分が震えてるのがわかる

何度だってこんなコト慣れない……

「あの男が言う通り、セリは触れたくなるほどに綺麗だ

同じ男でもセリを見たら狂ってしまうよ」

「……レイもそうなのか」

利用する為なら…助かる為なら、男相手にだって色仕掛けをしてきたのに

やっぱり恐さは消えない

自分の容姿が他人にどう映ってどう思われているかよくわかっていたから

俺は自分までも利用して生きてきた…

恋人ができてからその必要はなくなってしまったけれど

アイツが強すぎて守ってもらっていたし

今思えば、アイツも俺の容姿にしか興味がない

それをわかっていた俺は強いアイツを利用していたのかも…

後から俺は好きになっただけで

「綺麗な人…その神秘さ神聖さ

神聖なものは人によっては汚したくてたまらなくなるものさ

そして、人によっては守るものになる」

レイは…絶対に俺を裏切ったりしない

この容姿でイヤなコトばかりだったケド、この世界に来てからそうじゃないコトもできた

ちゃんと目の前に大親友がいるんだから、ウソじゃない

「もし、セリが女だったら…オレも狂ってしまっていたかもしれないな」

レイはハハハといつものように笑うともう大丈夫だと俺の頭をポンポンと叩く

忘れそうになるが俺のほうが5歳年上なんだぞおい

ふ~ん、レイの好みって俺みたいな女の子か

そんなこんなで気を取り直して温泉を楽しんだ


温泉から上がって暫く経つと、自分の身体の温度がなかなか下がらないコトに気付く

先を歩くレイに追いつけていない

身体がダルイし息苦しくて意識が飛びそうだ

暫く大丈夫だったケド、やっぱり元から身体の弱い俺じゃもうとっくに限界を超えていたのか……

倒れる身体を支える足の力もなく

「セリ…どうし……」

レイが俺の異変に気付き、身体を支えてくれるケド…もうダメだ

「凄い熱だ

セリ、これを飲め」

レイが何かあった時の為に用意してあった薬を取り出して目の前に差し出してくれる

でも、意識が保てなくなった俺は首を横に振りそのまま意識が途切れてしまった



-続く-2015/03/08

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