105話『変わらない運命は少しずつズレていく』セリ編
そんな運命が何度も何度も繰り返される
俺は今までの運命は何も覚えていない
だからなのかもしれない、今を我慢すれば耐えれば…その先はきっと明るいってバカな夢を見るのは
永遠の憎しみも苦しみも悲しみも…いつ終わりが来るんだろう……
勇者として魔王退治の旅へとやってきた
正直、魔族も魔物も怖い
でも今までの人生を変えるには勇者になるしかなかった
失敗して、魔族や魔物に殺されてもよかった…
戻りたくなかったんだ、あの村に…あの家に……
魔王城は遠くなかったが、さすがにいきなり挑むのもただのアホでしかないから俺は色んな所を旅しながら自分の力を試した
魔族や魔物と戦うのも慣れてきてそこらにいる奴はもう俺の敵じゃない
天魔法と炎魔法も使えるってコトに気付いたし、また戦いやすくなった
それにしても非力な俺は人間には弱いのに、人間に強い魔族や魔物には勝てるって変な感じだ
ジャンケンか!みたいな、全然面白くねぇな
旅の途中で人間の町や村で休むコトがあるけど、あまり歓迎はされない
俺が魔法を使うコトに魔族みたいで気味悪いと差別されるし、妙な連中に絡まれるコトもよくある…
どこも…一緒か…変わらないんだな
自分の村にいる時は外に出れば違う世界があるんだって夢見てたけど、そんなコトはなかった
後は…魔王を倒したら世界が平和になるって夢にしがみついてるだけ
きっと変わりはしないってわかっていても……
「おっ?なんだオマエ、可愛いじゃんか」
休みに来た町の近くの森から可愛いウサギが俺の足元に来ておやつをおねだりする
仕方ねぇなぁ、持ってたドライフルーツのリンゴを渡してやると美味しそうに食べてくれた
「可愛い可愛い」
頭を撫でてやると懐かれた、俺が歩くとついて来るんだ
「オマエを連れて行くのは無理は話だぞ?」
足元にまとわりつくウサギを抱き上げると何考えてるかわからない顔をしていた
ウサギを見ていると、ふと仲間や友達と言った言葉を思い出す
あー…俺には仲間も友達もいないんだ
ひとりで旅をして魔族や魔物と戦って、魔王を倒しに行く…ひとりで……
寂しいのかな、ひとりは慣れているから寂しいとかよくわからない…わからないけど…たぶん憧れてる
ついて来てくれるウサギを見て、俺は嬉しいと感じたから
「バイバイ、またな」
とまた会う約束をする
ひとつの村や町に長いコト居座るコトはなかった
だけど、こんなに可愛い奴がいるなら暫くいてもいいかもしれない
魔王城はもうすぐ目の前だし、俺の旅ももうすぐ終わる……
この旅だって色々と嫌なコトもあった
でも、あの村にいた時よりはマシかな…
マシってだけで良いワケじゃないけど……
町の中を歩いていると、複数の男に囲まれて殴られたり蹴られたりの暴力を受けている女の子の姿が目に入った
その光景はどこに行ってもよくあるコトだった
周りの人間達はそれを見世物のひとつとして娯楽となり笑い声で賑わう
同じ弱者の俺から見れば異常な景色なのに…他の人間達にとっては…それが当たり前なんだ
「やめろ!女の子を寄ってたかってイジメるなんて、それでも男か!?恥ずかしくないのかよ!?」
昔の俺はそこで同じようにうずくまっていたか、見てみぬフリで逃げていただろう
でも、旅に出てから俺の回復魔法は痛みを感じないように出来るとわかって
殴られようが蹴られようが平気だから、俺のひとことで誰かが救われるなら…よかった
気持ちは情けなくも怖い、その当時を鮮明にトラウマとして蘇るから
「あぁ?なんだおめーはぁ?」
「こいつ勇者じゃん?」
複数の男はうずくまった女の子から俺へと向き直る
「ひゃはは!勇者様!?こいつの代わりやってくれんのか?サービス付きでよぉ?」
サービス付き…?その言葉に嫌な予感がする…でも、もう後には引けない
「キレーな顔してんな~?」
顎を掴まれぐっと引き寄せられるとそのまま顔面に手加減なしの拳が叩きつけられる
「ぐっ…」
手を離されると尻餅をついてしまう
鼻血が…息苦しいが、痛くはない
でも、痛いと錯覚してしまう
魔族や魔物と戦う時と全然違うな
傷や怪我はすぐには治さない
綺麗に治してしまうと終わりが見えなくなってしまうから
「おーキレーなお顔が台無しだな?顔はやめといてやんかぁ!!」
腹にも一発、そこから武器を使っての奴らが飽きるまで殴られ続ける
暫くして疲れてきたのか男達は武器を捨てて手を止めた
「今日はこれくらいにしてやる、次会う時までに綺麗に顔も身体も治しておけよ?
あのブスより、あんた男のくせに妙にそそられるから今度は気持ちいい事しようぜぇ?」
「ひゃははは!楽しみだな!!」
最後に横たわった俺の腹へと蹴りを入れて奴らは帰って行った
バカ言うな…誰がオマエらなんかにヤられるかよ……
今度が来る前に町から出て行くに決まってんだろ
「あー…痛くねぇけど、超いてぇ」
腕折れてるし足も酷く腫れてる
周りに誰もいないコトを確認してから、身体の怪我も傷も回復魔法で治す
よっこいしょと立ち上がって服についた砂埃を払う
俺は怪我をしたさっきの女の子を捜すコトにした
暫くして見つけると俺は彼女の傷や怪我を回復魔法で治してから隣へと座る
「大丈夫か?」
「……大丈夫に見える?どうして、あたしを助けたのよ」
女の子は俺より2、3歳は年下だろうか
俺の方に顔を向けるコトはない
別に助けたコトに感謝されたいワケじゃなかった
でも、突き放すような雰囲気が…俺は間違ったコトをしたのかと思ってしまう
「目の前で女の子がイジメられてたら助けるのは男として当然だろ?」
好意を持ってるワケでもないが、女の子の前だからってカッコ付けちゃった言い方してる俺ってアホなんだろうな
助けられないコトなんてたくさんあった…
今だって俺は弱いまま…
それでも、旅に出て痛みを無効にする回復魔法が使えるようになってからは少しだけ前向きになれた
魔族や魔物に余裕で勝ってしまうからそれも相まって自分が強くなったと勘違いしているのかも
「それに……俺は…暴力で弟を2人殺されているから…
何も出来なかったあの時を…後悔してる
それだけじゃなくて、俺も随分酷い目に合ってて…君の気持ちもわかるから」
「なんて言ってほしいの?」
えっ…
女の子から冷たく突き放されて言葉が詰まる
「同情されたいの?可哀想って思ってほしいの?自分の方が可哀想だからあたしはマシだって言ってるの?
つまらないからその話」
「ご…めん…そんなつもりじゃなくて
君の辛さは君にしかわからないから、誰かと比べてマシとかはないよ
その人にとっての辛いは他人にはわからないから…比べるなんて失礼なコトだ」
……心が苦しくなる
俺は自分のコトを誰かに話したかったのかもしれない…
同情とか可哀想とか思われたいワケじゃないけど…
どうしてだろう、話すコトで楽になりたかったのかな
なれるワケないのに…
ただ誰かに聞いてほしかっただけなのかもしれない
バカだな俺は、そんな話しても他人には重いだけなのにスゲー迷惑な話だよ……
でも…聞いてほしい…誰かに
この子には言えないけど
「あんたは勇者でしょ?ずっとここにいないでしょ?」
「あっうん…すぐにでもここを出るつもりだけど」
「あいつらはあんたが邪魔した事であたしから標的をあんたに変えたのに…
あんたがいなくなったらまたあたしがいじめられるわ…
中途半端なのよ!あれで助けたつもり!?」
女の子は俺を見たかと思うとその目つきは嫌悪でしかなかった
「あたしの代わりにいじめられ続けてよ!出来ないならあいつらを殺して!!」
この子だっていっぱいいっぱいなんだ…
逃げたくても逃げられない…
ずっと…このまま…変わらない人生
勇者になる前の俺と同じ……
「人殺しは…したくない……」
「それじゃ代わってよ!!あたしの人生をあんたが代わりに受けて!!」
酷く言い捨てて彼女は俺の前から走って消える
想像もしなかった…こんなコト……
重たくのし掛かる、誰かを助けるなんて簡単なコトじゃなかったんだ
見てみぬフリが正解だって言うのか?
いや…俺は自分の行動が間違ってるなんて思わない
そう思ってしまったら…弟達を見殺しにした俺は……それは仕方ないって間違ってないって自分を許してしまう
許せない、自分が…弟達を守れなかった俺は俺を許しちゃいけない
でも、なんの力もない俺には……あの女の子を本当の意味で助けられない
どうしたら…どうすれば……
本当はすぐにでもこの町を離れたかった
でも俺が離れたらあの女の子は…また
「よぉ、逃げなかったな?それとも楽しみに待ってたのかな~?」
「ぎゃははは!!」
次の日、俺は昨日の男達に囲まれてしまった
逃げも隠れもしなかった…見つかって当たり前だった
俺の肩へと男の手が伸びて触れられると、身体が強張る
嫌な…記憶が一気に押し寄せて、気分が悪い
「あの女の子…」
「エマの事か~?」
名前聞いてないからわからんが、流れからしてたぶんそうだろう
「もうイジメないって約束してほしい」
助けられなきゃ…俺が代わりになる意味がない
まだ…誰かが助かるなら…俺の心もまだ…耐えられる……ハズ
「それは勇者様がおれらのおもちゃになるって事でオッケー?」
「約束…してくれるなら……」
「エマとは昨日知り合ったばかりだろーよ?よくそんな見ず知らずの女の身代わりやれんな、勇者様はマゾかよ」
四方八方から聞こえる笑い声が不快でしかなかった
俺だって自分が頭おかしいと思ってるよ
見ず知らずの女は助けて自分の弟は助けられなかった、本当にバカなんじゃないか
「わかったわかった!おれらも魔王じゃあない、あんたがいるうちはエマには手を出さねーよ」
その言葉はまた俺を地獄に縛り付ける人生の逆戻りだった
男達に囲まれたまま連れて行かれると
急に……後悔が押し寄せる……
助けなきゃよかった…あの時…目を逸らしていれば……
いや…そんなコトはない…!!
必死に自分を保とうと抗うけど…やっぱり死ぬほど嫌なものは嫌だよ…
それから1ヶ月近く経った
毎日毎日我慢して耐えてきた…
でも、やっぱり気持ち悪いし痛くて汚い…嫌でしかない
一度旅に出て変わった人生を知っているから、俺はついに逃げ出すコトを決める
エマには悪いけど……ごめん…
俺は弱い人間だった…何も出来なくて、やっぱり誰も助けられなくて
自分の情けなさと惨めさに顔を上げられなくなるほど…
「どこ行くんですか?勇者さん」
町を出ようとするとエマに引き止められる
「エマちゃん……その…俺……」
なんて…言葉が出て来ない
俺がここから出て行ったらこの子を見殺しにするってコトだったから
「どうして友達作ったの?友達なんて作ったらこうして利用されるだけなのに
弱味でしょ?あんたの」
振り向くとエマは俺のウサギを抱きかかえ首を掴んでいる
な…なにを……
「あんたが出て行ったらこのウサギの首をへし折る」
目が本気だった…きっと彼女は同じように自分の友達を利用されて逃げられない状況に追い込まれたコトがあるのかもしれない
「や、やめて……」
返してと手を伸ばすが、もうウサギは大事な人質になってしまっていた
俺を抑え込むための…逃げないように
「だったら死ぬまであたしの代わりするのよ!あんたは!!逃げるなんて絶対ゆるさない!!
他人がイジメられてるのを見るのは本当に楽しいわ!!だから皆イジメを止めなかったって今ならよくわかる!!」
もう…逃げられない
彼女は俺を身代わりにして助かる…
助かったんじゃない、向こう側の人間となってしまったんだ
男達が集まって来る
まるでエマが呼んだかのようにタイミング良く……
俺は……間違えたって言うのか…本当に?
これをどう言い訳する?
まだエマがコイツらに脅されて、なんて自分を納得させるか?
彼女の顔は向こう側の人間と同じになっているのに
「セリちゃーん、行かないでよ~?さみしーん」
「おもちゃが勝手に行動すなや」
一歩後ろに下がるだけでこの町から出られるのに…動けない
ウサギを見ると…このまま行けない
男に腕を掴まれると拒否反応が起きて手を引っ込めようとする
「っ…触るな…」
ヤバ…抵抗すると…もっと酷い目に合うってわかってるのに…
すぐに両腕を押さえつけられ、腹にナイフを刺し込まれ傷口を広げられる
そこから大量の血が失われて強い貧血に襲われ目眩と一緒に手足の力も奪われる
「う…ぅ…っ」
妙に気持ち悪い…自分の腹の中をナイフでかき乱される感覚
俺のいた村はさすがにここまではなかったが…よく思い付くな…こんな方法
「やりすぎんな?死んだらお終いなんだかよ」
暫くしてナイフを引き抜いて俺に回復するように命令する
回復して傷は塞がっても失われた血は戻らない
暫くは酷い貧血が続いて手足に力が入らない
意識は朦朧とするが、完全になくなるワケじゃないから記憶もあれば感覚も…忘れない
エマの方を見ると…彼女はこんな俺を見て、面白いと笑っていた……
俺は彼女を視界から消すコトにした
いつもの部屋に連れて行かれて、いつものように我慢して…耐えて……諦める
これももう何回目だろう、数えられないくらい…これからずっと…?変わらず続くのか…
男達に散々犯された後、残された俺は貧血が酷くすぐには動けなかった
「…見ないで…こんなの…嫌だ」
いつも、いつも、耐えてきた
その度に心が死んでいくように
この穢れはいつまでも消えない
物心ついた時から、そして死ぬまでずっと…俺を苦しめる
「……解放されたい…救われたい…」
誰も助けてくれないなら…自分が助けるしかないって気付いているから
逃げられないなら…
俺を見てるような気がする勇者の剣に手を伸ばし掴む
剣を鞘から抜きその刃を首に当てた
…いっそ……もう
「………本当」
だけど、その刃は柔らかくゴムのようになってしまう
「オマエ…俺のコト好きだよな」
これじゃ死ねない…
剣を首から離し見つめると、刃に雫が滴り輝く
泣いてる…
動かなくても喋らなくても、何を思ってるかわかる
すまないな
「でも、生きるコトが絶対に正しいコトとは限らないんだぞ…」
行かなきゃ…
…運命に従って魔王の所へ……それしか俺には残されていない
でも、ウサギは…どうしたら……やっぱりまだ耐えなきゃいけないのか
「いたい…痛いな…」
回復魔法で身体の痛みは感じないハズなのに、ずっと感じてる
大きな穴が空いている感じが、いつまでも慣れなくて気持ち悪くて…
身体の全てが痛いんだよ
どんなに綺麗に身体を洗ったって、綺麗になれない
耐えて耐えて…痛みが俺の心を殺し支配する
自分じゃなくなる
嫌と思うコトさえ、思考を停止して…
そんなの…全部ウソなのに、できないのに、心を感じないようになんて出来るワケない!
心は絶対死なないから!いつだって、隠れた所で叫んでるじゃないか!
誰にも届かない叫び、自分にすら届かない
諦めてる、俺は俺を助けるコトを…
誰か…助けて
俺は弱い…弱い俺は嫌い、自分を守れない俺なんて……
暫くして部屋に誰かが入って来る
入ってきたのはエマでウサギを抱えて俺の前へと座り込む
ウサギには何もしないって約束は…
「勇者さん…見て?」
目の前で破られる
横たわっている俺に見えるようにウサギを突き出して、その首をへし折って目の前に投げ捨てた
「その顔!!たまらなく面白いわ!!イジメる側って最高に楽しい!!!」
高笑いが…俺の心を鋭く貫く…
酷い…何もしないって言ったのに…
流し尽くしたハズの涙はまだ溢れ出てくる
目の前で小刻みに痙攣するウサギを見て、俺はまだ生きているのだと手を伸ばした
ウサギに触れると一瞬で回復し、ウサギは何事もなかったかのように起き上がる
よかった…生きてて……早く…帰れよな、二度と…人間の町に近付くな
声をかける気力もない、俺は目を逸らすだけ
なのにウサギは俺が心配なのか顔の所まで寄ってきて、ペロっと鼻を舐める
その行動に俺はハッと声をあげてしまった
「っ汚いから舐めるな!!!」
大声にビックリしたウサギは背を向けて走って出て行く
舐めたら…汚いから……本当…俺、めっちゃ汚いよ
髪の先から足の爪先まで…身体の中だって……綺麗な所なんてひとつもない
「ウサギまた捕まえて」
エマが追いかけようとしたから俺は腕を掴む
行かせない……
掴んだ腕から炎がエマを包み込む
「きゃーーー!!?熱い!!死ぬ!!助けて!?」
殺してやる……許さない……許せない……殺してやる……!!
俺を傷付ける為に小さな命を弄ぶなんて…
こんなに我慢して……俺の意味が…わからない
こんなの……って、ないだろ!!!
「あ…あ…つ…い…いぁ…」
炎の熱さで最初はのた打ち回っていたエマだったが、そのうち動かなくなり見た目も真っ黒に焦げていく
…ハッとした
すぐに炎を消してエマを回復する
ぎり…ギリギリだった…エマは一命を取り留めて気を失っているだけだった
「俺は……人間を…殺そうと……したの?」
信じられない、信じたくない…でもこれは現実だ…
今までにない気分の悪さに吐きそうになる
人間を殺したら戻れなくなる
俺が俺じゃなくなってしまう…
そしたら…俺は……もう…
嫌だ、絶対に嫌だ
俺は俺でいたい
でも…限界超えてる…もう嫌だ、何もかも…嫌だよ…
それでも我慢できたんだ…今までだって…これからだって、耐えろよ
だけど…こんな世界…魔王を倒したからって平和になるとは思えない……
俺は…何をしに魔王の所へ…?
町を出て魔王城に近付けば、俺の足は重くなる
魔王城の入り口で何かに遭遇したような気がしたけど、上の空だった俺には気のせいでしかなかった
「ジャジャジャジャ~ン!今回も四天王最強キルラ様参上!!……って無視!?セリ様ああああああ!!!!??いやーーー!!オレ様をシカトしないでええええ」
「近所迷惑なんだよ!おまぁは!!」
「セリがポップ達を無視するなんて~?」
遠くでそんな声がするようなしないような……
どこに魔王がいるかなんて俺は知らないハズなのに、自然と足が向いていた
やっと…たどり着いた…魔王の所まで……
魔王を目の前にすると
「セリ…」
名前を呼ばれる
どうして俺の名前を知ってるのかとか、不思議に思わなかった
ただ…魔王の顔を見たら……我慢していた涙が溢れ出して…止まらなくなって……
「助けて…」
言葉と一緒に大粒の涙がこぼれ落ちていく
「…帰りたくない」
人間の世界には帰りたくなかった
はじめて会った人にどうしてこんなコトを言ったのか
魔王を倒したら俺はあの村へ帰らないといけないから、あの人間世界に戻らないといけないから
本当は魔王を倒したからって、世界は平和になっても俺の世界は何も変わらないってわかっていたから
もうここが最後なんだ
はじめて会って敵の勇者から助けを求められるなんて魔王からしたら意味がわからないし迷惑なだけだろう
でも…俺は…どうしてか…魔王を目の前にすると我慢が崩れてしまったんだ
なのに、魔王はそんな俺を何も言わず抱きしめてくれる
「うっ……うぅ……あぁ…」
何も考えられない
たくさん泣くコトしか出来ない
何も喋れない
魔王に抱きしめられて…とても温かかったから……それしか感じなかった
暫く大泣きして急に泣き止んで冷静になる
大泣きするといつも突然泣き止んで冷静になるから……今のこの状況は一体…?
「あっ…あの…魔王…さん?」
冷静になってめちゃくちゃ恥ずかしくなって離れて頭を下げる
「ご、めんなさい!!いきなり大泣きして…その…変なコト言って……忘れ」
「ラナ、セリを部屋に案内してください」
俺が頭を下げるのをスルーして魔王はラナと言う羊男に命令する
「はい!香月様!喜んでーーぇ!!」
居酒屋の店員か?
「えっ…部屋って…?俺はお客さんとかじゃなくて…魔王を倒しに来た勇者で…
いやなんか急に泣いたのは申し訳ないと思うんですけど…忘れてほしいし」
本当に…忘れてください、死ぬほど恥ずかしいから……
「好きなだけ休むといい」
魔王は俺の頬に残った涙を拭ってくれる
触れられて…何故か顔が熱くなる
な、なんだこれ…この人は危険だ…心臓が激しくなるから
「はいはい魔王とか勇者とかはしつこいんで」
強引にラナに連れて行かれてしまう
魔王って…はじめて会ったけど…嫌な感じがしない
めちゃくちゃ悪い奴って聞いていたのに…
「ここがセリ様のお部屋ですよ~」
ラナに案内された部屋はついこの間まで誰かが住んでいたかのように家具が揃っていて細かい物まで置かれている
「好きに使っていっすから!」
「あ、ありがとう……」
はじめて見る部屋なのに…広くて綺麗で…なのに、不思議と落ち着く…まるで本当に自分の部屋にいるみたいに…気が緩む
内装も家具も何もかも俺の好み
クローゼットの中にある服も靴も、何故か全部俺のサイズピッタリで……ちょっと怖い
まるで俺がこの部屋に住むコトが決まっていたとでも言うのか、それとも…
「うわっ!?何やってんの…」
ふとラナの方に振り向くとラナは無言のまま土下座していた
「すみませんでしたあ!!!」
「な、何が…」
俺が声をかけると顔を上げずに大声で謝る
「この前セリ様に酷い事言って傷付けたじゃないですかぁ」
じゃないですかぁ?って俺とオマエは今日が初対面のハズなんだが
「ずっと後悔してて、謝りたくて、セリ様は覚えてなくても…」
ラナの言葉で俺はハッと思い出す
そうだ、魔王退治を命令した女王様は俺は勇者の生まれ変わりだって言ってた
何度も何度も何度も…あれは嘘じゃないんだ
永遠を生きる魔族が俺を知っている、そしてこの部屋も…
そっか…前世の俺はここに、魔族と…魔王と一緒に住んでいたんだな
「確かに、ラナがどんなコトを俺に言ったかなんて覚えてない」
覚えてないけど土下座までされたら許すしかないと思ったけど、ラナはこんなコトを前世の俺に言って殴られたとしなくていい説明をした
「それは…殴られて当たり前だろうよ…最後まで言うな、もう黙ってろ!!」
「ひぇ!!?」
さっと拳を振り上げるとラナは怯えて身を引くから、世界を支配するあの魔族なのになんだかそれがおかしくて俺は笑って拳をほどく
「アハハいいよいいよ、許す俺はラナを許すよ」
「でも、セリ様今もカチンと来たっしょ?」
言って良いコトと悪いコトあんだろ!?
まぁ…だって、それから何十年かずっとラナは後悔したんだ
もう十分だよ、それ以上気にするコトじゃない
「ラナは言葉は悪かったけど、正しいよ…
俺はそれを振り切って村に行った…だから殺されたんだっけ」
ラナは前世の俺がその後どうなったかも話してくれた
もう俺はあの村にも、人間の世界にも戻らない
戻りたくない……絶対に…
「セリ様…」
「ちょっと…休みたいから、外してくれるか?」
そう言うとラナは何かあればいつでもと残して部屋を出てくれた
部屋が静かになると自然と大きな溜め息が出る
勇者の剣を抱きしめながらソファへと横向きに寝転ぶ
正直、ビックリしてる…
どうしてこんな状況になったのかが…まだよく頭の中で整理が追い付かなくて
魔族は敵のハズなのに、俺を殺そうとしない
いや道中は戦って来た魔族も魔物もたくさんいたけど、そうじゃなくて
魔王もそれに近い魔族や魔物は、ずっと昔から俺を知ってる
もしかして、勇者の俺を油断させて殺そうと計画している?これは奴らの作戦なのか?
でも、魔王を倒して…あの村にも人間の世界に戻るのも嫌だ
それならまだ…殺される方がマシだよ
寝転んでいると全身の疲れがドッと出て、俺はいつの間にか眠ってしまった
寝ると悪夢を見る
嫌な…嫌な…夢…俺を苦しめる今日までの夢を……
悪夢の中で起きろと祈ればハッと目が覚める
心臓がバクバクして苦しい…汗もいっぱいかいてるし…最悪
部屋の中が暗いから寝てる間に夜になったのか
あれ…でも…
ソファで居眠りしたと思っていたのにベットで寝てるし、それにランプの灯りが…
「わっ!?魔王!?」
なんで俺の部屋に!?俺が寝てる間に殺そうと…いや生きてるしな
ランプの灯りを頼りに魔王はソファに座って難しそうな本を読んでいる
俺が起きたコトに気付いた魔王は本を置いて俺の傍まで来てベットに腰掛けた
近くに来たコトに、何故か俺はドキッとして…顔が熱くなった
あ、あれ…なんだこれ…?なんで俺はこんなに緊張して……
やっぱり超強い魔王だから本能的にビビってる?
いや…違う……
「私は香月、魔王ではなくそう呼んでください」
「香月…なんで俺の部屋に」
目線は香月から外さず手は勇者の剣へと伸びる
「うなされていましたね」
無視!?まぁいいか、別に香月が俺の部屋にいても
いやよくねぇな!?なんでだよ!?おかしいだろ!?普通は!!
「いつものコトだから…それより」
ベットの中で勇者の剣を手にしたけど…俺はやっぱり手を離した…
「俺を油断させて殺そうとしてるなら、今殺せばいい
この通り何も持っていないから」
両手を上げて何もないと証明する
もう…いいかなって……疲れちゃった
ここで香月達に甘えて一緒に暮らして仲良くなってから…裏切られる方が死ぬより辛い
だって…俺は勇者なんだよ?
香月は魔王でラナ達は魔族で、敵なんだよ
魔族と人間、魔王と勇者…どう考えたって仲良くなんてなれない
優しくされる前に…心を許す前に……どうせ来る未来なら、今ここで
「私はセリを殺すつもりはありません」
「なんで?わかってる?俺はこう見えても勇者なんだよ?
殺さなかったら魔王の香月が俺に殺されるかもしれないんだぞ
そんな危険な奴…殺すしかないじゃん…香月からしたら……」
なんで突き放してるんだろう俺は…
はじめて香月に会った時、俺は香月に助けてって言ったのに
今度は殺してって…本当は死にたくないくせに
「ずっとセリを見ていたいから」
まっすぐに俺を見る香月の視線から俺は交わる視線をパッと外してしまった
ずっと俺を見ていたい?…なんだよそれ…だから俺を殺すコトはないって?
胸が…苦しい…でも、嫌じゃないこの苦しいのが
「さ、さっきから…質問の答えになってない…
じゃあ…俺が…香月を殺すかもしれないのに……それでも」
いいのか?って聞かなくてもいいじゃん
こんなコトどうでもいいよ
だって、俺は香月を殺さないから
魔王を殺したら…また人生が逆戻りする
もう俺は…
「違う…こんなコト聞きたいんじゃない
……ずっと…ここに、いていいの?」
運命が変えられるなら変えてやる
魔王も勇者も関係ない
「はいセリ、ずっと私の傍にいてください」
その言葉が…嬉しかった…
俺ははじめて誰かに頼った気がする
助けてとはじめて頼って…はじめて受け入れてくれた人
ううん、それだけじゃない
香月とはじめて会った時から他人のような気がしなくて、会った瞬間に気が緩むような感覚があった
苦しい、辛い、悲しい…助けてほしい
そんな言葉はいつも飲み込んでいたのに、溢れ出して止まらなくなって
「ウソじゃない?後で裏切ったりしないか?俺は疑り深くて…」
ポロポロと涙が止まらない
胸がいっぱいで、やっと会えたような気がして…わかんないけど、この気持ちはなんて表現したらいいんだろう
「私は嘘をつきませんが、信じるか信じないかはセリが決める事」
「ううん…信じるよ」
いつもなら心のどこかで疑いが残ってたと思う
不安だってなくならないだろう
だけど、この人を疑うコトはどうしてか出来なかった
だって俺は泣いてるのに笑ってるから
今までの人生から解放されたコトに?
それもあるけど…それだけじゃない気がする
香月の手が俺の頬に触れて目が合うと無言が続く
数秒の沈黙に香月の顔が近付いて来たと思ったら、俺のお腹が鳴った
「あっ、お腹空いた!!」
「…夕食にいきましょうか」
香月の手が離れて香月がベットから立ち上がる
………。
急に顔の熱が上がる
な、なんだ…さっきの?いや…俺の勘違いかも?うん!きっとそうだ!
……キスされるかと思った…
いや、勘違いだって!ありえねぇよ!
男同士なんだし……
それに魔族の王様ならどうせ美女の花嫁いっぱいいんだろ
俺だって普通に女の子が好きだし
でも……なんだろ…香月にキスされるのは…嫌じゃないって思ったりも…
お腹が鳴らなかったら…どうなってたか
いや、どうもならねぇって
そうだよ、気のせい!なんもない!!
「セリ」
「あっ待って香月!」
ドアを開けて待ってくれる香月を追い掛ける
ちょっと優しくされただけで意識するとか、俺ってちょろすぎない?
…でも…香月って…凄い美形なんだよな
俺が女だったらこんな男がタイプで間違いないってくらいの、黒髪長身美形
何アホなコト考えてんだろ、女だったらとかありえない話を
香月に案内されてレストランに行くと3バカも一緒の席だった
「おーすっ、香月様とセリ様じゃ~ん」
ちょうど夕食時で混んでるな
テーブルにナイフとフォークがいくつもあるけど…なんでだ?
まぁいいや、料理が運ばれて来たから適当に選んだら香月に「外側から」と言われ、香月と同じようにして食べ始めた
マジか、魔族は飯食うのにルールがあるのか
いただきます
でも
「うまーーー!!こんなに美味しいご飯食べたコトない!」
「キャハハハ!セリはいっつも最初はおんなじ反応するね~」
「おいしかった、ごちそうさま」
席を立とうとすると
「まだ前菜だよ!?」
ポップに突っ込まれ笑われる
なにそれ?
まあまあ座ってまだ料理は来ますんでとラナに言われ待っていると本当に来た
確かに前菜ってやつだけじゃ腹膨れないなって思ったよ
魔族ってスゲー少食なのかと思った
「サラダにスープにパン…どれも美味しい~」
感動して泣けてくる
「泣くほどっていつもどんなん食べてんすかぁ?」
「固すぎて食べるといつも口の中切れるパンと具なし味なしスープ」
「いつも口の中切れるパンってそれ食いもんじゃねーべや!?具なし味なしってもはや白湯!?」
口の中切れるのはいつも俺だけだけどな
(固いパンや飴を食べると口の中怪我するの実話)
その後も魚料理と肉料理も出てきて、とにかく上品で美味しいんだが…
「こんなにお腹いっぱい食べていいの?
でも、本当にお腹いっぱいになって来て…美味しいから食べたいのに食べれないな…」
さっきから感動しっぱなしだ
いつもお腹空いてたしな……空腹って結構辛い
「まだデザートもあるよ~?」
「こんなちんまい料理でお腹いっぱいとか、セリ様はいつも少食っすね~
だから身体もちんまくて痩せてんすよ
オレらはこの後別の店でラーメン大盛り食うし」
「太んぞキルラ」
俺だってもっと身長ほしかったわ!!俺と同じもん食ってんのに弟達はあっという間に俺の身長抜かすし体格だって全然違って、不公平だ!!
「あっ?やんのか?」
キルラの方が小さいとか酷いコト言っただろ!
キルラが席を立つと俺も席を立つ
「どうせ負けるんだからやめとけよ?恥かくだけだぜ」
「はああああ????このオレ様がちんまい男に負けるかよ!」
「いつもですよ~勝てた事ないですよ~」
ラナが小声でキルラを煽っている
「おら!!」
キルラが俺の肩をどつく、ちょっとよろける程度の力は手加減されたのかもしれない
俺も手加減したつもりだったけど、キルラの肩を押すとすっ飛んでレストランの壁にめり込んでしまった
「うぎゃーーーーー!!!!」
「あっ…」
どうしよう…チラッと香月の方に目をやると
「壁の修理代はキルラに請求します」
見逃してくれた!さすが香月!わかってる!!
「キャハハハハ!キルラってば、だっさーい!」
「はぁ~ヤローは鳥頭だからセリ様に負ける事すーぐ忘れて、すーぐオレ様は強いアピールしたがるんすよねぇ」
ポップとラナに笑われるキルラの所まで行くと壁にめり込むほどの受けたダメージを回復魔法で治してやる
「サービスだ」
「なかなかやるじゃねぇか、合格」
めり込んだ身体を壁から剥がしてキルラは俺を見下ろす
「なんの合格だよ!?別に俺は魔族の仲間になるつもりはねぇぞ
世界征服の手助けをするつもりもないし、悪事に手を貸すのは嫌だ」
って言ったら…香月はここから出て行けって俺に言うかな?
助けてほしいってすがったくせに、それにもなれないなら…俺はただのワガママなんじゃないだろうか
それに手は貸さないだけで、魔族のやるコトを見てみぬフリするってコトだよな
出来るのか?俺に…目の前で起きるコトを…見てみぬフリ、自分ならそれを助ける力を持っていて
出来ないならどうしようもないって諦めもつくが、出来るコトをやらないなんてコトを
「セリ様は人間だってわかってんよ
その力は本物だって、何度生まれ変わってもセリ様はセリ様だなって事よ
またよろしくしてやっから、引きこもらず顔見せに来いや」
途中でキルラは俺に背を向けて、言い終えるとすぐにラナとポップを誘ってラーメンを食べに行った
「キルラ……」
魔族は誰も俺の嫌なコトを強制も強要もしたりしない…
ここにいて良いって受け入れてくれる
引きこもるとか考えてなかったけど、いつかの前世で俺が引きこもってたのかな…
友達とか仲間とかいなかったから、どんなものなのかどう接していいのかわからないけど
ここにいたら、それもわかりそうな気がする
ちょっと…嬉しい……
夕食を終えると部屋に戻り風呂に入る
シャワールームも感動ものだった
広くて綺麗だし、何もしなくても水があったかい!!あったかいって落ち着くな…
しかもなんかバスルームは良い匂いがする
炎魔法が使えるようになってから水をあったかくするコトも出来たけど、それまでは冷たい水しか使わせてもらえなかったもんな
冬とか死にそうなくらい辛かったっけ…いや忘れよう
確か温泉や大浴場もあるってラナが言ってたから今度行ってみよっと
お風呂から上がると改めてベットのふかふかさと暖かさにも感動した
ぬいぐるみもたくさんあって可愛いし
スゴイな…たった1日でガラッと何もかもが変わった
ベットで仰向けになって、自分が今いる状況に戸惑いを隠せない
なんだか…夢みたいだ…
昨日まで1人ぼっちで旅して来て…それまでも毎日が辛くて…苦しくて…
絶対悪のハズの魔王退治に来たら…これだ
人間が勝手に言ってるだけで魔王は悪なんかじゃないのかもしれない
少なくとも俺から見たら…いや、俺が見えてないだけで、本当に恐ろしいのかも
でも…俺からすれば…こっちの方がずっと……いい…な…
いつの間にか意識が途切れてそのまま眠ってしまう
こうして俺は魔王とその仲間達と一緒に生活するコトになった
最初は不安や心配もあった
魔族を警戒したり恐れたりもした
でも、そんなコトはいつの間にかなくなっていく
香月は俺を大切にしてくれるし、一緒にいるとどうしてか幸せだって感じる
キルラ達もムカつく時もあるが、なんやかんや面白いし楽しい奴らだ
もう昔のコトは忘れて俺は笑顔だって増えた
だけど…それは起きている時だけで
毎晩悪夢に襲われて思い出してしまう
憎しみも苦しみも悲しみも……いつまでも俺に張り付いて離れない
逃がしてはくれないようだ
身体に染み付いた感覚はいつまでも残っている
大きな穴が空いているから…汚くて気持ち悪い
終わったハズなのに終わらない…ずっと…続いてるみたいだ
助かってない…まだ俺は助かってないんだな
「お祭り…?」
ある日のコト、キルラ達がエントランスでチラシを配っている所で捕まる
「花火大会じゃーーー!!」
「キルラとは敵同士なんで、セリ様はオレら西軍を応援してくださいね~」
さっきキルラからチラシを貰ったのにラナからもまたチラシを貰う
魔族は夏の終わりにくじ引きで東軍と西軍に分かれて魔王城から少し行った所の大きな川を挟んで花火を打ち上げて
花火の派手さ美しさ凄さヤバさ、どっちが上かを競い合う
その競い合いもガチではなくお祭りで騒いで楽しければオッケーみたいな感じなんだと
「途中で乱闘騒ぎになったりするんだろ?」
「なりませんよ~!寸前ですよ、いつも!!」
普段の行いからして信用ならねー!!
「おいよぉラナ、セリ様味方に付けよーなんざ調子乗ってんじゃねーぞ
去年負けたオメーが今年勝てると思ってんのか?えっ?」
「あっ?おめーも去年同じ東軍で負けてんべや?鳥頭は忘れっぽいんじゃなくて、都合のいいよーに記憶書き換えてんだろぉ?」
「そうよ!キルラ!今年も東軍は負けんだよ!」
「西軍はボコボコに潰したらぁ!!」
「当日は枕濡らせコラァア!!」
「死ねやぁ!!」
やべぇ!?なんかコイツらヒートアップしだして、まだ花火大会始まってないのにいきなり乱闘寸前だぞ!?
ただの花火大会だぞ!?何間違った方に熱くなってんだよ!?
花火で競い合うんだろ!?なんでボコボコとか死ねとか言ってんの!?
今年は東軍はキルラが大将、西軍はラナが大将って感じか
「やめろバカども!?せっかくの花火大会を壊す気か!もっと楽しめよ!喧嘩なんかするんじゃねぇ!!」
花火大会とかはじめてだし、面白そうだから俺はめっちゃ楽しみにしてるんだよ
こんなくだらない喧嘩で壊されてたまるか!
くっきり東軍西軍の2つに分かれた間に入って止めると、睨み合ってたみんなが俺を見て微笑む
「はい、セリ様は香月様誘って来てくださいね~」
「香月様はセリ様がいない時は絶対来てくんねーからなぁ」
ぐいぐい押されてエントランスから追い出されてしまった
なんだよ、俺がいると喧嘩できないってか?
まぁ普段からこんな感じだし花火大会が中止になるコトはねぇか、アイツらにとったら喧嘩は喧嘩じゃなくて喧嘩ゴッコの遊びみたいなもんだ
ラナとキルラに香月を誘って来いって言われたけど、香月に来てほしいんなら自分達で誘えよな
「やっほーセリ~!何してんの~?」
文句がありながらも香月の部屋へ行く途中でポップと会う
「ラナとキルラに香月を花火大会に誘って来いって言われたから、香月のとこに行くんだよ」
「そっかー!」
「なんでいつも俺を通すんだって話
来てほしかったら自分達でそう言えばいいのに」
最近俺を通してってコトが多かったからつい愚痴がこぼれてしまう
「だって香月様は花火大会に興味ないんだもーん」
「えっ?じゃあ俺が誘っても意味ないじゃん」
そう言うとポップはニヤーと笑って、ちょっと身を引いてしまう
「キャハ、花火大会には興味ないけどセリにはスッゴい興味あるよ?
だからセリの言う事はポップ達が言うより、だいたいは聞いてくれるはずだよお」
身を引けばまたポップが近づいてくる
距離を取っても距離が近くてなんか怖いよ
「何それ?俺が人間だから?勇者だから?」
種族が違えば知らない相手のコトを知りたいと思うのかもしれない
俺だって、キルラ達には興味ないけど…香月には…興味ある……
魔王なのになんで勇者の俺に優しくしてくれるのか、とか…もっと色々
「香月様はセリの事が好きだから聞いてくれるんだよぉ?
セリは覚えてなくても、2人は恋人同士だったんだから~♪
チョー羨ましいー!!香月様の恋人なんてセリだけだよ!!!」
………。
えっなんて?全然聞こえなかった
急に聞こえなくなった
「魔王って、世界中から女攫ってたくさん嫁囲んでるんじゃ…」
「なにそれ!?香月様ファンから嫌がらせでも受けてるのぉ?ありえないからそんなのね!」
いや俺のただのイメージと思い込み
でも実際に香月に女の影なんて欠片もないし…
香月に憧れてる魔族の女性がたくさんいるのはわかってたけど…
「香月様はセリ一筋だよ!」
そう言われて、心が跳ねる
な…なんで…好きとか、そんな…恋人?ウソだろ…
「いや…だって、男同士でそんな…恋人なんて…
ポップまたふざけてんだろ?俺の反応面白がってんじゃないだろうな?」
「ひっどーい!ポップはいつもふざけてるけど、香月様の事で嘘なんて言わないよ!!殺されるじゃーん!!」
最後のひとことがスゲー説得力ある
じゃあ…本当の話…?
ダメだ、意識して耳まで真っ赤になる
香月のコトは恩があるし、好きか嫌いなら好きに決まってる
でも、恋人になるとかは…考えたコトない
ってか…恋人とかよくわかんないし…
「あっ!そうだポップ、キルラに呼ばれてたんだった!花火大会の手伝いしろって
じゃーねーセリー!バイバーイ!!
香月様ちゃんと誘ってきてねー!みんな花火大会に香月様来るの楽しみにしてるんだからーー!!」
廊下の向こうに行っても大きな声はよく届いていた
みんな香月のコトを慕ってるから、花火大会に来てほしいんだ
でも自分達が言っても来てくれないから俺から頼んでほしい
ここまではわかる
でも理由が俺を好きだからとか……知りたくなかった~~~!!
だって…今から会いに行くのに緊張して……
俺は香月のコト…好きだけど…好きでも……
熱くなった自分の頬に冷たい両手を押し付ける
手を離せばまた熱は戻ってしまう
さ、誘わなくていいかな…
とりあえず!1回自分の部屋に戻って頭冷やそう!そうだ!それしかない!!
これは俺が恥ずかしいからとかの問題じゃない
みんな楽しみにしてる花火大会に香月が来てほしいって期待を裏切るのも嫌だ
冷静さを取り戻そうと自分の部屋の前まで来ると、ちょうど香月が部屋から出て来て鉢合わせしてしまった
うわー!隣の部屋だからってこんなタイミング悪いコトある!?
こういう時ってこういうコトよく起こるわ!!
「あっ香月…おはよう」
「もう夕方ですよ」
やべぇ…
どうしよう…
「それは」
香月が俺の手に持っていたチラシに目をやる
おぉ!そうだ!これだ!花火大会のチラシ!自然な流れに持って行けるぞ
キルラとラナから貰ったチラシを香月に見せる
「なんか、エントランスに行ったら貰って
面白そうだよな花火大会だって
しかも見てここ!!いっぱい屋台が出るみたいでスゲー面白そうなの!!
この雲みたいな形の綿菓子ってなに!?飴細工ヤバい!ウサギほしい!!
あとカキ氷が雪みたいでスゴイ!!食べてみたい!
お面もほしい!ウサギのお面ほしい!!」
………ハッ!?つい楽しみ過ぎて喋り過ぎた…
だって…花火大会なんて…俺のいた村にはなかったし……屋台とか知らないし…だから楽しみで
香月は表情が豊かじゃないから、どう思ってるかわからないけど…
大事なひとことが、一緒に行こうって誘えばいいのに、言葉が詰まって出て来ない
ポップが変なコト言うから!!
あの話を聞いてなかったら普通に、香月も一緒に行こうぜって言えてたぞ!?
そしたらみんなも香月が来てくれて喜んでくれて…
「一緒に行きますか?」
言葉に詰まっていると、香月の言葉で自然と口元が緩む
「うん!行く!一緒に行きたい!!」
勝手に笑顔になる、素直に嬉しいんだってわかる
恥ずかしくて緊張したりするけど、やっぱり香月と一緒いると心が満たされるような気がする
なんでだろうな…
そうして日が過ぎ、花火大会の日がやってきた
「セリー!浴衣着せてあげるよー!!」
朝からテンションの高いポップが俺の部屋へと突入して来る
「今から!?花火大会は夜だろ!?」
すでにバッチリ浴衣姿のポップは花火大会に浮かれているのが見てわかるな
でも、ポップは黙ってれば可愛いから浴衣姿も悪くない
魔族は美形族だからみんな美人なんだよな~
普段と違う女の子達の浴衣姿ってのは良いもんだ
惚れないけど全然まったく、好みじゃないし
「そだよ」
「じゃあ夕方からでいいだろ」
「はい脱いで!」
「聞けよ!?ってか、オマエの持ってる浴衣…まさか女物じゃねぇだろうな」
「ぎくぅ…!」
浴衣とかはじめて見るが、男物か女物かくらい見ればわかるぞ
ポップはよく無理矢理俺に女装させて喜んでる変態だ
なんでも女の友達がほしいからって理由でたまに遊ばれている
同じ魔族女性からは嫌われていて、彼氏は50人いても女友達は0人だと言う
まぁわからんでもない…コイツ性格めっちゃ悪いし
「今日は香月と行くんだから絶対やめろよ女装とか、したら俺行かねぇからな
そしたら香月も花火大会行かないってコトになるぞ」
脅してみる
俺は花火大会行きたいから行かないなんて選択肢はないんだが、こうでも言わないとポップは引き下がらない
「えー!…でもぉ、セリはとっても女の子のカッコ似合うもーん、いいでしょぉ?」
「似合うからとかの問題じゃねぇ!俺はそんなの嫌だ!!」
「ほら綺麗に撮れてる、可愛いねセリ?」
女装させられた写真を目の前に出されて黙ってしまう
しかもちょっと際どいエロいやつ…
どう見ても写真の俺は女だ…よく撮れてる…
女友達がほしいポップの欲を満たすほど、写真の俺は女だった
そもそも友達にこんなコトするか?って思うが…友達いないってコトはそうなんだろう
俺は勇者だから魔族には強い、でもポップは魔族でもちょっと違う
個人的な問題で…俺は蛇がめちゃくちゃ苦手なんだ
ポップは蛇の魔族だから、蛇を出されると恐怖で固まって動けなくなる
それを知ってるポップはそれを使って俺に無理強いをさせるコトは度々あった
そう…この女は本当に性格が悪いんだ
度が過ぎるコトはやらない、俺が香月にチクるのを恐れているから
それにポップは俺がチクらない甘い人間だと言うコトもわかっている
こんなコトで香月に言うとかダサいのもあるが、ポップが香月に殺されるかもしれないなら…これくらいのコトなら言えない
香月は俺を大切にしてくれる…でも、やっぱり魔王なんだなって一緒にいると感じたり見るコトもある
「やめろ…脅しのつもりか?」
ポップの手を振り払うと写真が床に落ちた
「ちがうよー!本当に可愛いと思ってるんだよーー!!」
悪気がない、俺をイジメたいからとかじゃない、むしろ俺に対して好意的ではある
そんなのはわかってるけど…嫌なコトをされてるから苦手なのは苦手だし、正直嫌いだ
「ぶー!わかったよぉ、じゃあ普通に浴衣着せてあげるから夕方また来るぅ!!」
ポップは自分の思い通りになる女友達がほしいみたいだ
不満をもらしながらも部屋を出て行った
いなくなってから落ちた写真を拾い上げて眺める
………確かに可愛い…女の俺ってめちゃくちゃ可愛いじゃん、好き
いやだからって女になりたいとか生まれ変わりたいとかは欠片もないんだけど
炎魔法で写真を燃やそうかと思ったけど、やっぱり可愛いから机の引き出しにそっと閉まった
なんやかんや夕方になってポップに浴衣を着せてもらった
その後、香月と合流して…
香月の浴衣姿に…カッコ良いなって思ったり…
なんか、いつもと違う姿に緊張する
いや…最近、香月といると変に緊張するコトが多くなった
なんでだろう…これ…どうして…変なの
「うわ…スッゲー人」
花火大会の会場近くに着くと集まった魔族もたくさんいて結構混雑している
花火がはじまるのは1時間後みたいで、それまではみんな屋台を回って楽しんでいる
「スゴイ…なんか楽しい!俺も屋台見たい!!」
楽しい雰囲気が伝わってテンションが上がる
香月にあっちと指差して一緒に屋台を回っていく
香月が現れると周りも香月様だと距離を開けて憧れの眼差しを向けている
やっぱ香月って人気あるな~、まっ王様だから当たり前か
「これ!雲みたいなやつ!綿菓子!…食べれるのか……」
綿菓子の屋台に行くと周りにいるみんな雲を食べている
カラフルで可愛いし、どんな味がするんだろ?
「ありがとう!」
香月にひとつ買ってもらって、楽しみにしながら口に含むと…甘い…美味しい…なにこれ、はじめて食べた
感動…いつも、魔族って俺が知らない見たコトない色んな美味しいもの食べてるな
「美味しいね、はい香月もどうぞ」
綿菓子をちぎって香月の口の中へ入れる
1人で全部食べられないから2人でちょうど良い
香月は美味いとも不味いとも何も感想を言わないし、何考えてるかわかんないくらい感情を顔に出さないけど、嫌じゃないってコトくらいは最近わかるような気がする
だから俺は不安にならない、笑っていられるよ
飴細工と変な顔のウサギのお面を買ってもらって屋台を回っていると金魚すくいの屋台を見つける
「金魚…すくい?何だそれ?」
他の屋台より少しだけ人集りが出来ていて、スゴイ気になるんだけど
よく見たくて人集りを分けていくと、1回千円キルラ専用と書かれていた
キルラの為だけの屋台!?1回千円たけぇ!?さっき見たスーパーボールすくいは1回100円だったぞ!?子供に良心的!!
そこそこ広い水槽の中に赤色の金魚が一匹だけ泳いでいる
「だあああああ!!!もう1回だ!ポイくれおっちゃん!!」
ちょうどキルラが金魚すくいの最中でキルラの横には山になった破れたポイが積まれている
いったいいくら使ったんだ…キルラ相手にボロ儲けじゃねぇかおっちゃん
って言うより、あのキルラがキレて金魚を鷲掴みにしないでルール守ってるってのが偉いんだけど
広い水槽の中を悠々と泳ぐ金魚はキルラと目が合うと胸びれをちょいちょい動かし煽っているかのように見える
「おらああ!!」
勢いよくポイを水槽の中に突っ込むと金魚は水の中で跳ねてキルラのポイから華麗に逃げる
いや…金魚もスゲーけど…そんなやり方で一瞬でポイ破ってるキルラは気付けねぇの!?
金魚が強すぎるのとキルラのアホさに一生決着が付かないような気がした
ある意味目が離せない、でもすぐ飽きるな
キルラが同じやり方しかしないから
金魚が完全にキルラをナメきっている態度だった
コイツ、本当に普通の金魚か!?
「くそぉ!!記念すべき500代目のオヤビンを諦め切れねぇ!!
オメーがいねーと四天王名乗れねーからよぉ!!」
えっこの前の金魚さん亡くなったの?
キルラの首からぶら下げていた袋を覗くと、金魚さんが水の中でプカーッと浮いてた
そんなとこで飼ってるから…最低だろ
金魚さんいないと本当に3バカになるもんな
「先代のオヤビンは30年生きたけどよ、こいつなら百年は生きっぞ!!」
天寿全うしてる!?首からぶら下げて虐待してると思ってたけど、実は大切に飼ってたのか…いつも首からぶら下げてるワケじゃなかったし
先代オヤビンが亡くなった時もキルラは枕を濡らしたんだろうな…
「キルラ、下手だな金魚すくい」
俺はやったコトないけど
「あっ?なによセリ様、下手っつーならやってみんべ?こいつは強敵よ?」
キルラにポイと器を渡される
「初心者だぞ?俺は、すくえなくてもポイはキルラより長持ちさせてみせる」
水槽の前にしゃがみ込むと金魚は俺の傍へと寄ってきてくれた
キルラの時みたいに華麗で素早い動きはせずにじっとしている
疲れたのかな?そーっとポイを金魚に近付け水の中へ浸す
器も近付けて…ひょいっとポイに乗せて金魚さんを水槽から器へと移動させる
「わっ、金魚さんすくえた!見て香月!
近くで見ると可愛いよ、飼ってもいい?」
嬉しいと笑顔で振り向くとキルラのデカい図体が俺を見下ろす
「金払ったのはオレ様なんだから、こいつはオレ様のもんだろーが!!」
器をキルラに奪われると、金魚は器から跳ねて広い水槽へと戻っていった
「はああああ!!???」
よっぽどキルラが嫌なんだろう…
なんやかんやキルラは金魚好きだから、ちょっと可哀想な気がした
俺は動物大好きだし、とくにウサギが好きだから嫌われたらショック受けるもん
「頑張れ…」
キルラの肩をポンッと叩いて金魚すくいの屋台から離れた
「お待たせ香月」
「セリが楽しむ姿も良いので、どうぞいつも自由に
そろそろ時間なので行きましょうか」
俺を見ていたいって…こういう時でも?
いつも見られてたら、また緊張するじゃん…
屋台があるここも花火はよく見えるけど、明るすぎるし賑やかだもんな
時間が近くなってきて花火会場へ向かう方向はさらに混んでいた
前を歩くカップルが一瞬立ち止まったと思ったら軽くキスして幸せオーラを放っている
もう世界はお互いしか見えてないようだ
マジか…
人前でキスしたりイチャついたりするのは俺は恥ずかしくて絶対無理だな
そういうのは2人っきりの時だけ…
チラッと気付かれないように隣にいる香月を見ると、ポップに言われたコトを思い出して急に顔が熱くなる
何も…考えない……香月のコト…そういうのじゃない…もん
「そろそろ時間のハズなのに、なかなかはじまらないな」
会場について香月と話しながら待っていたけど、花火が上がる時間が過ぎては待っても待っても花火は上がらなかった
周りの人もザワザワとしてきたし、あんだけ張り切ってたキルラとラナはどうしたん…ん?
ふと川の向こう側に目をやるとキルラとラナらしき人影がもめてるような…
よく見えないけど、人間より目の良い周りの魔族達がキルラとラナに気付き、もめてるからはじまらないのか?って声が聞こえる
おいおい…何やってんだアイツら、仕方ねぇなもう
「ちょっとキルラとラナ止めて来るから香月は待ってて」
せっかくみんなが楽しみにしてる花火なんだ、俺も見たいし
アイツらには何がなんでも花火上げてもらうぞ!!
香月の返事も聞かず俺は走り出す
橋を渡らないと行けないから遠回りになるけど、なんとかキルラとラナのいる向こう側へと来れた
「これがキルラの母ちゃんよ!」
そう言ってラナはキルラの目の前で大胆に焼き鳥を食べて見せる
「あぁ?じゃあこれがラナの父ちゃんだ!」
キルラはジンギスカンを食ってみせる
なにやってんだ……
「うまそうじゃねぇか!」
「そっちもな!」
お互いの食ってるもんを横取りして睨み合いながら食べてる
マジで何やってんだよ…共食いか?
「キルラ!ラナ!何遊んでんだ!?もう花火の時間はとっくに過ぎてるぞ!?」
「んあ?セリ様じゃーん」
モシャモシャ食いながら俺の方を見るから
「また喧嘩か?」
と聞くと、キルラとラナはお互いを見合わせて
「何で喧嘩してたんだオレら?」
「忘れました~、アハハハハハアハハハハハ」
笑い飛ばしている
「香月も待ってるって言うのに…花火」
オマエらには呆れたと、香月の名前を出すと背筋をピンと立てて慌て出した
「やべぇ!香月様来てくれたんかよ!?」
「さっき金魚すくいの時にもいたぞ、キルラは金魚に夢中で気付かなかったのか?」
「香月様に最高の花火を見せるのはオレだあああ!!橋なんか渡ってられっかああ!!」
叫びながらラナは西軍に戻るために川に飛び込む
泳ぎめっちゃ遅すぎて…遠回りでも橋渡った方が早いぞそれ……
あっちが東軍だったらキルラは一瞬で飛んで帰れたな
「ハーッハッハッハッ!!香月様に最強強烈強大最強の花火を見せるのはオレ様が先よ!!そのまま川の底に沈んでらぁラナ!!」
最強って2回言ってるし、強が多過ぎてもういいかな
キルラも花火の準備に飛んで行ってしまった
「もう仲直りしたの~?みんな頑張って~」
少し遅れてポップが両手に蛇の蒲焼きを持って現れた
まさかあのしょーもない共食い喧嘩に自分も参戦するつもりだったんじゃ…
「食べる~?セリ?」
「い、いらないです……」
目の前に蛇を突き付けられて卒倒しそうになる
俺が断るとポップは蛇の蒲焼きを美味しそうに食べはじめた
「キルラもラナも香月に自信作の花火見せたいんだな
でも水を差すつもりじゃないけど、香月って無感情だろ?
楽しいとか嬉しいとかもなければ、怒るコトも悲しむコトもないから…」
キルラもラナもポップも魔族はみんな香月を慕って、香月の為にって動くけど
香月に褒められるコトもなく、心を動かすコトもない……
それって…ちょっと…いや、とっても寂しいな…
「そんなの自己満足に決まってんじゃ~ん?
香月様が無感情な事くらいみんなわかってるもーん、セリよりポップ達の方が香月様との時間はずっとずーっと多いんだよ?
その目で見てもらうだけで満足って事」
香月との時間が多い…羨ましいと思ってしまう
ズルいよな…その長い時間より、短い時間の俺が香月の……
「それじゃあ…前にポップは言ってたけど、そんな香月が俺だけを特別に想うコト…嫌じゃないか?」
「いんや?まーね~セリを妬んだり僻んだりする子もいるけど、キルラもラナもポップも多くの人は香月様が幸せならすっごい嬉しいんだ~
だからポップは嫌じゃないよ、セリがいてくれてありがとうだもん!
あの香月様が好きになった人、香月様が愛してる人を、嫌なんて思わないね!!
香月様が幸せならポップ達も幸せ!
ここだけの話、セリを好きになってから香月様変わったもん
もちろん良い意味でねー♪」
にこーってポップは満開の笑顔を見せる
正直嫌いだって思ってた…でも、香月のコトを話すのにウソは言わないって知ってるから…
「…ポップって…本当は良い奴だったんだ…」
「おっとっと?嫌な奴だと思ってたのかな~?今度の女装撮影会は水着で!いつもよりエロく撮ってあげるぅ♪」
「やっぱオマエ無理だわ!!」
感動して損した
さっさとポップから離れるように向こう側に渡る橋を目指す
でも…そっか、ポップって嫌な奴だけど
香月のコトそんな風に思ってたなんて…キルラもラナも…
俺がいると香月は幸せ…?あぁ…また顔が熱くなってきた
このまま戻ったらどんな顔すれば良いんだろ
本当に?香月は…俺のコト好きなの?
人としてじゃなくて…恋人として?
表情からは全然わかんないし…好きとか聞いたコトないし……
あっでも…前に良い雰囲気になりかけたコトはあったかも…?
言わなくてもわかれよってタイプなのか?
そんなの…言ってくれなきゃ、わかんないよ……
橋の所まで来ると大きな音がして真っ暗な空に大きな華が咲く、綺麗で明るくて目を奪われて立ち止まってしまう
「やばっ!花火はじまったじゃん!」
ハッとして香月の所に戻ろうと思うけど、混雑した橋の上は花火がはじまったコトでみんな立ち止まってしまってなかなか前に進めない
香月と一緒に来たのにメインの花火を別々に見るとか…一緒に来た意味ないし……
何より…香月と一緒に花火見たかった
花火は綺麗なのに…香月がいないと、なんでかな…全然…楽しくないよ
空を見上げていた視線は自然と下がっていく
「……あれは…香月!!」
橋から見下ろした河川敷に香月の姿を見つける
橋の下近くにはあまり人がいないんだな
だから香月をすぐに見つけるコトができた
人がいっぱいいたら…香月に気付かなかったのかな…
「おーい!香月…ぅわっ!?」
橋の欄干から身を乗り出すように手を振って香月を呼ぼうとしたら混雑した橋の上は押し倉饅頭状態になって俺は橋の欄干から滑り落ちてしまう
声は花火にかき消されるし、俺が落ちるコトは誰も気付かないし
橋の欄干から身を乗り出すなんてバカだった、危ないってわかってるけど
香月に気付いてほしくて…花火の音で声なんて聞こえるワケないのに
見つけたのが嬉しかったんだ……俺を見てほしかったんだ…
目をつぶって地面に衝突する覚悟を決める
普通に死ぬ高さだ、運良く大怪我で済む
大怪我なら回復魔法で何もなかったコトにできるけど
もし即死したら…嫌だ、死にたくない
もっと香月と一緒にいたい…だって、俺…香月のコト………!!
「何を遊んでいるのですか」
……あれ?痛くない?香月の声が近くで聞こえる
目を開けると橋から落ちた俺を香月が受け止めてくれていた
「えっ!?遊んでないけど!?死ぬかと思ったんだけど!?」
あっ…そういや、俺天魔法で少しの間は飛べるんだった
この高さなら余裕で…天魔法ってあまり使うコトがないから忘れてたぞ
うわ恥ずかしい!!
「私が近くにいてよかった…」
恥ずかしくて一瞬で顔が真っ赤になったけど、香月の言葉でさっきの恐怖が戻ってくる
「……助けてくれて…ありがとう……」
死にたくなかった…
ずっと言い訳して目を逸らしていた気持ちも、もう誤魔化したりしない
後悔するってわかった…ずっと当たり前じゃないんだ
死んでしまったら、こうして香月に抱き上げられて見つめ合うコトもできないんだ…
ん?見つめ合う…?
香月と俺にだけ流れる雰囲気が少し変わる
香月の顔が近付いて来たから、俺は目を閉じてキスを受け入れる
好きだから…わかってたけど、キスをすると本当に俺は香月のコト愛してるんだなって心から沁みる
嫌じゃない…全然…幸せを感じるから
出逢った時から好きだったんだって、今なら認めるよ
一目惚れとかじゃない、確かに見た目も好きだけど
ずっと…ずっと生まれる前から…好きだったような気がするから
「私はずっとセリの事が好きだった」
あっ…また熱が上がって照れてしまう
いつもより緊張が強くて、現実なのか夢なのかわからない
香月の気持ちを聞けて知れて、凄く嬉しいのに…
香月は俺を地面に下ろしてくれる
みんな花火に夢中だから誰も俺達を見てなくて助かった…
やっぱり人前だと落ち着かない
でも、香月が伝えてくれたんだ
みんなが気にしてない今のうちに
「俺も…香月のコト……大好き」
目一杯背伸びして少しでも香月の耳元に近付いて囁くように伝える
へへへって笑うと恥ずかしくて耳まで真っ赤だ
その時、香月が少しだけ笑ったように見えた
あまり表情が豊かじゃない無感情の香月だから、もしかしたら俺の都合の良い気のせいかもしれねぇけど
でも…香月が俺を愛してる気持ちだけは強く伝わってるからそれだけは間違いないってわかるよ
「また後悔するかと思いました…
貴方はいつも…すぐに死んでしまうから」
「えっ…?」
香月の言葉は花火の音に消されてよく聞こえなかったけど…
「もう私の傍から離れないでください」
その言葉だけはハッキリと聞こえた
「うん…」
離れないよ、俺も離れたくないから
嬉しい…その気持ちが心をいっぱいにする
「あー…うん!花火見ようぜ!めっちゃ綺麗だから見なきゃもったいないじゃん!」
恥ずかしくなってきて照れ隠しのように空を指差す
花火はどんどん派手になって盛り上がっていく
キルラ達も香月に見せたいって頑張ってんだもんな、ちゃんと見せなきゃ
「花火よりセリの方が綺麗ですよ」
こっちを見るな!?そんな女性が喜びそうな言葉を俺に言わなくていいから!!
「い、いいから!花火を見ろっての!」
俺は香月の後ろに隠れるようにして無理矢理花火の方へと視線を向けさせる
綺麗って言われて…嬉しかったのは、香月がはじめてだ…
他の人に言われても全然嬉しくない、怖いだけ……いつも…
香月と両想いになって嬉しいのに…過去の記憶が消えるワケでもない、忘れられない
こんな時でも思い出せば俺を苦しめる
考えなきゃいい…考えなきゃ…
後ろから香月に抱きつく
ちょっとだけ…誰も見ていない花火が終わるまで、いいよね…
花火が終わると大混雑の中を疲れて帰ってきた
はじまる前と花火見て終わるまでは楽しいけど、帰りは花火大会の終わりが寂しいのと超混んでるからめっちゃしんどいな
でも!
「楽しかった!また来年も行こうな」
自分の部屋に入る前に香月に伝える
「セリが楽しいなら」
うっ…香月も楽しんでほしいけど、楽しいとか嬉しいとかがない人だから仕方ねぇのかな
逆につまらないとか疲れた(心が)とかもないみたいだから、無理して俺に付き合ってるってのはないだろうけど
香月も…幸せな気持ちになってほしいのにな……
「俺は香月といたらなんでも楽しいよ、香月だってそう感じてくれたら良いのになって思ったりするけど」
やっぱり無理かな~?って俺が苦笑すると香月は俺の手を掴む
「貴方の感じるような楽しいは私にはわかりません
ですが、セリはずっと傍に置いておきたい
今夜は…離したくない」
!?
えっ…えっ…それって……また顔が熱くなる、今日はそんなコトばっかりで
心がかき乱されるようだ…どれもこれも嫌なコトじゃない
言われてる意味くらいわかる…でも……
「そ、それは…」
俺は…何を言うつもりだったんだろう
香月は俺の手を引っ張って自分の部屋へと連れて行く
香月の部屋に入るのは何度もあるけど…今は…死ぬほど緊張して意識飛びそうだ
閉めたドアに押し付けられて、さっきより激しいキスをされる
嫌じゃない、恥ずかしいから逃げたい気持ちもあるけど
それより…それより……
「待って…」
服を脱がされかけて、やっぱりそうなんだって気付く
俺は香月の顔が、目が見れなくて、その手を止めてしまう
俺にとってこの先は死ぬほど怖いコトなんだ
汚くて痛くて気持ち悪い…コト
勝手に全身に力が入って震えてしまう
キスだって…香月がはじめてじゃない
それだって…気持ち悪い嫌なコトのひとつだった
だけど、はじめて香月とキスした時は嫌と思うより…そうしたいって受け入れたんだ
なのに…
香月は俯く俺の顔を掴み上を向かせる
俺が香月から目を逸らさないように
「私が嫌ですか?」
「ううん」
すぐに否定する、香月は嫌じゃない
「私が怖いですか?」
ある意味怖いけど…って今はそう言う意味じゃない
ちゃんと香月を見たら…俺は香月が怖くないってわかる
見てなかったからだ…これからのコトを香月を見ないで考えたから、苦しみの過去に引きずり込まれて勝手に迷って…
「忘れさせてあげますよ…貴方の過去なんて…」
またキスをしてくれる
そっか…そうなんだ…香月は俺のコト知ってるんだ
なんで知ってるのかとか、本当に知ってるのかとか、そんなのどうでもよかった
忘れたいよ…過去が消えるコトはなくても、忘れられるならそれでいい
鼻が痛くなって目元が熱く霞む
抱きしめられると、思わず心の底からの気持ちが言葉として出る
「香月…好き…」
「私も、セリだけをずっと愛しています」
大好きだ香月
涙と一緒に笑顔が零れる
香月のコト、愛してるから…幸せなんだ…
ずっと一緒にいたい
はじめて俺が幸せになった日だった
そしてその後、俺は悪夢を見なかったんだ
だから…やっと幸せになったってコトなのかもしれない…
昨日の夜はいつ寝たのか覚えてないけど、昼近くに起きて遅めの朝食と言う名の昼食を食べにカフェに1人で行く
何故1人かと言ったら起きたら香月はいなくて、夕方には帰るってメモがあった
絶対に1人で城から出るなとも書かれていた
俺が城から1人で出るコトはダメだって、いつも言われてたっけ
まぁ前世の話はラナからも聞いているからわかっているつもりさ
起きた時に香月がいないのはちょっと寂しかったけど、昨日の夜のコトを思い出したら幸せだからいいもん
「おーっす!セリ様、朝はいなかったのに珍しくお寝坊さんすか~?」
1人で食べているとちょうど昼食が被ったラナが声をかけてきて、キルラとポップと一緒に同じテーブルに座る
「あれっ?セリ様、いつもお綺麗ですけど…また綺麗になりました?」
モグモグ食べていると目の前に座ったラナが俺をじっと眺める
「えっいつもと一緒だと思うけど…まぁ幸せだから?」
へへへーってにこーっとピースサイン作って笑うと隣に座ったポップが凄い勢いで食いついてきた
「なになに!?もしかして昨夜香月様と何かあったの~!?!?より戻したのかなぁ!?ねーセリー!お~し~え~てぇーー!!」
より戻すって…おかしな表現だな
前世を含むって言うなら別に喧嘩別れもしてないし、それでもよりを戻すって表現は変だな
「昨日…香月に好きって言われて…」
照れながらも聞かれると話してしまう
「エッチしたの!?」
椅子から転げ落ちそうになった
いきなりそれ聞くか!?答えたくねぇなぁ…ポップが興味あるのはそこなんだろうな
「あっ!だから今朝いなかったんすね!
よかったですね!!」
ラナも食い付いてくる
「ねぇねぇ!?したの!?したんでしょー!?」
ポップがうぜぇ!?声デカいし!!
恥ずかしいから言いたくないのに、2人の早く話してって勢いに押される
「………。」
答えたくないから黙ってしまったけど…たぶん言わなくてもバレバレだよな
だって…顔が熱いんだもん、思い出したら
「うわあああああ!!!オレ様も女とセッ○スしてぇぇええええ!!!」
急に乱心したかと思うとキルラはカフェの窓から飛び降りた
なんなんだアイツ……
「キルラ、昨日女にフラれたばっかなんすよ
本命と浮気が鉢合わせして、過去最高の修羅場になって凄かったみたいでよ」
「アホだなアイツ…自業自得じゃん」
浮気なんて俺はありえないな
本気じゃなきゃ付き合えないし
恋愛に軽い気持ちなんて俺にはないよ
俺には香月だけ…それ以外の人なんて考えられない
「でもなぁ、香月様とセリ様みたいにたった1人だけってのもオレは正直理解できねーかなって思うんすよねー」
「ポップも!1人で満足なんて絶対無理ー!!」
まぁ…何も言わないわ
魔族とは価値観も考え方も違うだろうし、お互いに傷付けたり迷惑かけないならどんな形もありだと思うよ
「あっ!そっかー!香月様を知ったセリなら他の100人でも200人でも逆に物足りないんだろーねー!!
だってぇ、香月様って凄そうだもんね♪」
「それな!納得だべな」
飲んでた紅茶を吹き出しそうになった
何勝手に決めつけて盛り上がってんだ、人の話題で……
確かに…香月は凄い……凄かった
嫌でも知っている色んな男と比べても…香月は全然違って凄い
もう凄いしか言えない…本当に他を忘れるくらい凄かったよ……
「一度でいいからポップも香月様に抱かれたーい!」
「オレは…いいわ、遠慮しときます」
ポップのノリから釣られそうになったラナはすぐに冷静になる
「も、もうこの話題はいいだろ
恥ずかしいからやめてくれよ」
「セリのこの可愛さを写真に収めたいから後でポップの部屋行こっか~?
いつもより可愛く撮れる自信あるしぃ、また可愛い衣装も用意してるんだからねぇ♪」
ポップは俺の頬を突っついてくる
「絶対嫌だ」
「えー!だめー!」
キルラもラナもポップも、魔族達といるのは嫌じゃない
時にはムカつくコトも喧嘩するコトもあるけど
なんやかんや、ここにいるのは楽しい
もう戻るコトなんて絶対にないし、ずっとこのまま楽しい日々が続くんだ
ずっとずっと…香月と一緒に、だから俺はずっと幸せなんだ
死ぬまでは…
それから2ヶ月もしないうちに、俺の幸せは終わりを迎えてしまう
23年の憎しみも苦しみも悲しみも続く人生の中で、俺が幸せになるコトは運命が許してくれないのか…
その日は朝早くに香月と城の屋上に行ったんだ
「うあ~、寝てないからめっちゃ眠いけど
静かな朝は良いな…それに冬も近いからいつもより空気が澄んでる」
ちょっと寒いけど、屋上から見る景色はいつ見ても綺麗だ
村にいる時は空気のコトなんて気にしたコトなかったけど、ここは空気が澄んでいて気分が安らぐよ
眠いけど香月と一緒にいると寝るのがもったいなくて無理して起きてしまう
これからだってずっと一緒なのに
「雪が降って積もれば、ここからの景色も変わります
セリは雪が珍しいからと楽しみにしていました…」
「雪が積もる!?」
冬は寒くて当たり前で稀に雪が降るコトはあったが積もったコトはなかった
積もったらどうなるの?
香月の言葉からして前世の俺も雪が積もるのを見たかったんだな…
楽しみにしていたってコトは、冬が来る前に…
「皆は雪が積もった景色も幻想的で美しいと言うので、きっとセリもその景色を気に入ると思います」
「マジか!それ超楽しみじゃん!!」
絶対見なきゃ!!ワクワクが止まらないぞ
「年が明ければすぐにセリの誕生日が来ますね」
「そうそう!言ってないのに香月は俺のコトなんでも知ってるんだな」
勇者は何度生まれ変わっても同じ誕生日なんだって、ふ~んって感じ
そう言われてもやっぱり前世の記憶とか全然ないからさ
「来年の誕生日が来たら24歳か~…
なんか、魔族は不老だからその姿は変わらねぇんだろうけど
俺だけ年取っておじいちゃんになって…
香月達と違って100年も生きられないのが人間だもん
俺って人間なんだよなーって思うと、複雑な気持ちになるよ」
アハハって苦笑する
死んだらまた勇者として生まれ変わる…
そうだったとしても、今の俺の記憶も気持ちも何もかもが消えてなくなってしまう
生まれ変わった前も後も、俺だって言われても
記憶のない俺からしたら、それはもう他人なんじゃないかって…怖いんだ
香月と…いつか離れる日が来る
俺が人間だから…永遠に一緒に生きていくなんて、無理なコトなんだ
「何度生まれ変わっても」
「わかってる…また会える、会えたらまた好きになる」
わかってるよ…
過去も未来も現在も、俺であるコトに変わりない
人間であるコトを受け入れるしかない
「私はセリを愛しているから、どれほどの長い年月も待ちます…また会う日まで」
ずっと…待たせて…ごめん…何度も何度も…長い年月を
香月は俺が何度生まれ変わっても、待っていてくれる
ずっと想っていてくれる、愛してくれる
だったら、前向きに考えるしかない
また勇者に生まれ変わるからそれで良いじゃないか
だって俺はこれから何度生まれ変わっても絶対に香月と出逢って絶対恋に落ちるから
絶望なんかじゃない
それに今はまだはじまったばかり、今が終わるコトを考えるには早すぎるな
「うー!寒い!!」
急に冷えた身体が限界だと震える
「風邪を引きますから、部屋に帰って寝ましょう」
「うん!!」
振り返ると香月は両手を広げてくれる
それがまた嬉しくて笑顔がこぼれてしまう
寒くたって香月に抱きしめてもらえたら、とっても温かいから…
香月の傍へと一歩踏み出そうとした時、俺の視界は真っ暗に変わって何もわからなくなる
氷の矢が頭を貫いて、一瞬で奪われる俺の気持ちも思い出も…幸せが命とともに……何もかも……突然に終わってしまったんだ
-続く-
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