第80話『ある時はモデル、ある時は女優、ある時は歌手、さらにある時は…!』セリ編

「最近、レイ殿の彼女は溜息ばかり

何か悩み事でもござるのか?」

レストランで朝食中の時だった

いつものようにレイとロックとローズでテーブルを囲んでいると、俺の様子のおかしさにロックは問う

「ロックの嫌いな悩みだよ」

朝からピザとコーラのロックはリア充爆発とか言いながらも、恋愛話に興味津々なんだ

「モテるおなごは大変でござるね~、どのような事で悩んでるでござるか?」

聞きたいくせに、聞いたらボロカス言って来るのがいつものロック

でも言わなきゃもっとしつこい

恋バナ好き忍者

俺はあんまり自分の恋愛話はしないし、したくない派なんだケドな

「そうだなぁ

気になる人がいて、いつかはその人のコトを好きになるのかなって思ってた

でも、元恋人に未練があってそれは時間が解決するだろうって距離を置いていたんだ

でも、終わったと思った元恋人が突然現れて自分は別れたつまりはないって言うんだよな」

良い話じゃない、自分がクズって言ってるようなもんだから誰とも目を合わせず逸らす

「……で?」

「何その反応!?」

ロックは俺の悩みの何が悩みなのかと聞き返す

「レイ殿とイングヴェィ殿と香月殿の3人が恋人の彼女殿に今更1人、2人増えた所で何が問題でござる?」

椅子から転げ落ちた

「だからその3人の誰とも付き合ってねぇから俺!!?」

レイはいつも優しい、転げ落ちた俺の腕を引っ張って座らせてくれる

「って言うか、そんな何人とも付き合うなんてありえないだろ!?

最低だし!クズじゃん!?」

「えっ?別によいのでは?」

はい…?

はっ、もしかしてロックってハーレムに夢見たりしてるタイプなのか…?

「オレも別に香月さんと和彦さんなら何も問題ないと思うが」

えぇ!?レイまで!?どうしたんだ!?

俺に気を遣ってるのか…?いやいや、おかしいって

「よくない!レイだってイヤだろ?

セリカがイングヴェィとレイと2人一緒に付き合うってなったら」

「あぁ、もちろん」

よかった、一瞬レイもおかしいのかもって思った

「しかしセリとセリカは違う

香月さんも和彦さんも、そういう事は気にしないじゃないか

セリが誰を好きでも、誰のモノであろうと彼らにはどうでもいい事なんだ」

えっ?

「うむ、本人同士が駄目なら駄目だが良いなら良いではないか」

えっ?えっ?

「私も、話を聞いていたら人はそれぞれだもの

相手の方々が良いなら良いと思うわ」

ローズまで!?俺がおかしいの!?

レイもロックもローズも、悩むほどのコトじゃないと笑っている

心からいいじゃん別にって…

「拙者も自身であるならば、ひとりのロリ…おなごを愛し愛されたいでござる

彼女殿の気持ちはよくわかるでござるよ

しかし、彼氏側がそのような考えや感覚がないのであるなら

頑固に考えず、時には自分の価値観から抜け出す勇気もないと

誰も幸せになれないと思うでござるよ」

なんかロックがまともなコト言ってる…ちょっと見直した

いつも俺自身わかってるコトでもある…

人それぞれ、色んな考えや価値観があって

正解なんて人によって違う

俺は今回、自分のコトしか考えてなかったのかもしれない…

和彦も香月も、まともな感覚じゃない

「心配するなセリ、何かあったらオレが守ってやる」

レイは俺の頭を撫でてくれた

「……正直、香月さんも和彦さんも

本当にセリを任せて良いのか迷う所もあるが

それでも、セリが想うままに」

「レイ…」

「駄目だと思ったら、オレがついているからな」

「ありがとう…」

レイに抱きしめられて俺も抱きしめ返す

いつものやり取りに、いつものようにロックが舌打ちする

「ロックもローズも、ありがとう

なんかちょっと吹っ切れた気がする

……でもな、そういう問題じゃないんだよ君達……」

まぁ1つの悩みは軽くなった

それよりもっと大きな問題がある

「まだ何か?」

「仮に俺があの2人の恋人になったとしよう」

「うんうん」

みんなはわかっていない、アイツらがどんな奴らかって言うのを忘れているだけだ

「1人でも大変なのに、2人ってなったら

俺は死ぬんじゃないかって……」

「………あっ」

「…………確かに…」

ローズはわかっていないみたいだが、レイもロックも察して言葉が出なくなった

そんな俺にどう声をかけていいかわからないのだと

「そんなん…絶対…死ぬ…考えただけでも、なんか恐くなってきた」

「だ、だい……いや」

いつも心配ない大丈夫って言ってくれるレイですら俺から目を逸した!?

えぇ!レイ!……悲しいよ…見捨てないで

「セリ…そんな顔でオレを見るな

それについてはオレにはどうしようも…ないのだから」

わかってるケド…うぅ

なるべくレイと一緒にいよっと

性格的にも俺は恋人と四六時中一緒にいてベタベタするタイプじゃないし

「ま、まぁ…本当に死ぬわけではあるまい

大変だろうが、ファイトでござるよレイ殿の彼女!!」

いつも爆発爆発言ってるロックがあまりに可哀想になってきた俺に対して凄く優しくなった

とりあえず、不安はたくさんあるし、まだ何も決めてないけど

こうしてみんなで話して笑って、悩みを聞いてもらったりして

感謝しかない、前の世界ではなかったコト

仲間っていいな……


朝食を済ませて部屋に戻ると、なんか忘れている違和感に気付く

「結愛ちゃんがいない!?」

そうだ!そうなんだ

和彦と再会する前に結愛ちゃんは泣いてて…

大きな悩みがあったのとずっと傍にいる感覚があったから、気付くのが遅かった

傍にいる感覚があるなら結愛ちゃんはセリカの所か

迎えに行こう

そして、どうして泣いていたのかも

聞きたいが、話せないんだった…

そうして俺は結愛ちゃんを迎えにセリカの、魔王城へと向かった

セリカの部屋を訪ねると結愛ちゃんは中庭で散歩しているハズと聞いた

そういえば、結愛ちゃんは散歩が趣味で花や植物、動物や人間を見るのが好きだった

みんなが幸せである姿を見るのが何よりの楽しみなんだって顔をしていたよ

「わかった、中庭に行ってみるよ」

「行くのはいいけど、優しくしてあげてね

でも優しくし過ぎるのはダメよ」

それ優しくしていいのかダメなのかわからんぞセリカ…

とにかく、結愛ちゃんに会って…と考えながら部屋から出ようとドアを開けると、いきなり土下座された

「セリカ様!頼んます!!一生のお願い!!」

な、なんだ!?

訪ねてきたキルラと鉢合わせ、いきなり頭を下げられたコトにビックリしていると

セリカはキルラのお願いの意味がわかっているみたいで即答する

「い・や(はぁと)」

最高の笑顔で断ると顔を上げたキルラは胸を打たれ鼻血を出しながら後ろに倒れた

なんだコイツ…

「いつもキルラに冷たいセリカがそんな笑顔になるなんて…」

「キルラに対してはこれが1番効果があるって気付いたの」

人間の女が好きなキルラはセリカを恋愛対象としなくても、人間の女と言うステータスだけで弱いらしい

間抜けだな…

「ふーん、それでキルラは何をお願いしに来たんだ?」

「それがね、キルラはルチアって人間のモデルさんの大ファンらしくて

今夜ディナーコンサートがあるのよ」

「モデルなのにコンサート?」

「最近は歌手や女優としても活躍してるみたいだよ、私はよく知らないケド

それで抽選が当たりキルラは招待されたの

ただし、その条件がカップルであるコト」

なるほど、キルラは今彼女がいないくせにカップル限定のディナーコンサートに応募して当たっちゃったケド、彼女がいないから行けないってコトか

「それでセリカにお願いか」

「私はイヤだもん、フリだとしてもキルラの彼女なんて、ム・リ」

フリなんだから別にいいのでは…と思うが、これも俺とセリカの男と女の感覚の違いか?

「はっ!?もう時間がない!!」

鼻血で倒れていたキルラは物凄い勢いで飛び起き、俺の手を掴む

「この際、女に見えれば誰でもいい!セリ様、一生のお願い!!

オレ様と一緒にルチアのディナーコンサートに行って!!」

ガチで泣きそうな面でお願いされると…こ、断りにくい……

「キルラ可哀想…」

そう思うならセリカが付き合ってやれば!?

可哀想、その感情は俺にもセリカにもある

でも、セリカは行きたくない

じゃあ俺が行くしかないってコトか

「…わかった、わかったよ」

「おっしゃあああああああ!!!!!!!」

キルラは城中に響き渡る声とガッツポーズでうるさい

「今度、パンケーキ奢れよな」

「そんなんでいいの!?」

とりあえず、このまま行くのもあれだからセリカの服を借りてオシャレに、ウィッグで髪の長さもセリカと同じにする

完璧、鏡の前に立てば誰も俺とは気付かず、みんな俺を女の子のセリカとして見るハズ

「さ、行くぞキルラ」

「……………。」

「…なんだよ?」

「……いやぁ…セリカ様本人かって思うほど綺麗なんすけどね~…

それでも男のセリ様は抱けないかなって」

「オマエになんか抱かれたくないわ!!」

「セリカ様ならイケる!!」

「死ね!!」

誰の為に協力してやってると思ってんだよ

まっ、キルラが人間の場所に行くんだ

俺が同行して見張ってないと何するかわからねぇ

コイツは確かに人間の女がタイプで、人間の女しか好きになれない

だが、キルラは魔族だ

人間同士みたいな普通の恋愛をするワケじゃない

惚れた女は攫って自分の女にする

もちろん、女の子の意思は関係ない

そして、手加減なんて知らない奴だから愛してるうちに女の子は死んでしまう

キルラは殺してる自覚もない、またおもちゃが壊れた程度にしか思わないんだ

今回もそのルチアってモデルをお持ち帰りするかもしれない

俺も四六時中キルラの監視ができるワケじゃないが、目に見えてる範囲では阻止できるならしよう

「いってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる

また暫く結愛ちゃんのコトは頼んだよ」

セリカに見送られて、俺はキルラと一緒に城を出た


ルチアのディナーコンサートが開かれるお店には時間ちょうどに着くコトが出来た

すでに1組ずつに用意されているテーブルには他のカップルが席に着いていて

見る限りでは思った通りみんな人間のカップルばかりだった

「あの~…その方は…」

隣のテーブルにいた女性が不安げに小声で俺に言う

何の変装もしていない半分人型半分鳥型の魔族、キルラ

「彼はただのコスプレです」

「そうですよね、今流行りですもんね、魔族のコスプレ」

ホッと胸を撫で下ろし、他のテーブルで聞き耳を立てていた人達もコスプレを信じた

えぇ!?適当に言っただけなのに、みんな簡単に信じて安心するって大丈夫か!?

この街どんだけ平和ボケてんだ!?

魔族のコスプレが流行りってのも初耳だぞ!?

天使の間で悪魔のコスプレが流行ってるのは聞いたが

ま、まぁ…俺がいるから、万が一なんかあっても大丈夫か

キルラが暴れても止められるし、人間に怪我させられても夢?って思うくらい回復魔法で一瞬に治せる

数分後、甘ったるい香りがしたと同時にキルラとこの場にいるファン達が待ち望んでいたルチアが登場した

「みーんなー!こーんーばーんーは~~~?」

キャラクターショーに出てきそうなお姉さんみたいな挨拶だな

ルチアは笑顔で挨拶した後、マイクをこちら側に向ける

「「「こーんーばーんーはああああああ!!!!」」」

元気良くキルラとファン達が挨拶をした

「ルチアちゃんカワイイ~!」

「細ーい、実物やばいよー!」

とりあえずなんでも可愛いって言ってしまう彼女達

「うはー、足首にエロさを感じる

ルチアは誰かさんと違って、セクシー!!」

「…あ?」

「ごめんって、セリ様~」

誰かさんって誰だろうな、モデルと比べたらセリカなんて小学生だろ

しかし、モデルを実物で見るのははじめてだ

ルチアはキルラの言う通りセクシーで、彼女達の言う通り可愛いと思う

好みかどうかとの話になれば、好みではないからとくに何も感想はない

それにしても、この鼻が曲がるような甘ったるい香りはなんとかならないのか

演出にしてもやり過ぎ感が…

「今日はあたしの為に、皆ありがとう

ファンの皆はあたしの大切な…」

ルチアの言葉にファンの人達はいきなり感動で涙を流している

まだ始まったばかりなのにクライマックスみたいになってる!?

……い、居辛い…

なんかファンじゃないのに来ちゃってゴメンなさいってなる

ルチアに会いたかったファンは他にもたくさんいるハズなのに、付き添いとはいえなんだか悪い気に

「あたしの大切な獲物です」

………ん?

クライマックス並にルチア自身も涙を浮かべてファンへの愛を語る途中で耳を疑う

顔を上げてルチアのほうを見ると当たり前のようにしているから俺の空耳かと思っていたら

「……えっ?」

「獲物って言った?」

ざわざわと周りも静かに騒ぎ出す

聞き間違えじゃなかったのか?

「おいキルラ、あのルチアって子はファンを獲物とか言っちゃう変わった芸風をするのか?」

「えー?なにがー?」

デレデレと鼻の下を伸ばしているキルラのだらしなさに隣に座っているのが恥ずかしくなってくる

コイツはダメだ

「あれー?皆の反応がいつもと違うわー?」

ルチアは笑顔を崩さないまま右手を上げる

すると、俺達を逃がさないと囲むように会場の出入口から数人の悪魔が現れる

「きゃー!?」

「なんなの!?悪魔!?」

席から立ち上がりパニックになるファン達

一体どういうコトだ!?

「みーんなー?静かにー

あたしの魔術を封じ込めてる人がいるみたいだから、正直に名乗り出てくれる?」

現れた悪魔達の威嚇に怯えながらもファン達は一旦静かになる

「…封じ込める?」

「私、魔法なんて使えないわ」

「僕も…」

自分じゃないとみんながみんな首を横に振る、キルラも

「オレ様じゃないっすよ、この程度の呪いは効かないっすけど無効には出来ないですし」

……えっ、あっ、もしかして俺?

ってかキルラ気付いてたんなら言えよ!

もしかして自分かもと思い始めていると、ルチアにはわかるのか真っ直ぐに俺を見ている

「貴女ねぇ、あたしの魔術を邪魔してるのは」

「…だったら、アンタはなんなんだ?」

「あたし?あたしは普通のモデルで歌手で女優で」

普通のモデルも歌手も女優も悪魔と知り合いなんてあるか?

「魔女よー」

ルチアは隠すコトなく笑って話す

それはつまり、魔術を無効にしている俺を消してやり直す気があるからなのかもしれない

魔女か…はじめて見たな

「あたしは2年前に大悪魔と契約してトップモデルになったの」

「ズルしたのか」

「うふふ、現実を知らないお嬢さんねぇ

人気のあるモデルも歌手も俳優もみーんな、その地位は悪魔の力で手に入れてるわ!

実力で有名になんてなれるわけない、そんな甘い世界じゃないって!!」

捕まえて、とルチアが合図すると俺はあっという間に悪魔に押さえ付けられる

おいキルラ!ポカーンと見てないで助けろよ!?

「悪い、俺はその世界のコトを知らなかったからズルなんて言って

アンタらにとってそれが当たり前のコトなら、ズルとは言えないのかもしれない」

「……あら?一般人にしては理解あるのねぇ」

「それはいい、だけど悪魔を数人集めて魔術を使ってファンに何をしようって言うんだ?」

うっふっふとルチアは楽しげに俺の傍まで近付く

そして隣にいたキルラにキスをした

しかも熱烈なやつ!ブチューっと…

「ひどい…」

俺の言葉じゃない

カップル参加が条件だから、他のファン達が俺の彼氏だと思っているキルラにルチアがキスしたコトに引いた

キルラ本人はルチアのキスに大喜びしてだらしない顔がさらにだらしなくなっている

「……彼女のお嬢さん、悔しい?どんな気持ち?悲しい?」

ルチアは俺を見下ろし優越感に浸る

「はっ?」アホか

「彼氏は幸せでしょ、あたしにキスされて

一般人の女と付き合うより、憧れのトップモデルと付き合った方が2倍嬉しい」

あまりに自信満々に言われ、そうかも…とか思ってしまいそうになる

好きな人が決まらないで、迷ってる俺の周りは良いじゃんとか言われて

でも、俺はそんなの絶対よくないって思ってて

なのに、もしかして俺のほうがおかしいのかなって…今も思ってしまう

ルチアのやってるコトはおかしいハズなのに、そう思ってるのは俺だけでルチアは正しいコトをしているのか…

「最低ー!」

「ルチアちゃんがそんな人と思わなかった!」

「他人の彼氏横取りするなんて、女として最低よ!」

「彼女さん可哀想」

「性悪女と付き合うより、今カノと一緒にいる方が100倍幸せ!!」

女の敵!と言わんばかりに一致団結してファンの女の子達はルチアに嫌悪感を示す

「……だ、だよね!?よかった!!」

女の子達の言葉に俺は自分の迷いを断ち切る

やっぱり俺は間違ってなんかいない、おかしくなんかないんだ!

「あたしはー、他人の男を奪うのが趣味でぇ」

またルチアが合図すると、悪魔達に女の子達を捕らえさせ口を塞がせた

「男があたし以外を見ているのが気に入らないし

彼氏を奪われた時の彼女の顔が…さいっっっっっこうに面白い」

キルラから離れルチアは他の男へと近付く

その後のコトを察した彼女がたくさんの涙を流す

でも、彼氏がルチアから後退りして拒否してた、良い彼氏だな

「この甘い香りはあたしへ逆らわないようにする為の魔術だったのに」

ずっと笑っていたルチアは一気に怒りをあらわにする

今まで男に拒否されたコトがないのか?プライドが傷付けられ震えているようだ

魔術のお陰で無敗と言うワケか

「許せない…」

足を止め怒りに震えたルチアはまた俺のほうへと戻ってはナイフを取り出し振り上げる

「貴女さえいなければ!今回も上手くいったのに……!!」

こ、こぇぇ!?さっきまでの可愛い笑顔はウソかのように悪魔の形相で俺を睨み付ける

この顔は大悪魔と契約したからなのか、それとも元々のこの女の顔なのか…

「二度と彼氏に振り向いてもらえないような顔にしてやるよぉ!」

ルチアはナイフで俺の顔をズタズタに切り裂いていく

会場内はその光景に悲鳴ばかり響いて恐怖で凍る

正気かこの女…!?

俺は男だが、今は女と偽りここにいる

その女の子の顔を躊躇いもなく容赦なくグチャグチャにエグるなんて

殺しはしない、殺すより二度と見れぬ顔にして生かしたほうが残酷だとわかってやっているんだ

「いやぁ…やめてぇ……」

「やりすぎだぞ!ルチアちゃん!」

「女の子にそんな事…信じられない……」

女の子達は泣きわめき、男が俺を庇うような言葉を口にすれば、逆効果でしかなくルチアの腕に力が篭もる

痛みは感じないが、怪我を治すのは控えた

ここで回復魔法を使ったら次に何をするかわかったもんじゃない

とりあえずこの女の気が済むまで俺は大人しくしているコトにした

悪魔に押さえ付けられて見動き取れないし

それより、キルラの奴…

俺の命が危ないワケじゃないから助けもしねぇ

むしろ、なんで回復魔法使わねぇの?って何も考えてない顔で見てる

「はあ…はあ…どう?これでも彼女を愛せる?」

気が済んだのかルチアは手を止めてキルラのほうを見る

「えっ?最初から愛してねぇし、オレ様の好きな人はルチアちゃんのみ!!」

正直なキルラ…なんかだんだんムカついてきた

ルチア以外にも好きな女優やアイドルたくさんいんだろうが

誰のせいでこんな目に合ってると思ってんだよ

オマエが一生のお願いで俺を付き合わせたんだろうが

「あっはははは!?聞いた!?貴女、最初から遊びだったみたいよぉ

可哀想ー、それはそうよねー

トップモデルのあたしと小学生みたいな体型の貴女とじゃ勝負にならないってねー!」

いいよいいよ、お似合いだよ

それでいいからさっさと消えろ

キルラは後でシバく

「今日も最高よー楽しかったわ~

それでは、さよーなら~」

彼氏の横取りを成功したと思い込んだルチアは機嫌を良くしてキルラと一緒に会場を後にする

「あっあたしの下僕達、後始末は任せたわぁ」

閉まる扉の前にその一言を残し消えて行く

魔術を無効化したコトによって、自分の悪行を知った俺達を生かして返すワケがなかった

悪魔達は様々な武器を手に持ち距離を詰め出す

「き、きゃー!!」

「殺される!!」

「神様助けてください!」

会場内は再びパニックに陥り、みんな出入口へと走る

みんながみんな、どうやら魔法も剣も使えない普通の人間達のようで

このピンチを乗り越えるには厳しい条件だ

「貴女大丈夫!?」

「可哀想に、綺麗な顔が…」

「ショックで動けないのだろう、手を貸そう

一緒に逃げるんだ」

カップルの何人かが俺を気に掛け手を貸してくれる

別にショックなんじゃない…どうやってみんなを逃がすかって考えていただけで

「やだ!扉が開かない!?」

「僕らは閉じ込められたのか!?」

扉が開かないコトは予想できていたし

「う、うわー!?……ぁっ」

悪魔の1人が男の腹に剣を突き刺す

けれど、その剣は俺が受けるコトにした

この程度の剣で腹に刺されたくらいじゃ俺は死んだりしないから

「君!どうして僕を庇って」

「やめてー!たくさん血が出てるわ!」

悪魔は俺の腹に刺した剣を上に引き裂く

腹から胸を通って肩までバッサリ

「……剣を抜いてくれて、ありがとう」

その瞬間、俺は顔はもちろん全身の傷を一瞬で回復する

剣が刺さったままだとその部分の穴は塞がらない、だから抜いてくれると助かるよ

身体の傷は治せても破かれた服は治せない為に胸に入れていたパットが落ちてしまう

女じゃないコトがバレたからって気にしているヒマはない

ついでにウィッグも外してしまう

「えっ……」

「回復魔法…と、その顔立ち」

「もしかして…」

みんなが俺の姿に驚きざわつく

「勇者様?」

「セリ様よ、以前に私はお目にかかった事がありますの」

「似ているとは思っていたが、騎士のレイ様と一緒じゃないから…」

勇者とわかって安堵してる人達も中にはいるが、勇者が魔族以外には力が通用しないと言うコトは知らない

いつもレイといてレイのお陰でやってきていたから

「セリ様がレイ様以外とカップル…?」

何回も言ってるが、レイとカップルじゃないぞ!?

「違うわよ

セリ様にはルチアが怪しいとわかっていて、潜り込んでいた」

わかってないわかってない

「そっか、レイ様と一緒だとバレちゃうからコスプレ男の彼女のフリをしていたのね」

フリなのは合ってるが…

「さすが勇者様!!」

なんか勝手に納得して盛り上がっている

悪魔達は少しの間だけ空気を読んで襲って来なかったが、すぐに自分達の役目を思い出してまた襲い掛かってくる

全員を相手にするのはやはり厳しかった

他の人に手を出そうとすれば、炎魔法で退ける

致命傷を与えるコトは出来ないから少しの間だけで、炎で守り切れず怪我を負った人にはすぐに回復魔法を

でも、こんなの魔力は尽きなくても体力が尽きたら終わりだ

「セリ様!扉が開きません!」

そういやそんなコト言っていたな

鍵が掛かっていると言うワケじゃない

呪いか、魔術なら俺が触れれば開くハズ

「わかった、みんな少しの間耐えてくれるか」

扉のほうに走り出すと気付いた悪魔達が道を塞ぐ

厳しいが、俺だって少しずつ魔族以外を相手に強くなっているんだ

魔女が従えるコトが出来る下級悪魔ならなんとか…

炎を使って悪魔達を跳ね除けながら、扉へとタッチする

「開いた!みんな早く、今のうちに」

扉の近くにいた人達をはじめ、悪魔に追われ捕まる人達を助け逃していく

「あとひとりか…」

女の子が俺の隣を通り過ぎるのを目で追った時、背中から槍を突き刺され床へと押し倒される

くそ、油断した…

そして悪魔達もバカじゃない

俺から武器を抜かず、逃さないようにいくつもの槍で俺の身体を床に縫い付ける

「勇者様…!?」

最後の女の子が俺の身を心配し振り返る

「バカ…早く行け」

見動きできなくなった俺から悪魔の1人が離れ女の子を捕まえようとした

「おいおい、俺はまだ死んでねぇぞ…

生かしてたら殺すぞ……」

悪魔の足を掴み行かせない

「ひっ…セリ様……」

あぁ…ヤバイ……いくらそんな簡単に死なないからってこの状況をどうやって抜け出すんだ?

レイもいないのに……何やってんだろ

助けたい気分だった

みんな…俺の為に怒ってくれたし(彼女のフリしてただけなのに)

なんの力もないのに、俺のコトを見捨てず助けようとしてくれたし

……だから

「俺は死なない…」

その言葉に女の子は涙を流し頷き逃げてくれた

人間を逃してしまった悪魔は怒り俺の顔を蹴ってから踏み付ける

痛くないケド…鼻血とかめっちゃ出ちゃったし

セリカの為になるべく怪我しないようにしてたケド、ゴメン……

女の子なんだからセリカは、怪我しちゃいけないのに…

回復魔法が使えない

痛みは感じなくても、体力の消耗が激し過ぎたんだ

腕すら上がらない

無限に使える魔力、レイやロック達に頼りきった結果

俺は自分の限界を知らなかった

この程度で動けなくなるなら、魔王が人間でも簡単に負けちまうよ

俺ってアホだな…

「くっくっく」

変な笑い声が聞こえる

「下がれ下がれ虫ケラ共」

悪魔達はその声が聞こえると素直に一歩下がり頭も下げる

槍は刺さったままですけど…

「このような所で勇者の力を手に入れられるとはな」

変な笑い声がする奴は俺の頭を掴み上げる

「……間違いない、この顔は勇者」

ちょっと助けが来たとか期待したのにダメだ

見た目、めっちゃ大悪魔

きっと大悪魔に違いない

「我は大悪魔シン」

ほらー!?わかってたー!

新キャラだけど、シンだけに…

おもしろ

「くっくっく、勇者よ

我々悪魔に力を貸してもらおう

憎き魔王を倒し、神と天使共を皆殺しにし、悪魔の世界をつくろうぞ」

「イヤだね…っ」

拒否するとシンは俺の口に指を突っ込み舌を抜く

「っ……!」

口いっぱいに溢れる血に息が出来ない

吐き出して、なんとか呼吸を取り戻すが

何すんだ、いきなり!?

「殺しはしない、勇者が我の頼みを聞くまではいたぶるが…」

「あっそ、なら俺は永遠にウンとは言わねぇな」

体力は尽きているが、さすがに舌は無理してでも再生させる

「ほぉ…回復魔法か、そしてそなたは男…」

「は?勇者は男って決まってんだろ」

俺の勇者は何回生まれ変わっても絶対男だって話だぞ

「勇者には女もいるとの話」

セリカのコトか、セリカは勇者じゃないが

俺だから勇者の力を持っているってだけ

「その女を捕らえて、我らに力を貸すと言うまで辱めるだけである」

「……………。」

「嫌か?嫌ならば、力を貸せ」

コイツ、殺す…

が、とりあえず笑っとくか、面白いから

「ハハハ、バカだなアンタ

セリカが何処にいるか教えてやろうか?

アンタらが手出し出来ない魔王の所だよ

捕まえるなんて出来なくて残念だよな」

「ほう」

「なんで俺がセリカを魔王の所へ送ったかわかるか?

オマエらみたいな奴から守る為だよ」

今決めた、それ

そう、俺は香月が好きだからセリカを傍に置いたワケじゃない

変な奴にたくさん狙われて危険

だからってわかってたからだ!!

今、今作った理由だけど…

うん…俺は別に香月のコトなんて……

和彦がいるし、俺には和彦が…

「なめるな小僧」

髪を掴まれ、また生意気だと舌を抜かれそのまま床へと顔を叩き付けられる

「人間の魔王如きに我ら悪魔が遅れを取るなどありえん

ただ勇者の力で滅ぼすのみ、人間の魔王の手から女ひとり奪うなど簡単な事と思い知らせてやろう!」

何度も何度も

痛くないって…よくないんだな

だって、無理をしてしまうから

セリカを…守らないと…もっと、強くならなきゃ

こんな奴に利用されない為に、こんな奴に穢されない為に…

だんだんと意識が遠退いていく

「……落ちたか、虫ケラ共よ

勇者を連れて行け、殺しはするな」

足を掴まれ引きずられる感覚を最後に俺の意識は途切れてしまった



それからいつまで意識を失っていたかはわからないが、目を覚ました時は思っていたのと違う光景にまだ夢を見てるのかと思う

「セリ…!よかった、やっと目を覚ましたんだな」

「……あれ、またレイ…?」

見覚えのある部屋…ここは

「何度も心配かけさせて」

起き上がろうとする俺をレイは抱き締めて押し倒す

「オレに黙って行動するな

ひとりになるな、俺以外を信用するな…」

「…ゴメン…レイ……」

大丈夫って思ってた…

そんなんばっかで俺は全然ダメでレイに心配ばかりかけて

強く抱き締められて、どれだけレイに心配かけたか

どれだけ悲しい思いをさせたか

それを償うようにレイの背中に手を回す

今回もレイに助けてもらったんだな…

「セリ」

レイは俺の顔を覗き込み、俺の顔を両手で覆う

「あのぉ~」

すると、気付かなかったがレイ以外にも部屋には何人かいて

「続きは私達が出て行った後に」

何が!?何の続き!?

何故か顔を赤らめる人々、霞む目に慣れてくると思い出す

ここにいる人達はルチアのディナーコンサートにいたカップル

「あっ!みんな、無事だったのか!?」

レイを押し退けてみんなの方を向く

「もちろん、セリ様が命懸けで逃してくれましたから」

「皆さん無事です」

「帰った人もいますが、皆セリ様を心配してましたよ」

そっか…みんな無事だったんだ

よかった……

ホッとしていると、みんな微笑ましく俺を見る

「うふふ、やっぱりセリ様はレイ様がお似合いです」

「噂通りのラブラブで」

「フリじゃない本物の彼氏との仲の良さと言ったら」

ガーン!またみんなに誤解されてる!?

「ち、ちが…!レイは彼氏じゃなくて…」

「ツンデレですか~」

「照れ隠しなんて可愛い」

な、なんでいつもこうなるんだ…(自分の行いが原因というのは頭にない)

「それでは私達は帰りますので、続きをどうぞごゆっくり」

さっきから続きってなんの!?

夢の続きを見るのに二度寝しろと?

「勇者様、どうもありがとうございました

また何処かでお会いできたら」

そう言ってみんなは笑顔で部屋から出て行った

騒がしかった部屋は静かになりレイとふたりっきり

「……なぁ、続きってなんの?」

「ハハ、なんの事だろうな」

レイは笑ってるからわかってるのかわかってないのか、わからん奴だ

夜になって少し涼しくなった風をレイは窓を閉めて塞ぐ

あの大悪魔シン…との会話を思い出すと不安になる

セリカに何かあれば俺はすぐにわかるが…今は大丈夫でも、この先は

「レイ、今回も助けてくれてありがとう」

この先は…わからない

しかし、レイが助けてくれたってコトはレイならシンに勝てる

大丈夫、それなら香月も負けはしない

「あぁその事なんだが、今回助けたのはオレじゃない」

「えっ?」

レイじゃない?

「香月さんだ、オレが助けに駆け付けるより先に」

香月…が?

その名を聞いて、心が揺れる

どうした、俺…なんなんだこの気持ち

「香月が、あの大悪魔も倒したのか?」

「大悪魔?いいや、セリを捕らえていたのは下級悪魔だったから

オレでも苦なく助けられる奴らだったが、香月さんの方がひと足速かっただけさ」

大悪魔…アホなの?

下級悪魔に任せてたらこうなるって…わかるだろ!?

まぁ、アイツがマヌケなのは間違いないが

香月もレイも対峙してないってコトは奴の強さがどれだけのものかはわからないな

とりあえず俺じゃ到底敵う相手じゃない

もっと…強くならなきゃ、シンを倒してセリカを守らなきゃ……

セリカは俺が守ってやらないと…

「そっか…香月が……」

「セリ、何処へ行くんだい?」

ベッドから出てドアへ向かう俺にレイは聞く

「ここ…魔王城なんだろ

助けてもらっておいて香月にお礼言わないなんて、よくないし」

「そうかい」

レイはとくに俺を止めるコトはしなかった


できるコトなら暫くは香月を避けていたかった

この気持ちが決まるまで…

「香月…」

部屋を訪ねてドアを開ける

「もう動いてもよろしいのですか」

いつもの香月、変わらないハズなのに…

なんかやっぱり胸がざわつく

キュッとなって苦しい

なんなんだ俺は

「うん…大丈夫、怪我なんて回復魔法のある俺に関係ないし

体力はたくさん寝たから大丈夫」

とりあえず、悟られたくないから笑って普段通り振る舞う

「助けてくれたの香月だって聞いた、ありがとな」

「ええ」

「部下のキルラのせいでって責任感じてとか?

それなら気にすんなよ、アイツは今度飽きるまで殴るし」

「お好きにどうぞ」

手加減なしで殴るから死んだら悪いな

………ヤバイ、会話が途切れた

何話していいかわかんねぇ

いつもセリカなら一方的に喋るコトができるのに…

俺、緊張してんのかな

「…じゃ、あ…そろそろ戻るよ

レイが待ってるから、夜遅くに訪ねてすまん

朝でもよかったかも」

アハハと俺はドアを開けるが、何故か閉じた

「また…呪いが…!?」

と言うワケではなかった

香月が俺の後ろから手を伸ばしてドアを締めただけ

「えっ何?」

恐くて後ろを振り向けないよ……

淡い灯りで出来る香月の影が俺を覆っている

「ひとりで、夜に、武器もなしに、私の部屋に来るとは」

「いや…間違えた…ここに来たの間違えただけ!」

香月のほうに向かされて、逃げられないようドアに追い詰められてる

「わかって訪ねて来たのか、わかっていないと言うならわからせてあげましょうか」

「待って!?」

ダメと手を前に出す俺の両腕を香月は掴みドアへと押し付ける

な、なんで…勇者の俺が香月に押されている…?

いつも跳ね除けるのに…まさか、勇者の力を失ったんじゃ……

どうして…今まで、香月のコト、見ようとしなかった

ずっと和彦のコトが忘れられなくて、背を向けてばかりだった

そして、ウソみたいに和彦に再会した途端…

嬉しいのと同時に香月のコトが頭に過ぎった

このまま和彦とよりを戻してもいいのか…とさえ、思ってしまった……

別に好きじゃないのに…と、いつもそう思いたかっただけで逃げて

だって…魔王は悪い奴だもん

人間の敵で、勇者の倒すべき相手

「…ダメ…困る……」

香月の顔が近付くと顔が熱くなる

おかしいくらい、変だ

「だって、俺!恋人がいるから…!」

勇者の力で香月の口元を手で抑えて阻止する

勇者の力を失っていないとわかっているのに、一層自分が最低で嫌になった

「だから…香月とこういうコトできない…」

「恋人?」

聞き返したと思って、説明しようと口を開きかけたら不意打ちでキスされる

「か、香月…!!」

しまった、油断した

「それが何か?」

ずっこけた

またソレ!?何和彦と似たようなコト言ってんだよ

いや…香月は前からそんな奴だった

香月には感情がないから、何故恋人がいたら問題なのかもわからないし

関係ないし興味もない

和彦はズレてても一応人間らしい感情はあるから、同じや似てるとは言えないが

結果的にはあまり変わらない

「何?って…

だって、浮気も二股も傷付くじゃん…

嫌だよ、嫌なコトだよ」

俺は和彦の浮気癖にいつも嫌な思いしてるからよくわかってる

そんな嫌な思いを俺が誰かにさせるなんて、絶対イヤなんだ

「香月にはわからないコトかも知らねぇケド、こういうのはいけないコトだよ

誰かが傷付くコトなんて…」

香月にはわからないコト…

和彦にはどうでもいいコト…

2人にはわからなくても、どうでもよくても俺は…………ん?

あれ?…これ、一体誰が傷付くんだ?

和彦の浮気性に俺が傷付くのは置いておいて

俺が和彦の恋人、香月と恋人になるとして…一体誰が困るってんだ?

ちょっと待て…俺が相手にしてるのは、ハッキリ言ってまともじゃない

レイとロックやローズと話してた時のコトを思い出す

人それぞれ、本人がよければいいって……

いやいやいやいや!でも…やっぱおかしいって

「私が…貴方を傷付ける事なんて、ありません……」

故意にはね、でも無意識に傷付けられてるコトはたくさんありますケドね

香月からの視線が逸らせない

力が出ない…

おかしいって思ってるくせに

その唇をはじめて、目を閉じて自分の意思で許してしまった

和彦とは違うキスに…

やっぱり良心が痛むんだが??

「へぇ、セリくんが浮気って珍しい」

「はっ!?和彦!?」

話しかけられるまで全然気配を感じなかった

それは俺だけじゃなく香月も気付けなかったらしく、和彦を睨み付けている

あの香月が気付かないなんて…やっぱ和彦は人間辞めてるね、強さが

「違うんだ!和彦!別に浮気とかじゃなくて」

「言い訳するのはこの口かい?」

ハハっと和彦は別に怒ってる様子もなく笑って俺の顎を掴み口を塞ぐ

修羅場じゃないですか…これ?

「な…んで、和彦がここに」

俺はウソなんかついてない

浮気じゃない、何故なら本気だからだ(開き直り)

「セリくんを訪ねたら、ネクストって天使がここにいるって教えてくれたよ」

「あのバカ…」

「そんな事より、オレは怒っちゃいないよ」

俺を掴んでいる和彦の手を香月が掴む

「あのレイって彼氏以外にもいたとはね」

「だからレイは違うって何度言えば」

「あんたが魔王だっけ?ふーん、まっオレはあんたと殺り合う気はない」

あっなんか俺今のハブられてるわ…

和彦と香月の睨み合いに入っていけない

「そうして頂けるとありがたい

貴方と殺り合えば、さすがの私も無傷では済まないでしょう」

お互い殺し合わないって言ってるくせに酷い殺気を感じますよ~…(小声)

「ほらやっぱりダメだろ、俺の言った通り

2人と付き合うなんて、オマエらが喧嘩すると世界破滅するっての

だから、俺はいつかどっちかに決めるから」

恐すぎて倒れそうだが、止められるの俺しかいないしってコトで香月と和彦の間に割って入る

「ん?セリくん、オレは別に構わないさ

魔王はセリくんを独り占めにするつもりはないみたいだから」

「はっ?」

「えぇ、そこの人間がセリを私から奪う気はないのなら、殺し合う事はありません」

「えぇ?なんだそれ?」

めっちゃくちゃ殺気立ててお互い嫌いのオーラ出してて、隙あれば殺すみたいな感じなのに!?

「つまり、セリくんは今夜2人の相手をするって事」

和彦はニヤリと楽しげに笑う

そこまで言われて察した

俺は和彦の恋人であり、香月の恋人である

しかも、お互いそれを良しとしていて…

「……無理無理無理無理!?バッカじゃねぇーの!?

そんなん無理に決まってんだろ!?死ぬぞ!?」

本気で泣いた

2人の恋人になるコトはもういい

俺がダメって言っても思ってても、コイツらには関係ねぇしな

それに…俺はどっちも好きだから、香月と和彦がいいなら……

自分の価値観なんて捨ててやるよ

どうせ、コイツらから逃げられるワケない敵いっこないんだ

「それに香月とははじめてだから…それをいきなり……無理…」

「私ははじめてではありませんが、以前にも貴方と」

「何百年前の話!?俺に記憶ないの知ってるだろ!?」

とにかく、和彦ひとりでもヤバイのに無理

「助け…」

逃げようとしてドアに向かうと和彦に襟を掴まれて引き戻される

「助けてー!レイー!?ヤダヤダ…」

「泣かれると燃えるね」

「うざっオマエ」

ドアが遠退いたと諦め死のうと思った時、救いの手が差し伸べられた

ドアが開いてレイが助けに来てくれたんだ

「大丈夫かいセリ!?」

「あっ、レイ!」

レイの登場に少し冷めた和彦が俺から手を離した隙にレイが俺を引っ張って助けてくれる

「セリの泣く声が聞こえて」

「どんだけ地獄耳なんだよ、新しい彼氏」

レイに助けてもらって安心した俺は自然と笑み溢れる

「もう心配ない、一緒に寝ような」

「うん…!」

レイは優しい、チョー好き、大好きな大親友

「オレにはあんな笑顔見せないのに…

おいレイって彼氏、あんたもセリくんの彼氏だって言うなら混ざれば?」

「や・め・ろ」

和彦の言葉に耳を貸さずレイは俺を連れてゲストルームへと帰る

レイは混ざらないよ

だって彼氏じゃないもん

レイは俺の大親友だから、それがとっても嬉しいんだ

「なっ、レイ」

ニコッと笑うとレイもいつもの爽やかな笑顔をくれる

まだ香月と和彦のコト…本当にこれでいいのかわからないケド

最近の落ち込むモヤモヤはなくなった気がする

不安も心配もないワケじゃない

でも…なんか…幸せって思っていたりもする

だって、愛して…いるから


ゲストルームに戻ると、腕を組んで怒っているセリカが待っていた

「ちょっとセリくん!何時だと思ってるの!?」

「えっ…朝の…4時半です…」

自然と正座してしまう

セリカから見下され、オレは見上げたり俯いたり

「そう!そうよ、朝なのよ!

セリくんが起きてると私は眠れない!」

あんだけ寝たのに、また眠いもんね!?

「はい…すみません…」

寝てもやっぱりこの時間はとても眠いです

「それからこの際だから言っとくケド、和彦!アイツの鬼畜さと言ったら…

女の子なのよ私!?女の子なのに…

ある程度の覚悟はあるし、何も言わないつもりだったケド

あれはダメ、セリくんは私でもある自覚を忘れないで!」

セリカは顔を真っ赤にして泣いている

俺も思い出して顔が熱くなって泣く

「はい…すみません…よく言い聞かせます……」

無理だろうケド…和彦だし…

セリカには悪いケド…こればっかりは……

「あぁそうか、最初なんの事かと思えばセリとセリカはお互いの感覚も伝わるから…」

レイは黙って聞いていたが、なるほどと笑う

「……レイ…想像したら許さないから…」

「……はっ」

レイはわかってなかった

しかし、セリカの一言で察したレイは顔を真っ赤にして怒られた

「嫌い嫌い嫌い!レイなんて大嫌い!!」

「なっセリカ!?」

嫌いと言って泣きながら部屋を飛び出すセリカに追いかけるかどうしようか迷うレイに

「こういう場合は追いかけたほうがいい」

女性の気持ちがわからないレイにアドバイスをする

俺にはセリカの気持ちがわかるから

「ただし、襲うなよ」

「しないさ!そんな…セリカの嫌がる事……」

今のレイに果たして理性は保っていられるか、お年頃だろ

そうしてレイはセリカを追いかけて

いった

ひとり残され、静かになった所でベッドに潜り込みオヤスミ……

スヤァ………

「ね、寝れねぇ……」

レイとセリカが喋ってて寝るに寝れなかった



―続く―2017/08/21

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