第81話『乙女心と女神の気持ち』セリ編

さて、帰る前に…

「やぁキルラ、何か良いコトあった?」

昨日のお礼をしようと思う

キルラは俺のコトなんて忘れているのか、気にしていないのかわからないが

あっさりと俺の前に姿を現す

とてもご機嫌で

「そりゃそっすよ!なんたってオレ様はルチアと付き合えるようになったんすから!!」

「へー、それは最高……ッ」

ニコニコしてる俺に何の警戒もせずヘラヘラとしたマヌケなキルラの顔を思いっきり殴った

「わーーーキルラーーー!?!?!?」

悲鳴すら挙げさせない強烈な一撃にキルラの身体は吹っ飛び壁に穴を開けて外へと落ちて行った

なんで俺がキルラを殴ったのか事情は知らないが、とりあえず俺が怒っているコトはわかったラナが開いた穴からキルラを覗き込んでいる

「んー、1回殴ったくらいじゃ気が済まないな

また今度にしよっと、もう帰るし」

「セリ様こわぁ……」

今まで本気を出していなかった俺の本気とも思える姿を見てラナが怯えて引いている

「何言ってんの?俺が本気だったらキルラは死んでるよ」

「ひぃいいいい」

ふーん、キルラはルチアと付き合うコトになったのか

そんなのは俺にとったら別にどうでもいい

個人的にはルチアのコトは好きじゃないから関わりたくないだけ

あれだけのコトをされたら、関わりたくないと思うのは俺だけじゃないだろう

とにかく、俺とセリカその他人類に迷惑かけなきゃいい

それだけだ

迷惑かけるってんなら次は殺す

あの大悪魔シンもな

「それじゃあ、俺は帰るからまたね」

「えっ帰っちゃうんすか?

やっと晴れて香月様と仲直りしたのに?」

別に喧嘩なんかしてないんだケド…

まぁ前世から遙か昔から続いてるコイツらからしたら、仲直りに見えるのかもしれない

「俺は自由が好きなの、香月とそういう関係になったからってずっと一緒にいるとか束縛されんのはイヤだね」

「つまんなくない!?オレなんて毎晩隣に女いないと駄目なんですけど!?」

「うるさい!ラナはラナ、俺は俺

とにかく帰る!バイバイ!」

えーつまんな〜いーもっと恋しよ!なんてラナは俺が帰るまでしつこく馴れ馴れしかった

もう少しゆっくりして言ったらと思うのかもしれない

でも、俺は急いでいた

だって…レイが先に帰るって珍しく俺を置いていったんだぞ

なんなんだ、許せない

レイの奴、俺に気を遣ってるのか?…そんなのいらん

俺に恋人が出来ようがなんだろうが、今まで通りがいいんだ

変な気遣いなんていらない

こんなんで大切な友情にヒビが入ってたまるか

レイと俺の絆は何があったって揺るがない

ずっと憧れやっと手に入れたもの、手放すワケないよ



そうして俺は少し遅れてセレンの国へ帰ってきた

「「おかえりなさいませ、セリ様」」

いつもの双子メイド天使に迎えられながら、自分の部屋へ入ると

「ん?何コレ?」

なんか引越しする直前みたいになっていた

「えっ?ちょっとレイ?いるの?」

声をかけると大量の荷造りの影からレイが顔を出す

「セリ、ひとりで帰ってきたのかい?

すぐに戻るつもりだったのに」

怪我はないか風邪は引いていないかとレイは心配して俺の様子を近くで確認する

怪我はありえないだろ…

風邪も大丈夫、アホだから滅多にかからないんだし

「そんなコトより、どうしたんだよ

レイは何処かに引越しでもするのか?」

それは…ショックだ

レイがいなくなるなんて…

もう俺はレイと一緒じゃないと眠れないのに……(おかしい)

「魔王城に」

セリカの所へ?

このタイミングで?俺に相談もなしに…?

……反対なんてしない、するつもりもない

レイはセリカのコトが好きだし、俺もレイにいつだってセリカの所へ行っていいんだぞって言ってる

だから…別にいい…

寂しくもない、だって俺はセリカなんだから

セリカの傍にレイがいて守ってくれるなら、今と変わらない

でも…でも……

いや…恋と友情のどっちを取ると言うなら、レイは恋を取るのだろう…

それが……俺とは違って、寂しさを感じているだけで

そんなのいつか来るコトで、どっちを選んだって正解なのに

俺って、凄くワガママなんだな……

「そっか…うん、わかった

いいよ、でもたまには会いに来て」

レイの顔が見れない

見たらワガママ言っちゃうかもしれないから、困らせちゃダメだ

「行くんだろう?香月さんの所へ」

「…………えっ?」

なんて?

「セリが行くならオレも行く」

どういうコト?

「……行きませんけど…」

「…そうなのかい?オレはてっきり…」

はっ!?ラナと同じ発想かコレ!?レイも俺が香月の所に行くと思ってるんだ

だから、すぐ戻るつもりって言ったのか

引越しとして……

言って!?言ってよ!?

「違う!行かないよ!?

俺はセレンに恩があるし

勝手に結愛ちゃんを連れて来て巻き込んで、それを放置して行くなんてありえないって!」

「あぁ、オレの早とちりか

すまなかったな」

ハハハとレイは爽やかに笑って荷造りしたものを解いていく

「ううん、俺もレイはセリカの所へ行くのかと思って…」

アハハと笑うとレイは手を止めて俺に向き直る

「セリの傍にいる

セリが何処かへ行くなら必ず一緒にいよう、約束するよ」

「レイ……

アハハ…それって、レイがセリカと両思いになるまでの期限付きだね」

「何も変わらないさ、その時は3人で一緒にいればいい」

…その言葉が…嬉しかった

ずっと今までも、この世界に来た時から一緒にいてくれて

これからもずっとついてきてくれるって約束してくれる

俺達の友情に終わりなんて絶対に訪れない

嬉しくて笑ってるのに、泣いてる

変なの…だってだから嬉しいだもん

レイが俺の涙を拭って優しく抱き締めてくれるから、俺も応えるように背中に手を回す

「こ、こ、こ………これが……付き合っていないと…何故言えるのでしょうか……」

閉めていなかったドアの外で覗き見ていたセレンは赤面しながら呼吸を荒くして俺達を凝視している

双子メイド天使もいつの間にかセレンに汚染されていた

すぐにレイから離れた

「セリ様!やばいですわ!聞きましたのよ」

目が合うとセレンは近付き俺の視線までしゃがむ

「ついにあの魔王と恋仲になられたとか」

誰だ!?コイツに言いふらした奴!?

「さらには元恋人ともよりを戻したとかで、その辺も詳しくお教え頂けまして!?」

そこまで知ってるっておかしくないか!?妄想にしては的確に正解し過ぎてるが!?

興奮のし過ぎで、たぶん彼らの話以外は何言っても聞こえないと思う

「レイ様との長いお付き合いもお変わりなくラブラブで」

「落ち着けセレン血迷ってる!おかしいだろ!?

だって、アンタ最初の頃言ってただろ

魔王は敵だ、倒さないと世界の平和は約束されないとかなんとか

だから俺が香月と仲良くなるの大反対してたじゃん

あとレイは彼氏じゃない」

だから言わないつもりだったのに

「ホモは世界を救うのです、どのような形であれ構わないのですわ」

この人クビにできないの?

俺はこの人にどんな恩があったのかわからなくなってきたぞ

「待て待て、ギャグはいいから

俺が魔王を倒さなかったら、セレンの愛する人間達がたくさん殺されるんだぞ

いいのか、それで?」

なんで俺は自分に不利なコトをフォローしてんだ

「うっ…」

腐っても女神、俺の言葉に自分の趣味と宿命の間で揺れた

普通揺れる所じゃないだろ…

「いいえ!セリ様、それなら恋人である貴方様から魔王にお願いすれば聞いてくださるのでは?」

「人間を殺すな、土地を奪うな、って?

無理無理、香月のコトはまだよくわからない所もあるけど

アイツは魔族だから、神や人間達の感覚とは違うんだ

俺がやめろと言ったからってガキのように、なんで?攻撃が返ってくるだけ

わからないんだよ、アイツには人の死も、奪われるコトも

万が一に俺が死んだって…香月はまた生まれ変わってくるから構わないなんて思ってるかもしれない」

俺が香月の前に立ちはだかれば…アイツは必ず俺を躊躇いもなく殺すだろう

香月からしたら、少し待てばまた生まれ変わって会えるんだから…

俺に記憶がないだけで、そんなの香月は気にもしない

何度生まれ変わって記憶をリセットしても、香月は何度だって俺を手に入れるよ…

「そんな…では、やはり恋人同士争う事に………萌えますの」

「おい、真面目に聞け

とにかく俺は香月を倒すつもりはない

セレンには悪いが

俺がここに残るのは、タキヤと決着をつけるコトと

魔族達を抑えていてやるから、とっとと宿敵の悪魔との問題をどうにかするんだな」

「セリ様…わかりましたわ

今は魔王の問題は貴方様に預けます

しかし、私もいつかその決断を致しましょう」

セレンは無理に真剣な表情を作っているがその脳内ではもう腐ったもので埋め尽くされているんだなって思うほど我慢が滲み出ている

腐っててもいいが、俺で変な妄想するのはやめてね…

俺が言うのもなんだが、セリカは男同士の恋愛に興味がないし否定もしないから

セレンのこの熱意はよくわからない、とりあえずそういうの大好きなんだろうと言うコトくらいしか…

「それじゃあ、俺はもう一度セリカの所へ行くよ」

「えぇ?」

そのひとことでセレンの目はまた輝く

セリカの所=香月の所と喜んでるな

「忘れていないが忘れていた

結愛ちゃんは今セリカの所にいるんだ

返してもらうよ」

「そうなんですの?」

「うん、俺は一度結愛ちゃんを返してもらう為にセリカを訪ねたがなんやかんやあってそれどころじゃなくなって帰ってきてた」

いついなくなったのか気付けなかった

思い返してみれば和彦と再会した頃にいなくなった気がする

でも、何処か知らない所に行ったワケじゃないってわかるんだ

セリカの傍にいてるのを感じてるから

「なんやかんやあって…魔王の香月さんと元恋人の和彦さんの3人で…」

「おいおい!?なんでそこまで知ってんの!?和彦の名前まで!?凄く恐いんですケド!?」

「うふふ」

あの晩は何もなかったとセレンに言うが聞く耳はない

レイに言ったのか?って疑ったが、レイは首を横に振る

レイじゃないってわかってるのに、でもこのコト知ってるのはレイしかいない

でも、レイは絶対に俺を裏切ったりしないから、その信じてるコトを嘘じゃないって確かめたかった

そうレイじゃないから、何処からの情報なのか、それとも盗聴器やカメラでもつけられているのかと恐くなるばかりだった

「まぁ…もう行くよ」

セレンと話してると疲れるからと俺は逃げるようにレイを見る

「もちろん、セリに同行する」

当たり前のように、聞かなくても、レイは爽やかな笑顔で頷いてくれる

そして俺達はもう一度魔王城へ戻りセリカに会いに行った



「で、セリくんは香月と両思いなのに、なんで私はまだ人質みたいにここにいるの?」

結夢ちゃんのコトでセリカを訪ねると最もな第一声を聞く

「……なんでだ?」

「セリくんが帰るからでしょ!もう!」

もう!と言いながらも仕方ないなと可愛く膨れているだけだった

その可愛さにレイは胸を抑えている

セリカはここにいるのがイヤなワケじゃない

魔族と合わないコトもあるケド、人質と言ってもそれなりに自由させてもらっているからだ

「それはいいけど、結愛ちゃんを連れ戻しに来たの?」

セリカの後ろに隠れてこちらを見ている結愛ちゃんを確認する

「もちろん」

「ダメよ」

「なんでだよ!?」

当たり前のように帰ってくると思っていた

なのに、結愛ちゃんはセリカの後ろから出て来る気配はないし

何よりセリカが俺と違う意見になるコトに戸惑いがある

「結愛ちゃんは俺が連れて来た女神だ

だからタキヤに狙われる、ここにいたら今度はセリカがタキヤに狙われるんだぞ」

「セリくんか私かなら、どっちだろうと危険は変わらないわ

それに結愛ちゃんは守りの薄いセレンの国のそっちにいるよりこっちのほうが安全ね

今の所、魔族に喧嘩売ろうなんて無謀な人間はいないのだもの」

「でも、タキヤの件は俺のせいじゃないか、セリカが負うコトない」

セリカが俺を突き放すように冷たいと感じる

クールでありながらも俺より人に共感しやすいからなのか、結愛ちゃんの心を多少なりとも感じ取ってるみたい

俺を拒絶するのはセリカじゃない

結愛ちゃん…なのか…?

そっと視線をセリカから結愛ちゃんへと移すと何か迷ってるみたいでも目を反らしはしなかった

「貴方だろうが私だろうが、一緒一緒

どっちと一緒にいたいかは結愛ちゃんが決めるコトよ?」

そう言ってセリカは彼女の意思を確かめるように振り向いた

「彼は私と違って、自分のコトには酷く鈍感だ

君の気持ちには永遠に気付かない

言葉を話せない君はその想いを伝えるコトも出来ない

すでに他の人達のモノでもあるけれど…

君はそれでも彼を選ぶ?」

セリカが結愛ちゃんに何か質問しているのはわかったが、何を質問したかは聞き取れなかった

「セリカ…厳しい言い方だが、下手な夢を見させて望みのない期待を持たせるより現実を突き付け決断させる方が……優しさか」

耳の良いレイは聞こえたのか、そう呟く

結愛ちゃん…何か悩み事があったのか、俺じゃ気付かなかった

「どっちも嫌ならあのクソ坊主のタキヤの所へ帰ってもいい」

トドメのひとこと、とレイは言う

タキヤの名前だけは聞こえた

その瞬間、結愛ちゃんは首を横に振り迷いを振り切り何かを決意した表情で俺の傍へと戻る

「そう…君は辛いほうを選ぶんだね

私なら、そこから逃げ出しているよ

だって…私はとても弱いのだと、いつも思い知らされてしまうから

忘れて楽になる道を選ぶ…」

セリカは結愛ちゃんの選択に少し悲しんだ顔をして心を痛める

「…それでも傍にいたい

それだけが幸せだと言うなら……貴女にとって」

私に止める権利はないとセリカは目を伏せた

「………。」

色々聞きたいコトは山ほどあるのに、それを聞いてはいけないような気がして俺は言葉を呑み込む

そんな俺に結愛ちゃんは手を伸ばすからその手を取るとぎゅっと握り返すんだ

結愛ちゃんは言いたいコトを言葉にして伝えられないから、いつもこうして俺の手を握る

それなのに…俺はその手から何も感じてやるコトができなかった

君の気持ちを俺はわからなくて、ただいつもこうなんだろうと勝手に予測しているだけ

「あーぁ、セリくんって本当に乙女心がわからないのね

女の子が手を握って伝える気持ちは男女で多少なりとも変わるのかもしれないケド、きっと同じ意味よ」

「意地悪だなセリカは、男の俺がわからないからって」

「しーらないっ」

ぷいっとそっぽ向く可愛い仕草のセリカを見た隣のレイが胸打たれている

「結夢ちゃん、私はいつでもここにいるから、そこにいたくなくなったらまたおいで」

セリカの優しさに結夢ちゃんは微笑んで返事をする

女の子同士じゃなきゃわからないコトもあるのだろうか、俺は結夢ちゃんにセリカとは同じになれないと感じた

とりあえず、結愛ちゃんを連れて帰るコトが出来た

帰ってから部屋で結愛ちゃんに涙の理由を聞いたりもしたが、彼女は首を横に振るだけだった

聞いた後であれなんだが…こういう時は聞かないほうがいいのか?

俺ってデリカシーない?それはヤバイかも…

前より笑顔が減ったような気がする

それでも俺と目が合うと優しく慈愛に溢れた微笑みを返してくれた



あれからレイはセリカによく会いに行くようになった

恋人(仮)の時に良い方向にいったみたいで、セリカ自身も前よりレイとイングヴェィには警戒しなくなり少しずつ心を開いているようだ

セリカの気持ちは俺にもわかるが、今の所ふたりのどちらにも恋らしい感情はまだないみたい

単純に心を開いて人として仲良くしようとしている所

とは言っても、セリカは素で気を持たせるような振る舞いをするから

レイとイングヴェィがそれに翻弄されなければいいんだケド…

セリカは色々あっても本来は純粋な性格だから、警戒や疑いがなくなるととても無防備になってしまう

その無防備さが彼らにもしかして自分のコト好きなのかも?と勘違いさせてしまうかもしれない

あと、イケメンが大好き

レイもイングヴェィもお互いジャンルは違うがイケメンだからなー…タイプは香月みたいだケド

そして!俺はレイがいない今何をやっているかと言うと、ロックとローズと一緒にセタラ共和国に来ている

セレンの国を助けてほしいとお願いに来たのだ

フラれ続けて何ヶ国目か…もう、ここが最後かもしれない……

頑張ろう!この国は優しい王様だし、セレンの国とも友好的だから大丈夫かもしれない


数時間後


フラれました…ここでもまたフラれてしまいました!!

王様はとてもお優しい方ではあった

助けるコトも協力も出来ないが、俺達がここに来る時は最高のおもてなしをしよう、そう言ってくださったのだ

でも…もう何処も俺達に協力してくれる所なんてないのだとわかってしまう

「うぅっ…レイ…!」

いつものように涙を浮かべて悲しいと振り返りレイを見る

が、レイはいなかった

そうそう今日はロックとローズと一緒だったんだよ

いつも俺はレイといるコトが多いから

「ちっ間違えたわ、甘えられる存在がいないってストレス」

「さっきの振り向いた時の涙は嘘だったでござるか!?」

「当たり前だろ、俺は泣かん」

いや…最近、たくさんガチ泣きしてた気もするが

「彼氏のレイ殿と拙者とは態度がえらい違いでござるよ…」

「だってレイは可愛い俺が好きなんだもん、甘えてくれる俺が好きなの」

「恐い!恐いでござるよ!おなごは!!」

別に俺は裏があったりとか演技したりとかしてるワケじゃない

レイに対しての俺は自然だよ

他の人にしないのは、ただただただそんなんキモいだけだし

何より甘える気も起きない

こう、なんて言うか好きレベルがあるみたいな

レイは俺の全てを受け止めてくれるからそうなってしまうだけ

恋人とはまた違う…大親友って言うレイだけの特別なんだ

「えー…なんか寂しい…レイいないと寂しい……」

「………爆発すればいいでござる…」

ロックのリア充への怒りがまた増した

ショックなのもあったから、だからレイに慰めてほしかった…

なんて、俺ってば昔と違って他人に依存してるなぁ

レイは絶対俺を裏切らないからいいんだケド

「仕方がないわ、セリくんが落ち込むのも

だってこれでいくつの国に協力を断られてしまったか…

私でも残念な気持ちだもの」

ローズは俺のヘコみ具合に自分もそうだと共感してくれる

「ありがとうローズ

今日まで運良く大事にはなっていないケド、なんか嵐の前の静けさって感じで

そのうち大変なコトが、どうしようもないコトが起きるんじゃないかって思うんだ」

「レイ殿の彼女…いつもイチャつくだけで、何も考えていないと思っていたでござるよ…まさかそんなに」

いまさらだけど、ロックの中で俺の彼氏がレイとイングヴェィと香月と和彦の4人いるハズなのに、なんでいつもレイの彼女って言われるんだ

いまだに女の子と思われてるし

あと、もう否定するのも面倒だから

これも何回も言ってるケド、もうロックからの俺の呼び名はそれでいいよ…諦めた

「おいおい、俺はこれでも勇者なんだぜ?

それなりに自分が何かって自覚はあるし、結愛ちゃんを連れて来た責任は忘れたコトがない」

自覚はあっても使命は果たしません

って言うか、魔王の恋人にまでなったダメ勇者とは俺のコトよ

世界平和なんて知らねぇ

「最悪の事を考えると現状はよくないわね…」

ローズはため息をつく

5歳児が悩まなくてもいいコトを悩んでくれている様子に俺は…

ダメな大人だよ

みんな…助けてはくれない

今まで仲良くしていた国でさえ……

「……………。」

ふと……あれ、なんかおかしくないか?

俺の考え方…そうだ、おかしいよ

なんて俺はバカでクズで自己中だったんだ!

気付くのが遅い、そのコトに今気付いてしまった

誰も助けてくれない?仲良くしていたのに?

そんな話じゃないだろ

どの国も自分の国が大事に決まってる

俺達を手助けすれば、タキヤから恨まれ国を滅ぼされるかもしれないのに

本当は助けたくても助けられないんだ

当たり前だよ、そんなの

なのに、俺はただ迷惑をかけただけでとても失礼なコトだった

謝らなきゃ…今まで無理言って困らせたコト

「彼女殿?」

俺のさっきと変わった様子にロックは声をかけてくれる

だから、まとまった考えを話した

「俺、最低だった

周りを巻き込もうとしてたんだから

こんなのダメなコトだったんだ

帰ったら困らせてしまった各国に謝罪をしなきゃ」

直接お会いして謝りたいが、まずはすぐに手紙を、機会があればその時に

「セリくん…確かにそうね、そうだったわね」

「拙者も彼女殿の話を聞いて考えが変わったでござるが、それならこれからどうするでござる?

解決策はもうないと申されるので?」

「解決策か、あるね」

これはセレンの国を守ると同時に俺自身にも大きなメリットがある

ロックもローズも自信満々の俺に期待の思いを抱いて聞き耳を立てる

「それは俺自身が強くなるコト!!」

これ以上の解決策はない

誰にも頼らず誰にも迷惑かけず、自分が強くなれば守りたいものも守りたい放題

「無理でござる」

「セリくんじゃ…魔族相手以外ではどんなに頑張ってもレイさんにも届かないような……」

ナメられてる!?しかも即答!?

そ、そりゃ…鍛えても筋肉のつかない細腕だけど…

武器を扱う才能もないし、魔法の威力だって微妙だし……

……なんだ俺、立派な足手まとい

「そんなコト言うな!!

強くなるの!俺自身がなれないって言うなら、めちゃくちゃ強い武器を手に入れればいいんだ

そうだよ、強い武器は前からほしかった

勇者の剣はひとつしかないし、勇者の力はそこらの武器じゃ耐えられないからさ」

「やはり無理でござるよ

強い武器は皆がほしがり、人間だけではござらぬ他種族も狙っているでござる

すでに誰かの物になっている場合もござろう

勇者の剣も知名度が高く、強力な武器として世に知れ渡っているが

あれは勇者以外が手に出来ないと特殊な条件がついてあるから彼女殿の手にある

それは奇跡でござるよ?」

「………やっぱり?

勇者の剣があるから、他の強い武器ももしかしたら簡単に…ってないか」

あったら苦労しねぇわーーー!!!

じゃあ…どうしよう、解決策なくなっちゃった

「レイ殿の彼女がタキヤと言う男を誘惑すればよいのでは?」

「全員が全員俺の虜になるかよ

ってかやりたくねぇし、そういうのはヤダ」

「悪魔もなんやかんや彼女殿の魅力があれば…」

「ふざけんなぁ!俺はそういうのはイヤ!好きな人以外なんて気持ち悪ぃ」

「それで世界が平和になるならありでござる」

「なら俺は世界平和なんてどうでもいい

とにかく、タキヤも悪魔も俺の誘惑なんて効かないから」

ロックめ…俺を売るなんて言葉、冗談でもレイが聞いたら怒るぞ

「あるかもしれないわ」

「なっ、ローズまで俺を売る気か…それはショックだぞ……」

何か考え事をしていたようだが、ローズはニッコリ笑って会話のボールを持つ

「可能性があるのよ、強い武器を手に入れる可能性よ」

たくさん読んだ本の中にあった情報を教えてくれた

ローズは学者になりたいと日々頑張って勉強している

だから、俺達の知らない情報を持っているコトも多くとても頼りになる幼女だった

「聖剣の話、聞いた事はないかしら?」

聞かれて俺は首を横に振り、ロックは知っているみたいでそれがあったかと頷く

「伝説の武器のひとつ、聖剣はちょうどここから見える神秘の森林にあって人々の知らないずっと昔から大きな岩に突き刺さっているの」

へー、なんかよくある話だね

「錆もせず衰える事なく、誰も手にした事がないからその力は未知数」

じゃあ実は弱い剣でしたってオチもあり?

「どんなに屈強な男でも、どんな怪力の巨人でも、その聖剣は決して岩から抜ける事は未だないとの話」

ローズの話を聞いて色々思うコトはある

誰も手にしたコトがないなら、その聖剣が強いかどうかはわからない

屈強な戦士達がダメなのに俺達の誰かがその剣を抜けるのか

そもそもそれは聖剣なのか…

「どう?面白いでしょう?」

ローズは凄く行きたそうだ

聖剣をこの目で見たいと輝かせている

「そうだな…これからの事は何も思い付かないんだ

聖剣とやらを拝みに行くくらいいいか、すぐそこだしね」

「勇者なら手にする事が出来るかもしれぬでござるよ」

「ロックはすぐそう言う

勇者だからってなんでもかんでも出来るワケじゃないぞ」

みんな、俺が勇者だからって特別視し過ぎてスーパーマンみたいになってる

勇者がいれば大丈夫、助かる、救われる、守られる、って…

……いや実際そうか、瞬間の回復魔法に最近は天魔法で空も飛べるようになった

俺だってこんなんスーパーマンって思うわ

でも、やっぱり実際は国ひとつ救えない弱い勇者だよ

そうと決まれば目指すは聖剣が眠ると言われる森林へ!いざ!!



-続く-2017/10/08

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