172話『今度は自分が守って支える番』セリカ編

偽勇者探しに私はみんなと一緒に行くのを直前でやめて残るコトにした

イングヴェィもフェイも一緒だからセリくんは大丈夫だと思うし、私は何故残ったかと言うと…

さて…どうしようかしら…

とりあえず今日はもう寝ましょう

欠伸とともに寝る時間になった私はベットへと潜り込む

暫くして、スヤスヤと眠りについているとドアをノックされる音が聞こえて目を覚ました

……眠いのに…一体こんな真夜中に誰なの

無視して寝ていたい気持ちは強いけど、こんな真夜中だからこそそれなりの理由があるんでしょうね

「はいはい、どちら様?」

ドアを開けると、珍しく寝不足だと言った顔の滅入ってる和彦と和彦に物理的にかじりついてる光の聖霊の姿があった

「………かなり珍しい組み合わせね…」

永遠にないツーショットで現れて、眠気が少し吹っ飛ぶ

「頼むセリカ…この女をなんとかしてくれないか?」

とりあえず2人を中に入れて話を聞こうか

部屋に入ると光の聖霊は和彦から離れてソファに座り直した

なんか光の聖霊プンプン怒ってる感じが目に見えてわかるけど…一体何が…

私はベットに腰掛ける

すると和彦は私の膝を枕にして横になった

「最近徹夜続きでやっと眠れる時間が出来たと思ったら、その女が枕元で強烈な光を発して寝かせてくれないんだ」

なんつー残酷なコトを…睡眠妨害ってかなりキツイ拷問の1つじゃなかったか

和彦は生死の神になってからさらに忙しい毎日を送ってる

落ち着くのはもっと先になるって大変みたい

たまには休みも取れるみたいだけど、もっと自由に動ける時間を作りたいって言ってたな

和彦の頭を撫でていると、少しずつ表情が和らぐ

「私を悪人みたいに言わないで!私はレイをどこにやったかを聞いてるのよ

さっさと教えなさいよね!!」

光の聖霊は怒りが止まらない、相当レイのコトが心配なのね

レイの居場所はセリくんにも教えられていないわ

「和彦がそうするならそれが正しいわ」

「ムキーー!!何よセリカ、あんたはレイのコトが心配じゃないの!?気にならないの!?

レイはあんたに会えなくて辛い思いをしてるわ、閉じ込めるなんて可哀想じゃない」

うーん…でも、和彦は意地悪をしているワケじゃない

レイを閉じ込めているのには理由があるわ

大悪魔シンに魂を半分抜かれて、レイはセリくんに会えない状態と考えられる

光の聖霊もレイが魂を半分奪われているコトは知っている

でも、光の聖霊はレイのコトが心配のあまり感情的になってのコト

「セリカがレイの居場所を知りたいって言うなら教えてやってもいいが?」

「はー!?そんなのセリカはレイを良く思っていないんだから知りたいって言うわけないじゃない!!

最初から教える気なんかないんでしょこの卑怯者ーーー!!」

和彦はクスッと笑って、光の聖霊はさらにキレている

…さすが和彦、なんでもお見通しね

「知りたいわ、教えて和彦」

「ほら!セリカはどうでもいいって!!」

「セリカが言うなら、レイの居場所を教えるよ」

「あーもう最悪…って、えーーー!!?」

和彦はわかってる、そして私には考えがある

光の聖霊は意外な私の返しとあっさり教えると言った和彦に驚く

「セリくんには出来ないコトがセリカには出来る

セリカはそのために残ったんだろ?セリくんがいない時を待っていた」

「和彦、私はセリくんよ

セリくんが出来ないコトは私にも出来ないわ」

私はただ確かめたいだけ

それにはセリくんはちょっと邪魔なのよね

和彦はセリくんならレイの居場所を教えない

私だから教えてくれる

それだけでレイとはまだまともに話はできる状態だってコトがわかる

だけど、大悪魔シンの契約の影響を受けているセリくんじゃダメってコトなの

「明日起きたら教えるよ、おやすみセリカ」

もう眠気の限界って和彦は起き上がって自分の部屋へと帰ろうとしたら光の聖霊はまだ食い付く

「ちょっとちょっとー!?何2人だけで分かり合ってるのよ!?

起きたら教えるなんてそんなの逃げられるだけよ!?今教えなさいよ!!」

「和彦はウソは付かない人よ、約束は必ず守る人だから大丈夫

光の聖霊もおやすみしなさい、明日レイに会いに行くのに寝不足の肌でいいの?」

「うっ…それは…」

「綺麗なお肌は何もしないで手に入らないの、夜更かしは大敵でしょ」

「綺麗な肌のセリカが言うと説得力がハンパないわ…」

「セリカの努力と美意識の高さが元から綺麗なセリくんがさらに綺麗になっていくから目が離せないんだよな」

「どうして勇者ばかりモテるのかしら、ムカつくわね

とくにレイに惚れられてる事が1番腹が立つわ…あの鬼神もあんたのファンだし……」

光の聖霊、吹っ切れたと言っても根には持ってるのね…

さぁ寝ましょうねと微笑むと和彦と光の聖霊は自分の部屋へと帰っていった



次の日、和彦は約束通りレイの居場所を教えてくれた

そして一緒にその部屋の鍵も受け取る

どうやらレイは自らの意思で閉じこもっているみたいだ

正直今のレイは何をするかわからない不安定さがあると和彦は様子を話してくれる

セリくんがレイに会うのは危険すぎる、それは和彦やフェイもわかっていてレイ自身もわかっているから姿を見せない

なら、和彦が私には教えると言うのはおかしいと感じるが

意図は読めた

和彦もまたハッキリさせたいのだ

このままレイをセリくんと一緒にさせてもいいのかを…

相変わらず恐い人

和彦は誰でも良いとは言っていない、セリくんに相応しくないなら排除する

例え、セリくんが相手を好きであっても

和彦にとってセリくんの気持ちは関係ない

和彦と私の利害は一致してる

私は自分の本当の気持ちを確かめたいだけじゃない

レイを信じたいと思ったから

前世の記憶で一度はレイを拒絶したけれど、あんな前世なんて今のレイとは違う別人だ

今のレイとちゃんと向き合うのよ

貴方のまっすぐな強い想いに心が揺れる

だから…ここでハッキリさせたいの

失敗したらレイは和彦に消されるかもしれない…

うーん…まったく和彦のおかげで気が引き締まるわ

私もセリくんのコトが言えないくらい甘さはあるのかも

それじゃあ行こうか、いつも守ってくれる貴方を

今度は私が守ってあげる


レイの居場所は音楽室だった

和彦から聞いた時はレイらしい場所を選んだなと納得した

光の聖霊はレイに会えると喜んでいるが、私は上手くいくかどうかもわからない不安な気持ちが重い

私が出来るコトはそれほど多くはなく、結局はレイ次第だもの…

音楽室に近付くとピアノの音が聞こえてくる

この曲は…クラシックのノクターンね

レイは自分で作曲するのも大得意だけど、セリくんがクラシック好きって言ったらソッコー色んなの弾けるようにしてた

レイはいつもセリくん至上主義だったわね

ってかこのタイミングでノクターンはより切なくなる…素敵な曲…

「セリカ!早くドアを開けて」

音楽室の前まで来て音に耳を傾けていると光の聖霊が横で騒ぐ

光の聖霊はクラシックは眠くなるタイプって言ってたか

いつものレイなら私達の気配に気付くだろうけど、大悪魔シンに半分魂を取られてしまったレイはやはり気配も感じられないくらいになっている

ドアをノックしてもピアノの音でかき消されてしまうし、私は鍵を使ってドアを開けた

ピューッと先に光の聖霊が中に入って私も続く

私達が部屋に入ってもレイはピアノを続けてやっぱり気付かない

ピアノを弾くレイは一層イケメンさが輝く

絵になるわ~イケメンは何やってもイケメンね

「レイ…!」

光の聖霊がレイに声をかけようとしたが、私はこの曲が終わるまで待ってと手を引く

数分すると弾き終わってレイが一息つくタイミングで声をかけた

「レイ!!心配したのよ、元気そうでよかったわ」

光の聖霊に声をかけられてやっと気付いたレイは私達を見てビックリする

「セリカ?光の聖霊?いつの間に部屋に…鍵がかかっていたはずだろう」

光の聖霊はレイに会えた嬉しさのあまりハグしようとしたが、レイはいつものコトと慣れた避け方をした

避けられた後はいつも「ハグは挨拶でしょ!」とプンプン怒るまでがセット

光の聖霊が言うには好きとか関係なくイケメンとの挨拶はハグでしょとかよくわからないコト言ってた

彼女にとってレイとは友人関係でもイケメンだから見るのは目の保養、触れるチャンスがあるなら触りたい、らしい

よくわからないな

「和彦に借りてきたわ、レイに会いたかったから会いにきた……ダメ?」

鍵を見せながらそう言うと、レイは自分が何を言われたか理解が追い付くのが遅れて

だんだんと顔を赤くして私から目を逸らす頃には耳まで真っ赤だ

「これは夢か、妄想か、幻覚か、悪魔の契約か…

セリカがオレに会いたかったなんて…ハッまさか偽者!?」

どれも違うわね

「私が証明するわ、ここにいるセリカは夢でも妄想でも幻覚でも契約でも偽者でもない本物よ」

「光の聖霊がそう言うなら間違いないだろう

それなら本物のセリカがそんな発言をするなんて……オレの事が好きだなんて」

そこまでは言ってないぞ!?!?解釈の仕方が凄い飛躍しすぎだな!?

まぁでもいつものレイって感じで、魂を半分取られた割には平気そう?

和彦は魂の半分は強さみたいなコト言ってたから、性格的には影響がないのかしら

うーん…でもそれなら閉じ込めておかなくても大丈夫になるし、何かあるハズ

「もうレイはセリカしか見えてないって感じ、いいわ私はレイの無事を確認したかっただけ邪魔者は消えるわ」

どうぞごゆっくりと光の聖霊はドアに手をかけた

「光の聖霊、心配してくれてありがとう」

部屋を出る前にレイがそう言うと光の聖霊は嬉しそうに「頑張りなさいよ」と笑って出ていった

良い友達関係だよね…ちょっぴり羨ましい

「レイ、元気そうね

どうして会ってくれないの?」

「……セリには会えない…今のオレは傷付けてしまうだろうから」

私の言葉の意味をわかった上でレイは答えてくれる

「そう?いつもと変わらないわ、いつものレイなら絶対に傷付けないって知ってる」

「セリカ…知っているとは思うがオレは魂を半分奪われている」

私は頷く、でもレイは何故ここにいるかの理由を話してくれる

和彦やフェイも危険と感じてる部分がそこだと知っていた

「シンはオレの残り半分の魂を狙って、すぐにでも奪いたいようだ

昼間はこのようにまだ何とか自分を保っていられても、夜になると自分を抑えられない

きっとそのうち昼間も自分を失う時が来るとわかるんだ

絶対にセリを傷付ける……だから、会えない……」

レイにとってセリくんに会えないコトは死ぬより辛いハズ…それでもセリくんを傷付けないようにと……

レイの気持ち…わかってるよ

「フェイと約束しているから待っていてほしい」

「約束?」

「フェイが破魔の矢を扱えるようになってシンを倒す

今のオレはもう弓を扱えない…シンに勝てないんだ」

だからそれまで…

目の前のレイは私の知らない人のように映った

弱気で後ろ向きで諦めて、俯いて暗くなって情けなくて…

傷付けるって人のせいにしないでよ、そんな姿をセリくんに見られたくないからでしょ

そんな卑怯なコト言うまで堕ちたって言うの?

俺の好きなレイはそんな人じゃない

「……他力本願か

強さって肉体的な話かと思ったら、心の強さまで失ってるじゃない」

レイはもっと強かった

「セリカ……オレは…駄目な男だな」

いつも私の騎士だった

いつも嬉しかった

この世界に来て、最初からずっと傍にいてくれて守ってくれた

レイがいなかったら生きてない

守ってくれるから好きなんじゃないよ

守ってくれる度に、そんなに俺のコト好きなんだ…って愛を感じたから、それがたまらなく嬉しかった

命を懸けて守るって何度も言ってくれたよな

そんなコトしなくていいって言っても、俺の騎士でいたいってレイが好きだった

だから、ずっと守ってね俺の騎士様ってなったんだよ

今のレイは自分で自分を否定してる

そんなレイはレイ自身が望んでない

心折れてるってんなら、支えてやる

男見せろレイ!!魂半分なくなったからなんて言い訳するようなオマエじゃねぇだろ!?

「心まで弱くなってるよレイ

待てないよ

もう時間がないの

私が次の誕生日を迎えるまで

守って

守ってほしい

いつもみたいにずっと傍にいて守ってよ

私、もうすぐ死んじゃうんだから……」

いくつもある前世で必ず23歳で死ぬ運命だ

死に方は色々あったが、24歳の誕生日を迎えたコトはない

それをレイも知っている

思い出して…

私、レイに守ってもらいたいワケじゃない

自分が助かるためにとかじゃないよ

レイが守りたくないならそれで構わない

でもレイは私を守るコトに命を懸けていたから、貴方らしくいてほしいだけ

自分らしさを取り戻してほしいだけ

ずっと私の騎士でいるって素敵なレイに会いたい

それはレイ自身が望んだ自分、理想の自分はこんなコトで挫けたりしないでしょ

「………セリカ……オレは」

レイは俯いていた顔を上げて、窓辺に立てかけてあった弓を手に取る

「もう今のオレはどう足掻いても弓を扱えない」

私は黙ってレイの言葉を聞いていた

だって、レイの曇った瞳は輝きを取り戻しているのに気付いたから

「魂を半分奪われた事も、弓を扱えない事も、力が弱くなった事も…関係なかったな

弓で戦えなくても、負けてはいけなかった

心も戦う事を放棄していた

シンはそんなオレの心の弱さも見逃さないでつけ込んできている」

「レイ……」

「セリカ、不安にさせてすまなかった

君はオレが守ってみせる

フェイがシンを倒す事だけが解決じゃないとわかった

そんな長い間を待てはしない

大悪魔シンを倒せないと言うなら、この悪魔の契約を破棄するしかないだろう

上手くいくかはわからないが、やれる事は何でもやるぞ

命を懸けて君を守ると約束したからな」

レイはいつもの笑顔を取り戻して見せてくれる

うん…いつものレイだ……私の大好きなレイ

釣られて私も微笑む

「それにしても」

レイは私の目の前に立つと、頬を撫でるように手を添えた

「な、なに…?」

ちょっと近すぎだと思います

「セリの本当の心が見れて安心した……期待して良いようだ」

レイは嬉しそうに笑って、私の頬から手を離した

その指には涙が乗っている

えっ…私、泣いてたの!?そっか……セリくん…もうちゃんとレイのコト……

よかったのかよくないのかわからないけど、たぶんセリくんがチョロいだけ

すぐ惚れるんだから…まぁ周りに良い男が多かったのね

「やる気が出るよ

次はセリカの心も知りたいんだが…?」

「私は好きじゃないけど?」

うふふと返す、欲張りな人

「ツンデレな所も可愛い」

そんなんじゃないし本当に

私はイングヴェィだけ、セリくんと違って目移りしないの

「私を信じさせて、後はそれだけ

まだ口だけでシンに勝ったワケじゃないもの」

「わかっているさ、しかし手強いのは本当だ」

だろうな、悪魔の契約は超強力だ

そんな簡単に断ち切れるものじゃない

破棄出来た話なんて聞いたコトないもの

いくらレイでも1人じゃ……

「そろそろ日が暮れる、セリカ部屋に帰った方が良い

後はオレに任せろ」

夜になるとシンの影響が強く出るって話だったわね…

レイなら頑張ってはくれるだろうけど…

私ね…いつも思ってるのよ

いつも守ってくれるから、レイが辛い時はその時は私が守るんだって

今度は俺がレイを守るよ

だから、傍にいる

「嫌よ帰らないわ、夜もレイと一緒にいるの」

「セリカ!?そんなオレ達まだ付き合っていないのにいきなり一線を越えるなんて」

「怖い怖い怖い!!そこまで飛躍するポジティブ脳怖いからね!?」

「オレはセリカとはちゃんと順番を大事にしたいし、今日付き合ったからってすぐに手を出すつもりはない

ゆっくり時間をかけて絆を深めてから」

「聞けよ!?マジで怖いぞ!?まだ付き合ってないって台詞から急に付き合ったに変わってて怖すぎ!?」

セリくんには順番とか関係なく色々やってるのに…私は女の子扱いしてくれるのね

「セリカはオレの彼女なんだから大切にするのは当然だ」

「ついに彼氏面し始めた!?恐怖、いくらイケメンでも恐怖しかないぞ」

冗談なのか本気なのかわからないから笑えない、たぶん目がマジだから彼は本気よ

よくわからない会話をしている間に外が暗くなっていく

それに比例してレイの表情が苦痛に耐えるかのように歪んでいった

はじまったのね…シンがレイの心まで追い込んでる

立っていられなくなったレイが地面に膝をつく

凄い汗…レイは自分と戦ってるのが、どれだけ辛く厳しいものなのか目に見えてわかる

「レイ…大丈夫…?」

傍に寄って屈んでレイの顔を覗き込むが、レイはもう私が見えていない

こんなの…どうやって私はレイを守ったらいいの

レイの自分との戦いに、私は何ができる…?

何か…何か……こんな時に私は冷静にならなきゃ

レイの悪魔の契約はセリくんにかかってる

私じゃないわ、でもセリくんは私

だから直接ではなくても…

ふいに感じる強い視線…誰かが私達を見てる…?

その視線に顔を上げた先には鏡があった

そこには私の姿が映るハズなのに、セリくんの姿があった

私はその鏡の前へと近付くが、鏡の中のセリくんは私と同じ動きをしない

「ふーん…オマエが、セリくんの中にいる契約かしら?はじめまして」

鏡の中の契約はセリくんの姿をしていてもやはりセリくんじゃない

細かい表情や仕草が多少異なる

それで他人は騙せても本人は騙せないわよ、オマエはセリくんではないわ

「無駄な足掻きはやめろよ、レイは契約の俺を拒めねぇ

残り半分の魂も簡単に手に入りそうだな

最初からわかってるコトだろ?

ソイツは自分の身勝手さと弱さから悪魔と契約した

悪魔と契約したから卑怯になったんじゃねぇ、元からだ

その姿が本来のレイなんだよ

今更なかったコトにしろなんて無理無理、だってウソでもない真実

なのに、そんな外面のレイを信じてるオマエはバカだな

オマエより俺の方がレイのコトよく知ってるよ

ソイツは最初から強くなんかない、最初から弱かった」

「………。」

「言い返せないか?そりゃそうだ」

アハハと契約は笑い飛ばす

「言いたいコトはそれだけか?」

「はぁ…?」

「ナメやがって、私もレイもオマエなんかに負けたりしないぞ」

心の奥底から熱いものが込み上げてくる

思わず手に力が入って鏡を叩き割った

割れた破片で手を切って血が滴りながら痛みも感じるが、それより怒りが勝っている

床に落ちずに残った鏡の破片に契約の嫌な笑みが映る

コイツは自分の勝ちを確信している

私の信じる心が揺らいだらそこを付け込まれてレイは自分を抑えられなくなるかもしれない

私は負けたりしない、今まで守ってもらっていたんだ今度は私がレイを守ってみせる

「おーこわ…セリカはもっと賢くて冷静だと思ってたよ

いつもの君ならそんな男見捨てるハズなのに、好きなのか?」

「バカかオマエ、私はセリくんだぞ

セリくんが好きなら私もそうなんだよ

オマエの言ったコトは本当なんだろう

確かにレイはそういう一面もある

私より5歳も年下なんだ、まだガキな部分もあるのが年相応だろ

それでもレイは理想の自分を持っててそうなろうと努力して、いつもは理想の自分になれている

レイは私に理想の自分だけを見ていてほしいってカッコ付けてるよ

だから私はいつも理想のレイだけ見てあげてる

だがな、人は完璧じゃない

情けねぇ部分も時にはあるだろ

私だってそうだ

レイにとって私には見られたくない一面だ

なら見ないようにしてそれを受け入れてやる

私はどんな弱いレイも見ないフリをして全て知って受け入れる

オマエには人の複雑な強い絆の結びつきなんてわかんねぇよ

私よりレイのコトを知っているだと、ぬかせ」

私だって完璧ではない

レイに相応しいとも思っていないよ

俺は弱いし情けないし流されるしクソビッチだし悪いとこいっぱいだ

そんな俺をレイはずっと愛してくれてる

レイの悪いとこも弱さもわかって受け入れて……大好きだ

いつの間にか、ずっと大親友だったレイを、愛してた…

「ふん…どうせ泣く結果だ」

「泣かせてみろよ、私を」

残った鏡の破片を握り割ろうと力を込める

でも、後ろからレイが私の手から鏡の破片を奪って私の代わりに手の中で粉々に砕いた

レイの手から血が滴る

凄く辛い表情は変わらないが、レイの目は死んではいなかった

もう契約の声は聞こえないが、消えたワケじゃない

今もまだセリくんの中にいる

「危ないでしょ…」

私は回復魔法を使ってレイの手の傷を治した

「オレはいいから、セリカの手の傷を治してほしい」

「私は無理よ、この怪我は心に関係するものだからね」

アハハ大丈夫大丈夫と笑い飛ばす

いや終わった今めっちゃ痛すぎて後悔してる

だって手を怪我するってコトはお風呂の時めっちゃ痛いやつだもん!?暫く生活つら!!

「セリカを守ると言ったのに」

あらら落ち込んじゃった…

レイは私の手当てをしてくれる

「気にしないで、私がムカついただけだから殴らないと気が済まなかっただけよ」

「それでもセリカに怪我をさせたくないんだ」

レイが気にするから強引に話題変えようかな

「そんなコトより、さっきの契約」

「そんな事で済まされないぞ!セリもセリカもいつもオレに心配させる

もう少し大人しくしていてくれないか」

うっ…それはよく言われます…心配するから動くな!ってそんな強くみんな言わないけど、たぶんそれくらい思ってるな

「はい…気を付けます…」

って言っておこう、ムカつくもんはムカつくもん

「さっき見たのが悪魔の契約だ

セリは知らない…」

だろうね、セリくんからそんな話を聞いたコトないし、当人にはわからないでしょ

あっでもたまに意識がなくなるって言ってたからそれが契約に切り替わっているのかも?

私は意識なくなるコトがないから違いはそこなら可能性はかなり高い

契約の名前を口にするとレイは一層苦しそうにする

「何かあったの?あのムカつく奴と」

「………セリカは…鋭いな」

レイは重たい口を開く

きっとセリくんには言えない

嫌われるかもしれないって、その後ろめたさにもつけ込まれてる原因になっていた

レイは契約と関係を持っていたコトを話してくれた

まぁ…セリくんの姿で迫られたら、レイは無理だよね

めっちゃ好きだもんセリくんのコト、死ぬほど好きすぎだもん

「…軽蔑するだろう?…違うとわかっているのに……

セリにはシンを倒して本当の気持ちがわかるまではしないって言っているのに

契約を抱くなんて……」

あーあー…レイが泣くほどなんて…レイが泣くのはじめてかも?

死ぬほど後悔してるんだろうけど、いつも心の弱さに負けての繰り返しだったんだろう

自分の弱さが悔しくて許せないんだ

「言い訳ではないが、やっぱり姿はセリだから可愛くて仕方がなかったんだ

セリに抱いてと言われたら理性も飛ぶ」

言い訳だろ!?

うーん…セリくんもなかなかレイが抱いてくれないからしたいって言ったら断られたって言って怒ってたのに、それは契約との後ろめたさあってのブレーキがかかったのか?

契約と同じコトはしたくはなかったってコトか

「フェイがセリを目の前にして待ては無理と言っていたが、それなって共感しかない」

うんうん仲良いよね、もうすっかりフェイと友達じゃん

寝取られてるけど…

セリくんのモテ具合が凄い、なんでこんなにモテるんだ…

香月と和彦からの寵愛も独り占めだもんね

「妬いちゃうな…だって、まぁセリくんの中にいるから身体はセリくんでもやっぱセリくんじゃないし」

「もう二度と契約を抱かないぞ!!

オレは恋人のセリカを裏切ったりしない、結婚しよう」

レイは私の両手を掴んで強く誓ってきた

もうこの先ずっと彼氏面してきそう

そのうち妻になってそう

「いや私は恋人じゃないしレイとは結婚しないからね

セリくんに言ってあげて?」

「………嫌じゃないか?契約から聞いてオレがどんな男か……

知られたくなかった……こんな自分…

自分でも嫌だ、こんなオレは……」

貴方が自信をなくしているなら、背中を押してあげる

レイはいつだって好きな自分に戻れるって教えてあげる

だから、大丈夫

もう一度立ち上がって、迎えにきて

待ってるから

聞きたい言葉、教えてよレイの気持ち

今度はちゃんと本当の気持ちで応えるから

「レイは、カッコ良くてイケメンで強くて優しくて一途で守ってくれる私の騎士様だよ」

「本当に…オレはそうだったかい?君の知っているオレは…オレがなりたい理想の自分だったかい?」

「うん」

私は笑顔で頷く、私の知ってるレイは貴方が描く理想の自分

自信を持って、いつも隣に俺がいるから大丈夫

なりたい自分になれる、レイならそれができてたもの

「あっ後メンヘラ」

「それも良いのか!?」

「うーん…嫌だけど、なんやかんやメンヘラな部分も、俺のコトそんな好きなんだな~って嬉しいのかも

レイの全部知って受け入れてるんだよ」

私が笑うとレイも、吹っ切れた笑顔で前を向く

私の中でレイを信じたいから信じてるに変わる

あぁ…これがセリくんの本当の気持ち…

「ありがとう…セリカ

……もう、オレは負けない

シンを倒してセリに何度目かのオレの気持ちを伝える

告白したその時に本当の君の気持ちを…返事を聞かせてほしい」

レイはいつものレイに戻ってくれた

力強い言葉と意志に私の胸が打たれて

自然と涙がこぼれ落ちる

嬉しかったんだ…こみ上げるほど、この気持ちがそう奮わせる

「うん…楽しみにしてる」

契約の闇に打ち勝って、シンを倒して…伝えたい気持ちが溢れ出してしまう前に

「今度こそ君を守ってみせるから、ずっと一緒に生きていくために」

ずっと一緒に…今度こそ誕生日を迎えられるかしら…

永遠の運命が変わるかもしれない

バッドエンドから、はじめてのハッピーエンドを迎えるために

そのためにはきっと誰1人欠けちゃいけないんだ

今度こそ…幸せになりたい……みんなと一緒に



次の日、レイと一緒に私は和彦に会いに行った

「上手くいったみたいだな」

私達を見て和彦はふっと笑った

「さすがはセリカ」

そして頭を撫でて褒めてくれる、嬉しい

「和彦さん、フェイが帰ってきたら暫く貸してもらえませんか?

相談と頼みたい事があるんです」

今のレイは心の強さを取り戻したとは言えるけど、力の強さは失ったまま

ならフェイに協力を得るのは当然の選択

どれだけ心が強くても力が強くなるワケじゃない

力が弱いと言うコトは何も守れない、自分さえも…

フェイもレイのコトは友人だと認めているし、過激な部分はあれどレイにとって心強い良い協力者になるわ

2人が何を考えているかは、私にも読めないけどね

昔はセリくん以外見えていなくてどうでもよかったレイも(今もかもだけど)

最近はフェイとも光の聖霊とも良い友人関係を築いているみたいで、良いコトよね

「好きに使っていい、今のレイの代わりにフェイにはセリくんに付いてもらうつもりだった」

「助かります、それと和彦さんに話しておきたい事が…」

レイが私を見る

私はいない方がいいかもしれないわね

「それじゃあ私はそろそろ行くわ、和彦の仕事の邪魔したくないし」

「セリカならそこにいてくれるだけで頑張れるよ」

そうね…和彦の職場ってフェイと鬼神と骸骨天使と元々いた部下達で成り立っていて、女性は1人もいない

職場に異性がいると華やかでやる気も不思議となんか出たりするもんね

女性は花よね~うんうん

「はぁ~セリカ様マジ天女様…」

「眼福…」

でも私がここにいると鬼神達の手が止まって逆効果な視線をあびる

長居はできないな、お菓子を買ってきたからみんなに配って私はおいとましましょう

甘いもので日々のお仕事の疲れを取ってね


そうして1人になった私は楊蝉の部屋へ行くコトにした

今日結夢ちゃんと光の聖霊にネイルをしてあげるって話してたから私もみんなの可愛いネイル見たいな

「セリカ様もいらしてくださったのですね」

楊蝉の部屋にはちょうどネイルを終えた光の聖霊が満足そうに自分の指を嬉しそうにずっと眺めていて、楊蝉は結夢ちゃんのネイルに取りかかろうとしていた

「見て見てセリカ!黄色のネイル、可愛いでしょ~?」

光の聖霊は私に手を出して見せる

黄色は光の聖霊によく似合うわね、ストーンがキラキラしててとても良い感じ

「可愛いわね光の聖霊、とても似合っているわ」

「早くレイにも見せて褒めてもらいたいわ」

光の聖霊は大満足でずっとご機嫌だ

「楊蝉ありがとう、2人のネイルをしてくれて」

「お安い御用ですわ、女性が可愛くなっていくのをお手伝いするのはとても嬉しい事ですもの

光の聖霊さんも女神結夢様も、興味がありましたらいつでもおっしゃってくださいな

私はネイルだけではなくメイクも得意なんですのよ

外側は私に、綺麗なお肌にしたい内側はセリカ様の方がお詳しいですわ」

と楊蝉もご機嫌だ

楊蝉はメイク、ネイル、ファッションなどのオシャレなコトに詳しくて

私は楊蝉が言うように内側から綺麗になる肌や髪と言ったスキンケアやサプリなどが詳しい

美容オタク同士、楊蝉と私は気が合いとても仲が良かった

常に美容の話をしている

私は肌が弱くてメイクはほとんどできないけどね

「はい、結夢様も可愛く出来ましたわ」

暫くして楊蝉が言うと私は結夢ちゃんの指を覗き見た

「本当!結夢ちゃん可愛い!!」

前に私がやってた薄いピンクのネイルね、とっても似合ってる

これはセリくんも絶対可愛いって言ってくれる!!

「ピンクも可愛いわね!次は私もピンクのネイルにしようかしら」

光の聖霊も結夢ちゃんのネイルを見て、みんなでキャッキャッと騒ぐ

周りから褒められた結夢ちゃんは照れくさそうにした後にいつもの手袋を着用する

「隠すなんてもったいなーい!!

勇者に触れないよう気を使ってるのかもしれないけれど、ちょっとくらい触れたっていいじゃない

むしろレイを奪ったあの男に悪夢を見せて苦しめてほしいわ」

光の聖霊は絶対にブレない、嫌いじゃないわ

でもレイを奪ったは違うぞ

私が結夢ちゃんの肌に直接触れると、彼女の見える世界の不幸が流れ込んで見えてしまう

それは耐え難い悪夢のような世界の現実…

他の人は触れても見えないみたいで、結夢ちゃんは私だけ…セリくんだけを気遣って顔以外の肌を隠すようにしている

「確かにもったいない事ですが、それが愛する殿方の為なら仕方ありませんわ」

まぁまぁと楊蝉は光の聖霊を宥める

いつの間にか結夢ちゃんの好きな人がセリくんって楊蝉にバレてる…まぁわかりやすいかな

女の人なら見たらピンとくるわよね

「ま~そうだけど…私もレイや鬼神の為ならこの可愛いネイルも隠すわ……」

もったいないけど…好きな人のコトを想うと光の聖霊も渋々納得して落ち着いてくれる

なんやかんや言ってセリくんのコトも気にかけてくれるツンデレ光の聖霊は良い子よ

ふとした光の聖霊の発言に楊蝉は同じ気持ちと高める

「あら光の聖霊さんも鬼神の中に好きな殿方が?

実は私もですの、鬼神の中で気になる殿方がいてまして…光の聖霊さんはどなたですの?」

8人いる鬼神の中でまさか被るハズはないと楊蝉は同じ気持ちの光の聖霊に興味を持った

「はっ…!?ち、違うわよ…私は別に鬼神なんて…」

マズいぞ…

楊蝉が鬼神を好きになったとは本人から聞いていたけど、光の聖霊のコトはセリくんが勘付いて聞いていた

ハッキリと光の聖霊から聞いたコトはないけど、たぶん一緒の鬼神よね…

女子会した時に聞いた雨の日に傘を差してくれた鬼神

「そういえば鬼神にはそれぞれにお名前がありませんでしたわね

私は特殊な喋り方をなさる方ですわ

そう、稀にセリカ様が話すような感じの」

関西弁のコトか

鬼神はそれぞれに名前がない

全員性別は男で総じて女性に免疫がなく古風で男気があって、見た目や性格はそれぞれ違い個性がある

その中で関西弁を話すのは1人しかいないわ

見た目はキルラのようにちょっとチャラそうだけどイケメンで女性を大事にする優しい良い奴よ

光の聖霊は特殊な喋り方をする人と聞いて、やっぱり同じ人だと気付いて黙ってしまった

「照れてらっしゃるのね、可愛らしい娘」

そんな光の聖霊を見て楊蝉は微笑み

「そんな頃が私にもありましたわ」

と続けた

「セリカ様にお話するのもはじめてですが、実は私未亡人ですの」

懐かしそうに、思い出しては寂しそうに微笑む楊蝉の過去を知る

「そうだったの楊蝉…」

「もうずっと昔の事ですわ、私がまだ気狐の頃

最初で最後の結婚は、そんなに長くはありませんでした

相手は人間の殿方、とても優しく私を大切にしてくださいましたが…

体の弱い方で……10年も一緒には」

私は楊蝉の話を聞いて相槌を打った

楊蝉が人間の男の人と結婚していたなんて…

人間と妖狐…生きる時間が違うのに、早くに亡くなってしまうなんて…どんなに辛かったか

「二度目の結婚はありません

もうあんなに悲しくて辛い想いはしたくありませんわ…

寂しさから男を取っ替え引っ替え、気付けば彼氏が百人ほどいますが

それでも私の心の中にはずっと亡くなった旦那様がいて、今もずっと旦那様を想っていますの」

「楊蝉にそこまで想われるなんて、とても素敵な方だったのね」

楊蝉もまた気の遠くなるような年月を生きている天狐

その楊蝉がたった1人をずっと想い続けていて、その人以上は見つからなかった

それほど楊蝉にとって素敵な人で運命の相手だったんだろう

「最初は鬼神の事をただの男前と思っていたのですが

最近は鬼神と一緒にいると、旦那様の事を思い出すのですわ…

優しい所や笑った所が少し似ているんです」

楊蝉が旦那さんの話をしている時の表情と鬼神の話をしている時の表情が、変わらないのを私は見て気付いた

楊蝉は他の遊びの彼氏百人と違って、鬼神のコトが本気になりかけてるんだって

「っ…そうなんだ……」

私だけじゃない、光の聖霊も気付いてる

もしかしたら結夢ちゃんも気付いたかも

「そ、それなら…二度目の結婚もありじゃない?

鬼神はほぼ不死だから人間と違ってずっと傍にいてくれるだろうし」

光の聖霊は強がって言ってしまう

女心は複雑…そう思ってもいないのに、自分も鬼神のコトが好きなのに

でも楊蝉のコトは嫌いじゃないみたい

嫌いだったら最初の頃の私のように突っかったり敵意をむき出しにする

「二度目の結婚……考えた事ありませんでしたわ

鬼神の事は……

でもそれは…鬼神を亡くなった旦那様と重ねているのかもしれませんわね

鬼神と出逢って昔の事を…旦那様との事を思い出すのです」

私まで胸がキュッと切なくなる

愛する人を失うなんてどれだけ苦しい想いになるか、想像するだけで辛いわ…

「…時間はたくさんあるわ、鬼神にも楊蝉にも

そんなに早く答えを出さなくてもいいハズよ

もっとお互いを知ってから考えてもいいんじゃないかしら?」

「セリカ様……そうですわね…」

楊蝉が望むなら二度目の結婚は応援したいわ

でも光の聖霊の気持ちを考えたら、私は強く楊蝉の背中を押すコトはできない

私はただ、楊蝉にも光の聖霊にも幸せになってほしいだけ

鬼神がどっちを選ぶか、はたまた新しいご縁があるか

私は見守りながら、2人が後悔しない道を後押しするわ

「まずは今の彼氏とは全員別れますわ」

楊蝉が本気出してきた

あのポップと彼氏の数を競っていた楊蝉が、たった1人の男に本気の恋をもう一度はじめるかもしれない前向きさはいつもより輝いて見えた

亡くなった最愛の夫を重ねているだけなのか、心から鬼神を愛して二度目の結婚を決めるのか

楊蝉が幸せになれる答えにいつか辿り着いてね


彼氏と別れると決めた楊蝉は一旦帰るとのコト

さっそく帰る準備をはじめた楊蝉の邪魔をしないように私達は解散となって部屋を出た

結夢ちゃんを部屋まで送って、その隣の部屋は光の聖霊だからそこで別れようとした時

「ねぇセリカ…」

光の聖霊は私を呼び止めた

「…やっぱりなんでもないわ」

「何かありそうな顔して、それじゃ私は帰れないわ」

恋する乙女は複雑なだけじゃなく面倒くさい所もあるのよね

光の聖霊の話も聞きましょうか

「セリカって勇者と違って鋭い…」

「女の勘は男のセリくんにはないからね

それで、光の聖霊も楊蝉と同じ鬼神が好きなんでしょう?

あの雨の日に傘を差してくれた鬼神、特殊な話し方をするって」

「そうよ…でも私はただ気になるだけで本気じゃないから今からでも諦められるわ

新しい良い人を探すの」

ツンと光の聖霊は私から視線を逸らす

「そう、それならどうして私を呼び止めたの?そんな簡単に諦めが付くような話を」

光の聖霊もまた気になるだけじゃない、自分の気持ちが募っていくのをわかっている

「………無理よ……楊蝉姐さんには勝てないって…セリカだってわかってるでしょ?

楊蝉姐さんは凄い美人で誰が見ても鬼神とお似合いだわ」

うーん…同じ東洋系の見た目だから確かにお似合いと言うならそうかもだけど

見た目だけで相手を決めるワケじゃないし、卑屈になりすぎよ

「楊蝉姐さんの話を聞いて、何千年も亡くなった1人を想い続ける

私なんてたった百年の片思いが失恋した程度

好きだった人と死に別れたわけでもないわ」

人間の私からしたら百年の片思いからの失恋も辛すぎて十分凄いと思うけど、この人達の寿命から考えたら違うか

「そんな楊蝉姐さんには幸せになってほしい

だったら私が諦めるしかないじゃない!」

光の聖霊はもう勝手に新しい恋は呆気なく終わったと自分から幕を下ろして涙する

「…なんで?」

私の一言に光の聖霊は面食らう

「なんでって…セリカだって楊蝉姐さんを応援するでしょ!?」

「楊蝉には幸せになってほしいわ

でも、私は光の聖霊にも幸せになってほしいの

勝手に諦めて後悔しないなら好きにすればいいわ

でも、オマエが諦めた所で楊蝉が必ず鬼神と結婚するとは限らないわ

楊蝉は美人だし光の聖霊は可愛い

だけど、鬼神は2人のどちらを選ぶか、それとも他の女性を選ぶか、なんて誰にもわからないでしょ

もしかしたら鬼神は光の聖霊を選ぶかもしれない

その時、楊蝉に譲るの?鬼神の気持ちを無視して?

私なら好きな人の気持ちを無視できないわ

好きな人が私を愛してくれるなら私はそれに応えなきゃいけない

好きな人が他の人を選ぶなら仕方がない

それだけよ」

片思いは辛いし、ライバルと争いたくない気持ちもわかる

でも、好きな相手が誰を選ぶかわからないなら

まだ諦めるには早いと思うわ

「苦しいならおやめなさい、その程度の気持ちよ」

諦められるなら、そんな好きでもないでしょうし

「違う……私、楊蝉姐さんにも失礼だった

楊蝉姐さんの為に諦めるなんて私何様よ

鬼神が誰か選ぶその日まで諦めないわ

だって…もうレイと同じくらい好きなんだもの!!」

ずっと卑屈になっていた俯いた顔はもうない

上を向いて私をまっすぐに見た

レイは不動の1番なのね…

「ありがとうセリカ!」

光の聖霊の明るさが戻ったみたい

「また失恋した時は話聞いてね!!」

「もう失恋する気なの!?」

「だってあの楊蝉姐さんよ!?美人でスレンダーなのにおっぱいも大きくて、年だけ食ってても幼児体型の貧乳の私じゃあね……」

楊蝉は見た目20歳半ばのセクシーなタイプよね

光の聖霊の姿は10代後半くらいの女性だが…

「ちょっと待て、光の聖霊はそんな貧乳じゃないでしょ」

ハッキリ言って、光の聖霊の胸の方が私より少し大きい

「ふふんっセリカ認めたくないでしょうけど、私より小振りなあんたも貧乳だから!抗わないで!!」

抗ってはいないが!?そんな貧乳ではないぞ!?この世界が巨乳を普通と基準にしてるから良くないんだ!!

光の聖霊は急に私の胸を鷲掴みにしてきた

「あっやっぱり…セリカ、ちょっと大きくなった?まだまだだけど

あんたも一丁前に恋して心身ともにメス化してるのね~」

「な、何するの!?」

光の聖霊から離れて胸を隠すように守る

「いやーね、私の話ばかりだからあんたはどうなのって話

イングヴェィと両想いなのに全然進展しないんだから、私が先に揉んじゃった」

えへっと光の聖霊はいたずらに舌を出して笑う

「早く触ってもらいなさいよ、じゃあね」

キャハハと光の聖霊は私をからかって形勢逆転して部屋に帰っていった

……触って…もらう?何を?誰に?

………む……無理…無理無理…無理よ…

イングヴェィとそんなコト…想像できないわ…

まだ早い…!そう早いわ!それにまだ付き合っていないもの、恋人同士にもなっていないんだから

……私も部屋に帰りましょう

それぞれの恋の行方も進展も気になりながら、今日が終わる

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