第63話『人の姿になった白虎』セリカ編
近くの人間の町で1人買い物をしていた時のコト
町の道を歩いていると私の足元をクルクル回る子犬に気付いた
「あら、どうしたのオマエ」
自然と微笑みしゃがみ込みその顔を覗き込む
子犬は身体が汚く痩せていたからすぐに野良だとわかる
私は子犬を抱き上げ、この町の長に頼んでみた
「聖女様の頼み事でしたら快く引き受けましょう」
人の良さそうな町長は子犬の飼い主を探してあげてと大変な私の頼みを聞いてくれる
飼い主を探すのって大変なのに任せてしまってゴメンなさい
でも、夜までには帰れと香月に言われてるの
「幸せになるのよ、バイバイ」
私は子犬に手を振って太陽が沈む反対側へ足を向ける
が、子犬は町長の腕から飛び降りまた私の足元をクルクル回った
「ダメ…」
飼ってあげたいケド…
子犬を見下ろしながら私は前にウサギを殺されたコトを思い出す
もうあんなのイヤだから…普通のお家に飼われるほうが安心だ
今私の家は魔王の城で、ひとのみで子犬を食べてしまう魔族や魔物達ばかりで危険しかない
だからダメなのだと私は子犬をもう一度町長に渡す
「この子は聖女様が大好きなんですね」
「ははは、でも…ゴメンね」
私の事情(魔王の人質)を薄々感じてる町長はしっかりと子犬を抱きしめてもう私を追いかけないようにしてくれた
子犬の鳴き声が聞こえなくなるまで心は引かれてしまうケド、私はその日なんとか帰る
それから暫くして、今年の初雪を見たの
「寒いと思ったら」
雪を見ながら白い息が出る
私のいた前の世界、私の地域は滅多に雪が降らないからちょっと雪が降ると珍しくて嬉しい
雪国の人は雪をうんざり嫌いって言ってたけれど
そうね、今の私は珍しいだけでこれが鬱陶しいくらい降って埋もれるくらいになったらイヤになって炎魔法で雪消してそう
何事も限度だよね
あっ、忘れてた…化粧水とクリームと石鹸がなくなるからそのうち買いに行こうと思ってたのを思い出す
誰かにおつかいを頼むコトもできるケド、自分のものは自分で選んで買いたいから1人で買い物に行くコトは少なくない
たくさん買う時は荷物持ちにラナを連れて行くの
キルラはうるさいから連れて行かない
私が愛用してるスキンケアグッズは楊蝉もほしがるから一緒に買っておいてやるか
行きは何事もなく、目的のものも満足に買えて夜になる前に町を出る
そうして魔王城への帰り道だった
私はふと積もる雪の上に同じ色をした真っ白なコロコロした毛玉に気付く
「はっ…」
最初は毛皮でもまるめて捨ててあるのかと思った
でも、近付いてよく見て確認してみるとうっすら雪に積もられたそれは
前に近くの町で会った子犬だった
すぐに雪の中から抱き上げたケド、身体は氷のように冷たくなっていて息をしていなかった………
「なんで…こんな所に」
子犬の向いていたほうに視線をやると、その先には私の住む魔王城がある
もしかして、オマエは私に会おうとしてここまで歩いてきたの?
子犬の足では遠くこの冬の寒さは幼いものには厳しい
きっと途中で寒さに負けてしまったんだ…
身体には傷1つなく、綺麗に手入れされ健康的な毛並みで…
素敵な飼い主が見つかってどれだけ家族として愛されていたかわかる
赤い首輪には名前までつけてもらって…
なのに…それでも、オマエは私を追ってきたと言うの…
私のせいで死んだって言うのか…
私の傍に置いてやっていたらこの子は死ななかったかもしれないのに
魔族も魔物も、私が「子犬を傷付けたら殺す」って言えば誰も手を出そうとしなかったかもしれないのに
「死んでしまったら…どうしようもない…」
私の回復魔法は冷たくなった身体を温めるコトができないから
子犬を抱きしめて悲しみに心を囚われていると私の背後に誰かが静かに近付いているコトに気付かない
背後から掴まれた時は遅く私はその何者かに連れ去られてしまった
魔族や魔物以外には力を発揮出来ない私の抵抗は無意味で人里離れた洋館の一室に閉じ込められる
私をさらったのは人型をした男だ
私の抱く子犬を奪っては一度ドコかへ消えてしまった
「あの子犬をどうするつもりなんだろう…」
男が出て行ったドアを開けようとしたがしっかり鍵がかけられてる
窓も鉄格子があって逃げられそうにない
連れ去ってきたのだから逃がす気なんてないよね
でも、あの男…私を殺すつもりはなさそう
殺意や敵意…そして、私に変なコトしようと言う雰囲気でもなかったわ
何よりあの男は人型の、しかも人間にかなり近い姿をしてるケド人間じゃないから一体何者なんた
暫く部屋の中を確かめていると男が戻ってくる
なんだか悲しい目をしてる…心が苦しがってるのが伝わってくるみたい
「さっきの子犬はどう…」
死んでいるとは言え、その身体に酷いコトしていないか心配になって聞こうとしたら
男が襲いかかって来て私の腕に噛み付く
「なっ…!?」
そのまま私の右腕を一瞬にして引きちぎる
ビックリした私は男の腹を蹴り飛ばすが、私の蹴りなんて痛くもないのか夢中で私の腕を食っている
なんなんだコイツ…
驚きのあまり私は食いちぎられた腕から流れる血を抑え回復を忘れるがすぐに思い出し再生させた
「やっぱり聖女の噂って本当だった」
「オマエは…」
私の腕を食べ終わった男は見て見てと隣の部屋に続くドアの鍵を開く
「他の人間や獣は食べたらなくなるのに、聖女は死なない限り一瞬で回復再生する」
隣の部屋のドアが開かれると鼻が曲がるような腐った悪臭が身体にまとわりつく
その部屋には大量の食いちぎられた人間や牛羊鳥豚馬などの肉の死体が山積みにされていたんだ
「なくならない食べ物は夢のようだ!」
男は私を見て嬉しそうに笑う
さっきまでの悲しい表情を一時だけなくして
これを見て私も思い出した…
香月が言ってた、最近この近くで人間や家畜が行方不明になる話
関係ないやって聞き流してたケド、香月は「貴女が一番危ないから気を付けなさい」と私に言ったんだ
え~大丈夫大丈夫って軽く考えてたらフラグだったか
さらに香月はその犯人は人間を殺して食べた白虎だと言っていたわ
神獣の白虎は人間を殺して食べてしまうと、もう二度と白虎の姿には戻れなくて
その後はずっと人間を食べないと生きていけない
牛や豚の肉を食べて満腹になっても、人間の肉を食べないと命を繋げられないんだって…
それが人間を愛し守る神獣白虎への罰であり…永遠の罪なのだと
「ふ~ん…あんたが噂の白虎なんだ」
「ラスティンって気軽に呼んで」
なんでそんなフレンドリーなんだよ
食べ物の私に
ふと食い散らかしの部屋の窓から外が見えて、庭には新しい小さな墓が見える
あれは…もしかして
「あれはラスティンが食べた人達の墓?」
やけに小さいし、1つしかないケド
「ラスは家畜の墓をわざわざ作らないご飯はご飯
感謝して食べてるよ
あの墓はさっき聖女が持ってた子犬の墓」
「私はセリカ」
子犬のお墓…作ってくれたんだ
子犬…ゴメンなさい…
あのお墓を見ると胸が苦しくなる
「セリカ!美味しかった
今まで食べた人間の中で1番」
「そりゃどうも」
それどう反応したらいいか困るんだケド
白虎の中でも若いと聞いている
見た目は20代半ばから後半くらいで実際は35歳くらいだって
今も人間を愛してるのかな…
「他の人間は食べると死んでしまう」
食い散らかして死んで転がっている人間を見下ろすとラスティンはまた悲しい目をする
「本当は食べたくないんだよ
でも、食べないと生きていけない…!」
愛してる…とっても愛してる
苦しいくらい…
苦しいケド、食べないと生きていけない
死にたくない
お腹が空いたら気付いたら人間を食べてる
その繰り返しでラスティンは今日まで生きてきたのね
「1番好きな肉は?」
「牛!」
「気が合うわね、私も牛肉が好きよ」
「あとは馬も羊も鳥も豚も、肉ならなんでも好き
人間の肉も美味しいから好き」
キルラとラナ頑張れ
人間食べたくないケド好きなんだねって食べれる肉ならなんでもいいんだろ
お墓ないってコトは人間も食べたら家畜なんだラスティンにとったら…
「私は1番好きな食べ物はって聞かれたら美味しいものって言うケドね」
「どうして?それは皆同じ」
「牛肉が好きと言っても、肉が固かったり味がなかったら美味しくないじゃん
イチゴは大好きよ、でも酸っぱいイチゴは苦手だし甘いイチゴが好き
この前、安いフォンダンショコラとスイートポテトを食べたら
とても不味かった…粉っぽい味しかしないんだもん
それらは好きな食べ物なのにね、私は食べれたらいいって人じゃないもの
だから私は好きな食べ物は?って聞かれたら美味しいものと答えるの」
そもそも食材を不味い料理として仕上げてしまうのは冒涜であるし罪だ!
固いお肉も酸っぱいイチゴも料理次第で美味しく出来るもの
(自分の手料理が不思議な味になるコトは棚に上げてる)
「ハハ、ハハハ!セリカ面白い」
私が食に関して熱く語っているとラスティンは久しぶりに笑ったかのように不自然な笑顔を見せる
「ラスは食べれたらいいってタイプだった
味を気にした事ない
これは他のよりは美味しいと感じる事はあるけど」
私は止まらないラスティンの話を聞いてあげる
久しぶりに誰かと話したみたい
久しぶりに誰かに笑ったみたい
ラスティンはこの死体にまみれた部屋の真ん中で私に溜まっていたお話も感情もたくさん伝える
最初はうんうんと聞いていた私だったケド、だんだんと眠くなって気付く
「ってもうこんな深夜じゃん!?」
ヤバイとソファから立ち上がると私の腕をラスティンが引っ張る
「私、帰らないと
こんな遅い時間になったら香月が私を探しに来るわ」
「セリカはラスの食料、帰さない」
そんな気はしていたから私はとくに驚きはしなかった
ラスティンからすれば私はなくなるコトのないお肉なんだから…手放したくはないでしょ
人間を食べなきゃ生きていけないならなおさら
「ダメだよラスティン、私を誰だと思ってるの?
私を引き止めたり隠したりしたら魔王に殺されちゃうよ」
「魔王…ってあいつ…はどうしてセリカを?」
「会ったコトあるの?」
「ない
人間を苦しめる悪い奴って教わった」
魔王の香月は勇者のセリくんより知名度高そう
「人間を守る白虎一族は魔王は敵、魔族は敵、魔物は敵」
人間に危害を加える全てが敵だとラスティンは想像の中にしかない憎しみを燃やす
人間を殺して食べて生きるラスティンは…人間を愛して守ると誓いがあるの?
おかしな話ね…変だと思わないの
「はっ!セリカ、隠れて」
ラスティンは急にただ事じゃないと立っていた私を床に伏せる
そして、警戒しながら窓からこっそり外を覗き確認
「たくさんの…人間の匂いがする……」
「そりゃこんなに死体山積みにしてたらね」
「違う、生きた人間…それも殺意を強く匂わせて……」
その殺意は自分に向いているのがわかったラスティンはなんでどうしてと焦っている
愛している人間達から殺意を感じたら…辛いか
でも
「何人かはラスが食べた人間達と同じ匂いがする…?」
「やっぱりそっか」
「セリカ?」
私は伏せていた頭を上げて堂々と窓を覗く
暗くてよくわからないケド人の気配は確かに感じて、私にも痛いくらい伝わる強い殺気を放っているのが
「あの人間達はラスティンを退治しに来たの」
ラスティンの言う死体達と同じ匂いってのは家族のコトでしょう
「ラスを退治!?そんなの嫌!」
ラスティンは私の腕を掴んで裏口から逃げようと走る
白虎の力に私が振りほどけるワケはないからそのままついていった
「死にたくない…」
いくら神獣の白虎でも、それは過去の話で今は牙も爪も失った人型のラスティンじゃ外にいる人数には勝てないわ
簡単に殺されて終わりね
そしたらこの手も離れるから私はそれから帰ってもいいか
勢いよく裏口から飛び出すとすでに回り込まれていて人間達に囲まれる
当たり前だよね!?とか冷静に思った私だった
そんな簡単に逃さないでしょ、憎い相手を
「っ!?」
「ラスティンの自業自得だよ」
「でもセリカ…ラスは!」
殺されるとわかっているその死に満ちた恐怖の表情
「どんなに人間を愛していると言ったって想っていても、ラスティンのして来たコトは人間から見たらただの人殺しの人食い白虎なんだ
人間がラスティンを退治するのは当然の流れだよね」
私は追い打ちをかけた
ラスティンは顔を真っ青にして、私から手を離す
私も、敵だと思われちゃったかな
「聖女様!早くこちらへ!」
「その白虎は危険です
聖女様まで食べようとしていたとは!」
静かに私は人間達の下へと近寄り、ラスティンがひとりになると人間達は一斉に手にした武器を振り上げては下ろす
「……………。」
後ろを振り返るコトはしなかった
殴られて斬られて突かれて殺されるラスティンの姿を見たくなかったから
でも、耳から聞こえるのは痛みの音
死に繋がる音が嫌な気分になる
自業自得で仕方ないと言っても
「しぶとい生命力だ…」
「だがさすがにここまでやれば息絶えたろう」
「仇は取ったぞ…」
人間達は動かなくなったラスティンを置いたままさっさと引き上げて行く
仕事早いな~、それにラスティンの死体に何もしないんだ
首取って村に晒すくらいしても、あなた達の気は晴れないハズなのに
「明るくなったら殺された仲間の墓を作りに来よう」
「聖女様…こんなに冷えてしまって、今夜は私達の村に」
被害者の中でたったひとり生き残った私に恐かったでしょうと女の人が私の冷たい手を優しく握って気遣ってくれる
「……ありがとう
でも、私は帰らないといけないから大丈夫」
「はい…」
近くの村ならなんとなく私の事情を薄々勘付いている
だから無理を言わないわ…
それから数分すると、人間達はみんな引き上げて
私はやっと振り返り倒れたラスティンの傍に座り込む
「こんな所で寝たら本当に死ぬぞ」
冬だし、雪積もってるし
「えっえっえっ……!?ラス生きてる!?」
私が声をかけるとラスティンは自分は幽霊になったと言いながら身体を起こす
「だから、私を誰だと思ってんだよ
超綺麗で天才で慈愛に満ち溢れた女神だよ」
「最初以外誰の話?」
おいおい殺すぞ
せっかく助けてやったのに
ウソでもうんって言えや恩人様に
「とても痛かった…死ぬほど痛かった
だからラスは死んだと思った
人間はいつも酷い事する…」
私はラスティンが死なないギリギリを回復魔法で生かしていた
目の届く範囲にしか私の回復魔法は使えないと思ってたケド、かなり集中していれば目を閉じていても対象の気配さえ感じていれば可能だって最近わかったの
「何言ってるの、さっきも言ったケド今回はラスティンが悪いわ
人間を殺して食べれば、その人間の仲間達が怒るのは当然なの
ラスティンの言う他のいつもはどんな状況だったか知らないから何も言えないケド、今回はね」
私の回復魔法でかすり傷もなくなったラスティンなのになかなか立ち上がらないから私は肩を貸して館の中に入る
だって寒いじゃん
ずっと我慢してたんだケドこの寒いの
早く帰って香月にあっためてもらいたいよ、もう
館の暖炉の前で私達は冷えた身体を温める
燃え上がる炎を見て思った
寒いなら自分の炎魔法で暖取ればよかったんじゃないか!?と…
「ラスが悪い…よくわからない
人間だって、生きる為に獣を殺して食べる」
「うん、獣も同じだよ
抵抗もするし、子供を殺された親が襲ってくる話も珍しいコトじゃない
生きる為に何かを食べるってそういうコトかも」
人間は圧倒的に獣より強いから獣に殺されるコトは少ないのかもしれない
植物だって生きてるわ…
生き物は他の生き物を食べて生きるの
「………そうだね、食べなきゃ生きていけない
それなら、セリカはどうしてラスを助けた?」
「たまたまだよ」
私はラスティンに人間の肉を食べなきゃ生きていけないなら、どれくらい食べたらどれくらい生きれるのか聞いてみた
牛や豚も食べると言っていたから、人間の肉だけを食べなきゃいけないってワケじゃなさそう
生命維持なだけで、腹を満たすだけなら他でもいいのよね
「腕一本で一週間は生きられる」
「ふーん、ならよかった
毎日身体の半分以上とか言われたら面倒くさいなって思ってたトコ」
「つまり?」
暖炉で温かくなった身体を立たせ、私は帰る準備をする
「ラスティンはもう愛する人間を食べなくていいってコト
これからは私だけを食べていればいいの
なくなるコトのない食料があるのよラスティンには」
「!!」
そうつまり、ラスティンのコトは私が飼う
ペットにするってコトだ
「私は今魔王の下にいるから、人間達と戦うコトも殺し合うコトも多い
それでもいいならの話だケド、ラスティンにとったらそれはイヤなコトかな」
「ご飯食べられるならなんでもいい!!」
あっ…そう、飯>>>(超えられない壁)>>>愛する人間達
ってコトかい
ラスティンは引っ越しの準備すると言って館の中を走り回る
ラスティンを連れ帰ったら簡単に魔族に殺されるかもしれない
まっ…どっちにしろ、私がここで見捨てたらラスティンはいつかまた人間達に殺されてしまう
当然のコトで
それがわかっていて私は見ぬ振りを出来なかった…
あの子犬のコトを思い出す
被ってしまっただけ
私が出来るコトをやらなかったら絶対に後悔するって…思うから
ラスティンは好きで白虎の姿を失ったんじゃないと思う
好きで人間を食べなきゃ生きて行けないようになったんじゃないと思う
バカそうだから、なんも考えずにそうなったってのはありそうだケド
私は何も知らないわ…
助けるコトが正解なのか間違いなのかもわからない
でも…でも…愛してる者達を食べなきゃ生きていけないってとても辛くて苦しくて悲しいコトでしょ…
ラスティンは私に笑った顔を見せるケド、どことなく悲しみは消えない
ずっと悲しいんだ
バカでも感じる心はあるんだね…
「ラスティンまだ?早く帰らないと香月が殺しに来るよ」
「もう出来る!」
うわ…スゴイ荷物たくさん背負ってきた
アニメでしか見たコトないようなくらいの量を苦しい表情とともに汗流しながらも持って行く気満々だ
おいおい大丈夫かよ…
そうして私はラスティンを連れて帰ったの
これでよかったとは思わないわ…
ラスティンを傍に置いたのは私の自己満足だ人間を愛してるラスティンがこの場所にいるべきじゃない
私は人間を殺すコトもあるもの…
魔族と暮らすコトも、ラスティンにとっては難しいよね
ただ私は…あの時の子犬みたいに
私が見捨てたら、死んじゃうんじゃないかって思ったから…それだけだよ
「ただいま!」
私が帰ると香月はいつもと変わらない表情で見下ろす
「そろそろ捜しに行こうかと思っていました」
冷たい表情なのに、やっぱり私にはわかる
香月は私が無事に帰ってきてホッとしてるんだって
なんか…嬉しい…
「私がひとりだったら香月が迎えに来てくれるの待ってたよ」
誰かといたら、香月はその人を殺すわ
私を帰さないからって…
だから誰かといる時は意地でも帰らないと!!
「そちらは…神獣の白虎ですか」
「うん、拾ってきた」
ラスティンは香月を見ると自分の意思とは関係なく身体が勝手に平伏す
あーめっちゃわかる
恐いよね、香月を目の前にすると
ほとんどの人がまともに立っていられない
私だって今も恐いわ
恐いケド…恐いと思うより今は信頼の気持ちのほうが高いから平気なの
「力を失っているとは言え、神獣が私の城に住む日が来るとは思いませんでしたよ」
「まぁいいじゃんいいじゃん、私がちゃんと面倒見るからさ」
「……貴女がそう言うなら」
ふふふ、香月ってこの顔に弱いよね
良かった~セリくんと同じ顔で
「ラス…顔が上げられない、これが…魔王…?」
「神獣は私達を敵と認識しているはず」
牙を向けるなら殺すと香月は言う
でも、もうラスティンには牙なんかないよ…
「ご飯のほうが大事」
軽いな!?人間への愛が!
「ご飯あるなら魔族と喧嘩しない」
「人間を殺しても、黙って見ていられるのですか」
「………悲しい…
けど、セリカがいないとラスは他の人間を殺して食べないと生きていけない」
自分で殺すよりマシなほうを選んだ
生きる為に…
空腹はイヤだ、死ぬのはもっとイヤだ
いいじゃない…本能のまま生きるのもまた
それは動物らしいし
人間の為に死ぬ、誰かの為に死ぬのも、ありだけれど
私だったら、どうだ
ラスティンのように苦しんでまで生きるか
苦しいなら死んだほうがマシ
なのに私は、もしかしたらいつか救われるかもしれないと夢見て生きてきた
バカだもの
だから私は別の理由で生きるわね…
「セリカ…すっかり冷えて」
あっ…
また心が暗闇に包まれそうになった時、香月は私の頬に触れる
そこがとても温かい…
「冬だからね…寒いわ」
体温のないイングヴェィの手はとても冷たい
でも、同じなの
香月とイングヴェィの手は
心があったかくなる
引っ張られそうだ
私の心が、愛に…引っ張られる
運命の糸で
-続く-2015/12/30
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