第24話『知らない奴でも声かけられたら知り合いのフリする(実話)』セリ編

なんだ…急に胸が苦しくなる……

何の前触れもなく俺の中に強い憎しみや怒りの感情が渦巻き溢れ出しそうになる

この不快な気持ち…何に対してなんだ……

胸を抑え顔を歪めてしまう

息が苦しくなるほど強い……恨み……殺したい

涙が溢れて前が見えないよ

「おっ見えて来たぞ」

先を歩くレイが指差した先は俺達がこの世界に来てずっと目指していた近くの村だ

やっと人がいる所にたどり着いたのか…

俺はレイに自分の異変に気付かれないように涙を拭いた

「って…なんかいきなりクライマックスなんだケド!?」

レイの隣まで行き、村を見ると強い憎しみを感じた心が吹っ飛ぶくらいの光景が広がってる

だって、数日かけて目指した村が火の海になっているんだから…

「キャンプファイヤーでもしているんじゃないのかい?」

「村ごと盛大にファイヤーして浮かれるバカがドコにいるんだよ!!!!!?????」

「オレのいた世界にはある祭として、村ごとファイヤーしていた所もあったぞ」

ハハハと爽やかに笑うレイ

大丈夫かコイツのいた世界

俺のいた世界とは違ったカオスだな

「笑ってねぇでなんとかしろ!!」

「もちろんだ、任せておけ」

レイは村に向けて自分の氷の矢を無数に降らせた

あれだけ盛大に燃えていた炎だったのに、レイの無数の氷の矢は1分もしないうちに炎を消し去る

「怪我人とかいたら俺が回復魔法でなんとかする

村の様子はどうだ?」

「ん~、村人はいないみたいだな

死傷者も存在しない

民家の数からして元々かなり人が少ないのだろう

この炎が燃え上がる前に異変に気付き逃げたと言う所か」

レイは足が速いだけじゃなく目もめちゃくちゃ良い

この距離で崖の上から村を見下ろせば、様子が確認できる

死者も怪我人もいたら笑えないからなさっきの…

レイは爽やかと言うかもしかして腹黒いんじゃないかと思ってきた…

「いや……村の中心に魔族が1人いる…強さはわからない…」

「そいつがその村を炎の海にした犯人か!?」

「魔族が人間の村にいるのはおかしな事だ

そう疑うのが自然だな」

「せっかく超久しぶりにフカフカの温かいベッドで眠れると思って期待していたのに……!!

許せねぇ!ソイツ絶対倒す!!」

俺は伝説(と決めた)の果物ナイフを握りしめて、村の中心にいる魔族を目指して走った

「まったくセリは…」

やれやれとレイは俺のフカフカベッドの恨みで勢いづいちゃってる後に続いた


正面から勝負しろ!って言った所で非力な俺は100%負けるとわかっていたから、卑怯だろうがなんだろうが知ったこっちゃない

俺は見えてきた村の中心にいる鳥型の魔族の後ろからおもいっきり飛び蹴りを食らわした

「うおっ!?」

「あれ??」

すると、予想を超える展開となる

鳥型の魔族は俺の蹴りで10メートル先にある民家の焼けた壁に減り込む

えっえぇ!?大袈裟だろオマエその反応!?

いくら不意打ちでも俺の勢いも体重もそんな飛ばないしましてや壁に減り込むなんてありえねぇぞ!?

「セリって…そんなに強かった…か?」

レイだって引いてるよ!?

「ハッ!これはチャンスだ!!

今のうちに倒して村の平和を勝ち取るぜ!!」誰もいないケド

俺は鳥型の魔族が起き上がる前に一通りの攻撃を浴びせ最後に額に果物ナイフを突き刺してやった

「は~…疲れたッでも、初勝利っ!!」

はじめて勝ったコトがあまりに嬉しくてレイにブイサインしてニコッと笑ってポーズを取ると

「それ可愛いぞセリ!」

って褒められた

レイってば俺のコト好きすぎだろ~もう!!

不意打ちで卑怯だったってのは忘れた

「おいおいおいおい!!!!???

こいつ~可愛い奴め~やだも~とかイチャついてんじゃねぇぞバカップルがぁ!!!

攻撃する時、言って!!!!???」

バカ笑いを含めた大きい声とともに壁に減り込んだ魔族がボロボロの身体で近付いてくる

バカップルって久しぶりに聞いたわぁ…

サッと俺はレイの後ろに隠れた

レイは俺を守るようにいつもと同じように手を後ろにするんだケド…

ちょっといつもと様子が違う

レイはあのボロボロになった鳥型の魔族を見て、冷や汗をかいている…?

どうしてだ?あんなに弱いのに?

「聞いてねぇし!なんで人間の癖にこんな強ぇんだよオラ!!?

この魔王様の四天王キルラ様が人間にボコボコにされ……」

額に刺さった果物ナイフを引き抜くと、キルラと言った鳥と人間を混ぜたような姿の魔族は俺を見るとさらに大声で叫んだ

「あっ?あっ?あーーーーー!!!!!!」

うるせぇコイツの声!!

「ただのバカップルかと思ったら、セリ様じゃないですかーーー!?

えっ本物?めっちゃ久しぶりっ!!!」

「えっ誰?」

自分の名前を呼ばれてレイの後ろから顔を出すとキルラは確信したと言う

「ほらやっぱセリ様!

じゃなきゃ、このオレ様がこんな重傷負うわけないっしょ!?」

「俺はオマエなんて知らねぇよ」

「セリ様は生まれ変わる度に記憶がなくなるから仕方ないっすねー

オレはキルラ、魔王香月様の四天王の1人

また仲良くしていきましょーや!」

キルラは俺の長年の友達であるかのような振る舞いをする

でも、俺はキルラのそんな振る舞いより魔王香月様って所が気になって仕方なかった

やっぱり…あの時、会った香月が……魔王なんだ…

俺が生まれ変わる度に記憶がないってのもキルラと言ってるコトが同じだし

やっぱり…そうなんだ……魔王の香月と…勇者の俺か

「セリが魔族と仲良くするわけないだろ」

レイは馴れ馴れしいキルラの手をパシッと叩く

「えっなにこいつ、セリ様の彼氏?」

なんでみんなレイを俺の彼氏にしたがるんだよ!?

「違います」

「ですよね!ですよねぇ!!いや彼氏だったら香月様めっちゃ怒るでしょ

ってか!こいつどっかで見た事あると思ったら、ちょっと昔に香月様に殺されて違う世界に飛ばされた奴じゃん!!?

一瞬だったから名前は忘れたわアハハハハハハ!!」

レイが俺の彼氏だったら、香月が…怒る?なんでだ?

「殺されて違う世界…?」

香月が怒る理由を考えていたがわからなくてハッと村の状況を思い出した俺はレイとキルラの会話を聞いてなくて遮ってしまった

「それで、キルラはなんで人間のこの村を火の海なんかにしたんだ?

人間の場所はオマエのおもちゃじゃないんだからな」

「はっ!?誤解っすよ誤解!!

オレ様は今回は完全に無関係っす

オレはこのナメた手紙をよこした奴らをボコりにここに来ただけ」

言われてキルラの見せる手紙を受け取ると、中身はアホバカマヌケなど低レベルな挑発的な文章が書かれていた

……おいおい、こんな幼稚な文章にホイホイ挑発されて犯人に仕立てあげられてって…

「うん、ここに書かれてあるコトは真実だな」

本当にアホバカマヌケだよオマエ

「どういう意味っすか!?」

「セリ、その文字が読めるのかい

オレのいた世界とはまったく似ても似つかない文字だ」

「アホバカマヌケって書いてるんだよ」

俺はキルラを指差す

「へ~」

「だから金髪イケメンはオレ様の顔見てその通りだって爽やかに笑ってんじゃねぇーし!!!??」

つまりキルラはこの手紙をよこした奴に呼び出されたら、この村が火の海だったかされたってコトなんだな

「まぁ俺のはやとちりだった

悪いなキルラ、確認もせずに攻撃して」

「ほんまっすよそれ

今は香月様が人間だからオレらは自己回復できないし自然回復だと1ヶ月の重傷でしょこれ

セリ様は魔族や魔物にはチートなんだからホントこれからは攻撃する時は言って!?」

「わかったわかった

回復してやるから許せよ」

ギャーギャー声の大きいキルラの文句を受けながら、俺が回復魔法を使おうとするとレイに手を掴まれ止められる

「レイ?」

「こいつは魔族だ

今は敵意はないが、回復した途端に襲ってくるかもしれない」

「はぁあああああ!!!!!!!????なに言ってんの!!!!????」

回復するコトに反対だと言うレイにキルラはふざけんなとさらに声を大きくする

「レイ、そんなに心配するコトなんてないぞ

なんかキルラは俺の友達みたいな感じでいるし」

「オレはこのキルラを目の前にして勝てる自信がない…

もしもの時、セリを守れる自信もないんだ

魔王の四天王と威張るだけの事はある

こいつは……強い」

レイが香月と会った時と似たような反応をする

俺からすればキルラなんてアホバカマヌケって感じなのに…

それは俺が勇者だから…なのか

レイは俺よりもずっとずっと強いのに

自分より強い奴に二度も会って、かなりショックを受けている様子だ

自分が人間だから当たり前だってレイはわかっているケド、それでもレイは守りたいものを守る為に何よりも強くいたかったんだ…

そう伝わってくる

「まぁキルラってなんかカツアゲとか悪さしてそうだから1ヶ月くらい病室で大人しくしといたらいんじゃん

ほら包帯巻いてやるから」

俺は笑ってその辺に落ちていた包帯をキルラに巻いてやった

「悪さしてるってセリ様の勝手なオレへのイメージでしょ!!!??

…………実際そうだけど」

やってたんかよカツアゲとか…

「いつもキルラが悪さしてるから天罰天罰~」

アハハと笑っていると空から火の玉が落ちて、近くの地面を溶かした

「「…………………。」」

俺とキルラはそんな展開に固まり

「えっ何この世界って雨以外に火も降るのか?」

「まっさか!!」

若干現実逃避しようとしていた

いやだって…夕焼けに染まる空に黒い点々がいくつもあって、それがこっちに火の玉を吐き出しながら向かってくると……

もう現実逃避しかないだろ!?

黒い点々が何かを目で確認できるくらい距離が縮まると火の玉の攻撃もさらに激しくなる

黒い翼、黒い尻尾、黒い角、たぶんあれ…悪魔だよなぁ……

レイは俺を抱き上げ簡単に避けているが、半殺し状態のキルラは避けるのはやっと

「おいキルラ踊ってる場合じゃねぇぞ」

「オレがこんな必死なのはあんたのせいだろが!!」

キルラは自分がこの村に来た時にもあの火の玉が飛んできて村が火の海にされたと言っている

ちなみに村人達は魔族のキルラが現れた途端に逃げ出したんだってさ

「どどどどどーしよっアー!ど~しよっ!?」

「リズム付けて歌ってる場合かアホ!!

どうせキルラがアイツらに悪さかなんかして仕返しに来たんだろあれ

レイと俺はとんだとばっちりじゃねーか」

悪魔の大群が空に現れ、キルラは動揺して踊りだけじゃなく歌までうたい始めた

「心当たりがありすぎて」

「その心当たりが全部来ちゃってんじゃないのかこれ!?」

「下級悪魔とは言え、40…いや50は多すぎる……」

悪魔の大群にあのレイですら少し気が引けている

まぁさすがの俺も大ピンチだってコトはわかるさ…

俺達は悪魔の大群からの攻撃を避けながら、村を出て走る

いくらレイが足速くても相手は空から来てる

距離は離れるコトはなく縮まるばかり

そのうち追い付かれてしまうだろう

キルラはレイの足についてくるので精一杯だし

「…わかった!!ッ諦めよう!!」

「アホかーあ!!!???何を言い出すかと思えば、正気か!?」

俺の諦め宣言にキルラが物凄い勢いで俺に詰め寄る

「おい、こんな時に顔芸で笑わせてくんなよ

ギャグやってる場合じゃねんだぞ」

「諦めるってアホでしょあんた!?この魔王様四天王のキルラ様があんな下級悪魔にやられたなんて事になったら一生笑われもんじゃねーか!!」

「ハハハ」

「ごら!そこの金髪イケメン!オレ様の顔見て笑ってねーでなんとかしろし!!」

まずその顔芸やめろ

笑って何も考えられんから

キルラは変顔をやめて急に真面目ぶり、レイをジッと見る

「っつかさぁ?あんた人間にしては大したもんだよな?」

いくら真面目ぶってもキルラのバカ笑いが含まれた喋り方は変わらない

「何がだ…?」

「あんたさぁあ?本気出せば、あの雑魚の大群くらい倒せるほど強ぇんじゃん?

なんでやろうとしないんだよ?」

な、何言ってんだキルラの奴

いくらレイが強いからって下級悪魔50匹相手はさすがに…

俺は心配でレイを見上げるが、レイは見抜かれたかと認めたかのように目を伏せる

「…あぁ、キルラの言う通りやろうと思えばやれるさ

でも、オレの力は距離が離れれば離れるほど強くなる」

そうか、レイは俺を連れてるから本気で走って敵との距離が取れないんだ

俺をここに置いていけば、レイは自分の力を十分発揮できるくらいの距離まで走れる

「えっなに?あんたの腕は離れた場所から仲間にも矢が当たるかもなんて心配しちゃってんの??」

「いや、そうじゃない

オレの矢はセリには絶対に当たらないようになってはいるんだが」

そう言ってレイは俺に弓を引き矢を放った

えぇ!?正気か!?と思っていたら、レイの矢は俺の目の前でパンッと小さく音を立てて砂のようにサラサラに落ちてなくなった

確かに俺に当たらないみたい…だケド、粉々になった矢のカケラが目に入って痛いのはそれは……

レイの矢は氷でできているからすぐに水に変わって痛くなくなるケド

「オレが心配なのは、セリから離れてもし何かあったら…

傍にいないと守れないんじゃないかと思う事だ」

レイ…

確かに、離れると不安も心配も大きくはなる

でもそれじゃレイの本当の力を俺の存在が封じてるコトになる……

「お前は彼氏か!!

そんな事はど~でもいいんだよ!!

オレ様の恥になる前にちゃっちゃと倒せ!おら!」

喚くキルラをほったらかしにして、俺は迷いのあるレイに話しかける

「レイ、このままじゃ全滅だってオマエなら言わなくてもわかるだろ?

何も不安になるコトなんてない

レイは絶対に俺を守ってくれるってわかってるから

だからどんなに離れていたって、レイは失敗しない

大丈夫だ自分を信じて、レイに守れないコトなんて何もない」

最悪、俺とキルラが死んでもレイだけでも生きてくれたらいいんだ…

レイにはこの世界で大切な何かを見つけて守るって運命があるんだから……

レイには聞こえないくらいの声で呟くと

「えっセリ様それ本気っすか!?オレは死にたくな…」

「うるせぇっ」

聞こえたキルラがバカみたいに騒ぐから肘を腹に食らわせてやった

「セリ………そうだな

このままだと全滅だってわかってるのに、オレに何を迷う事があったんだろうか

…必ず守ってみせる

キルラ、セリを少しの間頼んだぞ」

そう言ってレイは敵と距離を取る為に全力で走った

やっぱり…俺がいない時よりレイの足はずっとずっと速いよ

レイなら大丈夫

「頼まれても、オレこの怪我でなんもできないんですけど」



-続く-2015/03/19

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る