番外編『バレンタインは愛の日として』セリ編
もう2月か〜、月日が経つのは早いよな」
俺がこの世界に来てからどのくらい経ったっけ
先月は俺の誕生日だったんだ
みんなにお祝いしてもらって、嬉しかったしなんやかんや楽しかった
とくにレイが全力盛大でお祝いしてくれたのはいっぱい嬉しい
誕生日なんて今まで普通の日となんにも変わらなかったのに…
この世界に来て変わったよ
本当に世界が変わった…
「そういえば2月と言えばバレンタインだったっけ、忙しすぎてスッカリ忘れてたぜ」
俺には関係ない日だが…
部屋に飾ってあるカレンダーを見ながら、そうそうと振り向いてレイに話しかける
「バレンタイン?なんだい、それは」
始めて聞いた言葉だとレイは笑う
ああそうか、当たり前のように話しても世界が違えばイベントもあったりなかったりなんだった
この国にはクリスマスもなかったし
新年を迎える正月はあったケド
「バレンタインのない世界とか羨ましすぎるんだケド、血の涙を流さなくていいじゃん」
「そんなに恐ろしいイベントなのか…」
「恐ろしいイベントだ!よく聞けよ!説明してやる
バレンタインとは女の子が好きな男にチョコレートを渡して愛の告白をすると言うチョコ会社の陰謀にまんまと乗せられた人間どもが流行らせたリア充爆発イベントのひとつなんだ」
バレンタインは女の子から好きな男へチョコレートを渡して愛の告白
↑ここまでをこっそり覗き見していたセレンが聞いていたのに俺は気付かなかった
「まあなんと素敵なイベントなのでしょうか
さっそく皆さんにもお伝えしなくてはなりませんわね!」
そうしてセレンは覗き見を止めて部屋の前から姿を消す
「とは言っても、それは一昔の話で
甘いものが好きな女の子達の今は友チョコ、マイチョコが主流
好きな男にチョコをってのは廃れつつあるな
義理チョコとか感謝チョコとかもある
まぁそもそも男にチョコの話は俺のいた国だけで、世界でのバレンタインは愛の日
男から大切な女の子にプレゼントを贈るとか、愛を確かめ合う日なんだよ
どっちにしろリア充爆発イベントには違いねぇケドな!」
「なるほど愛の日か、素敵なイベントじゃないか」
「ねぇ俺の話聞いてた?それとも女の子からモテるのが当たり前のイケメンくんには俺の気持ちがわかんねぇのかな?
俺は女の子からチョコなんて生まれてこれまで一度も貰ったコトないもん!
好きって言われたコトもないんですケド!超可哀想な俺なんだもん!」
ハハハといつもの爽やかな笑顔は時に悪意ない残酷な事を言う
「セリは女の子に好かれる事はないだろうな」
えっ何この人?大親友やめていい?
「わかってるっての!なんだよバカ!
ふん、今日は疲れたからもう寝る!」
なんやねん!腹立つわ
本当のコトだけど、そんなハッキリ言われたらムカつくだろ
俺は機嫌を損ねたままベッドに潜り込む
レイは怒らせるつもりはなかった話を最後まで聞いてくれと言うが俺は耳を塞いだ
そうして数日後、2月14日のバレンタインがやってくる
この国にはバレンタインがないからなんも気にせずに過ごそうとしたが…
街中の何処もかしこもチョコレートの甘い匂いがしてくる
いつもより…カップルが多いような…いや
気のせいだ気のせい、幻覚幻聴だな
そう思いたいのに隣で歩くレイがさっきから女の子に囲まれては目に見える愛をたくさん押し付けられている
甘い匂いのするチョコレートの入った袋や箱をね…
「レイ様、私からの愛のチョコレートを受け取ってください!」
「好きです!付き合ってください!」
「いつも見てます!今日もカッコイイですね!」
お、おう…しかも寄ってくる女の子達はみんな可愛い娘ばっかだし
レイの周りには、レイが見えないくらいメス猫ちゃん達が群がっているが
俺はと言うと、安定のぼっち
わかってた知ってた、いつも通りですこれ
いつも勇者様セリ様って囲まれるのとは訳が違うよ今日は
「ありがとう、皆の気持ちは嬉しいよ」
レイはそう言って爽やかに笑う
そしてその爽やかな笑顔で鼻血を出しながら失神するメス猫続出
うっっっぜぇえええええ!!!!???なんだコイツら!?
完全に住む世界が違うわ!サヨーナラ!!
なんだよこれ!?この国はバレンタインなんかなかったんだろ!?
なんで!?なんでこんな虚しいイベント発生してんの俺の目の前で!
「でも、すまない…オレは誰の気持ちも受け取れないから」
俺が怒ってひとりで帰ろうと思った時、レイはメス猫達を掻き分けて俺の傍に帰って来る
「オレはセリカ以外の心はいらない
それじゃ、これ以上はセリが機嫌を損ねるからオレ達は行くよ」
さっきまでレイに見せていた天使のような可愛さはどこにいったのか
レイがセリカの名前を口にすると空気が一変して息苦しくなる
………えっなんか俺が悪いみたいな空気!?
女の子達の俺を見る目が殺人鬼なんだケド!?
「やっぱりレイ様は今もセリカ様…」
「その一途な所も素敵」
「あたしは諦められないわ!」
様々な反応があってもひとつだけ確かなコトがある
みんな、俺のコト邪魔だって思ってる
直接のセリカじゃないケド、俺はセリカだから同じ
同じ目で見るんだ
好きな人に自分じゃない他の好きな人がいたら悲しいのは当たり前だし、邪魔だと思うのも心が自然に感じるコト
だから…俺をそんな目で見ても構わない
そう頭ではわかってても恐ぇーもんは恐ぇーし
ちょっとタジタジになるケド、それを跳ね除けてレイに抱きつく
「はっ羨ましいか!?
レイは大親友の俺が認めた女の子じゃないと許さないから!まずは俺の機嫌でも取るように努力しろよな!」
バイバイ!メスブタども!と威嚇して立ち去る
俺はセリカだケド、セリカじゃない
レイの大親友のセリなんだ
大親友を恋のライバルとしてその目を向けるような女はレイに相応しくねぇだろ
「セリ、怒って」「ねぇよ!」
レイはなかなか離れない俺を気遣って優しく声をかけてくれるが、俺は怒ってるワケじゃない
自分でもよくわからないんだよ
モテない自分をネタにしてるだけなんじゃないかって、そうだよそうなんだ
俺は別にモテたいワケじゃないのだから
抱きつく腕の力が自然に弱まると、今度はレイが俺の腰に手を回してグッと引き寄せてシッカリと抱く
別に今はそれをしてほしいとかじゃないのに
まぁいいか、人気のない道に来たコトだし誰も見てない
いや見られてもいつものコトだからいいし
「女の子から好きって言われたコトない
俺は普通に女の子好きだケド…そのハズなのに
思い出しても俺が本気で好きになった女の子っていないんだ」
美人も可愛い子もたくさんいる
自分の好みの女のタイプだってハッキリわかってるし
なのに…なんでだ…好きになったコトがない
誰か女の子を好きになって、俺はその子を幸せにするコトが出来るのか?一生守るコトが出来るか?
無意識にその自信がないってわかっていて、自分の力も強さもないって知ってて
だから、無理なんだ…
女の子は弱い生き物
守るべきもの、幸せにしたい
俺には男として、その意識が強い
プライドっつーか
こだわりなんか捨てて、もっと他の在り方だってたくさんあるのに
わかってても、俺にはその意識がある限り女の子を好きにはなれないんだ
「そうだな、こんなに綺麗な見た目をしていたら女性なら誰も近付けはしないのかもしれない
好きになれなかったのは、単純にセリにとって相応しい女性がいなかっただけだろう」
俺にとって…ね
素敵な女性はたくさんいるのに
簡単なコト、自分と相性が合わないだけ
無理に悩むコトも考えるコトもない
俺が素直に感じたままに想えばいいのだから
「………うん…
って、俺が女にモテないのはただのネタじゃん!
そのほうが面白いから全然良いんだよ」
アハハと俺は吹っ切れたように、でも少し寂しいような…感じでレイから離れる
いや…俺だって、強くてカッコ良くて
普通の男としてありたい気持ちもカケラくらいはあったから
ちょっと寂しい
俺はセリカだし、セリカは俺だし
半分は男で半分は女
それは普通に生きるなんて絶対に無理だし、ありえないし
普通の男になって、俺がセリカじゃなくなるくらいなら無になったほうがマシだよ
俺は今のままがいい、それが俺の選んだ運命だ
でも…でも…女の子にモテたいって思うのは、ちょっとした男の願望だよな…なんて
そうして今日のバレンタイン、愛の日
毎年と変わらず何もなかった
「うわっ…引くわ〜、何このチョコレートの山」
夜になって部屋に帰ると何処のアイドルだよと言わんばかりのレイ宛てに届いたチョコレートが山ほど部屋を埋め尽くしている
こんなにチョコ貰っても食べられないじゃん
俺は山をすり抜けて、テーブルの上に買ってきたマイチョコを袋から取り出す
なんやかんや言っても
チョコ会社の陰謀も悪くない
だって甘くて美味しいチョコレートがいつもよりたくさん出てて嬉しいもん
今年はコティパのチョコレート2つも買ったんだ
俺とセリカの分
高いケドめっちゃ美味しいチョコだ!
しかも期間限定のやつ!
マイチョコだ…誰にも一粒も渡さねーから!!
「よかったな、セリにも贈り物が届いているぞ」
マイチョコを眺めていると(まだ食べない、今は食べる時ではないのだ!)
レイは自分宛てに届いたチョコレートの山から俺宛てを見つけたみたいで喜ぶと思って持ってきてくれた
「なんだ………いつものやつじゃん」
ちょっとも期待してなかったし!
レイが持ってきてくれたのはいつもの香月からの貢物
中身はいつものとセリカが俺にチョコ買ってくれたものが入っている
考えるコトは一緒だなセリカ
「あっ、レイのプレゼント返品されてる」
好きな人にプレゼントする日だと俺が話したからレイはセリカに贈り物をしていたようだ
それが
「なんか重いから無理ってメモに書いてんぞ」
「何故だい!?セリカは綺麗なものが好きだったろう!?」
俺はセリカから返品されたものをレイに投げ返す
確かに宝石がついててキラキラして綺麗だよ
でも、さすがに指輪はキモイだろ…
恋人でもないしプロポーズでもないし……
「そういやレイはウエディングドレスの意味を知らなかったな
それじゃ指輪の意味も知らねぇの?
男からの指輪はただのアクセサリーじゃないんだケド」
「リングは好きな人に渡すものだと言う事はオレでも知っているぞ」
間違っちゃいないが…なんかちょっと違う…
「いやいや、リングは…」
あれ、ちょっと待てよ…
俺はレイに投げ渡した指輪を貸してもらって何気なく左手の薬指に合わせてみる
ピッタリだった………
「きめぇわ!!!なんでサイズちゃんとわかってんだよオマエ!?」
ちゃんと意味わかってやってるなら、もっとねぇよ!
「オレがどれだけ本気かを知ってほしかったんだ」
「レイもイングヴェィも先走り過ぎんだよ!?
相手の心置き去りにしすぎてて、ついて来れてねーから!!」
どんだけおめーらは恋愛下手なんだよ!?
初恋ってこんなバカと言うか暴走するもんなんか…わかんねぇな…
しかも真剣だからこそやりにくいし
笑ってスルー出来る雰囲気じゃない
「そんなんじゃセリカはレイのコト好きにならないよ
セリカは難しい女だからさ
自分だってどうやったら攻略出来るのかわからないくらい難しいんだ」
「セリカの心…人の心理はオレの専門外だ」
「逃避するんじゃねぇ!」
得意不得意とかそういう問題か!
頭痛くなってくるだろ
レイもイングヴェィもよく似ているよ
自分の気持ちはまっすぐ決まっているケド、相手にもそれがあるコトをわかっていない
いや…わかっていないんじゃない
絶対に両想い(にいつかなる)って信じて疑わないんだ
典型的なストーカー体質
セリカから届いたチョコレートを食べていると、レイが物欲しそうに見てるから
「そこにたくさんあるじゃん」
山積みになっているファンからのチョコレートを指差す
知っててだ、レイはたくさんの女の子からのチョコレートよりセリカからのひとつだけがほしい
「その一粒とそこにある全てを交換してくれないかい?」
「バカ言うな、この一粒にはレイにとってそれ以上の価値があるかもしれねぇが
そこにある全ては全ての女の子がレイに誰とも計り知れない愛がある…それを無下にするな」
意地悪しちゃった…交換は絶対しなくても一粒くらいあげればいいのに
レイはセリカのコトが好きなんだから…
またチョコレートを口に運ぼうとしたら、レイは俺の手首を掴んでこのチョコレートを奪い取って口に入れた
「あーやるなんて言ってないのに!」
指の温かさで溶けたチョコレートまで舐め取っていく
「さすがセリカだ、セリカの選ぶチョコレートは美味しい」
「返せー!」
「もうないぞ?」
ハハハと爽やかな笑顔がやっぱりムカつく
イケメンでモテるくせに欲張りな!
そろそろチョコレートを食べるのやめないと肌に悪いよな…って考えているとドアの方から視線を感じる
「なんだ結夢ちゃんか、そんな所でどうしたんだ?」
いつもと違って今日は両手を後ろにして遠慮がちに距離を置かれている
「女神結夢がどうしたんだい?」
俺以外に彼女の姿が見えない、レイは視線は俺と同じ方を向けるがそこにはきっとドアしかないのだろう
「………。(ドアの隙間から女神セレンが凄い覗き見ているが…恐いからセリには黙っておくか)」
結夢ちゃんの姿が見える俺にはその先が見えず、セレンが変態のように萌えているコトに俺は死ぬまで知らないままとなる
「あっ、もしかして結夢ちゃんもコティパのチョコレートがほしかった?いいよいいよ、あげるよ」
マイチョコだけど、女の子には優しくしないといけない使命の俺は結夢ちゃんの傍へ行き一粒を口元へと持っていった
「はい、アーン?」
女神は食事をしなくても死なないとは言え、美味しいものは食べたいと思う
とくに結夢ちゃんは他の人には見えないからカフェやレストランにも行けないし、買って食べると言うコトもできないだろうから
俺があげると言ってるのに、結夢ちゃんはやっぱり遠慮しているのかなかなか口を開けてくれない
でも、少し待てば口を開けてくれるからチョコレートを食べさせてあげる
「美味しいだろ?…って、なんか結夢ちゃん顔赤いけど…別にそれにお酒は入ってないぞ?
…もしかして風邪か!?寒いし!?女神でも体調崩したりするのか!?」
急に結夢ちゃんの顔が真っ赤になって俺から顔を背ける
めっちゃしんどそう!?えっ大丈夫なの!?
心配になってきた…俺なんて風邪引いても寝てたら治るけど、女の子だし…女神族の風邪ってどうなんだ?
額に手を当てて熱を測ってやると、火傷したかと思うほど熱かった
「ど、どうしようレイ!?結夢ちゃんが…」
あたふたしている俺と違ってレイはとても冷静だった
「女神族が体調を崩すなんて話は初耳だが…」
オロオロしていると、結夢ちゃんが背中に隠していた両手を俺の前に差し出す
その両手の中には手作りであろうクッキーがあった
「美味しそう…」
ちょうどチョコレートにも飽きてきていたし、甘いものやお菓子が苦手な俺(パンケーキとチョコレートはたまに食べたくなる)でも手作りのクッキーは好きだった
ってのを前に言ったような気がする
「ありがとう結夢ちゃん、嬉しいよ」
喜んで受け取ると結夢ちゃんは柔らかく微笑む
「みんなに作ってくれたんだな
レイ!結夢ちゃんがみんなにクッキー作ってくれたんだって、あとでみんなと一緒に食べようぜ」
レイの方に向き直って受け取ったクッキーを持って行くと、レイに変な顔をされた
「セリって…罪な奴……」
「美人ってだけで罪なコトくらい知ってるわ!セリカの俺に向かって!!」
「……鈍いって事だよ…」
また結夢ちゃんの方に振り返ると、笑顔だけどやっぱり辛い顔をしていた
体調悪いんだ……それなのに、みんなの為にクッキー作ってくれて…なんて良い娘なんだ
良いお嫁さんになるだろうけど、無理したらダメだと思う
「結夢ちゃん!しんどい時は無理しないで休まないとダメだ
俺以外には見えないからってさ、俺は見えるんだから結夢ちゃんがしんどかったら気付くよ
俺はヤダな、結夢ちゃんが無理するの」
頑張り屋さんだから無理してるコトに気付かないのかもしれない
女神だから体調崩してもそれに気付かないのかもしれない
そんな結夢ちゃんの手を掴む、手袋越しに
君の肌に触れると俺に君がいつも見ている世界の全ての不幸が流れてしまうからと彼女の気遣いだ
それは人間の俺には耐え難いものだった
結夢ちゃんの普段からの辛さだって誰にもわからないほど深く…強いのに
「ちょっと結夢ちゃんを部屋に送ってくるよ」
「あぁ、お大事に」
レイに声をかけてから俺は結夢ちゃんを連れて部屋まで送る
会話はとくにない、彼女は喋れないから俺の壁うちになる
「それじゃ、ちゃんとあったかくして寝るんだ…」ぞ
部屋の前まで送って帰ろうとしたら、結夢ちゃんは俺の服を掴み引き止めた
そうだよな…体調悪い時って何となく心細くなるから…それは女神族も人間と変わらないのかも
「わかった、結夢ちゃんが寝るまで傍にいるよ」
それが出来るのは俺しかいないんだ
同じ女神族のセレンでさえ彼女の姿が見えない
女の子の部屋に入るのってなんとなく緊張する
とくに女神の自室となるとさらに神聖さが強く感じるみたいで、不思議な感覚だよ
結夢ちゃんをベッドに寝かせて俺はすぐ隣の椅子に座る
「氷枕とかいるよね!?」
って言って取りに行こうとしたら、手を掴まれた
「いらない?俺と一緒で寝たら治るか」
手を握られると、その心細い温かさを離す気にはなれなかった
まぁ俺もそろそろ眠い時間なんだけど…
結夢ちゃんが寝たら自分の部屋に戻って寝よう
「すぐ良くなるから心配すんな」
黙るべきなのか喋るべきなのかわかんない
あんまり喋ると寝れないよな
結夢ちゃんは笑って目を閉じると、俺の手を掴んだまま自分の手を引っ込める
心細いのはわかるが、大きな胸に当たってますよ!?
なんか…照れる、恥ずかしいな
女の子だけど結夢ちゃんは誰かにその存在が見えるワケじゃない
異性への警戒心とかそういうのはないのかも、女神だし
いや女神でも人間のように恋したりはあるようだ
セレンが、あのセレンが、あれでもリジェウェィに惚れているらしい
そしてリュストと言う別世界の人間から求婚されているとの話も聞いた
セレンは眼中ないみたいだが…
だから、結夢ちゃんにもそんなコトがあったりもするかもだろう
だけど彼女の姿は今の所は俺とあのムカつくタキヤにしか見えない
好きになっても、その人に自分の存在が見えないってのは酷く辛くて悲しいコトだよな
最初から会った時から俺は結夢ちゃんを見捨てられなかった
俺にしか見えないなら俺が守ってあげなくちゃいけない、俺がずっと味方でいてやる
結夢ちゃんも俺の大切な仲間のひとりなのだから
「もう寝たかな…?」
静かに声をかけてから少し様子を見る
すると、ノックが聞こえて部屋のドアが開く音がして振り返った
レイか?と思ったが
「レイからここにいるって聞いてね」
なんだ和彦か
「バレンタインってイベントを意識するような奴だとは思わなかったけど?」
今日会う約束とかしてない
って言うか、和彦とはとくにいつも約束したりとかはなく勝手にいつも来る
和彦も俺も恋人だからと言って世間のイベントにはこだわらない、誕生日さえもな
言わなくてももちろん香月もそのタイプ
俺がイベントを過ごすのは大親友のレイとだ
「たまたまさ」
いつだって会いに来てくれたら嬉しいよ
好きだから、たくさん甘えたいし…
「ふーん、たまたまね」
結夢ちゃんも寝たし、と俺は手を離そうとしたら何故か力いっぱい手を強く掴まれた
あれ!?寝て…るよね?手に力が入るのは寝相と呼んでいいのか
「…セリくん、早く来いよ」
ドア付近で和彦が呼んでいるが…どうやら行けそうにない
「今日は…病人の看病で忙しいからまた今度」
「それは残念、香月も呼んでやったのに」
「なにオマエら仲悪いじゃん、やっぱりバレンタイン意識してんの?」
香月が一方的に和彦を嫌ってるように見えるが、和彦は好きでも嫌いでもないらしい
それでも仲は良くないし、悪い方だな
ってか、魔族の王様が女神の国に入れるってのホントおかしいだろ?
「セリくんが会いたいと思って、愛の日だから」
「俺はそんなの気にしねぇよ、知ってるだろ」
まぁねと和彦は笑う
「とにかく今日は無理、また明日な」
本当は和彦も香月も会いに来てくれて嬉しい
バレンタインとか関係なく、いつだって嬉しいに決まってる
結夢ちゃんが眠ってるとは言え、聞かれたら恥ずかしいから本音は隠して平静を頑張って保つ
和彦も香月も大好き、嬉しいって和彦に背を向けて笑顔が零れる
「わかった、また明日…楽しみにしているよ
毎日セリくんと一緒に寝れるレイが羨ましいね」
「………。」
ふふって和彦の意味深な笑みに恐くなって明日なんて来るなと思ってしまった
アイツらの恋人になるってのは幸せなだけじゃないって俺は知っているのに
急に絶望を感じるわ…でも、なんやかんや言っても好きなんだけどな…
レイのコトが羨ましいなんて、ちっとも思ってねぇくせに
和彦はレイが俺の大親友だって知ってるもん
和彦がいなくなって部屋が静かになる
結夢ちゃんの寝顔に視線を戻すと涙を流していた
それだけで、どれだけしんどいのかが伝わってくる
やっぱり風邪?すぐには治らないかもしれないな
「可哀想に…でも、たくさん寝たらそのうち良くなるから」
掴まれていない反対の手で結夢ちゃんの頭を撫でてやる
それから暫くして俺も眠くなって、いつの間にか寝てしまった
この夜の夢は一瞬だけ酷い悪夢だった
まるで世界の不幸が一瞬にして俺の夢の中へと駆け巡るような強く苦しい悪夢……
この年から愛の日、バレンタインがこの世界に作られた
セレンは盗み聞きしていた「女の子から好きな男子へチョコを」と言う話を勝手に変えて男から男へと宣伝したが
世界が受け取ったのは、好きな人へ愛を贈るとなったのだった
片思いの人はチョコレートに愛を込めて、両思いの人はプレゼントを贈ったり、人それぞれ自分の愛をお世話になった人だったり友達だったりと様々な形にした
その中には色々な愛があるんだって、俺は自分のコトばかりで気付かない
いつか、俺は誰かの愛に気付くコトがあるのか…
永遠に気付かないかもしない
もし気付いたら…
-終わり-
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