87話『それがボクの当たり前』セリカ編
魔族にとっての人間狩り、他種族狩り
それは私達人間にとっての苺狩りや松茸狩りなどと言った感覚と変わらない
目の前で逃げ惑う人間達を追い掛けて遊んでいるキルラ、ラナ、ポップをはじめ多数の魔族と魔物
こういった光景は何度も目にしている
しかし…何故今私がここにいるのか?
おかしい
今の私はセリくんと交代してセレンの所にいるハズなのだ
女神に守られた土地にいたハズなのだ
「セリカーーー!!見て見て!イケメン捕まえちゃった~♪」
イケメンを全裸にして首輪を付けリードを引いて見せに来るのは悪趣味のポップ
それが犬だったら私は可愛いねと撫でただろう
またか、と無視しかない
「張り切っちゃってますね~キルラもポップも、僕は寝不足で寝不足で
昨日は可愛い子羊ちゃん達とにゃんにゃんしてたんすよー」
ラナの話はよくわからないので(わかるケド)相手にしないコトにした
羊はニャンじゃないだろ
私が何故ここにいるのか…
それはキルラに半強制的に連れて来られたからだ
先にセリくんを誘ったみたいなんだケド、いや毎回誘わなくていいから私も
キルラはシンとルチアを殺る前に肩慣らしにいっちょ人間狩りでもすっかーって言ったら怒られたらしい
まぁそらそうだろうよ
セリくんは…そういうの嫌がるよ、私と違って
嫌なのに…いいのかな、香月と一緒になって
セリくんは忘れてるのかな、香月が魔王だってコトを…
「セリカ様ご機嫌ななめっすね、そんなにこのクソチビとのデートを邪魔されたのを怒ってるんすかね~」
ギロリとキルラは和彦を睨み付ける
別にデートじゃない
和彦が勝手に私について来るだけ
イングヴェィもレイも私と一緒にいようと一生懸命だけど、何故か和彦はさっとうまいことそこから私を連れ去るのだ
私の中で今の所1番信頼しているのは和彦だから一緒にいるのは嫌じゃない
しかし、キルラは和彦の話は聞いてはいても初対面だと思う
セリくんの恋人だってコトも知っているから睨むのは気に入らないんだ
香月と同じものを手に入れている人間がね…
確かに和彦は背が高くない
私と同じくらいだから、気持ち程度セリくんの方が背が高い
ハッキリ言って、チビだ
私が153cmだもの
「そう、セリカはオレとデート中だからそれを邪魔されて拗ねているだけ」
いや拗ねてない、気分じゃないだけだよ
つまんないんだもん
「ビ、ビビってなんか…イネェ…から…ナァ……」
和彦と目が合うとキルラは目を逸らし震え声だ
香月と同じで和彦もその身にまとう雰囲気に恐怖する者は多い
強い者には弱いキルラは、もうこの先和彦には逆らわないだろう
何もされていないのに屈服してしまっている
「別に和彦は怒ってないよ、ねっ?」
私が聞くと和彦は笑って頷く
腹の中で黒いものを抱えているとかはない
和彦は腹黒くないし、背が低いコトにコンプレックスを抱いていないから
背が高くても低くても、和彦は自分なら容姿は何でもいいと言う人なのだ
ってセリくんが熱く語ってた
私より女の子みたいな可愛い顔すらもね…
セリくんの好みの容姿じゃなくても気にしないらしい、セリくんの好みって香月だし(私の好きなタイプ)
私は中性的な容姿だからなんか複雑な気持ち
「い…助けて…」
時が過ぎるのをただ見ているだけだった私の前に虫の息な女性が助けを求め手を伸ばす
彼女は人間の私に助けを求めている
でも、私はそこから動かない
すぐに魔物が彼女を喰らい殺した
それでも私は何も言わない
飽きたかのように視線を逸らすだけ
私は人間が好きではないから…
好きだったら、ここで助けるかもね
キルラ達を倒して、魔王の香月を倒して、人間の平和を約束しよう
それが本来の使命なんだろうけど…
運命はそうじゃなかっただけ
気分で助けるコトはあっても、今の私は助けないわ
魔王の恋人だから?
違うよ、私は私に酷いコトをした人間が嫌いなんだよ
「違うんだ?セリくんとは」
「………。」
隣にいる和彦も女性を見殺しにした
それなのに、笑って私へと質問する
「セリくんなら、目の前の困っている人達を見捨てたりしない
ほら、セリカに手を伸ばして助けを求めていたのに」
和彦の指差す先の動かなくなった女性の腕は私へとまっすぐ向けられている
「人間の敵は魔族、セリカならそれらから彼女を助ける事は不可能じゃない
ここにいる全員の人間を助ける事さえ可能だ」
「何が言いたいの」
和彦は私を責めているワケじゃない
彼は他人の命なんてどうでもいいと思っているから
「セリくんにそういう一面がある事は知っている
責めているわけでもなければ間違っていると言うつもりもない
ただ、頭の良い君が考えて出た2つの答えがあるって思ったのさ
その線引きと天秤の掛け方がオレには読み取りにくいかな」
どんなに酷い目に遭っても全ての人間が悪いワケじゃない、だから少しでも良い部分があるなら人間の味方でいようとする自分と
人間の醜さに救う価値なしと感じる心と魔王を倒したくないと思う自分がいる
私はどっちも選べないだけだった
「君が決める事ならオレはどっちでも」
そう言って和彦は私の髪を掬いキスをする
「イングヴェィとレイと同じコトを言うのね」
どちらかひとつに偏っていたら、恋人にはなれない
もし世界の平和を和彦が望むなら、香月か和彦のどちらかを選ばなければならないのだもの
「それでも、私は好んでこの光景を見たいワケじゃないからね」
私はその光景から目を反らす
セリくんも私も、同じで何も違わないのに
たくさんあるよ…
人々を救うのか滅ぼすのか、世界の平和か破滅か
そのどちらも選べる力が私にはある
でも、どちらも選ぼうとして選ばないから決まらない
完全に分かれてしまったら、いつか…私が自分を倒す日が来てしまいそうな気がするから
私は自分が好きだから、そうならないようにしているだけ
恋だって、私だけがわからない
和彦への好きはわかったけど、私だけのこの気持ちはまだない
あぁ楽しい幸せだ、羨ましい
私も誰かをそうして好きになってみたいと思ってしまう
知らないのに、憧れだけを夢見て
「…ん?」
逸らした視線の先からラスティンが笑顔で何かを加えながら私の所まで走ってくる
「セリカ!美味しそうなお肉見つけた!」
ラスティンが私の足元に置いたのは瀕死のウサギ………
「おい!私がウサギ好きと知ってか!!?」
すぐに回復魔法でウサギを治してやると、元気になったオレンジ色のウサギが私の回りをクルクル走り出した
ぼーっと話してたのに反射的に好きなものには身体が動いてしまう
可愛い…ネザーランドドワーフか、可愛すぎてヤバいな
生きるために食うなら、大好きな動物でもとくに何も言わず思わずラスティンの好きにはさせるが、この世界ではウサギはレアなんだったな
わざわざ見せつけるのは趣味が良いとは言えないけれど…
ウサギを抱き上げると暫くは大人しくしていても暴れ出す
抱っこが嫌いなウサギは多い
仕方ない、嫌がるなら下ろしてあげよう
「食べたらだめ?」
「セリカは動物の中でもとくにウサギが好き
諦めた方がいいな、ラスティン」
手を出そうとするラスティンを和彦が制している
「しかし…よく見ると君はリズムに似ているね」
足元にいるウサギをよく観察するように私はしゃがみこむ
よく似ているウサギはたくさんいるとは言え、なんとなくそう思ってしまう
目の周りと口周りがリズムにそっくりだわ
リズムとは私が前の世界で飼っていたウサギのコト
食いしん坊で元気だけが取り柄のような性格だった、とても可愛い
頭を撫でてやると気持ちよさそうにしている
「そうだよ、セリちゃん」
と、ウサギはその愛らしい形を変えて人型の姿へと変わる
「ぼくはセリちゃんのリズムだよ」
ニコニコと笑顔の少年は愛らしい姿を捨てて私の名前を呼ぶ
急に…急に…
ショックだ、ショックを受けているわ
愛らしい姿が…ただの…人間の男の子に…
しかも喋る
ウサ耳と尻尾だけを残し、後はただの人の姿
年齢はレイと変わらないくらいだろうか
背が高くオレンジ色の髪にウサギらしい可愛い顔
「えっ…全然可愛くないわ」
この世界にいれば、動物が人に変身するくらいはいまさら驚かない
そんなコトより、可愛い可愛いウサギのリズムが人型になってまったく可愛くないコトにショックしかない
いや人型でもそれなりに可愛い容姿ではあるが…そういう問題じゃないんだよね!!
「ウサギが人間になった、ウサギも人間も美味しいお肉には変わりない」
ラスティンの見る目は変わらない
こんな所で会うなんて…偶然なのか運命なのか奇跡なのか
世間は狭いと言うから、こんなコトもなくはないのだろう
驚きはあるけれど、やっぱり縁とは強いものって思うから受け入れも早かった
「リズム…そう、貴方もこの世界に来ていたのね」
「うん!セリちゃん会いたかった!美味しいおやつまだ?」
リズムの頭を撫でていた手が止まる
ラスティンが増えたとしか言えない
全然可愛くない!喋るとまったく可愛くない!!
あの何考えてるかわかんない顔が可愛かったのに!!
どうせ私はおやつくれる人ってわかってた!!
私はリズムに会いたかったのに…
「感動の再会も何もないのね」
リズムはおやつおやつと私の手に鼻を押し付けてくる
そんなコトしても美味しいおやつは手から出ないよ
今まで何をしていたのか、たまたま偶然?に会えたからよかったものの
いや…それより…
私は周りを注意深く見渡す
リズムがいるなら…
「セリちゃん、どうしたの?」
パレちゃんもいるのかな…?
パレードはリズムの1年後に来たルビーアイの真っ白なネザーランドドワーフだ
警戒心が強くビビりのオスだけど、リズムのコトは気に入らないみたいですぐに喧嘩を仕掛ける
そのくせ外に出掛けるとリズムのお尻に顔を隠そうとする小心者だ
パレちゃんのコトも気になるけど…
「カニバくんは…」
今まで諦めていた奇跡がリズムと再会したコトで、もしかしたらって大きくなる
私の大切なものはひとつじゃない
諦めていたものが、私の目の前に現れてしまったなら
それを期待して願うのは当然のコトでいいよね…
「カニバお兄ちゃん?ぼくは一度も見た事ないから知らな~い」
カーニバルは、リズムより先に私の所へ来たはじめてのウサギだった
グレーのリンクスで、リズムと同じネザーランドドワーフ
3羽の中で1番小柄なのに凶暴で気が強い美形
まったく懐かなかったが、私は最初のウサギだからとカニバくんを子供のように可愛がり愛情を強く持った
しかし、1歳半と言う若すぎる時に突然死
最期を見届けたが、死ぬほど悲しくてショックだった
後悔しかなかった…幸せにできなかったと…
カニバくんが亡くなってから、リズムを迎えたから知らないのは当たり前だ
でも、リズムがここにいるならもしかしたらカニバくんもと思ったが…
「そう…知らないか」
悲しいコトを思い出してしまった
だけど、この世界ならカニバくんに会えるかもしれないと思ったら少し嬉しくなった
「…セリちゃんはいつもカニバお兄ちゃんの事ばっかり!ぼくと言うものがありながら!」
「リズムのコトも大好きよ」
もちろん可愛いと思ってる
「でも、その姿より私は愛らしいウサギの姿が好き」
人型ではなくウサギの姿に、それがリズム!可愛いリズム!
リズムは迷わず言われた通りウサギの姿に戻り大人しく私に抱っこされた
この世界ではウサギはレアとされている
欲深き者に見つかったら面倒なコトになるだろうし、危ない魔族の所へも連れて行けない
だからセレンの国で危険のない場所で暮らそうね
「愛しのペットと再会したにしては、浮かない面だな」
どうして私は和彦にそんなコトを言われなければならないのか
奇跡的に、偶然にしても、いや運命だったかもしれない
リズムに会えて私はとても嬉しいし幸せなのに
「おいしそう…幻のウサギ肉」
ラスティンが私の腕の中にいるリズムを見てよだれを垂らしている
「食べたり怪我させたら殺す」
「はい…」
我慢と言いながらラスティンは目を閉じてウサギ肉を見ないようにした
「あのお願いなんだけど…和彦にリズムを連れて先に帰ってほしいの」
和彦に渡そうとするとリズムは私の腕を服の上から噛んだ
何か言いたげだと言うのはわかった
でも、それは聞いてあげられないわ
「先に?セリカは?」
言われた通り、この浮かない面の意味を確かめにね
何故かはわからないけれどこのままここを離れる気にはなれない
この意味を暴かなきゃ私は絶対後悔するようでたまらないんだ
リズムは和彦の腕の中にいても私の顔にじっと視線を送る
「オレを連れて行け」
嫌な予感とかには鋭そうな和彦は私を心配してくれる
「リズムを頼めるのは和彦以外いないの」
ラスティンは論外だし、三馬鹿に預けて無事でいられるとは思えない
「心配してくれて、とても嬉しい
愛されてるって感じるから
でもこれは和彦に頼るコトじゃない、私の問題なのだから」
「オレはセリカが死なないように見張ってないといけない
手放したくないからね、死なれたら困る」
「大丈夫、私が死にそうな時はそこで悪さしている人達が助けてくれるわ」
いつもギリギリになってからだけど
香月に私を守るように言われているキルラ達も私に死なれると困るものね
「もっと…甘えてくれれば可愛いものの
仕方ないな、セリカは」
信頼の次は甘えてほしいか、次から次へと欲深いわ
でもそういうの嫌いじゃないよ
「それなら、ラスがセリカについていく!
ラスがセリカを守る!それなら和彦も納得する?」
一生懸命言ってくれたけど、和彦は不安しかない顔をする
「…わかった、頼むよセリカを」
ラスティンより私のほうが強いのに、和彦は頼むのが逆だわ
和彦は私の額にキスをするとリズムを連れて帰ってくれた
キスされた場所にそっと手を当てる
もちろん嫌じゃないよ
だけど、イングヴェィもよくキスをくれるの
それとはやっぱり違う
何かが…違う、それだけはハッキリとわかる
「セリカ行こう!」
ラスティンに言われて私はその違いの意味を後回しにした
私が今するべきコトは、カニバくんとパレちゃんを探すコト
しかし、探すと言ってもどう探せばいいのか?
とりあえず…歩こう、先に進まなければ見つかるものも見つからない
私はラスティンにリズムをどこで見つけたのかを聞いてそこへ案内してもらった
私のざわつく心を晴らしに行こう
近くにある小さな森の中でラスティンはリズムを捕まえたと言う
その時にもう一匹グレー色のウサギを見たと言うから、私はそのウサギがカニバくんである可能性が高いと見る
その大事な情報もっと早く言ってよ!!
ウサギなのだから森にいるのが自然か
「カニバくんは警戒心が高い、簡単には見つからないか…も…」
ガサガサと茂みが動く音が聞こえた
音からしてウサギのような小さなものじゃないとは思って身構えると武装した人間達が現れる
「女だ!捕まえろ!」
やばっ、変な集団に遭遇してしまった
見た瞬間に捕まえろ!とか言ってくる奴らなんてもう、ろくでもないぞ
人間達が持つ様々な武器を見てラスティンは顔を真っ青にして固まっている
まずいな…ラスティンは人間から酷い目に合わされていたからこういう光景はトラウマだ
逃げられないかもしれない
やっぱり、何かあってもラスティンは私を守る所か自分さえ守れないよ
だからラスティンは私が守ってあげなくちゃ
「逃げるのよラスティン!」
私が背中を叩くと固まっていたラスティンが反応する
「わ、わあああああ!!!」
真っ青な顔色を変えず悲鳴を上げながら来た道を全速力で走った
「男が逃げたぞ!」
追おうとした一部の集団を私は通せんぼして逃げるラスティンを追わせなかった
大丈夫…ラスティンは足は速い方だから逃げ切れるハズだし、キルラ達でも呼んできてくれたら……
そんなコトをさっきまで考えていた気がする
いつの間にか気を失っていた私は目を覚ます
はて…?私は何故ここにいるのか?
あっさり捕まってしまったのは覚えてる
だって炎魔法効かなかったんだもん!勇者の剣も全然!アイツら強すぎた!!
私は人質なのか何なのか、考えたい
でもなんか違うんだ、この光景は私の想像していなかったもの
私は何故か超巨大な調理場にいた
そこで次々と人間が生きたまま捌かれ調理されていく
まるで牛や豚、魚などと変わらないように
それが人間になっただけ
なんとも恐ろしい光景ではあるが、私はこの光景を見慣れている
魔族がたまにやっているコトと何も変わらない
ただ、それとは違うコトがふたつあった
ひとつは調理するのも食べるのも魔族ではなく同じ人間であるコト
そしてふたつめは食べられる側の人間はなんの抵抗もせずに選ばれたら喜んで食材となっているコトだ
私はその異様な光景にただ信じられず思考も追いつかなければ動くコトもできない
喜んでいる人間を食材にされるのを止めて助ける?コトが正解なのか?
私だけがおかしいのか?と思ってしまいそうになる
いやいや、流されるな…普通に考えて殺されて食べられたら嫌だろ!?死ぬんだぞ!?
そもそも、さっきは助けなかったのに今は助けるとか気分の移り変わりが激しすぎるぞ私!!?
いやいや、当然だ、さっきとは立場が違う
私もやられてる側なんだ、こっち側が助かる術を考えるよ
パニックになっても急に冷静になって答えが出る私ってスゴイ性格だね
「はい次~」
待ってください!ここで私の人生終わるとかダメでしょ!?
順番に選ばれていくのを見ているといつの間にか次が私の番となった時、後ろにいた男の子が肩で私を押しのけるように前へ出た
「ぼーっとしてんなブス!!」
ドンっと押されて私は床へと膝をついてしまう
ブス?誰が?眼科行こ?
って!何この失礼な男の子は!?
確かにぼーっとしてた私が悪いかもだけど…ん?悪いのか?この状況で、私悪いの?
「あーそこ、順番抜かししない」
料理長っぽいおっさんが男の子に注意すると男の子は私を足で蹴りどかす
「順番なんてどうでもいーじゃん!こんなババアより若くて美少年のボクの方が美味しいよ!!」
ババア?誰が?良いお医者さん紹介するよ?
小学生(くらいに見える)の僕ちゃんから見たらババアかもしんないけど!私はまだお姉さんって年齢よ!!
酷い!親の顔が見てみたいわ!!
自分で美少年って言う割に…まぁ、美少年だけど…
グレーの髪に黒い瞳、色白で中性的で可愛いよりは綺麗系、大人になったら絶対美形間違いなし
「わかったわかった騒ぐな、どっちが先でもいい」
料理長は美少年に大人しくするように言う
「やったね!じゃあボクが先だからブスは最後尾に回れよな」
あっかんべーと私を見下ろしてほくそ笑む
クソガキがぁ!!と大人気なく一瞬怒りに満ち溢れたが、すぐに連れて行かれ私の目の前で解体され調理される
さっきまで私をブスだのババアだと言い放っていた生意気な口も姿もなくなっていく
可哀想なんて…思わない、ただなんでそんなに死に急ぐのか…それが恐くないのか
私はそれが不思議で仕方がなかった
みんな喜んで死へと飛び込むから、私だけがおかしいのかと思う
「はいー今日はここまで、皆さんお片付けして
プライベートも大切に、ちゃっちゃと定時で上がるように」
意外にホワイト、就職したい
料理長が手を叩くとみんな片付けを手際良くはじめる
残った食材(人間)は私を含め、食材専用の部屋へと連れて行かれた
食材専用の部屋だと言うのに食材にストレスを与えないようにしているのか1人ひと部屋でそこそこ居心地の良さを感じる
ドアの鍵もかけられないから逃げ放題なんだけど、さっきの食材用の人間の様子からして逃げ出す人はいないとでも言うのかしら
「……整理しよう…なんかおかしい」
つい独り言が出てしまうほど私の頭の中はこんがらがっている
まず私はキルラ達に連れられて虐殺ショーを見せられて…その後はラスティンがリズムを捕まえてきて…和彦にリズムを預けて別れて…ラスティンが他にもウサギがいたって言ってたから一緒にカニバくんを探しに来て…私だけ罠に掛かって、今ここ
うん、それはわかる
で!?
人間が食料になっている、ここまでは食人をしているワケよ
ここまではまだわかる
どこの世界にも食人ってのは少なからずあるのかもしれないから…
私がおかしいと思うのは捕まった人間は何故、喜んで!って反応になる?
考えているとドアが大きな音を立てて開けられた
「わっ!?」
思わずビクッとしてしまった
そうだ、鍵かけてないから誰が入ってきてもおかしくない
「夜這い!?」
「んなわけあるか、誰がオマエみたいなババアをメスとして相手にすんだよ」
殺そう、今すぐ
部屋の中に入ってきたのはさっき殺されたハズのあの生意気なガキだった
「いや、あんたさっき殺されてハンバーグにされたんじゃ…」
なに?殺された風の手品とでも言うの?
私は本当に状況がまったく飲み込めないでいる、さっきからずっとよ
「もちろん、ボクは殺されてハンバーグにされて人間様に食べられた」
少年は私の座るソファに腰かける
自分の部屋であるかのような当たり前の振る舞い
1人ひと部屋のハズなのに
「ボクは殺されても死なない身体だから、何回食べられてもすぐ生き返るってワケな」
何もわからないって顔をしている私に少年はテーブルの上にあるお菓子を食べながら話す
「そうなんだ…」
不死の身体か…そんな人がいても不思議じゃない世界だけど
「痛みは感じないの?」
「痛いに決まってんだろバカか、考えて喋れ」
考えて喋ってますけど!?
私は痛みを感じない魔法を使えるからそういうのもあるんだって思ったんだもん!
めっちゃ生意気だけど、なんかだんだん悪態付くのが少年の語尾と思ったらムカつかなくなった
~にゃんとか、~でちゅとか、そんな感じのやつ
いや、その語尾もめっちゃイラッとくるやつだった
「それはおかしいわ、痛いし…他の人はそのまま死んでしまうのに
どうして君もみんなも喜んで料理されるのよ」
「なんでって、それがボクらの当たり前だから」
「当たり前って何!?私はそんなの嫌!!」
まるで洗脳されているみたいだ
自分達は誰かの食べ物である、それを疑うコトもしないくらい当たり前であると…
そうか…洗脳か
それなら納得がいく
「…嫌なら出て行けば?別に鍵が閉まってるんじゃねぇし」
少年はドアを指差す
逆に鍵開いてるのが罠かと思ってたけど、洗脳で支配済みならそんな必要もない
私が洗脳されていないのは、たまたまなのか…な?
それなら逃げるコトも簡単かもしれない
でも、私ひとり逃げて…いいの?
この子供を見捨てて自分だけ…良い気分ではないよ
「あのね!君も他のみんなも絶対洗脳されてるよ!!
君は死なないかもしれないけど、普通は死んだら終わりなの!
君に大切な人は?家族は?家族の誰かが死んだらもう二度と会えないのよ?」
いや私は前の世界で死んだら新しい世界が始まったけど…そう言う意味じゃなくて
「大切な…ママは……」
「ほら!いるんでしょ、ママに会いたくないの?帰りたくないの?」
なんで私説得してるんだろ、生意気でムカつくのに…
でも、なんかここでほったらかしにしたら一生後悔すると思った
洗脳されてるってコトは言ってるコトも思ってるコトも全てが嘘に塗り替えられてしまっているのかもって思うと
本当はこの子は凄く良い子で、心の奥底ではママに会いたいかもしれないから
もし私が洗脳されて自分じゃなくなったら、絶対に自分を取り戻したいと思うもの
自分でどうしようもないなら、誰かに助けてもらいたい…
「ブスが偉そうに、自分だけ帰れ」
少年は私の手を振り払って部屋のドアを指差す
「一緒にね!」
何言われたってもういい
私は少年の手を引っ張って部屋のドアを開けた
部屋の出入りは自由とは言っても誰かに見つかったらややこしいコトになりそうだから私は注意深く廊下を歩く
少年は私に手を引かれるまま大人しくついてきていた
騒ぐコトもなく
だけど、少ししてから私に異変が起こる
足元がフワフワするような、頭がクラクラするような…
……あれ、私なんでこんなコトしてるんだろ?
廊下を歩いてると私はだんだんと自分がどこに向かっているのかわからなくなってくる
部屋に戻って明日を待たなきゃ…
そう思うようになる、さっきまでの自分は思い出せない
私は私のハズなのに、私じゃないコトに疑いすら持てない
少年の手を離そうとした時、少年は私の手をグッと掴む
その途中で微かにドアが開いた部屋の様子が灯りとともに零れて見える
覗き見た部屋の中は食事をしている数人の人間の姿が見えた
テーブルの上にはさっき調理したものがずらりと並べられていて、原形ないものもあれば人の姿焼きのものまである
なんとも異様な光景であるハズなのに、私はそれがおかしいコトと思わなくなっていた
「幸せそう…食べられて…いいな」
勝手に私の口から出る言葉
やっと私はここにいるみんなの気持ちがわかったのだ
私は少年の手を振り解いて、そのドアを開いた
食事をしている数人の男女の関係は親戚を含めた大家族だろうか?それとも同じ食人趣味を持った人達か?
なんでもいいけど、彼らは一斉に私を見る
「もうデザートの登場かね?綺麗なお嬢さん」
「美味しそうね、早く食べたいわ」
最高の食材だと褒めてくれる
全員が私へと目を輝かせる
それがなんとも誇らしく嬉しかった
「さっきは順番を抜かされたんですもの、デザートでもなんでも美味しく頂いてもらえるなら」
死ぬのなんて恐くなかった
調理されて食べられるコトが私の最高の幸せだと感じるから
「ちょっと待てよ!こんなババアより若いボクの方が!!」
慌てて少年は私を退けるようにして彼らの前へと飛び出す
「デザートは女がよい」
「そっちの小僧はさっき食べたから飽きたわぁ」
満場一致で彼らは私を選んだ
邪魔する少年は抑えつけられ、私は全ての食事が終わり片付けられたテーブルの上にデザートとして活け造りにされる
恥ずかしくなんかない、もっと見てほしい
私の最高の幸せの瞬間を
「これは…なんと美しい!」
「そして美味!!」
「当たりを引いたわね」
自分の心臓が動いているのを見るのは始めてだ
もちろん、自分の肉を箸でつつかれ食べられるのも
ラスティンはいつも丸かじりだったし
冷たい感触がある、痛みはない
だって私の魔法はそれを可能にしてギリギリまで生きていられるから
長生きでいつまでも新鮮と褒められ食べられていく
「セリちゃん…なんで…」
少年は歯を食いしばり食べられて死にゆく私を見ていた
必死に抵抗しても大人の人間には敵わない小さな力しかない
だんだんと私の意識が遠退いていく…
何も考えられない、私の大切なものも…私自身も……
「…死なないで……」
消えそうな意識の中で、小さな声が聞こえる、弱く…でも
「ボクを…ボクをひとりにしないでぇえええ!!!っっっセリちゃーーーーーん!!!」
強く私の名前を呼ぶ声
死なないで…死なないで、カニバくん
私をひとりにしないで…私を悲しませないで、寂しいよ…
遠退く意識が一瞬で私の下へと戻る
私はすぐに自分の身体を回復魔法で元に戻す
思い出した…私はギリギリの所で自分を取り戻すコトができた
死ぬ前に…
すぐにテーブルの上から離れる、全裸で
テーブルクロスを引っ張って身体を隠す
あ、危なかった……
頭がどうかしていた、この私が洗脳されてしまうなんて
「デザートが逃げた?」
さっきまでご満悦だった食人の彼らは私を不機嫌な目で睨み付ける
こんな奴らに自分の肉が食われたと思うと嫌な気分だ
ラスティンに自分の肉を食わせるのとは訳が違うわ
コイツらは人の心も身体も洗脳してその肉を食う
食われた人は自分が食われたコトもわからないまま自分をなくしたまま殺される
なんて、酷いコトを…
魔族の仲間みたいになってる私が他人に酷いと言う資格はないだろうけど
私だってコイツらと変わらずの最低人間なのに
「ありがとうカニバくん、私を助けてくれて」
少年を抑えつけていた人間の男を炎魔法で倒して助ける
さっきの私を捕まえた武装した人間とは違う
ここにいる人間は食べる専門なのか弱かった
やっとわかった…やっと気付けた
さっきの私を呼ぶ声で
君が私のカニバだったんだね……会えてよかった、嬉しいよ
「セリ…」
私はカニバを引き寄せて、強く抱きしめる
なんて言葉をかけていいかわからなかった
「セリちゃん…」
カニバもなんて言っていいかわからないみたいで私の名前を呼ぶだけ
その声だけで私の胸は締め付けられる
「さっ、帰ろう…こんな所にいてはダメよ」
炎魔法で倒せたとしても殺したワケじゃないから目を覚まされて強い仲間を呼ばれたら厄介だ
私がカニバの手を握ると、カニバは難しい顔をして足を動かしてくれなかった
「……これがボクの運命なんだよ」
ポツリと零れる
ここでも運命って言葉…
食べられて死んで生き返るのが運命…
それをカニバは受け入れているってコトだった
さっき話した時にハンバーグにされた記憶があった
つまり今までの記憶がないワケじゃない
自分が感じた痛みと他の人間達が殺され食べられていくのを見ても本気で運命だからって受け入れてるのか、カニバ…
「カニバ!!運命だからってなんでもかんでも受け入れていいワケないでしょ!?
今のカニバの運命はそれでいいの?嫌じゃないの?」
私の言葉にカニバは涙を堪えながら首を横に振る
「…本当は嫌だった、永遠に続く痛いのも苦しいのも辛いのも…」
「嫌なら認めちゃダメだよ…受け入れてはダメ
抗って抗って…運命をぶち壊してでも、自分の幸せは自分で決める
自分のコトは何者にも、神様にだって勝手に決めて良いコトじゃない
自分のコトは自分で決めるの!」
自分の運命は自分で決めたい
今にも泣きそうなカニバの頭を撫でようとしたら手で弾かれてしまった
きっと私が撫でたら我慢している涙が零れてしまうから、カニバは気の強い子だから涙を私に見せたくないんだ
「でも、この世界では僕は死んでも死なない身体だった
他の人が死ぬのは嫌だったから僕はここから逃げるコトを考えなかった
それでも助けられなかった人達はたくさんいたけど」
痛いのも苦しいのも辛いのも、そんなの君の運命じゃないから…
それが運命と言うなら、壊すしかないよ
「カニバくんって、そんな良い奴だった?」
いつも凶暴で攻撃的で私に全然懐かなくて…私の片思いだったから意外すぎて
「……セリちゃんが泣いたから…」
カニバは私をぎゅっと強く抱き締める
「セリちゃんが…あっちでボクが死んだ時に泣いたから
誰かが死んだら誰かが泣くのが…嫌だった
セリちゃんを思い出して、セリちゃんの泣いた顔しか僕は思い出せなくなって
これが…この運命は、セリちゃんを悲しませたボクへの罰だよ…」
カニバ…
私は何も言えなかった、何も…
罰なんかじゃないよ
私はそんなコトを望んでいないし、もし何かがカニバにこの罰を与えたとしたなら私は許せない
何も言えない代わりに私は昔みたいにカニバの額にキスしてあげる
「やめて!恥ずかしいから!」
だって可愛いんだもん、私のカニバくん
大好きだよ、いつまでも
ぎゅーっと抱きしめて撫で撫でしていると
「赤ちゃん扱いすんな!!」
本気で鼻の頭を噛まれた
めっちゃ痛いけど、嫌いになんかならない
このクソガキの親の顔が見てみたいって私かよ…ってオチ
カニバは暫くして照れたように私の唇をペロッと舐める
「私に会えて嬉しいって素直に言っていいのよ」
「調子に乗んなババア!!」
暴れて逃げ出そうとするけど、暫くはぎゅっとしたいよ
君が私の名前を呼ばなかったら、君が泣かなかったら、私がここへ探しに来なかったら…
私は君に気付かなかったままだろうか?
そんなコトがなくても、ちゃんと気付けるようになりたい
ちょっとの変化だって、もう見逃したりしないから
「それじゃ、いつまでも感動の再会やってる場合じゃないからね」
私がカニバの手を引くと、まだ足に迷いがあった
「ボクの運命は…」
「私とずっと一緒にいて幸せになるコト」
不安だったカニバの表情は緩んで迷いはなくなる
嬉しそうに私の手を握り返して一歩を踏み出した
その一歩は君が運命から解放された瞬間
新しい運命を、今度は自分で決めるんだよ
自分の望む運命をね
「セリちゃん、悲しい思いをさせてごめんなさい
もうセリちゃんのコトは泣かせたりしないから、ボクもセリちゃん大好き…」
いつの間にか私の流していた涙をカニバは舐め取ってくれて、あの時の悲しい気持ちも拭われたような気がした
謝るコトじゃないのに…
カニバくんだって、頑張って生きようとしてくれてたもの
どうしようもなかった…仕方がなかった…
それでも、私はやはり死なせてしまったと強く後悔している、今も
外へ出る前に服の回収をしながらパレードのコトも聞いたけれど、カニバくんは知らないと言った
そう簡単にみんなが揃うコトはないか
考えたくはないが不死の身体じゃなく、すでに食べられ死んでしまったとか…
ううん…そういう嫌なコトを考えるのはよそう
またどこかで再会するよ、パレちゃんとも
「ふははははは!!逃げられると思うな金づる!!」
外に出ると私をあっさり捕まえた武装集団が私達を囲む
「不死の少年と勇者似の絶世の美女、もっと高く買ってくれる変態共は星の数ほどいる!」
褒めてくれてありがとう
でも、変態共に売られるのは勘弁だわ
「セリちゃんはボクが守る!」
小学生くらいの身体でカニバは私を背中で守ろうとする
武器もない魔法も使えないのに、心意気だけはとても強かった
強くなかったらその心意気は意味がない
負けるだけ、最悪死ぬのよ
だからカニバに守ってもらうコトはできない
不死の身体でも…
敵の私達を囲む距離が少し近付くと同時に氷の矢が目の前で無数に降り注ぐ
全ての氷の矢が敵を貫き倒される
「セリカ!大丈夫かい?」
レイ…やっぱり、氷の矢と言えばレイだ
助けに来てくれたんだ…
一瞬で私を捕まえたけど、一瞬でレイに負けたこの人達はたぶん…そんなに強くなかった
私がよっぽど弱いってコトね…
「あ、ありがとう…レイ」
一言お礼を伝える
和彦があっさり引いてくれたからもしピンチになっても絶対大丈夫ってのがあったからそれほど驚きはなかった
私は…いつも誰かに守られている
「セリカ…その少年は…」
私の前に立ちレイを睨み上げているカニバに大丈夫よと伝える
「あぁレイ、ごめんなさい
この子は私が飼っていたウサギのカーニバルくん」
「なんだコイツ!セリちゃんのオスか?ダメに決まってるだろ!!あっち行け!」
謎の嫉妬でレイに噛み付くカニバ、そのカニバを抑えつけるレイ
「まったく容姿は私に似ても性格はまったく似てないわね」
「そっくりだが…」
他のオスが現れたコトでツンツンのカニバくんはツンデレへと変化した
「そうそう、セリちゃんのウサギって名乗ってたムカつく奴がいたんだよ
念のために逃がしてやったけど、アイツだれ?」
「リズムのコト?カニバくんが逃がしてくれたのね、嬉しい」
「そっかー、ボク以外のオスは許さないから」
セリくんに会ったらカニバはどんな反応するんだろう…
それにしてもリズムはカニバくんのコトは知らないって言ってたな
リズムも同じように嫉妬して黙ってたのかしら
いくら嫉妬でもこの状況で黙ってるのはダメなコトって教えなきゃね
カニバくんの手を繋いで帰ろうとしたらレイに呼び止められる
「セリカ、中にいる人達は助けなくてもいいのかい?」
「助けたかったら助けたらいいよ」
「オレはセリとセリカ以外はどうなっても構わない
でも、セリはいつも…目の前で困った人がいたら助けてやれって言うんだ」
そうだね、言うね、セリくんなら…
私もさっきまではそう思ってたんだよ
洗脳されたまま、自分じゃないまま、知らない間に殺されるのは可哀想だって
でも、私は他の人の洗脳を解くコトができない
その術を持っていないから
洗脳された人間には他人の声は届かない
助けられない
「セリくんはレイに甘えすぎだと思う
レイは別に助けたいと思わないのに、セリくんが助けたいって思う自己満足にレイが危険な目に合うのはおかしいよね」
「オレは…セリの願いなら何でも叶えてやりたい
自己満足でも、オレが危険な目に合う事よりセリの願いの方が上だ」
自分が弱いから、何も出来ない、助けられない
そのくせ他人に頼って叶えてもらうなんて…私は自己中だ
私が危険に飛び込めばレイも飛び込んで助けてくれる…必ず守ってくれる
だから無茶する
安っぽい正義感かざして…良いコトしたって勘違い
「セリカが願ってくれるなら助ける」
「願わないよ…他人より、レイが危険な目に合う方が嫌だもの」
本当にレイのコトが大切なら無謀なコトをするべきじゃない
自分の言動で、周りを危険な目に合わせてるコトに…気付かなくちゃ
何もしない、それが1番だ
「…セリちゃん……」
私の様子がおかしいコトにカニバは不安そうに私の手を握りながらレイと交互に見る
「嬉しいよ、セリカがオレの事を心配してくれて
それじゃあ、助けに行って来るから少し待っていてくれ」
レイはいつもの爽やかな笑顔を見せて食人の館へと入っていた
私の話…ちゃんと聞いてたのかな…
「カニバくんはあんな大人になっちゃダメよ」
「えっ?でもあのお兄ちゃん良い人…セリちゃんのオスとしては認めないけど」
それから30分ほどでレイは片付けて帰ってきた
洗脳された人達の洗脳が解けたワケじゃないから、食人する人間がいなくなり絶望している
ネクストに知らせて保護してもらい、家族の下に帰れば私とカニバのように自然と洗脳が解けると考えた
「待たせてすまない」
「ううん…」
レイは私の下へ戻ってくる
俯く私を見て、怒っていると思ったのか不安そうに名前を呼ばれた
「セリカ…」
レイみたいな大人になっちゃダメだよ
だって
「合格!」
恋しちゃうから
私は笑顔でレイの顔を見上げた
嬉しかった、レイがちゃんと私のコトをわかってくれてるってコトが
セリくんがいつも嬉しいと思ってるコト、私にもちゃんとわかったよ
レイは私の本当の願いを叶えてくれる
私が望んでないコトはなんなのかわかってる
私は気分で見捨てたり目を反らしてしまうコトもある
弱い自分は何も出来ない、それが歯がゆかった
代わりにやってほしいなんて、思ってない
それでもレイは私の心を汲み取ってくれる
私に力を貸してくれる
どうしてセリくんがレイのコト大好きなのか、一緒にいるとよりわかるよ
あなたが私の大親友でよかった
恋と言うよりは、好感度がめっちゃ上がったって感じです
セリくんと同じ気持ちを私も持つコトが出来るの
「セリカが喜んでくれるなら」
私が笑うとレイは少し照れて顔を赤くする
いつもありがとう、これからも傍にいてね
それで結局、私のピンチに三馬鹿は助けに来なかったけど…
「それにしてもレイはどうして私を助けられたの?」
「和彦さんと出掛けたセリカが心配だったんだ
最近のセリカは和彦さんを心底信頼しているようだが、オレはセリカに対しての和彦さんはまだ信用出来ない…」
つまり、ストーカーしてたってコトね
レイはセリくんなら和彦に任せられるけど、私には主にセクハラしないかが心配だったらしい
疑われるのは日頃の行いよね、和彦
和彦が素直に引いたのもこれでわかった
レイが私をストーカーしているのに気付いたからだ
言ってくれればいいのに、和彦のやつ
「まぁ…セクハラはなくはないけど、和彦は信頼できる人よ
レイが心配するようなコトは……」
起きてるか、たまに胸揉まれたりお尻触られたりするもんな
叩き払ってるけど、和彦にとったら挨拶みたいなもの
「いいや、心配だ」
ですよね
私はウサギの姿になったカニバくんを膝に抱きながら撫でている
人型よりウサギ型が好き!カニバはウサギさん!
珍しく大人しく撫でられている
他のオスがいるから甘えん坊になっているのかもしれない
ラスティンのコトも心配だな、彼は人間を恐い存在だと思っているから
今回のコトでまた恐い思いをしてさらにトラウマになってないかな
帰ったら優しくしてあげよう
「それにオレはセリカの騎士だから当然の事だ」
私を守るコトにいつものレイの爽やかな笑顔、釣られて私も笑顔になる
あたたかい気持ちにも、優しい気持ちにもなれる
これが愛されてるってコトなのだろうか
無意識にずっと張り詰めていた緊張も何もかも解けていくみたい
「それは私にとっては当たり前のコトじゃないよ」
愛されるコトは当たり前のコトじゃない
私を選んでくれて、レイが幸せだと思ってくれたら嬉しいのに…
でも、私はひとりにしかそれを返せない…
レイのコトは大好きだよ、感謝もしてるし…
運命に抗うなら私はあなたに恋をするコトもできるかもしれない
カニバくんのように自分で選んでもいい
でも、私は決められないでいる
本気で誰かに恋を、私はまだしていないから
それからレイとカニバくんと一緒に帰ってきた
道中はレイとカニバくんが度々喧嘩しながらもなんやかんや楽しかったな~
そうだ、私はラスティンが心配で部屋にいた和彦に聞くと
「殴ったら出て行った」
しれっと返された
「ん?殴った?なんでよ!?」
最初は耳を疑った
和彦がペットに暴力を振るう人だと思わなかったから
でも、リズムは和彦の膝の上でくつろぐと言う名の服従をしている
「セリカを置いて逃げて帰って来ただろ」
「聞いたの?でも私は気にしてないわ、ラスティンには戦う力はないのだもの仕方ないでしょ」
「セリカは甘やかし過ぎ、牙も爪もなくなったから戦えない?
言い訳にしか聞こえない、人の姿をしているならその手に武器を持ってでも戦う時に戦わないでどうする」
滅多に怒らない和彦が静かに怒っているのが肌で感じて恐いと無意識に身を引いてしまう
「そ、それは…」
「男が女の後ろに隠れてるのが気に入らないな」
う、う~ん…でも、ラスティンより私の方が強いって言いたいけど恐くて言葉が出ない
「ラスティンの方がセリカより強い、魔族魔物以外なら」
「和彦が強すぎるから他の人も強くなれるって思うのかも?」
頑張って恐怖を押し殺して話す、魔王の恐怖に耐えれる勇者ナメるなよ
「セリくんは今以上に強くはなれない、弱い奴は弱いまま」
なんで私に大ダメージ与えてくるのか…
「ラスティンは強くなれるのかもしれない
でも、強くなりたくない人に無理になれって言うのは…」
「それは世界が平和ならの話、セリカはこの世界も前の世界も知らないわけじゃない
オレの言いたい事もわかっているのに」
和彦の言う通りだ…
弱いってコトがどんなコトなのか…私はよく知っている……
思い出したくもないし言いたくもない…コトになる
今まではなんとかなっても、ラスティンを甘やかし続けたらラスティンの為にはならないのかもしれない
和彦は私を守るひとりとしか見てないだろうけど、強くなるコトはラスティンが自身を守るコトになる
やり方が厳しいだけで和彦が正しい…なのに、私は
「…怒ってない、そんな顔するな」
俯く私に和彦はリズムをソファに置いてから私の傍へと来る
「いや私が…」悪かっ
胸を掴まれ揉まれた
「私は怒ってる!!リズムがいるんだからやめてよね」
ひっぱたいて突き飛ばす
「悩んでるみたいだから大きくしてあげようかと」
「今は悩んでないわ!!それに胸は揉んで大きくなるはウソなのよ!」
昔ネットで見た
和彦は私が想像する以上にショックを受けていた
その事実ではなく、私の胸がこれ以上どうにもならないコトに…
「心配するなセリカ、小さいサイズははじめてだが」
「巨乳好きのアンタが比べたら私は論外なんだろうけど~!!」
なくはないもん!Cカップだもん!
この世界では貧乳と言われるサイズ
B以下は滅多にいないらしいが、いたら絶望とまで言われる胸に厳しい世界
妙なヤキモチに和彦の両頬をつねっても和彦は笑っているだけ
和彦のコトは大好きだけど、恋人にはなりたくない!!こんなデリカシーがなくて浮気性な奴!!セリくんって見る目ない!!
「そうやってヤキモチ妬くセリくんは最高に可愛い、食べてしまいたいくらいに」
ヤキモチ妬かせたいがために浮気してるって言うなら頭おかしいぞ
暫く会ってないまだ会えない和彦がそろそろ我慢の限界でセリくんと私の区別が付かなくなりそうだ
理性で抑えていても、結局は私でもセリくんでも同じでお互いの受ける感覚は全て伝わっている
和彦がまいっかとならないうちに退散しなくては
「バイバイ!!」
逃げるように私は和彦から離れて安全な場所へと向かう
そこにはカニバくんがいる所、イングヴェィの部屋だ
カニバはレイに嫉妬して足ダンと噛み付きと蹴りをかますが、イングヴェィにはそれなりに懐いている
イングヴェィは私以上に動物に好かれる体質だった
和彦の所から逃げてきた話をしたら笑われた
いいのかイングヴェィ…笑い事で済まなくなる可能性もあるのに…
それとカニバくんと再会してレイに助けてもらったコトも話した
「えぇ!そうだったの!?和彦くんと一緒だから絶対大丈夫だって思ってたのに…」
イングヴェィは和彦のコトを信頼していた
レイのコトもライバルではあっても、私のコトを絶対に守ると言う信頼は持っているみたい
それ以前にイングヴェィは私のどうしようもないピンチはわかる運命の力があるのだと
だからいつも私をストーカーしているイングヴェィは今回それをしなかった
全ては運命でわかっていて…
「大丈夫だったよ、和彦じゃなくてレイが助けてくれたコトにヤキモチ?」
「レイくんはライバルだからね」
この前までライバルとは呼べないとか言ってたのは誰だったか
「でも、レイくんはセリカちゃんを絶対に守ってくれるからそれは安心するよ」
イングヴェィがセリくんをレイの傍に置いているのも絶対に守ってくれるとわかっているから
誰もセリくんを守らなかったら、イングヴェィは私だけじゃなくセリくんだって傍に置いているわ
セリくんが死んだら、傷付いたら、何かあったら全て私の身に起こるコトだから
「……セリカちゃん、そろそろ帰って来てほしいな」
カニバくんが私達を直視している中で、妻が家を出て妻の実家に説得しに来た夫みたいな台詞を言うイングヴェィ
それは…ダメだよ、イングヴェィは私といると……
いや、私が未熟だからなってしまうコトで私が悪いのだ
イングヴェィをそうさせてしまう私が
私を守る為なら、どんなコトだって彼はする
私のコトならなんでもわかるイングヴェィ
イングヴェィのするコトは私が望んでいるコト
まだ私はイングヴェィの傍にはいられない
イングヴェィにそんなコトをさせたくない
私が…自分を突きつけられるのが…恐いんだ
私にはどうしても、まだ決別できないものがある
この憎しみも苦しみも悲しみも…私は捨てられない
消えないの
「…イングヴェィのコト、好きになったらね」
そしたら…
運命を受け入れるなら、私は捨てるよ
邪魔なもの全部…
「うん、頑張るね
セリカちゃんが1秒でも早く俺を好きになってくれるように」
いつもの笑顔で、いつものように抱き締めてくれる
私はまた身体を固まらせてしまうけれど
でも、やっぱり運命の人
一緒にいると好きって思ってしまう
もう面倒だから認めてしまえばいいのにと揺れたりもするわ
いいや、この好きが本物なのかどうか知りたいの
ウソなのは嫌…
何かに勝手に決められてるとするなら、そんなウソの幸せなんていらない
わかってるのに、いつも助けてもらって守ってもらって
一途で健気で純粋で、知っているのに
その全てはウソでも誰かが決めたコトでもなんでもないのに
そこから生まれる愛すらも疑うと言うのか…
イングヴェィが運命だって言うから…
運命で愛されてるのが嫌なんだ
運命じゃなかったら、イングヴェィは私を好きにはならないんでしょう?
私なんて…誰にも愛される資格ないのに
こんな私に運命と言う名に縛られて依存するコトは…酷い話だと思わない?
イングヴェィを運命から解放して自由になっても、それでも私を好きになってくれる?
…あぁ、可愛くない女だ…私は…
でも、そう考えてしまうんだ
私が勝手に運命に決められてるのでは?と疑えば疑うほど、イングヴェィを運命に縛り付けているのでは…と
-続く-
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