88話『望んだ力の結末までに』セリ編

「ちょっと聞いてくれよ!和彦!!」

レイと喧嘩してお節介なセリカが俺と入れ替わりになってから、和彦が俺の所へ訪ねて来てくれた

俺はレイのコトで和彦に愚痴っていたのだ

「レイと喧嘩した!!」

「どうせセリくんが悪いんだろ」

「なんでだよ!?」まだ何も言ってねぇ!

いつもワガママ三昧だからレイの気苦労がよくわかると和彦は笑う

「そうじゃない!レイは俺のコトばっかでセリカのコトほったらかしにしてるから

今の俺にはこの聖剣があるし、もうレイに守ってもらわなくても大丈夫なんだ」

「へぇ」

あれ…いつもなら、そうだねって言ってくれるのに…なんか反応がいまいち……

「れ…レイは大親友だからずっと一緒にいたいよ

でも、俺はレイの恋人にはなれないからこのままじゃレイはセリカと上手くいかないと思って」

和彦の反応を見ながら言葉を選んだつもりだったけど…やっぱりいつもと違う

「もしかして…ヤキモチ妬いてる?俺がレイの話ばっかりしてるから?」

あの和彦が?ヤキモチ?絶対ありえねぇけど…

最近は和彦も変わってきたからもしかしたらそうなのかもしれなかったり…?

と、ちょっと嬉しい気持ちになりながら期待してると和彦は俺に軽くデコピンを食らわす

「セリくんがレイを恋人にしたいならすればいい、オレはその事には何も思わないし何もしない」

じゃあさっきのデコピンはなんなんだよ!?

言う通り和彦はとくに怒った感じでもなかった

「嫌だよ!?いや、セリカがレイの恋人になったらそうなのかもしれねぇけど

俺自身は嫌なの!!」

「レイが可哀想、そんなセリくんはオレでも嫌だ」

えっ…?そんな俺って…なに?嫌?

それって嫌いってコト?和彦が俺を嫌い?

まさか…信じない、聞き間違いだと思いたいのに、サーッと全身に冷たいものが流れ落ちてくる

そんなのは絶対嫌だって気持ち…

「意味…わかんない…なんで?俺が悪いの?

レイが慕ってくれてるのに、冷たく突き放すのは可哀想だってわかるよ

でもそうでもしなきゃ…」

俺なりにレイの恋を応援してるつもりだよ

それが間違ってると言うのか?

レイの相手はセリカだぞ?自分のコトを自分が1番わかってるのは当たり前じゃないか

「……今のセリくんにはキスする気にもならない」

冷めた視線で俺を見て和彦は部屋を出て行こうとする

すぐにその手を掴んで引き止めた

「なんだよそれ!?」

過去にこんなコトはなかった

和彦がいつもウザイくらい俺を追い掛けて捕らえていたのに、離れていくなんて少しもなかっただろ

はじめてこわいと感じた

何されてもこんな痛い恐怖は感じたコトはなかったのに

なんで?いきなり?こんなコトで、和彦とも喧嘩?

わかんない、何がダメだったのか…全然わかんねぇよ……

「…行かないで」

ってお願いしたのに…和彦は俺の手を払いのけて部屋を出て行ってしまった

ドアが閉まってから静まり返る中で、俺は悲しくて泣いてしまう

好きな人に嫌われたら…辛いのは当たり前のコト

あぁ、俺っていつの間にかこんなにもアイツのコト好きだったんだ

いつも絶対に離れないって思ってたから…

こんなコト考えたコトもなかった…

大親友のレイと喧嘩して恋人の和彦と喧嘩して…

「俺…何やってんだろ……」

聖剣を抱き締めて涙を流す

強くなって、自分もみんなも守れるコトができても

何もかもが上手く行くワケじゃない…

聖剣はそんな俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、抱き締めるととても温かかった

勇者の剣と同じで生きた武器、俺の大切な仲間のひとり

「いや、泣かない!落ち込まない!

ってか俺は何も悪くねぇしな!!…たぶん

和彦のコトだ、俺のコト好きすぎるから我慢できなくなってそのうち勝手にまた来るわ」

そう思いたいが…和彦は人間だ

飽きるコトもある…そうだとしたら…

なんて悪い方ばかり考えちゃいけないよな

レイのコト、和彦のコト…どうしたらいいのか



2人のコトを考えながら数日が経つと、どうやら和彦はセリカの傍にいるようだ

聞かなくても見なくても、セリカからそれを感じ取れる

どうして和彦がセリカの所へ?と疑問には思わなかった

行かないでって俺の願いを叶えてくれたからだ

なんやかんや言って和彦は俺のコト好きでいてくれるってわかったから落ち込んでた気持ちも少しだけ軽くなった

前からセリカのコトも気にかけてくれてる所はあったし…

でも、ちゃんと俺の所へ帰ってきてほしい…

それからまた数日後、セリカがカニバを連れて俺を訪ねて来た

レイと一緒に…

「セリ…帰ろう」

喧嘩の後だからレイの爽やかな笑顔はいつもよりぎこちなくて、それでも俺はさっと出されたレイの手が嬉しかった

嬉しくて…たまらなくて……

「嫌だよ、帰ってほしかったら俺を力付くで」

意地を張った……何故そんなコトをしたのか、俺はこんなコト望んでいないのに

ただ意地を張っただけ、レイに幸せになってほしかったから

聖剣を引き抜きレイに向ける

もうレイに守ってくれなくても大丈夫なんだって、セリカの為にもいつまでも大親友に甘えちゃいけないんだって思って…

そう思ってるよ!?俺の答えは間違ってないだろ!?

なのに…なのに、セリカは呆れていた

自分は心底自分に呆れている

レイと俺が仲直りする為に交代したのにって、わかってる…でも

「レイはレイの為に、俺に命なんて懸けなくていいから

俺が自分の身は自分で守れるって証明する」

だから力付くで来い

それで俺が負けたらレイに従ってやる

いつまでもレイがいないとダメな俺に戻ってやる

「……セリ…」

名前を呼ばれて視線を逸らした…レイが、傷付いたような顔をしたから

声だって、なんか悲しそうだ

俺だって本当は…だけど、なんで?レイも和彦もわからない

俺は何も間違ったコトを言ってもしてもいないだろ?

「力付くで…セリは人間のオレには勝てない」

レイは俺にはじめて弓を向けた

そんな震えた手じゃ、聖剣がなくても負けねぇよ…バカだな

人間に弱い俺でもレイには強いよ

だってレイは絶対に俺を傷付けたりできないんだから

確かにレイは強い、でも俺が向かっても避ける一方で一矢も引けなかった

やっぱりレイだからって手加減したら逃げられるか

「じゃあ本気で…」

遠慮するコトなんてない

即死させない限りは俺の回復魔法でレイを治せるんだ

卑怯なのかもしれない

レイは絶対俺を傷付けられないってわかっててこんな勝負…

聖剣の力は少ししか借りていない

俺は簡単にレイの首元へ剣を当てるコトができた

数秒で勝負がついてしまった

レイが手加減しているとしてもこの結果は普通じゃありえない

いつもならもっと軽く余裕であしらわれて、レイはわざと笑顔で負けてくれる

今回はわざと負けたとは言えない結果だった

それはレイ自身が1番わかっている

「くっ…!」

そう思ったのはレイも一緒でショックを受けているようにも見えた

「俺の勝ち、わかったろ?

今の俺はレイよりずっと強いんだよ

だから…もうずっと一緒じゃなくても…大丈夫

これからはセリカの傍にいてやって」

膝を付きショックを隠し切れないレイに、セリカが駆け寄る

「レイ…」

なんて声をかけていいかわからない、そこにいてあげるだけしかできない

本当は俺がそうしてあげたいと思っているから

約束破ってる?俺

散々ワガママ三昧して振り回して…思ってもないコト言ってして……自分が嫌になる

本当にこれがレイの為?本当に…本当にか?

もう後戻りできないよ

…本当はレイに勝ってほしかった……

あれだけ手に入れたかった強い力は…本当に俺に必要なのか?

弱い自分が大嫌いだったのに…俺は理想の自分になれたハズなのにな

膝をついたレイを見下ろしている自分

こんな自分を俺は望んでいたか…?

「セリカ、カニバを部屋に…長旅で疲れてるだろ」

「うん…またあとでね、レイ」

俺がキツく当たるとセリカが優しくなる

レイのコトは気になるけど、ちょっと頭を冷やしたい

部屋に戻ってカニバをキャリーケースから出してやると、そこら辺の匂いをかぎはじめる

ヤバイ…可愛い……

もやっとした気持ちをこの瞬間だけ忘れさせてしまうくらい可愛い

カニバとリズム、俺とセリカで1羽ずつ傍に置くコトに

魔族側には気が強いカニバを、安全側にはリズムをと言うコトだった

カニバなら魔族や魔物がいてもやっていけるくらい強い性格であるコトと殺しても死なない身体であったから

「いたっ!?なんで噛むの!カニバ!!」

可愛い可愛いカニバを抱っこして顔を近付けると鼻の頭を噛まれた

いつまで経っても赤ちゃん扱いが気に入らないらしい

と言っても、俺からしたらカニバもリズムも何年経ったって子供なんだ

その愛らしいウサギの姿に赤ちゃん扱いするなってほうが難しいって

カニバはよく噛むが、それでも可愛い姿にデレデレしてしまう

嫌われてるのか?と思うコトもあるが、カニバはちゃんと俺のコトを好きだって知ってる

「そうだセリカ、こっちに戻ったらまたパンケーキ食べたいと思ってたろ?行こうか」

「いいけど…」

何か言いたげだな、どうせレイのコトだろ

言わなくてもわかるし…セリカが思うコトは俺も思うコト

意地になって隠してもセリカには丸見えだ

「決まり、暗くなる前に行かなきゃ」

カニバはお留守番だぞ

ここはセリカ(勇者の俺)の部屋だから魔族も魔物も入れないからここでは1番安全な場所だ

出掛けて来るよとカニバを撫でるとまた指を思いっきり噛まれた

この凶暴さは誰に似たのか…

飼い主の俺にはまったく似てないぞ(自信はない)


俺は気分転換にセリカを連れて近くの人間の街へとやってきた

このカフェのパンケーキがめっちゃ美味いんだ

人気のない場所だから静かで、なのに景色が綺麗で紅茶も美味しいなんて最高

ここは万が一魔族に攻め込まれても俺が死守すると誓おう

「それで、セリくんは和彦と喧嘩したのね」

和彦がセリカの所にいるから自然とその話になった

「別に喧嘩じゃねぇ、和彦が意味わかんないだけ」

「私も和彦がなんでそう言ったのかわからないけど、そろそろ仲直りしてくれないと私の身の危険を感じるわ

なんやかんや言って浮気はしてないみたいだものね」

あの和彦がスイーツを我慢してるなんて…さすがにセリカに手を出してしまう可能性は…高くなってしまうな

俺だろうがセリカだろうが同じコトとは言え、それは避けたい

セリカが和彦を自分で決めるなら別に構わないが、そうではないならダメだ

それにしても、和彦はこの世界に来てから本当に良い意味で変わった

浮気の回数もかなり減ったし(ゼロではない)

昔は浮気される度に「オマエなんかとは別れてやる!!」って何百回怒ったろうか…

よく考えたら百を超えるっておかしいだろ?

ホント、アイツの女好きはもうビョーキ

「仲直り…したいよ、俺は

でも和彦が何か怒ってんだもん……」

「レイとも早く仲直りしなきゃね」

レイとだって…

さっき迎えに来てくれて、嬉しかったハズなのに!

なんか意地張って聖剣で叩きのめしちゃって、帰んない!とか言っちゃった!!

そんなコトちっとも思ってやしないのに…あーあー

いや、俺の傍じゃなくセリカの傍にと言ったのは俺なのに…

なんてワガママばっか考えてんだろ、嫌な奴だな俺って……

本当は俺の大親友でいつも一緒にいてほしいのに

自己嫌悪に陥っているとセリカは心配そうな顔をして話す

「レイは私がピンチの時は助けてくれるし守ってくれる

いつもの爽やかな笑顔もくれるわ

でもね…やっぱり時々変なの」

「変…?」

自己嫌悪に陥って頭をかきむしった俺の髪型も今変だと思う

セリカが髪型整えてくれた

「寂しそうって言うか、悲しそうって言うか…自殺しそうなくらい暗い時あってね

なんか悩みがあるのかなって聞いてみるんだけど、私には話してくれないわ」

セリカが言うには、自分達が考えているよりレイは酷く思い詰めていると…

「は…はは……まさか、レイが自殺なんて…」

俺はレイの大親友だ、レイのコトならよく知ってる

レイは自殺するような奴じゃない

レイが死ぬ時は俺かセリカの為だけだ…

でもどうだ?大親友だからって、自分じゃない

他人だ、他人のコトなんてわからなくて当たり前

俺はレイの全てを知っていると本当に言えるのか?

言えないよ…

レイがそんなに深く悩んでるなんて……

話聞いてあげなきゃ…聞いてあげたい

でも…喧嘩中だし…

でもでも…もしレイが自殺なんてしたら…

だんだんと不安になって心配になってくる

「レイが自殺したら…」

かもしれないって想像すると涙が出てくる

「感動する映画見ても絶対泣かないどころか絶対寝るセリくんが大親友の自殺を想像しただけで泣くの!?」

冷めすぎてるからか、人の心がないからなのか、感動ものと恋愛ものあかんタイプ

「ふん!もうアイツらの話なんてどうでもいいんだよ!

それよりセリカにもこの聖剣を自慢しなきゃ~」

聖剣をセリカの前に差し出すと、刃をほんのり赤らめた

前にもこういうコトあったような…勇者の剣もセリカを前にして照れていた

オマエもオスかよ

「この前、イングヴェィを助けに行く時に聞いたよ!?」

何回も同じ話してしまうコトって、よくあるよね!?俺だけじゃないハズ

「まぁ嬉しいのもわかるわ、やっと強くなれて誰のコトだって守れるようになるから」

勇者の剣が嫉妬するのをわかっているセリカは引き合わせるコトはせず、見えないようにして聖剣に触れる

聖剣はますます刃を赤らめた

オスはセリカに弱いな、メスは俺に弱いかって言われたら…違うんだよ

そういうコトはないんだよ、おかしくない?

セリカに聖剣の話をすると、よかったねと喜んでくれた

あまり詳しく言わなくてもわかってくれる

これで俺が他の誰かに頼らなくても、守ってもらわなくても、犠牲にしなくても

これからは俺が全てを守ってみせるんだって

もう恐れるものは何もないし、何があっても乗り越えていける

それだけの強さと力を手に入れたんだ

そのコトにセリカも安心してくれるんだから…

そうして、その後も色んな話をした

久しぶりにお互いの近状やなんやらを話せば、あの時に感じたのはそういうコトかぁ!となって納得するのだ

しかし、こうしてセリカとカフェで楽しくお茶をしていると1人の美女が俺達のテーブルへと近付いてきた

「ねぇ勇者のお兄さん、隣いいかしらん?」

見上げて、えっなんで?とは思った

他にもたくさん空いている席はあったから

でも、女性には優しくしなきゃいけないと言う使命から俺は断れなかった

「いいですけど…」

セリカと2人で過ごしたかったが、セリカも同じく女性には優しくの宿命に逆らえず黙っている

(そんな使命や宿命が本当かどうかわからないが、何故か意識の底からあるものだった)

「うふふ」

どうぞと言われて美女は俺の隣に座ったが、なんかめちゃくちゃ近かった

何!?この人!?

キツメの香水がちょっと苦手に感じたりもしながら

いや…そんなコトより、この女の人…胸元開きすぎの服を着ていてスカートの丈も短い

見たらダメだって気を遣いたいのに、見てしまうぅ……

なんでもめっちゃ巨乳だし!?

セクシーなお姉さんは好みのタイプではないのに、間近で見ると悪くないと思ってしまう

「ねぇ?勇者様、この後はお店を変えて2人っきりで飲まない?」

ぎゅっと手を握られて、さらに腕にその大きな胸を押し付けてくる

どういう状況!?俺は今どうなってるんだ!?

こんなコトってある!?ないよ!なかったよ!?

「俺…お酒飲めなくて…」

飲んだら死ぬの…でも、女性の誘いを断るのはなんだか悪い気が…

「大丈夫よぉ、少しくらいなら平気でしょう?」

ちょっと…か、って、いたたたたたたた!!!??

「ゴメンなさい、お酒は飲めませんの、アレルギーで

せっかくのお誘いはありがたいのだけれど、この後は大事な用があるので失礼しますね」

セリカが俺の左耳をおもいっきり引っ張り引きずるようにしてカフェから出るコトになった

遠くで見えるお姉さんは見間違いかもしれないが、何故か舌打ちをしたようにも見えた

カフェが見えなくなった所でセリカは足を止め、俺の左耳を離してくれる

「いった~…どうしたんだよセリカ、女の人の誘いを断るなんて

お酒は飲まないよ、でも付き合ってやるくらいいいだろ

あの人、勇者の俺と話したかったのに」

引っ張られた左耳を押さえながらセリカに涙目で視線を送る

「バカ!!!」

セリカの様子を伺うように顔を覗き込むとめちゃくちゃ怒鳴られる

「あんなんどっからどう見てもハニートラップでしょ!?」

ハニートラップ…?って、あの女性に誘惑されて陥れられるってやつ?

俺は爆笑した

「はっ!?いや!ないでしょ!?何言ってんのセリカ、俺がハニートラップになんて引っかかるワケないじゃん

もーバカはセリカのほうだって」

「あの女はきっとセリくんの持つ聖剣を手に入れる為に近付いたのよ

女性に夢見過ぎて警戒心のないセリくんは良い鴨だわ

あのままついて行ったらどうなっていた?手を出したらアウトなのよ、わかってないでしょ?

勇者の剣と違って聖剣は誰の物にもなれるのよ?」

んー…ハニートラップ…ねぇ、そういうの見抜くのは同じ女のセリカのほうが得意かもしれねぇ

確かに俺は女と言う生き物がどんなのかまったくわかっていないのだ

何故なら今まで同じ空気を吸うだけでそれ以外の関わりもなければ、女の恋人なんていなかったのだから!!ナメるな!この悲しい運命を!!

でも、やっぱりセリカはわかっちゃいない…

「わかってない、わかってねぇなセリカは」

「何よ…ハニートラップに引っかかりそうになって」

「そりゃ俺だって、こう見えても普通の男だ

女の子には興味があるし、女の子とあんなコトやこんなコトしてみたいよ」

「へぇそう…」

普通の男…か…?ってセリカの心の声が聞こえた

男嫌いなセリカにめちゃくちゃドン引かれてるけど、セリカは理解がないワケじゃない

男だから仕方ない、そう思っている

でも引いてるけどな

「でも、よく考えて?

俺が女の子に手を出すって出来ると思う?

どんなに興味があろうが好きだろうが、この俺がそんなコトこの先永遠にそれが出来ると思う?叶うと思いますか?」

言っててだんだん悲しくなってきて涙まで零れてくるぅ…泣いた

「うっ…」

そんなの無理に決まってんじゃん!

香月も和彦も気にしないだろう、でもそういう問題じゃない

俺は…香月と和彦じゃないとダメなんだよ

あの2人に愛される、愛してもらう

それ以外は無理なんだって自分がよくわかってる

「セリくん…だ、大丈夫よ

永遠にないだろうけど」

じゃあ何が大丈夫なのそれ!?永遠にないのに!?慰めになってねぇし!

まぁ別にいいけどね、もう諦めてるし、嫌じゃない

好きな人とがいいから、なんの不満もないよ

それに女の子の身体ならセリカでよく知ってるんだもん

「でも、セリカが止めてくれてよかった

この聖剣はそれだけ価値があるもの

これからもたくさんの人達が俺に近付いて来るだろう

だから、今日のコトで気をつけなきゃいけないってわかった」

強さや力があったからって絶対大丈夫なのはないって知っていた

俺は気をつけていても、なんやかんや騙されて利用されてきたし、これからもそうされていくんだと思う

そんなの嫌なのに…気付けなくて、バカで愚かでくだらない

「君、とっても可愛いね」

「えっ?」

そんな真面目な話をしている時だった

セリカはいつの間にかナンパされていて壁ドンされている

「これからお茶でもどう?もちろん奢るよ~ん?君みたいな綺麗な女の子には」

「綺麗だなんて…恥ずかしいです」

待て待て!なんだこの状況!?

いやよくあるコトだが、今回は男じゃなくて女がセリカをナンパしていた

背が高く美人だ、女に弱いセリカは謙虚に小さくなってしまっている

誰?ってくらい借りてきたウサギのよう

「恥ずかしがらなくても、今は…さっ行こっかー」

あっこれヤバイやつだ

ナンパ女はセリカの肩を抱き連れて行こうとするから俺は通せんぼして止める

「行かせないぞ!セリカはこれから俺と大事な用があるんだからな!」

大事な用なんて特にないけど…さっきも

しかしナンパ女は俺の姿を見るなり嫌そうな顔をして

「アタシ、男って嫌いなの~邪魔しないでね、さよーなら坊や」

無視された

「セリカ…セリカのほうがバカだー!!」

なんの疑いもなくついて行こうとするセリカにショックを受けながらもセリカを守るのは俺だと無理矢理腕を掴みナンパ女の前から逃げ出す

セリカはまだわかっていないみたいで頭の上にハテナマークを浮かべながらも俺と一緒にナンパ女から逃げてくれる

「残念ね、また今度デートしてね~チュッチュッ」

遠くでセリカにそう言葉とキッスを投げかけるナンパ女を振り返らず、俺達は街の外れまで走った

「もう…どうしたのセリくん」

息を切らしながらセリカは俺に変な視線を送る

「どうもこうもあるか!?危機感がないのはセリカのほうだ!!」

「何言ってるの?私は聖剣を持っていないのよ」

「そうじゃない、あれは聖剣とか関係なしにセリカが目的だ

あのままついて行ったら襲われてたぞ」

「ウソ?ないよ、そんなの

あの女の人はただ何かと有名人な私と話したかっただけね」

アハハとセリカは無邪気に笑う

認めたくないが、きっとある意味同類だから俺にはあの女がそうなんだってわかる気がする…

「セリカ、この世界にも女が好きな女もいるんだぞ?

しかもセリカは女同士だからって安心しきっているから鴨になりやすい

女同士ってどんなコトするのか俺は想像できないが、同じコトだしきっとセリカは傷付く」

「えっ何が?なんで?」

あれ!?セリカってこんなアホだったっけ!?

セリカは同性経験はないようだが、男より力はないと言っても非力なセリカじゃ女が相手でも力負けする

疑いもせず…そんなの絶対ダメだ

「とにかく!セリカは俺が守るし、女だからって信用してホイホイついて行くなよ!!」

「わかった…」

本当にわかってるのかどうかは微妙だが、俺が言うならとセリカは頷いてくれる

そうだ、俺は今まで守られる側だったがこれからは宣言通り自分を自分が守らなきゃならねぇ

めちゃくちゃ神経使いそうだ…

セリカは疑い深く不信感が強く賢いハズなんだが、変な所でズレていて時たま無垢な面を見せる

俺がしっかりと守ってやらないと…

……守れるかなぁ…不安になって来た

所詮は自分なのだ、心と身体が2つあっても2倍にも2人にもなれるワケじゃない

いや…弱気になってどうする、レイにあんなに啖呵切ったのに

「セリカは絶対俺が守るんだ!」

ぎゅっと抱きしめてキスすると、セリカもできるかなぁと苦笑した

逃げた先で今度は肩をトントンと叩かれる

新手の敵か!?と振り向くと

「セリ様宛てにお手紙です」

と郵便配達のお兄さんが一通の手紙を俺に手渡した

ご苦労様です……全国どこでも配達するお仕事に尊敬と驚きがあります

なんで俺がここにいるのがわかるのかそのシステムを知るのが恐い

ストーカーに悪用されないように

「お手紙?誰からかしら」

「勇者として大量のファンレターならセレンの国に届くコトはあるが、俺個人に手紙が来るコトはめったにない」

ラブレター?なにそれ、一通も届いたコトはねぇよ

「ファンレターか、私は一通も来たコトないわ

世界を平和にする(運命の)勇者ととくに何もない聖女じゃ大きな差があるね」

アハハとセリカは笑う

そっちにも勇者としての手紙なら届くコトはあるようだ

ほぼ非難のな…勇者のくせに魔王の花嫁とかふざけるな!みたいなやつ

貰った手紙の中身を開けて2人で覗き込む

「えっーっと…」

そこに書いていたのは

「貴様の大事な仲間のローズは預かった

返してほしければ聖剣と引き換えだ

場所は…

……っふざけんなー!!!??」

ローズが誘拐されたらしく誘拐犯から身代物の要求が書かれていた

ローズが誘拐!?ロックは何やってんだよ!!?

「ナメやがって!」

手紙をぐちゃぐちゃに丸めて地面に叩きつける

「助けに行きましょう」

「…ちょっとまって」

地面に叩きつけた手紙を拾いぐちゃぐちゃに丸まったのを広げて犯人が指定した場所を確認する

「場所はそう遠くないみたいだな、行こうセリカ」

また手紙をぐちゃぐちゃに丸めたが今度は地面に叩きつけないでポケットに入れる

ポイ捨てはよくないからな、ゴミはゴミ箱へ!


犯人に呼び出された場所へ向かう途中でロックと合流した

ロックはちょっと目を離した隙にローズが誘拐されたと悔しがっていた

ひとりで助けに来たが、人数も多く強者揃いで手が出せず困っていたみたい

「心配するなロック、俺が来たからにはローズは必ず助かる」

「しかしレイ殿の彼女、相手はローズを人質にしてその聖剣を交換と言っているのでござろう?

その聖剣を渡したら拙者達は全滅でござるよ」

ローズも俺達も無傷で返すような奴らじゃない、有名な悪党だとロックは溜め息つく

「俺達には勝ち目がないって言うのか?

だから心配するなって言っただろ、何も無策で来たワケじゃねぇし

素直に聖剣を渡したら全滅ってコトくらい俺もわかってるよ」

俺はセリカに聖剣を渡し、セリカは俺に勇者の剣を渡した

「それじゃ行ってくるぜ」

勇者の剣を受け取った俺がそう言うとロックは慌てて止めてきた

「ストップでござる~!!馬鹿でござるか!?

レイ殿もいないのでござるよ!?

聖剣は出さずに正面から戦うとでも?勇者の剣なら絶対に勝てないでござるよ!」

「いーや、これを聖剣と嘘ついて渡そうとする」

聖剣がどんな剣なのか、意外にもその姿は知られていない

何よりどことなく勇者の剣と偶然にも似ていたりするんだ

でだ、勇者の剣は勇者にしか持つコトができない

これを差し出してもアイツらは触れるコトさえできないんだ

だから持ち逃げはできないし、ローズと同時に交換って時に聖剣を持ったセリカに敵を殲滅してもらう

ローズのコトは身体を張ってでも俺は守るが万が一怪我するコトがあっても回復魔法があるから問題はない

「OK?」

説明するとロックは不安はありつつもそれしか今はどうしようもないと頷く

聖剣の力があれば数秒で決着がつくよ

負けるコトは絶対にない

そして、俺の作戦はロックに話した通り上手くいって何ひとつ失敗なくローズを助けるコトができた

「ローズ、もう大丈夫だぜ」

ローズを縛っていた縄をほどくと

「うっ…うわーーーん!!セリくん!こわかったよぉおお……うぅっ…」

俺はローズの泣き叫ぶ声とずっと我慢していた恐怖への震えた身体で抱き付かれ、固まってしまった

「ローズ……ごめん……」

自然と零れる言葉

俺は勘違いをしていたコトに、はじめて気付かされる

泣き続けるローズを抱き締めて、俺はずっと落ち着いてくれるのを待った

ロックもローズを悲しませた自分の弱さに歯を食いしばって俯く

なにも…よくなんかない

俺は確かに、ローズを助けた…助けるコトができた

でも違う

この事件は俺が聖剣を持っていなかったら起きなかったコトだ

強くなったら何だってできる、助けられる守れる、それはウソじゃない

実際にそれは叶えられている

でも…それと同時にたくさんの危険もくっついてきているんだ

助けられる力があっても、助かったのはたまたまだ

もし誘拐されたローズの身に何かあったら…?

交換が生きたローズじゃなく、死体のローズだったら…?

周りの俺の大切な人達をこれからも人質に取られるコトはたくさん出て来るよ…

四六時中、全員と一緒にでもいるか?そんなコト不可能だ

寝ずに見張るってか?無理だろ

せっかく…手に入れた理想の強さは…

俺には重すぎたんだって…気付かされた

「ローズ…もう……」

大丈夫…だって、言えなかった

ローズを泣き止ます安心を与える言葉が思い付かない

「ごめん…こわい思いさせて…」

謝るコトしかできない

「セリカ…ローズを頼む、ロックも一緒に帰って」

俺はセリカから聖剣を受け取り、勇者の剣を渡した

ローズはセリカに抱き付いても泣き止むコトはなかった

そのうち泣き疲れて眠るまでは…

暫く恐い夢を見させてしまいそうだ

俺はローズの顔を見れなかった

「レイ殿の彼女…彼女殿は悪くないでござるよ

拙者が守れなかったのが…」

「ロックのせいじゃないよ、どう考えたって俺のせいだよ」

セリカ達を残して俺は聖剣と一緒に香月の城へと帰った


部屋で聖剣を眺めてはどうしようもない気持ちに溜め息つく

聖剣は俺の味方だった

この子自身だって俺を不幸にしたいとか少しも思ってない、触れたらわかる

俺の悲しい気持ちを感じ取って、一緒に悲しんでくれるような優しい奴だ

だけど…俺は聖剣を手にしてから何もかも上手く行かないコトばっかり多くなって…

「オマエとずっと一緒にいたいけど…俺には大きすぎる力だったかな」

結果的に周りを不幸にしてしまう強大な力…

全てを可能にするけど、全てを思い通りにはできない

何だって叶えられるハズなのに、何かを奪われる

「…もう、わかんないよ……」

わかるのは、自分が強くなったワケじゃないってコト

だから持ったその強い力を狙われる

俺が願ったのは俺自身の強さ…だったんだ

わかってる、わかってるのに俺は聖剣を手放したくなかった

強い力がじゃなくて、聖剣にも心があってちゃんと繋がっているから

俺の味方でいてくれる君を冷たく突き放すコトが嫌だと思ったんだ



-続く-

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