174話『契約の幸せ』セリ編

死者の国に帰って、カニバが誘拐されていたコトをセリカに知らせる

イングヴェィが自分の城に確認を取ると、カニバはいるとリズムが言っていたそうだが

よくよく調べてみるとカニバに似せたぬいぐるみだったって話みたいだ

それでカニバが誘拐されたコトに気付かなかったのか

リズムはセリカのコトが大好きで良い子なのは間違いないが…ちょっと…いやかなり抜けてる子なんだよな

「カニバ…大丈夫かしら……心配だわ」

セリカの溜め息と一緒に俺も心配でたまらない

すぐにでも助けに行きたいけど、イングヴェィとフェイに止められて何もできない

当然だよな…まずはどうやって助けるんだって話だ

セリカの部屋でカニバの心配をしていると、ドアをノックされてイングヴェィがフェイと一緒に入ってきた

「セリカ様、お可哀想に…綺麗なお顔が曇っております」

フェイは俯くセリカの傍に寄り気にかけた

俺は気にかけてくれないんかい

「セリくんもセリカちゃんも顔をあげて、君達に手紙が届いたよ」

そう言ってイングヴェィは俺に手紙を渡してくれた

セリカも覗き込むようにして手紙を見る

差出人はカーニバル…?カニバから!?

急いで封筒から取り出した中身は、数万の写真と1枚の手紙

写真を先に見ると

「………思ってたんと違うな……」

タキヤに誘拐されてどんな酷い目に遭ってるか心配したが、写真はまったくそんなコトはなかった

むしろ、至れり尽くせりの贅沢三昧

思ってたより不自由ない贅沢な生活してんな…

部屋は豪華で何でも揃えられているし、食べ物もカニバの好きな美味しそうなものばかり

しかも、あのタキヤがカニバの肩や足を喜んで揉んだりしてる写真まである

挙げ句の果てにタキヤが四つん這いになってカニバのフットレストまでやってるぞ

どうした?

こんなデレデレになったタキヤの恥ずかしい行動の数々…

完全にウサギのカニバにデレデレの虜になってしまっている

まぁわかる、ウサギは死ぬほど可愛いからな

でも、これは可愛がりすぎでは…

それに、この写真誰が撮ったんだ?

盗撮っぽい感じでタキヤは気付いていないが、カニバは気付いてる感じでしっかりピースサインまでして笑顔だ……

タキヤの奴、こんな姿を俺にだけは見られたくなかっただろうな~…

カニバはその辺もわかっててやってそうだ

それもこれも俺とセリカに心配かけさせないように…

「……さすがセリくんとセリカちゃんのペットだね…」

どういう意味!?

イングヴェィはちょっとビックリと笑う

「本当に飼い主そっくりですね、男を手玉に取るのだけは得意」

「は??????」

フェイからは悪意しか感じない

「いいじゃありませんか、酷い目に遭うよりは」

「それはそうだが、一言ムカつくんだよオマエは」

写真だけでカニバは不自由ない、贅沢すぎるくらいの生活をさせてもらえているのがわかった

それだけでもセリカはまだよかったとホッとする

次に手紙を読むコトにした

『セリちゃん心配しないで

写真通り僕は元気にやってるよ

セリちゃんのコトだから僕を絶対助けるってムチャするだろうし、心配してるだろうけど

そんなの必要ねぇからな!

僕だっていつまでもセリちゃんに守られてるただのウサギじゃないんだ

ちょっとくらい信頼してくれないと拗ねるぞ!!

いつか帰るから、待ってて』

このカニバの文字は俺達の前の世界の文字だから、タキヤやその周りの人は書けない

それに字も俺と似た書き方をするから本人が書いたもので間違いないな

ウサギだから本来なら文字の読み書きはできないが、カニバは勉強したいって気持ちが強くて読み書きができるようになっていた

「そっか…カニバ…」

手紙を読んで、カニバがどんな子だったかを思い出す

カニバは俺から見たらペットのウサギでいつまでも子供のようで、でもカニバはそれが気に入らなかった

いつまでも赤ちゃん扱いすんなっていつも怒ってたっけ

「カーニバルくんは賢い子だよ

信じてあげてもいいんじゃないかな」

イングヴェィの言う通りだ…

俺もそろそろカニバのコトを一人前として認めてやらないといけない

「でもやっぱり心配だわ…」

そうなんだよ…心配は消えねぇんだよ…

それが飼い主だよな……

「そうだね、心配だね

でも、カーニバルくんが信頼してほしいって気持ちもわかってあげてほしいな

大好きな人には心配かけさせたくないし、信じてほしいんだよ」

イングヴェィの言葉はとても優しく正しかった

俺がカニバの立場なら、信じてもらえないのは辛い

それに二度と泣かせないって決めたのに、心配かけさせて泣かせるなんて絶対に嫌だ

それなら

「カニバを信じるわ…」

それがカニバのためだ

「うん…」

イングヴェィに信じてあげて偉いと俺とセリカの頭を撫でてくれる

撫でてもらえるのは嬉しい……

カニバもナデナデ好きだったな…帰ってきたらいっぱいナデナデしてやらないとな

しかし、1つ気になるコトがある

カニバが勇者の力を使えているコトだ

和彦が俺の身体で生死の神と戦った時は勇者の力は使えなかった

なのにカニバはセリカの右腕だけで勇者の力が使えている

……ラナが、俺の手を引っ張って自分を殺させたのと似ているのだろうか……

俺の中身が代わってしまうなら使えないが、離れただけの腕は有効

よくわからないが、和彦の時との違いはそうと考えられる

なんにせよ、カニバのセリカの右腕が勇者の力を持っているコトは確か


カニバのコトは信じると決めたものの気にはなりながら、自分の部屋へ帰る

さっきセリカから聞いたが、閉じこもっていたレイは解放されて今は自由にしていると言う

力の強さは失ったが、様子は前と変わりないって話だ

久しぶりにレイに会えるのか…

ちょっと緊張するな

「で、なんでオマエ付いてくんの?」

隣を歩くのはフェイ

「レイが私に用があると」

ふーん……

数秒でもコイツと2人っきりなんて嫌だな~と思いながらも久しぶりにレイのいる自分の部屋に帰った

「セリ…!おかえり、心配かけたな…すまなかった」

ドアを開けると、レイの変わらない爽やかな笑顔が出迎えてくれる

ずっと…心配していたんだぞ……

大悪魔シンと対峙して魂を半分奪われた時、凄く怖かった…

レイが死ぬんじゃないかって……

「……レイ…無事でよかっ」

レイの姿を見て思わず気持ちが溢れてそのまま駆け寄ろうとしたら、フェイに腕を掴まれ止められる

「悪いセリ、今すぐ君を抱き締めたい気持ちはあるが」

レイは俺のフェイに掴まれていない方の手を掴んで指を絡める

レイの手…久しぶりで…ドキドキする

このまま抱き締めて貰いたいのに、どうして…?

「暫くは和彦さんの所へ行っておいで」

「えっ…?」

レイらしくない言葉…

レイが自ら俺に和彦の所へ行くように言うなんて……

らしくなくても目の前のレイが偽者とは感じない

そもそも偽者の侵入を許すほど和彦の聖域は甘くない

「そういう事なのでセリ様は和彦様の所へ行ってください、それじゃ」

何か言う前にさっさと部屋から追い出されドアを閉められてしまった

な……えっ…?どういうコトだ…?

ポツーンと1人廊下に立たされる

えっ!?なんだよそれ!?久しぶりに会ったのに、俺スゲー心配してたのに

………抱き締めてもくれなかった……

最近レイとフェイは仲が良い、俺に何か隠しているのか…?

なんだか除け者にされた気分だ

2人とも俺のコトなんて、どうでもいいのか!拗ねるぞ!!

「ってコトで暫く和彦の所にいていいか?」

和彦の仕事場に行って半分愚痴も含め膨れていた

「好きなだけいるといい」

そう行って和彦は部屋の鍵を渡してくれる

「今日は帰りが遅いから先に寝ていろ」

相変わらず仕事が忙しいみたいだ

俺が来たコトで鬼神が気を使ってお茶やらお菓子やらを出してくれる

みんなニコニコと俺を眺めていて…うーん、長居は出来ないな

セリカも言っていたが、俺がいると鬼神の手が止まる

「和彦…帰り遅いのか

お仕事頑張って、あんまり無理するなよ」

「フェイもレイもセリくんの事を考えている、信じてやってくれ」

和彦は2人が何を考えているかわかっているようだ

「あの2人の事だから手荒になるかもしれないが」

一体何考えてやがんだ!?

フェイが鬼畜野郎なのは知ってるが、そんな奴とレイは何を…

信じたくなくなってきた

レイのコトは信じていたが、フェイが絡むと信じたくねぇぞ

あの優しいレイが……いやでもレイは俺に優しいだけで俺以外だと結構キツいんだよな…

だからなのかも、レイとフェイの気が合うのは

「セリくんにまで悪影響を及ぼすならオレが止めてやるからそんな不安そうな顔をするな」

余計に不安になる!?和彦が止めるほどって相当だぞ!?

これ以上何か言って怖いコト返ってきたら眠れなくなりそうだから黙って出て行くコトにした

和彦の部屋に行って預かった鍵で中に入る

当たり前だがシーンと静まり返った部屋はなんだか寂しかった

いつも誰かと一緒だもんな…

明かりをつけてソファに寝ころぶ

……あっ夜ご飯食べてから来ればよかったかな

なんか面倒くさくなってきた

…最近、気分が沈むな

心配事ばかりだからかな…香月のコトもレイのコトもカニバのコトも……

いいや、とりあえず先にお風呂入ろっと

お風呂から上がったらご飯食べようと思ったけど、食欲がなくてそのまま和彦の帰りを待つ

先に寝てろって言ってたけど…和彦の顔が見たい

だけど時間だけが過ぎていって、帰ってくる気配はない

本当に帰ってくるの遅そうだな…もう起きて待ってるのも限界だ

和彦のベットで横になると、さらに眠気が襲ってくる

和彦の匂いがする…良い匂い、落ち着くな…

スッと眠りに入って暫くすると、物音が聞こえて目が覚める

まだ外は暗い真夜中か…

「……あっ、和彦…おかえり」

「悪いセリくん起こしたか」

「起きて待ってたんだけど、寝ちゃった…」

「先に寝てて良いと言っただろ無理するな」

ベットから出ようとすると、まだ着替えていない和彦が俺に寝るように肩を掴む

「でも…せっかくだから一緒に寝たいし」

「これから風呂に入るから先に寝て」

「じゃあ起きて待ってる」

無理矢理眠気を我慢しようとすると和彦が仕方ないなと笑う

「わかった、セリくんが寝るまで添い寝してやるから」

和彦が添い寝してくれて俺は抱き付いた

「…俺ワガママ言ってる?」

「いや、オレもこうしたかった」

あったかい…和彦のぬくもりも匂いも…その優しく頭を撫でてくれる手も…安心する…

「明日は早く帰れるようにするよ

気晴らしに、久しぶりの夜デートしよう」

「いいのか…!?仕事忙しいのに俺なんかのために」

デートと聞いて一気に嬉しい気持ちが高まる

「オレだってたまには気晴らしがしたいぞ」

「和彦の気晴らしに一緒にいるのが俺でいいの?」

「セリくんがそんなに卑屈になるなんて…もっと早く誘うべきだった

オレはセリくんじゃないと気晴らし出来ないよ

もうおやすみ」

自分でもあまりわかっていなかったのに和彦は俺の心が疲れているんだって気付いてくれる

額におやすみのキスを貰って、目を閉じた

1日休みを取れるコトはなかなか厳しいみたいだが、夜だけでも一緒にいられるなら嬉しい

明日の夜を楽しみにしながら愛しい人の隣で眠りについた



次の日の夜、和彦は約束通り早くに帰ってきてくれた

「おかえり和彦!」

「ただいまセリくん」

出迎えると和彦は俺の顔を見て嬉しそうに笑ってくれたから、なんだか俺も嬉しい

「待ってた」

「帰ってきて、セリくんがおかえりって出迎えてくれるのは良いもんだな」

な…なんか…それは照れる…

軽く照れていると和彦が俺の顔をじっと見ているコトに気付く

「どうか…したか?」

そんなに見つめられると…

「やっぱり…セリくん、疲れてるんじゃないか?」

「えっ?」

言われて俺は慌てて自分の頬に手を当てる

肌荒れしてるとか!?クマができてるのかも!?唇の色が悪くなってたり!?

ちゃんと鏡見てから出迎えればよかった…

いつもセリカが綺麗にしてくれてるから俺はそんなに気にしていなかったが…

和彦に綺麗じゃないって言われたら、それはさすがにショックだぞ

「心配しなくても、セリくんはいつも綺麗だよ

今日も可愛いし綺麗だね」

うーん…そうストレートに褒められると照れる…ずっと照れてる

そうだよな、セリカのお手入れは完璧だもん

「そうじゃなくて元気がないって意味だ」

和彦に頬を触れられて、そう言われて…

あぁそうなのか……って気付かされた

確かに最近ちゃんと眠れていないし、心配事も多く

疲れてるのかも…じゃなくて、自分でも気付かないうちに疲れてたんだ

「よくないな」

「心配してくれてありがとう…でも、そのうち元気になるから大丈夫」

「セリくんの大丈夫は信用ならない

我慢して無理して、自暴自棄になる」

「大丈夫だって、みんながいるからもう自暴自棄になったりしないって」

和彦はあの時のコトを心配してるんだろう

周りに誰もいなくなって俺が全てに絶望して自ら命を絶とうとしたコトを

心配されて当たり前だ…

だけど、もう1人じゃないもん……そんなバカなコトはしない

和彦は俺を引き寄せて抱き締めてくれる

「…香月に会いに行くか?」

意外な言葉が和彦の口から出て、俺は一瞬言葉に詰まる

香月のコトは和彦にも話していた

俺を殺そうとする呪いのようなものにかかっていて、会いたくても会えない

そんな状態の香月に会いに行くか?なんて

「セリくんには香月が必要だ

香月がいないと、きっと乗り越えられない…」

「乗り越えられない…?」

「セリくんの運命を変えるために、オレだけじゃ無理だろう」

運命を変える……和彦も考えていてくれたんだ

それだけで嬉しい

俺だって、みんなともっと一緒に生きたい

もう同じような辛い運命の繰り返しは嫌だ

「だから、香月に会いに行こう

何か手はあるはず、セリくんの事はオレが守るから」

嬉しいよ和彦、そこまで俺のコト想ってくれて

でも和彦が殺されるかもしれないと思うと、うんとは言えない

和彦と香月は一度戦ったコトがある

その時は若干和彦の方が上だったが、それは香月が人間の時だったからだ

今の香月は完全な魔王として力を取り戻してるし、勇者の俺でも魔王とは互角

必ず勝てる相手じゃない

和彦も人間から神族となって人間の時よりは頑丈だろうけど、不死ではないなら…

「ううん…香月には会えない」

俺が一緒にいたら和彦も危ない目に遭う…下手したら死ぬかもしれないんだ

そんなコトになる可能性があるなら、香月に会いたい気持ちは叶えられない

「わかった、すぐ休みを取るから」

「会えないって言ってるんだけど!?」

わかってないぞ!?

「オレがそう決めた、セリくんは従うまで」

「ちょっと待て!?オマエはわかってねぇ!?香月の本気の恐ろしさを!?

いくらオマエでも香月の見えない力に、どうやって戦うつもりなんだよ!?」

勇者の俺でも見えないんだぞ、なんとなくわかるってふんわりとした感覚だけで戦えはするが

勇者以外、同じ魔族でもそのなんとなくすらも感じ取れない

「見えない力?面白い、本気の香月と戦ってみたい」

ダメだコイツ、面白がってる

こんなに俺が心配してるのに…

「死ぬかも…しれないんだぞ……オマエにまた死なれたら…俺は今度こそ生きていけないって……わかってるだろ」

生死の神に和彦を殺されてどんだけ辛かったか…絶望したか…

なんとか上手くいってこうして和彦は生きてるけど…

いつもそんな上手くいくとは限らないんだぞ

「オレは死なないって言っただろ?セリくんを置いて死んだりしない」

「バカッ!!!!!考えが甘いんだよ!!

香月の強さは俺が1番よく知ってる

どんなにオマエが強くても、香月には勝てない

見えない力だけじゃない、魔族の香月は勇者の俺にしか殺せないんだ

和彦じゃ絶対に勝てない相手なんだよ

わかるだろ!?」

俺はこんなに心配してるのに、和彦にとって俺の言葉は許せなかったみたいだ

和彦より香月の方が強いって俺が思ってるコトに、和彦は珍しく怒った

「……セリくん、オレが香月より弱いって?」

静かな怒りが…滅多に怒らない和彦の恐さを感じる

和彦には自分をもっと大切にしろと怒られたコトはあった

一度か二度、それは俺のために怒ってくれた

でも今回は違う、はじめて和彦は自分の怒りを見せる

いや、怒りと言うより嫉妬だったのかもしれない

「そういう…ワケじゃ……

どっちが強いとかじゃなくて、俺は和彦のコトが心配で」

「魔族の香月はセリくん以外に殺せない事くらいは知っている

勝つ事は殺す事じゃない、オレは香月にも負けはしない」

静かな怒りは収まらないまま

はじめてかもしれない…和彦と喧嘩したのは

俺が怒って和彦がまぁまぁと宥めるみたいなのはたまにあるが、マズい…和彦のコト怒らせちゃった…

和彦は自分の強さに自信もプライドもある

俺だってわかってる、和彦がめちゃくちゃ強い奴だって

でも…香月の強さも俺はわかってる

正直、どっちが強いかなんてわからないよ

俺が心配なのは

香月は俺にしか殺せない

だから和彦に殺されるコトがない

だけど、和彦は香月に殺される可能性がある

「違うもん……喧嘩したいワケじゃなくて…俺は和彦が心配で……」

怒ってる和彦は恐いけど、それよりもしかして嫌われたかもって方がずっと怖くて悲しくて……

涙が溢れて零れていく

「嫌いにならないで…」

涙を拭う手を和彦に掴まれ、頬に残る涙をキスで拭ってくれる

「嫌いになるわけない

オレも大人げなかった…心配してくれてるってわかってるのに

香月の事ばかり言うから、嫉妬した」

ごめんって謝ろうとする前に和彦は俺の口を塞ぐ

「好きだよセリくん、泣かせて悪かった…」

キスの合間に愛を伝えてくれて、熱く深いキスが続けばその息苦しさも愛しく受け入れる

俺も和彦が好き…大好き

抱き締められた腕の中で立っていられなくなる

「はっ…はぁ……」

和彦の唇が離れると、力なくもたれかかってしまう

これから夜デートで出かけるのに…変な気分だぞ

いつもキスだけで腰が砕ける

「んー…デートはまた今度、一晩中セリくんを抱きたくなった」

「えっ…!?や、約束が違うぞ!?和彦がウソ付く気か!?」

「嘘じゃなくて気が変わっただけ、それにどこかに出かけようなんて言ってない

お家デートって事で」

和彦に軽々と抱き上げられて、もう逃げられる気がしない

そ、そりゃ今夜はそうなるかなとは思ってたけど…

「セリくんが嫌ならしないけど?」

「嫌ではないけど…」

いつも恥ずかしくなって逃げてしまいたくなるヘタレなだけ、嫌なんじゃない

「それじゃ一緒にお風呂入ろうか」

うんと頷く

和彦と一緒にいられるのは嬉しい

愛されるのも幸せだよな、いつも

その後、朝まで寝かせてもらえなかった



目が覚めたのはドアのノックで

目を開けると和彦の姿はなかった

まぁそうか…仕事忙しいもんな

「眠い…」

起きれる気はしない、ちょっとしか寝てないし

居留守でやり過ごそうと無視してると、ドアをノックする音が乱暴に大きくなってきた

これは和彦を訪ねて来たって感じじゃないな…俺がいるってわかってて俺を呼んでるみたいだ

「いるのはわかってるわ!早く出てきて!!セリ様!!!」

ん?この声は…マールミか?どうしたんだ?何かあったのか?

ドアを開けると、やっぱりいたって顔をされる

「おはようセリ様」

「おはよう、何か用か?」

「寝起きって感じですね!昨日は和彦様とお楽しみだった?」

意味わかって言ってるのか!?

この世界の子供怖いんだよな

遠慮なく聞いてくるマールミの質問にはスルーして

「用がないならドア閉めるぞ」

二度寝したい

「恋人の部屋に泊まって何もないって事はないよね~」

「閉めるぞ!?」

何もない日だってあるぞ!?いつもそういうコトしてるワケじゃねぇもん

「わーごめんなさい!用ならある!ありますって!」

マールミはドアの隙間に足を入れて閉められないように抵抗した

「なんだよ」

「買い物に付き合って!」

買い物か、マールミはここに来て間もないから街のコトよく知らないよな

俺もそんなに詳しくはないが、付き合うくらい良いか

「わかった、準備するから待ってて」

「ありがとーセリ様!結夢様ってば全然物がなくてアタシが色々揃えてあげないとね」

そういや結夢ちゃんの部屋ってシンプルなイメージだな、必要最低限の物しかない

ほしいものがあったら遠慮なく言ってくれって言ってるのに

女の子の部屋ってそれぞれ自分の趣味で可愛い感じにしたりするよな(勝手なイメージ)

セリカならピンクと可愛いものが大好きだから、女の子って感じの部屋

後、凄く良い匂いする

って言ったらみんなに同じ匂いしてるってツッコミされるが

自分じゃどんな匂いしてるかわかんねぇよ

とりあえず、出掛ける準備はできたし行くか

死者の国の中だからとくに護衛も必要ねぇしな

結夢ちゃんは遠慮してるならマールミくらい強引にこれがほしいって言ってくれる方が助かるかも

「お待たせマールミ、それじゃ行こうか」

「はい!結夢様の好みならバッチリ把握済みです!

これとこれどっちが良い?ってたくさん聞いたわ

そこにセリ様の好みで決めてくれたら結夢様も喜びます!」

俺のセンスを信用してくれてるのか?

それじゃセリカと変わらない部屋になりそうだ

セリカは可愛いものが好きだからちょっと子供っぽい部屋な感じはある

ちゃんと結夢ちゃんらしい部屋を考えて選んでやらないとな

「任せろ、結夢ちゃんの気に入る物を俺とマールミで揃えようぜ」

と意気込んで街中へ出掛けたが…

何も売っていなかった

………そうだった……

死者の国って最初にレイと来た時にわかってたじゃん

何もない国、娯楽はもちろんなくて、家具も何もかも必要最低限のみ

和彦が生死の神になったコトでそれからは変わってはいる

だが、変わっている最中なのだ

お店の品揃えが増えるのもこれからとのコトで、今はほしいものがあるなら取り寄せで対応してくれるとのコトだ

出来れば実物を見て決めたかったんだけどな

「残念です~…結夢様に喜んでもらいたかった」

近くにあったカフェに入って一息つく

カフェも懐かしく感じる…レイと来た時はマジで何もなかったが

今となってはカフェやレストランはそれなりに色々なメニューが増えてきた

「そうだな」

結夢ちゃんの笑顔が見たかったマールミはどんよりと落ち込んでいたかと思ったら

「あっ!」

パッと顔を明るくして笑顔を零す

「これ美味しい」

マールミが飲んでいたのはタピオカミルクティーだ

どうやらモチモチしたタピオカが見るのもはじめてだったらしく感動している

「セリ様は何頼んだの?それも美味しそう」

「俺のは杏仁茶だよ、美容にも健康にも良いんだって」

このカフェは最近楊蝉が出したお店だ

鬼神のためにこの国のためにとお金も出してくれて結構繁盛している

「隣のテーブルのあの綺麗なお茶も気になります…」

「あれは工芸茶だな、お湯の中で花が咲く感じがセリカも気に入ってる」

「凄い…!アタシの見た事ないものばかり」

キラキラと目を輝かせるマールミは楽しそうだった

また俺の前に置いてある杏仁茶に釘付けになっていたから

「杏仁茶頼む?」

「うーうん、また今度で良い」

杏仁茶を見ていると思っていたが、もしかして俺のコト見てる?

…このまま視線を受け続けるのに耐えられない俺は定番のあの台詞を使ってみた

「えっと……俺の顔に何か付いてる?」

「見てるだけ」

えっ……気まずいわ!!

「聞いたんだ、セリ様はこの死者の国でアイドルしてるって」

「まぁ…」

恥ずかしいな~

急にどうしたんだマールミの奴、アイドルに興味が?

「それはわかる、アタシもセリ様好きだもん」

わかる?

「ありがとな」

とりあえず褒めてくれてるのか?それは嬉しいが

「でも、男としての魅力を感じない

どこがいいんだろう…」

急に蹴落としてくる!?

「そんな俺のコト嫌いだったのかマールミ!?」

「好きって言ってます!

見た目も声も中性的で仕草が女っぽいとかじゃないのに、なんでかな?

内面的には男らしい部分もあるし、でも男としては見れないって言うか…」

それは俺が知りてぇよ!?急になんだ!?しかもなんか告ってもいないのに一方的に振られたような言い方!?

まぁ女性に告白されたコトもないから、男としての魅力はないんだろうなってコトくらい気付いていますが…!?

もちろん彼女なんていたコトないしな!?

マールミはなんでこんなに俺のコトを傷付けるんだろうか…何かしたか?

「ねねセリ様の好みの女性のタイプ聞きたい!」

ズイッとテーブルに乗り出して興味津々に聞いてくる

マールミは俺の恋人が男って知ってるハズなのに、なんで女性のタイプを聞くんだ?

「うーん…改めて聞かれるとわからねぇな

可愛いか美人なら、美人で

年下か年上なら、年上かな」

「へー」

興味津々に聞いておいて興味なさそうな返事!!なんで聞いた!?

「もしセリ様の事が好きな女の人がいたら、どうしますか?」

さっきから変な質問ばっかするな

「そんな女いないだろ…

マールミも言ってたじゃん、俺には男の魅力がないって」

「もしも!」

えー?もしもなんてないのに

まぁでも

「もしいたら…どうにもならないよ

俺はその人のコトが好きじゃないし愛せない

俺には大好きな恋人がいてもう死ぬほど幸せだから、この幸せ以外はないよ」

「4人もいたらね~」

「4人もいないぞ!?2人だから!!」

マールミは少し悲しそうな顔をする

「……結夢様の所へ帰りましょ

買い物は残念だったけど、結夢様はセリ様が会いに来てくれるだけで嬉しいんです!」

結夢ちゃんの名前を口にするだけでマールミはいつもの元気いっぱいの明るさを取り戻す

マールミは本当に結夢ちゃんが大好きなんだな


結夢ちゃんの所へ帰ると言ったマールミと一緒に城の前まで来ると、その姿にすぐ気付いたマールミが声をかけた

「結夢様!アタシ帰ってきました~!」

駆け寄るマールミと少し遅れて追い付く俺に結夢ちゃんは変わらない優しい微笑みをくれる

本当…結夢ちゃんって癒し系

「はっ…!?こ、この子たちは一体……」

足元に2匹のモフモフに気付くと結夢ちゃんがそのモフモフを優しく撫でた

「か、可愛い~~~!!!!」

俺も一緒にそのモフモフを撫でた

「こんな所に子犬ちゃんと子猫ちゃんが!?なんで~?めっちゃ可愛いよ~」

動物大好きな俺は目の前の子犬と子猫が可愛すぎてたまらない

「しかもどっちも人なつっこいじゃん」

抱っこした子犬は俺の顔を舐めまくり、子猫は頭突きをして人なつっこさを見せつけてきた

これはヤバい、可愛すぎて死ぬ

「野良ではなさそうですね」

身なりも綺麗で毛並みもフワフワしてる

マールミが言うように野良ではなさそうだ

「抱っこ、抱っこしてほしいって」

甘える子犬をまた抱っこしてぎゅっと抱き締める

本気で可愛すぎてヤバい

次は猫ちゃんを抱っこ

「マールミも抱っこするか?」

「アタシも猫好きですけど、セリ様の可愛がりを見てたら後でいいですよ……」

10歳の猫派マールミに大人の対応をされた

俺は犬も猫もどっちも好き、どっちかと言われたら犬派かな

すっかり忘れていたが、俺の苗字犬飼だし…でも犬を飼ったコトはない

動物は大好きだから結局どっちも可愛いから好きだ

「それにしても野良じゃないなら、この子達は」

「贈り物なんだよねぇ」

いつの間にか背後に現れたフィオーラ

振り向くとどんよりとした重苦しい空気をただ寄せてる

一瞬フィオーラと気付かないくらいでビックリしたぞ

「びびびっくりしたぁ!?」

「フィオーラいたのか、脅かすなよ」

「えっフィオーラ様!?アタシ、マールミです!美と愛の神フィオーラ様にお会いできて光栄です!!」

神様マニアのマールミはフィオーラの登場の仕方にはビックリしたが、すぐにいつもの調子で挨拶をする

「あっあぁ、君は最近女神結夢のお世話係になった人間だね」

マールミの元気に押されてフィオーラもぎこちない笑顔を返す

変だなフィオーラの奴、いつもと様子が違う

何かに怯えてるような

「その子犬と子猫は大空の神と大地の女神からの贈り物だね

新しく生死の神になった和彦様と仲良くしていこうって挨拶に来たんだよねぇ…」

「そういや和彦がそんなコト言ってたかも」

でもちょっと前に来るって話してて、でもなかなか来ないって言ってたっけ

フィオーラが言うには、寄り道をしてて遅くなったらしい

大空の神は久しぶりの地上を満喫してきたらしい

「大空の神様と大地の女神様ですか!?めちゃくちゃ有名人じゃないですか!!

アタシもお会いしたいです!!!」

神様マニアのマールミが鼻息を荒くして興奮している

「僕は会いたくないねぇ」

マールミとは反対にフィオーラのどんよりした空気の意味がわかる

フィオーラが言うには、大空の神と大地の女神は位の高い神族で鬼神を封印した数人に入るみたいで

ハッキリとは言わないが、フィオーラはその2人が苦手なのか位の違いからなのか

あまり関わりたくはないようだ

「どんな人達なんだ?」

「僕もよくは知らないけどねぇ、少なくとも和彦様は位の高い神族になるから2人が何かする心配はないね

今は」

「今は?」

「同じ位が高い神族同士と言っても和彦様は元人間、神族ならよく思わないのが普通だねぇ」

そんなコト言われたら…心配じゃん

それに鬼神を封印した神族なんだろ?

鬼神と対面して大丈夫なんだろうか…

和彦がいるから鬼神から仕掛けるコトはないだろうが、大空の神と大地の女神の出方次第では……

その時、ぞくっと周りの空気が強く変わるのを肌で感じた

強い気配…敵意は今の所ないが……抑えつけられるような俺達とは違う

「クスクス、そなたら妾の悪口でも言っておったか?」

強い気配、その声に目を向けると

………パンツ見えてないか?

「大地の女神いろは様!?まさか~僕がいろは様の悪口なんて言うわけないですよねぇ」

スカートの短すぎるいろはにフィオーラは尋常じゃない冷や汗をかきながらアタフタしている

「まさかいろは様にお会いできるなんて…」

マールミは想像以上の神力に圧倒されてただただ見惚れてしまうしかできない

「おぉ、そなたが勇者か?猫ちゃんは好きか?」

子猫を抱っこしている俺にいろはは近付き、ニッコリと微笑む

「はい…猫も犬も好きです」

「ふぅむ…噂通り麗しい見目をしておるな

妾神族にはこのような麗しい見目の人間は作れぬ

羨ましい限りじゃの」

褒められるのは嬉しいが…この世界の人間もカッコイイ人や可愛い人ばかりじゃん

きっと俺は他の人と少し違うから特別目立つだけなんだと思う

いろはは俺の顔をよく見ようと頬に触れる

その時、いろはの長い爪が頬に当たって軽く裂けて小さな痛みと傷が走る

たまたま爪が当たっただけでわざとじゃないと思った俺は黙って回復魔法で傷を治し、ニコッと笑ったが

いろははもっと顔を近付け、俺以外の誰にもその敵意ある表情を見せなかった

いろはの長い爪が俺の頬をまた傷付けた

今度はたまたまじゃない、わざとだとわかるように

「天空の神がお主に会いたいと言っておる

待たせるな、はよう行け小僧」

ゾッとするような悪意が向けられているコトはわかる

神族は人間を愛している

でもそれは神族が創った人間のみ

天が創ったたった1人の人間の俺は違う

そして、神族は自分と似たような存在を許さない

鬼神もそうだ

そして天の存在も許せない

だから天が創った俺が忌々しいんだ

結夢ちゃんやセレンやフィオーラ、神族でも仲良い人達がいて忘れ慣れていた

本当は…神族にとっていろはのように俺は忌々しい存在


いろはに言われて俺は天空の神がいる応接間へとやってきた

心配した結夢ちゃんが一緒に行こうとしてくれたがいろはに止められて俺は1人で来るコトになった

天空の神…どんな人か知らないが、いろはと同じで神族なら俺をよくは思っていないだろう

最悪殺される…?いや、和彦の聖域でそれはないよな

警戒しながら応接間のドアを開けると

知らない男が天井を仰いでいた

「……………。」

えっ…?何?命でも狙われてるのか?この人

胸に手を当てて天井を見上げてる

ど、どういうコトだ…?

「セリくん」

変な男に目を奪われて、声をかけられるまで気付かなかった

和彦の姿があってホッとする

とても心強かったから

応接間には天井を仰ぐ男と和彦しかいない

鬼神はいないのか…そりゃそうか

ってコトは、この男が大空の神

「やぁ、君が天が創ったたった1人の人間だね」

天井を仰いでいた男は流し目で俺を見ると髪をかきあげてポーズを決める

えっ?って顔を和彦に向けると和彦はツッコミはするなと首を横に振った

「会いたかったよ」

そして大きく足を上げてから足を組んでソファに座る

ナルシストがよくやってるイメージのポーズをリアルでする奴はじめて見た

和彦に言われて俺も大空の神の前のソファに座る

テーブルに新しいお茶が運ばれてくると、大空の神が名乗ってくれた

「はじめまして、ボクは大空の神

名前は天空です

君の名前は知っているが、君のその愛らしい薔薇色の唇から教えてほしいな」

薔薇色の唇!?思わず口元を手で隠す

「…はじめまして…天空さん、俺の名前は」

「ん?」

名前を言う所で天空はテーブルから身を乗り出して俺の目を近くで見つめた

なんだこの、僕モテますオーラが滲み出てるような男は……

確かに女からはモテるかもしれないが、俺は苦手かもしれん……

「俺の名前は」

また天空が首を傾げ下から覗き込むように見てくる

うっ…鳥肌が……ゾワゾワって

「セリです…」

つい顔を逸らしてしまった

気を悪くさせてしまったかもしれない

でも…俺は、苦手と感じて引いてしまっている

すまん天空さん

そのどうせ君も僕の事が好きなんでしょってオーラが苦手です

「セリ…くん、かぁ……綺麗な容姿をしてるね

想像以上だ

もっとよく見せてくれるかな?」

天空は俺の顎を掴み自分の方へと引き寄せる

「やめてください…!」

急に触られて俺は思わず身を引く

すぐにヤバッと思った

相手は位の高い神族、俺の言動で和彦との関係が悪くなるかもしれないと考えたら

「照れてるんだね」

はぁ????????

そんなコトもなかった

天空はハハハと笑っている

「俺はこれで失礼します」

これ以上ここにいたら殴ってしまいそうだ

ソファから立ち上がりドアへ向かう前で天空が立ちはだかる

「もっとお話したいな~セリくんと」

一歩近付かれると一歩引いてしまう

なんか…怖い…

気付いたら壁まで追いやられて逃げ場をなくしてしまう

天空は俺の頬に触れて身体を近付けてくる

「ここまでの綺麗な肌はボク達神族には創れない…

きめ細かく絹のように滑らかで真珠のように白い輝き

顔立ちもボク達とは違うのに綺麗だと感じる

もっと仲良くなりたいな、君の隅々まで知りたくなる」

仲良く…?その意味って…

天空の指が俺の唇に触れる

そういうコトなのか……?

助けて…和彦……

なんで黙ってるんだよ、こっちも見てくれない

相手が位の高い神族だから?もめたくないから?

それくらい……俺だってわかる

じゃあ…黙って、コイツに従えってコトなのか……

和彦のために……

和彦も、そう思ってるのか……?

「気に入ったよ、この子を今夜貸してくれる?よね?」

えっ?い…嫌だ……なんで、イヤ

もし、和彦に我慢してくれなんて言われたら……死んじゃう…

天空は和彦に聞いて返事を待つが、和彦は静かに立ち上がり傍に寄ると俺に触れる天空の手を掴み押しのけた

「もう十分楽しんだだろ?そんなにセリくんに触って、調子に乗るな

この子はオレの恋人だ

これ以上手を出すなら…」

天空を俺から引き離してくれて、俺は一瞬和彦を疑ったコトを恥じた

やっぱり…和彦は俺を守ってくれる

俺を売ったりなんかしない

嬉しくて思わず和彦の胸に抱き付いた

「怖いな~生死の神、落ち着いて

わかったよ、セリくんに手を出すのはやめよう今は」

「今は…?」

「暫くは」

「暫くは…?」

和彦は警戒して天空を睨み付ける

「まさか2人がそんな関係だと思わなくて、まぁセリくんがほしくなる気持ちはわからなくはない

先を越されたか~、生死の神より先に出逢ってたらボクのものにできたのに」

それはねぇよ、絶対

和彦とはいつ出逢ってもいつかは好きになる

いつかは恋人になるってわかってるから

今も助けてくれて、めっちゃ好き

「万が一そうだったら奪うよ、あんたからセリくんを」

きゅんってする…和彦の奴、俺のコトめっちゃ好きじゃん

「手強いな~、今日は挨拶に来ただけだからこれで帰るよ

噂のセリくんにも会えた事だしね」

天空のパチッとウィンクをサッと和彦の背に隠れて避ける

「尻軽と聞いていたからヤレると思って期待してたのにな」

「なっ…!?」

カッチーン…キレそう…コイツ、めっちゃ嫌い

「男なら誰でもいいんだって、そうなんだろう?」

さすがに…傷付く……

俺は尻軽なんかじゃないもん……誰でもいいワケないだろ……

「おい、セリくんを侮辱するなら許さないぞ

セリくんは尻軽じゃない

オレ達の関係はあんたにはわからないだけ」

和彦ぉ……泣きそう

「帰ってもらおうか」

「…ふぅん…わかったよ

でもセリくんの事は諦めたわけじゃないよ

また会いに来るから楽しみにしててほしい」

フハハハハと天空は出て行ってくれた

暫くして

「二度と来んなボケぇえええ!!!!!

誰がオマエなんかと!!キモイんだよ!!!!アホバカマヌケナルシスト野郎!!!!」

一応位の高い神族だし、変に揉めて和彦の立場が悪くなったら嫌だから時間差で文句を言う

和彦はよく我慢したなと頭を撫でてくれた


その夜、俺は和彦の部屋でまだ収まらない怒りを叫んでいた

「はぁ!?俺が尻軽だからすぐヤレるって!?死ぬほどムカつくんだけど!!?

確かに尻軽だけど、誰でも良いワケじゃねぇぞ!?

俺はあんな奴嫌いだから!万が一なんて死んでもねぇから!!」

言われっぱなしで悔しい~~~!!!

「尻軽なのは認めるんだ…」

だって…恋人が2人もいて好きな人が1人いて気になる人も1人いて……尻軽なのは間違いないじゃん……

俺自身が1番認めたくねぇけど

「セリくんは尻軽じゃないよ

オレがそうさせてしまっただけだし」

「和彦……うん、オマエが悪い!責任取れ!」

「責任はもう取ってるだろ」

まぁそうだな、プロポーズも受けたし

「でも、セリくん最初はオレの事大嫌いだったしフェイの事も死ぬほど嫌いだったのに今じゃ好きだもんな

あの天空の事もいつかは気持ち変わるんじゃないか?」

「えっ?フェイのコトは今も嫌いだけど?

いやいや待てや天空はないわ、死んでもない」

フェイは…口悪いし生意気だし、俺のコト天空と同じようにビッチだの尻軽だの言うけど

フェイは……俺のコト嫌いなくせに、助けてくれたり…優しい時もあるから……

でも…!俺だって、好きじゃ……ないから…

「そうだな、天空は駄目だ

セリくんが好きになってもあれは認められない」

「いやだから好きにならんて」

寝取られフェチの和彦は俺に他の恋人がいればいるだけ良いとかでフェイとかいつもすすめてくるくらいなのに

なんで天空は駄目って言うんだろ?

「変じゃないか?」

「変?」

「天空って名前だ」

「んー?大空の神だから天空って名前でもとくに変とは思わないが」

「神族にとって天は忌々しい認められない存在の1つだ

その天の名前を自分に付けるなんて、するだろうか

セリくんの事だから、神族の中でも女神結夢のように好意的な人もいると言いたいのだろうが」

先読みされている!?

確かに和彦の言う通りか…結夢ちゃん達のように俺と仲良くても同族である神族が嫌がる名前をわざわざ付けるのも変だ

気を付けろってコトか

俺に好意があるフリなのかもしれねぇしな

「セリくんとは会わせたくないが、ずっと会わないようには出来ないだろう

心配するな、その時はオレが傍にいる

天空が来る時はオレから離れるな」

「和彦……カッコいい…」

オレから離れるな、なんて言われなくても離れない!

嬉しくて和彦に抱き付くと、すぐに押し倒された

「いつものセリくんの匂いが好きだけど、風呂上がりの匂いも良いな」

首筋にキスされて、微かに全身が痺れる

「今日は薔薇の香りかな」

セリカが楊蝉からボディミルクを貰って気に入ってるって言ってたな

香水は付けないが、いつもセリカがしてる風呂上がりのお手入れで暫くは良い香りが続く

俺もこの匂いが気に入ってたり

「薔薇色の唇に薔薇の香りか…」

言われて思わず唇を手で隠す

昼間天空に言われた時は、うわって思ったのに

好きな人から言われると…恥ずかしくて照れる……

「この前の百合の香りの方が好きかな

セリくんは白百合のように肌が白いし」

……男らしくないよな…って一瞬いつも迷う

でも、俺はセリカだからやっぱりこの見た目を男らしく変えるワケにはいかない

和彦も好きって言ってくれるし、俺は俺だから良いんだって知ってる

「隠したら勿体ない、もっと見せて味わいたい」

和彦に手を掴まれて隠していた唇にキスされる

舌を絡め取られると身体が熱くなっていく

和彦の手に足を撫でられてビックリする

「昨日したばっかりなのに…」

「天空に触られてムカついた」

「なんだそれ、ヤキモチ?」

いつもヤキモチなんか妬かないくせに

和彦でも…妬くコトあるんだ、それ嬉しいかも

ヤキモチするとこ変だけど

フェイを俺にあてがおうとしたりするのに

「昨日もそんなに寝れてないだろ?仕事も忙しいのに

今日も寝不足で明日仕事するつもりか?」

「オレは数日寝れなくても平気だよ」

そう言って和彦は俺の身体へキスをする

熱い舌にゾクゾクと痺れが強くなっていく

「あっ…そこは…ダっメ……っ」

「ダメって、感じには聞こえない」

「まっ、待って!?」

「待てない」

ヤキモチ妬いた和彦を拒むなんて無理だ

力を抜いて、和彦に身を任せる

あぁ…和彦に愛されて…死ぬほど幸せだ

凄く気持ち良い……和彦のコト大好き

好きな人と繋がれて嬉しい気持ちでいっぱいになる

いつの間にか寝ていて、次に目が覚めるのは昼頃だ

その間の記憶はない

自分の身体が、自分じゃない他の何かに動かされていたとしても


和彦がまだ外の暗いうちから仕事に出掛けるのを、寝たフリをしながら待つ

「行ってくるよセリくん」

静かに囁いて髪にキスをして、部屋を出て行った

暫くしてから身体を起こす

「ちっ、最悪……」

好きでもない奴にキスされるなんてありえねぇ

全然幸せでもねぇし、気持ち悪いだけだった

俺が好きなのはレイだけ

レイ以外の奴なんて触られるだけで鳥肌が立つ

この勇者の身体に契約として植え付けられてからどれくらい経ったか…

レイだけを好きになればいいのに、この男の尻軽さには迷惑でしかない

どうでもいい奴に抱かれるのを黙って受け入れるしか出来ないんだから

でも…今日は久しぶりにレイに会いに行く

和彦は勘が良いから暫くは様子見をしてるしかなかった

だが、この時間から仕事に行ったら夜まで戻って来ないコトはわかってる

下手に動けば勇者ごと閉じ込められるかもしれないからな

そんなのは絶対に嫌だ

レイに会えなくなるコトの方が死ぬより辛い

それじゃ、早くレイに会いに行かなきゃな

会える嬉しさとドキドキを胸に俺はレイの部屋へと向かう

起きてる…ワケないよな

ドアを開けると灯りは点いていない

勝手にお邪魔しま~すって俺の部屋だし、いいだろ

ベットに近付くと月明かりでレイが寝ている姿を確認する

あ~……レイ……!!ずっと会いたかった!!

寝顔もカッコいい、いつもカッコいい

大好き大好き愛してる…

「……セリ…?」

はっ!?気付かれた!?

「…ごめん、起こすつもりはなくて」

「いや良い、会いたかった…おいで」

半身を起こしてレイは俺に手を伸ばした

嬉しい…レイがおいでって……そんなに俺に会いたかった?

素直にレイの腕の中へと飛び込むと、ぎゅっと抱き締めてくれる

はぁ~…久しぶりのレイの腕の中…レイの匂い……いつも好き、やっと会えて嬉しい

ずっとレイと一緒にいたい

契約が成立しちゃったら…俺は消えちゃうから

それならずっと勇者とくっつかなきゃいいのに

なんて…思う

こんなに好きなのに、勇者に取られるのが嫌だ

そういう契約だから俺は勇者の中でしか存在できないのに…

それならいっそ、勇者を消し去って俺が勇者になれたら…いいのかも

「レイ……大好き…」

思わず零れる想い

「そんなにオレの事、好きか?」

「うん…凄く大好き」

うん、レイとキスしたいエッチしたい

「でも、この数日和彦さんに抱かれていたんだろう」

レイの声が冷たくなる

「ちょっと待って!そんなの嫌々に決まってるじゃん

レイの嫌なコトしたくないけど…それは」

俺にだってどうしようもできないんだよ

この身体の勇者がレイだけを見ないから悪いんだ…

俺だって苦痛なのに…レイ以外となんて

なのに、レイに冷たく言われるのは心苦しい

「わかっているさ、仕方のない事だって

それじゃあオレだけが好きかい?」

「もちろんだよ!俺はレイだけが好き!!

出来るコトなら他の奴らとは別れたいもん」

「そうか、よかったよ」

レイの声がまた柔らかくなった

笑顔だって向けてくれる

「あっそうだ、レイが一緒に逃げてくれたら嬉しい

やっぱり…無理?

ずっと俺を独り占めしたくない?」

レイの唇に触れて上目遣いで見る

「したいさ、セリを独り占め」

そのまま押し倒される

「レイ…」

「目閉じて、良いって言うまで開けちゃ駄目だ」

うん…素直に目を閉じる

なんだか…ドキドキする……レイのコト好きすぎてヤバい

一度レイが離れた気配を感じるが、すぐに戻ってきてくれる

それから少しして

「目を開けても構わないよ」

ってレイの声で言われたのに、目を開けると俺の顔を覗き込んでいたのはレイじゃなかった

「オマエ…!?」

レイじゃないとわかって身体を起こそうとしたが押さえ込まれてしまう

「これがレイの言っていた契約ですか、セリ様とは少し雰囲気が違いますね」

フェイ…てめぇ……押さえつけ方に遠慮がなくて痛いんだよ

しかもなんでだ?レイが呼んだのか?この邪魔者を、どうして…

「触るな!どけよフェイ!?」

「どうして私が貴方の言う事を聞かなければならないんですか」

「オマエが嫌いだからに決まってんだろ」

レイ以外に触られたくねぇんだよ

力付くでフェイから逃れられるワケにはいかないか…この身体が非力すぎる

俺は悪魔の契約だからって特別な力があるワケじゃねぇ

腕力の強さも弱さもこの身体次第

そして、勇者の持つ力を自由自在に使えるワケでもない

魔法の使い方を知らない俺は勇者の回復魔法も炎魔法も使えない

当然、勇者の力も使えはしない

「レイ…助けて」

助けを求めてレイに視線を送る

だけど、レイは助けるどころかよく見える位置に移動して椅子を置き座った

「助ける?どうしてオレがあんたを助けなきゃならないんだ?」

フェイと同じコトを冷たく言われ突き放される

「どうしてって…」

冷たく突き放すのに、でもレイの表情は今まで通りの変わらない笑顔のままだ

「セリなら助けたよ、でもあんたはセリじゃない

…許せないんだ

もちろん、あんたを逆恨みしてるわけじゃない

オレは自分が許せない

弱いオレは、セリと向き合う事から逃げていたんだ

絶対にオレを受け入れてくれるあんたに逃げた…

その行動はセリを信じていなかったんだ…

好きな相手を信じていないくせに、オレを愛してほしいなんて

どんだけメンヘラだって話だよな

そんな自分すら認めたくなくて、情けないだけだった」

レイはずっと笑顔で話してるけど、その深い想いは強い後悔と自分の弱さを責め続けている

「そんなコト…わかってるよ!!

レイが俺のコトを好きじゃないコトくらい

逃げてるんだってコトも!!

でも、俺はそれでもよかったんだ

それでよかったんだ……

だって、本当に好きじゃなくても受け入れてくれたんだって」

それだけで満足だった…満たされていた

欲はあるよ…俺の方を本気になってほしいって

でも、レイは勇者しか愛していない

この身体じゃなきゃ見向きもされないんだって知ってる

「全然嬉しくない

セリ以外から好きだの愛してるなど言われても、鬱陶しいだけ

あんたの事はオレの願望、都合の良い幻想

セリもそれくらいオレだけを好きでいてくれたらいいって、妄想だ」

わかってる…だからレイは大悪魔シンと契約してその妄想を手に入れた

いつか勇者がその妄想のようになったら契約が成立して、終わるだけの話だった

成立したら俺も消える…儚い夢だ

だから、その短い間だけでもレイに愛してもらえるコトだけが幸せだった

それ以外、俺には何もないから

壊さないで…

「そんなコトも…知ってるよ……」

苦しく胸を締め付けられて、熱くなった涙が零れ落ちていく

知ってるけど…レイの口からは聞きたくなかった…

「どうやってあんたの事を消そうか考えていたんだ」

ビクッと震える

そんなにレイは俺のコト嫌いなんだ…消えてほしいくらい

でも、俺は嫌だよ

消えたくなんかない…

「ぃ、嫌…」

「わからないから

まずは嫌な事をしようと思うんだが、どうだろう?」

嫌なコト…?レイは本気だ

本気で俺を消す気なんだ

ズルいな…羨ましい……

だって勇者はちょっと泣けばレイに優しくしてもらえるのに

俺が泣いたって、ちっとも……少しくらい気にかけてくれたっていいのに

「…だったら」

フェイはまだ隙があるように見えた

契約の俺でも身体は好いてる男のものだ

勇者が泣く姿には弱いのか、押さえ込まれていた力が緩むと突き飛ばして抜け出す

近くにあった花瓶を床に叩きつけてその大きめの破片を拾った

「それ、セリカが大事に育てた花なのに

セリならそんな事はしないな」

床には花と水と割れた花瓶が散乱する

「うるさい!!レイが俺を拒むって言うなら…ここで死んでやる

セリ…セリって……ムカつく…

そんなに大事なら、勇者を道連れにして死んでやるから……」

死にたくない…死んだらレイに会えないもん

でも、どうせ契約が成立したら俺は消えるし

いやでも…その間の幸せだけでよかった

一時の幸せでも、それがウソでも偽りでも

それさえ、許されないなら死んだ方がマシだ

花瓶の破片を自分の首元へと突きつける

「困ったな、フェイがちゃんと捕まえていないから」

「すみません、セリ様の顔で泣かれ油断しました」

レイは少し考えると、俺を落ち着かせようとした

「……わかった、あんたの話を聞くからその物騒なものは渡してくれるかい?」

一歩近付かれて、来るなと言いたいのに

レイのコトが好きだと言えない…

淡い期待までしてしまうから

少しでも好きになってくれたらって…

わかってるのに……

「贅沢なワガママは言わない…

ただ、今まで通り俺を受け入れてくれるなら……渡す

嫌だって言うなら…このまま勇者を道連れにして死ぬ」

「わかった、あんたを受け入れるよ

セリを人質にされたら言う事を聞くしかないだろう」

「レイ……」

手の届く距離でレイに花瓶の破片を渡す

そのまま手を掴まれたかと思うと小指を折られた

「いったあああ…ぃ…!!?」

走る激痛に耐えるように反対の手で折れた小指を抑える

痛い…痛い……

「それでもう危ないものは持てないな

よかった、思った通りセリの身体でもあんたは回復魔法が使えないみたいだ」

そんなコトないって…

わかってたのにな

レイは、ウソついてまでの約束なんて守る気ないんだ……

勇者との約束は絶対に守ろうとするのに

やっぱり、わかってても…傷付くな

俺はレイの中で少しの居場所もないんだって思い知る

「前にテーブルの角で足をぶつけていた時に痛がっていたから、あんたは使えないんだろうなって」

レイの言う通り、俺は回復魔法を使えない

だからって身体は勇者だぞ?

こんなコトしたら勇者が目を覚ました時に気付く

変だと思うだろ

「さっき嫌な事をしたらって言っただろう?

痛い事したら消えてくれるかどうか試してみたいんだ」

「っ…痛みに耐えられなくなった俺が自ら消えるかって……?」

そんなので消えるワケないだろ

悪魔の契約だぞ、俺の意思でどうにかなる話じゃねぇ

「消えなくても二度と出て来れないくらいまで痛めつけてやったら、さすがにあんたもわかってくれるかい」

二度と出て来ないって消えるのと一緒じゃねぇか

レイはそんなに俺に消えてほしいって…いつから…

少し前までは俺を受け入れてそれでもいいってくらい堕ちていたのに

……あの女か、セリカと会って変わったのか

クソ…勇者もあの女も忌々しい……

「…こんなコトして…勇者が気付くだろ

おかしいって、気付いたら小指が折れてるんだぞ?

それだけでも変だと思うのに、これ以上痛めつけるって」

「セリは案外鈍感だ、細かい事も気にしない

朝起きて痛いと思った瞬間回復魔法を使って、とくに深く考えず寝ぼけたまま忘れる

たまにあるんだ

寝ぼけて思いっきり壁蹴って痛みで一度は起きたが、すぐに寝て翌朝痛かった事は覚えてるがなんで蹴ったか夢の事は忘れたって

この事だって変な夢だったんだでとくに気にしないよ」

細かいコト?こんなコトが細かいワケねぇだろ

そんなアホなのか勇者は

「セリ様らしいですね

それにレイはセリ様の事をよく知っていて、妬けます

セリ様と知り合ったのは私の方が早いですが、ずっと避けられていたので

細かい事まではよく知らないのです」

「前世から言ったらオレの方が早く出逢っている」

「張り合わないでください

それにしても、良い表情ですね…

違うとわかっていても、顔も身体もセリ様ですから興奮します」

フェイが近付いて俺の顎を掴む

ゾッとする…フェイのスイッチが入ったんだと本能的に感じ取ってしまった

「反対の小指も折ってあげます」

そう言ってフェイは俺の折れていない方の手を掴む

「や…やめて……」

またさっきと同じ激痛を味わうと思ったら怖くて…声が震える

怖いと怯える姿もフェイを興奮させるだけの間違った反応だとわかっていても、怖いと感じたらそこからは逃げられない

「もっと…怯えてください

可愛いですよ、セリ様…」

フェイの指が小指にかかる

少しずつ力を入れられて、もうそれ以上は折れるって所で声が漏れる

痛がったら嫌がったら、フェイは絶対に止まってくれない

そうじゃなくてもフェイは遠慮なく俺の小指をへし折った

「ぁっ…いた…ぃっ」

我慢しなきゃ、耐えなきゃ、なんともないフリしなきゃ……

っ…無理…無理無理、痛いもんは痛い、辛いもんは辛い

痛みで息が荒くなる、息をするのも苦しい

「もう…許して…痛いのは嫌」

「まだ小指2本折っただけですよ

これから楽しくなるのにやめるわけないでしょう?」

フェイは本気だ…遠慮がない

いたぶるのが好きな鬼畜サド野郎

「興奮してきました…

こんな事したくてもセリ様にはできない事なので、それが叶って楽しいです」

楽しいワケあるか…!?こんな奴…こんな奴……

この身体ならレイに愛してもらえるのに、この身体は負担が大きく多すぎる

変態しかいねぇ、よくレイ以外のヤベェ3人と付き合えるな

「俯かないでください、もっと貴方の顔を私によく見せて」

無理矢理フェイに上を向かされ、顔が近付いてきたから咄嗟に突き飛ばした

…キスされそうになった……?嫌…そんなの絶対に嫌だ

レイ以外の人となんて……死んでも嫌だぞ

「そんな顔をされたらもっと酷い事したくなります」

逃げなきゃ…

そう思った俺はドアへと走った

手がかかる直前で足を引っかけられて、顔からドアに突っ込んでぶつけてしまう

「くっ……ぃたすぎ」

息ができない…そう感じると、ポタリと落ちる

鼻血が止まらない

「セリ様、大丈夫ですか?そこまでするつもりはなかったのですが…

綺麗なお顔に傷が付いたら和彦様に叱られてしまいます」

和彦に怒られなきゃやるのかテメェ

「寄るな…!」

近付くフェイを押しのけようと手を伸ばすが掴まれまた押さえ込められる

「お可哀想に…でも、ちょっとそそられます」

フェイは流れる鼻血を舌で舐めとる

さ、最悪……

「もっと痛がって泣いてほしいです」

今度は服を脱がされて首筋にキスされて、そのまま舌が下へと降りていく

肩に歯が当たると噛まれて新しい痛みが走る

「…セリ様じゃないとわかってても、手を出したくなる気持ちがわかりました

レイは気にしていたようですが、私は気になりません

だって、身体はセリ様で間違いないんですから」

フェイの手が胸から腹へと下へ撫でおりていく

「それって……」

つまり…そういうコト…?レイ以外と……

レイ以外となんてしたくない

レイだけとしかしたくない

「そ…それだけは…嫌……許して

助けて…レイ……嫌だよ、俺はレイ以外の人に触られるのも……嫌だ」

レイは俺のコトは助けてくれないってわかってる

わかってるけど…求めてしまう

もう…逃げられもしないのにな……

ダメだと思った

だけど

「……フェイ、もうその辺でいいだろう

こいつもよくわかっただろうから」

レイは俺からフェイを引き離してくれた

信じられなかった

レイは絶対に俺を許さないと思っていたから、願いが消えるコトはできない

契約が成立しない限り俺は消えないから

でも、二度と出て来ないように完膚なきまでに痛めつけてくるとは思ってた

「もういい?話が違います

レイはこの契約をセリ様の中から消すか、二度と出て来れないほどまで追い詰めたいと私に相談したはずです

レイが助けたら意味がありません」

フェイも俺と同じように感じてる

レイが止めたのは俺を助けたと

……嬉しい…嬉しくなるじゃん……

フェイの言う通り、意味ないどころかますます惚れちゃうじゃん…

「同情で庇うおつもりですか?」

「同情はしない、そんな事をすればセリを救えないから」

「していますよ…貴方は情を捨て切れていません」

「だからフェイに頼んだんだがな

フェイなら感情に左右されないだろ

…やっぱり無理だ

セリの姿で助けてと言われて泣かれたら非情になりきれない」

……結局は勇者か…別に俺を心配してとか…ない

「時間がないと言ったのはレイですよ」

「わかっているさ

でも、セリはこんなやり方は嫌いだろうし

どんな手を使ってでもって考えていたが…

オレはフェイのように非情にはなれないよ」

「だから私に頼みに来たのはレイなのに

私はセリ様が嫌がる事でも喜んでやります

その姿が見たいですし、それでセリ様が助かるなら一石二鳥ですよね」

「とにかく、これ以上は手を出すな」

これからがもっと楽しいのにとフェイは途中で止められたコトに膨れる

あのフェイならレイが止めようが関係ないハズなのに、納得いかない様子を見せても渋々引き下がるのは

フェイもまた勇者のコトを考えてなのかもしれない

「レイ…助けてくれて、あり」

「勘違いするな、あんたの事はいつか消す」

駆け寄ろうとしたらレイに強く睨まれて足が止まる

……レイは俺が消えてほしいコトには変わりない

知ってる、わかってる

でも、それでも俺はレイが好き…レイだけが大好きだ

今は大人しく引っ込むか

また…会いに来るからね、レイ



夢を見ていたような気がして、眠っているのにその夢が現実の痛みとして目が覚める

でも眠気の方が勝っていた俺は痛みで一瞬目が覚めたが、すぐに回復魔法を使って

「痛かったけど…二度寝する…」

と、とくに気にするコトなくまた隣で寝ているハズの和彦にくっついて目を閉じる

……あれ?なんか和彦の匂いじゃないような……?

でも知ってる匂いに気付いてパッと身体を起こす

「わっレイ!?」

隣で寝ていたのは和彦じゃなくてレイだったコトに小さく叫ぶ

マジか…寝ぼけて自分の部屋に帰って寝てるなんて……

俺が名前を呼ぶとレイが起きて俺を見る

「あっ…すまん…起こすつもりじゃなくて、って言うか間違えて部屋に帰ってきたって言うか」

大きな声を出したつもりはなかったが、申し訳ないと口を手で隠す

「いや起きていたから大丈夫だ」

そっか

暫く和彦の所へって言われて……なんだか気まずい

窓の外は少しだけ明るいから朝早くだとはわかる

このまま起きるには早いと言うか、眠い

和彦の部屋に帰って二度寝しようかな…

「じゃあ…俺は戻るから」

そう言うとレイは俺の手を掴んで引き止めた

「……もう少しだけでも、オレの傍にいてくれないかい?」

「えっ…?」

「セリに傍にいてほしいんだ」

いまさら…遅いだろ

大悪魔シンにレイが殺されたかもしれないってずっと心配だったのに

魂を半分奪われて、大丈夫なんだろうかってずっとずっと心配してたのに

やっと会えたと思ったら、突き放された

それ、スゲー寂しかったんだ

「和彦の所へ行けって言ったのレイじゃん!!

ずっと心配だったのに……!なんだよ…バカ、遅いんだよ……」

込み上げる複雑な想いが涙に変わる

掴まれていない手で涙を拭おうとしたら、その手もレイに掴まれる

「心配かけてすまなかった…

オレもずっとセリに会いたかった」

レイは俺の頬に流れる涙を舐めとって、そのまま唇へとキスされる

久しぶり…のレイの唇の感触

抱き締められると、キスも深く長くなる

「……今日は一緒にいようか」

キスの合間に囁かれるように言われたら、嫌とは言えない

抱き締め返して、うんと頷いて答える

「でも、夜は和彦さんの所へ帰るんだ」

また…?それは仕方ないのか…

レイは魂の半分、強さを奪われてしまっている

弓を扱えないし戦うコトもできない

もう前みたいに俺を守るコトができないと言う

だけど、だからって夜に会えないのはそれとはまた別の何かがあるんだろうか

「フェイの所でも構わないぞ」

レイにとったらどっちでも良いんだろうが、俺は絶対に嫌だね!!

「フェイは嫌だっていつも言ってるじゃん

なんかさっきもフェイに痛いコトされる夢見た気分だし、トラウマなんかな…」

ってかみんなしてフェイフェイって言うのムカつく

俺をなんだと思ってるんだよ、おもちゃじゃないんだぞ!?

レイはフェイと仲良い友達みたいだし、和彦よりは気を許してるんだろうけどさ

俺のコトもちゃんとわかってよって膨れながらレイの胸に抱き付く

「そんなに私が嫌なんですか?」

後ろから嫌な奴の声が聞こえてビクッとする

「フェイ!?いつの間に!?」

「最初からいましたが?」

えぇ!?いたの!?!?!?

「私の目の前でイチャつくなんて」

人前でイチャつくなんてはしたなさすぎて恥ずかしすぎる

レイは最初からいたぞって顔してる

俺だけ気付かなかったのか!?レイしか見えてなかった…

「次は私が寝取ってあげましょうか」

フェイの嫌な笑みが見えると、レイから引き離されあっという間に組み敷かれる

「ちょっ…バカかオマエ!?やめろ」

「そんな事言って、誘ってるのはそちらでしょう」

「誘ってねぇー!!!!???」

「嫌がられれば嫌がられるほど、良いって言いましたよね

あっレイに助けを求めても無駄ですよ

今のレイじゃ私を止める力はありませんから」

ふふっとフェイはこの場は自分の思い通りになると強気だ

「レイ…」

それでも俺はレイに助けてと視線を送る

「……フェイ、オレが勝てないとわかってて寝取る事に意味があるのかい?

そんな簡単に手に入れてしまえる事で満足するあんたじゃないだろ」

レイはフェイの肩を掴んで俺から引き離してくれる

「ふん…寝取りたいだけじゃありませんよ

好きだから抱きたいと思う時もあります」

フェイが何か呟いたコトは聞き取れなかったが、手を引いてくれそうな雰囲気ではあった

「それではレイが力を取り戻した時は全力で寝取りにいって良いと?」

「やれるもんならな」

「その時は文句言わないでくださいよ」

「泣くのはそっちだ」

よ、よくわかんねぇ…けど、2人が仲良いのか仲悪いのかわかんない感じだぞ

まぁたぶん仲良いんだろうな

あのレイがフェイを部屋に入れてるんだし

今力のないレイがフェイに頼ってる感じがして、あの性格が死ぬほど悪いフェイもレイを認めてはじめての友人と自分で言うくらいだ

やっぱり少なくとも信頼し合ってるんだと感じる

なんだか…いつも思うけど……

羨ましいな

前は俺がレイの大親友だったのに…

きっとこの寂しさだけは永遠に埋まるコトがない

好きになってしまったら戻れないもん

でも、レイの1番ならそれで良いか

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