第17話『ダンスは楽しい…でも、貴方と踊ったら』セリカ編
お出かけの準備ができたらエントランスで待ち合わせとなった私はちょっと気合いを入れてオシャレしてみた
変じゃないかなって何度も鏡の前で確認したな
なんだかこんなの本の中にあったデートみたい…
ちょっと緊張しながら私は部屋を出て廊下を歩く
すると、少し先に2人の人外の女性が見える
仲良くお喋り…楽しそう
私には友達がいなかったし、この光景みたいな出来事…私にとってはこれからもきっと無縁なコト
だって私は他人を疑うコトしかできない
どう付き合っていけばいいのかまったくわからないもの
寂しいなんて思ったコトなんて一度もないわ
この世界に来て、羨ましいと思っただけよ…
楽しそうなんだもん…いいな…友達って
「あっ聖女様よ」
「イングヴェィ様が連れて来た時はビックリしましたわ
こんな綺麗な人間がいるなんて
さすが聖女様」
私のコトを聖女様とみんなが呼んでいるのはよく耳に聞こえてくる
それは私の前世らしいんだケド、詳しく聞いてないからよく知らないの
実感もない…私は聖女様なんて綺麗な存在じゃないもん……
だから、聞くのが恐い…
今の私がとても穢れているから
「聖女様と言えば、その世界では騎士と駆け落ちして滅んだと伝えられているみたいよ」
「それあたしも聞いた聞いた!
金髪蒼瞳の爽やかなイケメン騎士様だって、いいわよね~!
世界が滅んでも愛する人と駆け落ちなんて素敵じゃない~!
愛は何よりも1番よ!」
「羨ましい~!私もそんな恋してみたいわ」
私が通り過ぎるまで、声の大きかった2人のキャッキャッな会話はずっと聞こえていた
騎士と…駆け落ち…?
金髪で蒼瞳じゃイングヴェィとは違うよね…?
イングヴェィはワインレッドの髪とガーネット色の瞳
前世から私の恋人と言っていたケド…
それともこの話は私じゃない別の聖女様の話なのかな……
でも…騎士様か……ちょっと気になる存在だよね
駆け落ちまでしたって言うなら
私の前世って本当はどんなのだったんだろう……
エントランスにやってくるとすでに待っていたイングヴェィが私を見ると笑顔で寄ってくる
「セリカちゃんそのお洋服とっても似合ってるよ可愛い」
「あ、ありがとう…」
それじゃ行こっかとイングヴェィは外に用意してくれていた白い馬に私を乗せてから自分も同じ馬に乗る
後ろからイングヴェィに抱きしめられているような形になってちょっと緊張しちゃう
馬に乗るのも初めてだしな…
「あの…イングヴェィ」
「ん?」
ゆったりと馬を歩かせてお城が見えなくなる所くらいで私はイングヴェィに話しかけた
「私の前世って…イングヴェィは知ってるんだよね?
聖女には騎士がいたって話を聞いたんだケド…」
「騎士?そういえば聖女を守る人間がいたかも
金髪の…名前は確か、レイくんだったかな
でも、セリカちゃんにはもう関係のない人だよ」
噂ではその騎士と駆け落ちしたって話だから、関係ないって感じじゃないよね!?
めっちゃ重要な関わりしてるよ!!
「レイ……そうなんだ」
前世のコトなんてまったく覚えていない私には名前を聞いてもピンと来ない
もっと詳しく聞いてみたいケド、イングヴェィの笑顔なのに俺以外の男の話なんてしたくないなって強いオーラが恐すぎて黙るしかなかった
私の何でも疑う心は、前世の私には騎士の恋人がいてその人からイングヴェィが私を奪ったのかもと言う考えも浮かぶ
あの騎士と駆け落ちって噂から考えるならそれが自然な気がするから……
それでも、実感もなく前世の記憶なんてまったくない私は
私をこの世界に連れてきてくれて、強い愛を示してくれるイングヴェィを意識せずにはいられなかった
顔を見上げて目が合うとイングヴェィは眩しいくらいの笑顔を見せるから、私はなんか恥ずかしくなってすぐに俯く
好きって……どんな感じなんだろう………ねぇイングヴェィ
それから暫くすると廃墟の町と言われる所についた
文字通りに本当に廃墟で誰もいない静かなの
「この町はね
今は人もいないしこんな景色だケド、本当はとっても幸せな町なんだよ」
「それってどういう意味?」
「町の中心に記憶の石ってのがあってそれに触れると」
イングヴェィがこっちと私を連れて行くと、私達がその記憶の石ってのに触れる前に二羽の鳥がその記憶の石に降り立った
すると静かで壊れていた町は一瞬でたくさんの人と綺麗な町並みの賑やかさが甦る
「わっ…!スゴイ……」
さっきまでの何もなく寂しい町の景色とは違う
イングヴェィの言う通り、幸せの記憶を映し出すの
記憶だからここの人達に今の未来の私の姿は見えてない
ぶつかっても物に触れても透けて通り抜けてしまう
でも、明るくて…ここにはなくなるコトのない永遠の幸せがあると私は思った
「あの鳥さん達、暫くあの石の上にいそうだね
セリカちゃんこの町の記憶を見て回ろうよ」
「う、うん」
触れられないケド、見ているだけでこの町の幸せの記憶に私は楽しいと感じる
私の世界では見たコトもない珍しいもの楽しいもの綺麗なもの、素敵な音楽まで流れているわ
こんなにも人間達が笑顔で生きている世界は…始めて目にする
幸せって何かも私はわからないのに
ここの記憶は幸せって強い想いが伝わってくるようよ
お花屋さんを通ると、私のいた世界でイングヴェィから貰ったバラの花束と同じくらい美しい花がたくさんある
それはこの世界ではこんなに花が綺麗なのは当たり前なんだと言うコト
「セリカちゃんはお花好きなんだね」
記憶は花の香りまで再現するのね
「お花好き…綺麗だったり可愛いかったりするから
それにとっても良い匂いがするの」
花に顔を近付けるとその香りがする
花から顔を離すと、いつもね…イングヴェィはとっても良い匂いがするの
花よりも強く私の心を癒す香り
好きだなイングヴェィの匂い
貴方がいるとお花より気になってしまう
好きな花より気になるなんて……
「…あっちも見る」
お花屋さんを通りすぎて、色んなお店を見て歩いていると
道の端でこの町の人とは雰囲気が違うたぶん旅の商人らしき人が商品を広げているのに目が止まる
地面に布を引きそこに並べられている商品を私はしゃがみ込み眺めた
たくさんある中で私は手の平サイズの白いウサギのぬいぐるみが気になる
大好きなウサギだもん
可愛くて私を見ているような「セリカちゃん私を連れて帰って」って言っているような幻聴がいや勝手な脳内での妄想
あぁ…ウサちゃんって本当に可愛い
ウサちゃんは天使
「このウサギのぬいぐるみ…記憶で映し出されたものじゃないみたい」
そう言ってイングヴェィはぬいぐるみに触れて持ち上げる
すり抜けるコトなくウサギのぬいぐるみは現実に存在していた
「この商人が売っていたのは確かみたいだケド、片付けた時に持って行き忘れたのかも」
イングヴェィはウサギのぬいぐるみのお金を記憶の中の商人に渡した
お金は商人をすり抜け落ちてしまうケド、タダで持って行くのは申し訳ないもんね
「この町は何度も通ったコトがあるケド、気付かなかったよ
ハイ、セリカちゃんあげる」
「私…お金持ってないわ……」
他人に借りを作らない私にとってタダで貰うってのは後で何か請求されるんじゃないかって気持ちに…
「ううん、俺から君へのプレゼント」
気持ちに…なるのに、イングヴェィが笑うと……素直に嬉しくて受け取ってしまう
不思議だよ
私…自分がちょっと笑ってるってわかるんだもん
「ウサちゃん可愛い…ありがとうイングヴェィ」
「喜んでもらえて、嬉しいよ」
イングヴェィからの始めてのプレゼント
嬉しいな大切にしよう
あっ始めてのプレゼントは自分の部屋か
じゃあ…始めて一緒に出かけた記念ね
………………何考えてるの私
そんなコト……バカみたい
小さなコトでも浮かれてしまうのが…恋なのかしら
「あっセリカちゃん、音楽が変わったね」
そう言われるとさっきまでの優しい音楽から身体が勝手に動き出すような楽しい音楽に変わる
「お祭りが始まったんだよ
ほら、みんな踊ってる」
町の中心ではたくさんの人達が集まり楽しく音楽に包まれて踊っていた
次から次へと人が集まってお祭りが始まる
「せっかくだから俺達も踊りに行こうよ」
イングヴェィは私の手を掴み町の中心へと引っ張る
「でも私ダンスなんてやったコトないよ」
「大丈夫、そんなに難しいダンスじゃないから
人にぶつかるコトもないし、何も心配なんてないよ」
踊ったコトなんてない私なのに明るくノリの良い民族音楽に身体は踊らせろ!!と取り込まれてるみたい
「うんうん、上手だよセリカちゃん」
イングヴェィのリードが上手いんだよ
最初は不安な私の足が迷っていたけれど、イングヴェィの上手さに釣られていくうちにだんだんと覚えていく
そのうちに自分で踊れてるのが凄く楽しくて面白い
激しいダンスだと私の体力的に無理なんだろうケド、こうしてお祭りでみんなが踊るようなダンスなら大丈夫
「本当に上手だねセリカちゃん
ビックリしちゃった
元から品があって1つ1つの仕草がとても綺麗な人だけど
踊ってるセリカちゃんはいつもと違う魅力があって、また好きになっちゃったよ」
「ほ、褒めすぎだよ
私なんてまだまだみんなに比べたら下手クソなんだってわかってるんだから…あっ!?」
動揺した私はリズムを乱しイングヴェィの足に当たり躓いてバランスを崩す
でも、イングヴェィは私を抱き上げて支える
そこまでしなくても…いいのに……
「本当のコトだよ
君のコトは前世から知っているケド、1週間も一緒にいられなかったんだ…
俺は君のコトならなんでもわかるのに、何も知らない
だから、もっと知りたい
もっとセリカちゃんのコト」
イングヴェィの綺麗な顔が近くて、私の顔は熱く赤くなる
たくさん人がいても誰もイングヴェィと私を見ない
まるで2人だけの世界みたいに……なってる
「……私を知りたい……」
他人に自分を知られると言うコトは弱点になる
そんな世界で私は生きていたの
自分のコトを他人に教えるなんてバカのやるコトって常識だ
それに……私は…イングヴェィに私を知られたくない……
私の冷え症から来る冷たい手で顔に触れても熱は少しも引いてくれない
だって…私のコトを知ったらイングヴェィは私を嫌いになるわ
私は貴方みたいに美しくない
太陽みたいに輝く人
私はその光が眩しくて、とても恐い
こんな穢れた私が貴方に愛されるのも触れられるのも…許されないのではないかと、思ってしまうから
住む世界が違うのよ
ドコまでも真っ白で綺麗な貴方とドコまでも醜く汚い私とでは…
早く早く冷めてよ引いてよこの熱よ
私を苦しめるわ…こんなにもほしかった愛が私を苦しめるなんて……
やっと救われたと思ったのは勘違いで、私はいつまでも救われない……の
「セリカちゃん…?なんだか様子が……」
なんだろう全身がとてもダルイ
身体が熱い…息苦しい…意識が遠退く……
頬に当てた手が意識が遠退くと同時に落ちていく
「この高い熱……
まだ慣れない環境に身体が限界だったんだ
セリカちゃん…全然気付かなくてゴメンね
でも、大丈夫だから
帰ったらすぐにお医者さんに治してもらうからもう少しの辛抱だよ」
イングヴェィの私を心配する顔が瞼重く視界を閉ざす
ちょっと体調悪くなったくらいで医者なんか必要ないよ
ぼったくられるだけだよ
寝てれば勝手に治るわ
でも…こうして私を心配してくれて助けてくれるのはイングヴェィだけ
恋が愛が恐くても
イングヴェィが私をあの世界から連れ去ってくれただけで
私は十分…
-続く-2015/03/07
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます