173話『僕ができるコト』カーニバル編
セリちゃんの悲しそうな…辛そうな顔は、二度とさせないって決めたのに…
僕がタキヤと一緒にいるのを見た時のセリちゃんの顔はとても…苦しそうだった…
僕は大丈夫なのに、セリちゃんのその顔を見ると僕も心が死ぬほど苦しくなって辛かった……
僕は動物のウサギで前の世界ではメスのセリちゃんのペットだった
その時は1歳半で病気で死んでしまってセリちゃんを悲しませて泣かせてしまったコトを凄く後悔していた
もっと生きて一緒にいたかったから…
死後はこの世界に来たワケだが、前の世界とは違いこの世界ではウサギはとても珍しい動物とされていた
不思議なコトは他にもある
僕はウサギでありながら何故か人型に変身するコトが出来て不老不死の能力を持っている
ウサギの姿の時は喋れないが、人型の時は喋れたりするし普通の人間と変わらない
セリちゃんのペットのウサギは3羽で僕は1番上の長男で、不死の能力を持っているのは僕だけ
ネザーランドドワーフのオスでカラーはリンクス
人型の僕はセリちゃんが言うには小学生くらいの見た目で美少年らしく、でも中身は大人の年齢だ
次男のリズムは高校生くらい、三男のパレードは中学生くらいの姿なのにどうして長男の僕が小学生くらいの大きさなのか……
そんなこんなで僕はこの世界でセリちゃんに会えて一緒にいられて凄く嬉しいのに
いつも照れくさくて反対のコト言ったり態度に出したりして…それでも僕のコト好きだって言ってくれる…
僕もセリちゃんのコト大好きなのに……
ちなみにオスのセリちゃんもメスのセリちゃんもどっちも一緒だからどっちも好きだけど
僕はオスだからメスの匂いがするセリちゃんの方がより好き
どうして僕(達ウサギ)がメスのセリカのコトもセリちゃんと呼ぶのか
セリちゃんは僕に話し掛ける時に自分のコトを「セリちゃんね~カニバくん大好き」と呼んでいるからだ
誰もいない空間でペットに話し掛ける時の人間のキモさと言ったら…
いつまでも赤ちゃん扱いで話し掛けてくるとこもキツい
そう、目の前のコイツも同じ
ペット様に見せる人間の顔はみんな似たり寄ったりだ
「カーニバルくぅん~、無農薬の美味しくてあま~いお人参さんあげるからおいでおいで」
おいでおいでと言っておいて、向こうから近付いてくる
ウサギの僕に少しでも顔を近付けようと目の前で伏せて人参を突き出してきた
「可愛いでちゅね~カーニバルくんはいつも可愛いでちゅね~ふわふわでしゅね~もふもふしてますよぉ~」
うわきも、オヤジ寄るな、鼻息が掛かってんだよ
ウサギの姿から人型へと変身してその溶けた顔を蹴る
「おいタキヤ!同じコト何回言わせんだボケ!!
ウサギだからってにんじんが好きってイメージやめろや!!
ウサギはにんじんより甘い果物の方が好きなんだよ
リンゴとかイチゴとか買って来いつったよな!?」
タキヤからスティック型のにんじんを奪ってかじりながら文句を言う
にんじんもちゃんと食べる、美味いからな
「後、勝手にドレッシングとかかけんな!!
人間じゃねぇんだぞ!?食えるか!!」
人型になれば人間の食べ物も食べられるが、タキヤはウサギの僕にドレッシングかけたにんじん差し出してたからな
それに僕は人型になっても野菜にドレッシングとか何かかけるのは好きじゃねぇのよ
「あ~嫌ですねぇ、可愛いのはウサギの姿の時だけで
人型の貴方は見た目も小僧の面影があって、中身なんてそっくりじゃないですかぁ
ペットは飼い主に似るとはよく言ったものですが、こんなに似るんですねぇ…あーやだやだ
生まれた時から私が育て直したいですよ」
「うるせぇな、僕はセリちゃん以外の飼い主なんて認めねぇぞ
人のペット誘拐しといてこの犯罪者が」
セリちゃんに1番似てるのは僕だって言われる
リズムもパレードもセリちゃんに似てない、みんながみんなペットだから飼い主に似るってワケでもないのかもな
タキヤはやれやれと溜め息付いて部屋を出て行った
どうして僕が誘拐されたまま逃げないのか
それはこの首に付けられている厄介なアイテムのせいだ
本当はセリちゃんのコト大好きなのに…いつもツンツンな態度を取っていた罰が当たったのかもしれない…
セリちゃんが不在の時に僕はタキヤに誘拐されてしまった
そして、逃げられないようにこの悪魔の首輪を付けられてしまったんだ
悪魔の首輪は、その首輪を付けた者が主人となり付けられた者は主人に逆らえなくなり逃げられなくなる
それだけじゃない、タキヤはセリちゃんの腕を盗んで大悪魔シンが一手間加えて僕の右腕と付け替えた
白虎のラスティンがずさんなせいでセリちゃんの腕は簡単に手に入れるコトが出来たとタキヤは高笑いしていた
そして僕にこの腕で魔族を殺せとタキヤは命令した…
僕は悪魔の首輪のせいでタキヤの命令には逆らえない
最終的には魔王を殺せとまで言われている
さすがに僕の力じゃ魔王に勝てるとは思えないが、不死だから殺されるコトもないワケだが
万が一僕が魔王を殺すコトになんかなったらセリちゃんが悲しむ
もう二度とセリちゃんを泣かせないと僕は心に決めたって言うのに…
どうにかしてこの悪魔の首輪を外して、セリちゃんの所へ帰りたい
そして抱き締めてもらいたいんだ…
ちゃんと僕も大好きって言う…これからもずっと一緒にいたいから
できればメスのセリちゃんに、もちろんオスのセリちゃんも同じくらい好きだけど
やっぱ本能的にメスの方に……
また暫くするとタキヤが両手いっぱいのバスケットを持って部屋に入ってきた
バスケットの中には美味しそうなフルーツがたくさん…もう食べたい
「待たせてごめんねぇカーニバルくん良い子に待ってたかなぁ~?」
目の前に差し出されたバスケットからイチゴを掴む
真っ赤なイチゴをかじると、とってもみずみずしくて甘さが口の中いっぱいに広がる
良えとこのイチゴや
「遅ぇな、最初から言ったもん持ってこいよポンコツ」
今度は真っ赤なリンゴを手に取って、タキヤに向けて指で下を差した
そうするとタキヤは四つん這いになって僕はタキヤの背に足を乗せる
ちょうど良い高さのフットレストなんだよな~
リンゴをかじっていると部屋にタキヤを呼びに来た神官が的確にツッコミしてきた
「主従関係逆転してるじゃねぇですか!!!!!???
何やってるんですかタキヤ様!?それで良いんですかあんた!?!?!?」
「所詮人間はウサギ様の奴隷なんですよ!!」
「ペット様!!!???
ウサギですよ!?その子は動物ですからね!?
いやー凄ぇですって!!この部屋もたかがペットのために何百万使ったんだって話ですよね!?
贅沢させて我が儘なんでも聞くからそんなに生意気になるんじゃねぇですか
ペットには厳しく躾をしろですよ
逆にあんたが躾されてどうするんですか…」
タキヤは僕の言うコトならある程度はなんでも聞くように躾た
タキヤは可愛いペットに弱いタイプでこの神官はペットに興味ないタイプか
「ぐぬぬぬぬ……わかっていますよ
これも飼い主であるあの小僧のせい……
あの小僧は自分の綺麗な容姿を使って周りの男達をたぶらかす悪魔のような男です
それがペットのカーニバルくんにも似てしまったのでしょう…ウサギちゃんが可愛いからって私は何でも言う事を聞いてしまうのです……」
セリちゃんと僕とでは違うだろ
それにセリちゃんはたぶらかしてるワケじゃないぞ
「逆恨みもこじつけも酷ぇな…
ウサギに勇者みたいな色仕掛けは無理でしょ」
意外に冷静な若き神官、タキヤがめちゃくちゃ言ってるコトも見抜いている
「そんな事より、そろそろ出ないと間に合わない時間です
大地の女神様はお忙しい方なので遅れてはなりませんよ」
そういやタキヤが今日は出掛けるからそのつもりでって言ってたな
勝手に行けよって言ったが、僕も連れて行くとか
理由がまたキモイんだが、ウサギの僕をもふもふしたいからだとよ
僕はオマエのペットじゃねぇっつーの
まぁ結局この悪魔の首輪がある限り、タキヤが命令してしまったら僕は従うしかない
つまりついて行かなきゃならないってコト
どうしてタキヤは大地の女神に会うかって話だが、タキヤのセリちゃんへの粘着は尋常じゃない
女神結夢を連れ去ったコト(実際は女神結夢の意思でついて行ったハズだが)が、嫉妬と妬みで怒り狂っては死んでも許さないってくらいの増悪を持っている
そのため自らの手で殺すのではなく、セリちゃんを自殺に追い込もうとありとあらゆる手段を使い、この先も色々と仕掛けようとしてる
その1つとして僕も誘拐され利用されているんだ
大地の女神は位の高い神族、タキヤはついに上位の神まで利用しようって考えに至っているのか
「お主が女神結夢の所の人間か、妾に何用か当ててやろうぞ?」
大地の女神、名前はいろは
見た目は若い女性の姿をしているが、何千年と生きているらしくあの鬼神を封じた神族の1人でもあるとの話だ
容姿は女神セレンや女神結夢と同じような西洋風な顔付きだが、服装は和風だ
着物を着崩しすぎて露出が高くスカートの丈が短め、若干パンツ見えてるような気もするが…あれは見せパンってやつなのか…?
周りには数匹の猫がお昼寝中だ、女神いろははその猫達を撫でながら話す
「さすがはいろは様、何でもお見通しとは」
えっ話聞いてなかった、女神いろはの格好が派手すぎて
ゆらゆらとかんざしを揺らして、女神いろはは自信満々に言った
「猫ちゃんをもふもふしに来たのであろう!」
「違います」
タキヤつまんねぇな!?もっとなんかあっただろ!?いろはのボケに!!?
大地の女神の国は、猫の国とも呼ばれるほど女神が大の猫好きだ
お金を払えば誰でも猫と遊べる、猫じゃらしを使うなどのオプションは追加料金が発生する
まるで猫カフェがまるごと猫国みたいな感じだ
民の人間達も猫好きが多い
「その隣におる獣よ、お主は大変貴重なウサギとやらではないか
妾の膝の上に来い撫でさせよ」
大の猫好きで動物も好きなようだ
人型の僕をウサギと見抜くなんて、僕は言われるままウサギの姿に戻りいろはの膝の上に乗って大人しく撫でられた
「ウサギちゃんも可愛いのう」
位の高い神族と聞いていたからどんな嫌な奴かと思ったが、ちょっと話しただけではお茶目で動物好きの優しい女神な感じだが…
さてどうかな
「お主の話は言わずともわかるぞ
女神結夢を取り返したい、勇者を追い詰めたい、のじゃろう?
その為に妾に力を貸せと」
「話がお早い、勇者は神族の敵でもございます」
ふーんと女神いろはは右から左に聞き流している
「いろは様もご存知でしょう!?勇者は天が創った人間、神族が忌み嫌う存在のはず!!」
思ってた反応と違うタキヤは声を荒げた
「そうじゃな、妾も忌み嫌うとる
それと同じくらい生死の神を人間がやっていると言う事も許せぬほどじゃ」
和彦のコトか…神族は人間を愛しているが、人間が神のルールを破るコトを決して許さない
ルールを超えて領域に入って来るなど論外
和彦は…他の神族には認められていないってコトか
「それならば生死の神を倒してくださると?」
タキヤはセリくんの大切な人を奪おうと考えてる
あの和彦を神族が総出で倒してくれるならラッキーなコトはないと言わんばかりに期待した顔
それはマズいぞ…!!いくら和彦でも神族が総出で来られたら……
「無駄じゃタキヤよ、妾を焚き付けてもせぬよ
生死の神とは友好関係を築くのじゃよ
そう大空の神が言っておったのでな、大空の神が言うのであれば妾はそれに従うまで
この後、大空の神と一緒に生死の神に会いに行く」
「大空の神……?失礼ですが、仲は良くないとお聞きしていましたが」
タキヤが言うには、大空の神は犬派で大地の女神は猫派でこれまで犬か猫かで争っていたとか
まさに犬猿の仲、いや犬猫の仲
しょーもな!!!!どっちも可愛いで良いだろ!!??
いろはは、そんな犬か猫かで争って何千年、お互いの素晴らしさをわかってもらうために犬と猫を贈り合ったそうだ
すると犬派は猫も可愛いよな、猫派は犬もよいなってコトで関係は改善
これからはお互い仲良くして行こうって長年のしょーもない争いに幕を閉じたとのコト
大空の神はよく見るとイケメンらしく、いろはは好意を寄せるようになったと言う
「大空の神が言うなら、生死の神が元人間だろうが天の子がなどどうでもいい事なのじゃ」
語尾にハートマーク付けるような浮かれた言い方
長年いがみ合って急に恋に落ちるのか!?
そらスカートの丈も短くなってパンツ見せるわ
噂をすれば、遠くからこっちに近付く足音が聞こえて僕はいろはの膝から飛び降りて人型になる
足音が見える所まで来るといろはは椅子から立ち上がった
「天空殿!」
「やぁいろは、久しぶり」
大空の神、大地の女神が好きな男は一体どんな奴か…その姿を確認する
………う、うーん……思ってたのと違う…
大空のイメージっぽく爽やかな優男、ここはわかる
だが、服装どうした?
真っ白なシャツの胸元のボタンが4つくらい開いてるが、そんな何か雑誌でカッコイイポーズ取ってるモデルみたいな格好を日常でする奴いる!!!!????みたいなオレモテまくりますオーラが溢れ出てるんだけど!?
いちいち目閉じて上向く仕草もなんかイラッとくる
「で、この客人達は?」
仕草が全て女子は皆オレが好きみたいな動き腹立つな~ウザイな~面白いな~
セリちゃんは自分が大好きなタイプのナルシストだが、コイツはどうせ君もオレの事好きなんでしょ?オレモテるんでタイプのナルシスト
「生死の神と勇者を倒してほしいそうじゃ」
「女神結夢の所の人間か、しつこいね君」
いつもセリちゃんがタキヤしつこいって言ってたが、神族にまでしつこい言われてんぞタキヤ…
「で、そっちの僕ちゃんは?」
天空はわざとらしく前髪をかきあげる仕草をして流し目で僕を見た
…ツッコミ待ちか?
「僕はセリちゃん…勇者のペットのウサギで、名前はカーニバル」
「ふぅん…そんな物付けられて可哀想だね」
僕の前に来ると天空は首輪に触れる
外してくれるのか?って期待したが、そういうワケではなかった
「だいごろう様」
誰!?!?!?!?!?だいごろうって誰だよ!?
「その古い名前で呼ぶのやめてもらっていいかな?」
大空の神は天空って名前じゃなかったのか!?はじめて聞いた時に違和感はあったが…
それにしてもこのだいごろう、いや天空…の笑顔…何か嫌な感じがする
さっき目が合った時、ゾクッとした
笑ってるのに目が怖い
こんな風に善人みたいな面を貼り付けてるのが僕には嘘臭く見えてしまう
猫殺してそうな顔……
「いろは様からお聞きしましたが、これから生死の神にお会いすると
本当に友好関係を築きに?正気ですか?神族が元人間のご機嫌取りなど」
タキヤの執念は神族相手でも引き下がらなかった
タキヤにとって位の高い神族が向こう側と友好関係を築くのは絶対反対だろう
それでなくてもセリちゃんの周りには最強揃い、それを切り崩したくて仕方ないのだから
「で…?人間の君が神のボクのやる事にケチ付けるって事?
悪魔の次は神族を利用しようなんて、悪い子だな~」
天空の言葉にタキヤは固まった
オレモテますナルシストオーラを振りまきながらも、その中には相手を黙らせるほどの強い圧を感じる
「そう緊張しなさんな、悪魔と関わりがあるなんてちっぽけな事はボクは気にしない
悪魔なんて小物だからさ
位の低い神族は違うかもしれないけどさぁ」
そういうコトか、位が高いか低いか…
和彦と友好関係を築こうとするのは、生死の神は自分達と同じ位が高いからだ
中身が元人間だろうが生死の神の能力は他の神族は持っていない唯一無二
ただ仲良くしていこうとは思えない
いろはは盲目になって気付いていないみたいだが、さっきまでゴロゴロうにゃーんしていた猫達が目を光らせて天空へ唸っている
僕が感じていたコトは猫達も感じ取ったのかもしれない、真意はわからねぇし腹も読めねぇが
コイツは信用ならねぇと感じる
和彦がどう読み取って対応するか……セリちゃんのコトが心配だな
タキヤは生死の神と友好関係を結びに行く2人の後ろ姿を気に入らないと血が滲むほど唇を強く噛むが
本当にそうとは限らないと不安を感じる僕は、何も出来ないままだった
不甲斐ねぇ…
タキヤの国に戻ってきて自室でモヤモヤしながら苺を食べる
セリちゃんのコトが心配なのに傍に帰るコトも出来ない
タキヤも要注意人物だが、あの大空の神と大地の女神のコトも気になるな
とりあえず、セリちゃんが僕のコトで心配してるだろうから手紙でも出すか
僕のお世話係に写真を撮って貰ってそれと一緒にメッセージを書く
これでセリちゃんが安心してくれれば…
……メッセージの最後にセリちゃん大好きって…書きたかったけど…やっぱり照れくさいからやめた
「これ送っといて」
お世話係に手紙を渡して送ってもらう
僕のお世話係…若き神官だが世渡り上手でタキヤに信頼もされていて相手が偉い上司(タキヤ)でもツッコミを入れられる優秀な青年ってイメージだが…
名前はオミノ
動物には興味がないみたいでウサギの僕を可愛がるコトはないが、だいたいのコトはしてくれる
「読めない文字ですね…ウサギ語ですか?」
「セリちゃんの前の世界の文字だよ
セリちゃんに宛てた手紙なんだからセリちゃんだけが読めればいいんだよ」
「ふぅん」
聞いておいて興味なさそうな返事だな
「そんなコトより、タキヤの奴がやってるコトをこのまま放置でいいのかよ
この国の人達が苦しんでるのをオマエは気にならないのか?」
タキヤに誘拐された時はウサギの僕にメロメロで美味しいもの沢山くれるし何でも好きなもの買ってくれるし言うコト聞いてくれるし悪くない奴隷だなって思っていたが、僕には甘いだけでアイツが日頃からやってる行いは目に余るぞ
僕を使ってセリちゃんを貶めようとするコトも許せないが…
「気になるに決まってるじゃねぇですか
それでウサギ様は、おれになんとかしろと言うおつもりで?」
「そういうワケじゃないが…」
オミノがおかしいと思っていても、オミノ1人で止められるとは僕も思っていない
「説得なんて無理でしょうし、この国の人々は知っての通り女神結夢様の加護で不死身の為に倒す事も出来ねぇですよ」
だから困ってるんだよな…
セリちゃんだって決着つけたいのに、どうやってタキヤに勝つかがまったく見えていない
帰りたいって思っていたが、タキヤの懐にいるってコトは僕がタキヤの弱点を探るチャンスじゃねぇか?
「ウサギ様は諦めてねぇんですね」
「ん?」
「悪魔の首輪を付けられてどうしようもねぇのに、どうにかしようって強い意志を感じます
おれは諦めてますね…」
この悪魔の首輪は意志まで支配は出来ない
タキヤの命令には逆らえないが、命令さえされなければそれ以外は自由
ふっと笑い飛ばす
「諦めたら大切なもんを失うって、わかるだろ?
オマエには大切なもんねぇのかよ」
「おれは親も兄弟もいない独り者だったので、たまたま人手不足だった時にここに拾われたわけです
ここがなくなったらまたおれは1人になる
タキヤ様のやってる事が間違ってるとわかってても、おれはどうもしません
多少の恩はあるので」
オミノの言葉は、タキヤに絶対的な忠誠心があるとは感じられないものだった
ただ1人になるコトを恐れているように感じる
間違ってるとわかってても……その部分は…
人事に思えなかった…
「……僕が言いたいコトは、その間違ってるとわかっててもタキヤの下に居続けたいか
未来なんてわかんねぇじゃん
この先は孤独じゃないかもしれないし、最悪ずっと孤独かもしれない
わからないなら、明るい方に希望持つ方が良くないか?
受け入れられないものにしがみついても幸せじゃない
最底辺だって思うなら、這い上がってやろうじゃん」
僕はこの世界に来てからずっと自分は食べられる側だと思っていた
痛いし苦しいし辛いし悲しいし、何も良いコトなんてない
それが僕の運命だって…セリちゃんを悲しませた罰だって…
でも、そんなの違うんだ
セリちゃんと再会して
こんなコトは嫌だって
そんなの最初からわかってたコトなのに、ずっと悪いコトを嫌なコトでもそれが運命なんて自分に言い聞かせてバカみたいだった
そうじゃないと…生きていけなかったから
でも本当はずっとずっとセリちゃんとまた一緒に暮らしたかった
大好きって撫でて貰いたかった
諦めるなんて早いだろ、みんな幸せにならなきゃ意味がない
「おれは自分が最底辺とまでは思ってませんけど……」
オミノは無意識に力が入っていた僕の言葉に若干冷めて引いていた
滑ってる!?!?
「ウサギ様からそんな言葉が出るなんてね~
可愛がられてきた温室育ちのぼっちゃんと思ってましたが、それなりに苦労なされているようで」
ハハハとオミノは心が緩んだように吹き出す
「ナメんなよ、可愛いから苦労知らずなんてそんな世の中甘くねぇぞ」
「タキヤ様を止めるのは難しいですよ
特別扱いされて調子乗ってるウサギ様は考えが甘いのでは」
「ふん、この僕のウサギ様の魅力でメロメロにして跪かせてやる」
セリちゃんを守るためにも…僕は諦めたりしない
「すでにメロメロで跪いてますよね
……なんとも情けねぇです、ウサギ様頼みとは
おれも本心はタキヤ様を止めてこの国を元に戻したいです
女神結夢様がいた頃のような幸せな国に……
きっかけはあった…おれにも好きな娘がいて家族になれたかもしれないと
あの頃に戻れたら……
今度はそのチャンスを逃さないようにしたいです」
なんだオミノの奴…ひとりぼっちとか言っておいて好きな女の子とかいたんじゃん
なら、頑張らないとな
この国の幸せを取り戻そうと、さっきまでのオミノの濁った目に光が宿る
「良いじゃん、幸せ掴みに行こうぜ
それから僕はウサギ様だけどカーニバルって立派な名前があるんだぞ」
セリちゃんはカニバって呼ぶけど
じゃあ僕は今日疲れたからもう寝ると言ってウサギの姿に戻った
ベッドに飛び乗って、バタンと倒れる
「カーニバル様!?どうなさいました!?」
反応しない僕にオミノは慌てる
「目開けっぱで大丈夫ですか!?」
うるさいな寝てるんだよ
ウサギはゆっくり横になるってコトが出来ない
コテンと倒れて横になるしか出来なくて、目を閉じて寝る子もいるが、僕はタキヤの陣地で警戒して目を開けて寝る
騒いでいたオミノはとりあえず僕が息をしているのを確認して暫く様子見てたが、やっと大丈夫と気付いて部屋から出て行った
次の日、タキヤが朝早くからご機嫌取りに来ていた
「カーニバルくん~今日も魔物を倒してレベルアップしましょうね~」
「なんか肩凝ってるなぁ」
一言呟いただけでタキヤはさっと僕の後ろに回り肩を揉む
「足のむくみが…」
さっとタキヤは僕の足を揉んでくれる
できれば魔物は倒したくない
セリちゃんが魔王の香月と仲良しだから、その仲間の魔物を倒すなんて…できない
でも、タキヤに命令されたらそうしなきゃならなくなる
それに、タキヤはただ単純に僕がセリちゃんのペットで不死だからってだけで起こした行動ではない
僕が持っている武器が決定打だ
僕が魔王を倒すためにタキヤから渡された武器はあの有名な神剣
世界三大武器と呼ばれる聖剣、神剣、魔剣の1つだ
聖剣はイングヴェィの所で厳重に保管されていて、魔剣は行方がわからないもの
神剣は神族の誰かが持っていると噂はあったその神剣をタキヤはどうにかして手に入れたようだ
どうやって手に入れたかは教えてくれないが、神族がはいどうぞと人間のタキヤに渡すとは思えねぇ
この神剣が本物かどうかは確かめる術もないが、勇者の力は普通の武器では耐えられないほどの強力なもの
それに耐えられているのだから本当に本物の神剣か、あるいはそれに近い伝説レベルの武器と言うコトは間違いない
つまり、魔王を倒すにはいくら勇者の力を持っていても伝説レベルの武器がなければ不可能
この神剣を手に入れた時点でタキヤは僕を利用するコトに考えが至ったワケだ
「喉が渇いた」
「無添加リンゴジュースをお持ちしました」
ストローに口を付けてリンゴジュースを美味しく頂く
「カーニバルくぅん…そろそろ……魔物を倒しなさい」
ちっ、ダメか
命令されたらそのように動くしかできない
この前は腕試しに遠出させられたけど、セリちゃんと鉢合わせして一旦帰ってきたんだよな
この辺りの魔物もどんどん強くなっている、レベルを上げるだけならこの辺りでも十分とタキヤは毎日僕を外へと連れ出した
国の外へ出ると、浮浪者らしき人物に声をかけられた
フードを深く被ってて顔は見えないな…
「あの…」
だが、タキヤはその人を無下に扱った
「何ですか?薄汚いですねぇ」
「返してください…」
タキヤの足元にすがりつくと、タキヤは手加減なしでその人を蹴飛ばした
「おいやめろタキヤ」
「そこで座り込まれたら邪魔なんですよ」
動こうとしないその人をタキヤは執拗に踏みつけ蹴り飛ばす
「やめろって言ってんだろ!?」
しつこい性格は知っていた、言って聞かないなら力付くで止めるしかない
タキヤを蹴飛ばして止めさせる
反省しろアホ
「…ウサギ様の脚力は命に関わると思いました」
遠くまで吹き飛んで転がっていったタキヤの感想を無視して、僕は目の前の人に手を差し出す
「返してください…」
「えっ…?」
「その剣…私のものです……!」
目の前の人が僕に襲いかかってくる
深く被ったフードの下から鋭い牙と大きな口が見える
草食獣の僕はその大きな口と牙を見て肉食獣と同じ気配を感じ、逃げなきゃって咄嗟に頭にはあっても身体が人間の姿の僕の反射神経はウサギの時と比べて鈍くなっている
逃げられ…ない…!?
「この…!!無礼者め…!!」
だが、タキヤが僕を押しのけて代わりに腕を噛み付かれ引きちぎられてしまった
「タキヤ…!?」
なんで…僕は不死だぞ、庇ってもらわなくても死なない
タキヤだって女神結夢の加護があって死にはしなくても痛みはある
腕を引きちぎられる激痛は僕も知ってるし、あの激痛を身代わりするなんて……
「返して……返して……」
タキヤに突き飛ばされた何者かは同じ言葉を繰り返しながら、タキヤの腕の肉を食っていた
ど…ういうコトなんだ…?コイツは何者だ?
肉を夢中で食ってるってコトは腹が減ってたのか?暫く襲ってくる様子はない
「この剣を返せ、私のものと言っていたが
どういうコトだ?タキヤ」
僕が持っているのは神剣だ
しかし、神剣は神族の持ち物だという噂
この何者かはとても神族には見えない
神力を感じないし
どちらかと言うと…
「ぎくぅ……」
なんだそのわかりやすい反応は?タキヤは僕の視線を逸らし吹けない口笛の真似をする
「おいこらタキヤ、まさかテメェ盗んだとか言うんじゃねぇだろうな?
盗品を僕に持たせるってふざけんじゃねぇぞ!?」
「落ち着いてくださいカーニバルくん」
「やったかオマエ?」
「やりました」
はーーーー!!信じらんねぇ!!!コイツ、マジで何でもやる奴とは思っていたが…もう最悪
「し、しかしですよカーニバルくん
盗んだわけではありません
私は持ち主がいなくなった神剣を拾ったに過ぎません」
「はっ?」
「神剣の持ち物は、戦いの女神です
その戦いの女神はもう存在しないのですよ」
戦いの女神…?位の高い神族の1人ってコトくらいしか知らないが
タキヤは戦いの女神がどんな神族かを教えてくれる
戦いを司っているが、実は戦うコトが嫌いでわかりやすく表すには平和の女神
でも司っているのが戦いだからそう呼ばれているだけで、争いが起きた時には神剣を持って平和へと導くと言われている
と、カッコ良い感じの神族だが
性格は優柔不断で意思が弱い
「ん?戦いの女神は存在しないって言うが、あそこでオマエの肉食ってる奴は誰だよ?
返せって言うくらいだから、この流れから僕はあそこにいるのが戦いの女神と思ってしまうが」
「正解です」
ん?ん?んんんんん????もっとワケわかんねぇぞ!?
「あれは戦いの女神の成れの果てです」
神力も感じないが…?女神っぽくない容姿だし…
大きな口に牙、やせ細ってガリガリな身体
…姿形が変わってる…?
神族は魂で姿が変わるって…セリちゃん言ってたよな
戦いの女神はいない、でも存在はしている姿形は変わって……
もしかして…
「オマエ、戦いの女神を殺したのか
神族をある意味殺す方法、それは堕落させるコトだ
それにオマエは気付いた
人間が神族を堕落させるコトなんて絶対にできないが、戦いの女神はオマエに付け入れられるような性格だった」
「賢いですねぇ!!カーニバルくんは賢い子です!!
正解ですが1つ、私は自分で気付いたわけではありません
神族を堕落させて殺す方法は大悪魔シンが教えてくれましたよぉ
戦いの女神が簡単に堕落するような神族だって事も、それが神剣を持つ神族だったのは運が良かったです」
悪魔と手を組んだら戦いの女神なら堕落できたってコトか
シンの奴は色々と厄介な悪魔だぜ…
「試しに神剣を返してみても構いませんよ?
堕落した戦いの女神が神剣に触れればいいですねぇ」
クククとタキヤはもうそれは無理だってコトをわかっている
「タキヤ…神族を堕落させて殺すなんて…他の神族が知ったらどうするんだよ
もうオマエ後戻りできねぇコトしてんぞ」
「小僧を死なせる為なら何でもしますよぉ?その為に貴方を誘拐したんじゃありませんか
今更後戻りする事など考えておりません」
嫉妬に狂ってもう悪魔に魅入られたタキヤはその執着から解放されるコトはないのかもしれない
もっと早くにタキヤを説得できてたら…また話は違っていたかもしれないが
長すぎた…大悪魔シンがタキヤの隅々まで支配するには十分の時間が流れてしまっている
「返して!返して!返せーー!!」
タキヤの肉を食い切った戦いの女神はまた僕を襲ってきた
神剣を突き付けて見せたが、戦いの女神は神剣に見向きもしない
もう…この人も……飢えを満たすためだけに人々を襲うコトしかできない
返しての言葉は戦いの女神だった時の名残
「この女もしつこいですねぇ、カーニバルくん危ないのでこの女を始末するまで神殿から出ないようにしましょうか」
またタキヤが自分の腕を噛ませてくれてやった
なんで…タキヤは僕を庇ってくれるんだろう……
腕を引きちぎられる苦痛に歪む表情を見ていられなかった
暫くして女神結夢の加護でタキヤの腕は元通りになるとは言っても…
「タキヤ……」
「さぁ早く…帰ったら美味しい甘い苺を食べさせてあげます」
コイツは…セリちゃんを追い詰めるために悪魔と手を組んでそのために今までどんな悪いコトでもやってきた…
腕の痛みくらいの罰じゃ足りなさすぎるくらいに
でも…僕を庇うのはどうして…可愛いウサギだから?
情けをかけるな、僕は…オマエが嫌いで憎い
セリちゃんを死なせようとするオマエを許さないぞ
「その人はどうするんだ…」
「堕落したら悪魔の仲間ですからねぇ、外に出る度これは鬱陶しいのでシンに連れて行ってもらいます
悪魔の世界で仲良く暮らしてもらいましょう」
とりあえずは殺されたりはしないのか…
戦いの女神を神族に戻してやる方法とかないのかな
タキヤのせいで、こんな姿にされるのはあんまりだ……
もう戦いの女神の面影はない
平和の女神とも呼ばれる彼女には、誰かを傷付ける牙なんてなかったハズだ
いつかこの神剣を返せるコトができたら……
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